説明

加工米飯の製造方法

【課題】本発明は、無菌包装米飯の適度な呈味、食感を維持しつつ、保存性も良い加工米飯の開発を課題とする。
【解決手段】米を酸および塩を含有する改質用水溶液中で煮熟した後に、加圧加熱工程において、バクテリオシンを加えることによって課題を解決することができることを見出した。
すなわち、本発明は、米を酸および塩を含有する改質用水溶液中で煮熟する工程、煮熟した米を水で洗浄する工程、洗浄した米を充填し、バクテリオシンを含む溶液中で加圧加熱殺菌をすることを特徴とする加工米飯及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無菌包装米飯の適度な呈味、食感を維持しつつ、微生物汚染を防止させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米飯類を容器内に充填後、無菌的に炊き上げ、パックする無菌包装米飯は電子レンジや湯煎などによる簡易加熱で喫食可能であることから市場に広く出回るようになってきている。
【0003】
しかし、米飯から完全に殺菌するためには、加圧加熱殺菌を行う必要があるが、強く殺菌すると米飯にダメージが強く、食感を失われたり、黄色く変色したりし、逆に加圧加熱殺菌を弱く行うと、通常の炊飯に近い、美味しい米飯を得ることができるが、殺菌が弱くなり、微生物による汚染が発生することが危惧される。通常のレトルト米飯では115〜120℃、20〜50分間の加熱が行われるが、そのままでは米飯の炊き立ての味と香りが維持できないこと、製造工程および流通過程において、米粒の結着や潰れが発生し、テクスチャー(歯ごたえ、舌触り、のど越しなど)を損ねることが知られていた。
【0004】
このようなレトルト米飯の食感を改良する方法としては、炊飯時に有機酸、その塩又はその両方を加える方法が、特開昭62-220162号公報(特許文献1)に開示されている。しかしながら、有機酸又はその塩を加えて原料米を炊飯する方法では、米飯に有機酸又はその塩の異味が残り、米飯の食味が著しく損なわれることが知られていた。
【0005】
そこで、その米飯を酸および塩を含有する水溶液中で煮熟した後に、洗浄しその後にレトルト殺菌を行う方法が特開平9-65841号公報(特許文献2)に開示されている。
【0006】
しかし本方法ではできた米飯に過度の加熱がされる結果となり、全体的にやわらかめの米飯になる傾向にあり、粥の製法としては適しており、物性のコントロールが可能になったが、白飯としてはやわらかくなりすぎる傾向にあった。
【0007】
一方、米飯を殺菌する方法としては熱、圧力などによる物理的な方法、酸やアルカリ、抗生物質などを用いる化学的な方法と共に、微生物が産生する抗菌物質(バクテリオシン)を用いた微生物学的な方法が最近脚光を浴びている。そのうちのナイシンAについては世界中で広く利用が検討されており、チーズなどの発酵食品に広く利用されている。
【0008】
また、特開2006-320319号公報(特許文献3)において、米類の殺菌工程においてバクテリオシンを用いたものが示されているが、この方法では加熱による殺菌工程を電化殺菌水とともに補助する方法の一つとしてバクテリオシンを用いた方法を示したものであるが、保存性の点で満足いく段階ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62-220162号公報
【特許文献2】特開平9-65841号公報
【特許文献3】特開2006-320319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、無菌包装米飯の適度な呈味、食感を維持しつつ、保存性も良い加工米飯の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意努力した結果、米を酸および塩を含有する改質用水溶液中で煮熟した後に、加圧加熱工程において、バクテリオシンを加えることによって課題を解決することができることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は
(1) 米を酸および塩を含有する改質用水溶液中で煮熟する工程、
煮熟した米を水で洗浄する工程、洗浄した米を充填し、バクテリオシンを含む溶液中で加圧加熱殺菌をすることを特徴とする加工米飯、
(2) 酸がクエン酸又はフマル酸であり、塩が塩化カルシウムであることを特徴とする(1)記載の加工米飯、
(3) 米を酸および塩を含有する改質用水溶液中で煮熟する工程、
煮熟した米を水で洗浄する工程、洗浄した米を充填し、バクテリオシンを含む溶液中で加圧加熱殺菌をすることを特徴とする加工米飯の製造方法、
(4) 酸がクエン酸又はフマル酸であり、塩が塩化カルシウムであることを特徴とする(3)記載の加工米飯の製造方法
に関する。
【0013】
本発明において、酸としてはクエン酸、リンゴ酸、酢酸、フマル酸、リン酸、グリシン、L-アスコルビン酸、GDL等を挙げることができ、塩とは塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、乳酸カルシウム、コハク酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0014】
バクテリオシンとしては、ナイシンA、ナイシンZ、ナイシンQ等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、世界中で広く用いられているナイシンA(以下、ナイシン)を用いることが一般的である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、適度な呈味、食感を維持しつつ、保存性のよい加工米飯を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に示す為に実施例について詳細に説明する。本実施例における評価は、以下の方法及び基準に基づいて訓練されたパネルによる官能評価によって行った。
評価方法:加工した米飯100gをそのまま30秒間、電子レンジ(600W)で加熱した後、官能により評価した。
【0017】
評価基準
食感:A、やわらかすぎて不適;B、やわらかめ;C、適当なかたさ;D、かため;E、かたすぎて不適
異味:A、酸味が強く不適;B、酸味を感じる;C、酸味、異味を感じず適;D、異味(苦み)を感じる;E、異味(苦み)が強く不適
【実施例1】
【0018】
精白米(ササニシキ)を洗米し、常温で60分間水中に浸漬した。精白米を水切り後、表1の組成を有するブランチング用製剤(千葉製粉製、HP23)(以下、改質剤)を所定の濃度で溶解した水溶液(以下、改質用水溶液)中で煮熟した。改質用水溶液を煮熟した白米から水切りして除去した後に、再び常温で10分間水に浸漬した。水きりした後、煮熟した白米をレトルトパウチに充填および密封し、120℃、25分間(F0=10)の条件下で加圧加熱殺菌を行い試料1-1の加工米飯を得た。
【0019】
【表1】

