説明

加工方法および加工ヘッド

【課題】ラスタースキャン方式によりガラス基板等の被加工物の表面をエッチャントにより加工する際、加工ヘッドの副走査のピッチに合わせて大きなうねりが発生した。
【解決手段】加工ヘッド2のノズルをガラス基板の表面に液状のエッチャントを連続的に供給する供給口44と、供給口44のを取り囲む多数の排出孔45により構成し、供給口44から供給されたエッチャントを多数の排出孔45より吸引して排出し、多数の排出孔45の内側に流動するエッチャントにより形成されるエッチング領域により、ガラス基板の表面をラスタースキャン方式によりエッチング加工するための加工ヘッドであって、前記エッチング領域を、供給口44を中心とする円周内に形成された第1のエッチング領域53と、副走査方向の前後部にそれぞれ第1のエッチング領域53から張り出した第2のエッチング領域54とにより構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板、半導体基板等の被加工物の表面をケミカルエッチングにより高平坦化処理を行う表面加工方法において、フッ酸等のエッチャント(エッチング液)を被加工物の表面との間に供給し、吸引排出しながら加工する加工方法およびこの加工方法に用いられる加工ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビやパソコンモニターのパネルは、TFTアレイやカラーフィルターから構成されており、これらは露光装置を用いてフォトマスクに描かれたパターンを繰り返し転写することにより作製される。
【0003】
近年、大型液晶テレビの需要拡大に伴い、大型パネルに対応したフォトマスクの大型化、さらに、ディスプレイの高画質化が進んできたことにより、パネルの品質を左右するフォトマスクの高精細化が求められてきている。
【0004】
フォトマスクサイズとして、1220mm×1400mmの露光装置も発表され、さらに大型化が進むとされる。
【0005】
フォトマスクの基材としては、熱膨張係数の小さい合成石英ガラスが用いられるが、露光精度にはこの基材の平坦度が大きく左右する。平坦度の悪い基材を用いると、パターンずれを引き起こし、高精細なものが得られないことが経験上把握され、平坦度として数μmが求められている。
【0006】
この平坦度のような厳しい要求性能を、従来の水、研磨砥粒、研磨布を用いた両面研磨法や片面研磨法等の機械研磨法で行うことは非常に難しいものと考えられる。
【0007】
このような機械的研磨法にあっては、研磨面圧と研磨ヘッドと被加工物との相対的運動速度の均一化等を工夫することにより、基板の平坦化を高めるようにしているが、基板全面を同時に研磨しながら平坦化するため、部分的な形状を平坦化するための制御が極めて難しいのが現状である。
【0008】
機械加工に代わる加工方法として、ケミカルエッチング法(特許文献1)が提案されている。
【0009】
特許文献1に開示のケミカルエッチング法は、被加工物である例えばガラス基板の加工面を下向きにして当該ガラス基板を水平姿勢に保持し、該ガラス基板の加工面に対向して加工ノズルを配置し、該加工ノズルを該加工面に沿って走査する。
【0010】
加工ノズルの表面には、中央部にエッチング液をガラス基板の表面に向かって送出する供給口が形成されると共に、この供給口を中心とする円周状の排出口が形成され、加工ノズルの表面とガラス基板との間に該供給口から供給されたエッチング液をこの排出口から回収する。
【0011】
この加工法では、排出口の直径を加工痕の外径とする加工が行われ、エッチング液の接触時間に応じて加工深さが変化する。そして、加工ヘッドを所定の速度で走査することによりガラス基板の表面を加工する。
【0012】
実際には、被加工物であるガラス基板の表面形状を測定して得られた測定データに基づいて、該ガラス基板の表面を目的とする形状となるように加工するという修正加工により、該被加工物の表面を高平坦度に加工するために、被加工物の表面に対して加工ヘッドを移動(走査)可能に離隔対向して配置し、該加工ヘッドよりエッチング液(エッチャント)を該被加工物の表面に連続的に供給し、供給されたエッチャントを該加工ヘッドにより吸引排出する。
【0013】
そして、この修正加工は、加工ヘッドを静止した状態でエッチャントの供給・吸引排出を行った場合に被加工物の表面に単位となる加工痕形状(以下、単位加工痕と称す)を測定し、測定結果に基づく単位加工痕に基づいて、加工前における被加工物の表面から加工により除去すべき除去量と加工ヘッドの走査速度を求め、この走査速度により加工ヘッドを駆動する。
