説明

加工野菜製品およびその製造方法、並びに加工野菜製品を用いた巻き寿司製品およびその製造方法

【課題】野菜の食感の経時的な低下を防ぐことを可能にした加工野菜製品およびその製造方法、並びに該加工野菜製品を用いた巻き寿司製品およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜で被膜形成された加工野菜製品であって、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比が、1:0.1〜1.8である上記加工野菜製品およびその製造方法、並びに該加工野菜製品を用いた巻き寿司製品およびその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、野菜表面を、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜で被膜形成させた加工野菜製品およびその製造方法、並びに該加工野菜製品を用いた巻き寿司製品およびその製造方法に関する。詳しくは、巻き寿司製品の芯に用いるきゅうり等の野菜表面を、被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比が1:0.1〜1.8であるように、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜で被膜形成することにより、野菜の食感の経時的な低下を防ぐことを可能にした加工野菜製品およびその製造方法、並びに該加工野菜製品を用いた巻き寿司製品およびその製造方法に関する。
【0002】
背景技術
スーパーやコンビニエンスストア等で販売される巻き寿司製品には、数日間の日持ちが要求されている。しかしながら、巻き寿司製品の芯に使用する野菜は、酢飯に用いる合わせ酢の糖分や塩分の影響により、経時的に食感が低下するという問題があった。そのため、日持ちを要求されている期間、巻き寿司製品の芯に使用する野菜の食感の低下を防止し得る巻き寿司製品の開発が望まれている。
【0003】
野菜の食感を保つことを課題とした従来技術としては、例えば、、特公昭63−36746号公報(特許文献1)において、アルギン酸およびペクチンを含有する水溶液からなる被膜形成剤と、カルシウム塩の水溶液からなるゲル形成剤とを組合せてなり、その一方のみまたは両方にエチルアルコールを配合させるという食品被膜形成組成物が提案されている。しかしながら、このような組成物でアルギン酸カルシウム被膜を形成させた野菜で巻き寿司製品を製してみたところ、得られる製品は薬品臭がして、非常に好ましくない風味のものであることがわかった。
また、野菜の食感を保つ方法として、特開昭59−210863号公報(特許文献2)において、多糖類およびアルギン酸(塩)を含有する水溶液と、水溶性アルカリ土類金属塩の水溶液とを用いることにより、野菜の熱処理後であっても生のときの固さを維持するほど、その組織を強化し得るという方法が提案されている。しかしながら、このような方法でアルギン酸カルシウムの被膜を実際に形成させた野菜で巻き寿司製品を製してみたところ、製した直後の野菜の食感は良くても、翌日には、野菜の食感が悪くなってしまうのが認められた。
【0004】
なお、上記記載中で挙げられた文献を列記すると下記の通りである。
【特許文献1】特公昭63−36746号公報
【特許文献2】特開昭59−210863号公報
【発明の概要】
【0005】
このような状況下にあって、本発明は、野菜の食感の経時的な低下を防止し得る加工野菜製品およびその製造方法、並びに該加工野菜製品を用いた巻き寿司製品およびその製造方法を提供することを目的とする。なお、本発明において、野菜の食感の経時的な低下を防止し得るとは、野菜本来の水々しくて歯ごたえ感の良い食感を保ち得ることを意味する。
【0006】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜で野菜表面を覆い、その際被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比を1:0.1〜1.8とするならば、意外にも、野菜の食感の経時的な低下を防止し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜で被膜形成された加工野菜製品であって、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比が、1:0.1〜1.8である加工野菜製品;
(2)野菜がきゅうりである、(1)の加工野菜製品;
(3)(1)または(2)の加工野菜製品を用いて製造した巻き寿司製品;
(4)巻き寿司製品が、水溶性カルシウム塩を含有する合わせ酢で調製した酢飯を用いて製造したものである、(3)の巻き寿司製品;
(5)水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程および水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程を含んでなる、野菜表面がアルギン酸カルシウム被膜形成された加工野菜製品の製造方法であって、上記水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液および上記水溶性カルシウム塩を含有する水溶液のいずれか一方または両方に食酢を添加し、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比を、1:0.1〜1.8とする上記加工野菜製品の製造方法;
