加工誤差予測のためのコンピュータプログラム、加工誤差予測装置およびその予測結果に基づいて工具経路を修正する装置
【課題】工具の形状誤差や撓みに起因する加工誤差を高速に予測可能な装置などを提供する。
【解決手段】コンピュータ装置1の3次元グラフィックス機能を利用し、加工誤差を予測する位置における工具M(切刃の通過軌跡)、この位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体T1,T2、および被削物形状Wを、それぞれ下方からの視野範囲Vにおいて描画する。描画された画像において工具Mが手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として検出し、この加工面の代表点(創成点C)における工具の形状誤差や撓み量から加工誤差を予測する。予測した加工誤差に基づいて工具経路を修正すれば、成形後の手修正に要する工数、時間を大幅に削減できる。
【解決手段】コンピュータ装置1の3次元グラフィックス機能を利用し、加工誤差を予測する位置における工具M(切刃の通過軌跡)、この位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体T1,T2、および被削物形状Wを、それぞれ下方からの視野範囲Vにおいて描画する。描画された画像において工具Mが手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として検出し、この加工面の代表点(創成点C)における工具の形状誤差や撓み量から加工誤差を予測する。予測した加工誤差に基づいて工具経路を修正すれば、成形後の手修正に要する工数、時間を大幅に削減できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工の際の誤差の予測に関し、特に工具の形状誤差や撓みに起因する加工誤差をコンピュータ装置の3次元グラフィックス機能を利用して予測する技術に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より一般に、プレス製品などの製造に用いられる金型は、CAM(Computer Aided Manufacturing)から出力された工具の移動経路のデータ(NCデータ)に基づいて回転工具を移動させ、被削物を加工することによって製作されている。CAMは、例えばボールエンドミルのような工具の種類やその直径などの工具情報と送りピッチなどの加工条件とに基づいて、目標形状であるCAD(Computer Aided Design)のモデル形状に正確に工具を沿わせるように、その経路を出力する(仕上げ加工の場合)。
【0003】
しかしながら、実際の加工中には切削力による工具の撓みが発生し、また、工具にはそれ自体に寸法誤差があるとともに工作機械の回転軸に取り付ける際の誤差もあるから、図1に模式的に示すようにCADモデル形状に対して誤差(加工誤差)を生じることは避けられない。このため、通常は切削加工後の金型において加工誤差の大きい部分を手作業で修正しなくてはならず、この修正と計測の繰り返しに多大な工数、時間が費やされている。
【0004】
この切削力による工具撓みの問題に対し、NCデータを修正することによって解消しようとする取り組みがある。最も基本的なものとしては単位時間当りの切削体積などを計算し、その切削体積に基づいて送り速度を変更することにより、切削体積の変動を抑えるというものがあるが、切削体積を小さくするためには、工具の送り速度を小さくする必要が生じ、能率が低下する。また、送り速度を小さくしても工具の撓みは発生するから、加工誤差を本質的に解決するものではない。さらに、金型加工では一般にボールエンドミルが用いられるが、ボールエンドミル加工では工具1回転中に切削力の方向や大きさが変化するため、除去体積から工具撓み量を正確に推定することは困難であった。
【0005】
そこで、工具の撓みを事前に算出し、撓みに起因する加工誤差を打ち消すように工具経路の座標値を変更するという技術も提案されている(特許文献1、2、3を参照)。すなわち、特許文献1においては構造計算ソフトウェアを用いて切削力、工具撓みを算出するとしているが、構造計算ソフトウェアを用いて切削力、工具撓みを算出するには多大な時間を要するため、金型をはじめとする大規模かつ複雑な形状をもつ製品を創成する切削工程に対して実用的な時間内に処理を実施することは難しい。
【0006】
一方、特許文献2においては切削点でのSN(Surface Nominal)と工作機械のDSM(Dynamic Stiffness Matrix)、切削力などに基づいて撓みを算出するとしているが、この文献には切削力や工具撓みに起因する加工誤差の算出方法については記載されていない。また、特許文献3においては加工面の法線ベクトルと切削条件とから、経験則やデータベースに基づいた演算式により補正量を算出するとしているが、この演算式を作成するためには加工面と工具の回転軸心との相対姿勢毎に膨大な実験および評価が必要になる。
【0007】
これらの点を考慮して本願の発明者らは、自由曲面を持つ複雑形状の加工において、工具の切込み状態を高速に判定し、切削力を予測する手法を提案している(非特許文献1、2を参照)。これは、コンピュータ装置の3次元グラフィックス機能を利用して、工具の切込み状態を判定することにより、任意の工具位置における工具1回転中の切削3分力を高速に予測するものである。この方法で算出された切削力と工具の剛性とから、工具の1回転中の撓み量を算出することができる。
【特許文献1】特開2002−126834号公報
【特許文献2】特開2004−174620号公報
【特許文献3】特開2005−144620号公報
【非特許文献1】2007年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集pp67
【非特許文献2】2008年度精密工学会愛媛地方学術講演会講演論文集pp45
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、例えばボールエンドミルのような工具はそれ自体が振動的な振る舞いを示すことから、図2(a)に一例を示すようにパルス状の切削力を受けるときであっても、同図(b)のように回転角度に応じて撓み量は大きく変動する。このため、工具の1回転中若しくは1刃送りの間の切削力を算出して、これによる平均的な撓み量を求めるだけでは不十分であり、この撓みに起因する加工誤差を高精度に予測するためには、工具の1回転中のどの時点の撓み量から加工誤差を算出するかが極めて重要になる。
【0009】
詳しくは、まず、図3にはボールエンドミルを用いて側面加工を行っている様子を、回転軸心に沿って上方から視た模式図で示している。工具が1回転する間に、その切刃は、被削物に食いついて離れることにより切削加工を行うのであるが、こうして切削された領域(切削領域)の一部は次の工具の回転によって削り取られるので、切削領域の全てが加工面として残るわけではない。
【0010】
また、図4には曲面をボールエンドミルで加工する様子を側方視で示しており、最初に図の左側において工具が紙面の手前側から奥側(Y軸+方向)へ送られ、その後、右側(X軸+方向)へピックフィードされて再び紙面奥行き方向へ送られる、というように紙面に垂直な方向への直線移動が繰り返されるとする。この場合、1つの経路において切削された領域の一部はその次の経路において削り取られることになり、最終的に加工面として残る領域は一部分に過ぎない。
【0011】
すなわち、前記のように1回転中に変動する工具撓みのうち、加工誤差へ影響するのは最終的に加工面として残る領域を切削しているとき、即ち加工面を創成するときのものだけであり、加工誤差を予測するためには、そのときに切刃のどの位置(回転角位置)が被削物と接触しているかを知る必要がある。しかしながら、自由曲面などの複雑な形状を有する金型の加工においては、工具経路データを用いて任意の工具位置における加工面創成時の工具回転角を通常の幾何計算により求めることは、膨大な時間を必要とし現実的とは言い難い。
【0012】
さらに、加工誤差の要因としては前記の工具撓みの他に、工具を工作機械に取り付けた状態で回転させたときの形状誤差もある。すなわち、CAMは、使用するボールエンドミルの半径の半球を用いて切刃の通過軌跡を表し、工具経路を作成するが、実際の工具にはそれ自体に寸法誤差があるとともに工作機械の回転軸に取り付ける際の芯ずれもあり、さらに、実際の加工中にはアンバランスのために回転する切刃の通過軌跡が理想的な形状から乖離するからである。
【0013】
この点について、工具を回転させた状態でその回転軸心に直交するいくつかの断面(工具軸断面)における切刃の外径、即ち工具径を計測することなどによって、形状誤差を測定することは可能であるが、こうして測定したデータを用いて形状誤差による加工誤差を算出するためには、創成時に切刃がどの工具軸断面において被削物と接触しているかを知る必要があり、このことを通常の幾何計算によって行うことも現実的ではない。
【0014】
これらの要因のため従来、工具の形状誤差や撓みに起因する加工誤差を実用的な時間内で予測できるものは見当たらないのが実状であり、このことが可能な予測装置を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成すべく本発明では、コンピュータ装置の3次元グラフィックス機能を利用し、加工終了後に加工面として残る部位を切削している工具の切刃位置、例えばボールエンドミルであればその切刃の工具回転軸心周りの回転角位置や該回転軸心方向の位置などを算出するようにしたものである。
【0016】
具体的に請求項1の発明は、回転する工具による被削物の加工誤差を予測するための装置を対象として、その工具による加工前の被削物の形状、該工具の切刃形状およびその送りによる移動経路の情報を含む、所定データの入力を受け入れるデータ入力手段と、それら所定データに基づいて、前記工具の移動経路上で加工誤差を予測する位置における前記切刃の通過軌跡、当該位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体、および前記被削物を、それぞれ当該被削物の側から工具を望む所定の視野範囲において描画する描画手段と、こうして描画された画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として検出する加工面検出手段と、そうして検出された画素領域から、加工面の創成時に被削物を切削する切刃の位置である創成位置を特定し、この創成位置における工具の形状誤差および撓み量の少なくとも一方に基づいて加工誤差の推定値を算出する加工誤差算出手段と、を備えるものである。
【0017】
前記構成の加工誤差予測装置に被削物や工具の仕様、その経路など所定のデータを入力すると、加工誤差の予測位置における切刃の通過軌跡と、当該位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体と、前記被削物とが、それぞれ描画手段によって該被削物の側から工具を望む所定の視野範囲において描画される。なお、加工誤差の予測位置の直前、直後というのは厳密には、工具の回転による切刃の1刃分送り前、1刃分送り後ということになるが、これに限るものではなく、それぞれ2〜3刃送り以内の範囲を想定しており、この範囲であればほぼ同様の結果が得られる。
【0018】
また、前記の描画手段としては、例えば3次元の多面体形状をディスプレイ上に描画するためのグラフィックスハードウェアを利用することができ、こうすれば、必要となる幾何演算のうち、CPU(Central Processing Unit)ではリアルタイム処理の難しい座標変換、投影、陰面消去、最近点算出などの処理を高速に行うことができて、大幅な描画速度の向上が実現する。
【0019】
そして、前記のように描画された画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域から、加工終了後に残る加工面の範囲を推定することが可能である。そこで、この画素領域が加工面検出手段によって検出されれば、この加工面を切削するときの工具の切刃位置(加工面創成位置)を特定し、例えばボールエンドミルであればその回転軸心との位置関係から、創成位置の工具回転軸心周りの回転角位置や該回転軸心方向の位置などを算出することができ、これに基づいて創成位置における工具の形状誤差や撓みに起因する加工誤差を推定できる。
【0020】
より具体的には、例えば上述したように工具を回転させた状態で、その回転軸心に直交するいくつかの断面(工具軸断面)において工具径、即ち、切刃の通過軌跡の外径を計測などして、予め理想形状とのずれ(形状誤差)を工具の回転軸心方向の位置に対応付けて記憶したテーブルを作成しておき、前記加工誤差算出手段は、特定した創成位置における工具の形状誤差を前記テーブルを用いて算出するものとすればよい(請求項2)。
【0021】
また、前記加工誤差算出手段は、加工誤差の予測位置における切削力の大きさと工具の剛性(動剛性が好ましい)とから、当該工具の回転軸心周りの回転角位置と撓み量との関係を求めて、特定した創成位置における工具撓み量を算出するように構成してもよい(請求項3)。
【0022】
前記のように切刃の通過軌跡を、工具の回転軸心を中心とする軸対称形状とした場合、好ましいのは、その通過軌跡上の各画素に、工具回転軸心周りの回転角位置および該回転軸心方向の位置の少なくとも一方に応じて値が変化するようにして、所定の画素情報を持たせておくことである(請求項4)。こうすれば、検出した加工面領域の画素情報から容易に創成位置を特定できるし、この創成位置の画素情報から直接的に工具の回転角位置や回転軸心方向の位置を特定することができ、処理の高速化に有利である。
【0023】
なお、切刃の通過軌跡を表す軸対称形状というのは、例えばボールエンドミルであれば近似的に半球面として表すことができるが、これに限るものではなく、切刃の形状により種々の形状が想定される。また、画素情報としては具体的に、RGBAの色情報、デプス、ステンシルインデックスなどが挙げられるが、これらの1つに限らず2つ以上を利用して、前記工具の回転角位置や回転軸心方向位置、或いは工具であることの識別情報などに割り当てればよい。
【0024】
また、好ましいのは、前記描画手段を、まず、加工誤差の予測位置における前記切刃の通過軌跡と、当該位置の直前までの工具掃引体と、前記被削物とを描画し、その後で前記予測位置の直後からの工具掃引体を描き加えるように構成することであり(請求項5)、そうして予測位置以降の工具掃引体が描き加えられる前に描画されている画像において、切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を切刃による切削領域として検出すれば(切削領域検出手段)、この領域を切削する際に工具に作用する切削力を算出することができる(切削力算出手段)。
【0025】
さらに、その場合に好ましいのは、前記の切削領域の情報に基づいて描画手段における視点ないし視野範囲を修正することである(視野修正手段:請求項6)。すなわち、仮に切削領域をその法線に対し斜めに視る場合は、その画素領域が小さくなるので、そのうちで加工面として残る領域はさらに小さくなってしまい、1画素に満たない場合は描画されないこともあり得る。
【0026】
