説明

加工食品の調製方法及びレトルト食品

【課題】対象原料を酸若しくはアルカリと接触処理した後、水溶液及び/又は他の原料と
混合して保存する加工食品の調製方法において、上記接触処理した原料による食品のpH
の変化を回避し、高品質の加工食品を調製するための方法の提供。
【解決手段】固形の対象原料に、酸若しくはアルカリと、これらとpH緩衝作用をもつ緩
衝物とを含むpH緩衝溶液を用いて、当該酸若しくはアルカリと接触させる処理をした後
、当該対象原料をpH緩衝溶液及び/又は他の原料と混合し、対象原料に酸若しくはアル
カリを作用せしめる接触処理の目的を達成し、かつ接触処理以降原料を所定のpHに保っ
て、食品の品質を保持することを特徴とする加工食品の調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質を損なわずに、酸若しくはアルカリを作用せしめることが可能な加工食
品の調製方法と、これにより得られた食品を含む容器入り食品、レトルト食品に関する。
【背景技術】
【0002】
加工食品を調製する場合に、食品を酸若しくはアルカリと接触させることが広く行われ
ている。
例えば、0.2〜1.0重量%クエン酸溶液で処理した生むきあさりを他のソース原料
に添加混合し、しかる後F0値4〜5の範囲内で加熱殺菌することを特徴とするボンゴレ
ソースの製造法が提案されている(特許文献1参照)。
クエン酸溶液で処理したあさりを使用し、緩慢な殺菌条件で充分な殺菌を行うことで、
あさりを硬化させない作用効果を有する。
【0003】
また、貝類を、酸類及び/又はアルコール類含有水に浸漬した後、F0 値4〜20で加
熱処理し、得られた加熱処理貝類を用いて、ソース類用原料混合物を調製し、次いで該ソ
ース類用原料混合物を、最終製品のpHが5.0〜7.0となるようなpH条件下、F0
値4〜30で加熱処理することを特徴とする容器入り貝類含有ソース類の製造方法が提案
されている(特許文献2参照)。
酸類又はアルコール類含有水に浸漬した後、緩慢な条件で加熱処理した貝類を使用して
調製したソースを、特定のpH及びF0 値で加熱処理することで、充分な殺菌と、貝類の
食感等を高品質に保つ作用効果を有する。
【0004】
ところで、これらの先行技術において、食品を酸を含む作用物質と接触させる目的は、
原料(貝類)のpHを下げることで、混合原料(ソース)を加熱殺菌する場合の殺菌効率
を上げる点にあると考えられるが、加熱殺菌中やその後の混合原料(ソース)のpHの挙
動については考慮されていない。
即ち、特許文献1に記載の発明によると、クエン酸溶液で処理したあさりを含むソース
は、殺菌後に上記の処理によりあさりに含浸した酸がソース中へ溶出することにより、あ
るいは、これに加えて使用する他の原料によってpHが変化しやすく(特に保存時に)、
保存時にソースが酸性化すると、あさりの食感が硬化し、味も変化しやすい。
一方、特許文献2に記載の発明についても、酸類含有水に浸漬して加熱処理した貝類は
酸を含み、これを混合したソースをpH5.0〜7.0の条件下で加熱処理(製品の加熱
殺菌処理)する。
つまり、上記のpHは製品の加熱殺菌処理の条件として規定されており、したがって、
貝類の酸処理の条件や使用量、他の原料混合物のpH等に基づいて、加熱殺菌処理後の保
存中にソースのpHが変化しやすい。
ソースのpHが貝類等に由来して酸性化すると、貝類の食感が硬化し、味も変化しやす
く、他の原料に対してもpHの影響が出る場合がある。
【0005】
【特許文献1】特公平6−55119号公報
【特許文献2】特開2000−236854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、対象原料(魚介類等)を酸若しくはアルカリ(酸若しくはアル