(6)水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程を行った後、水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程を行う、(5)の加工野菜製品の製造方法;
(7)野菜がきゅうりである、(5)または(6)の加工野菜製品の製造方法;
(8)水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液および/または水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に対する食酢の添加量を、酢酸換算酸度で0.05〜1.5%とする、(5)〜(7)のいずれかの加工野菜製品の製造方法;
(9)食酢を添加した、水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液および/または水溶性カルシウム塩を含有する水溶液のpHを、4.5〜6.0とする、(8)の加工野菜製品の製造方法;
(10)水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程を、−0.1〜−0.07MPaの減圧下で行う、(5)〜(9)のいずれかの加工野菜製品の製造方法;
(11)(5)〜(10)のいずれかの製造方法で得られた加工野菜製品を用いる巻き寿司製品の製造方法;
(12)巻き寿司製品を、水溶性カルシウム塩を含有する合わせ酢で調製した酢飯を用いて製造する、(11)の巻き寿司製品の製造方法;
(13)合わせ酢中の水溶性カルシウム塩の含有量が、0.01〜1%である、(12)の巻き寿司製品の製造方法;
を提供するものである。
【0008】
本発明によれば、野菜の食感の経時的な低下を防止し得ることから、商品価値を損わない加工野菜製品を提供でき、その上、該加工野菜製品を用いて製造した巻き寿司製品においても野菜の食感の経時的な低下防止が図れることから日持ちを要求される巻き寿司製品の需要拡大が期待できる。
【発明の具体的な説明】
【0009】
定義
本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0010】
また、本発明において、食酢とは、醸造酢、合成酢等を意味し、例えば、米酢、穀物酢、果実酢等が挙げられる。これらを単独または2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0011】
加工野菜製品
本発明の加工野菜製品は、野菜の表面にアルギン酸カルシウム被膜を形成しただけ、或いは、形成した後食酢に浸漬しても野菜の食感の低下を防止し得ないが、アルギン酸カルシウムの被膜中に食酢を含有させ、且つ、食酢を含有させたアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比を1:0.1〜1.8、好ましくは1:0.2〜1.5とすることにより野菜の食感の経時的な低下を防止し得たという本発明者の発見に基づくものである。食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比において、カルシウムに対する酢酸の量が上記範囲より多くなると、アルギン酸カルシウム被膜が酢酸により溶けやすくなり、アルギン酸カルシウム被膜が十分に形成されず、その結果、野菜の食感の経時的な低下を防止し難くなる。また、カルシウムに対する酢酸の量が上記範囲より少なくなると、アルギン酸カルシウム被膜が十分に形成されてはいても、野菜の食感の経時的な低下を防止し得ず、本発明の目的が達成し難くなる。
【0012】
本発明においては、野菜に付着する、水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液の付着量および水溶性カルシウム塩を含有する水溶液の付着量は、同量であるとして、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸(食酢の酢酸換算酸度に配合割合を乗じて算出)とのモル比を算出している。食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比の具体的な算出方法を、以下において説明する。
【0013】
1.水溶性カルシウム塩を含有する水溶液にのみ食酢を添加した場合
食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中におけるカルシウムと酢酸とのモル比は、下記式により求めうる。
カルシウム:酢酸=Y/M:X/60.05
Y:水溶性カルシウム塩の配合割合
M:水溶性カルシウム塩の分子量
:酢酸の配合割合
60.05:酢酸の分子量
従って、カルシウム1モルに対する酢酸のモル比は、下記式(1)により求めうる。
(式1)
カルシウム1モルに対する酢酸のモル比=(M×X)/(60.05×Y)
【0014】
2.水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液にのみ食酢を添加した場合
食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中におけるカルシウムと酢酸とのモル比は、下記式により求めうる。
カルシウム:酢酸=B×Y/M:A×X/60.05
B:きゅうり1に対する水溶性カルシウム塩を含有する水溶液の割合
Y:水溶性カルシウム塩の配合割合
M:水溶性カルシウム塩の分子量
A:きゅうり1に対する食酢を添加した水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液
の割合
:酢酸の配合割合
60.05:酢酸の分子量
従って、カルシウム1モルに対する酢酸のモル比は、下記式(2)により求めうる。
(式2)
カルシウム1モルに対する酢酸のモル比
=(A×X×M)/(60.05×B×Y)
