説明

加工方法

【課題】被加工物の被加工面を加工することにより平坦性が高く、かつ加工変質層のない被加工面を形成することのできる加工方法を提供する。
【解決手段】処理溶液30中に被加工面20aを有する被加工物20を設置する被加工物設置工程と、光触媒膜12を被加工面20aに対向させて処理溶液30中に設置する光触媒膜設置工程と、光触媒膜12に光を照射して、光触媒膜12の光触媒作用により処理溶液30から活性種40を生成させる活性種生成工程と、処理溶液30に添加されたラジカル捕捉剤42により、処理溶液30中における活性種40の拡散距離を制御する活性種拡散距離制御工程と、被加工面20aの表面原子22と活性種40を化学反応させ、処理溶液30中に溶出する化合物50を生成させることにより被加工物20を加工する加工工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工方法に関する。特に、本発明は、被加工物の表面を加工する加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエハ等の被加工物の表面を加工する方法として、酸化剤を含む処理溶液中に被加工面を有する被加工物を設置する工程と、酸化剤を分解する固体触媒を被加工面に接触又は極接近させる工程と、固体触媒の触媒作用を利用して処理溶液から酸化力を有する活性種を発生させ、被加工面の表面原子と化学反応させて化合物を生成させる工程と、生成した化合物を除去する工程とを備え、被加工面の加工中に、被加工面に光を照射する工程、被加工面と固体触媒との間に電圧を印加する工程、触媒、被加工物、及び/又は処理溶液の温度を制御する工程のうち1種又は2種以上の工程を組み合わせて被加工面を加工する触媒支援型化学加工方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の触媒支援型化学加工方法は、化学的に被加工物の被加工面を加工するので、被加工面を高精度な表面に加工することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−136983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の触媒支援型化学加工方法は、加工基準面となる固体触媒の表面で酸化剤を分解して被加工面との化学反応に用いる活性種を生成するので、活性種は固体触媒の表面上又は表面近傍のみにしか存在しない。したがって、固体触媒の表面の平坦度が被加工物の表面に転写されることになり、被加工面の平坦度を固体触媒の表面の平坦度より向上させることは困難である。
【0006】
本発明の目的は、被加工物の被加工面を加工することにより平坦性が高く、かつ加工変質層のない被加工面を形成することのできる加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、処理溶液中に被加工面を有する被加工物を設置する被加工物設置工程と、光触媒膜を被加工面に対向させて処理溶液中に設置する光触媒膜設置工程と、光触媒膜に光を照射して、光触媒膜の光触媒作用により処理溶液から活性種を生成させる活性種生成工程と、処理溶液に添加されたラジカル捕捉剤により、処理溶液中における活性種の拡散距離を制御する活性種拡散距離制御工程と、活性種と被加工面の表面原子とを化学反応させ、処理溶液中に溶出する化合物を生成させることにより被加工物を加工する加工工程とを備える加工方法が提供される。
【0008】
また、上記加工方法において、加工工程は、光触媒膜、被加工物、及び処理溶液からなる群から選択される少なくとも1つの部材の温度を制御して被加工物を加工してもよい。
【0009】
また、上記加工方法において、ラジカル捕捉剤は、プロトン性の有機化合物であるのが好ましい。
【0010】
また、上記加工方法において、プロトン性の有機化合物は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのいずれか1つ又はこれらから選択される2つ以上の混合液とするのが好ましい。
【0011】
また、上記加工方法において、光触媒膜は、TiO2の膜であり、TiO2は、アナターゼ型、又はルチル型、若しくはアナターゼ型とルチル型との混晶のいずれかとするのが好ましい。
【0012】
また、上記加工方法において、光は、波長が420nm以下とするのが好ましい。
【0013】
また、上記加工方法において、光触媒膜は、石英からなる基材又はガラスからなる基材上に設けられるのが好ましい。
【0014】
また、上記加工方法において、活性種生成工程は、基材側から光触媒膜に向けて前記光を照射するのが好ましい。
【0015】
また、上記加工方法において、被加工物設置工程は、SiC、GaN、サファイア、ルビー、及びダイヤモンドからなる群から選択される少なくとも1つの被加工物を設置するのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る加工方法によれば、被加工物の被加工面を加工することにより平坦性が高く、かつ加工変質層のない被加工面を形成することのできる加工方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】本発明の実施の形態に係る加工方法の概念図である。
【図1B】本発明の実施の形態に係る加工方法によって被加工物が加工された概要図である。