カリを含む水溶液等)と接触処理する加工食品の調製方法、又は、該接触処理の後、該水
溶液及び/又は他の原料(ソースや他の種類の原料等)と混合して保存する加工食品の調
製方法において、上記接触処理中やそれ以降に該水溶液又は他の原料のpHが特定の値か
ら変化し、原料に影響を及ぼすことを回避するための加工食品の調製方法の提供を目的と
する。
また、上記の方法で調製された原料を含む高品質の容器入り食品、レトルト食品の提供
を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、先行技術のように、対象原料を酸等と接触させ、pHを下げて加熱殺菌
効率を上げる場合に、原料に酸と共にこれとpH緩衝作用をもつ物質を含むpH緩衝溶液
を加えた。そして、酸と緩衝物の作用により、加熱時には殺菌に必要な特定の酸性域のp
Hとなり、加熱中乃至保存時には、上記の原料に影響を及ぼすpHの変化を抑えて、原料
を適正なpHに平衡化することができ、原料の品質を保持することが可能となることを見
出した。また、pH緩衝溶液による接触処理は、種々の酸若しくはアルカリ処理に応用し
得ることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、品質を損なわずに、酸若しくはアルカリを作用せしめて加工食
品を調製することが可能となる。また、本発明により得られる加工食品は、調製乃至保存
の過程を通じて、pHが安定なものであり、品質が均質で優れる。更に、この加工食品を
含む容器入り食品やレトルト食品等も、品質が均質で優れたものになる。
【0009】
本発明に用いる対象原料に特に制限はなく、魚介類、肉類、野菜類が挙げられる。
本発明は、魚介類、特に二枚貝、巻き貝等の貝類、肉類、特に牛肉等の畜肉類に適用す
ると、これらの食感、保水性(保水性が上がるとジューシーな食感が得られる)、食味を
向上する効果に優れ、これらに適する。原料の形態は任意であり、生鮮品、冷凍品等でよ
い。原料には液状やペーストのものを含む。
【0010】
酸若しくはアルカリとは、対象原料に接触処理して当該酸若しくはアルカリを作用せし
めるための物質である。
酸若しくはアルカリは、食品に使用できるもの、例えば食品添加物及び原材料として認
められているものであれば何れでもよいが、酸としてはクエン酸、乳酸、酒石酸、リン酸
、リンゴ酸、酢酸、グルコン酸が、アルカリとしてはクエン酸ナトリウム、重曹、リン酸
ナトリウム、グルタミン酸ナトリウムが、対象原料の食感・食味品質を向上する上から好
ましい。クエン酸ナトリウムは、クエン酸2ナトリウム、クエン酸3ナトリウムの両方を
含み、通常クエン酸3ナトリウムを用いるとよい。上記の酸若しくはアルカリは、任意に
組合せて使用することができ、また、後記のpH緩衝物として使用することができる場合
がある。上記の酸若しくはアルカリは、成分そのものとして、また食酢、果汁等の天然物
として使用できることは勿論である。酸若しくはアルカリは、これらを含む水溶液として
用いる。
【0011】
緩衝物とは、上記の酸若しくはアルカリと共存する場合にpH緩衝作用をもつ物質であ
る。具体的には、前記の特開2000−236854号公報記載の発明に基づいて説明す
れば、酸類含有水に浸漬し加熱処理した貝類を用いて調製したソース類用原料混合物をp
Hが5.0〜7.0となるような条件で加熱処理する場合に、加熱後の保存時に、あさり
からソース中に酸が溶出し、ソースのpHが5.0を下回ることがないように、当該酸類
及び他の原料と混合された場合に、pH緩衝作用により、ソースのpHを5.0〜7.0
の間で平衡化するための物質である。つまり、酸若しくはアルカリと共役して、電離平衡
を保つ性質により、pHを安定化させる物質である。尚、緩衝物には、酸と共存する場合
