説明

加水分解によりサリチル酸を放出するバイオフィルム阻害コーティング

本発明は、表面におけるバイオフィルム増殖を調節するためのコーティング組成物に関し、該組成物は、A)下記構造:


で示される少なくとも1つの基を有するエチレン性不飽和化合物と、B)エチレン性不飽和化合物との反応生成物を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)は、防止すること、または頻度を減らすことさえ非常に難しいことがわかっている。CAUTIを治療するため殺菌性銀を放出するカテーテルは市場で成功してきているが、その臨床効果に関する証拠は混在している。抗生物質が、全身感染症を引き起こす浮遊性のプランクトン細菌の処理に効くことが判明しているが、非生物表面に細菌が難分解性バイオフィルムを形成するため、抗生物質はしばしば器具関連感染に対して機能しない。最大で、対応するプランクトン細菌を殺すために必要となる1000倍の濃度での抗生物質に対するバイオフィルムの耐性の原因の1つは、その複雑な構造と機能の分化である。
【0002】
グラム陽性菌およびグラム陰性菌ならびに酵母を含むいくつかの特有の微生物が、CAUTIを引き起こすことが観察されている。したがって、バイオフィルムおよびバイオフィルム関連感染症に対抗するため、幅広い活性による処理が強く求められている。一旦形成されると、バイオフィルムは除去するのが非常に難しいため、抗感染性医療機器の大部分の研究は、微生物が機器に接触するかまたは機器表面に近づくとすぐに微生物を殺す機器材料を目指す。
【0003】
今まで限られた商業的影響を有していた、バイオフィルムおよび関連感染症を防止する他の可能性は、微生物を必ずしも殺すことなくバイオフィルムの形成を中断または阻害することである。このタイプの試みは、抗バイオフィルムと称される。例えば、細菌の菌体数感知信号(細菌がその遺伝子発現を修正するために用いる外部信号である)を妨げる化学物質が知られている。バイオフィルム形成を阻害し得る場合、表面上の細菌細胞密度を制限することができ、機器上の細菌コロニーの毒性を弱毒化し得ることが期待される。この分野の研究は最近大きな注目を集めており、数多くの対象分子が有効な菌体感知阻害剤として提案されている。
【0004】
サリチル酸(SA)、アセチルサリチル酸(アスピリン)の代謝産物は、多くの種の細菌に対して、バイオフィルム形成の中断および毒性因子の弱毒化を含む幅広い効果を有することが言及されている。そのメカニズムは完全には解明されていないが、サリチル酸が、Staphylococcus epidermidis、Bacillus subtilis、およびPseudomonas aeruginosaならびにStaphylococcus aureusのバイオフィルムを阻害し、Pseudomonas aeruginosaおよびStaphylococcus aureusにおける毒性因子の合成を低減し、種々の微生物のカテーテルに対する付着を減らすことが実証されている。酵母Candida albicansに対するアスピリンと同様に、サリチル酸は、グラム陽性細菌(Staphylococcus)およびグラム陰性細菌(Pseudomonas)のいずれに対しても抗バイオフィルム効果を有する。
【0005】
アクリル酸サリチルおよびそのポリマーは、上記物質の初期の目標であるポリマーに対して抗炎症特性を与えることで知られている。血液適合性は、同様の物質に対して他の言及される目標である。
【0006】
国際公開第0027438号および米国特許出願公開第2002/016278号は、バイオフィルム除去用の混合された洗剤/抗菌性調製物における0.2%サリチル酸ナトリウムの使用を開示し、米国特許第6585961号が抗菌性組成物への任意添加剤としてサリチル酸を開示する。
【0007】
米国特許出願第2003/153983号および国際公開第2005−20050224号は、殺生物剤および抗接着剤または抗菌剤を含有する生体適合性ポリマーを含む移植可能な医療機器を開示し、トリクロサンおよびサリチル酸を含むポリウレタンカテーテルを教示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第0027438号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/016278号明細書
【特許文献3】米国特許第6585961号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/153983号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、バイオフィルム形成または増殖を阻害する目的でサリチル酸を放出することができ、同時にその構造完全性を維持することができる物質を、上記の公報はいずれも教示しない。したがって、本発明の課題は、加水分解によりサリチル酸を放出し、放出後も構造的に損傷のない物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
A)下記構造:
【化1】