そこで、例えば切削領域が、半球とみなした切刃の通過軌跡の外周付近にある場合のように、かなり斜めに視ていると考えられるときには、その切削領域の法線方向に近づくように視点を移動させることによって画素領域を拡大するか、或いは、視点はそのままでも切削領域に向かって視野を絞り、1画素当たりの面積を縮小して分解能を上げるか、のいずれかの方法で描画手段における視点ないし視野範囲を修正する。こうすれば、加工面の見落としを防止することができるし、加工面創成位置の検出精度の向上にも繋がる。
【0027】
加えて、本発明の加工誤差予測装置には、前記工具の移動経路を分割し、そのうちのいずれか1つの分割経路における工具掃引体と、この分割経路に至るまでの工具掃引体と、前記被削物とを、それぞれ当該被削物の側から工具を望んで描画する第1の副描画手段と、こうして描画された画像において前記分割経路の工具掃引体が手前に表示されている画素領域があれば、この画素領域内に加工誤差の予測位置を設定する一方、手前に表示されている画素領域がなければ該分割経路内には加工誤差の予測位置を設定しない予測位置設定手段と、を備えてもよい(請求項7)。
【0028】
こうすれば、NCデータなどとして設定されている工具経路内に実際には切削を行わない分割経路(パス)が含まれている場合に、これを除いて、実際に切削を行うパスのみについて加工誤差の予測を行うことができる。また、1つのパス内に切削する領域と切削しない領域とが混在している場合に万一、切削しない領域において加工誤差の予測を行うと、計算上は誤差が零になってしまうが、前記のようにすればその心配もない。
【0029】
さらに、前記の切削される領域から、上述した切削領域や加工面の領域の存在し得る範囲を特定できるので、以降の処理においてはその範囲内に存在する工具掃引体、被削物形状のみを描画するようにしてもよく、また、画素情報の読み取りもその領域内でのみ行うようにしてもよい。こうすれば処理のさらなる高速化が図られる。
【0030】
また、そうして工具の経路を分割したパスのそれぞれにおける工具掃引体と、前記被削物とを、該被削物の側から工具を望んで描画する第2の副描画手段を備え、これにより描画された画像において工具掃引体が手前に表示されているパスのそれぞれについて、工具の回転軸心と被削面とがなす角度を推定し、この角度が所定値以下の分割経路に係る加工誤差の予測は禁止するようにしてもよい(請求項8)。
【0031】
これは、工具の回転軸心と被削面の法線とのなす角度が0°に近いときには、切削力によって工具が撓んでも加工誤差への影響は殆どないから、撓みによる誤差の影響は実質、ないものと考えて、前記の角度が所定値(例えば30〜60°)以下のパスについては加工誤差の予測を行わないことによって、処理の高速化を図るものである。
【0032】
請求項9の発明は、上述した請求項1〜8のいずれか1つに記載の加工誤差予測装置によって予測された加工誤差の値に基づいて、加工誤差が小さくなるように工具の移動経路を修正する経路修正手段を備えるものであり、こうして予め工具の移動経路を修正することにより、加工誤差を低減して成形後の修正に要する工数、時間を大幅に削減することができる。
【0033】
また、本発明は、回転する工具による被削物の加工誤差を、コンピュータ装置の3次元グラフィックス機能を利用して予測するためのプログラムが対象であって、前記工具による加工前の被削物の形状、該工具の切刃形状、および該工具の送りによる移動経路の情報を含む、所定データの入力を受け入れるデータ入力ステップと、それら所定データに基づいて、前記工具の移動経路上で加工誤差を予測する位置における前記切刃の通過軌跡、当該位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体、および前記被削物を、それぞれ当該被削物の側から工具を望む所定の視野範囲において描画する描画ステップと、こうして描画した画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として検出する加工面検出ステップと、そうして検出した画素領域から、加工面の創成時に被削物を切削する工具の切刃位置である創成位置を特定し、この創成位置における工具の形状誤差および撓み量の少なくとも一方に基づいて、加工誤差の推定値を算出する加工誤差算出ステップと、を有するものである(請求項10)。
【0034】
このようなコンピュータプログラムを汎用のコンピュータ装置によって実行すれば、このコンピュータ装置が前記請求項1の発明に係る加工誤差予測装置となり、前記した作用が得られる。
【発明の効果】
【0035】
以上、説明したように本発明に係る加工誤差の予測装置などによれば、コンピュータの3次元グラフィックス機能を利用して、被削物を切削する工具の切刃が、加工終了後も残る加工面を創成しているときの位置(創成位置)を特定し、この創成位置における工具の形状誤差や撓み量を高速に算出することができるから、自由曲面をもつ金型などの加工においても誤差を正確に予測することが可能になり、加工条件の検討などに非常に有利である。また、そうして予測した加工誤差に基づいて工具経路を修正することにより、加工誤差を低減して成形後の修正に要する工数、時間を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0037】
(システムの概要)
この実施形態に係る加工誤差予測装置は、汎用のワークステーションの他、一般的なパーソナル・コンピュータなどによって構成することができる。このコンピュータ装置に所要のプログラムをインストールして実行させることにより、例えば金型の切削加工における誤差を高速に予測することができる。図示は省略するが、コンピュータ装置には例えばハードディスクドライブ等の記憶装置が備えられる他に、ディスプレイ等の画像表示装置やキーボード、マウス等の入力デバイスが接続されている。
【0038】
また、この実施形態のコンピュータ装置は、3次元の描画を高速に行うためのグラフィックスハードウエアを備えている。これは例えばGPU(Graphics Processing Unit)と呼ばれ、3次元の多面体形状を高速で描画するためのものであり、そのために必要となる幾何演算のうち、CPU(Central Processing Unit)ではリアルタイムな処理が難しい座標変換、投影、陰面消去、最近点算出などの処理を並列計算する能力を有している。
【0039】
グラフィックスハードウェアは、例えばボード、カード又は他の装置として構成されて、コンピュータ装置に実装されていてもよいし、チップセットに内蔵されていてもよい。また、場合によってはコンピュータ装置とは別体に構成することもできる。こうしたグラフィックスハードウェアの計算機能を切削加工の問題に適用する試みとして、例えば加工結果を高速に描画するためのもの(特開2000−235407号公報を参照)、工具経路を高速に作成するためのもの(特開2001−242919号公報を参照)、および工作機械の干渉判定を行うためのもの(特開2006−244067号公報を参照)などが既に知られている。
【0040】
以下に一例として、NC3軸加工機にボールエンドミルを取り付けて、金型の切削加工を行う場合について説明する。一般的に3軸加工機においては、テーブルなどに固定した被削物をその上部から側部にかけてエンドミルなどの工具によって切削するものであり、工具はその回転軸心、即ち工具軸を上下方向(Z軸方向)に向けて駆動部に取り付け、その下端の切刃の位置決めを、水平面(X−Y平面)を含めた直交3軸について数値制御(NC)によって行う。
【0041】
そうして工具をその移動経路のデータ(NCデータ)に基づいて移動させると、図3や図4を参照して上述したように、経路上の或る位置で工具の1刃送りによって切削された領域の一部が次の1刃送りによって削り取られるとともに、そうして送られる工具の1つの経路における切削領域も、隣接する後の経路における切削によって削り取られることになり、加工終了時に加工面として残る領域はかなり小さくなってしまう。この最終的な加工面の領域は、前記図4に示したように重複する工具経路のうちの最も下側(Z値が最小値)の部位になる。
【0042】
そこで、図5に示すように、NCデータとして設定されている工具経路P(移動経路)上において加工誤差を予測する位置における工具M、即ちその切刃の通過軌跡を、該工具の回転軸心上に中心を有する半球面によって表すとともに、その位置の1刃分送り(送り速度/(工具回転数×刃数))の手前までの工具掃引体T1と、1刃分送り以降の工具掃引体T2と、被削物形状Wとを、それぞれ仮想の多面体として表して、下方(Z軸の負方向)からの所定の視野範囲において描画する。
【0043】
なお、工具はその切刃が1回転する間にも送られるので、厳密には切刃の通過軌跡は半球面ではないともいえる。しかし、一般的に工具径に対してその送り速度は非常に小さいことから、切刃の通過軌跡は近似的に半球面とみなしてよい。
【0044】
また、工具掃引体T1,T2は、工具Mをその回転軸心の周りに回転させながら、工具経路Pに沿って移動させたときの掃引形状を表すもので、図6に示すように半円柱形状と半球形状とを組み合わせて構成する。このとき、多面体化による誤差を小さくするための従来公知の手法(例えば特開2009−020671号公報を参照)が有効である。さらに、被削物形状Wはその下面を除いて、例えばSTLデータのように多数の三角形で近似した多面体として表すことができる。
【0045】
そうして描画する際に工具Mには、工具掃引体T1,T2とも被削物形状Wとも違う色情報(画素情報であり、詳しくは後述する)を与えておく。また、視点は、図示のように全ての工具掃引体T1,T2、被削物形状WよりもZ軸負方向に設定し、視線の方向はZ軸+方向とする。視野の中心は、加工誤差の予測位置における工具Mの回転軸心と一致させ、視野の範囲は縦横共に工具Mの直径とする(図12を参照)。こうして設定された視野範囲Vは、Z軸方向に長い直方体状となる。
【0046】
その視野範囲において描画される画像に表示されるのは、グラフィックハードウェアの陰面消去機能によって最も下側のものだけになるから、この画像において工具Mの色が表示されている画素領域から、加工終了後に残る加工面の範囲を推定することが可能になる。こうして切削領域のうちから最終的な加工面を検出できれば、この加工面の創成点(創成位置)を以下に述べるように特定し、工具軸心との位置関係から工具回転角度(回転角位置)および工具接角度(回転軸心方向の位置)を求めて、これにより工具Mの撓みや形状誤差に起因する加工誤差を算出することができる。
【0047】
−処理の流れ−
図7には、まず、この実施形態における加工誤差予測のための処理の全体的な流れを示す。最初にデータ入力ステップでは、必要なパラメータとして工具種類、工具径、切刃形状などの工具仕様をコンピュータ装置1に入力する。工具の切刃形状は、例えば図8のように工具の下側から見た写真などを用いて同定する。切削力の計算に用いられる切削力係数(比切削抵抗)は、使用する被削物と工具とを用いた切削実験を行い、切削力の測定値と、例えば非特許文献1、2に記載の方法で予測される切削力予測値との誤差が小さくなるように最適化して、同定すればよい。
【0048】
工具撓みを計算するための剛性データについては静剛性或いは動剛性のいずれかを用いるが、動剛性を用いる方が正確な工具撓みを予測することが可能である。動剛性は、例えばインパルスハンマーを用いて工具先端を加振し、これによる工具先端の振動を加速度センサやレーザドップラー振動計などにより測定して、FFT解析装置によりX方向およびY方向の工具のコンプライアンス伝達関数(動剛性の逆数)を得る。
【0049】
また、工具の形状誤差については、実際にそれを回転させながらその回転軸心に直交するいくつかの断面(工具軸断面)において工具径、即ち、切刃の通過軌跡の直径を計測などし、予め理想的な形状とのずれを工具の回転軸心方向の位置(具体的には後述する工具接角度q)に対応付けて記憶したテーブルを作成しておく。或いは、切削力の影響の無視できる樹脂製被削物などの加工を行って、このときの加工誤差を測定することによって形状誤差を同定することもできる。
【0050】
また、被削物(素材)形状データ(CADデータやブロック形状など)とCAMから出力された工具経路(NCデータ)も入力する。工具経路は、多数のパス(行)により構成され、それらは直線移動経路(NCデータのG01)と円弧移動経路(NCデータのG02,G03)とがあるが、以下では直線移動のパスを想定して説明する。円弧移動のパスについては微小直線経路の集合として取り扱うことができる。なお、パスは、特許請求の範囲に記載の分割経路に相当する。
【0051】
この例では加工誤差の予測を行う工程として、加工品質を決定づける仕上げ加工工程を想定している。一般に、仕上げ加工前には中仕上げ加工が行われるため、仕上げ加工における1つのパスにおいては加工状態があまり変化しないと考えられる。そこで、1つのパス内で1箇所の加工誤差の予測を行う方法について説明する。なお、連続するパス同士で角度変化が小さい場合や移動距離が短い場合は、いくつかのパスを1つにまとめてもよいし、反対に移動距離が長い場合にはさらに分割してもよい。
【0052】
そうして所定のデータが入力された後に、工具経路の1つのパス毎(1行毎)に、実際に切削の行われる箇所があるかどうか判断する。これは、1つのパス内でも非切削中と切削中とが混在している場合に、切削中の箇所で加工誤差を予測するためである。具体的には図9(a)に示すように、着目するパスの工具掃引体T0と、それまでの工具掃引体T1と、被削物形状Wとを、それぞれ異なる色でもって下方から描画し、同図(b)に斜線を入れて示すように、着目するパスの工具掃引体T0の色の画素領域があれば、ここを切削される領域と判断する。
【0053】
そうして切削される領域のない場合は、このパスについて以降の処理は行わずリターンして、次のパスについての判断に移る一方、切削される領域があればその内部の所定の1点(例えば重心や中心付近)を加工誤差の予測位置に設定する。こうすれば、1つのパス内に切削する箇所としない箇所とが混在していても、その切削しない箇所において誤って加工誤差の予測を行うような心配はない。
【0054】
また、前記の図9(b)に一例として示したように、描画する視野の横幅を工具直径とし、縦方向はパスの長さとし、工具送り方向を上向きとして描画したときに、図においては前記切削される領域の表示される幅の範囲内に、加工の際の切削領域および加工面の領域が存在することから、以降の処理においてはその範囲内に存在する工具掃引体、被削物形状のみを描画するようにしてもよく、また、色情報の読み取りもその範囲内でのみ行うようにしてもよい。こうすれば処理の高速化が図られる。
【0055】
そして、前記のように設定した加工誤差の予測位置において工具の1刃送りによる切削領域を検出し、この領域を切削する際に工具に作用する切削力を算出する。この切削力と工具の動剛性などから運動方程式を解いて、図2(b)のような工具回転角と工具撓みとの関係を求め、以下に述べるように特定した加工面創成点における工具撓みから加工誤差を算出する。また、加工面創成点における工具形状誤差からも加工誤差を算出する。
【0056】
そのような加工誤差の算出を工具経路の最初のパスから最後のパスまで行い、経路全体の加工誤差の予測結果をディスプレイ上に表示するとともに、この誤差とは反対向きに修正した工具経路を出力する。こうして工具経路を修正することで、加工誤差を補償する工具経路を出力することができ、切削加工の精度が向上する。
【0057】