【特許文献1】特開2007−200954公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上述した特許文献1の加工ヘッドによりガラス基板の全面をエッチャントにより加工する場合、ガラス基板の長手方向に加工ヘッドを移動(主走査)し、端部に到達すると、該主走査方向と直交する副走査方向に所定ピッチでステップさせる副走査を行い、再び反対側に主走査を行うラスタースキャン方式を用いることが一般的と考えられる。その際、主走査による加工が終了した主走査ラインと、次の主走査ラインとが部分的に重なり合うようにしてピッチを設定する。すなわち、上述した副走査時におけるピッチ(p)を、加工ヘッドの直径(D)よりも小さい値とし、副走査を連続して複数回繰り返すと該加工ヘッドの直径分の移動が行われる。
【0015】
主走査により形成された加工溝は、図5(b)に示すように、副走査方向に沿った横断面形状がU字形状に形成される。これは、加工ヘッド中央の供給口から供給されたエッチャントを外周側の排出口に向けて移動させるというエッチャントの供給・回収方法によるもので、エッチング領域の中央と端とではエッチャントによる加工量が異なることによるものと考えられる。
【0016】
図6(b)は、副走査方向における加工溝(ライン加工断面形状)の重ね合わせイメージを示し、横軸は副走査方向の位置、縦軸はライン加工断面形状を示している。なお、加工ヘッドの直径を80mm、副走査方向のピッチを8mmとし、A1は1回目の主走査により形成した加工溝で、この加工溝A1の図中左側から右側に8mmピッチで主走査が順次行われ、加工溝A2,A3・・・A10が形成される。そして、11回目の副走査による主走査の開始位置は、1回目の加工溝A1の右端から開始されることになり、この11回目の主走査による加工溝をB1、12回目、13回目の加工溝をB2、B3とすると、加工溝B2、B3も加工溝B1と同様に、加工溝A2、A3の右端から開始されることになる。
【0017】
加工溝A1の右端と加工溝B1の左端、同様にして、加工溝A2の右端と加工溝B2の左端、加工溝A3の右端と加工溝B3の左端とは上端が尖った状態で突き合わされる。加工溝A1の右端形状は、副走査が進むに従って形成される加工溝A2、A3・・・A10により、順次加工され、さらに加工溝B1によって加工される。同様にして、加工溝A2、A3の右端形状も順次加工され、その加工形状は、図7中の符号T1で示すライン加工形状のように、突き合わせ部分が上方に向けて尖った形状となり、これが副走査の8mmピッチでうねりとして現れる。
【0018】
すなわち、数値制御による修正加工では、任意の副走査ピッチで主走査を行い被加工物であるガラス基板の全面を加工するため、主走査により形成した加工溝毎の重ね合わせ部分で必ずうねりが発生する。
【0019】
このうねりは、加工深さが深いほど顕著となり、被加工物としてのガラス基板が大型基板のように加工深さが数μmから数十μmの場合では、数百nm以上のうねりを生じる。
【0020】
ところで、前記うねりの低減化対策の一つとして、重ね合わせのピッチを狭めることも考えられるが、被加工物の加工時間が長くなり、しかも一定以上のうねりの低減は望めない。
【0021】
また、他のうねり低減対策として、角形状加工痕を形成する加工ヘッドを用いると重ね合わせによるうねりは原理的には発生しないが、加工痕のエッジ部を正確な直角にすることは難しく、また加工ヘッドを副走査のために移動させるピッチが少しでもずれると加工深さ分の加工残りあるいは加工窪みを生じるという問題が発生する。
【0022】
本発明の目的は、このような観点に鑑みなされたもので、ラスタースキャン方式により加工ヘッドを被加工物に対して走査させて加工する際に、重ね合わせによるうねりの発生を大幅に低減できる加工方法および加工ヘッドを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明による加工方法は、加工ヘッドを被加工物の表面と相対的に移動させながら、該被加工物の表面に液状のエッチャントを該加工ヘッドの供給口から連続的に供給しつつ、該供給口の周囲に形成された排出部より吸引して排出し、該排出部の内側に流動するエッチャントにより形成されるエッチング領域により、該被加工物の表面をラスタースキャン方式によりエッチング加工するための加工方法であって、前記エッチャントを前記供給口を中心とする円周内に形成された第1のエッチング領域から、副走査方向の前後部にそれぞれ張り出した第2のエッチング領域まで流動させて加工を行うことを特徴とする。
【0024】
上記した加工方法において、前記加工ヘッドの副走査方向へのピッチを前記第1のエッチング領域の直径の十分の一としたことを特徴とする。
【0025】
