説明

加工機システム及び加工機の配置方法

【課題】 複数の加工機を備える加工機システムにおいて加工機間の振動伝達の抑制と設置スペースの低減とを両立させる。
【解決手段】少なくとも3台の加工機は、第1の加工機と、該第1の加工機を支持する梁の少なくとも1つによって支持されている第2の加工機と、前記第1の加工機を支持する梁のいずれによっても支持されず他の梁によって支持されている第3の加工機とを含む。前記第1の加工機から前記第2の加工機に伝達される振動量が所定量より低くなるように前記第1の加工機と前記第2の加工機との間隔を決定し、前記第1の加工機と前記第2の加工機とを前記間隔よりも隔てて配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工機システム及び加工機の配置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの製造技術として、基板上の未硬化樹脂にモールド(型)を押しつけて、モールドに形成された微細な凹凸パターンを基板上に転写する微細加工技術が注目を集めている。この技術はインプリント技術と呼ばれ、基板上に数ナノメートルオーダの微細な構造体を形成することができる。例えば、インプリント技術の一つとして、光硬化法がある。光硬化法を採用したインプリント装置では、まず基板上のインプリント領域に紫外線硬化樹脂を塗布し、この樹脂にモールドを押しつける。そして、紫外線を照射して樹脂を硬化させた後に、モールドを離型することで基板上に樹脂のパターンが形成される。
【0003】
インプリント装置において、モールドと基板の位置合わせ誤差の許容範囲が数ナノメートルから数十ナノメートルであるのに加え、転写速度の向上が求められる。一般的に、インプリント装置と比較して、従来のステッパーやスキャナー等の露光装置は転写速度が速く、スループットが高い。露光装置のスループットと対抗するために、インプリント装置を複数台組み合わせたクラスタ型のインプリントシステムとする方法がある。クラスタ型の加工機システムとは、複数台の加工機を隣接して設置し、各加工機がデバイスを製造することで生産性の確保と省スペース化を図ったシステムである。特にクラスタ型のインプリントシステムは、1台あたりのインプリント装置の価格が液浸露光装置等と比較して安いため、単位面積当たりに多くのインプリント装置を設置できればコスト面で利点が生じる。
【0004】
しかしながら、加工機を隣接して配置することは転写精度とトレードオフの関係になる場合が多い。即ち、1つの加工機で発生した振動は、その加工機自体を加振するだけでなく、加工機システムを支持している支持構造を介して、周囲に設置している他の加工機をも加振する。例えば、未硬化樹脂にモールドを押し付ける押型時には、予め取得した位置合わせの条件によりモールドと基板とは高精度な位置関係が維持されている。しかしながら、他のインプリント装置からの振動が伝達すると、モールドと未硬化樹脂との接触界面が不安定な状態になり、転写精度が低下する。特許文献1には、2つのステージが定盤を介して振動を伝達しあうのを抑制するため、ステージの駆動に伴う反力が互いに打ち消し合うように、2つのステージを同期的に駆動することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−234865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された装置では、ステージを支持する定盤を剛体として、各ステージの加減速を開始する時刻を一致させ、ステージの加減速の時間と駆動力の力積との和が零となるような同期運転を行う。しかしながら、装置の力積の和を零とするには、装置の台数や設置位置、回転成分、発生する振動の周波数成分等も考慮する必要があり、他の装置に影響しない程度に力積の和を零とすることは難しい。力積の和を零とするために複雑な制御系を設けることはコストの増加に結び付く。
【0007】
制御系を用いずに加工機間の振動伝達を抑制する手法として、複数の加工機を互いに振動が影響しないように支持構造に配置する手法が挙げられる。しかしながら、単純に加工機間の間隔を広くとったのでは、単位面積あたりの設置台数が減少するという課題がある。複数の加工機を設置する支持構造は、一般的に床梁で、直交する2つの方向に間隔を置いて配置された梁で構成される。加工機は、加工機が備えるペデスタル(台座)を床梁に固定することで床梁に設置される。梁の曲げ剛性は長手方向と幅方向で大きく異なるため、定盤のような平板と異なり、床梁の振動伝達特性は加振方向によって異なる。特に、梁の長手方向の振動に対して減衰率が低く、振動が伝達しやすい。従って、床梁の振動伝達特性を考慮して、加工機を配置することが望まれる。