で示される少なくとも1つの基を有するエチレン性不飽和化合物と、
B)少なくとも1つのウレタン基を有するエチレン性不飽和化合物
との反応生成物を含んでなるコーティング組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、表面におけるバイオフィルムの増殖を調節する方法であって、
A)下記構造:
【化2】

で示される少なくとも1つの基を有するエチレン性不飽和化合物と、
B)エチレン性不飽和化合物
との反応生成物を含んでなる組成物により、前記表面を被覆することを含む方法に関する。
【0012】
また、本発明は、ポリウレタン材料の製造方法であって、
1)A)下記構造:
【化3】

で示される少なくとも1つの基を有するエチレン性不飽和化合物と、
B)少なくとも1つのウレタン基を有するエチレン性不飽和化合物
を混合すること、および
2)該混合物を化学線に暴露すること
を含んでなる方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、
A)下記構造:
【化4】

で示される少なくとも1つの基を有するエチレン性不飽和化合物と、
B)少なくとも1つのウレタン基を有するエチレン性不飽和化合物
との反応生成物を含んでなるコーティング組成物に関する。
【0014】
成分A)には、サリチル酸基を含む全てのエチレン性不飽和化合物が含まれ得る。限定されないが、その例としては、アクリル酸サリチル、メタクリル酸サリチルおよびフマル酸ビス(サリチル)などが挙げられる。
【0015】
成分A)として使用に適する化合物は、塩基の存在下、サリチル酸と不飽和酸塩化物との反応により、または、サリチル酸塩と不飽和酸塩化物との反応により製造し得る。適当な不飽和酸塩化物の例としては、限定されないが、アクリロイルクロリド、メタクリロイルクロリド、フマリルクロリドおよびイタコニルクロリドなどが挙げられる。塩基の例としては、限定されないが、トリエチルアミンまたはピリジンを含む種々の塩基が挙げられる。サリチル酸塩の例としては、限定されないが、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸リチウム、および有機サリチル酸塩などが挙げられる。
【0016】
成分A)として使用に適する化合物は、無水物とサリチル酸またはサリチル酸塩との反応により製造することができる。適当な無水物の例としては、限定されないが、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物、クロトン酸無水物およびチグリン酸無水物などが挙げられる。
【0017】
成分B)には、少なくとも1つのウレタン基を有する全てのエチレン性不飽和化合物が含まれ得る。これに関して、好ましいアクリル酸ウレタンは、米国特許4,380,604号、同6,232,360号、同6,753,394号および同6,790,485号にも記載されている。そのような(メタ)アクリル酸ウレタンは、通常、1つ以上のポリイソシネートを1つ以上のヒドロキシ基含有不飽和(メタ)アクリレートおよび場合によりさらなるヒドロキシ基含有分子と反応させることにより製造される。
【0018】
適当なポリイソシアネートには、脂肪族、脂環式および/または芳香族結合したイソシアネート基を有し、一般的に、約144〜約1000の分子量、より好ましくは約168〜約300の分子量を有する有機ポリイソシアネートが含まれる。適当な例としては、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、3(4)−イソシアナトメチル−メチルシクロヘキシルイソシアネート(IMCI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(2,2,4および/または2,4,4−トリメチル−ヘキサメチレンジイソシアネート)、異性体ビス(4,4’−イソシアナト−シクロヘキシル)メタン(H12MDI)、異性体ビス(イソシアナト−メチル)−メチルシクロヘキサン、イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート、1,4−シクロへキシレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トルイレンジイソシアネート(TDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネートまたは、ウレタン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、ウレトジオン、イミノオキサジアジンジオン構造を有するそれらの誘導体および/またはそれらの混合物、ならびに脂肪族および芳香族ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートが挙げられる。そのような誘導体の製品は既知であり、例えば、米国特許第3,124,605号、同3,183,112号、同3,919,218号および4,324,879号および欧州特許第798299号に記載されている。
【0019】
HDI、IPDI、TDI、H12MDIおよび/またはHDI、TDIまたはIPDIの三量化により得られるイソシアネート基含有ポリイソシアネートを用いることが好ましい。HDIおよびIPDIならびにそれらの混合物が特に好ましい。
【0020】