に、酸側でpHを安定化させる弱アルカリを含む酸や、アルカリと共存する場合に、アル
カリ側でpHを安定化させる弱酸を含むアルカリが含まれる。
【0012】
緩衝物は、このような作用のあるものであれば任意に使用し得るが、次の酸若しくはア
ルカリと共役させるものとして、各々次のものが望ましいものとして挙げられる。緩衝物
は、主に、使用する酸の塩及び/又は使用する酸と共存する場合に酸側でpHを安定化さ
せる弱アルカリを含む酸であるか、使用するアルカリの共役酸及び/又は使用するアルカ
リと共存する場合にアルカリ側でpHを安定化させる弱酸を含むアルカリであることが望
ましい。
酸 緩衝物
クエン酸 クエン酸ナトリウム
乳酸 乳酸ナトリウム、乳酸カリウム
酒石酸 酒石酸ナトリウム、カリウム
リン酸 リン酸ナトリウム
リンゴ酸 リンゴ酸ナトリウム
酢酸 酢酸ナトリウム
アルカリ 緩衝物
クエン酸ナトリウム クエン酸
重曹 クエン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム
リン酸ナトリウム リン酸
【0013】
次に、本発明の加工食品の調製方法について説明する。先ず、対象原料を酸若しくはア
ルカリと接触処理する加工食品の調製方法あるいは、該接触処理の後、この処理に用いた
水溶液や他の原料と混合して保存する加工食品の調製方法が本発明の前提となる。本発明
は、対象原料を酸若しくはアルカリと接触処理する場合に、酸若しくはアルカリと、これ
らとpH緩衝作用をもつ緩衝物とを含むpH緩衝溶液を用いて行う。これによって、酸若
しくはアルカリと緩衝物の作用により、接触処理時には必要な特定のpH域を達成し、か
つ、接触処理乃至保存時を通じて、原料を適正なpHに平衡化することができるため、原
料の品質を保持することが可能となる。
【0014】
先ず、対象原料にpH緩衝溶液を接触して酸若しくはアルカリを作用せしめる接触処理
を行う。接触処理としては、対象原料をpH緩衝溶液に浸漬したり、これと混合したり、
原料に該溶液を噴霧する処理、含浸する処理が挙げられる。液状やペーストの原料では、
それ自体をpH緩衝溶液となし得る。対象原料とpH緩衝溶液とを容器に密封して保持す
る態様も含む。接触処理は加熱下で行うことができる。
また、上記の接触処理をした後、対象原料をpH緩衝溶液及び/又は他の原料と混合し
て保存する場合とは、特開2000−236854号の発明において、酸類で処理した貝
類を用いてソースを調製し、加熱殺菌後保存する如くである。
このように、pH緩衝溶液を用いて接触処理を行うことにより、接触処理あるいはそれ
以降の保存の間に、pH緩衝溶液及び/又は他の原料を特定の範囲のpHとすることがで
きる。特開2000−236854号の発明において、加熱処理の際にpH5.0〜7.
0とし、かつ保存中も当該pH域を維持する如くである。
【0015】
以上の操作によって、対象原料に酸若しくはアルカリを作用せしめる接触処理の目的が
達成され、同時に接触処理以降原料を所定のpHに保って、原料のpHが変化して、原料
の品質に悪影響を及ぼす問題を回避することが可能となる。なお、以上の作用を達成する
ために、対象原料のpH、使用量、酸若しくは塩基と緩衝物の種類、濃度、使用量、pH
緩衝溶液の濃度、使用量を適宜調節することは、本発明の技術思想に沿って当業者が適宜
実施することができる。
本発明は、以上の構成を基本として実施可能であるが、より具体的な実施態様について
説明する。
【0016】
(接触処理の間に原料のpHを平衡化する)
対象原料をpH緩衝溶液と接触処理する間にpH緩衝能を作用させる。特に、接触処理
の間に、pH緩衝溶液のpHを、酸接触処理では、例えば3.0〜4.5、好ましくは3
.8〜4.2、アルカリ接触処理では、例えば6.5〜8.0、好ましくは6.8〜7.