なお、前記の処理は、コンピュータ装置1において所要のプログラム(加工誤差予測プログラム)が実行されることにより実現されるものであり、その意味でコンピュータ装置1は、特許請求の範囲に記載のデータ入力手段、描画手段、切削領域検出手段、切削力算出手段、加工面検出手段、加工誤差算出手段、第1の副描画手段、予測位置設定手段、および経路修正手段を構成している。
【0058】
(加工誤差の推定)
次に、本発明の特徴とする加工誤差の推定手法について図10に示すフローチャートに沿って、より具体的に説明する。
【0059】
−切削力および工具撓み−
切削力の算出については非特許文献1、2に記載されている手法を用いる。すなわち、まず、図示のフローにおけるスタート後のステップS1では、上述したように入力されるデータを用いて、図11(a)に示すように加工誤差の予測位置における工具Mと、当該位置の1刃分送り前までの工具掃引体T1と、被削物形状Wとを、それぞれ下方から工具Mを望む視野範囲Vにおいて、該工具Mの送り方向を上向きにして描画する。
【0060】
こうして描画した画像は同図(b)のようになる。この例では中央付近に黒塗りで示すように工具Mの色が表示されている画素領域が、この予測位置において工具Mの1刃送りによって切削される領域(切削領域)であり、ステップS2では工具Mの色情報から切削領域を検出する。なお、図(b)の画像の右側に斜線を入れて示す領域は、仕上げ加工を行う前の被削物形状Wを表し、左側の領域は工具掃引体T1によって切削された範囲を表し、それらの境界付近に前記切削領域が位置している。
【0061】
そして、ステップS3では、前記のように検出した切削領域の情報から工具Mに作用する切削力を算出する。すなわち、非特許文献1、2に記載の如く工具の切刃を微小切刃の集合としてモデル化し(図8を参照)、微小回転角度毎に各微小切刃が切削中かどうかを判定し、切削中と判定される場合には切削力係数、切り取り厚さ、切刃長さなどから微小切削力を算出し、これを全ての微小切刃について積算する。この計算を繰り返すことによって1回転中の切削3分力(Fx,Fy,Fz)が得られる。
【0062】
続いて、ステップS4では、前記工具の1回転中の切削力(Fx(t),Fy(t))と、工具の動剛性の逆数であるコンプライアンス伝達関数(Gx(ω),Gy(ω))とから、応答である1回転中の工具撓み(Dx(t),Dy(t))を算出する。運動方程式を解くためには例えばルンゲクッタ法などの数値解析法を用いることができる。なお、一般に応答は自由振動と強制振動との和になるが、切削力が数回転、同じ状態で工具に作用すると仮定すれば強制振動のみを考慮すればよい。
【0063】
このとき、切削力をFFT処理した結果F(ω)と、コンプライアンス伝達関数G(ω)との積とから、工具撓みをFFT処理した結果D(ω)=G(ω)F(ω)を得て、その後、これを逆FFT処理することにより、工具1回転中の工具撓み、即ち工具軸周りの回転角位置(工具回転角度)と撓み量との関係(図2(b)を参照)を高速に算出することができる。
【0064】
−加工面創成点および加工誤差−
そうして切削力を算出する一方で、ステップS5では前記図11の描画結果に対して、加工誤差の予測位置から工具の1刃送り後以降の工具掃引体T2を書き加える(図5を参照)。こうして書き加えた工具掃引体T2によって被削物形状Wの一部が削り取られるとともに、図11(b)に示した切削領域の一部も削除され、それらが陰面消去されることで、描画される画像は図12に示すようになり、工具の色が表示される画素領域は非常に小さくなる。
【0065】
この画素領域が加工終了後に残る加工面を表しており、ステップS6では色情報から加工面を検出する。なお、被削物形状の領域外は考慮しなくてよいので、被削物形状のXY領域内のみ全ての画素の色情報を読み取って、そのうちから工具の色情報を識別する。色情報としては一般的にR,G,B,Aの4つの情報が利用できるので、そのうちの一つ(例えばA)に工具を認識するための情報を与えておけばよい。
【0066】
続いてステップS7では、後述するように視野を修正するどうか判別して、必要があれば(YES)ステップS8にて視野を修正した上で、前記ステップS1,S5のように工具Mやその掃引体T1,T2、被削物形状Wなどを描画して(再描画)前記ステップS6に戻る一方、必要がなければ(NO)ステップS9に進み、前記検出した加工面の情報からこれを切削するときの切刃の位置である加工面創成点を特定して、この創成点における工具回転角度θ、工具接角度qおよび加工面法線ベクトルnを算出する。
【0067】
すなわち、この例では上述したように金型の仕上げ加工を想定しており、仕上げ加工においては所定の表面粗さ以下となるように、細かいピッチで工具経路が作成されるため、加工面として残る画素領域は前記のように非常に小さなものとなる。よって、この画素領域内の或る1点を代表点として、この点を加工する瞬間の工具撓みや工具形状誤差から、加工誤差が決定されると考えることができる。
【0068】
そこで、例えば前記のように検出した加工面の画像領域における座標(X,Y座標)の平均値を創成点とし、図13(a)に示すように、工具先端の切刃の通過軌跡を表す半球面上において、工具回転角度0°の切刃位置から創成点Cまでの工具回転角度θを求めるとともに、この創成点Cから当該半球の中心に向かう線分が工具の回転軸心となす角度である工具接角度qを求める。また、その創成点Cから半球の中心に向かうベクトルが、加工面の法線ベクトルnとなる。
【0069】
それら工具回転角度θや工具接角度qは創成点Cの座標、即ち工具軸との位置関係から計算することもできるが、この実施形態では、工具の画素の色情報、例えばR,Gにそれぞれ工具回転角度θ、工具接角度qの情報を与えておき、コンピュータ装置1のコマンドで画素の色情報を読み取るだけで、直ちにかつ正確に工具回転角度θや工具接角度qが求まるようにしている。
【0070】
すなわち、前記図13(a)には濃淡のグラデーションとして現れているが、この図の下側に示すように、工具を表す半球面上の各画素は、その色情報Rの値が工具回転角度θの変化に応じて徐々に変化する。また、その図の上側に示すように色情報Gの値は、半球の中心から工具軸心に沿って下端に向かうに連れて、つまり工具接角度qの変化に応じて徐々に変化するようになっている。
【0071】
そのため、例えば前記のように検出した加工面の画像領域における各画素の色情報R,Gを読み取り、その平均を求めることによって直ちに、加工面創成点Cにおける工具の回転角度θや接角度qを求めることができる。また、加工面の画像領域における座標(X,Y座標)の平均値を創成点Cとし、この点Cの色情報R,Gから工具の回転角度θや接角度qを求めることもできる。
【0072】
そうして加工面創成点Cにおける工具回転角度θが求まれば、前記ステップS4にて求めた工具回転角度θと撓み量との関係(図2(b)を参照)から創成点での工具撓み量を求め、この工具撓み量と加工面法線ベクトルとから加工面法線方向の加工誤差を算出できる(ステップS10)。具体的には加工面創成点における工具撓みベクトル(並進方向のみ考慮する場合は、(Dx(X方向撓み),Dy(Y方向撓み),0)と加工面法線単位ベクトルとの内積を計算すればよい。
【0073】
並行してステップS11では、前記の工具接角度qにおける工具形状誤差を用いて、これに起因する加工誤差を算出する。これは、前記のように求めた加工面創成点における工具接角度qに対応する工具の形状誤差を、予め測定して記憶してあるテーブルを用いて算出すればよい。
【0074】
なお、この例では前記の如く、工具撓みや工具形状誤差を加工面における創成点1点の情報から算出しているが、実際に加工面を切削しているときの工具回転角度θや工具接角度qは或る範囲を持っているから、この角度毎に加工誤差を算出してもよいし、この範囲内での最大値、或いは平均値などから加工誤差を算出してもよい。つまり、工具撓みなどを算出するために特定する加工面創成位置は1点に限るものでなく、或る程度の広さを持った範囲であってもよい。
【0075】
−視野の修正−
次に、前記ステップS8における視野の修正について具体的に説明する。これは一例として、前記ステップS5において工具掃引体T2を書き加えたときに画像に工具Mの色が表示されないときの対応方法である。工具Mの色が表示されないのは、最終的に加工面として残る箇所がない場合と、その箇所が描画の際の1画素に満たない場合とがある。すなわち、この例のように下方から視ると、被削物の側壁などを加工している場合には加工面をその法線に対し斜めに視ることになるから、加工面として残る箇所があってもその画素領域が非常に小さくなってしまい、1画素に満たないこともあるのである。
【0076】
このような場合の対応方法として、加工誤差の予測に先立つ切削領域の検出結果(ステップS2)を利用する。すなわち、上述したように最終的に加工面として残る箇所は切削領域に含まれており、この切削領域は加工面の領域に比べて広いので、これが表示されないことは考えなくてよい。そこで、図14に模式的に示すように、切削領域があるにも拘わらず加工面が表示されないときには、その切削領域の法線方向に近づくように視点を移動させ、図のように横から視て画像を描画することにより、加工面の画素領域を拡大する。
【0077】
或いは、視点はそのままでも切削領域に向かって視野を絞り、1画素当たりの面積を縮小して分解能を上げることにより、言い換えると切削領域を拡大して描画することによって加工面が表示されるようにする。これらのいずれかの手法で視点ないし視野範囲を修正することによって、加工面の見落としを防止できる。
【0078】
なお、工具接角度qが大きくなれば、加工面が表示されていてもその画素数は少なくなるので、計算誤差が大きくなるとも考えられる。そこで、Z軸負方向からの画像において工具(切刃の通過軌跡)の外周付近に切削領域があり、工具接角度qが大きいと考えられる場合(例えば60°を超える場合)には、加工面が見える見えないに拘わらず、前記と同様に視点を変更したり拡大して表示したりすることで、より高精度な算出を行える。
【0079】
前記した図10のフローのステップS1およびS5は、工具経路上の加工誤差予測位置における工具M(切刃の通過軌跡)と、当該位置の1刃分送り前および1刃分送り後を含む所定範囲の工具掃引体T1,T2と、被削物形状Wとを、それぞれ下方からの視野範囲Vにおいて描画する描画ステップに相当する。この例ではステップS1において、加工誤差の予測位置における工具Mと、その手前までの工具掃引体T1と、被削物形状Wとを描画し、その後のステップS5において予測位置以降の工具掃引体T2を描き加えるようにしている。
【0080】
ステップS2は、そうして予測位置以降の工具掃引体T2が描き加えられる前の画像平面において工具Mが表示されている画素領域を、切削領域として検出する切削領域検出ステップに相当し、ステップS3は、その切削領域の情報から工具に作用する切削力を算出する切削力算出ステップに相当する。
【0081】
また、ステップS6は、前記ステップS5において工具掃引体T2が描き加えられた後に画像平面において工具Mが表示されている画素領域を、加工終了後も残る加工面として検出する加工面検出ステップに相当し、ステップS9〜S11は、その加工面の創成点を特定して、ここにおける工具の形状誤差や撓み量から加工誤差を推定演算する加工誤差算出ステップに相当する。
【0082】
さらに、ステップS8は、前記ステップS2にて検出した切削領域の情報に基づいて、画像を再描画する際の視点ないし視野範囲を修正するステップであり、このステップを実行することでコンピュータ装置1は、特許請求の範囲に記載の視野修正手段も構成することになる。
【0083】
(工具経路の修正)
最後に工具経路の修正について簡単に述べる。NCデータにおいて工具経路は通常、X,Y,Zの直交座標系の多数の構成点を結ぶ直線、或いは円弧によって指定されており、上述したように予測した加工誤差と反対の向きに構成点を移動させれば、工具経路を適切に修正することができる。すなわち、この実施形態において加工誤差は、工具経路を構成する多数のパスのそれぞれについて算出しており、図15に示すように、修正する構成点はその前後のパスの交点であるから、前後2つのパスにおける加工誤差の予測結果を用いて構成点を修正すればよい。
【0084】
具体的には、まず、前後2つのパスのそれぞれで、加工誤差の大きさ(正負有り)を有し加工面法線方向の加工誤差ベクトルE(i),E(j)を考え、この加工誤差ベクトルE(i),E(j)と大きさが等しく、逆向きの修正基準ベクトルE'(i),E'(j)を算出する。そして、それらの和の向きに修正ベクトルE'(i+j)の向きを設定する。この修正ベクトルE'(i+j)の大きさは、修正による前後2つのパスの移動と各々の修正基準ベクトルE'(i),E'(j)との差ができるだけ小さくなるように決定すればよい。なお、円弧移動経路の場合は、直線移動工具経路の集合としてこれらの計算を行い、最小2乗法などを用いて修正円弧を求めることにより、修正することができる。
【0085】
(作用効果)
以上、説明したように、この実施形態に係る加工誤差の予測装置によると、コンピュータ装置1の3次元グラフィックス機能を利用して、被削物形状Wおよびこれを切削する工具Mと、この工具Mの掃引体T1,T2とを、それぞれ下方からの視野範囲Vにおいて描画し、この描画された画像において工具Mが手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として高速に検出することができる。
【0086】
そして、その加工面の領域において創成時の工具の切刃位置である創成点Cを特定し、この創成点Cにおける工具の形状誤差や撓み量に基づいて、加工誤差の推定値を正確に算出することができる。よって、自由曲面をもつ金型などの加工においても誤差を正確に予測することが可能になり、加工条件の検討などに非常に有利である。
【0087】
また、そうして予測した加工誤差に基づいて工具経路を修正すれば、加工誤差を低減して成形後の修正に要する工数、時間を大幅に削減することができる。
【0088】
特にこの実施形態では、前記のように描画する工具M(切刃の通過軌跡)を半球面とし、その半球面上の各画素には、工具回転角度θおよび工具接角度qによって徐々に値が変化するようにして色情報R,Gを持たせているから、前記のように特定した創成点Cの色情報を読み込めば直接的に、工具回転角度θおよび工具接角度qを算出することができる。
【0089】
また、前記のように加工誤差を予測する位置における工具Mと、この予測位置までの工具掃引体T1とを先に描画して、予測位置以降の工具掃引体T2を描画する前の画像から、前記と同様にして予測位置における切削領域を検出し、これに基づいて切削力を算出するようにしており、この切削力の算出も高速に行うことができる。
【0090】
しかも、そうして切削領域を求めた後に工具掃引体T2を書き加えた画像から、前記のように加工面の検出を行うようにしているので、切削力の算出のための描画結果を加工誤差の予測に利用して、処理時間を短縮することができる。
【0091】
−実施例−
以下に、この実施形態の予測装置を用いて実際に、切削加工の誤差を予測した例について説明する。実施したのは、図16に示すような円筒面の等高線加工であり、図の右側には工具・被削材、および切削条件を記す。なお、円筒面のような数学的に定められる形状の加工においては理論的に工具回転角度や工具接角度を求めることができるため、計算結果の検証を行うことができる。円筒面の加工では、ボールエンドミルの中心座標値と円筒面中心軸とを結ぶ直線と、円筒面形状との交点が加工面創成点となる。