上記したいずれかの加工方法において、前記被加工物を垂直姿勢に保持して前記加工ヘッドにより加工することを特徴とする。
【0026】
上記したいずれかの加工方法において、前記被加工物は、ガラス基板、フォトマスク基板、半導体基板であることを特徴とする。
【0027】
本発明の目的を実現する加工ヘッドの構成は、被加工物の表面と相対的に移動しながら、該被加工物の表面に液状のエッチャントを供給口から連続的に供給しつつ、該供給口の周囲に形成された排出部より吸引して排出し、該排出部の内側に流動するエッチャントにより形成されるエッチング領域により、該被加工物の表面をラスタースキャン方式によりエッチング加工するための加工ヘッドであって、前記エッチング領域は、前記供給口を中心とする円周内に形成された第1のエッチング領域と、副走査方向の前後部にそれぞれ該第1のエッチング領域から張り出して形成された第2のエッチング領域と、を備えたことを特徴とする。
【0028】
上記した構成の加工ヘッドにおいて、前記排出部は、前記第1のエッチング領域および前記第2のエッチング領域の外周に沿って形成された多数の排出孔により構成した。
【0029】
上記したいずれかの構成の加工ヘッドにおいて、前記第2のエッチング領域は、副走査方向の先端を尖らせていることを特徴とする。
【0030】
上記したいずれかの構成の加工ヘッドにおいて、前記供給部および排出部は、前面が平坦に形成されたノズルブロック体に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
請求項1、2に係る発明によれば、ラスタースキャン方式によりガラス基板等の被加工物の表面を副走査のピッチごとにうねりを発生させることなく高平坦化処理することができる。
【0032】
請求項3、4に係る発明によれば、ガラス基板等の被加工物のサイズが大型化しても、平面的には省スペースで済む。
【0033】
請求項5に係る発明によれば、エッチング領域が第1のエッチング領域に対し、さらに第2のエッチング領域を設け、副走査方向において、第1のエッチング領域のエッジから第2のエッチング領域を張り出すように設けたという簡単な構成で、加工ヘッドを副走査方向へ所定のピッチでシフトすることで主走査方向への移動により形成された加工溝のエッジが重なり合うことがなくなり、該ピッチ間隔でのうねりを発生させることなくガラス基板等の被加工物の表面を高平坦化処理することができる。
【0034】
請求項6に係る発明によれば、排出部を多数の排出孔により形成することで、第2のエッチング領域に要求される平面形状を容易に得ることができ、また加工ヘッドの構成も簡単化できる。
【0035】
請求項7に係る発明によれば、第2のエッチング領域の先端が新たにエッジを作り出すことがない。
【0036】
請求項8に係る発明によれば、加工ヘッドを容易に製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
第1実施形態
図1は本発明による加工ヘッドの第1実施形態を示し、図2は図1の加工ヘッドを備えた湿式のエッチング加工装置を示す図、図3は図1の加工ヘッドと被加工物としてのガラス基板を垂直姿勢に保持する基板ホルダーとの関係を示す図である。
【0038】
先ず、図2に示す湿式のエッチング加工装置1の構成を説明する。なお、図2の加工ヘッドは図1(a)の加工ヘッドの縦断面図を示す。
【0039】
このエッチング加工装置1は、破線で囲ったエッチャント循環装置1Aと、エッチャント循環装置1Aと接続した加工ヘッド2を備え、被加工物としてのガラス基板3の表面に対して加工ヘッド2を直交する2方向(主走査方向と副走査方向)に移動させる加工ヘッド走査装置1B(図3参照)と、により構成している。被加工物としてのガラス基板3は、例えば合成石英ガラス板,フォトマスク基板,大型フォトマスク基板等が例示でき、大型基板としては一辺が300mm角以上のものを指す。また、加工物はガラス基板に限らず、シリコンウエハー等であっても良い。
【0040】
エッチャント循環装置1Aは、密閉構造のエッチャントタンク4内にフッ酸(HF)等のエッチャント5が収容され、このエッチャントタンク4内のエッチャント5をエッチャント供給系6により加工ヘッド2の供給ノズル部44に供給する。また、加工ヘッド2とエッチャントタンク4とはエッチャント回収管7により接続され、加工ヘッド2の供給ノズル部44からガラス基板3の表面に供給されたエッチャント5を加工ヘッド2の排出孔45より吸引してエッチャント回収管7からエッチャントタンク4に戻す。
【0041】