2で平衡化させるのがよい。各々の処理で緩衝溶液のpHが中性側に外れる場合は、酸若
しくはアルカリを十分に作用できない場合があり、酸側若しくはアルカリ側に外れる場合
は、原料の食味等に悪影響を与えやすい。よって、上記のpHの範囲により、原料の品質
を保って、酸若しくはアルカリを十分に作用させることが可能となる。
【0017】
また、酸接触処理に用いるpH緩衝溶液の酸含有量を0.1〜3.0質量%、及び緩衝
物の含有量を0.1〜5.0質量%、一方、アルカリ接触処理に用いるpH緩衝溶液のア
ルカリ含有量を0.1〜5.0質量%、及びpH緩衝物の含有量を0.1〜5.0質量%
とするのがよい。酸としては、乳酸、酒石酸、クエン酸、これに混合する緩衝物しては、
乳酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アルカリとしては、重曹、こ
れに混合する緩衝物しては、クエン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウムが各々望まし
い。
対象原料と水溶液の使用割合は、質量比で前者1対して後者1以上が望ましい。更に、
接触処理をpH緩衝溶液を用いてボイル処理して行うことができる。例えば、接触処理を
ボイル処理して行えば、魚介類、肉類の軟化処理として有効な手段となり、特に肉類に適
する。ボイル処理の条件としては、80〜100℃、好ましくは90〜100℃で、1〜
300分間、好ましくは60〜100分間がよい。
【0018】
なお、ボイル処理に用いるpH緩衝溶液に、食塩、ショ糖、トレハロース等の糖類等を
加えることができ、これらの含有量を1〜50質量%とするのがよく、魚介類、肉類の肉
質の軟化処理をする場合に好ましい。以上の処理により、対象原料の品質を損なわずに、
酸若しくはアルカリを作用せしめることが可能となる。特に、魚介類、肉類に接触処理を
施す場合に、保水して肉質を軟化し、食味を保持する効果があるので有効である。
【0019】
(事前処理を施した対象原料を接触処理し、保存中の原料のpHを平衡化する)
事前処理とは、接触処理の前に、予め対象原料を酸若しくはアルカリと接触させる処理
をいう。事前処理を施した対象原料を、酸若しくはアルカリを含むpH緩衝溶液と接触処
理した後、該緩衝溶液及び/又は他の原料と混合して保存する場合に、接触処理乃至保存
中の原料のpHを平衡化する。事前処理としては、例えばpH7.5〜9、好ましくは8
.0〜8.6のアルカリを含む水溶液で浸漬することが挙げられる。水溶液のアルカリ含
有量を0.1〜6.0質量%するのがよい。アルカリとしては、クエン酸ナトリウム、重
曹、リン酸ナトリウムが望ましい。対象原料と水溶液の使用割合は、質量比で前者1対し
て後者1〜5が望ましい。事前処理を、対象原料を酸若しくはアルカリを含むpH緩衝溶
液と接触処理して行い得ることは当然である。
【0020】
接触処理としては、例えば上記のように事前処理を施した後水溶液を除いた原料を、酸
を含むpH緩衝溶液と容器に密封し、必要に応じて加熱(殺菌)処理することができ、こ
の処理の後に保存する。この場合、pH緩衝溶液のpHを、加熱時に例えば3.8〜4.
4、好ましくは3.9〜4.2、加熱乃至保存時に例えば3.8〜6.4、好ましくは3
.9〜6.2で平衡化するのがよい。
また、pH緩衝溶液の酸含有量を0.01〜2.0質量%、好ましくは0.1〜0.8
質量%、緩衝物の含有量を0.01〜5.0質量%、好ましくは0.1〜0.8質量%と
するのがよい。酸としては、クエン酸、リン酸、酢酸、これに混合する緩衝物しては、ク
エン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムがよい。対象原料と水溶液の使用
割合は、質量比で前者1対して後者0.4〜2が望ましい。なお、上記のpH緩衝溶液に
、食塩、ショ糖、トレハロース等の糖類等を加えることができ、これらの含有量を0.5
〜4.0質量%とするのがよく、魚介類、肉類の軟化処理をする場合に好ましい。
【0021】
上記の加熱処理を行う場合は、例えば120〜125℃で、30〜60分間、F0 値2