【図2】本実施の形態に係る加工方法の加工原理である光触媒反応の酸化・還元過程の概要図である。
【図3】実施例1に係る加工方法の概要図である。
【図4】実施例2に係る加工方法の概要図である。
【図5】本発明の加工方法を施す前の比較例2、処理溶液として水とエタノールの水溶液を用いた実施例1及び、処理溶液として水のみを用いた比較例1のそれぞれのSiC基板表面における酸素原子濃度を示す図である。
【図6】実施例1、実施例2及び比較例1に係るそれぞれの反応時間に対するSiC基板の被加工面の平均二乗粗さ(Rms)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態]
(加工方法の概要)
図1Aは、本発明の実施の形態に係る加工方法の概念を示す。また、図1Bは、本発明の実施の形態に係る加工方法によって被加工物が加工された概要を示す。
【0019】
本実施の形態に係る加工方法は、光照射によって処理溶液30から生成した活性種40を用いて被加工物20を加工する光触媒反応型化学的加工方法である。
【0020】
図1Aを参照して本実施の形態に係る加工方法の概要を説明する。本実施の形態に係る加工方法は、処理溶液30中に被加工面20aを有する被加工物20を設置する被加工物設置工程と、光触媒膜12を被加工面20aに対向させて処理溶液30中に設置する光触媒膜設置工程と、光触媒膜12に光60を照射して、光触媒膜12の光触媒作用により処理溶液30からラジカルである活性種40を生成させる活性種生成工程と、活性種40と被加工面20aの表面原子22とを化学反応させ、処理溶液30中に溶出する化合物50を生成させ、化合物50を処理溶液30中に溶出させることにより被加工物20を加工する加工工程とを備える。
【0021】
なお、加工工程は、光触媒膜12、被加工物20、及び処理溶液30からなる群から選択される少なくとも1つの部材の温度を制御して被加工物20を加工することもできる。加工工程において光触媒膜12、被加工物20、及び処理溶液30からなる群から選択される少なくとも1つの部材の温度を制御することにより、被加工物20と活性種40との化学反応速度を増加させる方向、又は減少させる方向に制御できる。例えば、温度上げると化学反応速度が増加し、温度を下げると化学反応速度が減少する。
【0022】
本実施の形態において光触媒膜12は、光60を透過する基材10の表面10bに形成されている。したがって、基材10の裏面10aに入射した光60は基材10を透過して、表面10bに形成されている光触媒膜12に入射することになる。また、処理溶液30は、ラジカルである活性種40を捕捉可能なラジカル捕捉剤42を含む。ラジカル捕捉剤42は、活性種40を捕捉して化合物52となる。活性種40には、ラジカル捕捉剤42によって補足されるものと、補足されずに被加工面20aの表面原子22と化学反応し、化合物50を生成させるものがある。
【0023】
(加工方法の詳細)
まず、図1Aに示すように、ラジカル捕捉剤42を含む処理溶液30中において、光触媒膜12を被加工物20に接触又は、光触媒膜12を被加工物20に極接近させる。
なお、光触媒膜12を被加工物20に極接近させる場合、光触媒膜12の表面12aと被加工物20との距離は、処理溶液30から生成した活性種40の寿命によって決定される活性種40の処理溶液30中における最大拡散距離の範囲内である。
例えば、処理溶液30が水のみの場合、生成する活性種40は強力な酸化力を有するヒドロキシルラジカルであり、この場合の最大拡散距離は1μm程度である。処理溶液30が水にラジカル捕捉剤42を添加したものである場合は、処理溶液30中を拡散しているヒドロキシルラジカルはラジカル捕捉剤42と反応して化合物52となるため、最大拡散距離は前述のものより短くなり、1μm未満となる。従って、極接近する距離は1μm未満とすればよい。
【0024】
次に、基材10の裏面10a側から光60を照射すると、基材10を通過した光60が光触媒膜12に到達する。光触媒膜12に光60が照射されると、光触媒膜12の表面12aに光触媒膜12の光触媒作用により処理溶液30から生成した活性種40が付着する。そして、生成した活性種40は処理溶液30中を被加工面20aに向かって拡散する。活性種40の一部は、被加工物20の被加工面20aに到達する前にラジカル捕捉剤42と化学反応して化合物52を生成する。したがって、処理溶液30から発生した複数の活性種40の一部は、処理溶液30中における拡散距離が増大するにつれて、被加工面20aに到達するまでに失活する確率が増大する。これにより、光触媒膜12から被加工物20までの距離が短い部分から(例えば、被加工面20aに凹凸が存在する場合、凸部の先端部分から)、順次、加工される。このように、ラジカル捕捉剤42と反応するよりも先に被加工面20aに到達した活性種40は、被加工面20aの表面原子22と化学反応して、処理溶液30中に溶出する化合物50を生成する。続いて、生成した化合物50が被加工面20aから処理溶液30中に溶出、拡散する。
【0025】
これにより、被加工物20の被加工面20aが加工される。具体的には、例えば、図1Bに示すように、被加工物20の表面が加工され、平坦面20bが処理溶液30中に露出する。
【0026】
(基材10)