また、エッチャントタンク4にはガス排気管8が接続され、吸引ポンプを兼ねるガス排気ポンプ9によりエッチャントタンク4内のガスを排気する。エッチャントタンク4のエッチャント5の濃度が低下あるいは増加した場合、またエッチャントの収容量が減少した場合に、濃度コントローラ10から、水11、エッチャント5を個々にあるいは混合してエッチャントタンク4内に補給管12を介して供給するようになっている。
【0042】
エッチャント供給系6は、エッチャントタンク4側から順に、送液ポンプ13、熱交換器14、送液されるエッチャント5の温度を計測するための測温体15、送液されるエッチャント5の流量を調節する流量調節バルブ16、送液されるエッチャント5の流量を計測する流量計17、フッ酸濃度センサー18が配置され、フッ酸濃度センサー18から下流側に設けられたフレキシブル管からなる供給管19が加工ヘッド2に接続されている。
【0043】
熱交換器14は、測温体15の測温情報に基づいて送液されるエッチャント5の温度が所定の温度となるように、温調ユニット20によりエッチャント5を加熱或いは冷却する。また、流量調節バルブ16は、流量計17の流量情報に基づいて送液されるエッチャント5の流量が所定の流量となるように、流量を調節する。フッ酸濃度センサー18は、測定した濃度値を濃度コントローラ10へフィードバックし、エッチャントタンク4内を設定した濃度にコントロールする。
【0044】
吸引ポンプを兼ねるガス排気ポンプ9は、エッチャントタンク4内の気体を吸引して排気することによりエッチャントタンク4内を負圧状態とし、加工ヘッド2とガラス基板3との間に供給されたエッチャント5及びエッチャント5の一部から気化したガスを加工ヘッド2の排出孔45より吸引し、回収管7を通してエッチャントタンク4内に回収する。ガラス基板3の表面に供給されたエッチャント5の一部から気化したガスが拡散するとガラス基板3の表面を腐食して表面粗さを悪化させる原因の一つとなるが、この気化ガスを加工ヘッド2により吸引して排気することにより、ガラス基板3の表面における表面粗さを高めることができる。
【0045】
なお、エッチャント循環装置1Aにおける上述の各種制御は不図示の制御装置により実行される。
【0046】
図3に示すように、加工ヘッド走査装置1Bは、被加工物であるガラス基板3を垂直姿勢に保持する不図示の基板保持台を装置基台31に固定し、該基板保持台に保持されたガラス基板3の表面に沿って垂直方向と水平方向の直交する2方向に移動可能な2方向移動ステージ32に加工ヘッド2を取付け、加工ヘッド2を水平方向に移動させる主走査速度と、垂直方向に所定ピッチ(P)で送る副走査方向の送り量を制御する加工ヘッド走査速度制御部33とにより構成している。この加工ヘッド走査速度制御部33を除く前記基板保持台と2方向移動ステージ32を装置カバー34により覆い、本エッチング加工装置を設置した室内にエッチャント5が飛散し、気化ガスが放散されるのを防いでいる。
【0047】
2方向移動ステージ32は、門型に形成されたアルミ製の垂直フレーム35を構成する一対の垂直フレーム部材36にそれぞれ直線移動案内機構37を取り付け、この一対の直線移動案内機構37に水平フレーム部材38を取り付け、水平フレーム部材38を超高精度に垂直方向に移動可能としている。また、水平フレーム部材38には主走査方向駆動用のボールねじ39を走査方向に沿って取り付け、このボールねじ39のナット部に加工ヘッド2を取り付けている。さらに、一対の垂直フレーム部材36の間に、垂直方向に沿って副走査方向用のボールねじ40を取り付け、このボールねじ40のナット部に水平フレーム部材38を取り付けている。
【0048】
主走査方向駆動用のボールねじ39と副走査方向用のボールねじ40はそれぞれのねじ部材を回転駆動する不図示のモータを有し、これらのモータを加工ヘッド走査速度制御部33により駆動制御している。
【0049】
また、加工ヘッド2は、2方向移動ステージ32により、図4中矢印で示すように、垂直姿勢に保持されたガラス基板3の上端の水平方向一端側から他端側に向けて水平に移動する主走査を行い、該他端側の所定位置に到達すると、所定量だけ下方に送られる副走査を行った後、一端側に向けて主走査を行うというラスタースキャン方式により加工を行う。そして、この一連の主走査と副走査をガラス基板3の上端から下端に渡り行ってガラス基板3の表面をエッチング処理により平坦化する。
【0050】
また、エッチング処理を行う前に、ガラス基板3の表面の形状を測定し、測定結果に基づいて目的の形状に最も近づくように、加工前形状と加工ヘッド2で加工してできる静止加工痕形状から加工除去量と加工ヘッドの主走査速度を演算する。例えば、凸形状の大きい部分はエッチング量を多く、凸形状の小さい部分や凹形状の部分はエッチング量を少なくするように加工ヘッド2の主走査速度を制御する。