【0015】
3.水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液および水溶性カルシウム塩を含有する水溶液の両方に食酢を添加した場合
食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中におけるカルシウムと酢酸とのモル比は、下記式により求めうる。
カルシウム:酢酸=B×Y/M:(B×X+A×X)/60.05
B:きゅうり1に対する食酢を添加した水溶性カルシウム塩を含有する水溶液の
割合
Y:水溶性カルシウム塩の配合割合
M:水溶性カルシウム塩の分子量
:食酢を添加した水溶性カルシウム塩を含有する水溶液中の酢酸の配合割合
A:きゅうり1に対する食酢を添加した水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液の
割合
:食酢を添加した水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液中の酢酸の配合割合
60.05:酢酸の分子量
従って、カルシウム1モルに対する酢酸のモル比は、下記式(3)により求めうる。
(式3)
カルシウム1モルに対する酢酸のモル比
={(B×X+A×X)×M}/(60.05×B×Y)
【0016】
加工野菜製品の製造方法
アルギン酸カルシウム被膜を実際に形成させる方法としては、水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程、および水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程の両工程を実施すれば良く、その際上記2工程の水溶液に野菜を浸漬させる順序は、いずれが先であっても良いが、水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程を行った後に、水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程を行う方が、形成されたアルギン酸カルシウム被膜の表面が一段となめらかで固くなるので、好ましいといえる。
【0017】
水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液および/または水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に対する食酢の添加量は、酸味が感じられる程度の添加量でよく、具体的には、酢酸換算酸度で0.05〜1.5%になる程度が好ましく、酢酸換算酸度で0.1〜1.0%になる程度がより好ましいといえる。食酢の添加量が上記範囲より少なくなると、野菜の食感の経時的な低下を十分に防止し難くなるばかりか、細菌の増殖により日持ちが図り難くなる傾向となる。また、食酢の添加量が上記範囲より多くなると、食酢の濃度が濃くなりすぎて、むしろ野菜の食感が経時的に低下しやすくなる傾向となる。
【0018】
本発明における、酢酸換算酸度での食酢の添加量の算出方法を、以下において説明する。まず、用いる食酢自体の酢酸換算酸度を求める。具体的には、用いる食酢10gを正確にとり、イオン交換水で10倍に希釈し、その希釈液(100g)に、指示薬として3.1%フェノールフタレイン溶液を2滴加え、力価既知の0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で中和滴定して、下記式により、用いる食酢自体の酢酸換算酸度を求める。
【数1】

次いで、こうして求めた値に食酢の配合割合を乗じて、食酢の酢酸換算酸度での添加量を算出する。
【0019】
本発明においては、水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液および/または水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に対する食酢の添加量は、酢酸換算酸度で0.05〜1.5%とするのが好ましいが、食酢の添加量が多くなるとpHが低くなり、野菜の緑色を保持し難くなる。そのために、pH調整剤を用いることにより、食酢を添加した、水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液および/または水溶性カルシウム塩を含有する水溶液のpHを、4.5〜6.0とするのが好ましく、5.0〜5.5とするのがより好ましいといえる。pHが上記範囲より高くなると、細菌の増殖により日持ちが図り難くなる傾向となる。pH調整剤としては、pH調整のしやすさを考慮して、有機酸塩を用いるのが好ましい。このような有機酸塩としては、食用に供し得るものであればいかなるものであっても良く、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩等が挙げられるが、pHの調整のしやすさや汎用性の観点から、特に、酢酸ナトリウムが好ましいといえる。
【0020】
本発明において、水溶性アルギン酸塩としては、水または食酢に溶解するアルギン酸塩であればいずれのものであっても良く、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム等が挙げられる。これらを単独または2種類以上を組み合わせて用いても良い。水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液中における水溶性アルギン酸塩の含有量は、0.2〜3%程度が好ましく、0.5〜2%程度がより好ましい。水溶性アルギン酸塩の含有量が、上記範囲より少なくなると、アルギン酸カルシウム被膜が形成され難くなり、その結果、野菜の食感の経時的な低下を十分に防止し得ず、また、上記範囲より多くなると、粘度が高くなって、野菜を浸漬させ難くなり、生産性が低下するようになる。