【0092】
図17には、Z軸負方向からの描画により、工具回転角度θおよび工具接角度qを算出した値の理論値との差を示す。工具接角度が87.6°以上では、工具が表示されず、算出できていない。また、60°を超えるあたりから誤差が大きくなっている。一方、図18には、Z軸負方向からの描画において工具接角度が60°以上と推定される場合に、視点を変更して算出した結果を示す。視点を変更することにより全ての値を求めることができ、また、計算誤差が小さくなることが確認できた。
【0093】
図19には、この実施形態の予測方法を用いて加工誤差を予測した結果と、加工後の形状を3次元測定機で測定した結果とを対比して示す。予測値と測定値とはよく一致している。また、誤差予測結果に基づき工具経路を修正した場合と、修正しない場合との加工誤差の測定結果を図20に示す。加工誤差予測に基づく工具経路の修正により、加工誤差を低減できることを確認した。
【0094】
次に、この実施形態の予測手法を、中仕上げ工程99768パス、および、仕上げ工程286463パスから成る実金型モデルの仕上げ工程の加工誤差予測に適用した。まず、仕上げ工程の各パスに対して切削領域を判断し、切削領域内に誤差予測位置を設定する。そして、その位置で切削力算出を行い、その後、加工面として残る箇所の計算を行い、工具撓みに起因する加工誤差の予測を行った。なお、描画の解像度は512×512とした。使用したパソコンの仕様は、CPUが Intel製 Core2Duo 3GHzであり、メモリは2GBで、GPUは nVIDIA製の GeForce8800GTS である。図21に計算時間および加工誤差予測結果を示す。自由曲面をもつ大規模な金型モデルに対して、1パス当り0.070秒で加工誤差予測を行うことができた。
【0095】
また、この実施形態の予測手法と従来の手法(ソフトウェア処理)とを比較するために、工具形状誤差に起因する加工誤差の予測を行った。工具形状誤差に起因する加工誤差としたのは、切削力や工具撓みなどの計算を除き、加工面として残る箇所の計算時間を比較するためである。予測位置は直線工具経路の中点の位置に固定し、加工面創成点の工具接角度を計算して、工具接角度に基づき加工誤差を算出する。加工面創成点の工具接角度の計算のみ、ソフトウェア処理または実施形態に係るグラフィックスハードウェア処理のいずれかとした。
【0096】
誤差予測の対象は2種類とし、前記の円筒面加工の工具直径20mmの仕上げ工程(図22(a))と、前記の実金型モデルの工具直径30mm(図21のNCデータ5)の工程(同図(b))とした。ソフトウェア処理の場合は、加工誤差を予測する位置の工具(球)をX−Y平面に投影した円の領域内に、工具直径を512分割した格子点を設定する。そして、各格子点からZ軸正方向への直線と工具(球)との交点を算出し、交点と格子点との距離を算出する。同様に全ての工具掃引体(円柱、球)との距離を計算し、工具との距離よりも、全ての工具掃引体との距離が大きい場合、即ち工具が最も下側にある場合に、その位置が加工面として残ると判断する。工具より1つでも距離の小さい工具掃引体が見つかれば、その位置は加工面とし残らないと判断する。
【0097】
なお、計算時間をなるべく短くするように、上記の半直線と工具掃引体との干渉の可能性をまず判断し、可能性のある工具掃引体のみに対して距離計算を行った。使用したパソコンの仕様は前項と同様である。計算は、円筒面加工については809パス全てを行い、実金型モデルについては工具経路125824パスのうち、1000パス毎の128点について実施した。計算時間は同図(c)のようになり、円筒加工で8.9倍に、また、実金型モデルの加工では110.8倍の高速化がなされている。よって、本発明の加工誤差予測方法は大規模工具経路を持つ実際の金型加工において、より効果を発揮するものと言える。
【0098】
(他の実施形態)
本発明に係る加工誤差の予測の具体的な手法は前記実施形態のものに限定されず、例えば加工誤差の予測は金型の仕上げ加工工程に限らず、荒加工工程や中仕上げ加工工程にも適用できる。その場合は、1つの直線移動経路中の加工状態を判断して、加工状態によって予測箇所を増やすようにしてもよい。勿論、金型以外の種々の切削加工に適用することもできる。
【0099】
また、工具の画素に持たせる情報は工具回転角度θ、工具接角度qに限らず、別の形式の座標情報でもよい。一例として色情報Rに工具接角度qを持たせる一方、GにはX座標、BにはY座標としてもよい。さらに、色情報ではなく他の画素情報も利用可能である。
【0100】
また、前記の実施形態では、図5を参照して上述したように、加工誤差を予測する位置の工具Mと被削物形状Wとの他に、その予測位置の1刃送り手前までの工具掃引体T1と、1刃送り後以降の工具掃引体T2とを描画するようにしており、これが基本であるが、工具掃引体T1,T2は、例えば2〜3刃送り手前までのものや2〜3刃送り以降のものとしてもよい。
【0101】
さらに、前記の実施形態では、加工に用いる工具として主にボールエンドミルを想定して説明しており、この場合は切刃の通過軌跡を近似的に半球面で表すことになるが、勿論、ボールエンドミル以外の回転工具(例えばラジアスエンドミル、スクエアエンドミルなど)も想定される。この場合に、切刃の通過軌跡はその形状に応じた種々の形状に近似されるが、いずれも工具の回転軸心を中心とする軸対称形状となる。また、当然ながら、工具掃引体も工具の形状に応じて構成される。
【0102】
さらにまた、前記の実施形態では工具経路の多数のパスについてそれぞれ加工誤差の予測を行うようにしているが、一般に金型の加工では大規模な工具経路データが使用されることから、その全てに対して加工誤差の予測を行うと時間がかかり過ぎるきらいがある。そこで、加工誤差が小さく、工具経路の修正が必要ない箇所については予め除外しておくことが望ましい。
【0103】
すなわち、工具撓みに起因する加工誤差は一般に、工具接角度の大きいときほど大きくなり、工具接角度が0°に近いとき(即ち工具軸と被削面の法線とのなす角度が0°に近いとき)には、切削力によって工具が撓んでも、加工誤差には殆ど影響しないと考えられる。
【0104】
そこで、図23に模式的に示すように、加工誤差の予測に先立って全ての工具掃引体を工具軸からの角度および工具経路の行番号によって色情報を変えて、被削物形状とともに下方からの視点で陰面消去して描画する(第2の副描画手段に対応)。こうして描画された画像は、全ての工具の移動が完了し終わった後の形状となり、この状態で被削物形状のXY領域内の画素の色情報を読み取ることによって、最終的に加工面となる工具掃引体の行番号と、そのときの工具軸からの角度とを検出することができる。
【0105】
よって、前記各工具掃引体の番号毎に、工具軸からの角度の最大値である工具接角度の最大値を算出し、この最大値が所定値(例えば30〜60°)以下の工具掃引体を加工誤差予測箇所から除外すること(即ち、このパスについての加工誤差予測を禁止すること)によって、処理の高速化が図られる。
【0106】
なお、前記の描画の際の視野の範囲は、工具径や加工条件から、加工面として残されると予想される長さなどに応じて決定すればよい。また、工具接角度が大きいと予想される箇所については拡大して算出してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】CAMから出力される工具経路、および加工誤差の説明図。
【図2】工具1回転中の切削力、および工具撓みの説明図。
【図3】加工面として残る箇所を上から視た説明図。
【図4】加工面として残る箇所を側方から視た説明図。
【図5】加工面として残る領域を検出するための描画方法の説明図。
【図6】工具掃引体の説明図。
【図7】本発明に係る加工誤差の予測の全体的な流れを示す概要図。
【図8】切刃形状のモデル化の説明図。
【図9】パス毎に切削される領域があるかどうか判断する方法の説明図。
【図10】加工誤差の予測の具体的な手順のフローチャート図。
【図11】切削領域を検出するための描画方法の説明図。
【図12】描画された画像に表示される最終的な加工面の説明図。
【図13】加工面創成点における工具接角度と工具回転角度の説明図。
【図14】視点の変更方法の説明図。
【図15】工具経路の修正方法の説明図。
【図16】実施例の実験方法の説明図。
【図17】算出した工具接角度と工具回転角度の理論値との比較図。
【図18】視点を変更した場合の図17相当図。
【図19】加工誤差の予測値と測定値との比較図。
【図20】工具経路の修正の有無による加工誤差測定値の比較図。
【図21】実金型モデルにおける加工誤差の予測時間および予測結果の説明図。
【図22】実施例の予測手法をソフトウェア処理と比較した結果の表。
【図23】加工誤差を予測する工具経路の選定方法の説明図。
【符号の説明】
【0108】
M 工具の画像(切刃の通過軌跡)
P 工具経路
T0〜T2 工具掃引体
W 被削物形状
1 コンピュータ装置(データ入力手段、描画手段、切削領域検出手段、切削 力算出手段、加工面検出手段、加工誤差算出手段、第1および第2の副描 画手段、予測位置設定手段、経路修正手段、視野修正手段)
S1,S5 描画ステップ
S2 切削領域検出ステップ
S3 切削力算出ステップ
S6 加工面検出ステップ
S4,9〜S11 加工誤差算出ステップ
S8 視野修正ステップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工の際の誤差の予測に関し、特に工具の形状誤差や撓みに起因する加工誤差をコンピュータ装置の3次元グラフィックス機能を利用して予測する技術に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より一般に、プレス製品などの製造に用いられる金型は、CAM(Computer Aided Manufacturing)から出力された工具の移動経路のデータ(NCデータ)に基づいて回転工具を移動させ、被削物を加工することによって製作されている。CAMは、例えばボールエンドミルのような工具の種類やその直径などの工具情報と送りピッチなどの加工条件とに基づいて、目標形状であるCAD(Computer Aided Design)のモデル形状に正確に工具を沿わせるように、その経路を出力する(仕上げ加工の場合)。
【0003】
しかしながら、実際の加工中には切削力による工具の撓みが発生し、また、工具にはそれ自体に寸法誤差があるとともに工作機械の回転軸に取り付ける際の誤差もあるから、図1に模式的に示すようにCADモデル形状に対して誤差(加工誤差)を生じることは避けられない。このため、通常は切削加工後の金型において加工誤差の大きい部分を手作業で修正しなくてはならず、この修正と計測の繰り返しに多大な工数、時間が費やされている。
【0004】
この切削力による工具撓みの問題に対し、NCデータを修正することによって解消しようとする取り組みがある。最も基本的なものとしては単位時間当りの切削体積などを計算し、その切削体積に基づいて送り速度を変更することにより、切削体積の変動を抑えるというものがあるが、切削体積を小さくするためには、工具の送り速度を小さくする必要が生じ、能率が低下する。また、送り速度を小さくしても工具の撓みは発生するから、加工誤差を本質的に解決するものではない。さらに、金型加工では一般にボールエンドミルが用いられるが、ボールエンドミル加工では工具1回転中に切削力の方向や大きさが変化するため、除去体積から工具撓み量を正確に推定することは困難であった。
【0005】
そこで、工具の撓みを事前に算出し、撓みに起因する加工誤差を打ち消すように工具経路の座標値を変更するという技術も提案されている(特許文献1、2、3を参照)。すなわち、特許文献1においては構造計算ソフトウェアを用いて切削力、工具撓みを算出するとしているが、構造計算ソフトウェアを用いて切削力、工具撓みを算出するには多大な時間を要するため、金型をはじめとする大規模かつ複雑な形状をもつ製品を創成する切削工程に対して実用的な時間内に処理を実施することは難しい。
【0006】
一方、特許文献2においては切削点でのSN(Surface Nominal)と工作機械のDSM(Dynamic Stiffness Matrix)、切削力などに基づいて撓みを算出するとしているが、この文献には切削力や工具撓みに起因する加工誤差の算出方法については記載されていない。また、特許文献3においては加工面の法線ベクトルと切削条件とから、経験則やデータベースに基づいた演算式により補正量を算出するとしているが、この演算式を作成するためには加工面と工具の回転軸心との相対姿勢毎に膨大な実験および評価が必要になる。
【0007】
これらの点を考慮して本願の発明者らは、自由曲面を持つ複雑形状の加工において、工具の切込み状態を高速に判定し、切削力を予測する手法を提案している(非特許文献1、2を参照)。これは、コンピュータ装置の3次元グラフィックス機能を利用して、工具の切込み状態を判定することにより、任意の工具位置における工具1回転中の切削3分力を高速に予測するものである。この方法で算出された切削力と工具の剛性とから、工具の1回転中の撓み量を算出することができる。
【特許文献1】特開2002−126834号公報
【特許文献2】特開2004−174620号公報
【特許文献3】特開2005−144620号公報
【非特許文献1】2007年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集pp67
【非特許文献2】2008年度精密工学会愛媛地方学術講演会講演論文集pp45
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、例えばボールエンドミルのような工具はそれ自体が振動的な振る舞いを示すことから、図2(a)に一例を示すようにパルス状の切削力を受けるときであっても、同図(b)のように回転角度に応じて撓み量は大きく変動する。このため、工具の1回転中若しくは1刃送りの間の切削力を算出して、これによる平均的な撓み量を求めるだけでは不十分であり、この撓みに起因する加工誤差を高精度に予測するためには、工具の1回転中のどの時点の撓み量から加工誤差を算出するかが極めて重要になる。
【0009】
詳しくは、まず、図3にはボールエンドミルを用いて側面加工を行っている様子を、回転軸心に沿って上方から視た模式図で示している。工具が1回転する間に、その切刃は、被削物に食いついて離れることにより切削加工を行うのであるが、こうして切削された領域(切削領域)の一部は次の工具の回転によって削り取られるので、切削領域の全てが加工面として残るわけではない。
【0010】
また、図4には曲面をボールエンドミルで加工する様子を側方視で示しており、最初に図の左側において工具が紙面の手前側から奥側(Y軸+方向)へ送られ、その後、右側(X軸+方向)へピックフィードされて再び紙面奥行き方向へ送られる、というように紙面に垂直な方向への直線移動が繰り返されるとする。この場合、1つの経路において切削された領域の一部はその次の経路において削り取られることになり、最終的に加工面として残る領域は一部分に過ぎない。
【0011】
すなわち、前記のように1回転中に変動する工具撓みのうち、加工誤差へ影響するのは最終的に加工面として残る領域を切削しているとき、即ち加工面を創成するときのものだけであり、加工誤差を予測するためには、そのときに切刃のどの位置(回転角位置)が被削物と接触しているかを知る必要がある。しかしながら、自由曲面などの複雑な形状を有する金型の加工においては、工具経路データを用いて任意の工具位置における加工面創成時の工具回転角を通常の幾何計算により求めることは、膨大な時間を必要とし現実的とは言い難い。