5〜30の条件にするとよい。つまり、原料を酸を含む緩衝溶液と混合して加熱すること
で、比較的緩慢な条件で高い殺菌効率が得られる。
以上の処理は、魚介類、特に貝類、肉類に事前処理を施して肉質を軟化し、続いて酸に
接触した状態で加熱(殺菌)処理する場合に、殺菌効率を上げると共に、肉質を硬化させ
ず、食味を保持する効果があり、特に有効である。
【0022】
(本発明で調製した加工食品を含む食品)
以上の態様により調製した加工食品、例えば、肉質を軟化された高品質の魚介類、肉類
や、肉質を軟化された高品質の、保存性に優れた魚介類、肉類は各種食品の原料として利
用することができる。上記の食品を原料として含むレトルト食品等は、該原料が安定した
pHの高品質のものであるため、高品質で均質な性能を有するものとなる。
【0023】
更に、本発明を用いて各種食品を調製する具体的態様について説明する。
(加圧加熱処理済食品の製造法)
魚介類を、pH緩衝溶液を用いて浸漬処理して酸接触処理(好ましくはpH3.0〜4
.5で行う)又はアルカリ接触処理(好ましくはpH6.5〜8.5で行う) した後水切り
し、ボイル又は蒸煮処理してから容器に収容し、加圧加熱処理する。魚介類をpH緩衝溶
液、水、他の食品と共に容器に収容してもよい。加圧加熱処理の条件としては、105〜
135°C、ゲージ圧0.2〜3.0kg/cm2で3〜60分間程度が例示される。上記
の方法により、魚介類を含むレトルト食品などの加圧加熱食品を製造する場合に、具材と
して含まれている魚介類の加圧加熱処理した場合の臭みの発現を低減し、魚介類の風味が
良好に活かされたカレー、シチューなどの加圧加熱食品を製造することが可能となる。
【0024】
(加圧加熱処理済食品の製造法)
肉類をpH緩衝溶液を用いて浸漬処理してアルカリ接触処理(好ましくはpH6.5〜
8.5で行う) した後、水切りして加圧加熱処理するか、あるいは、上記浸漬した状態で
加圧加熱処理する。加圧加熱処理の条件は、前記の魚介類を用いた食品の場合と同様であ
る。蒸気を直接接触させることによって、肉類に加圧加熱処理を施すこともできる。浸漬
処理は、70°C以下、更に好ましくは5°C〜40°Cで実施するのが、アルカリを作
用させ加熱処理済み肉類の食感を向上する上で好適である。同様の点から、浸漬処理は1
5分間以上、さらには1時間〜20時間実施すればよい。これによれば、肉の繊維のほぐ
れ性及び繊維自体の柔らかさにおいて優れ、その食感が従来の加熱処理済み肉類に比べて
格段に柔らかい肉類を得ることができ、レトルト食品等の具材として使用するのに好適な
肉類と、これを用いた高品質の加圧加熱食品を製造することが可能となる。
【0025】
(即席麺の製造方法)
茹で麺類にアルカリpH緩衝溶液(好ましくはpH7.0〜10.0)を含浸させてアル
カリ接触処理し、次いで乾燥して即席麺類を製造する。生パスタ、乾燥パスタ、生麺又は
乾燥麺の一種又は二種以上の混合物を熱湯などを用いて茹で麺類を得る。茹での程度は任
意とすることができるが、α化度が少なくとも60%以上及び水分含量が50〜80重量
%となるまでお湯で茹でるのが即席麺の食感向上の面から好ましい。
アルカリ溶液を含浸させる量としては、該麺類を0.2〜1.0モル%、好ましくは0
.25〜0.5モル%濃度のアルカリ溶液中に5〜60分間、好ましくは10〜30分間
浸漬したときに含浸される量に相当する量であればよい。これにより湯戻し性と食感向上
効果が得られる。乾燥方法は任意で常法に従えばよく、凍結乾燥によることが望ましい。
この構成によれば、1分〜3分といった短期間で湯戻しできる即席パスタや即席麺が提供
される。この即席麺は、湯戻しした時に表面がツルツルして舌ざわりがよく、弾力性にと
んだ食感の良好な麺となる。
【0026】
(pH緩衝溶液とされた液状乃至ペースト状食品)
液状乃至ペースト状食品を、原料由来の酸若しくはアルカリと、これらとpH緩衝作用
をもつpH緩衝物とを含むpH緩衝溶液とし、至適pH域に緩衝されるように構成する。
食品としてはカレーソース、スープ等が挙げられる。つまり、pH緩衝溶液で製品を構成
する。この構成によれば、安定した呈味を有し、具材の風味を十分に生かすことが可能な