本実施の形態に係る基材10は、光60を透過する透明材料から形成される。具体的に、光60が紫外線である場合、基材10は、紫外線を透過する材料から形成することができる。例えば、基材10は、ガラス基板、石英基板、アクリル等の合成樹脂からなる基板等を用いることができる。光60を透過する透明材料から基材10を形成することにより、基材10の裏面10a側から光触媒膜12に光60を照射できる。なお、合成樹脂から基材10を構成する場合、長期使用により合成樹脂が劣化し難い程度の光60の透過率を有すると共に、被加工物20の被加工面20aに要求される平坦度以上の平坦性の表面10bを有する基材10を用いる。
【0027】
(光触媒膜12)
本実施の形態に係る光触媒膜12は、被加工物20の被加工面20aと対向する基材10の表面10bに形成される。そして、光触媒膜12は、光触媒からなる膜、又は光触媒を含む膜から形成される。光触媒膜12を構成する光触媒としては、価電子帯の上端のエネルギーが約2.8eV以上である酸化物であるTiO2、KTaO3、SrTiO3、ZrO2、NbO3、ZnO、WO3、及びSnO2等の金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を用いることができる。また、これらの化合物に不純物をドープすることもできる。例えば、窒素(N)をドープした窒素ドープ光触媒(例えば、NドープTiO2)から光触媒膜12を形成することもできる。
【0028】
ここで、光触媒としてTiO2を用いる場合、結晶構造がアナターゼ型であるTiO2を用いることが望ましい。なお、ルチル型のTiO2、又はアナターゼ型のTiO2とルチル型のTiO2との混晶を用いることもできる。
【0029】
(光触媒膜12の製造方法)
本実施の形態に係る光触媒膜12は、スパッタ法、蒸着法、分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy法:MBE法)、レーザーアブレーション法、イオンプレーティング法、熱CVD法、プラズマCVD法、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition法:MOCVD法)、液相エピタキシー法、エアロゾルデポジション法(Aerosol Deposition法:AD法)、ラングミュア−ブロジェット法(Langmuir−Blodgett法:LB法)、ゾルゲル法、めっき法、塗布法等を用いて形成することができる。ここで、本実施の形態においては、成膜の制御の容易さ等の観点からスパッタ法を用いることが好ましい。
【0030】
スパッタ法を用いて光触媒膜12を形成する場合、以下のように形成することができる。例えば、TiO2からなるターゲットを用いてAr雰囲気下でスパッタリングを実施することにより、TiO2として直接堆積させて形成される光触媒膜12を基材10上に形成できる。また、Tiからなるターゲットを用いてO2とArとの混合雰囲気(以下、「O2/Ar雰囲気」という場合がある)下でスパッタリングを実施することにより、Tiと雰囲気中のO2とが反応して形成されるTiO2からなる光触媒膜12を基材10上に形成できる。なお、スパッタリングを実施するスパッタ装置としては、直流スパッタ装置、高周波スパッタ装置、マグネトロンスパッタ装置、イオンビームスパッタ装置、電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotoron Resonance:ECR)スパッタ装置等を用いることができる。
【0031】
また、スパッタ法を用いて光触媒膜12を形成する場合、Ar等のプラズマの平均自由行程の増大を抑制して、成膜中における光触媒膜12へのダメージを低減させることを目的として、プラズマ出力を400W以下に設定すると共に、チャンバー内のガスの全圧を1.0Pa以上に設定するのが好ましい。
【0032】
なお、光触媒膜12の膜厚は、被加工面20aの表面原子22と化学反応する活性種40の生成量を増加させ、被加工物20の加工を十分な速度で実施することを目的として、十分に光60を吸収することのできる厚さである150nm以上にする。また、光触媒膜12の膜厚は、200nm以上であることがより好ましい。更に、基材10の裏面10a側から光触媒膜12に向けて照射されて光触媒膜12に到達する光の量に応じて生成する活性種40の量が被加工物20の加工に十分な量となるように、光触媒膜12の膜厚は1μm以下であることが好ましい。
【0033】
また、本実施の形態において用いる光60は、光触媒膜12を構成する光触媒のバンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有する光60を用いる。例えば、TiO2のバンドギャップエネルギーは3.0eVであるので、TiO2は420nm以下の波長の光に対して光触媒機能を発揮する。したがって、光触媒としてTiO2を用いる場合、光60としては、200nm以上420nm以下、好ましくは200nm以上400nm以下の波長を有する光60を用いる。なお、光触媒膜12を構成する光触媒が可視光に対して光触媒機能を発揮する場合、光60として可視光を用いることもできる。
【0034】
(被加工物20)
本実施の形態に係る被加工物20は、例えば、パワーデバイス、発光デバイス等の電子デバイスに用いられる半導体材料、酸化物材料等の結晶材料である。具体的に被加工物20は、SiC、GaN、サファイア、ルビー、ダイヤモンド等の難加工性の結晶材料からなる基板である。
【0035】
(ラジカル捕捉剤42)