不飽和ウレタン(メタ)アクリレートの製造においては、ポリイソシアネートを、i)約30〜約300のOH価を有する不飽和ポリエーテル(メタ)アクリレート、ii)モノ−、ジ−、トリ−、またはポリヒドロキシC〜C10−アルキルあるいはC〜C10アリール(メタ)アクリレート、またはiii)それらの混合物と、約0.95:1〜約1:0.95(より好ましくは1:1)のイソシアネート/OH当量比で反応させる。得られる不飽和(メタ)アクリル酸ウレタンは、1重量%未満のイソシアネート基含量を有するであろう。また、約1:1〜10:1のイソシアネート/OH当量比でポリイソシアネートを反応させることにより、残存イソシアネート官能基を有する有用な不飽和(メタ)アクリル酸ウレタンを製造することもできる。得られるイソシアネート官能性(メタ)アクリル酸ウレタンは、1重量%を超える、好ましくは約3〜20重量%のイソシアネート含量を有するであろう。
【0021】
有用な不飽和ポリエーテル(メタ)アクリレートは、(2〜6のヒドロキシ官能基を有する)ポリエーテルポリオールをアクリル酸および/またはメタクリル酸と反応させることにより製造される。適当なポリエーテルポリオールは、ポリウレタン技術において既知のタイプのポリエーテルポリオールであり、通常、適当な出発分子(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタノール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ヘキサンジオール、ペンタエリスリトールなど)をエチレンオキシド、プロピレンオキシドまたはそれらの混合物と反応させることにより製造される。その後、このポリエーテルをアクリル酸および/またはメタクリル酸と反応させる。不飽和(メタ)アクリル酸ウレタンを製造するために不飽和(メタ)アクリレートを使用する場合、要求されるOH価を有する(メタ)アクリレートを製造するためにポリエーテルを選択し、その成分を、得られる不飽和ポリエーテル(メタ)アクリレートが約30〜約500、好ましくは約100〜約400、最も好ましくは約200〜約300のOH価を有するような量で反応させる。成分A)の一部または全部として不飽和(メタ)アクリレートを用いる場合、要求されるOH価を有する(メタ)アクリレートを製造するためにポリエーテルを選択し、そのポリエーテルとアクリル酸(および/またはメタクリル酸)を、得られる不飽和ポリエーテル(メタ)アクリレートが約30〜約100、好ましくは約100〜約400、最も好ましくは約200〜約300のOH価を有するような量で反応させる。
【0022】
有用なモノ−、ジ−、トリ−、またはポリヒドロキシC〜C10−アルキルあるいはC〜C10アリール(メタ)アクリレートは、ポリウレタン技術において既知である。そのような物質は、比較的低分子量のジオール、トリオールおよびポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタノール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ヘキサンジオール、ペンタエリスリトールなど)をアクリル酸および/またはメタクリル酸と、得られる生成物が1つ以上のヒドロキシ基を含むような量で反応させることにより製造される。具体例としては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシヘキシルアクリレート、トリグリセロールジアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、およびそのメタクリレート対応物が挙げられる。
【0023】
本発明に記載されるコーティング組成物は、遊離基を発生し得る1つ以上の開始剤を含んでもよい。開始剤は、光開始剤、熱開始剤、酸化還元開始剤またはその他の開始剤であり得る。光開始剤は、実質的に全ての光開始剤であり得る。本発明の放射線硬化組成物においては、様々な光開始剤を使用し得る。通常の光開始剤は、放射エネルギーに暴露された時に遊離基を発生するタイプである。適当な光開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、アルキルベンゾフェノン、ミヒラーケトン、アントロンハロゲン化ベンゾフェノンのような芳香族ケトン化合物が挙げられる。他の適当な化合物としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、フェニルグリオキシル酸エステル、アントラキノンおよびそれらの誘導体、ベンジルケタールおよびヒドロキシアルキルフェノンが挙げられる。さらなる適当な光開始剤には、2,2−ジエトキシアセトフェノン;2−または3−または4−ブロモアセトフェノン;3−または4−アリル−アセトフェノン;2−アセトナフトン;ベンズアルデヒド;ベンゾイン;アルキルベンゾインエーテル;ベンゾフェノン;ベンゾキノン;1−クロロアントラキノン;p−ジアセチル−ベンゼン;9,10−ジブロモアントラセン、9,10−ジクロロアントラセン;4,4−ジクロロベンゾフェノン;チオキサントン;イソプロピルチオキサントン;メチルチオキサントン;α,α,α−トリクロロ−パラ−t−ブチルアセトフェノン;4−メトキシベンゾフェノン;3−クロロ−8−ノニルキサントン;3−ヨード−7−メトキシキサントン;カルバゾール;4−クロロ−4’−ベンジルベンゾフェノン;フルオロエン;フルオエノン;1,4−ナフチルフェニルケトン;1,3−ペンタンジオン;2,2−ジ−sec.−ブトキシアセトフェノン;ジメトキシフェニルアセトフェノン;プロピオフェノン;イソプロピルチオキサントン;クロロチオキサントン;キサントン;マレイミドおよびそれらの誘導体;およびそれらの混合物が含まれる。