【0051】
ガラス基板3の表面の形状測定は、レーザー等を用いた非接触方式、触針等の接触方式の測定手段を用いて行うことができる。なお、測定はガラス基板3を垂直姿勢に保持して行うため、ガラス基板3の自重たわみの影響を排除することができる。
【0052】
次に、本実施形態による加工ヘッド2の構成を図1及び図2を参照して以下に説明する。
【0053】
本実施形態の加工ヘッド2は前面が平坦で円盤形状に形成された加工ヘッド2の前面をなすノズルブロック体41と、ノズルブロック体41の背面側に接合される円盤形状の背面ブロック体42とを固定ねじ43とにより一体化して全体的に円盤形状とした構成としている。
【0054】
ノズルブロック体41は、中心位置にエッチャントを供給する供給ノズル部44を形成し、この供給ノズル部44を取り囲むようにエッチャントを吸引して排出する多数の排出孔45が所定のピッチで形成されている。供給ノズル部44と多数の排出孔45を同一の部材であるノズルブロック体41に形成することにより、加工ヘッドを大型化する場合に、平坦なヘッド前端面を容易に得ることができる。
【0055】
ノズルブロック体41の背面側には、これら多数の排出孔45に対応して背面側に開口する第1周溝46が形成され、これら多数の排出孔45がこの第1周溝46に連通している。
【0056】
背面ブロック体42は、中心部に開口47を有するドーナツ状に形成され、前面には、第1周溝46と同一内外周径を有する第2周溝48が形成され、背面ブロック体42をノズルブロック体41に接合した際に、第1周溝46と第2周溝48とによって複数の排出孔45からのエッチャントを1箇所に集める環状の回収部を形成している。
【0057】
なお、ノズルブロック体41と背面ブロック体42の材料としては、耐エッチャント特性に優れ、曲げ強度、硬度等の機械特性の優れたものを選定することが望ましい。特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂,ABS,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリカーボネイト,メチルペンテン,PEEK等が用いられる。
【0058】
背面ブロック体42の胴部には、第2周溝48に連通する排出路49が複数形成され、これら排出路49の排出端部にエッチャント循環装置1Aの回収管7が接続される。そして、エッチャント循環装置1Aの供給管19が背面ブロック体42の開口47を通してノズルブロック体41のエッチャント供給ノズル部44に接続される。
【0059】
加工ヘッド2の前面とガラス基板3の表面とは僅かな隙間を有して対向配置され、加工ヘッド2のエッチャント供給ノズル部44からガラス基板3の表面に向けて連続的に供給されたエッチャント5は、ガラス基板3と加工ヘッド2との間に形成される前記隙間に入り込み、表面張力によりエッチャント液の液部を形成する。この液部をなすエッチャントは、エッチャント供給ノズル部44の周囲に多数形成された排出孔45に連続的に吸引排出されるので、この液部はエッチャント供給ノズル部44の周囲に多数形成された排出孔45により囲まれた領域(以下エッチング領域とする)に形成される。
【0060】
図1(a)に示すように、排出孔45は、エッチャント供給ノズル部44を中心とする半径Rの円周上において、副走査方向の前部50及び後部51を除く部分に一定ピッチで多数形成されている。さらに該副走査方向の前部50及び後部51において、前記半径Rの円周よりも副走査方向の外方に向けて突出した張り出し軌跡52(図1(b)(c)参照)上に複数の排出孔45を形成している。
【0061】
すなわち、前記エッチング領域は、半径Rの円周上に多数形成された排出孔45により取り囲まれた第1のエッチング領域53と、副走査方向の前後部50、51の張り出し軌跡52上に形成した複数の排出孔45により囲まれた第2のエッチング領域54とにより構成され、第1のエッチング領域53に対して第2のエッチング領域54は副走査方向の外方に向けて張り出た形状と恰好となっている。
【0062】
前述した図5(b)のライン加工形状(加工深さ)は、図1における加工ヘッド2を例にすると、エッチャント供給孔部44を中心とする半径Rの全円周上に等ピッチで排出孔45を形成した構成の加工ヘッドによるもので、この場合のエッチング領域は半径Rの円周内である。そして、副走査のピッチPをエッチャント領域の直径の10分の1とした場合、該エッチャント領域における副走査方向のエッジ同士が重なることで前述したうねりが生じる。
【0063】
