説明

加工植物及び加工植物の製造方法

【課題】屋内の緑化に資するような天然の植物の加工品を経済的に提供することができる、水系工程による加工植物及びその製造方法、特に単子葉植物のようにわずかの膨圧低下によっても萎れやすい植物を対象とする加工植物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】植物の組織中に尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物を浸透させてなる加工植物。界面活性剤を含む前処理液に植物を浸漬する前処理を行った後、水と、尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物を含み、加温された処理液に活きた植物を浸漬した後、冷却乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自然の植物を加工し、葉や茎等を極めて自然に近い形状や色彩で長期間鑑賞できるようにした加工植物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市建築の高層化、地下街の発達に伴い、都市生活者が植物の緑に接する機会が減っている。植物の緑は人間の心を癒す効果があり屋内で鑑賞できる緑化に対する要望が増えている。しかしながら生きた植物は光の不足する屋内では長期間生存することができない。この為、生きた植物による緑化は、切花あるいは定期的に交換する観葉植物に限定されている。合成樹脂、繊維等を用いる人工植物が開発、販売されているが、自然感に欠けるため、その利用は限られている。長期間にわたり自然の植物の外観を維持する緑化資材の開発が望まれている。
【0003】
一般に植物の組織は、組織中の水の膨圧によってその形態を維持している。この為、生命力を失った植物は組織中の水分の蒸発によって萎れる。
特に単子葉植物のように、軟らかい組織の植物の葉はその傾向が大である。
植物、特に葉が萎れるのは水分が失われることによる膨圧の低下に起因しているのであるから、不揮発性の物質を浸透させることにより見かけ上の萎れを防ぐことができる。
そこで、組織水を何らかの非蒸発性の材料で置換して、植物特に葉など生命を失うことにより形状が変化するものの形状を維持しようとの試みがなされ、様々な提案がなされている。
【0004】
最近、プリザーブドフラワーなどの名称で呼ばれる天然植物を加工する技術が開発され、装飾品として広く普及し始めた。この技術は、基本的に天然の植物を親水性の無水有機溶媒に浸漬し植物の組織を脱水し、有機溶媒で置換した後、多価アルコール、ポリエチレングリコール等と有機溶媒の混合液に浸漬し、多価アルコール、ポリエチレングリコール等を植物組織内に浸透させるものである。
【0005】
例えば、N,N−ジメチルホルムアミドを用いて脱水した後、ポリエチレングリコールのアルコール溶液に植物体を浸漬してポリエチレングリコールを組織中に浸透させるものがある(特許文献1参照)。
【0006】
有機溶媒とモレキュラーシーブとを用いて脱水した植物体を、ポリエチレングリコールのセロソルブ溶液に浸漬して、ポリエチレングリコールを組織中に浸透させるものがある(特許文献2参照)。
【0007】
有機溶媒を用いて脱水した植物体を、融点25℃以上の高級アルコール又は高級カルボン酸等の溶液に浸漬して、融点25℃以上の高級アルコール又は高級カルボン酸等を組織中に浸透させるものがある(特許文献3参照)。
【0008】
切り花の組織水を溶媒(アセトン)を用いて脱水したのち、ポリエチレングリコールと色素を含む溶媒(アセトン/セロソルブ)に浸漬して、ポリエチレングリコールと色素を組織中に浸透させるものがある(特許文献4参照)。
【0009】
グリセリンとエタノールとの混合液に植物を浸漬して吸収させエタノールを揮発させてグリセリンを残すものがある(特許文献5参照)。
【0010】
植物体をアセトンとエタノールの混合液により脱水したのち、ポリエチレングリコールとアセトンを含む溶液に浸漬して組織水をポリエチレングリコールで置換するものがある(特許文献6参照)。
【0011】
植物体をポリエチレングリコールとエタノールの混合液に浸漬して組織水をポリエチレングリコールで置換するものがある(特許文献7参照)。
【特許文献1】特開昭54−010033号公報
【特許文献2】特表平04−505766号公報
【特許文献3】特許第3268405号公報
【特許文献4】特許第3739599号公報
【特許文献5】特開2001−233702号公報
【特許文献6】特開2003−026501号公報
【特許文献7】特開2004−099605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これら特許文献に開示された方法は、小規模の装飾品を作るのには優れた方法であるが、すべての工程が溶剤系で行われている。そのため、屋内緑化資材のように大量の製品を生産するには、安全、環境対策のために大きな設備投資と厳しい生産管理が要求され、高コストの製品にならざるを得ず実用化の妨げになっている。
【0013】