【0012】
さらに、加工誤差の要因としては前記の工具撓みの他に、工具を工作機械に取り付けた状態で回転させたときの形状誤差もある。すなわち、CAMは、使用するボールエンドミルの半径の半球を用いて切刃の通過軌跡を表し、工具経路を作成するが、実際の工具にはそれ自体に寸法誤差があるとともに工作機械の回転軸に取り付ける際の芯ずれもあり、さらに、実際の加工中にはアンバランスのために回転する切刃の通過軌跡が理想的な形状から乖離するからである。
【0013】
この点について、工具を回転させた状態でその回転軸心に直交するいくつかの断面(工具軸断面)における切刃の外径、即ち工具径を計測することなどによって、形状誤差を測定することは可能であるが、こうして測定したデータを用いて形状誤差による加工誤差を算出するためには、創成時に切刃がどの工具軸断面において被削物と接触しているかを知る必要があり、このことを通常の幾何計算によって行うことも現実的ではない。
【0014】
これらの要因のため従来、工具の形状誤差や撓みに起因する加工誤差を実用的な時間内で予測できるものは見当たらないのが実状であり、このことが可能な予測装置を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成すべく本発明では、コンピュータ装置の3次元グラフィックス機能を利用し、加工終了後に加工面として残る部位を切削している工具の切刃位置、例えばボールエンドミルであればその切刃の工具回転軸心周りの回転角位置や該回転軸心方向の位置などを算出するようにしたものである。
【0016】
具体的に請求項1の発明は、回転する工具による被削物の加工誤差を予測するための装置を対象として、その工具による加工前の被削物の形状、該工具の切刃形状およびその送りによる移動経路の情報を含む、所定データの入力を受け入れるデータ入力手段と、それら所定データに基づいて、前記工具の移動経路上で加工誤差を予測する位置における前記切刃の通過軌跡、当該位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体、および前記被削物を、それぞれ当該被削物の側から工具を望む所定の視野範囲において描画する描画手段と、こうして描画された画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として検出する加工面検出手段と、そうして検出された画素領域から、加工面の創成時に被削物を切削する切刃の位置である創成位置を特定し、この創成位置における工具の形状誤差および撓み量の少なくとも一方に基づいて加工誤差の推定値を算出する加工誤差算出手段と、を備えるものである。
【0017】
前記構成の加工誤差予測装置に被削物や工具の仕様、その経路など所定のデータを入力すると、加工誤差の予測位置における切刃の通過軌跡と、当該位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体と、前記被削物とが、それぞれ描画手段によって該被削物の側から工具を望む所定の視野範囲において描画される。なお、加工誤差の予測位置の直前、直後というのは厳密には、工具の回転による切刃の1刃分送り前、1刃分送り後ということになるが、これに限るものではなく、それぞれ2〜3刃送り以内の範囲を想定しており、この範囲であればほぼ同様の結果が得られる。
【0018】
また、前記の描画手段としては、例えば3次元の多面体形状をディスプレイ上に描画するためのグラフィックスハードウェアを利用することができ、こうすれば、必要となる幾何演算のうち、CPU(Central Processing Unit)ではリアルタイム処理の難しい座標変換、投影、陰面消去、最近点算出などの処理を高速に行うことができて、大幅な描画速度の向上が実現する。
【0019】
そして、前記のように描画された画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域から、加工終了後に残る加工面の範囲を推定することが可能である。そこで、この画素領域が加工面検出手段によって検出されれば、この加工面を切削するときの工具の切刃位置(加工面創成位置)を特定し、例えばボールエンドミルであればその回転軸心との位置関係から、創成位置の工具回転軸心周りの回転角位置や該回転軸心方向の位置などを算出することができ、これに基づいて創成位置における工具の形状誤差や撓みに起因する加工誤差を推定できる。
【0020】
より具体的には、例えば上述したように工具を回転させた状態で、その回転軸心に直交するいくつかの断面(工具軸断面)において工具径、即ち、切刃の通過軌跡の外径を計測などして、予め理想形状とのずれ(形状誤差)を工具の回転軸心方向の位置に対応付けて記憶したテーブルを作成しておき、前記加工誤差算出手段は、特定した創成位置における工具の形状誤差を前記テーブルを用いて算出するものとすればよい(請求項2)。
【0021】
また、前記加工誤差算出手段は、加工誤差の予測位置における切削力の大きさと工具の剛性(動剛性が好ましい)とから、当該工具の回転軸心周りの回転角位置と撓み量との関係を求めて、特定した創成位置における工具撓み量を算出するように構成してもよい(請求項3)。
【0022】
前記のように切刃の通過軌跡を、工具の回転軸心を中心とする軸対称形状とした場合、好ましいのは、その通過軌跡上の各画素に、工具回転軸心周りの回転角位置および該回転軸心方向の位置の少なくとも一方に応じて値が変化するようにして、所定の画素情報を持たせておくことである(請求項4)。こうすれば、検出した加工面領域の画素情報から容易に創成位置を特定できるし、この創成位置の画素情報から直接的に工具の回転角位置や回転軸心方向の位置を特定することができ、処理の高速化に有利である。
【0023】
なお、切刃の通過軌跡を表す軸対称形状というのは、例えばボールエンドミルであれば近似的に半球面として表すことができるが、これに限るものではなく、切刃の形状により種々の形状が想定される。また、画素情報としては具体的に、RGBAの色情報、デプス、ステンシルインデックスなどが挙げられるが、これらの1つに限らず2つ以上を利用して、前記工具の回転角位置や回転軸心方向位置、或いは工具であることの識別情報などに割り当てればよい。
【0024】
また、好ましいのは、前記描画手段を、まず、加工誤差の予測位置における前記切刃の通過軌跡と、当該位置の直前までの工具掃引体と、前記被削物とを描画し、その後で前記予測位置の直後からの工具掃引体を描き加えるように構成することであり(請求項5)、そうして予測位置以降の工具掃引体が描き加えられる前に描画されている画像において、切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を切刃による切削領域として検出すれば(切削領域検出手段)、この領域を切削する際に工具に作用する切削力を算出することができる(切削力算出手段)。
【0025】
さらに、その場合に好ましいのは、前記の切削領域の情報に基づいて描画手段における視点ないし視野範囲を修正することである(視野修正手段:請求項6)。すなわち、仮に切削領域をその法線に対し斜めに視る場合は、その画素領域が小さくなるので、そのうちで加工面として残る領域はさらに小さくなってしまい、1画素に満たない場合は描画されないこともあり得る。
【0026】
そこで、例えば切削領域が、半球とみなした切刃の通過軌跡の外周付近にある場合のように、かなり斜めに視ていると考えられるときには、その切削領域の法線方向に近づくように視点を移動させることによって画素領域を拡大するか、或いは、視点はそのままでも切削領域に向かって視野を絞り、1画素当たりの面積を縮小して分解能を上げるか、のいずれかの方法で描画手段における視点ないし視野範囲を修正する。こうすれば、加工面の見落としを防止することができるし、加工面創成位置の検出精度の向上にも繋がる。
【0027】
加えて、本発明の加工誤差予測装置には、前記工具の移動経路を分割し、そのうちのいずれか1つの分割経路における工具掃引体と、この分割経路に至るまでの工具掃引体と、前記被削物とを、それぞれ当該被削物の側から工具を望んで描画する第1の副描画手段と、こうして描画された画像において前記分割経路の工具掃引体が手前に表示されている画素領域があれば、この画素領域内に加工誤差の予測位置を設定する一方、手前に表示されている画素領域がなければ該分割経路内には加工誤差の予測位置を設定しない予測位置設定手段と、を備えてもよい(請求項7)。
【0028】
こうすれば、NCデータなどとして設定されている工具経路内に実際には切削を行わない分割経路(パス)が含まれている場合に、これを除いて、実際に切削を行うパスのみについて加工誤差の予測を行うことができる。また、1つのパス内に切削する領域と切削しない領域とが混在している場合に万一、切削しない領域において加工誤差の予測を行うと、計算上は誤差が零になってしまうが、前記のようにすればその心配もない。
【0029】
さらに、前記の切削される領域から、上述した切削領域や加工面の領域の存在し得る範囲を特定できるので、以降の処理においてはその範囲内に存在する工具掃引体、被削物形状のみを描画するようにしてもよく、また、画素情報の読み取りもその領域内でのみ行うようにしてもよい。こうすれば処理のさらなる高速化が図られる。
【0030】
また、そうして工具の経路を分割したパスのそれぞれにおける工具掃引体と、前記被削物とを、該被削物の側から工具を望んで描画する第2の副描画手段を備え、これにより描画された画像において工具掃引体が手前に表示されているパスのそれぞれについて、工具の回転軸心と被削面とがなす角度を推定し、この角度が所定値以下の分割経路に係る加工誤差の予測は禁止するようにしてもよい(請求項8)。
【0031】
これは、工具の回転軸心と被削面の法線とのなす角度が0°に近いときには、切削力によって工具が撓んでも加工誤差への影響は殆どないから、撓みによる誤差の影響は実質、ないものと考えて、前記の角度が所定値(例えば30〜60°)以下のパスについては加工誤差の予測を行わないことによって、処理の高速化を図るものである。
【0032】
請求項9の発明は、上述した請求項1〜8のいずれか1つに記載の加工誤差予測装置によって予測された加工誤差の値に基づいて、加工誤差が小さくなるように工具の移動経路を修正する経路修正手段を備えるものであり、こうして予め工具の移動経路を修正することにより、加工誤差を低減して成形後の修正に要する工数、時間を大幅に削減することができる。
【0033】
また、本発明は、回転する工具による被削物の加工誤差を、コンピュータ装置の3次元グラフィックス機能を利用して予測するためのプログラムが対象であって、前記工具による加工前の被削物の形状、該工具の切刃形状、および該工具の送りによる移動経路の情報を含む、所定データの入力を受け入れるデータ入力ステップと、それら所定データに基づいて、前記工具の移動経路上で加工誤差を予測する位置における前記切刃の通過軌跡、当該位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体、および前記被削物を、それぞれ当該被削物の側から工具を望む所定の視野範囲において描画する描画ステップと、こうして描画した画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として検出する加工面検出ステップと、そうして検出した画素領域から、加工面の創成時に被削物を切削する工具の切刃位置である創成位置を特定し、この創成位置における工具の形状誤差および撓み量の少なくとも一方に基づいて、加工誤差の推定値を算出する加工誤差算出ステップと、を有するものである(請求項10)。
【0034】
このようなコンピュータプログラムを汎用のコンピュータ装置によって実行すれば、このコンピュータ装置が前記請求項1の発明に係る加工誤差予測装置となり、前記した作用が得られる。
【発明の効果】
【0035】
以上、説明したように本発明に係る加工誤差の予測装置などによれば、コンピュータの3次元グラフィックス機能を利用して、被削物を切削する工具の切刃が、加工終了後も残る加工面を創成しているときの位置(創成位置)を特定し、この創成位置における工具の形状誤差や撓み量を高速に算出することができるから、自由曲面をもつ金型などの加工においても誤差を正確に予測することが可能になり、加工条件の検討などに非常に有利である。また、そうして予測した加工誤差に基づいて工具経路を修正することにより、加工誤差を低減して成形後の修正に要する工数、時間を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0037】
(システムの概要)
この実施形態に係る加工誤差予測装置は、汎用のワークステーションの他、一般的なパーソナル・コンピュータなどによって構成することができる。このコンピュータ装置に所要のプログラムをインストールして実行させることにより、例えば金型の切削加工における誤差を高速に予測することができる。図示は省略するが、コンピュータ装置には例えばハードディスクドライブ等の記憶装置が備えられる他に、ディスプレイ等の画像表示装置やキーボード、マウス等の入力デバイスが接続されている。
【0038】
また、この実施形態のコンピュータ装置は、3次元の描画を高速に行うためのグラフィックスハードウエアを備えている。これは例えばGPU(Graphics Processing Unit)と呼ばれ、3次元の多面体形状を高速で描画するためのものであり、そのために必要となる幾何演算のうち、CPU(Central Processing Unit)ではリアルタイムな処理が難しい座標変換、投影、陰面消去、最近点算出などの処理を並列計算する能力を有している。
【0039】
グラフィックスハードウェアは、例えばボード、カード又は他の装置として構成されて、コンピュータ装置に実装されていてもよいし、チップセットに内蔵されていてもよい。また、場合によってはコンピュータ装置とは別体に構成することもできる。こうしたグラフィックスハードウェアの計算機能を切削加工の問題に適用する試みとして、例えば加工結果を高速に描画するためのもの(特開2000−235407号公報を参照)、工具経路を高速に作成するためのもの(特開2001−242919号公報を参照)、および工作機械の干渉判定を行うためのもの(特開2006−244067号公報を参照)などが既に知られている。
【0040】
以下に一例として、NC3軸加工機にボールエンドミルを取り付けて、金型の切削加工を行う場合について説明する。一般的に3軸加工機においては、テーブルなどに固定した被削物をその上部から側部にかけてエンドミルなどの工具によって切削するものであり、工具はその回転軸心、即ち工具軸を上下方向(Z軸方向)に向けて駆動部に取り付け、その下端の切刃の位置決めを、水平面(X−Y平面)を含めた直交3軸について数値制御(NC)によって行う。
【0041】
そうして工具をその移動経路のデータ(NCデータ)に基づいて移動させると、図3や図4を参照して上述したように、経路上の或る位置で工具の1刃送りによって切削された領域の一部が次の1刃送りによって削り取られるとともに、そうして送られる工具の1つの経路における切削領域も、隣接する後の経路における切削によって削り取られることになり、加工終了時に加工面として残る領域はかなり小さくなってしまう。この最終的な加工面の領域は、前記図4に示したように重複する工具経路のうちの最も下側(Z値が最小値)の部位になる。