【0021】
水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程における当該水溶液の量は、野菜を完全に浸漬できる程度であればよく、特に限定されるものではない。また、水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程を、真空包装機(例えば、(株)シンダイゴ製、モデルVB)等を用いて全体を真空包装させた状態で−0.1〜−0.07MPaの減圧下で行うと、常圧下では通常1〜30分程度必要な浸漬工程を、5秒〜10分程度に短縮できることから、野菜の食感の低下を一段と抑えることができるので好ましい。しかし、減圧下での浸漬時間を、上記の範囲より短かくすると、最終的にアルギン酸カルシウム被膜を十分に形成させ得なくなる。また、上記の範囲より長くしたとしても、野菜の食感低下の防止効果は期待するほどは改善され得ない。
【0022】
本発明において、水溶性カルシウム塩としては、水または食酢に溶解するカルシウム塩であれば特に限定されず、例えば、焼成カルシウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらを単独で、若しくは2種類以上を組み合わせて用いても良い。水溶性カルシウム塩を含有する水溶液中における水溶性カルシウム塩の含有量は、最終的にアルギン酸カルシウム被膜を形成し得る量であればよく、具体的には0.01〜3%程度が好ましく、0.05〜2%程度がより好ましいといえる。水溶性カルシウム塩の含有量が、上記範囲より少なくなると、アルギン酸カルシウム被膜が形成され難くなり、その結果、野菜の食感の経時的な低下を十分に防止し得ず、また、上記範囲より多くなると、カルシウム塩が溶解し難くなり、カルシウム塩特有の収斂味が強くなるので好ましくない。なお、水溶性カルシウム塩には、例えば、乳酸カルシウムのように水が水和した結晶型のものと、そうでない無水型のものがあるが、上記水溶性カルシウム塩の含有量は、無水型に換算した含有量を意味する。
【0023】
水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程における当該水溶液の量は、野菜を完全に浸漬できる程度であればよく、特に限定されるものではない。野菜を水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に浸漬する時間は、最終的に野菜表面にアルギン酸カルシウム被膜が形成されればよく、特に限定されないが、通常1〜30分程度でよい。
【0024】
巻き寿司製品の製造方法
本発明において、巻き寿司製品の製造の際用いる合わせ酢としては、食酢に必要に応じて水溶性カルシウム塩を配合すること以外は、寿司製品の合わせ酢に一般的に使用されている原料を適宜配合し得、このような原料としては、例えば、砂糖、食塩、アミノ酸、だし等が挙げられる。
【0025】
本発明において、酢飯とは、巻き寿司製品に使う炊飯米に、必要に応じて水溶性カルシウム塩を配合した上記合わせ酢を合わせ調製した酢飯をいう。
【0026】
本発明の合わせ酢に水溶性カルシウム塩を配合することにより、アルギン酸カルシウム被膜が酢飯に接して、経時的にアルギン酸カルシウム被膜のゲル強度が低下するのを防止することができるので好ましい。合わせ酢に配合する水溶性カルシウム塩の配合量は、0.01〜1%程度が好ましく、0.05〜0.8%程度がより好ましい。合わせ酢に配合する水溶性カルシウム塩の配合量が、上記範囲より少なくなると、アルギン酸カルシウム被膜の経時的なゲル強度の低下を防止し難くなる。上記範囲より多くなると、カルシウム塩特有の収斂味が強くなるので食味上好ましくない。なお、水溶性カルシウム塩には、例えば、乳酸カルシウムのように水が水和した結晶型のものと、そうでない無水型のものがあるが、上記水溶性カルシウム塩の配合量は、無水型に換算した配合量を意味する。
【0027】
本発明において、巻き寿司製品とは、野菜を主材とする芯となる具、および酢飯を、のりや卵焼き等で巻いた寿司のことをいう。例えば、かっぱ巻き、サラダ巻き、太巻き等が挙げられる。芯には、きゅうり、レタス等の野菜を主材として用いるが、野菜だけでなく、一般的に使われる材料を併用しても良い。そのような材料としては、例えば、あなご等の魚介類、桜でんぶ、玉子焼き等が挙げられる。
【0028】
本発明の巻き寿司製品で用いる野菜は、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜で被膜形成された加工野菜製品であって、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比が、1:0.1〜1.8である加工野菜製品である。このような野菜としてのきゅうりは、食感の低下を顕著に防止し得るので、特に好ましい。
【0029】
本発明における巻き寿司製品の具体的な製造方法は、加工野菜製品および酢飯等の原料を適宜選択して、常法に準じて巻き寿司製品を製するのであれば、特に限定するものではない。例えば、巻きすの上にのりを敷き、酢飯をのせて広げて、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜で被膜形成された加工野菜製品をのせて巻き込む等の方法が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の被膜形成された加工野菜製品およびその製造方法、並びに該製品を用いた巻き寿司製品およびその製造方法について、実施例および比較例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1
