説明

加水分解アレルゲンの製造方法

a)アレルゲンタンパク質を含むアレルゲンの天然源を抽出して抽出物を生成し、b)前記抽出物を精製して非タンパク質成分を除去して精製抽出物を生成し、c)前記精製抽出物を変性させて精製変性抽出物を生成する工程、を含み、前記精製変性抽出物はタンパク質を含み、合わせて全タンパク質の少なくとも60%(w/w)を構成する最も豊富な(w/w)タンパク質群は少なくとも2種のタンパク質であり、全タンパク質は前記精製変性抽出物の乾燥重量の少なくとも60%(w/w)に相当する天然アレルゲンの精製抽出物の製造方法;ならびに、a)変性アレルゲンを加水分解してアレルゲン加水分解物を生成し、b)前記アレルゲン加水分解物を精製して10,000Da超および1,000Da未満の分子量を有するペプチドを除去して、70%、より好ましくは80%のペプチドが10,000Da〜1,000Daである精製加水分解物を得る工程を含む天然アレルゲン精製抽出物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は天然アレルゲンの抽出物の製造方法、これら抽出物からのペプチド、およびこの新たな方法により得られるアレルゲン抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なアレルゲンは花粉、ハウスダスト、ダニ、カビ、薬物、食物、ならびに動物の毛および鱗屑である。
【0003】
最も一般的なアレルギー性疾患は鼻炎、喘息、およびアトピー性皮膚炎である。アレルギー性喘息は慢性炎症性疾患である。アレルギー性疾患の対症療法は抗ヒスタミン薬、β−アンタゴニスト、および副腎皮質ステロイドの使用により行われる。
【0004】
さらに、いわゆる「特異的」免疫療法は減感作に基づいている。典型的には、患者は特定の原因アレルゲンを皮下注射により投与される。治療は少ないアレルゲン投与量から開始し、投与量を増加させる。治療は典型的には数年間続けられる。この種の治療には患者の完全な薬剤服用順守を要するという問題があり、また患者が重度のアナフィラキシー反応を被りうるという安全性の理由から問題視されてきた。
【0005】
反復して皮下注射する方法に加え、経口減感作法もある。
【0006】
米国特許第4,822,611号は、アレルゲンでの経口処置を含むアレルギー治療法を開示している。市販の「バルク」のアレルゲン抽出物を使用すると、バッチごとのばらつきや、異なる製造者由来の抽出物間における差異が見られることを記載している。これらの抽出物の調製については記載されていない。
【0007】
英国特許第1 247 614号は、アレルゲンの抽出方法を開示している。この方法の目的は、アレルゲンの抽出可能な全ての成分を含めることにより、より完全で効果的なアレルゲン抽出物を得ることである。
【0008】
米国特許第5,770,698号は、アレルゲンとして活性なタンパク質の抽出物を精製する方法を開示している。図2のスペクトルは280nmのピークを示していない。これは、該抽出物が非タンパク質不純物を相当量含んでいることを意味する。国際公開第99/22762号も同様な方法を開示しており、従って、この産物も大量の非タンパク質不純物を含んでいる。
【0009】
一方、単一のエピトープに基づいた高度に特異的な調製物を開発する傾向もある。例えば、国際公開第00/58349号は、チロシン/アルギニンペアからペプチド結合2個分離れて位置するロイシンを含む、単離精製されたペプチドを開示している。これらのペプチドは、特にイヌにおけるイヌ科アレルギーを対象とした、治療または予防を行うための医薬組成物の調製に用いられうる。
【0010】
一方では、特異的に同定された単一のアレルゲン分子を精製する方法が用いられている。また、一方では、なるべく完全なアレルゲン抽出物を製造しようと試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,822,611号
【特許文献2】英国特許第1 247 614号
【特許文献3】米国特許第5,770,698号
【特許文献4】国際公開第99/22762号
【特許文献5】国際公開第00/58349号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記の選択肢のうちの最初のものにおいては、アレルゲン調製物が、決定された患者において免疫寛容(tolerance)を誘導するような関連エピトープを欠いているということが常にありうる。二番目のものにおいては、バッチごとにばらつくという欠点、およびDNA分子、炭水化物、その複合体の脂質類等の、免疫反応を誘発しうる化合物が存在するという欠点を有する。