本実施形態では、エッチャント領域として、直径De(=2R)内に形成される第1のエッチング領域53から副走査方向のエッジより外方に張り出すように第2のエッチング領域を形成しているので、例えば副走査のピッチPを直径Deの10分の1としても、図6(a)に示すように、副走査によりエッチャント領域のエッジ同士が重なることが回避される。
【0064】
図6(a)において、本実施形態の加工ヘッド2において、第1のエッチング領域53の直径をDeとすると、副走査方向における加工溝A1のエッジは、直径Deのエッジよりも外方に存在するため、当該加工溝A1を主走査してから11回目の主走査による加工溝B1の副走査方向におけるエッジとは重ならない。また、加工溝A1のエッジは加工溝B2の副走査方向におけるエッジとも重ならない。
【0065】
このように、第1のエッチング領域を形成する直径Deの整数分の1のピッチで副走査を行った場合でも、加工溝の副走査方向におけるエッジは、エッチャント領域の第2のエッチング領域により形成されるため、副走査方向における加工溝のエッジが重なることがない。
【0066】
すなわち、エッチャント供給ノズル部44から供給されたエッチャントは、エッチャント供給ノズル部44を中心として直径Deの円周上に多数設けられた排出孔45に向けて流れ連続的に吸引排出されると共に、該円の副走査方向における前後部において外方に向けて張り出た張り出し軌跡52上に形成した複数の排出孔45に向けて流れ連続的に吸引排出されることになる。
【0067】
加工ヘッド2を主走査方向に1走査すると、この張り出し軌跡52の内側と直径Deの円周との間に形成される前記第2のエッチング領域54の面積は小さいが、この第2のエッチング領域54の面積に応じてガラス基板3の表面をエッチャントにより加工されることになる。勿論、直径Deの円内に形成される第1のエッチング領域53の面積は第2のエッチング領域54よりも遙かに大きいので、直径Deの円のエッジがライン加工断面形状として形成される。
【0068】
そして、ピッチPにより副走査を行う毎に、加工深さが増し、第2のエッチング領域54のエッチャントにより、直径Deの円のエッジ部分が加工され、当該部分の加工深さも増す。すなわち、図7中のライン加工断面形状T1のうねり部分が第2のエッチング領域54のエッチャントにより加工されることになる。
【0069】
図1(b)(c)に基づいて第2のエッチング領域54を説明する。
【0070】
副走査方向の中心線L0に対し、半径Rの円との交点X0より中心側に距離aだけ入った点をX1とし、点X1を通り中心線L0と直交する直線が半径Rの円と交わる点をY1とする。そして、点X0から外側に距離aだけ離れた点をX2とし、点Y1と点X2とを直線L1で結ぶ。
【0071】
さらに、点X0から距離b(b<a)だけ離れた点をX3とし、点X3を通り中心線L0と直交する直線が直線L1と交わる点をY2とする。また、点X2から外方に距離dだけ離れた点をX4とし、点Y2と点X4とを直線L2で結ぶ。
【0072】
本実施形態では、直線L1の点Y1とY2との間の軌跡52aに複数の排出孔45を一定ピッチで形成し、さらに直線L2の点Y2と点X4との間の軌跡52bに複数の排出孔45を一定ピッチで形成する。なお、この直線L1、L2は中心線L0に対して線対称に形成され、線対称に描かれる直線L1とL2を張り出し軌跡52とし、これら直線L1とL2上に形成した複数の排出孔45よりも内側の張り出した領域を第2のエッチング領域54としている。なお、直線L2の軌跡を設けずに、直線L1の軌跡のみを張り出し軌跡52としてもよい。なお、直線L1上の軌跡52aと直線L2上の軌跡52bとの組み合わせからなる張り出し軌跡52を第1張り出し軌跡、直線L1のみからなる張り出し軌跡52を第2張り出し軌跡と称す。
【0073】
ここで、P(ピッチ),De,a,c,dの関係は、一例として、P=De/10、a=P/4、c=d=P/8、とすることができる。De=80mmとした場合、P=8mm、a=2mm、c=d=1mmとなる。
【0074】
上記した第1張り出し軌跡からなる第2のエッチング領域を備えたノズル形状の加工ヘッド2を直径80mmのノズルとし、副走査方向のピッチ(P)を8mmとし、等速面加工をイメージしてライン加工形状を計算値により求めた結果を図7中の符号U1で示す。符号U1で示すライン加工形状は、図7中のライン加工形状T1に比較して起伏が殆どないことがわかる。
【0075】
また、上記した第2張り出し軌跡からなる第2のエッチング領域を備えたノズル形状の加工ヘッド2を直径80mmのノズルとし、副走査方向のピッチ(P)を8mmとし、等速面加工をイメージしてライン加工形状を計算値により求めた結果を図8中の符号U2で示す。符号U2で示すライン加工形状は、図8中の符号T1で示すライン加工形状に比較して起伏が殆どないことがわかる。なお、図7中符号U1で示すライン加工形状と、図8中符号U2で示すライン加工形状では、エッチャント領域の第2のエッチング領域54が副走査方向に長く、その分第2のエッチング領域54の面積が大きい状態で加工されたライン加工形状U1の方がより起伏が小さいことがわかる。