液状乃至ペースト状食品を得ることができる。
【0027】
(pH緩衝溶液とされた浅漬調味料)
酸味料と該酸味料の酸とpH緩衝作用をもつpH緩衝物とを含んで酸性のpH緩衝溶液
(好ましくはpHが4.0〜4.8)とされた浅漬調味料を得る。浅漬調味料は常法に従っ
て構成すればよく、用いる酸に応じて適宜前記のpH緩衝物を選定し、上記の構成を達成
すればよい。つまり、pH緩衝溶液で製品を構成する。この構成によれば、安定した呈味
を有し、素材の風味を十分に生かすことが可能な浅漬調味料を得ることができる。
【0028】
本発明は、以上の構成に種々の応用改変を行うことでも達成され、上記のものの他に様
々な原料を使用して、種々の食品を調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下実施例等に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されず、種々の応
用変更をなし得る。
【実施例】
【0030】
実施例1(肉の処理)(酸接触処理)
25mm×25mm×20mmの大きさにダイスカットした牛肉300gと乳酸1質量
%、乳酸ナトリウム0.8質量%、ショ糖5質量%を含むpH緩衝溶液450gとを混合
し、90℃で10分間ボイル処理した。上記緩衝溶液のpHは、ボイル処理前は3.74
で、処理後は4.23で、ボイル処理の間3.74〜4.23の範囲で推移した。上記の
処理を施したボイル牛肉は、歩留りが70.2質量%あり、ジューシーで軟らかい食感と
、酸味が感じられず自然な風味を有していた。
【0031】
比較例1
牛肉300gと水450gとを実施例1と同様にボイル処理した。水のpHは7.81
で、ボイル処理した後のpHは5.93であった。上記の処理を施したボイル牛肉は、歩
留りが61.0質量%で、繊維質の非常に硬い食感であった。
比較例2
水溶液に乳酸0.5質量%を含み、乳酸ナトリウムを含まないこと以外は、実施例1と
同様にしてボイル牛肉を得た。上記水溶液のpHは、ボイル処理前は2.83で、処理後
は4.13であった。上記の処理を施したボイル牛肉は、歩留りが68.7質量%で、比
較例1のものと比べて軟化しているが、繊維質の硬さのある食感で、やや酸味が感じられ
た。
【0032】
実施例2(肉の処理)(アルカリ接触処理)
25mm×25mm×20mmの大きさにダイスカットした牛肉300gと炭酸水素N
a0.2質量%、クエン酸ナトリウム1質量%、グルタミン酸ナトリウム2質量%、ショ
糖5質量%を含むpH緩衝溶液450gとを混合し、90℃で10分間ボイル処理した。
上記緩衝溶液のpHは、ボイル処理前は7.79で、処理後は7.16で、ボイル処理の
間7.79〜7.16の範囲で推移した。上記の処理を施したボイル牛肉は、歩留りが6
8.9質量%あり、ジューシーで軟らかい食感と自然な風味を有していた。
【0033】
比較例3
水溶液に炭酸水素ナトリウムを含まないこと以外は、実施例2と同様にボイル牛肉を得
た。上記水溶液のpHは、ボイル処理前は8.50で、処理後は6.30であった。上記
の処理を施したボイル牛肉は、歩留りが61.2質量%で、ある程度軟化しているが、繊
維質の硬さのある食感であった。
【0034】
実施例3(あさりの処理)
あさりのむき身1000gをクエン酸ナトリウム2.0質量%を含むpH8.40の水
溶液2000gに30分間浸漬処理(事前処理)した。水溶液を分離したあさり1320
gと、クエン酸0.6質量%、クエン酸ナトリウム0.6質量%、食塩0.89質量%を
含むpH緩衝溶液650gとをレトルトパウチに充填密封し、レトルトで120℃で45
分間、F0値25の条件で加熱殺菌処理し、得られたパウチ入りあさりを1週間常温で保
存した。上記緩衝溶液のpHは、加熱処理前は4.00で、保存後は5.90であった。
保存後のあさりは、歩留りが83質量%で、ジューシーで軟らかい食感と自然な風味を有
していた。
【0035】
比較例4
加熱処理に用いる水溶液にクエン酸ナトリウムを含まないこと以外は、実施例3と同様
にパウチ入りあさりを得た。上記水溶液のpHは、加熱処理前は2.3で、保存後は6.