【0042】
そこで、図5に示すように、NCデータとして設定されている工具経路P(移動経路)上において加工誤差を予測する位置における工具M、即ちその切刃の通過軌跡を、該工具の回転軸心上に中心を有する半球面によって表すとともに、その位置の1刃分送り(送り速度/(工具回転数×刃数))の手前までの工具掃引体T1と、1刃分送り以降の工具掃引体T2と、被削物形状Wとを、それぞれ仮想の多面体として表して、下方(Z軸の負方向)からの所定の視野範囲において描画する。
【0043】
なお、工具はその切刃が1回転する間にも送られるので、厳密には切刃の通過軌跡は半球面ではないともいえる。しかし、一般的に工具径に対してその送り速度は非常に小さいことから、切刃の通過軌跡は近似的に半球面とみなしてよい。
【0044】
また、工具掃引体T1,T2は、工具Mをその回転軸心の周りに回転させながら、工具経路Pに沿って移動させたときの掃引形状を表すもので、図6に示すように半円柱形状と半球形状とを組み合わせて構成する。このとき、多面体化による誤差を小さくするための従来公知の手法(例えば特開2009−020671号公報を参照)が有効である。さらに、被削物形状Wはその下面を除いて、例えばSTLデータのように多数の三角形で近似した多面体として表すことができる。
【0045】
そうして描画する際に工具Mには、工具掃引体T1,T2とも被削物形状Wとも違う色情報(画素情報であり、詳しくは後述する)を与えておく。また、視点は、図示のように全ての工具掃引体T1,T2、被削物形状WよりもZ軸負方向に設定し、視線の方向はZ軸+方向とする。視野の中心は、加工誤差の予測位置における工具Mの回転軸心と一致させ、視野の範囲は縦横共に工具Mの直径とする(図12を参照)。こうして設定された視野範囲Vは、Z軸方向に長い直方体状となる。
【0046】
その視野範囲において描画される画像に表示されるのは、グラフィックハードウェアの陰面消去機能によって最も下側のものだけになるから、この画像において工具Mの色が表示されている画素領域から、加工終了後に残る加工面の範囲を推定することが可能になる。こうして切削領域のうちから最終的な加工面を検出できれば、この加工面の創成点(創成位置)を以下に述べるように特定し、工具軸心との位置関係から工具回転角度(回転角位置)および工具接角度(回転軸心方向の位置)を求めて、これにより工具Mの撓みや形状誤差に起因する加工誤差を算出することができる。
【0047】
−処理の流れ−
図7には、まず、この実施形態における加工誤差予測のための処理の全体的な流れを示す。最初にデータ入力ステップでは、必要なパラメータとして工具種類、工具径、切刃形状などの工具仕様をコンピュータ装置1に入力する。工具の切刃形状は、例えば図8のように工具の下側から見た写真などを用いて同定する。切削力の計算に用いられる切削力係数(比切削抵抗)は、使用する被削物と工具とを用いた切削実験を行い、切削力の測定値と、例えば非特許文献1、2に記載の方法で予測される切削力予測値との誤差が小さくなるように最適化して、同定すればよい。
【0048】
工具撓みを計算するための剛性データについては静剛性或いは動剛性のいずれかを用いるが、動剛性を用いる方が正確な工具撓みを予測することが可能である。動剛性は、例えばインパルスハンマーを用いて工具先端を加振し、これによる工具先端の振動を加速度センサやレーザドップラー振動計などにより測定して、FFT解析装置によりX方向およびY方向の工具のコンプライアンス伝達関数(動剛性の逆数)を得る。
【0049】
また、工具の形状誤差については、実際にそれを回転させながらその回転軸心に直交するいくつかの断面(工具軸断面)において工具径、即ち、切刃の通過軌跡の直径を計測などし、予め理想的な形状とのずれを工具の回転軸心方向の位置(具体的には後述する工具接角度q)に対応付けて記憶したテーブルを作成しておく。或いは、切削力の影響の無視できる樹脂製被削物などの加工を行って、このときの加工誤差を測定することによって形状誤差を同定することもできる。
【0050】
また、被削物(素材)形状データ(CADデータやブロック形状など)とCAMから出力された工具経路(NCデータ)も入力する。工具経路は、多数のパス(行)により構成され、それらは直線移動経路(NCデータのG01)と円弧移動経路(NCデータのG02,G03)とがあるが、以下では直線移動のパスを想定して説明する。円弧移動のパスについては微小直線経路の集合として取り扱うことができる。なお、パスは、特許請求の範囲に記載の分割経路に相当する。
【0051】
この例では加工誤差の予測を行う工程として、加工品質を決定づける仕上げ加工工程を想定している。一般に、仕上げ加工前には中仕上げ加工が行われるため、仕上げ加工における1つのパスにおいては加工状態があまり変化しないと考えられる。そこで、1つのパス内で1箇所の加工誤差の予測を行う方法について説明する。なお、連続するパス同士で角度変化が小さい場合や移動距離が短い場合は、いくつかのパスを1つにまとめてもよいし、反対に移動距離が長い場合にはさらに分割してもよい。
【0052】
そうして所定のデータが入力された後に、工具経路の1つのパス毎(1行毎)に、実際に切削の行われる箇所があるかどうか判断する。これは、1つのパス内でも非切削中と切削中とが混在している場合に、切削中の箇所で加工誤差を予測するためである。具体的には図9(a)に示すように、着目するパスの工具掃引体T0と、それまでの工具掃引体T1と、被削物形状Wとを、それぞれ異なる色でもって下方から描画し、同図(b)に斜線を入れて示すように、着目するパスの工具掃引体T0の色の画素領域があれば、ここを切削される領域と判断する。
【0053】
そうして切削される領域のない場合は、このパスについて以降の処理は行わずリターンして、次のパスについての判断に移る一方、切削される領域があればその内部の所定の1点(例えば重心や中心付近)を加工誤差の予測位置に設定する。こうすれば、1つのパス内に切削する箇所としない箇所とが混在していても、その切削しない箇所において誤って加工誤差の予測を行うような心配はない。
【0054】
また、前記の図9(b)に一例として示したように、描画する視野の横幅を工具直径とし、縦方向はパスの長さとし、工具送り方向を上向きとして描画したときに、図においては前記切削される領域の表示される幅の範囲内に、加工の際の切削領域および加工面の領域が存在することから、以降の処理においてはその範囲内に存在する工具掃引体、被削物形状のみを描画するようにしてもよく、また、色情報の読み取りもその範囲内でのみ行うようにしてもよい。こうすれば処理の高速化が図られる。
【0055】
そして、前記のように設定した加工誤差の予測位置において工具の1刃送りによる切削領域を検出し、この領域を切削する際に工具に作用する切削力を算出する。この切削力と工具の動剛性などから運動方程式を解いて、図2(b)のような工具回転角と工具撓みとの関係を求め、以下に述べるように特定した加工面創成点における工具撓みから加工誤差を算出する。また、加工面創成点における工具形状誤差からも加工誤差を算出する。
【0056】
そのような加工誤差の算出を工具経路の最初のパスから最後のパスまで行い、経路全体の加工誤差の予測結果をディスプレイ上に表示するとともに、この誤差とは反対向きに修正した工具経路を出力する。こうして工具経路を修正することで、加工誤差を補償する工具経路を出力することができ、切削加工の精度が向上する。
【0057】
なお、前記の処理は、コンピュータ装置1において所要のプログラム(加工誤差予測プログラム)が実行されることにより実現されるものであり、その意味でコンピュータ装置1は、特許請求の範囲に記載のデータ入力手段、描画手段、切削領域検出手段、切削力算出手段、加工面検出手段、加工誤差算出手段、第1の副描画手段、予測位置設定手段、および経路修正手段を構成している。
【0058】
(加工誤差の推定)
次に、本発明の特徴とする加工誤差の推定手法について図10に示すフローチャートに沿って、より具体的に説明する。
【0059】
−切削力および工具撓み−
切削力の算出については非特許文献1、2に記載されている手法を用いる。すなわち、まず、図示のフローにおけるスタート後のステップS1では、上述したように入力されるデータを用いて、図11(a)に示すように加工誤差の予測位置における工具Mと、当該位置の1刃分送り前までの工具掃引体T1と、被削物形状Wとを、それぞれ下方から工具Mを望む視野範囲Vにおいて、該工具Mの送り方向を上向きにして描画する。
【0060】
こうして描画した画像は同図(b)のようになる。この例では中央付近に黒塗りで示すように工具Mの色が表示されている画素領域が、この予測位置において工具Mの1刃送りによって切削される領域(切削領域)であり、ステップS2では工具Mの色情報から切削領域を検出する。なお、図(b)の画像の右側に斜線を入れて示す領域は、仕上げ加工を行う前の被削物形状Wを表し、左側の領域は工具掃引体T1によって切削された範囲を表し、それらの境界付近に前記切削領域が位置している。
【0061】
そして、ステップS3では、前記のように検出した切削領域の情報から工具Mに作用する切削力を算出する。すなわち、非特許文献1、2に記載の如く工具の切刃を微小切刃の集合としてモデル化し(図8を参照)、微小回転角度毎に各微小切刃が切削中かどうかを判定し、切削中と判定される場合には切削力係数、切り取り厚さ、切刃長さなどから微小切削力を算出し、これを全ての微小切刃について積算する。この計算を繰り返すことによって1回転中の切削3分力(Fx,Fy,Fz)が得られる。
【0062】
続いて、ステップS4では、前記工具の1回転中の切削力(Fx(t),Fy(t))と、工具の動剛性の逆数であるコンプライアンス伝達関数(Gx(ω),Gy(ω))とから、応答である1回転中の工具撓み(Dx(t),Dy(t))を算出する。運動方程式を解くためには例えばルンゲクッタ法などの数値解析法を用いることができる。なお、一般に応答は自由振動と強制振動との和になるが、切削力が数回転、同じ状態で工具に作用すると仮定すれば強制振動のみを考慮すればよい。
【0063】
このとき、切削力をFFT処理した結果F(ω)と、コンプライアンス伝達関数G(ω)との積とから、工具撓みをFFT処理した結果D(ω)=G(ω)F(ω)を得て、その後、これを逆FFT処理することにより、工具1回転中の工具撓み、即ち工具軸周りの回転角位置(工具回転角度)と撓み量との関係(図2(b)を参照)を高速に算出することができる。
【0064】
−加工面創成点および加工誤差−
そうして切削力を算出する一方で、ステップS5では前記図11の描画結果に対して、加工誤差の予測位置から工具の1刃送り後以降の工具掃引体T2を書き加える(図5を参照)。こうして書き加えた工具掃引体T2によって被削物形状Wの一部が削り取られるとともに、図11(b)に示した切削領域の一部も削除され、それらが陰面消去されることで、描画される画像は図12に示すようになり、工具の色が表示される画素領域は非常に小さくなる。
【0065】
この画素領域が加工終了後に残る加工面を表しており、ステップS6では色情報から加工面を検出する。なお、被削物形状の領域外は考慮しなくてよいので、被削物形状のXY領域内のみ全ての画素の色情報を読み取って、そのうちから工具の色情報を識別する。色情報としては一般的にR,G,B,Aの4つの情報が利用できるので、そのうちの一つ(例えばA)に工具を認識するための情報を与えておけばよい。
【0066】
続いてステップS7では、後述するように視野を修正するどうか判別して、必要があれば(YES)ステップS8にて視野を修正した上で、前記ステップS1,S5のように工具Mやその掃引体T1,T2、被削物形状Wなどを描画して(再描画)前記ステップS6に戻る一方、必要がなければ(NO)ステップS9に進み、前記検出した加工面の情報からこれを切削するときの切刃の位置である加工面創成点を特定して、この創成点における工具回転角度θ、工具接角度qおよび加工面法線ベクトルnを算出する。
【0067】
すなわち、この例では上述したように金型の仕上げ加工を想定しており、仕上げ加工においては所定の表面粗さ以下となるように、細かいピッチで工具経路が作成されるため、加工面として残る画素領域は前記のように非常に小さなものとなる。よって、この画素領域内の或る1点を代表点として、この点を加工する瞬間の工具撓みや工具形状誤差から、加工誤差が決定されると考えることができる。
【0068】
そこで、例えば前記のように検出した加工面の画像領域における座標(X,Y座標)の平均値を創成点とし、図13(a)に示すように、工具先端の切刃の通過軌跡を表す半球面上において、工具回転角度0°の切刃位置から創成点Cまでの工具回転角度θを求めるとともに、この創成点Cから当該半球の中心に向かう線分が工具の回転軸心となす角度である工具接角度qを求める。また、その創成点Cから半球の中心に向かうベクトルが、加工面の法線ベクトルnとなる。
【0069】
それら工具回転角度θや工具接角度qは創成点Cの座標、即ち工具軸との位置関係から計算することもできるが、この実施形態では、工具の画素の色情報、例えばR,Gにそれぞれ工具回転角度θ、工具接角度qの情報を与えておき、コンピュータ装置1のコマンドで画素の色情報を読み取るだけで、直ちにかつ正確に工具回転角度θや工具接角度qが求まるようにしている。
【0070】
すなわち、前記図13(a)には濃淡のグラデーションとして現れているが、この図の下側に示すように、工具を表す半球面上の各画素は、その色情報Rの値が工具回転角度θの変化に応じて徐々に変化する。また、その図の上側に示すように色情報Gの値は、半球の中心から工具軸心に沿って下端に向かうに連れて、つまり工具接角度qの変化に応じて徐々に変化するようになっている。
【0071】
そのため、例えば前記のように検出した加工面の画像領域における各画素の色情報R,Gを読み取り、その平均を求めることによって直ちに、加工面創成点Cにおける工具の回転角度θや接角度qを求めることができる。また、加工面の画像領域における座標(X,Y座標)の平均値を創成点Cとし、この点Cの色情報R,Gから工具の回転角度θや接角度qを求めることもできる。
【0072】
そうして加工面創成点Cにおける工具回転角度θが求まれば、前記ステップS4にて求めた工具回転角度θと撓み量との関係(図2(b)を参照)から創成点での工具撓み量を求め、この工具撓み量と加工面法線ベクトルとから加工面法線方向の加工誤差を算出できる(ステップS10)。具体的には加工面創成点における工具撓みベクトル(並進方向のみ考慮する場合は、(Dx(X方向撓み),Dy(Y方向撓み),0)と加工面法線単位ベクトルとの内積を計算すればよい。
【0073】
並行してステップS11では、前記の工具接角度qにおける工具形状誤差を用いて、これに起因する加工誤差を算出する。これは、前記のように求めた加工面創成点における工具接角度qに対応する工具の形状誤差を、予め測定して記憶してあるテーブルを用いて算出すればよい。
【0074】
なお、この例では前記の如く、工具撓みや工具形状誤差を加工面における創成点1点の情報から算出しているが、実際に加工面を切削しているときの工具回転角度θや工具接角度qは或る範囲を持っているから、この角度毎に加工誤差を算出してもよいし、この範囲内での最大値、或いは平均値などから加工誤差を算出してもよい。つまり、工具撓みなどを算出するために特定する加工面創成位置は1点に限るものでなく、或る程度の広さを持った範囲であってもよい。