アルギン酸カルシウム被膜形成
次亜塩素酸ナトリウム水溶液で殺菌洗浄後に水洗したきゅうりを縦に4分割した。該きゅうりを1%アルギン酸ナトリウム水溶液に−0.095MPaの減圧下で40秒間浸漬処理後に取り出した。なお、当該処理中のきゅうりと1%アルギン酸ナトリウム水溶液との質量比率は1:1であった。こうして処理したきゅうりを、次いで、食酢の添加量を酢酸換算酸度で0.4%、pHを5.2に調整した下記配合割合の塩化カルシウム水溶液に常圧下で10分間浸漬させ、きゅうり表面に食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜を形成させた後、取り出した。なお、当該処理中のきゅうりと塩化カルシウム水溶液との質量比率は1:1であった。
【0032】
食酢を添加した塩化カルシウム水溶液の配合割合:
食酢(酢酸換算酸度4%) 10%
塩化カルシウム 1%
酢酸ナトリウム 2%
清水 残余
合計 100%
【0033】
食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中におけるカルシウムと酢酸とのモル比は、前記式(1)により求めうる。
カルシウム1モルに対する酢酸のモル比=(M×X)/(60.05×Y)=(110.98×0.4)/(60.05×1)=0.7
M:水溶性カルシウム塩の分子量(塩化カルシウムの分子量:110.98)
:酢酸の配合割合(酢酸換算酸度4%の食酢を10%配合:0.4%)
Y:水溶性カルシウム塩の配合割合(塩化カルシウムを1%配合:1%)
上記式より、実施例1の食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比は、1:0.7である。
【0034】
巻き寿司製品の製造方法
米1.53部を洗米して清水2.1部を加えて120分間浸漬したものを炊飯した。米飯の温度が90〜100℃前後の高温のうちに、食酢(酢酸換算酸度4%)0.18部に砂糖0.15部、食塩0.03部および乳酸カルシウム0.0014部を合わせてなじませた合わせ酢を振りかけて、底の米飯を上げるようにして混ぜた。米飯の温度が80℃前後になったら、扇風機で強い風を送り、余分な水蒸気を蒸発させて、酢飯を調製した。なお、合わせ酢に配合した乳酸カルシウムの配合量は、0.4%であった。
【0035】
巻きすの上にのり1枚(半切り)を敷き、上記酢飯を90gのせて広げて、予め調製しておいた、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜で被膜形成されたきゅうりをのせた。巻きすを手前から巻き、形をととのえた。巻きすを広げ巻き寿司を取り出して、6切れにし、巻き寿司製品を製した。
【0036】
実施例2
実施例1において、食酢を含有する水溶性カルシウム塩水溶液の配合を下記配合割合のものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で巻き寿司製品を製した。
【0037】
食酢を添加した乳酸カルシウム水溶液の配合割合:
食酢(酢酸換算酸度9%) 10%
乳酸カルシウム 2.2%
酢酸ナトリウム 4.5%
清水 残余
合計 100%
【0038】
食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中におけるカルシウムと酢酸とのモル比は、前記式(1)により求めうる。
カルシウム1モルに対する酢酸のモル比=(M×X)/(60.05×Y)=(218.22×0.9)/(60.05×2.2)=1.5
M:水溶性カルシウム塩の分子量(乳酸カルシウムの分子量:218.22)
:酢酸の配合割合(酢酸換算酸度9%の食酢を10%配合:0.9%)
Y:水溶性カルシウム塩の配合割合(乳酸カルシウムを2.2%配合:2.2
%)
上記式より、実施例2の食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比は、1:1.5である。
【0039】
実施例3
実施例1において、食酢を含有する塩化カルシウム水溶液の配合割合における食酢(酢酸換算酸度4%)10%を、2.5%に変更し、pHを5.2になるように調整した以外は、実施例1と同様の方法で巻き寿司製品を製した。
【0040】
食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中におけるカルシウムと酢酸とのモル比は、前記式(1)により求めうる。
カルシウム1モルに対する酢酸のモル比=(M×X)/(60.05×Y)=(110.98×0.1)/(60.05×1)=0.2
M:水溶性カルシウム塩の分子量(塩化カルシウムの分子量:110.98)
:酢酸の配合割合(酢酸換算酸度4%の食酢を2.5%配合:0.1%)
Y:水溶性カルシウム塩の配合割合(塩化カルシウムを1%配合:1%)
上記式より、実施例3の食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比は、1:0.2である。
【0041】
実施例4
実施例1において、きゅうりを1%アルギン酸ナトリウム水溶液に−0.095MPaの減圧下で40秒間浸漬させる浸漬工程を、常圧下で10分間浸漬させた以外は、実施例1と同様の方法で、巻き寿司製品を製した。なお、当該処理中のきゅうりと1%アルギン酸ナトリウム水溶液の質量比率は1:1であった。
【0042】
実施例5
実施例1において、用いる合わせ酢から、乳酸カルシウムの配合を除した以外は、実施例1と同様の方法で、巻き寿司製品を製した。
【0043】
実施例6
実施例4において、用いる合わせ酢から、乳酸カルシウムの配合を除した以外は、実施例4と同様の方法で、巻き寿司製品を製した。