いくつかの適切な光開始剤がCibaから市販されており、それらとしては、Irgacure(登録商標)184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、Irgacure(登録商標)819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド)、Irgacure(登録商標)1850(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルフェニル−ホスフィンオキシドと1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンの50/50混合物)、Irgacure(登録商標)1700(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルフェニル−ホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンの25/75混合物) 、Irgacure(登録商標)907(2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホロノプロパン−1−オン)、Darocur(登録商標)MBF(フェニルグリオキシル酸メチルエステル)、Irgacure(登録商標)2020光開始剤ブレンド(20重量%のフェニルビス(2,3,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドおよび80重量%の2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン)ならびにDarocur(登録商標)4265(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンの50/50混合物) が挙げられる。上記のリストは例証にすぎず、任意の適切な光開始剤を除外するものではない。当業者であれば、光開始剤が有効に用いられる濃度が分かり、その濃度は一般に、放射線硬化性コーティング組成物の約10重量%を越えるものではない。
【0024】
光化学の当業者であれば、光活性化剤を前述の光開始剤と組み合わせて用い得ること、および、このような組み合わせを用いる場合に相乗作用が時にはもたらされることを、十分認識している。光活性化剤は当該分野で周知であり、どのような化合物であるか、およびそれらの有効な濃度を示すために、さらに説明を要しない。それでもなお、適切な光活性化剤の例として、メチルアミン、トリブチルアミン、メチルジエタノールアミン、2−アミノエチルエタノールアミン、アリルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロペンタジエニルアミン、ジフェニルアミン、ジトリルアミン、トリキシリルアミン、トリベンジルアミン、n−シクロヘキシルエチレンイミン、ピペリジン、N−メチルピペラジン、2,2−ジメチル−1,3−ビス(3−N−モルホリニル)−プロピオニルオキシプロパン、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
必要に応じて促進剤の存在下で、およびフェニルスルホニウム金属塩のような超酸の存在下カチオン的に、熱開始剤はアゾ化合物、(ヒドロ)ペルオキシド、またはハロゲン化アルキルのような原子移動ラジカル重合阻害剤であり得る。
【実施例】
【0026】
実施例1.アクリル酸サリチルの合成
窒素ガスでパージした3L丸底フラスコ中で、1200mlのアセトニトリル(Fisher A998)および過剰なトリエチルアミン(311.4g、Acros 15791)にサリチル酸(141.7g、Sigma-Aldrich 105910)を溶解し、室温で、大きな磁気攪拌子により攪拌した。200mlのアセトニトリルに溶解したアクリロイルクロリド(101g、Aldrich A24109)を、サリチル酸溶液に2時間かけて滴下し、室温で一晩攪拌した。沈殿物、主としてトリエチルアミンヒドロクロリド塩を真空濾過により除去した。ヒドロキノン(0.040g、Fluka 53960)を添加し、重合を抑制した。アセトニトリルを回転蒸発により除去することで、粘性のある茶色の液体を生じた。この粗生成物を塩化メチレン(1.5L)に溶解し、濾過し、1NのHCl(1.2L)で素早く洗浄し、その後、ほぼ飽和のNaCl水溶液(300g/L、1回の洗浄につき1.2L)で3回洗浄した。十分なNaOHを塩洗浄物に加え、pH7まで中和し、加水分解から保護した。黄みがかった固体が、塩化メチレン溶液から晶出した。この生成物を濾過により分離し、60℃まで(〜60℃)の温度で生成物を溶解し、−5℃まで(〜−5℃)の温度で溶液を一晩冷却することにより、イソプロパノール/水(3:1)中で再結晶化させた。この生成物は薄黄色の固体であり、H NMR(CDCl)により、唯一の明らかな不純物として4%までの遊離サリチル酸(δ: 7.91d, 7.51t, 7.00d, 6.93t)を含むアクリル酸サリチル(δ: 8.13d, 7.64t, 7.39t, 7.20d, 6.66d, 6.40m, 6.05d、全て1H)であることが解明された。
【0027】
実施例2.