【0076】
図9は、加工深さを約5μmとした場合でのピッチ幅とうねり高さの関係を計算により予測した図である。
【0077】
図9において、ピッチ幅が8mmまでは200nm程度で、10mmでは350nmとなる。
【実施例】
【0078】
ガラス基板を水平に保持し、ガラス基板の下面を加工面として図1に示す構造の加工ヘッドをガラス基板の下面側に配置し、ラスタースキャンで生じるうねり低減状態を調べた。
【0079】
加工条件
加工ヘッド:80mm(第1のエッチング領域53の直径)
フッ酸濃度:35wt%
ノズルと基板間の距離:250μm
フッ酸循環流量:28L/h
吸引:120L/min
フッ酸温度:40℃
等速全面加工:走査速度=100mm/min、加工深さ=100mm/minで約5.5μm
副走査方向のピッチ(P)間隔:8mm
加工後のうねり測定は、白色干渉計(Zygo社製、New View200CHR)を用いて図11(a)に示すように、丸数字で示す1から5の位置で測定した。なお、図11において、符号SLは8mmピッチでノズルエッジが通過したラインを示す。
【0080】
また、面加工後の断面形状を図10に示す。図10において、断面形状は、第2のエッチング領域54を備えた本実施例による加工ヘッドを用いて加工した断面形状を符号Q1で示し、第1のエッチング領域53のみを備えた加工ヘッドを用いて加工した断面形状を符号Q2で示す。
【0081】
図10は、副走査方向における0mm〜4mm程度の範囲における面加工後の断面形状(うねり高さ)であり、断面形状のエッジ部分を示している。
【0082】
図10において、符号Q1で示す加工形状は、+0.01μm(+10nm)と−0.01μm(−10nm)の範囲であるのに対し、符号Q2で示す加工形状は−0.08μm(80nm)程度ある。
【0083】
ここで、符号Q1で示す断面形状の面加工はピッチ(P)を8mmとし、符号Q2で示す断面形状の面加工はピッチ(P)を6mmとしている。第1のエッチング領域53のみを備えた加工ヘッドをピッチ8mmで副走査させた場合には、図6(b)の説明のように、大きなうねりが生じる。そして、第1のエッチング領域53のみを備えた加工ヘッドの副走査方向のピッチを8mmから6mmへ変更した場合、加工溝のエッジが重なる場合がある。符号Q2で示す断面加工形状はこの場合を示し、一見すると凹形状となっているが、尖った部分がライン加工形状のエッジの重なりにより加工されて平らになった状態(基準となる略0μm)を示しており、凹部の底である略マイナス0.08μmがうねりの高さを示す。
【0084】
このように、第2のエッチング領域54を備えた加工ヘッドを用いることにより、うねりの発生が大幅に低減された。
【0085】
図11の(b)(d)(f)に示す第1のエッチング領域53のエッジでは殆どうねりが発生しておらず、全体として10nm程度のうねり高さが見られる程度である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】(a)は本発明による加工ヘッドの第1実施形態を示す正面図、(b)は(a)の加工ヘッドのノズルの一部拡大図、(c)は(b)の詳細を示す拡大図。
【図2】図1の加工ヘッドを備えた湿式エッチング加工装置の概略図。
【図3】図2のA−A矢視図である加工ヘッド捜査装置の正面図。
【図4】図3の加工ヘッド走査装置による走査順序を示す図。
【図5】(a)は図1の加工ヘッドによるライン加工形状(計算値)を示す図、(b)は直径円周上のみに排出孔を形成したノズル形状の加工ヘッドによるライン加工形状(計算値)を示す図。
【図6】(a)は図5(a)のライン加工形状を8mmピッチで形成したときの重ね合わせイメージを示す図、(b)は図5(b)のライン加工形状を8mmピッチで形成したときの重ね合わせイメージを示す図。
【図7】ライン加工形状を副走査方向で重ね合わせた後のうねりの状態を示す図(第1張り出し軌跡上に排出孔を有するノズル形状の加工ヘッドと、直径De上のみに排出孔を有するノズル形状の加工ヘッドによる加工との対比)。
【図8】ライン加工形状を副走査方向で重ね合わせた後のうねりの状態を示す図(第2張り出し軌跡上に排出孔を有するノズル形状の加工ヘッドと、直径De上のみに排出孔を有するノズル形状の加工ヘッドによる加工との対比)。
【図9】加工深さを約5μmとした場合でのピッチ幅とうねり高さの関係を計算により予測した図。