【0044】
実施例7
アルギン酸カルシウム被膜形成
次亜塩素酸ナトリウム水溶液で殺菌洗浄後に水洗したきゅうりを縦に4分割した。該きゅうりを、食酢の添加量を酢酸換算酸度で0.4%、pHを5.2に調整した下記配合割合のアルギン酸ナトリウム水溶液に−0.095MPaの減圧下で40秒間浸漬処理して取り出した。なお、当該処理中のきゅうりとアルギン酸ナトリウム水溶液との質量比率は1:1であった。こうして処理したきゅうりを、次いで、1%塩化カルシウム水溶液に常圧下で10分間浸漬させ、きゅうり表面に食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜を形成させた後、取り出した。なお、当該処理中のきゅうりと塩化カルシウム水溶液との質量比率は1:1であった。
【0045】
食酢を添加したアルギン酸ナトリウム水溶液の配合割合:
食酢(酢酸換算酸度4%) 10%
アルギン酸ナトリウム 1%
酢酸ナトリウム 2%
清水 残余
合計 100%
【0046】
食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中におけるカルシウムと酢酸とのモル比は、前記式(2)により求めうる。
カルシウム1モルに対する酢酸のモル比=(A×X×M)/(60.05×B×Y)=(1×0.4×110.98)/(60.05×1×1)=0.7
A:きゅうり1に対する食酢を添加した水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液
の割合(きゅうりとアルギン酸ナトリウム水溶液の質量比率が1:1
の場合:1)
:酢酸の配合割合(酢酸換算酸度4%の食酢を10%配合:0.4%)
M:水溶性カルシウム塩の分子量(塩化カルシウム:110.98)
B:きゅうり1に対する水溶性カルシウム塩を含有する水溶液の割合
(きゅうりと塩化カルシウム水溶液の質量比率が1:1の場合:1)
Y:水溶性カルシウム塩の配合割合(塩化カルシウムを1%配合:1%)
上記式より、実施例7の食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比は、1:0.7である。
【0047】
実施例1において、上述のとおりにアルギン酸カルシウム被膜の形成方法をかえた以外は、実施例1と同様の方法で巻き寿司製品を製した。
【0048】
実施例8
アルギン酸カルシウム被膜形成
次亜塩素酸ナトリウム水溶液で殺菌洗浄後に水洗したきゅうりを縦に4分割した。該きゅうりを、食酢の添加量を酢酸換算酸度で0.4%、pHを5.2に調整した下記配合割合のアルギン酸ナトリウム水溶液に、−0.095MPaの減圧下で40秒間浸漬処理して取り出した。なお、当該処理中のきゅうりとアルギン酸ナトリウム水溶液との質量比率は1:1であった。こうして処理したきゅうりを、次いで、食酢の添加量を酢酸換算酸度で0.4%、pHを5.2に調整した下記配合割合の塩化カルシウム水溶液に常圧下で10分間浸漬させ、きゅうり表面に食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜を形成させた後、取り出した。なお、当該処理中のきゅうりと塩化カルシウム水溶液との質量比率は1:1であった。
【0049】
食酢を添加したアルギン酸ナトリウム水溶液の配合割合:
食酢(酢酸換算酸度4%) 10%
アルギン酸ナトリウム 1%
酢酸ナトリウム 2%
清水 残余
合計 100%
【0050】
食酢を添加した塩化カルシウム水溶液の配合割合:
食酢(酢酸換算酸度4%) 10%
塩化カルシウム 1%
酢酸ナトリウム 2%
清水 残余
合計 100%
【0051】
食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中におけるカルシウムと酢酸とのモル比については、前記式(3)により求めうる。
カルシウム1モルに対する酢酸のモル比={(B×X+A×X)×M}/(60.05×B×Y)={(1×0.4+1×0.4)×110.98}/(60.05×1×1)=1.5
B:きゅうり1に対する食酢を添加した水溶性カルシウム塩を含有する水溶液
の割合(きゅうりと塩化カルシウム水溶液の質量比率が1:1の場合:1)
:食酢を添加した水溶性カルシウム塩を含有する水溶液中の酢酸の配合
割合(酢酸換算酸度4%の食酢を10%配合:0.4%)
A:きゅうり1に対する食酢を添加した水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液
の割合(きゅうりとアルギン酸ナトリウム水溶液の質量比率が1:1
の場合:1)
:食酢を添加した水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液中の酢酸の配合
割合(酢酸換算酸度4%の食酢を10%配合:0.4%)
M:水溶性カルシウム塩の分子量(塩化カルシウム:110.98)
Y:水溶性カルシウム塩の配合割合(塩化カルシウムを1%配合:1%)
上記式より、実施例8の食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比は、1:1.5である。
【0052】
実施例1において、上述のとおりに食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜の形成方法をかえた以外は、実施例1と同様の方法で巻き寿司製品を製した。
【0053】
実施例9
実施例1において、用いる合わせ酢に配合する乳酸カルシウムの配合量を0.0014部から0.011部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、巻き寿司製品を製した。