【0020】
次に、改質用水溶液を煮熟した白米から水切りして除去した後、再び水に浸漬することなく加熱加圧殺菌を施した以外は、試料1-1の場合と同様の処理を行い、試料1-2の加工米飯を得た。
【0021】
まず、ブランチング用製剤の添加量を変化させた試験結果を表2に示した。0.8%以上の添加量では、軟らかすぎて白飯として食するには適さなかった。また、1%では酸味を強く感じられた。改質剤の好ましい添加濃度としては0.4〜0.6%前後であることが分かった。
【0022】
【表2】

【0023】
次に、煮熟時間を10分間に固定して、その煮熟温度について80℃から100℃までの範囲でその効果を検証した。温度が高い方がやわらかく仕上がる傾向にあり85℃が最適な食感が得られた。その結果を表3に示した。
【0024】
【表3】

【実施例2】
【0025】
以上の実験より最適条件と推測された、改質剤の添加濃度0.4%、85℃で10分間煮熟する条件において調製した試作品1-1をもとにそれぞれの工程の効果を検証した。
【0026】
すなわち、改質用水溶液を煮熟した白米から除去した後、再び水に浸漬することなく加熱加圧殺菌を施した以外は、試作品1-1と同様にして試作品1-2を得た。
【0027】
また、改質用水溶液に代えて改質剤を溶解していない水を用いた以外は、試作品1-1及び試作品1-2と同様の方法により、試作品1-3及び1-4をそれぞれ得た。以上のようにして製造した試作品を白飯として評価を行ったのが表4である。
【0028】
【表4】

【0029】
改質剤処理の無い試作品1-3、1-4では食感が固めのものであったが、改質剤処理を行い、再浸漬を行った、1-1では食感も粘りを有し、かつ適当な固さであり、また、改質剤を加えることにより1-2で見られた異味も、再浸漬処理を行うことによって除くことができた。
【実施例3】
【0030】
次に、試作品1−1の条件において改質剤を添加した場合の煮熟時間、および殺菌時間について検討した。殺菌時間について検討したところ、25分間の殺菌においては、煮熟時間3分で適度な食感が得られるものの、調整が難しく、安定的に適度な食感を得ることが困難であった。一方、15分間の殺菌時間でその食感を評価したところ、煮熟時間は6分程度が適正で調整可能なレベルであった。
【0031】
また、改質剤の添加濃度の影響を検証したところ、改質剤は少ない方が食感は固めであるものの、異味は少ないことが明らかになった。このバランスを検討したところ、0.4%添加で、6分間の煮熟が適当であった(表5)。
【0032】
【表5】

【実施例4】
【0033】
次に、改質剤0.4%添加で6分間の煮熟をしたものを121℃、15分間の殺菌で、B. subtilisが完全に殺菌されるのかについて検証した。10の5乗/gのB.subtilisの胞子を煮熟前の白米に添加後、残留する量を検定した。煮熟時間を6分間、添加濃度0.4%とし、殺菌後1日室温放置した後に菌数をペトリフィルム(3M)を用いて測定した。また、その際にナイシン(和光純薬)を250ppm、2500ppmそれぞれ添加した場合には菌の増殖を抑えることができるが、250ppmでは15分では2個/g、ナイシンを加えない場合には68個/gの胞子が残存することが明らかになった。これは、この酸、塩を加えた系での最適条件では、通常の殺菌においては適度な食感を得ることはできず、ナイシンを加えることによりはじめて効果が得られることを明らかにしている(表6)。
【0034】
【表6】