本実施の形態に係るラジカル捕捉剤42は、プロトン性の有機化合物を用いることができる。プロトン性の有機化合物としてのラジカル捕捉剤42は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールを用いることができる。ここで、ラジカル捕捉剤42としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのいずれか1つを用いることができる。また、ラジカル捕捉剤42としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールから2つ以上を選択して、選択した2つ以上のプロトン性の有機化合物を混合した混合液を用いることもできる。
【0036】
(加工方法の加工原理:活性種の生成反応)
図2は、本実施の形態に係る加工方法の加工原理である光触媒反応の酸化・還元過程の概要を示す。
【0037】
図2を参照して、光触媒膜12の表面及び近傍において、処理溶液30(例えば、水)から活性種40が生成する原理を説明する。ここでは、光触媒としてTiO2を用いた場合を挙げて説明する。まず、TiO2のバンドギャップエネルギー以上(420nm以下)の光をTiO2に照射すると下記に示す反応式(1)にしたがって、価電子帯に存在する電子が伝導帯に励起されて正孔が価電子帯に生成すると共に、伝導帯に励起電子が生じることにより、正孔−電子対が生成する。なお、反応式(1)において「UV」は紫外線の略である。
【0038】
【化1】

【0039】
正孔は下記反応式(2)及び反応式(3)に示す反応にしたがって、水(H2O)の電離によって生成した水酸化物イオン(OH-)から電子(e-)を引き抜き、水酸ラジカル(ヒドロキシルラジカル『・OH』)を生成する。
【0040】
【化2】

【0041】
【化3】

【0042】
反応式(3)において生成したヒドロキシルラジカルは非常に酸化力が強い。したがって、ヒドロキシルラジカルは、SiC、GaN、ダイヤモンド等の化学的に安定な材料と反応することができ、これら化学的に安定な材料を加工することができる。
【0043】
一方、励起した電子は、酸化され易い特定の物質(犠牲剤)が処理溶液30中に添加されていない限り、下記に示す反応式(4)にしたがって、処理溶液30中に溶解している酸素ガス(溶存酸素)へ移動して、酸素を還元する。なお、溶存酸素の代わりに犠牲剤を処理溶液30中に添加して、反応効率を向上させることもできる。
【0044】
【化4】

【0045】
(加工方法の加工原理:活性種と被加工物との反応、及び加工過程[SiCの場合])
次に、被加工物がSiCである場合における被加工物20としてのSiCの加工過程を説明する。まず、光触媒膜12への光照射により処理溶液30から生成した活性種(一例として、処理溶液30が水の場合、ヒドロキシルラジカル)により、下記に示す反応式(5)にしたがって、SiCの表面が酸化されると考えられる。
【0046】
【化5】

【0047】
ここで、処理溶液30中にラジカル捕捉剤42が添加されている場合、活性種40としてのヒドロキシルラジカルは、被加工物20の表面である被加工面20aに到達する前にラジカル捕捉剤42と反応して失活する。したがって、ヒドロキシルラジカルの処理溶液30中における拡散距離は、ヒドロキシルラジカルとラジカル捕捉剤42との反応速度によって決定される。このように活性種40の拡散距離は、処理溶液30中にラジカル捕捉剤42を添加して活性種40の処理溶液30中における拡散距離を制御することにより、光触媒膜12(例えば、TiO2薄膜)の表面から最も近い距離に位置する被加工面20aより順次、酸化反応を進行させることができる。
【0048】
被加工物20の表面の酸化反応後、被加工面20aに対して酸化反応により生じた酸化物層を除去する処理を施すことにより、被加工面20aの酸化された領域が優先的に加工されていくと考えられる。なお、酸化反応により生じた酸化物層がSiO2の場合、酸化物層の除去にはフッ化水素酸を用いることができる。斯かる場合、以下の反応式(7)にしたがって、被加工面20aの酸化された領域が優先的に加工されていく。
【0049】
【化6】

【0050】
(加工方法の加工原理:活性種と被加工物との反応、及び加工過程[GaNの場合])
また、被加工物がGaNである場合における被加工物20としてのGaNの加工過程を説明する。まず、光触媒膜12への光照射により処理溶液30から生成した活性種(一例として、処理溶液30が水の場合、ヒドロキシルラジカル)により、下記に示す反応式(7)にしたがって、GaNの表面が酸化されると考えられる。
【0051】
【化7】

【0052】
この場合に、被加工物20がSiCの場合についての説明と同様に、ラジカル捕捉剤42を処理溶液30に添加することにより活性種40としてのヒドロキシルラジカルの拡散距離を制御することができる。そして、被加工物20としてのGaNの表面の酸化反応後、被加工面20aに対して酸化反応により生じた酸化物層を除去する処理を施すことにより、被加工面20aの酸化された領域が優先的に加工されていくと考えられる。なお、酸化反応により生じた酸化物層がGa23の場合、酸化物層の除去には硫酸を用いることができる。斯かる場合、以下の反応式(8)にしたがって、被加工面20aの酸化された領域が優先的に加工されていく。
【0053】
【化8】