【0075】
−視野の修正−
次に、前記ステップS8における視野の修正について具体的に説明する。これは一例として、前記ステップS5において工具掃引体T2を書き加えたときに画像に工具Mの色が表示されないときの対応方法である。工具Mの色が表示されないのは、最終的に加工面として残る箇所がない場合と、その箇所が描画の際の1画素に満たない場合とがある。すなわち、この例のように下方から視ると、被削物の側壁などを加工している場合には加工面をその法線に対し斜めに視ることになるから、加工面として残る箇所があってもその画素領域が非常に小さくなってしまい、1画素に満たないこともあるのである。
【0076】
このような場合の対応方法として、加工誤差の予測に先立つ切削領域の検出結果(ステップS2)を利用する。すなわち、上述したように最終的に加工面として残る箇所は切削領域に含まれており、この切削領域は加工面の領域に比べて広いので、これが表示されないことは考えなくてよい。そこで、図14に模式的に示すように、切削領域があるにも拘わらず加工面が表示されないときには、その切削領域の法線方向に近づくように視点を移動させ、図のように横から視て画像を描画することにより、加工面の画素領域を拡大する。
【0077】
或いは、視点はそのままでも切削領域に向かって視野を絞り、1画素当たりの面積を縮小して分解能を上げることにより、言い換えると切削領域を拡大して描画することによって加工面が表示されるようにする。これらのいずれかの手法で視点ないし視野範囲を修正することによって、加工面の見落としを防止できる。
【0078】
なお、工具接角度qが大きくなれば、加工面が表示されていてもその画素数は少なくなるので、計算誤差が大きくなるとも考えられる。そこで、Z軸負方向からの画像において工具(切刃の通過軌跡)の外周付近に切削領域があり、工具接角度qが大きいと考えられる場合(例えば60°を超える場合)には、加工面が見える見えないに拘わらず、前記と同様に視点を変更したり拡大して表示したりすることで、より高精度な算出を行える。
【0079】
前記した図10のフローのステップS1およびS5は、工具経路上の加工誤差予測位置における工具M(切刃の通過軌跡)と、当該位置の1刃分送り前および1刃分送り後を含む所定範囲の工具掃引体T1,T2と、被削物形状Wとを、それぞれ下方からの視野範囲Vにおいて描画する描画ステップに相当する。この例ではステップS1において、加工誤差の予測位置における工具Mと、その手前までの工具掃引体T1と、被削物形状Wとを描画し、その後のステップS5において予測位置以降の工具掃引体T2を描き加えるようにしている。
【0080】
ステップS2は、そうして予測位置以降の工具掃引体T2が描き加えられる前の画像平面において工具Mが表示されている画素領域を、切削領域として検出する切削領域検出ステップに相当し、ステップS3は、その切削領域の情報から工具に作用する切削力を算出する切削力算出ステップに相当する。
【0081】
また、ステップS6は、前記ステップS5において工具掃引体T2が描き加えられた後に画像平面において工具Mが表示されている画素領域を、加工終了後も残る加工面として検出する加工面検出ステップに相当し、ステップS9〜S11は、その加工面の創成点を特定して、ここにおける工具の形状誤差や撓み量から加工誤差を推定演算する加工誤差算出ステップに相当する。
【0082】
さらに、ステップS8は、前記ステップS2にて検出した切削領域の情報に基づいて、画像を再描画する際の視点ないし視野範囲を修正するステップであり、このステップを実行することでコンピュータ装置1は、特許請求の範囲に記載の視野修正手段も構成することになる。
【0083】
(工具経路の修正)
最後に工具経路の修正について簡単に述べる。NCデータにおいて工具経路は通常、X,Y,Zの直交座標系の多数の構成点を結ぶ直線、或いは円弧によって指定されており、上述したように予測した加工誤差と反対の向きに構成点を移動させれば、工具経路を適切に修正することができる。すなわち、この実施形態において加工誤差は、工具経路を構成する多数のパスのそれぞれについて算出しており、図15に示すように、修正する構成点はその前後のパスの交点であるから、前後2つのパスにおける加工誤差の予測結果を用いて構成点を修正すればよい。
【0084】
具体的には、まず、前後2つのパスのそれぞれで、加工誤差の大きさ(正負有り)を有し加工面法線方向の加工誤差ベクトルE(i),E(j)を考え、この加工誤差ベクトルE(i),E(j)と大きさが等しく、逆向きの修正基準ベクトルE'(i),E'(j)を算出する。そして、それらの和の向きに修正ベクトルE'(i+j)の向きを設定する。この修正ベクトルE'(i+j)の大きさは、修正による前後2つのパスの移動と各々の修正基準ベクトルE'(i),E'(j)との差ができるだけ小さくなるように決定すればよい。なお、円弧移動経路の場合は、直線移動工具経路の集合としてこれらの計算を行い、最小2乗法などを用いて修正円弧を求めることにより、修正することができる。
【0085】
(作用効果)
以上、説明したように、この実施形態に係る加工誤差の予測装置によると、コンピュータ装置1の3次元グラフィックス機能を利用して、被削物形状Wおよびこれを切削する工具Mと、この工具Mの掃引体T1,T2とを、それぞれ下方からの視野範囲Vにおいて描画し、この描画された画像において工具Mが手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として高速に検出することができる。
【0086】
そして、その加工面の領域において創成時の工具の切刃位置である創成点Cを特定し、この創成点Cにおける工具の形状誤差や撓み量に基づいて、加工誤差の推定値を正確に算出することができる。よって、自由曲面をもつ金型などの加工においても誤差を正確に予測することが可能になり、加工条件の検討などに非常に有利である。
【0087】
また、そうして予測した加工誤差に基づいて工具経路を修正すれば、加工誤差を低減して成形後の修正に要する工数、時間を大幅に削減することができる。
【0088】
特にこの実施形態では、前記のように描画する工具M(切刃の通過軌跡)を半球面とし、その半球面上の各画素には、工具回転角度θおよび工具接角度qによって徐々に値が変化するようにして色情報R,Gを持たせているから、前記のように特定した創成点Cの色情報を読み込めば直接的に、工具回転角度θおよび工具接角度qを算出することができる。
【0089】
また、前記のように加工誤差を予測する位置における工具Mと、この予測位置までの工具掃引体T1とを先に描画して、予測位置以降の工具掃引体T2を描画する前の画像から、前記と同様にして予測位置における切削領域を検出し、これに基づいて切削力を算出するようにしており、この切削力の算出も高速に行うことができる。
【0090】
しかも、そうして切削領域を求めた後に工具掃引体T2を書き加えた画像から、前記のように加工面の検出を行うようにしているので、切削力の算出のための描画結果を加工誤差の予測に利用して、処理時間を短縮することができる。
【0091】
−実施例−
以下に、この実施形態の予測装置を用いて実際に、切削加工の誤差を予測した例について説明する。実施したのは、図16に示すような円筒面の等高線加工であり、図の右側には工具・被削材、および切削条件を記す。なお、円筒面のような数学的に定められる形状の加工においては理論的に工具回転角度や工具接角度を求めることができるため、計算結果の検証を行うことができる。円筒面の加工では、ボールエンドミルの中心座標値と円筒面中心軸とを結ぶ直線と、円筒面形状との交点が加工面創成点となる。
【0092】
図17には、Z軸負方向からの描画により、工具回転角度θおよび工具接角度qを算出した値の理論値との差を示す。工具接角度が87.6°以上では、工具が表示されず、算出できていない。また、60°を超えるあたりから誤差が大きくなっている。一方、図18には、Z軸負方向からの描画において工具接角度が60°以上と推定される場合に、視点を変更して算出した結果を示す。視点を変更することにより全ての値を求めることができ、また、計算誤差が小さくなることが確認できた。
【0093】
図19には、この実施形態の予測方法を用いて加工誤差を予測した結果と、加工後の形状を3次元測定機で測定した結果とを対比して示す。予測値と測定値とはよく一致している。また、誤差予測結果に基づき工具経路を修正した場合と、修正しない場合との加工誤差の測定結果を図20に示す。加工誤差予測に基づく工具経路の修正により、加工誤差を低減できることを確認した。
【0094】
次に、この実施形態の予測手法を、中仕上げ工程99768パス、および、仕上げ工程286463パスから成る実金型モデルの仕上げ工程の加工誤差予測に適用した。まず、仕上げ工程の各パスに対して切削領域を判断し、切削領域内に誤差予測位置を設定する。そして、その位置で切削力算出を行い、その後、加工面として残る箇所の計算を行い、工具撓みに起因する加工誤差の予測を行った。なお、描画の解像度は512×512とした。使用したパソコンの仕様は、CPUが Intel製 Core2Duo 3GHzであり、メモリは2GBで、GPUは nVIDIA製の GeForce8800GTS である。図21に計算時間および加工誤差予測結果を示す。自由曲面をもつ大規模な金型モデルに対して、1パス当り0.070秒で加工誤差予測を行うことができた。
【0095】
また、この実施形態の予測手法と従来の手法(ソフトウェア処理)とを比較するために、工具形状誤差に起因する加工誤差の予測を行った。工具形状誤差に起因する加工誤差としたのは、切削力や工具撓みなどの計算を除き、加工面として残る箇所の計算時間を比較するためである。予測位置は直線工具経路の中点の位置に固定し、加工面創成点の工具接角度を計算して、工具接角度に基づき加工誤差を算出する。加工面創成点の工具接角度の計算のみ、ソフトウェア処理または実施形態に係るグラフィックスハードウェア処理のいずれかとした。
【0096】
誤差予測の対象は2種類とし、前記の円筒面加工の工具直径20mmの仕上げ工程(図22(a))と、前記の実金型モデルの工具直径30mm(図21のNCデータ5)の工程(同図(b))とした。ソフトウェア処理の場合は、加工誤差を予測する位置の工具(球)をX−Y平面に投影した円の領域内に、工具直径を512分割した格子点を設定する。そして、各格子点からZ軸正方向への直線と工具(球)との交点を算出し、交点と格子点との距離を算出する。同様に全ての工具掃引体(円柱、球)との距離を計算し、工具との距離よりも、全ての工具掃引体との距離が大きい場合、即ち工具が最も下側にある場合に、その位置が加工面として残ると判断する。工具より1つでも距離の小さい工具掃引体が見つかれば、その位置は加工面とし残らないと判断する。
【0097】
なお、計算時間をなるべく短くするように、上記の半直線と工具掃引体との干渉の可能性をまず判断し、可能性のある工具掃引体のみに対して距離計算を行った。使用したパソコンの仕様は前項と同様である。計算は、円筒面加工については809パス全てを行い、実金型モデルについては工具経路125824パスのうち、1000パス毎の128点について実施した。計算時間は同図(c)のようになり、円筒加工で8.9倍に、また、実金型モデルの加工では110.8倍の高速化がなされている。よって、本発明の加工誤差予測方法は大規模工具経路を持つ実際の金型加工において、より効果を発揮するものと言える。
【0098】
(他の実施形態)
本発明に係る加工誤差の予測の具体的な手法は前記実施形態のものに限定されず、例えば加工誤差の予測は金型の仕上げ加工工程に限らず、荒加工工程や中仕上げ加工工程にも適用できる。その場合は、1つの直線移動経路中の加工状態を判断して、加工状態によって予測箇所を増やすようにしてもよい。勿論、金型以外の種々の切削加工に適用することもできる。
【0099】
また、工具の画素に持たせる情報は工具回転角度θ、工具接角度qに限らず、別の形式の座標情報でもよい。一例として色情報Rに工具接角度qを持たせる一方、GにはX座標、BにはY座標としてもよい。さらに、色情報ではなく他の画素情報も利用可能である。
【0100】
また、前記の実施形態では、図5を参照して上述したように、加工誤差を予測する位置の工具Mと被削物形状Wとの他に、その予測位置の1刃送り手前までの工具掃引体T1と、1刃送り後以降の工具掃引体T2とを描画するようにしており、これが基本であるが、工具掃引体T1,T2は、例えば2〜3刃送り手前までのものや2〜3刃送り以降のものとしてもよい。
【0101】
さらに、前記の実施形態では、加工に用いる工具として主にボールエンドミルを想定して説明しており、この場合は切刃の通過軌跡を近似的に半球面で表すことになるが、勿論、ボールエンドミル以外の回転工具(例えばラジアスエンドミル、スクエアエンドミルなど)も想定される。この場合に、切刃の通過軌跡はその形状に応じた種々の形状に近似されるが、いずれも工具の回転軸心を中心とする軸対称形状となる。また、当然ながら、工具掃引体も工具の形状に応じて構成される。
【0102】
さらにまた、前記の実施形態では工具経路の多数のパスについてそれぞれ加工誤差の予測を行うようにしているが、一般に金型の加工では大規模な工具経路データが使用されることから、その全てに対して加工誤差の予測を行うと時間がかかり過ぎるきらいがある。そこで、加工誤差が小さく、工具経路の修正が必要ない箇所については予め除外しておくことが望ましい。
【0103】
すなわち、工具撓みに起因する加工誤差は一般に、工具接角度の大きいときほど大きくなり、工具接角度が0°に近いとき(即ち工具軸と被削面の法線とのなす角度が0°に近いとき)には、切削力によって工具が撓んでも、加工誤差には殆ど影響しないと考えられる。
【0104】
そこで、図23に模式的に示すように、加工誤差の予測に先立って全ての工具掃引体を工具軸からの角度および工具経路の行番号によって色情報を変えて、被削物形状とともに下方からの視点で陰面消去して描画する(第2の副描画手段に対応)。こうして描画された画像は、全ての工具の移動が完了し終わった後の形状となり、この状態で被削物形状のXY領域内の画素の色情報を読み取ることによって、最終的に加工面となる工具掃引体の行番号と、そのときの工具軸からの角度とを検出することができる。
【0105】
よって、前記各工具掃引体の番号毎に、工具軸からの角度の最大値である工具接角度の最大値を算出し、この最大値が所定値(例えば30〜60°)以下の工具掃引体を加工誤差予測箇所から除外すること(即ち、このパスについての加工誤差予測を禁止すること)によって、処理の高速化が図られる。
【0106】
なお、前記の描画の際の視野の範囲は、工具径や加工条件から、加工面として残されると予想される長さなどに応じて決定すればよい。また、工具接角度が大きいと予想される箇所については拡大して算出してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】CAMから出力される工具経路、および加工誤差の説明図。
【図2】工具1回転中の切削力、および工具撓みの説明図。
【図3】加工面として残る箇所を上から視た説明図。
【図4】加工面として残る箇所を側方から視た説明図。
【図5】加工面として残る領域を検出するための描画方法の説明図。
【図6】工具掃引体の説明図。