【0008】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、複数の加工機を備える加工機システムにおいて加工機間の振動伝達の抑制と設置スペースの低減とを両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの側面は、間隔をおいて配置された複数の梁を含む支持構造に少なくとも3台の加工機を配置する方法であって、前記少なくとも3台の加工機は、第1の加工機と、該第1の加工機を支持する梁の少なくとも1つによって支持されている第2の加工機と、前記第1の加工機を支持する梁のいずれによっても支持されず他の梁によって支持されている第3の加工機とを含み、前記第1の加工機から前記第2の加工機に伝達される振動量が所定量より低くなるように前記第1の加工機と前記第2の加工機との間隔を決定し、前記第1の加工機と前記第2の加工機とを前記間隔よりも隔てて配置する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の加工機を備える加工機システムにおいて加工機間の振動伝達の抑制と設置スペースの低減とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】加工機システムを示す概略図である。
【図2】支持構造の概略図および支持構造の一部を拡大した図である。
【図3】支持構造の振動伝達特性を示すグラフである。
【図4】支持構造の振動伝達特性を示すグラフである。
【図5】加工機システムを支持構造に対して鉛直上方向から見た図である。
【図6】加工機の配置方法の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施形態に係る、複数の加工機を備えたクラスタ型の加工機システムについて説明する。なお、本実施形態における「クラスタ型の加工機システム」とは、生産性の確保と省スペース化を目的として、複数の加工機を同一の支持構造に隣接して配置させ、各加工機が同時にデバイス等の物品を製造するシステムである。本発明での支持構造とは、梁を含む設置床であり、通常は、各加工機が備えるペデスタル(台座)を介して加工機を支持構造に固定する。
【0013】
図1は、本実施形態における加工機システムの概略図である。加工機システムは、3台の加工機1a、1b、1cとそれらを支持する支持構造2を備える。加工機1aを第1の加工機と呼ぶとき、加工機1cは、第1の加工機1aを支持する梁の少なくとも1つによって支持されている第2の加工機である。また、加工機1bは、第1の加工機1aを支持する梁のいずれによっても支持されず他の梁によって支持されている第3の加工機である。このような3台の加工機1a、1b、1cを総称して加工機1と呼ぶ。支持構造2は、一般的な半導体デバイス製造工場の床梁と同様に、直交する2つの方向(X方向、Y方向)に間隔を置いて配置された第1梁3a及び第2梁3bで構成される。図1において、第1梁3aの長手方向をX方向、第2梁3bの長手方向をY方向、支持構造2に垂直な方向をZ方向とする。X方向及びY方向は、支持構造2の表面に平行でかつ互いに直交する第1方向と第2方向とを構成している。第1梁3aおよび第2梁3bを総称して梁3と呼ぶ。加工機1の設置台数は、少なくとも3台である。
【0014】
図2の(a)は支持構造2の概略図で、(b)は支持構造2の一部を拡大したものである。図2の(b)に示すとおり、梁3の曲げ剛性は一般的な梁と同様に幅方向と高さ方向と比較して長手方向に低い。このような梁3で構成された支持構造2は、長手方向に対して直交する方向の振動に対しての振動伝達率は低いが、長手方向の振動に対しての振動伝達率が高いという特性を持つ。そのため、図1に示すように、支持する梁3の一部が共通するようにして加工機1a、1cを配置した場合、一方の加工機1aが支持構造2を梁3aの長手方向(X方向)に加振すると、他の加工機1cに支持構造2を介して振動が伝達しやすい。一方、複数の加工機1a,1bを支持する梁3がX方向、Y方向ともに異なるように加工機1a、1cを配置した場合、加工機1a,1bの加振力の方向に依らず、一方の加工機1aで発生した振動が支持構造2を介して他の加工機1bに伝達しにくい。
【0015】
図3は、図2の(a)に示す点4aをX方向に加振した場合における点4a〜4dのX方向の加速度の1例である。点4bは点4aに対して加振方向であるX方向に位置するため振動伝達率が高いが、点4cは点4aに対して、点4dは点4bに対して、加振方向に直交するY方向に位置するため振動伝達率が低い。また、図4は、図2の(a)に示す点4aをY方向に加振した場合における点4a〜4dのY方向の加速度の1例である。点4cは点4aに対して加振方向であるY方向に位置するため振動伝達率が高いが、点4bは点4aに対して、点4dは点4cに対して、加振方向に直行するX方向に位置するため振動伝達率が低い。以上より、点aの加振方向によらず、点aと梁3を共有しない点dには振動が伝達しにくい。
【0016】
そこで、本実施形態では、加工機システムにおける加工機の配置を図6に示される手順で行う。S1では、支持構造2を構成する梁3の長手方向の振動伝達率を求める。振動伝達率は、支持構造2の梁3上に計測器を配置し、加振結果から実測を通じて求めることができる。例えば、加工機がインプリント装置や露光装置である場合、基板を保持する基板ステージを最大加速度で加速させた状態で振動伝達率を測定する。振動伝達率は、支持構造2を想定したシミュレーションにより算出しても良い。
【0017】
S2では、S1で求めた振動伝達率、加工機1の支持構造2に対する加振力、加工機1が許容できる振動量を基に、加工機1を支持する梁3を共通にする場合に梁3を通じて伝達される振動量が所定量より低くなる加工機間の間隔(許容距離)を決定する。加工機間の間隔は、例えば、加工機1の重心間の距離である。複数の加工機1を共通の梁3上に配置する態様(第1の態様)では、共通する梁3の長手方向に沿って隣接しあう2つの加工機間の間隔をS2で求めた許容距離以上とする。複数の加工機1を支持する梁3を共通させずに配置する態様(第2の態様)では、加工機間の間隔をS2で求めた許容距離以上とする制約はない。