なお、合わせ酢に配合した乳酸カルシウムの配合量は、3%であった。
【0054】
比較例1
次亜塩素酸ナトリウム水溶液で殺菌洗浄後に水洗したきゅうりを縦に4分割したものを、1%アルギン酸ナトリウム水溶液に常圧下で10分間浸漬して取り出した(きゅうりとアルギン酸ナトリウム水溶液との質量比率は1:1)。次いで、塩化カルシウム水溶液に常圧下で10分間浸漬させ、きゅうり表面にアルギン酸カルシウム被膜を形成させて取り出した(きゅうりと塩化カルシウム水溶液の質量比率は1:1)。アルギン酸カルシウム被膜の形成方法をかえた以外は、実施例1と同様の方法で巻き寿司製品を製した。
【0055】
比較例2
次亜塩素酸ナトリウム水溶液で殺菌洗浄後に水洗したきゅうりを縦に4分割したものを、下記の配合割合に準じて食酢と酢酸ナトリウムを添加することにより、食酢の添加量を酢酸換算酸度で0.4%、pHを5.2に調整した水溶液に、常圧下で10分間浸漬して取り出した(きゅうりと食酢を含有する水溶液の質量比率は1:1)。
【0056】
食酢を含有する水溶液の配合割合:
食酢(酢酸換算酸度4%) 10%
酢酸ナトリウム 2%
清水 残余
合計 100%
【0057】
きゅうり表面にアルギン酸カルシウム被膜を形成させなかった以外は、実施例1と同様の方法で巻き寿司製品を製した。
【0058】
比較例3
比較例1において、きゅうりを1%アルギン酸ナトリウム水溶液に常圧下で10分間浸漬させる工程を、きゅうりを1%アルギン酸ナトリウム水溶液に−0.095MPaの減圧下で40秒間浸漬させた以外は(きゅうりと1%アルギン酸ナトリウム水溶液の質量比率は1:1)、比較例1と同様の方法で、巻き寿司製品を製した。
【0059】
比較例4
実施例1において、食酢を添加した塩化カルシウム水溶液の配合割合を下記の配合割合にかえた以外は、実施例1と同様の方法で巻き寿司製品を製した。
【0060】
食酢を添加した塩化カルシウム水溶液の配合割合:
食酢(酢酸換算酸度4%) 27%
塩化カルシウム 1%
酢酸ナトリウム 5.4%
清水 残余
合計 100%
【0061】
食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中におけるカルシウムと酢酸とのモル比は、前記式(1)により求めうる。
カルシウム1モルに対する酢酸のモル比=(M×X)/(60.05×Y)=(110.98×1.08)/(60.05×1)=2
M:水溶性カルシウム塩の分子量(塩化カルシウムの分子量:110.98)
:酢酸の配合割合(酢酸換算酸度4%の食酢を27%配合:1.08%)
Y:水溶性カルシウム塩の配合割合(塩化カルシウムを1%配合:1%)
上記式より、比較例4の食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比は、1:2である。
【0062】
比較例5
実施例1において、食酢を添加した塩化カルシウム水溶液の配合割合を下記の配合割合にかえた以外は、実施例1と同様の方法で巻き寿司製品を製した。
【0063】
食酢を添加した塩化カルシウム水溶液の配合割合:
食酢(酢酸換算酸度4%) 0.25%
塩化カルシウム 1%
酢酸ナトリウム 0.05%
清水 残余
合計 100%
【0064】
食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中におけるカルシウムと酢酸とのモル比は、前記式(1)により求めうる。
カルシウム1モルに対する酢酸のモル比=(M×X)/(60.05×Y)=(110.98×0.01)/(60.05×1)=0.02
M:水溶性カルシウム塩の分子量(塩化カルシウムの分子量:110.98)
:酢酸の配合割合(酢酸換算酸度4%の食酢を0.25%配合:0.01
%)
Y:水溶性カルシウム塩の配合割合(塩化カルシウムを1%配合:1%)
上記式より、比較例5の食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比は、1:0.02である。
【0065】
試験例1
実施例1乃至6、並びに比較例1乃至5で得られた巻き寿司製品について、25℃で24時間保存後のきゅうりの食感を評価した。きゅうりの食感の評価は、水々しくて歯ごたえが良いことを「食感が良好である」とし、水分が抜けたり組織が軟化したことにより歯ごたえが悪くなったことを「食感が悪い」とする基準に基づく。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
試験例2
実施例1、実施例7および実施例8で得られた巻き寿司製品について、25℃で24時間保存後のきゅうりの食感を評価した。きゅうりの食感の評価は、試験例1の基準に基づく。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
試験例3
実施例1、実施例5および実施例9で得られた巻き寿司製品について、25℃で24時間保存後のきゅうりの食感および風味を評価した。きゅうりの食感の評価は、試験例1の基準に基づく。結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