【0054】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る加工方法は、処理溶液30中に被加工物20を設置すると共に光触媒膜12を被加工面20aに対向させて処理溶液30中に設置した後、光触媒膜12に光60を照射して処理溶液30から活性種40を生成させ、処理溶液30中に添加したラジカル捕捉剤42により、活性種40の処理溶液中における拡散距離を制御し、活性種40と被加工面20aの表面原子22とを化学反応させて処理溶液30中に溶出する化合物50を生成させることで被加工物20を加工するため、砥粒及び研磨剤を用いた場合に被加工物20内に生じる機械的な欠陥が生じることがない。これにより、本実施の形態に係る加工方法によれば、加工による結晶欠陥の発生を生じさせることなく、加工変質層(例えば、研磨剤等を用いて研磨した場合に被加工物20の表面に生じるダメージ層)のない高精度な表面(すなわち、平坦性の高い表面)を有する被加工物を製造できる。
【0055】
また、本実施の形態に係る加工方法は、砥粒及び研磨剤を用いることを要さないので、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法等による研磨方法において要求される使用済みスラリーの廃棄処理等の産業廃棄物の処理を要さない。したがって、本実施の形態に係る加工方法は、廃棄処理のコストを低減させることができ、また、産業廃棄物を排出しないので、環境保護の観点からも好ましい加工方法である。
【0056】
更に、本実施の形態に係る加工方法は、光触媒膜12からの距離が近い被加工面20aから順次加工されるので、平坦性のよい表面を有する基板を製造することができる。換言すれば、本実施の形態に係る加工方法は、異方性を有して被加工物20の表面を加工することができるので、平坦性のよい表面を有する基板を製造することができる。
【実施例1】
【0057】
以下、実施例について説明する。
【0058】
図3は、実施例1に係る加工方法の概要を示す。
【0059】
(光触媒膜12の作製)
まず、基材として石英を用いた石英基板14を高周波マグネトロンスパッタ装置のチャンバー内部に設置した。そして、Arガス100%雰囲気下、プラズマ出力300W、基板温度300℃、全圧3Pa、成膜時間24分という条件で石英基板14の表面に光触媒膜12としてのTiO2薄膜を成膜した。なお、高周波マグネトロンスパッタ装置のターゲットとしては、TiO2焼成体からなるターゲットを用いた。
【0060】
(光触媒膜の評価)
石英基板14の表面に成膜したTiO2薄膜の物性を評価した。当該TiO2薄膜の膜厚は200nmであった。また、当該TiO2薄膜の結晶構造はアナターゼ結晶76%であり、ルチル結晶が24%である混晶であった。
【0061】
(SiC基板の光触媒反応型化学的加工)
実施例1においては、被加工物20としてSiC基板を用いた。具体的に、実施例1において用いたSiC基板としては、単結晶のSiC基板であり、直径50mm、[11−20]方向に8度傾斜した(0001)Si面のn型4H−SiCを用いた。また、当該SiC基板の電気抵抗率は0.017Ωcmであった。なお、{0001}面のSiC単結晶基板には極性があり、一方は最表面がSi原子からなるSi面であり、他方は最表面がC原子からなるC面である。実施例1では、被加工面20aとしてSi面を用いた。また、実施例1では、加工前の被加工面20a(Si面)は、機械的な鏡面研磨を施した後、CMP処理を施した面である。なお、被加工面20aとしてC面を用いた場合、Si面を用いた場合と加工速度が多少異なるものの、加工が進行する機構はSi面の場合と同様である。
【0062】
実施例1に係る加工方法は具体的に以下のとおりである。まず、10%HF水溶液でSiC基板の表面を洗浄した。次に、ガラスビーカー70に、SiC基板を入れた後、光触媒膜12が成膜された石英基板14を導入した。斯かる場合に、SiC基板の被加工面と光触媒膜12とを接触させた。次に、処理溶液として、ラジカル捕捉剤としてのメタノールを水に添加した水溶液32をガラスビーカー70内に導入した。ここで、当該水溶液32は、メタノールの濃度を50%(volume/volume%:v/v%)に調製した水溶液32を用いた。この場合に、水溶液32の表面が、光触媒膜12とSiC基板の被加工面との接触面(以下、「界面」という場合がある)よりも上側(すなわち、少なくとも当該接触面が水溶液32中になる位置)に位置するように、ガラスビーカー70内に水溶液32を導入した。これにより、光触媒膜12とSiC基板の被加工面との界面に毛細管現象により水溶液32が浸入して、水溶液膜層34(以下、「ラジカル輸送層」という場合がある)が形成された。
【0063】
次に、高圧水銀灯を用いて、石英基板14の裏面14a側から紫外線照度が8mW/cm2に調節された紫外線62を照射した。これにより、光触媒膜12と水溶液膜層34中の水溶液32との光触媒反応が開始された。光触媒膜12と水溶液32との光触媒反応の反応時間、すなわち活性種と被加工物の反応時間は、1時間反応させる毎に被加工面を観察し、累積5時間まで反応させた。
【0064】
光触媒反応によりSiC基板の被加工面に酸化膜が形成された。1時間の光触媒反応後、当該酸化膜を10%HF水溶液で除去した。そして、加工後の被加工面を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)により観察した。その後、さらに1時間、同様に光触媒反応を行い、酸化膜を除去して被加工面を観察した。これを繰り返し、累積5時間まで光触媒反応を行った。その結果、図6に示すように、加工前の被加工面の平均二乗粗さ(Rms)が0.295nmであったところ、加工後の被加工面のRmsは、1時間反応させたものが0.179nm、累積2時間反応させたものが0.136nm、累積3時間反応させたものが0.125nm、累積4時間反応させたものが0.121nm、累積5時間反応させたものが0.119nmであった。このように実施例1に係る加工方法によれば、SiC単結晶基板表面の平坦度を改善することができる。また、加工後の被加工面に加工変質層がないか測定してみたところ、加工変質層は存在しなかった。