本発明は、屋内の緑化に資するような天然の植物の加工品を経済的に提供することができる、水系工程による加工植物及びその製造方法、特に単子葉植物のようにわずかの膨圧低下によっても萎れやすい植物を対象とする加工植物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、水溶性の低分子量化合物であれば、有機溶媒を使用しなくても植物体に浸透できるのではないかとの考えから、特に植物の組織内に浸透しやすい水溶性の低分子量化合物を鋭意探索して尿素又は酢酸ナトリウムが適していることを見出した。
【0015】
請求項1の発明は、植物の組織中に尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物を浸透させてなる加工植物である。
【0016】
そして、本発明は、特に単子葉植物に適していることから、請求項2の発明は、植物が単子葉植物である請求項1に記載の加工植物である。
【0017】
水分を失っても萎れさせないためには、植物の組織にできるだけ多くの尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物を浸透させる必要がある。尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物は、処理液と組織水との濃度差により組織水中に拡散浸透すると考えられる。すなわち、処理液の濃度が高い方が好ましい。処理液の濃度を高くするには処理液を加温すればよい。
【0018】
請求項3の発明は、水と、尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物を含み、加温された処理液に植物を浸漬した後、冷却乾燥することを特徴とする。
【0019】
加温された処理液に浸漬した後冷却することにより、尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物が固形分として組織中に残ることから、組織水の水分が揮散しても形状維持が可能となる。
【0020】
さらに、本発明者は、界面活性剤による前処理を行うことにより、尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物の浸透が促進されることを見出している。
【0021】
請求項4の発明は、界面活性剤を含む前処理液に植物を浸漬する前処理を行った後、請求項3に記載の工程を行うことを特徴とする。
【0022】
本発明において、尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物が組織中に残留して、膨圧低下による変形(萎れ)を軽減すると見られることから、尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物の濃度は可能な限り大きいのが好ましい。
請求項5の発明は、処理液が、常温における水に対する飽和濃度以上の尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物を含むことを特徴とする。
【0023】
加工植物は、自然のままの色合いで鑑賞することもできるが、処理液若しくは前処理液のいずれか又は両方に色素を加えることにより着色することもできる。
請求項6の発明は、処理液若しくは前処理液のいずれか又は両方に色素を加えることを特徴とする請求項3、4又は5に記載の加工植物の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、屋内に緑化空間を演出する手入れ不要の加工植物を経済的かつ大量に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明において加工植物とすることができる植物は、生きているときの組織構造を維持できるものであればよく、例えば、熱湯処理をして活性をなくしたものであってもよい。 植物体が組織中に処理液を吸い上げる能力を有しておれば、萎れていても加工の対象とすることができる。
【0026】
本発明において前処理液に使用する界面活性剤は、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれも使用でき、特に制限はない。
具体的には、家庭用、工業用の界面活性剤を使用することができる。
家庭用に市販されている界面活性剤としては、食器洗い用の洗剤、洗濯用の洗剤、入浴用の洗剤などが挙げられる。
【0027】
これら洗剤の形態としては固形状、粉末状、液体状のいずれであってもよいが、水に溶解する工程を経ずにそのまま使用できることから液体状のものが好ましい。
市販の液状洗剤であればそのまま使用できるが、濃いものであれば、適宜0.1〜0.2W/W%になるように希釈して使用するのが好ましい。
前処理液への浸漬処理は、常温で行い、時間は、1日すなわち24時間程度である。
【0028】
処理液は、尿素又は酢酸ナトリウムを単独で又は両者を水に投入、溶解して調製する。尿素又は酢酸ナトリウムを併用するとき、これらの比率は任意である。
溶解するときの水の温度は特に制限はなく、常温でもよく、溶解を促進するため加温してもよい。溶解せずに残っているものがあっても特に支障はない。
【0029】
前処理を終わった植物を常温の処理液に浸漬して、処理液を加温する。又は加温した処理液に前処理を終わった植物を浸漬する。