1であった。保存後のあさりは、歩留りが80質量%で、ある程度軟化しているが、繊維
質の硬さのある食感で、やや酸味が感じられた。
【0036】
実施例4(あさり入りレトルト食品)
実施例3で得られたあさりのむき身(パウチを開封し水溶液を分離したもの)10gと
パスタソース180gを混合してレトルトパウチに充填密封し、レトルトで122℃で1
4分間、F0値4以上の条件で加熱殺菌処理してレトルトパスタソースを得た。このパス
タソースを食すると、あさりはジューシーで軟らかい食感を有する高品質のものであった

【0037】
実施例5(酸接触処理したエビ入りレトルト食品)
シュマールエビを室温で3倍質量の酒石酸1.5%及びクエン酸ナトリウム1.0%を
含むpH緩衝溶液中に30分間浸漬した後水切りし、95℃で3分間ボイル処理して水冷
・水切りした。このエビを具材に用いてカレーソースを常法により調理して容器に収容し
、120℃、ゲージ圧1.5kg/cm2で20分間加圧加熱処理して加圧加熱食品を製造
した。これを食すると、魚介類の臭みは感じられず、シュマールエビの風味の活かされた
高品質のカレーソースであった。尚、上記緩衝溶液のpHは、浸漬処理前は3.2で、処
理後は4.5で、浸漬処理の間3.2〜4.5の範囲で推移した。
【0038】
実施例6(アルカリ接触処理したイカ入りレトルト食品)
イカを室温で3倍質量のクエン酸ナトリウム0.5%及びクエン酸0.02%を含むp
H緩衝溶液中に30分間浸漬した後水切りし、95℃で3分間ボイル処理して水冷・水切
りした。これを用いて実施例5と同様に加圧加熱食品を製造したところ、魚介類の臭みの
感じられない高品質のカレーソースであった。尚、上記緩衝溶液のpHは、浸漬処理前は
6.8で、処理後は6.2で、浸漬処理の間6.2〜6.8の範囲で推移した。
【0039】
実施例7(アルカリ接触処理した加熱処理済み牛肉)
25mm角のサイの目状にカットされた冷凍牛肉を解凍し、カット牛肉を得た。次に、
前記カット牛肉を5°Cの炭酸水素ナトリウム0.5重量%及びクエン酸3ナトリウム2
.5%を含むpH緩衝溶液に16時間浸漬し、水切りしてアルカリ処理済みのカット肉を
得た。尚、上記緩衝溶液のpHは、浸漬処理前は7.8で、処理後は7.2で、浸漬処理
の間7.8〜7.2の範囲で推移した。次いで、上記アルカリ処理済みのカット肉を圧力
釜に入れ、釜を密閉した後、117°Cの熱水中で、30分間の加圧加熱処理を行ない、
加熱処理済みカット牛肉を得た。このようにして得られた加熱処理済み牛肉は、食感が適
度の柔らかさを有する高品質のものであった。
【0040】
実施例8(アルカリ接触処理した加熱処理済み牛肉)
上記実施例7と同様にして、肉類にアルカリ処理済みカット牛肉を得た。次いで、上記
アルカリ処理済みのカット肉を、浸漬処理に用いた上記緩衝溶液に浸漬した状態で、圧力
釜に入れ、釜を密閉した後、117°C、30分間の加圧加熱処理を行ない、加熱処理済
みカット牛肉を得た。上記緩衝溶液のpHは、加圧加熱処理前は7.8で、処理後は7.
0で、加熱処理の間7.8〜7.0の範囲で推移し、3カ月保存後は7.0であった。こ
のようにして得られた加熱処理済み牛肉は、食感が適度の柔らかさを有する高品質のもの
であった。
【0041】
実施例9(アルカリ接触処理した乾燥即席麺)
デュラムセモリナ粉100%の押し出し成型パスタ(パスタの肉厚0.77mm、横10
mm、縦35mm))を、熱湯中5分間茹でた。茹であがったパスタのα化度は85%、水分
含量は60%であった。このパスタを、pHが8.01〜8.15の重炭酸ナトリウム0
.25M及びクエン酸3ナトリウム0.25Mを含むpH緩衝溶液(25℃)に30分間
浸漬し、アルカリ溶液をパスタに含有させた(水分含量70%)。次にこのパスタを40
gづつPE製の容器に充填し、−5.0℃の雰囲気下で3時間放冷してα化度を50%に
調整した。ついで、0.04〜0.1トール、棚加熱温度30℃で真空乾燥して即席パス
タを得た。このようにして得た即席パスタに熱湯注湯したところ、3分以内で完全に湯戻
りし、生パスタと同等の良好な食感を有していた。この良好な食感は、スープ内で10分
以上保持できた。
【0042】
実施例10(pH緩衝溶液とされたペースト状食品)
実施例1で得られた牛肉40gとクエン酸ナトリウム0.15g(緩衝物)とカレーソ
ース170gを混合してレトルトパウチに充填密封し、レトルトで122℃で14分間、
F0値4以上の条件で加熱殺菌処理してレトルトカレーを得た。このカレーソースを食す
ると、牛肉はジューシーで軟らかい食感を有し風味もよく高品質のものであり、カレーソ
ースの風味も良好であった。カレーソース(牛肉を除く)のpHは、加熱処理前は5.6