【図7】本発明に係る加工誤差の予測の全体的な流れを示す概要図。
【図8】切刃形状のモデル化の説明図。
【図9】パス毎に切削される領域があるかどうか判断する方法の説明図。
【図10】加工誤差の予測の具体的な手順のフローチャート図。
【図11】切削領域を検出するための描画方法の説明図。
【図12】描画された画像に表示される最終的な加工面の説明図。
【図13】加工面創成点における工具接角度と工具回転角度の説明図。
【図14】視点の変更方法の説明図。
【図15】工具経路の修正方法の説明図。
【図16】実施例の実験方法の説明図。
【図17】算出した工具接角度と工具回転角度の理論値との比較図。
【図18】視点を変更した場合の図17相当図。
【図19】加工誤差の予測値と測定値との比較図。
【図20】工具経路の修正の有無による加工誤差測定値の比較図。
【図21】実金型モデルにおける加工誤差の予測時間および予測結果の説明図。
【図22】実施例の予測手法をソフトウェア処理と比較した結果の表。
【図23】加工誤差を予測する工具経路の選定方法の説明図。
【符号の説明】
【0108】
M 工具の画像(切刃の通過軌跡)
P 工具経路
T0〜T2 工具掃引体
W 被削物形状
1 コンピュータ装置(データ入力手段、描画手段、切削領域検出手段、切削 力算出手段、加工面検出手段、加工誤差算出手段、第1および第2の副描 画手段、予測位置設定手段、経路修正手段、視野修正手段)
S1,S5 描画ステップ
S2 切削領域検出ステップ
S3 切削力算出ステップ
S6 加工面検出ステップ
S4,9〜S11 加工誤差算出ステップ
S8 視野修正ステップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する工具による被削物の加工誤差を予測するための装置であって、
前記工具による加工前の被削物の形状、該工具の切刃形状、および該工具の送りによる移動経路の情報を含む、所定データの入力を受け入れるデータ入力手段と、
前記所定データに基づいて、前記工具の移動経路上で加工誤差を予測する位置における前記切刃の通過軌跡と、当該位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体と、前記被削物とを、それぞれ当該被削物の側から工具を望む所定の視野範囲において描画する描画手段と、
前記描画手段によって描画された画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として検出する加工面検出手段と、
前記加工面検出手段によって検出された画素領域から、加工面の創成時に被削物を切削する工具の切刃位置である創成位置を特定し、この創成位置における工具の形状誤差および撓み量の少なくとも一方に基づいて、加工誤差の推定値を算出する加工誤差算出手段と、を備えることを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項2】
請求項1の加工誤差予測装置において、
前記工具の形状誤差をその回転軸心に対する刃先位置のズレとして予め求め、その回転軸心方向の位置に対応付けて記憶したテーブルを作成しておき、
前記加工誤差算出手段は、特定した創成位置における工具の形状誤差を前記テーブルを用いて算出する、ことを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかの加工誤差予測装置において、
前記加工誤差算出手段は、加工誤差の予測位置における切削力の大きさと工具の剛性とから、該工具の回転軸心周りの回転角位置と撓み量との関係を求めて、特定した創成位置における工具撓み量を算出する、ことを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つの加工誤差予測装置において、
前記切刃の通過軌跡を、工具の回転軸心を中心とする軸対称形状とし、この通過軌跡上の各画素には、工具回転軸心周りの回転角位置および該回転軸心方向の位置の少なくとも一方に応じて値が変化するようにして、所定の画素情報を持たせておき、
前記加工誤差算出手段は、加工面検出手段によって検出された加工面領域の画素情報から創成位置を特定し、この創成位置の回転角位置および回転軸心方向位置の少なくとも一方を算出する、ことを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの加工誤差予測装置において、
前記描画手段は、まず、加工誤差の予測位置における前記切刃の通過軌跡と、当該位置の直前までの工具掃引体と、前記被削物とを描画し、その後、前記予測位置の直後からの工具掃引体を描き加えるように構成され、
前記予測位置以降の工具掃引体が描き加えられる前に、前記描画手段によって描画されている画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を、前記予測位置における切削領域として検出する切削領域検出手段と、
前記切削領域の情報から工具に作用する切削力を算出する切削力算出手段と、
をさらに備えることを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項6】
請求項5の加工誤差予測装置において、
前記切削領域検出手段によって検出された切削領域の情報に基づいて、前記描画手段における視点ないし視野範囲を修正する視野修正手段をさらに備える、ことを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの加工誤差予測装置において、
前記工具の移動経路を分割し、そのうちのいずれか1つの分割経路における工具掃引体と、この分割経路に至るまでの工具掃引体と、前記被削物とを、それぞれ当該被削物の側から工具を望んで描画する第1の副描画手段と、
前記第1の副描画手段によって描画された画像において前記分割経路の工具掃引体が手前に表示されている画素領域があれば、この画素領域内に加工誤差の予測位置を設定する一方、手前に表示されている画素領域がなければ該分割経路内には加工誤差の予測位置を設定しない予測位置設定手段と、
をさらに備えることを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つの加工誤差予測装置において、
前記工具の移動経路を分割し、その分割経路のそれぞれにおける工具掃引体と、前記被削物とを、該被削物の側から工具を望んで描画する第2の副描画手段と、
前記第2の副描画手段によって描画された画像において工具掃引体が手前に表示されている分割経路について、それぞれの工具の回転軸心と被削面とがなす角度を推定し、この角度が所定値以下の分割経路に係る加工誤差の予測を禁止する予測禁止手段と、
をさらに備えることを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の加工誤差予測装置によって予測された加工誤差の値に基づいて、加工誤差が小さくなるように工具の移動経路を修正する経路修正手段を備えていることを特徴とする工具経路修正装置。
【請求項10】
回転する工具による被削物の加工誤差をコンピュータ装置の3次元グラフィックス機能を利用して予測するためのプログラムであって、
前記工具による加工前の被削物の形状、該工具の切刃形状、および該工具の送りによる移動経路の情報を含む、所定データの入力を受け入れるデータ入力ステップと、
前記所定データに基づいて、前記工具の移動経路上で加工誤差を予測する位置における前記切刃の通過軌跡と、当該位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体と、前記被削物とを、それぞれ当該被削物の側から工具を望む所定の視野範囲において描画する描画ステップと、
前記描画ステップにて描画された画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として検出する加工面検出ステップと、
前記加工面検出ステップにて検出された画素領域から、加工面の創成時に被削物を切削する工具の切刃位置である創成位置を特定し、この創成位置における工具の形状誤差および撓み量の少なくとも一方に基づいて、加工誤差の推定値を算出する加工誤差算出ステップと、を有することを特徴とする加工誤差予測のためのコンピュータプログラム。
【請求項1】
回転する工具による被削物の加工誤差を予測するための装置であって、
前記工具による加工前の被削物の形状、該工具の切刃形状、および該工具の送りによる移動経路の情報を含む、所定データの入力を受け入れるデータ入力手段と、
前記所定データに基づいて、前記工具の移動経路上で加工誤差を予測する位置における前記切刃の通過軌跡と、当該位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体と、前記被削物とを、それぞれ当該被削物の側から工具を望む所定の視野範囲において描画する描画手段と、
前記描画手段によって描画された画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として検出する加工面検出手段と、
前記加工面検出手段によって検出された画素領域から、加工面の創成時に被削物を切削する工具の切刃位置である創成位置を特定し、この創成位置における工具の形状誤差および撓み量の少なくとも一方に基づいて、加工誤差の推定値を算出する加工誤差算出手段と、を備えることを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項2】
請求項1の加工誤差予測装置において、
前記工具の形状誤差をその回転軸心に対する刃先位置のズレとして予め求め、その回転軸心方向の位置に対応付けて記憶したテーブルを作成しておき、
前記加工誤差算出手段は、特定した創成位置における工具の形状誤差を前記テーブルを用いて算出する、ことを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかの加工誤差予測装置において、
前記加工誤差算出手段は、加工誤差の予測位置における切削力の大きさと工具の剛性とから、該工具の回転軸心周りの回転角位置と撓み量との関係を求めて、特定した創成位置における工具撓み量を算出する、ことを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つの加工誤差予測装置において、
前記切刃の通過軌跡を、工具の回転軸心を中心とする軸対称形状とし、この通過軌跡上の各画素には、工具回転軸心周りの回転角位置および該回転軸心方向の位置の少なくとも一方に応じて値が変化するようにして、所定の画素情報を持たせておき、
前記加工誤差算出手段は、加工面検出手段によって検出された加工面領域の画素情報から創成位置を特定し、この創成位置の回転角位置および回転軸心方向位置の少なくとも一方を算出する、ことを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの加工誤差予測装置において、
前記描画手段は、まず、加工誤差の予測位置における前記切刃の通過軌跡と、当該位置の直前までの工具掃引体と、前記被削物とを描画し、その後、前記予測位置の直後からの工具掃引体を描き加えるように構成され、
前記予測位置以降の工具掃引体が描き加えられる前に、前記描画手段によって描画されている画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を、前記予測位置における切削領域として検出する切削領域検出手段と、
前記切削領域の情報から工具に作用する切削力を算出する切削力算出手段と、
をさらに備えることを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項6】
請求項5の加工誤差予測装置において、
前記切削領域検出手段によって検出された切削領域の情報に基づいて、前記描画手段における視点ないし視野範囲を修正する視野修正手段をさらに備える、ことを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの加工誤差予測装置において、
前記工具の移動経路を分割し、そのうちのいずれか1つの分割経路における工具掃引体と、この分割経路に至るまでの工具掃引体と、前記被削物とを、それぞれ当該被削物の側から工具を望んで描画する第1の副描画手段と、
前記第1の副描画手段によって描画された画像において前記分割経路の工具掃引体が手前に表示されている画素領域があれば、この画素領域内に加工誤差の予測位置を設定する一方、手前に表示されている画素領域がなければ該分割経路内には加工誤差の予測位置を設定しない予測位置設定手段と、
をさらに備えることを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つの加工誤差予測装置において、
前記工具の移動経路を分割し、その分割経路のそれぞれにおける工具掃引体と、前記被削物とを、該被削物の側から工具を望んで描画する第2の副描画手段と、
前記第2の副描画手段によって描画された画像において工具掃引体が手前に表示されている分割経路について、それぞれの工具の回転軸心と被削面とがなす角度を推定し、この角度が所定値以下の分割経路に係る加工誤差の予測を禁止する予測禁止手段と、
をさらに備えることを特徴とする加工誤差予測装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の加工誤差予測装置によって予測された加工誤差の値に基づいて、加工誤差が小さくなるように工具の移動経路を修正する経路修正手段を備えていることを特徴とする工具経路修正装置。
【請求項10】
回転する工具による被削物の加工誤差をコンピュータ装置の3次元グラフィックス機能を利用して予測するためのプログラムであって、
前記工具による加工前の被削物の形状、該工具の切刃形状、および該工具の送りによる移動経路の情報を含む、所定データの入力を受け入れるデータ入力ステップと、
前記所定データに基づいて、前記工具の移動経路上で加工誤差を予測する位置における前記切刃の通過軌跡と、当該位置の直前および直後を含む所定範囲の工具掃引体と、前記被削物とを、それぞれ当該被削物の側から工具を望む所定の視野範囲において描画する描画ステップと、
前記描画ステップにて描画された画像において切刃の通過軌跡が手前に表示されている画素領域を、加工終了後に残る加工面の領域として検出する加工面検出ステップと、
前記加工面検出ステップにて検出された画素領域から、加工面の創成時に被削物を切削する工具の切刃位置である創成位置を特定し、この創成位置における工具の形状誤差および撓み量の少なくとも一方に基づいて、加工誤差の推定値を算出する加工誤差算出ステップと、を有することを特徴とする加工誤差予測のためのコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【図13】
【図21】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【図13】
【図21】
【図23】
【公開番号】特開2010−237843(P2010−237843A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83216(P2009−83216)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
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