【0065】
実施例1と同様の加工を光触媒膜12としてKTaO3、SrTiO3、ZrO2、NbO3、ZnO、WO3、及びSnO2を用いた場合においても、実施例1と同様に平均二乗粗さが改善された。具体的には、反応時間を2時間以上とした場合において、加工後の被加工面のRmsは、全て0.100nm〜0.150nmの範囲に平坦化させることができた。光触媒機能を持っていれば光触媒膜12としてTiO2以外の金属酸化物でも、SiC単結晶基板表面の平坦度を改善することができることが分かる。
【実施例2】
【0066】
図4は、実施例2に係る加工方法の概要を示す。
【0067】
実施例2においては、光触媒膜12及び処理溶液としての水溶液32を加熱して被加工物20としてのSiC基板に加工を施した。
【0068】
具体的に実施例2においては、実施例1において用いたSiC基板と同様の単結晶SiC基板を用いた。すなわち、実施例2において用いたSiC基板は、直径が50mmであり、[11−20]方向に8度傾斜した(0001)Si面のn型4H−SiCを用いた。また、当該SiC基板の電気抵抗率は0.017Ωcmであった。実施例2においても、被加工面としてSi面を用い、加工前の被加工面(Si面)は、機械的な鏡面研磨を施した後、CMP処理を施した面を用いた。
【0069】
まず、10%HF水溶液でSiC基板の表面を洗浄した。次に、ガラスビーカー70に、光触媒膜12が成膜された石英基板14と被加工物20としてのSiC基板とを導入した。斯かる場合に、SiC基板の被加工面と光触媒膜12とを接触させた。次に、処理溶液として、ラジカル捕捉剤としてのメタノールを水に添加した水溶液32をガラスビーカー70内に導入した。ここで、当該水溶液32は、メタノールの濃度を50%(v/v%)に調製した水溶液32を用いた。この場合に、水溶液32の表面が、光触媒膜12とSiC基板の被加工面との界面よりも上側(すなわち、少なくとも当該界面が水溶液32中になる位置)に位置するように、ガラスビーカー70内に水溶液32を導入した。これにより、光触媒膜12とSiC基板の被加工面との界面に毛細管現象により水溶液32が浸入して、水溶液膜層34が形成された。
【0070】
続いて、ヒータ制御部82によりヒータ80に流す電流を調整して、水溶液32の温度を60℃まで加熱した。これにより、処理溶液としての水溶液32と光触媒膜12との双方を60℃に加熱した。次に、高圧水銀灯を用いて、石英基板14の裏面14a側から紫外線照度が8mW/cm2に調節された紫外線62を照射した。これにより、光触媒膜12と水溶液32との光触媒反応が開始された。光触媒膜12と水溶液32との光触媒反応の反応時間、すなわち活性種と被加工物の反応時間は、1時間反応させる毎に被加工面を観察し、累積5時間まで反応させた。
【0071】
光触媒反応によりSiC基板の被加工面に酸化膜が形成された。1時間の光触媒反応後、当該酸化膜を10%HF水溶液で除去した。そして、加工後の被加工面をAFMにより観察した。その後、さらに1時間、同様に光触媒反応を行い、酸化膜を除去して被加工面を観察した。これを繰り返し、累積5時間まで光触媒反応を行った。その結果、図6に示すように、加工前の被加工面の平均二乗粗さ(Rms)が0.497nmであったところ、加工後の被加工面のRmsは、1時間反応させたものが0.210nm、累積2時間反応させたものが0.145nm、累積3時間反応させたものが0.136nm、累積4時間反応させたものが0.127nm、累積5時間反応させたものが0.124nmであった。また、被加工面に形成された酸化膜の厚さから酸化速度を算出した。その結果、処理溶液としての水溶液32を加熱した場合の酸化速度は、加熱しない場合よりも酸化速度が上がり、被加工面の加工速度が上がることが分かった。また、水溶液32を加熱して被加工面に加工を施すと、被加工面の表面粗さを改善する効果よりも加工速度を向上させる効果が大きいことが分かった。また、加工後の被加工面に加工変質層がないか測定してみたところ、加工変質層は存在しなかった。
【実施例3】
【0072】
実施例3においては、被加工物20としてGaN基板を用いた点を除き、実施例1と略同様にして被加工物20を加工した。具体的に、実施例3において用いたGaN基板としては、単結晶のGaN基板であり、直径50mm、(0001)Ga面のn型GaNを用いた。なお、{0001}面のGaN単結晶基板には極性があり、一方は最表面がGa原子からなるGa面であり、他方は最表面がN原子からなるN面である。実施例3では、被加工面としてGa面を用いた。また、実施例3では、加工前の被加工面(Ga面)は、機械的な鏡面研磨を施した後、CMP処理を施した面である。なお、被加工面としてN面を用いた場合、Ga面を用いた場合と加工速度が多少異なるものの、加工が進行する機構はGa面の場合と同様である。
【0073】
(GaN基板の光触媒反応型化学的加工)