で、処理後は6.1で、加熱処理の間5.6〜6.1の範囲で推移し、3カ月保存後は6
.1であった。
【0043】
実施例11(pH緩衝溶液とされた浅漬調味料)
発酵調味料7部、米酢12部、醤油3部、液糖10部、柚子果汁5部、酢酸ナトリウム
0.04部と、水47部、粉体昆布エキス5部、粉体カツオエキス5部、食塩6部とを混
合して、浅漬調味料を製造した。得られた浅漬調味料は、酢酸含量約0.5%、アミノ態
窒素含量約140mg%、pH約4.0、アルコール含量約1.3%、全窒素含量約26
0mg%、糖度約8%、塩分含量約8%であり、サッパリとしてコクのある呈味を有する
と共に、柚子果汁のデリケートな風味とカツオと昆布のうま味がそのまま十分に生かされ
、優れた呈味を有するものであった。
【0044】
この浅漬調味料は、常温保存が可能で、当該調味料1部に剥皮したキュウリ2〜3部を
10〜30分間浸漬処理して製造した浅漬キュウリは、サッパリとしてコクがあり、柚子
果汁のデリケートな風味とカツオと昆布のうま味がそのまま十分に生かされた従来製品に
みられない全く新しいタイプの呈味のものであった。上記調味料のpHは、浸漬処理前は
4.0で、処理後は4.2で、浸漬処理の間4.0〜4.2の範囲で推移した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形の対象原料に、酸若しくはアルカリと、これらとpH緩衝作用をもつ緩衝物とを含む
pH緩衝溶液を用いて、当該酸若しくはアルカリと接触させる処理(以下接触処理という
)をした後、当該対象原料をpH緩衝溶液及び/又は他の原料と混合し、対象原料に酸若
しくはアルカリを作用せしめる接触処理の目的を達成し、かつ接触処理以降原料を所定の
pHに保って、食品の品質を保持することを特徴とする加工食品の調製方法。
【請求項2】
対象原料が魚介類、肉類、野菜類からなる群から選ばれた1つ以上である請求項1記載の
方法。
【請求項3】
酸が、クエン酸、乳酸、酒石酸、リン酸、リンゴ酸、酢酸、グルコン酸からなる群から選
ばれた1つ以上である請求項1記載の方法。
【請求項4】
アルカリが、クエン酸ナトリウム、重曹、リン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウムか
らなる群から選ばれた1つ以上である請求項1記載の方法。
【請求項5】
該接触処理をpH緩衝溶液のpHが3.0〜4.5の範囲となるようにして行うか(以下
酸接触処理という)、あるいは、pH緩衝溶液のpHが6.5〜8.0の範囲となるよう
にして行う(以下アルカリ接触処理という)請求項1記載の方法。
【請求項6】
接触処理をpH緩衝溶液を用いてボイル処理して行う請求項1又は5項に記載の方法。
【請求項7】
対象原料が、予め酸若しくはアルカリと接触させて(以下事前処理という)得られたもの
である請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
該事前処理をアルカリを含む水溶液を用いて行い、かつ、該接触処理を酸を含むpH緩衝
溶液を用いて行う請求項7記載の方法。
【請求項9】
該事前処理を水溶液のpHが7.5〜9.0の範囲となるようにして行い、該接触処理を
pH緩衝溶液のpHが3.8〜4.4の範囲となるようにして行い、該接触処理乃至接触
処理以降のpH緩衝溶液又は他の原料のpHが3.8〜6.4の範囲となるようにする請
求項8記載の方法。
【請求項10】
該事前処理に用いる水溶液のアルカリ含有量が0.1〜6.0質量%で、該接触処理に用
いるpH緩衝溶液の酸含有量が0.01〜2.0質量%で、緩衝物の含有量が0.01〜
5.0質量%である請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
接触処理を加熱下で行う請求項8記載の方法。
【請求項12】
加熱条件が120〜125℃で、30〜60分間、F0 値25〜30である請求項11記
載の方法。
【請求項13】
請求項1記載の方法によって得られた食品を含むレトルト食品。

【公開番号】特開2006−75175(P2006−75175A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341533(P2005−341533)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【分割の表示】特願2002−40570(P2002−40570)の分割
【原出願日】平成14年2月18日(2002.2.18)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】