A.アクリル酸サリチル(SAcr)(1.0g)をジメチルホルムアミド(1.5g)に溶解し、アクリル酸ウレタン材料Desmolux VP LS 2308(20%ヘキサンジオールジアクリレートに溶解した、ヘキサンジイソシアネート三量体およびヒドロキシアルキルアクリレートに基づくアクリル酸ウレタン、Bayer MaterialScience AG製、レバークーゼン、ドイツ)(10g)と混ぜ合わせた。光開始剤として、Ciba Darocur 4265(50%の2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキシド、50%の2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)を1%の固体で加えた(0.11g)。
B.アクリル酸サリチルを抜いた以外は、実施例2Aを反復した。
【0028】
実施例3.
A.Desmolux VP LS 2308に代えて、Desmolux U 100(不飽和脂肪族アクリル酸ウレタン(反応性希釈剤非含有)、ヒドロキシ含量:約0.3、Bayer MaterialScience AG製、ドイツ)(10g)を用いて実施例2Aを反復した。
B.アクリル酸サリチルを抜いた以外は、実施例3Aを反復した。
【0029】
実施例4.
A.Desmolux VP LS 2308に代えて、Desmolux XP 2513(不飽和脂肪族アクリル酸ウレタン(反応性希釈剤非含有)、Bayer MaterialScience AG製、ドイツ)(10g)を用いて実施例2Aを反復した。
B.アクリル酸サリチルを抜いた以外は、実施例4Aを反復した。
【0030】
実施例5.
A.Desmolux VP LS 2308に代えて、Desmolux VP LS 2396(イソシアネート含有アクリル酸ウレタン(反応性希釈剤非含有)、ヒドロキシ含量:、NCO含量約7.5%、Bayer MaterialScience AG製、ドイツ)(10g)を用いて、さらにDesmolux VP LS 2396のイソシアネート官能基の湿気硬化を触媒するために0.3質量%のジブチルスズジラウレート(Dabco T-12)(0.037g)を添加して、実施例2Aを反復した。
B.アクリル酸サリチルを抜いた以外は、実施例5Aを反復した。
【0031】
実施例6.
3.0gのジメチルホルムアミドに溶解した2.0gのアクリル酸サリチルを用いた以外は、実施例5Aを反復した。
【0032】
実施例7.
6.0gのジメチルホルムアミドに溶解した4.0gのアクリル酸サリチルを用いた以外は、実施例5Aを反復した。
【0033】
実施例8.人工尿
人工尿の処方は、一般的な尿化学製品の平均値を記載する種々の文献源から構築した。水溶液を、310mMの尿素、58.4mMの塩化ナトリウム、39.13mMの塩化カリウム、28mMの塩化アンモニウム、2.17mMの塩化カルシウム、13.2mMの硫酸ナトリウム、2.58mMの硫酸マグネシウム、8.67mMのリン酸二水素ナトリウム、および1.71mMのクエン酸を含むよう調製し、NaOHを加えることによりpH6.06に調整した。
【0034】
実施例9.膜形成および試験
上記(実施例2〜7)の各調製物を、ガラス板上に8ミルの湿潤厚さ(200μm)で延展し、ジメチルホルムアミドの除去のため、自然条件下で一晩乾燥させた。溶剤非含有コーティングを、超高圧水銀UVランプ((Fusion UV Systems社)下に20フィート/分で2回通した;UVA強度は1.2W/cm、UVB強度は1.0W/cm、UVC強度は0.16W/cm、および可視0.85W/cmであった。これらのコーティング全てが、均一であり、透明でありかつ光沢があり、満足のできる機械的特性であると認められた。
各膜のサンプル(0.50g)を、ガラス基板から剥がし、37℃または60℃のオーブン内の密閉容器中で、10mLの水または人工尿に浸した。
【0035】
実施例10.サリチル酸放出の分析
収集した各サンプルのサリチル酸濃度を、石英マイクロタイター96ウェルプレート(Hellma)を用いて297nmでの吸光度を評価するため、分光高度計(Tecan Safire)を用いて測定した。各コントロール(実施例2B、3B、4Bおよび5B)の吸光強度を、サリチル酸を含有する対応調製物(それぞれ、実施例2A、3A、4Aおよび(5A、6および7))の強度から差し引き、樹脂または光開始剤によるシグナルを調整した。測定した吸光強度から、および水および人工尿に対する標準較正曲線を用いて、各サンプルにおけるサリチル酸の濃度を算出した。サリチル酸の測定におけるこの技術の感度は、1ミリリットルあたり約1マイクログラムであることがわかった。実施例の物質のサリチル酸放出特性を表1に記載する。放出速度は、実質的に処方により異なった。サリチル酸の放出は、人工尿中の方が水中よりも速かった。放出は、60℃で、37℃よりも速かった。他は同じであるがより濃度の高いアクリル酸サリチルの調製物では、相対的な尺度においてより速くサリチル酸を放出した。この実施例の全ての膜は、実験中ずっとそれらの均一で、透明で光沢のある外観およびそれらの満足のできる機械的特性を維持していた。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例11.
実施例5Aおよび5Bに記載の調製物を用いて実施例9に記載される方法により作製した膜(0.5g)を、水酸化ナトリウムの2N水溶液に浸した。サンプルを、実施例9に記載したように収集した。この条件下、観察されたサリチル酸放出の90%が1日以内に起こり、残りの10%が2日目に起こった。2Nの水酸化ナトリウムに暴露した後、この実施例の膜はその外観および機械的特性を維持していた。
【0038】
実施例12.振子硬度
サンプル5A、5B、6および7において、振子硬度をASTM D4366−95に記載の方法にしたがって測定した。結果を表2に示す。より高いアクリル酸サリチル濃度は、硬い膜を生じた。
【0039】
【表2】