【0035】
さらに、このナイシンを添加して作成した無菌米飯を室温で1ヶ月放置し、その外観を観察して、その変化を検証した。ナイシンを入れずに15分間殺菌をしたものでは、包材の膨張がみられ、かつ変敗臭がしたため食することができないと判断した。ナイシンを添加したものでは15分間の殺菌でも特に外観の変化は見られず、効果が認められた(表7)。
【0036】
【表7】

【実施例5】
【0037】
次に、クエン酸などの酸および塩化カルシウムなどの塩の濃度が、最終的な加工米飯の工程にどのような影響を与えるかを検証した。改良剤を用いる代わりに所定の濃度の塩化カルシウムおよびクエン酸を煮熟時に添加したこと、炊飯時にナイシンを入れたこと以外は実施例1と同様の方法で試作をした。すなわち、所定のクエン酸、塩化カルシウムを添加して100℃で10分間煮熟したのちに、一旦水切りを行い、15分間水切りをした後に、ナイシン250ppm加え、120℃で25分間加圧加熱殺菌を行った。得られた加工米飯をパネラーにより官能評価を行った。
【0038】
その結果、全体的にやわらかめの食感が得られたが、クエン酸濃度が低いほうがまた、塩化カルシウム濃度は高い方が固く感じ、クエン酸濃度が0.01%以下、塩化カルシウム濃度が0.2%、または0.1%のときは少しやわらかめではあるものの、米飯として食することができるレベルの固さであった。さらに、この範囲の添加剤を加えた米飯は苦みは感じるものの、わずかであり、呈味に影響を与える範囲ではなかった(表8)。すなわち、酸が0.01%以下で、塩が0.2%以下が好ましい。
【0039】
【表8】

【0040】
しかし、この条件でもやわらかめの物性であるので、煮熟時間を2分から8分、その後の殺菌時間を15分(表10)あるいは25分(表9)として、最適条件を検討した。殺菌時間25分の場合には塩化カルシウム0.2%、クエン酸0.01%で煮熟時間は4分が最適であったが、殺菌時間15分ではかなり広い濃度、煮熟時間で最適な物性が得られた。
【0041】
【表9】

【0042】
【表10】

【0043】
そこでCaCl2 0.2%、クエン酸0.01%添加した加工液で4分間煮熟したのちに、水切りし、15分間水に再浸漬したのちに、ナイシン250ppmの水を加え15分間120℃で殺菌した米飯の原料米に10の5乗/gのB.subtilis の胞子を加えたもので作成したところ、殺菌終了後、常温で一日放置した加工米飯中からは菌は検出されなかった。
【実施例6】
【0044】
次に酸と塩の種類を変えて検討した。酸と塩の種類を変えた以外は、実施例1と同様の方法で試作をした。
【0045】
塩としては、塩化カルシウムが一番固さを維持する能力が強く、他の塩は無添加とくらべて固さが保たれているものの、若干やわらかいレベルのものであった。
【0046】
一方、酸としては種類によって効果が異なり、リンゴ酸が一番効果が強く、酢酸、リン酸、L-アスコルビン酸などが効果が弱かった。また、これらの効果は必ずしもpH には相関しておらず、pHが高いグリシンが、pHが低い酢酸やリン酸よりもやわらかくなるなどの現象を観察することができた(表11)。
【0047】
【表11】

【0048】
また、これらのサンプルにナイシン250ppmを添加して作成したところ、常温で6ヶ月保存したものでも菌の繁殖が見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米を酸および塩を含有する改質用水溶液中で煮熟する工程、
煮熟した米を水で洗浄する工程、洗浄した米を充填し、バクテリオシンを含む溶液中で加圧加熱殺菌をすることを特徴とする加工米飯。
【請求項2】
酸がクエン酸又はフマル酸であり、塩が塩化カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の加工米飯。
【請求項3】
米を酸および塩を含有する改質用水溶液中で煮熟する工程、
煮熟した米を水で洗浄する工程、洗浄した米を充填し、バクテリオシンを含む溶液中で加圧加熱殺菌をすることを特徴とする加工米飯の製造方法。
【請求項4】
酸がクエン酸又はフマル酸であり、塩が塩化カルシウムであることを特徴とする請求項3記載の加工米飯の製造方法。