常温の処理液に浸漬して24時間程度放置したのち加温するようにしてもよい。又は常温で飽和濃度の処理液を別に調製してそれに浸漬することもできる。そうするとこにより加温処理の時間を短縮することができる。
【0030】
加温温度は、40℃以上とするのが好ましい。温度上限については植物葉骨格組織の軟化を防ぐ為、70℃を超えないようにするのが好ましい。
また、加温浸漬処理の時間は特に制限はないが1〜2時間程度である。
【0031】
処理液が冷却するに伴い、溶解している尿素や酢酸ナトリウムが結晶として析出し、植物体から水分が揮散してもその形態を保持することができるようになる。
なお、加温処理終了後、浸漬液から植物体を取り出し常温にしたときに、植物葉表面に目立った結晶が析出する場合は少量の水で表面を洗浄すればよい。
【0032】
着色するための色素としては、市販の染料が用いられ、例えば緑色の染料であれば、ダイロン社のDYLON25(商品名)が挙げられる。
【0033】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0034】
植物として根の泥を落としたコウライ芝を用いた。
0.1W/W%のノニオン界面活性剤(アデカノールLG(商品名)を使用した)水溶液からなる前処理液を調製し、この前処理液に前記植物全体が浸かるようにして入れてそのまま1日間放置した。
次いで、水1.0部(重量部、以下同じ)及び尿素1.5部に緑色染料としてDYLON25(商品名)を1〜2W/W%となるように加えた処理液を調製し、この処理液に前記植物を全体が浸かるようにして入れ、ゆっくりと昇温し60℃に到達した後2時間維持した。
次いで、植物を取り出し常温に放置冷却後、表面に析出した結晶を霧吹きを用いて水洗浄し、自然乾燥することにより、染色された加工芝を得た。
この加工芝は、直射日光の当たらない環境下、1年以上形状及び色相を維持することができた。
【実施例2】
【0035】
植物として笹を用いたほか、実施例1と同様の操作により加工笹を得た。
得られた加工笹は直射日光の当たらない環境下、1年以上形状及び色相を維することができた。
【実施例3】
【0036】
植物としてトールフェスク(西洋芝の品種名)を用いた。
0.2W/W%のアニオン界面活性剤(市販の洗剤アリエール(商品名)を使用した)水溶液に緑色染料としてDYLON25(商品名)を1〜2W/W%となるように加えた前処理液を調製し、この前処理液に前記植物を全体が浸かるようにして入れてそのまま1日間放置し、50℃に昇温し1時間保持し染色を完結させた。
次いで、55℃に加温された水1.0部及び酢酸ナトリウム2.0部からなる処理液を調製し、この処理液に染色された植物体を全体が浸かるようにして入れて2時間55℃に維持した。
植物を処理液から取り出し、40℃以下に冷却し、自然乾燥して加工芝を得た。
この加工芝は、直射日光の当たらない環境下、1年以上形状及び色相を維持することができた。
【実施例4】
【0037】
植物として根の泥を落としたコウライ芝を用いた。
0.1W/W%のノニオン界面活性剤アデカノール(商品名)水溶液からなる前処理液を調製し、この前処理液に前記植物を全体が浸かるようにして入れてそのまま1日間放置した。
次いで、水1.0部及び尿素1.2部からなる処理液を調製しこの処理液に前記植物を全体が浸かるようにして入れてそのまま1日間放置した。
次に、50℃に加温された水1.0部、尿素1.5部及び酢酸ナトリウム0.8部に緑色染料としてDYLON25(商品名)を1〜2W/W%となるように加えた第2の処理液を調製し、この第2の処理液に前記植物を全体が浸かるようにして入れて2時間50℃に維持した。
その後、植物を処理液から取り出し液切りして常温で自然乾燥することにより、加工芝を得た。
この加工芝は、直射日光の当たらない環境下、1年以上形状及び色相を維持することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の組織中に尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物を浸透させてなる加工植物。
【請求項2】
植物が単子葉植物である請求項1に記載の加工植物。
【請求項3】
水と、尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物を含み、加温された処理液に植物を浸漬した後、冷却乾燥することを特徴とする加工植物の製造方法。
【請求項4】
界面活性剤を含む前処理液に植物を浸漬する前処理を行った後、請求項3に記載の工程を行うことを特徴とする加工植物の製造方法。
【請求項5】
処理液が、常温における水に対する飽和濃度以上の尿素若しくは酢酸ナトリウム又はこれらの混合物を含む請求項3又は4に記載の加工植物の製造方法。
【請求項6】
処理液若しくは前処理液のいずれか又は両方に色素を加えることを特徴とする請求項3、4又は5に記載の加工植物の製造方法。

【公開番号】特開2010−70520(P2010−70520A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241900(P2008−241900)
【出願日】平成20年9月21日(2008.9.21)
【出願人】(500557303)
【Fターム(参考)】