【0040】
上記において、本発明を例示の目的で詳細に記載したが、かかる詳細は例示の目的にすぎないこと、ならびに、特許請求の範囲によって限定され得るものを除いて、本発明の精神および範囲を逸脱することなく当業者によってそれらに変形がなされ得ることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)下記構造:
【化1】

で示される少なくとも1つの基を有するエチレン性不飽和化合物またはその塩と、
B)少なくとも1つのウレタン基を有するエチレン性不飽和化合物
との反応生成物を含んでなる組成物。
【請求項2】
成分A)が、
【化2】


【化3】

または、
【化4】

あるいはその塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
成分A)が、
【化5】

またはその塩である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
成分B)が、少なくとも1つの(i)イソシアネート官能性化合物と、少なくとも1つの(ii)(メタ)アクリレート官能性化合物との反応生成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
化合物B)(i)が、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのポリマー、イソホロンジイソシアネート、およびイソホロンジイソシネートのポリマーからなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
化合物B)(ii)が、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、および2−ヒドロキシプロピルメタクリレートからなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
加水分解によりサリチル酸を放出するポリウレタン材料。
【請求項8】
ポリウレタン材料の製造方法であって、
1)A)下記構造:
【化6】

で示される少なくとも1つの基を有するエチレン性不飽和化合物またはその塩と、
B)少なくとも1つのウレタン基を有するエチレン性不飽和化合物
を混合すること、および
2)該混合物を化学線に暴露すること
を含んでなる方法。
【請求項9】
請求項8の方法により製造するポリウレタン材料により被覆した医療機器。
【請求項10】
A)下記構造:
【化7】

で示される少なくとも1つの基を有するエチレン性不飽和化合物と、
B)エチレン性不飽和化合物
との反応生成物を含み、微生物バイオフィルムの形成を低減し得る組成物。
【請求項11】
基板におけるバイオフィルムの増殖を調節する方法であって、
A)下記構造:
【化8】

で示される少なくとも1つの基を有するエチレン性不飽和化合物と、
B)エチレン性不飽和化合物
との反応生成物を含んでなる組成物により、前記基板を被覆することを含む方法。
【請求項12】
基板における微生物バイオフィルムの形成を低減し得るポリマー組成物であって、該ポリマー組成物が、非生物分解性ポリマー骨格に組み込まれた少なくとも1つのヒドロキシ含有生物活性剤を含み、該生物活性剤が水性条件への暴露により加水分解で放出されるポリマー組成物。
【請求項13】
サリチル酸またはその塩が生物活性剤である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
ポリマー組成物がポリウレタンである、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
サリチル酸またはその塩が生物活性剤である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
ポリマー組成物が(メタ)アクリレートである、請求項12に記載の組成物。
【請求項17】
サリチル酸またはその塩が生物活性剤である、請求項16に記載の組成物。

【公表番号】特表2012−508806(P2012−508806A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536329(P2011−536329)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/006106
【国際公開番号】WO2010/056345
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(503349707)バイエル・マテリアルサイエンス・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (178)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience LLC
【Fターム(参考)】