【0018】
S3では、加工機1の設置台数が予め設定されている場合、第1の態様と第2の態様とを組み合わせることで所定の台数の加工機1を設置するための面積を最小とするように、加工機1の配置を決定する。また、加工機1の設置面積が予め設定されている場合には、第1の態様と第2の態様とを組み合わせることで所定の面積に設置する加工機1の台数を最大とするように、加工機1の配置を決定する。S4では、S3で決定された複数の加工機1の配置レイアウトに従って、複数の加工機1を支持構造2に配置する。
【0019】
図5は、図6の手順で決定された3台の加工機1a〜1cの支持構造2に対して鉛直上方向から見た配置レイアウトである。加工機1bは、加工機1aと加工機1cを支持する梁3と異なる梁3上に配置するので、加工機1a及び加工機1cからS2で求めた許容距離よりも短い間隔で配置することができる。一方、加工機1aと加工機1cとは、同一の梁3上に配置するので、S2で求めた許容距離よりも長い間隔をおいて配置する。
【0020】
本実施形態では、支持する梁3を共通化する第1の態様と支持する梁3を共通させずに加工機間の間隔を小さくできる第2の態様とを組み合わせて複数の加工機1を配置するため、加工機間の振動伝達を抑制と設置スペースの低減との両立を実現することができる。本発明の加工機システムを構成する加工機1は、例えば、数nmから数十nmの加工精度が要求され床振動に対する許容値が小さい、基板に塗布された感光性材料にパターンを形成するリソグラフィ装置である。本発明を適用できるリソグラフィ装置は、基板に塗布された樹脂と型とを接触させて該樹脂を硬化させることにより樹脂にパターンを形成するインプリント装置、基板を露光する露光装置や荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をおいて配置された複数の梁を含む支持構造に少なくとも3台の加工機を配置する方法であって、
前記少なくとも3台の加工機は、第1の加工機と、該第1の加工機を支持する梁の少なくとも1つによって支持されている第2の加工機と、前記第1の加工機を支持する梁のいずれによっても支持されず他の梁によって支持されている第3の加工機とを含み、
前記第1の加工機から前記第2の加工機に伝達される振動量が所定量より低くなるように前記第1の加工機と前記第2の加工機との間隔を決定し、前記第1の加工機と前記第2の加工機とを前記間隔よりも隔てて配置する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第3の加工機と前記第1の加工機との間隔は、前記第2の加工機と前記第1の加工機との間隔よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の梁は、前記支持構造の表面に平行でかつ互いに直交する第1方向と第2方向とに沿ってそれぞれ延びる複数の第1梁と複数の第2梁とを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも3台の加工機のそれぞれは、基板に塗布された樹脂と型とを接触させて該樹脂を硬化させることにより前記樹脂にパターンを形成するインプリント装置、基板を露光する露光装置又は荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
間隔をおいて配置された複数の梁を含む支持構造に少なくとも3台の加工機が配置された加工機システムであって、
前記少なくとも3台の加工機は、第1の加工機と、該第1の加工機を支持する梁の少なくとも1つによって支持される第2の加工機と、前記第1の加工機を支持する梁のいずれによっても支持されず他の梁によって支持されている第3の加工機とを含む、ことを特徴とする加工機システム。
【請求項6】
前記第3の加工機と前記第1の加工機との間隔は、前記第2の加工機と前記第1の加工機との間隔よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の加工機システム。
【請求項7】
前記複数の梁は、前記支持構造の表面に平行でかつ互いに直交する第1方向と第2方向とに沿ってそれぞれ延びる複数の第1梁と複数の第2梁とを含むことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の加工機システム。
【請求項8】
前記少なくとも3台の加工機のそれぞれは、基板に塗布された樹脂と型とを接触させて該樹脂を硬化させることにより前記樹脂にパターンを形成するインプリント装置、基板を露光する露光装置又は荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置であることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の加工機システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−93423(P2013−93423A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234147(P2011−234147)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】