実施例3に係る加工方法は具体的に以下のとおりである。まず、10%HF水溶液でGaN基板の表面を洗浄した。次に、ガラスビーカー70に、光触媒膜12が成膜された石英基板14とGaN基板とを導入した。斯かる場合に、GaN基板の被加工面と光触媒膜12とを接触させた。次に、処理溶液として、ラジカル捕捉剤としてのメタノールを水に添加した水溶液32をガラスビーカー70内に導入した。ここで、当該水溶液32は、メタノールの濃度を50%(v/v%)に調製した水溶液32を用いた。この場合に、水溶液32の表面が、光触媒膜12とGaN基板の被加工面との界面よりも上側(すなわち、少なくとも当該界面が水溶液32中になる位置)に位置するように、ガラスビーカー70内に水溶液32を導入した。これにより、光触媒膜12とGaN基板の被加工面との界面に毛細管現象により水溶液32が浸入して、水溶液膜層34が形成された。
【0074】
次に高圧水銀灯を用いて、石英基板14の裏面14a側から紫外線照度が8mW/cm2に調節された紫外線62を照射した。これにより、光触媒膜12と水溶液32との光触媒反応が開始された。光触媒膜12と水溶液32との光触媒反応の反応時間は1時間に設定した。
【0075】
光触媒反応によりGaN基板の被加工面に酸化膜が形成された。1時間の光触媒反応後、当該酸化膜を濃硫酸で除去した。そして、加工後の被加工面をAFMにより観察した。その結果、加工前の被加工面の平均二乗粗さ(Rms)が0.261nmであったところ、加工後の被加工面のRmsは0.178nmであった。このように、実施例3に係る加工方法によれば、GaN単結晶基板表面の平坦度を改善することができる。また、加工後の被加工面に加工変質層がないか測定してみたところ、加工変質層は存在しなかった。
【0076】
実施例3と同様の加工を被加工物20としてサファイア、ルビー及びダイアモンドを用いて行った場合においても、加工速度に差はあるが、実施例3と同様に被加工物20表面の平均二乗粗さが改善された。このことは、被加工物20としてSiC及びGaN以外の難加工性物質でも、その表面の平坦度を改善することができることを示している。
【0077】
[比較例1]
比較例1は、処理溶液として水にメタノールを添加した水溶液を用いる代わりに水のみを用いる以外、他の条件を実施例1と同じ条件でSiC基板の加工を行った。
比較例1において用いたSiC基板は、実施例1と同様に、単結晶のSiC基板であり、直径50mm、[11−20]方向に8度傾斜した(0001)Si面のn型4H−SiCを用いた。また、当該SiC基板の電気抵抗率は0.017Ωcmであった。そして、被加工面はSi面であり、加工前の被加工面(Si面)は、機械的な鏡面研磨を施した後、CMP処理を施した面である。
【0078】
比較例1に係る加工方法は、まず、10%HF水溶液でSiC基板の表面を洗浄した。次に、ガラスビーカー70に、光触媒膜12が成膜された石英基板14とSiC基板とを導入した。斯かる場合に、SiC基板の被加工面と光触媒膜12とを接触させた。次に、処理溶液としての水をガラスビーカー70内に導入した。この場合に、水の表面が、光触媒膜12とSiC基板の被加工面との界面よりも上側(すなわち、少なくとも当該界面が水中になる位置)に位置するように、ガラスビーカー70内に水を導入した。これにより、光触媒膜12とSiC基板の被加工面との界面に毛細管現象により水が浸入して、水膜層が形成された。
【0079】
次に、高圧水銀灯を用いて、石英基板14の裏面14a側から紫外線照度が8mW/cm2に調節された紫外線62を照射した。これにより、光触媒膜12と水との光触媒反応が開始された。光触媒膜12と水との光触媒反応の反応時間、すなわち活性種と被加工物の反応時間は、1時間反応させる毎に被加工面を観察し、累積5時間まで反応させた。
光触媒反応によりSiC基板の被加工面に酸化膜が形成された。1時間の光触媒反応後、当該酸化膜を10%HF水溶液で除去した。そして、加工後の被加工面を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)により観察した。その後、さらに1時間、同様に光触媒反応を行い、酸化膜を除去して被加工面を観察した。これを繰り返し、累積5時間まで光触媒反応を行った。その結果、図6に示すように、加工前の被加工面の平均二乗粗さ(Rms)が0.354nmであったところ、加工後の被加工面のRmsは、1時間反応させたものが0.348nm、累積2時間反応させたものが0.340nm、累積3時間反応させたものが0.331nm、累積4時間反応させたものが0.335nm、累積5時間反応させたものが0.328nmであった。比較例1に係る加工方法においては、SiC単結晶基板表面の平坦度がほとんど改善しなかった。比較例1では、活性種40の拡散距離を制御していないため、加工の進行に伴って活性種40が被加工面20aの凹部に達し、等方的な加工モードに転じてしまったためと考える。このように、比較例1の被加工面20aのRmsは、ラジカル捕捉剤42を添加した場合と比較して劣る。
【0080】
(活性種の拡散距離制御)
本発明の加工方法における処理溶液中での活性種(ヒドロキシルラジカル)の拡散距離の制御方法について説明する。
図5は、本発明の加工方法を施す前の比較例2、処理溶液として水とエタノールの水溶液を用いた実施例1及び、処理溶液として水のみを用いた比較例1のそれぞれのSiC基板表面における酸素原子濃度を示した図である。
【0081】