【図10】うねり高さの実測値を示す図で、Q1は第1張り出し軌跡上に排出孔を有するノズル形状の加工ヘッドによる面加工後の断面形状(うねり高さ)、Q2は直径De上のみに排出孔を有するノズル形状の加工ヘッドによる面加工後の断面形状(うねり高さ)を示す。
【図11】(a)は図1の加工ヘッドによるエッジでの面加工後の断面形状(うねり)の計測位置を説明する図、(b)〜(f)は各計測位置での計測値を示す図。
【符号の説明】
【0087】
1 湿式エッチング加工装置
1A エッチャント循環装置
1B 加工ヘッド走査装置
2 加工ヘッド
3 ガラス基板(加工物)
4 エッチャントタンク
5 エッチャント
6 エッチャント供給系
7 エッチャント回収管
8 ガス排気管
9 ガス排気ポンプ
10 濃度コントローラ
11 水
12 補給管
13 送液ポンプ
14 熱交換器
15 測温体
16 流量調節バルブ
17 流量計
18 フッ酸濃度センサー
19 供給管
20 温調ユニット
31 装置基台
32 2方向移動ステージ
33 加工ヘッド走査速度制御部
34 装置カバー
35 垂直フレーム
36 垂直フレーム部材
37 直線移動案内機構
38 水平フレーム部材
39 主走査方向駆動用のボールねじ
40 副走査方向用のボールねじ
41 ノズルブロック体
42 背面ブロック体
43 固定ねじ
44 供給ノズル部
45 排出孔
46 第1周溝
47 開口
48 第2周溝
49 排出路
50 副走査方向の前部
51 副走査方向の後部
52 張り出し軌跡
52a、52b 軌跡
53 第1のエッチング領域
54 第2のエッチング領域





【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工ヘッドを被加工物の表面と相対的に移動させながら、該被加工物の表面に液状のエッチャントを該加工ヘッドの供給口から連続的に供給しつつ、該供給口の周囲に形成された排出部より吸引して排出し、該排出部の内側に流動するエッチャントにより形成されるエッチング領域により、該被加工物の表面をラスタースキャン方式によりエッチング加工するための加工方法であって、
前記エッチャントを前記供給口を中心とする円周内に形成された第1のエッチング領域から、副走査方向の前後部にそれぞれ張り出した第2のエッチング領域まで流動させて加工を行うことを特徴とする加工方法。
【請求項2】
前記加工ヘッドの副走査方向へのピッチを前記第1のエッチング領域の直径の十分の一としたことを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記被加工物を垂直姿勢に保持して前記加工ヘッドにより加工することを特徴とする請求項1または2に記載の加工方法。
【請求項4】
前記被加工物は、ガラス基板、フォトマスク基板、半導体基板であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の加工方法。
【請求項5】
被加工物の表面と相対的に移動しながら、該被加工物の表面に液状のエッチャントを供給口から連続的に供給しつつ、該供給口の周囲に形成された排出部より吸引して排出し、該排出部の内側に流動するエッチャントにより形成されるエッチング領域により、該被加工物の表面をラスタースキャン方式によりエッチング加工するための加工ヘッドであって、
前記エッチング領域は、前記供給口を中心とする円周内に形成された第1のエッチング領域と、副走査方向の前後部にそれぞれ該第1のエッチング領域から張り出して形成された第2のエッチング領域と、を備えたことを特徴とする加工ヘッド。
【請求項6】
前記排出部は、前記第1のエッチング領域および前記第2のエッチング領域の外周に沿って形成された多数の排出孔により構成したことを特徴とする請求項5に記載の加工ヘッド。
【請求項7】
前記第2のエッチング領域は、副走査方向の先端を尖らせていることを特徴とする請求項5または6に記載の加工ヘッド。
【請求項8】
前記供給部および排出部は、前面が平坦に形成されたノズルブロック体に形成されていることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の加工ヘッド。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−256122(P2009−256122A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105489(P2008−105489)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】