表1の結果より、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜で被覆し、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比が1:0.1〜1.8の範囲内にある実施例1乃至6は、食酢を含有してないアルギン酸カルシウム被膜で被覆した比較例1および比較例3、アルギン酸カルシウム被膜を形成していない比較例2、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比が、1:2である比較例4および1:0.02である比較例5に比べて、最終製品のきゅうりの食感が明らかに良好であることが理解される。また、合わせ酢に水溶性カルシウム塩を配合した実施例4および水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液での浸漬工程を減圧下で行った実施例5は、いずれも最終製品のきゅうりの食感がとても良好であるが、特に、合わせ酢に水溶性カルシウム塩を配合し、更に水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液での浸漬工程を減圧下で行った実施例1乃至3は、最終製品のきゅうりの食感が極めて良好であることが理解される。
【0072】
表2の結果より、水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に食酢を添加した実施例1、水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液に食酢を添加した実施例7、並びに水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液および水溶性カルシウム塩を含有する水溶液の両方に食酢を添加した実施例8は、いずれも最終製品のきゅうりの食感が極めて良好であることが理解される。この結果から、食酢は、水溶性カルシウム塩を含有する水溶液および水溶性カルシウム塩を含有する水溶液のいずれか一方または両方に添加すれば良いことが理解される。
【0073】
表3の結果より、合わせ酢中に水溶性カルシウム塩を配合していない実施例5に比べて、合わせ酢中に水溶性カルシウム塩を0.4%配合した実施例1および3%配合した実施例9は、いずれも最終製品のきゅうりの食感が極めて良好であることが理解されるが、合わせ酢中に水溶性カルシウム塩を配合していない実施例5、および合わせ酢中に水溶性カルシウム塩を0.4%配合した実施例1に比べて、合わせ酢中に水溶性カルシウム塩を3%配合した実施例9は、最終製品のきゅうりが、カルシウム塩特有の収斂味を呈し、風味上は好ましくないことも理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜で被膜形成された加工野菜製品であって、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比が、1:0.1〜1.8である上記加工野菜製品。
【請求項2】
野菜がきゅうりである、請求項1に記載の加工野菜製品。
【請求項3】
請求項1または2に記載の加工野菜製品を用いて製造した巻き寿司製品。
【請求項4】
巻き寿司製品が、水溶性カルシウム塩を含有する合わせ酢で調製した酢飯を用いて製造したものである、請求項3に記載の巻き寿司製品。
【請求項5】
水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程および水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程を含んでなる、野菜表面がアルギン酸カルシウム被膜形成された加工野菜製品の製造方法であって、上記水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液および上記水溶性カルシウム塩を含有する水溶液のいずれか一方または両方に食酢を添加し、食酢を含有したアルギン酸カルシウム被膜中のカルシウムと酢酸とのモル比を、1:0.1〜1.8とする上記加工野菜製品の製造方法。
【請求項6】
水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程を行った後、水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程を行う、請求項5に記載の加工野菜製品の製造方法。
【請求項7】
野菜がきゅうりである、請求項5または6に記載の加工野菜製品の製造方法。
【請求項8】
水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液および/または水溶性カルシウム塩を含有する水溶液に対する食酢の添加量を、酢酸換算酸度で0.05〜1.5%とする、請求項5〜7のいずれか一項に記載の加工野菜製品の製造方法。
【請求項9】
食酢を添加した、水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液および/または水溶性カルシウム塩を含有する水溶液のpHを、4.5〜6.0とする、請求項8に記載の加工野菜製品の製造方法。
【請求項10】
水溶性アルギン酸塩を含有する水溶液に野菜を浸漬させる工程を、−0.1〜−0.07MPaの減圧下で行う、請求項5〜9のいずれか一項に記載の加工野菜製品の製造方法。
【請求項11】
請求項5〜10のいずれか一項に記載の製造方法で得られた加工野菜製品を用いることを特徴とする巻き寿司製品の製造方法。
【請求項12】
巻き寿司製品を、水溶性カルシウム塩を含有する合わせ酢で調製した酢飯を用いて製造する、請求項11に記載の巻き寿司製品の製造方法。
【請求項13】
合わせ酢中の水溶性カルシウム塩の含有量が、0.01〜1%である、請求項12に記載の巻き寿司製品の製造方法。

【公開番号】特開2008−79561(P2008−79561A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265468(P2006−265468)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(591112371)キユーピー醸造株式会社 (17)
【Fターム(参考)】