具体的には、まず、実施例1に係る加工方法による加工を施す前のSiC基板表面の酸素原子濃度をオージェ電子分光分析により測定した。斯かる場合、SiC基板表面の自然酸化膜の酸素原子濃度を測定したことになる(以下、「比較例2の酸素濃度」という)。また、実施例1に係る加工方法による加工を施したSiC基板表面の酸素原子濃度をオージェ電子分光分析により測定した(以下、「実施例1の酸素濃度」という)。更に、比較例1に係る加工方法による加工を施したSiC基板表面の酸素原子濃度をオージェ電子分光分析により測定した(以下、「比較例1の酸素濃度」という)。
【0082】
図5を参照すると、SiC基板表面における酸素原子濃度は、比較例2の酸素濃度<実施例1の酸素濃度<比較例1の酸素濃度、の順に上昇した。これは、ラジカル捕捉剤42としてのメタノールを水に添加することによって、SiC基板表面における酸化反応が抑制されたことを示している。すなわち、水にラジカル捕捉剤42を添加すると、活性種40としてのヒドロキシルラジカルの水中における拡散距離を制御することができることを示している。したがって、実施例1においては、光触媒膜12の表面から最も近い部分の被加工物20より、順次、被加工物20の表面の酸化反応を進行させ得ること、ラジカル捕捉剤42の存在により活性種40の拡散距離を制御できることが分かる。
【0083】
実施例1と同様の加工をラジカル補足剤42としてエタノール、プロパノール、ブタノールを用いた場合においても、SiC基板表面における酸素原子濃度は、実施例1と同様の傾向であった。このことは、ラジカル捕捉剤42としてメタノール以外のプロトン性有機化合物を水に添加することによっても、活性種40としてのヒドロキシルラジカルの水中における拡散距離を制御することができることを示している。
【0084】
以上より、実施例に係る加工方法によれば、光触媒膜12の光触媒作用により処理溶液30から生じた活性種40(例えば、処理溶液30の主成分が水の場合ヒドロキシルラジカル)の処理溶液30中における拡散距離をラジカル捕捉剤42の処理溶液30への添加により制御することができる。これにより、研磨痕のない表面を有する被加工物20を提供することができると共に、当該表面を原子レベルで平坦化することができる。
【0085】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組み合わせの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0086】
10 基材
10a 裏面
10b 表面
12 光触媒膜
12a 表面
14 石英基板
14a 裏面
14b 表面
20 被加工物
20a 被加工面
20b 平坦面
22 表面原子
30 処理溶液
32 水溶液
34 水溶液膜層
40 活性種
42 ラジカル捕捉剤
50 化合物
52 化合物
60 光
62 紫外線
70 ガラスビーカー
80 ヒータ
82 ヒータ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理溶液中に被加工面を有する被加工物を設置する被加工物設置工程と、
光触媒膜を前記被加工面に対向させて前記処理溶液中に設置する光触媒膜設置工程と、
前記光触媒膜に光を照射して、前記光触媒膜の光触媒作用により前記処理溶液から活性種を生成させる活性種生成工程と、
前記処理溶液に添加されたラジカル捕捉剤により、前記処理溶液中における前記活性種の拡散距離を制御する活性種拡散距離制御工程と、
前記活性種と前記被加工面の表面原子とを化学反応させ、前記処理溶液中に溶出する化合物を生成させることにより前記被加工物を加工する加工工程と
を備える加工方法。
【請求項2】
前記加工工程は、前記光触媒膜、前記被加工物、及び前記処理溶液からなる群から選択される少なくとも1つの部材の温度を制御して前記被加工物を加工する請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記ラジカル捕捉剤は、プロトン性の有機化合物である請求項1に記載の加工方法。
【請求項4】
前記プロトン性の有機化合物は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのいずれか1つ又はこれらから選択される2つ以上の混合液である請求項3に記載の加工方法。
【請求項5】
前記光触媒膜は、TiO2の膜であり、
前記TiO2は、アナターゼ型、又はルチル型、若しくはアナターゼ型とルチル型との混晶のいずれかである請求項1に記載の加工方法。
【請求項6】
前記光は、波長が420nm以下である請求項1に記載の加工方法。
【請求項7】
前記光触媒膜は、石英からなる基材又はガラスからなる基材上に設けられる請求項1に記載の加工方法。
【請求項8】
前記活性種生成工程は、前記基材側から前記光触媒膜に向けて 前記光を照射する請求項7に記載の加工方法。
【請求項9】
前記被加工物設置工程は、SiC、GaN、サファイア、ルビー、及びダイヤモンドからなる群から選択される少なくとも1つの前記被加工物を設置する請求項1〜8のいずれか1項に記載の加工方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−35188(P2012−35188A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176911(P2010−176911)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】