【0013】
本発明の一つの目的は、従来技術の欠点の少なくとも一部を克服することであり、特に、粗アレルゲン抽出物と比較してアレルギー性反応を誘発する能力が有意に少ないがT細胞を刺激しうる、天然アレルゲンからの抗原を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この問題は、アレルゲン抽出物のタンパク質含有部分のほとんどを含みながらも、核酸類、脂質類、糖類等の非タンパク質成分が少ない、好ましくは極めて少量しか含まない、アレルゲン抽出物の調製方法を提供することにより解決される。
【0015】
本発明により調製される抽出物は従来技術の抽出物よりも優れており、特に本発明により調製される抽出物は再現性のあるタンパク質組成を示しながらも単一のエピトープまでには精製されていない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】IgGウェスタンブロットによる免疫反応性。レーン1:分子量マーカー、レーン2:粗タンパク質抽出物、レーン3:精製アレルゲン変性抽出物。メンブレンは5%BSAおよび3%ミルクでブロックした。患者の血清は1/250に希釈した。IgGの結合は、1/2,500に希釈したヤギ抗ヒトIgG HRPで検出し、TMB基質により明らかにした。アレルゲン1:±61〜54kDa、アレルゲン2:±36〜31kDa。
【図2】IgEウェスタンブロットによる免疫反応性。レーン1:分子量マーカー、レーン2:粗タンパク質抽出物、レーン3:精製タンパク質。メンブレンは5%BSAおよび3%ミルクでブロックした。患者の血清は1/5に希釈した。IgEの結合は、1/10,000に希釈したヤギ抗ヒトIgE HRPで検出し、TMB基質により明らかにした。アレルゲン1:±61〜54kDa、アレルゲン2:±36〜31kDa。
【図3】SEC G25溶出プロファイルの排除ピーク。カラム体積/試料体積比は12であった。樹脂は25mM Tris.HCl、1.5M 尿素、pH8.0を用いて流速9ml/分で平衡化した。溶出を、280nmの吸光度で観察した。
【図4】SDS−PAGEによるタンパク質プロファイル。4〜12% Bis−Trisゲル。レーン1:分子量マーカー、レーン2:精製アレルゲン変性抽出物。染色はクーマシーブリリアントブルーR−250を用いて行った。
【図5】SDS−PAGEによるタンパク質およびペプチドプロファイル。4〜12% Bis−Trisゲル。レーン1:分子量マーカー、レーン2:精製アレルゲン変性抽出物(13μg)、レーン3:加水分解物(13μg)。染色はクーマシーブリリアントブルーR−250を用いて行った。
【図6】G50 SEC溶出プロファイル。カラムを尿素 2M、NaCl 100mM、pH3.0を用いて平衡化した。流速は15ml/分であった。カラム体積/試料体積比は10であった。溶出を、280nmの吸光度で観察した。
【図7】HPLC分析のための検量線。10μlの以下の標準物質(1mg/ml)をBioSep−SEC S2000カラム上に注入した:1.ウシ血清アルブミン(66kDa)、2.β−ラクトグロブリン(18.5kDa)、3.チトクロームC(12kDa)、4.グルカゴン(3.5kDa)、5.1kDa合成ペプチド。
【図8】サイズ排除HPLCプロファイル。カラム:BioSep−SEC S2000(PHENOMENEX社)。溶出バッファー:Na2HPO4 50mM−SDS 0.5%(w/v)(pH6.8)。流速1ml/分。214nmにおいて検出。10μlの試料を注入した。10kDa〜1kDaの区間の曲線の下の面積を用いて目的のペプチドの割合を算出した。
【図9】花粉由来産物のアレルゲン性特性。花粉アレルギーのボランティアからの血液試料を、花粉粗抽出物、花粉精製タンパク質および花粉精製ペプチドのいずれかの濃度を増加させて(0、1、10、100および1000ng/ml)インキュベートした。gp53タンパク質発現をフローサイトメトリーにより、IgE−陽性白血球をゲーティングして測定した。結果は活性化細胞中のgp53陽性細胞の%で表す(2回の定量の平均±偏差)。
【図10】花粉タンパク質および花粉ペプチドによるヒトPBMC増殖の刺激。花粉アレルギーのボランティアから精製したヒトPBMCを、5日間、37℃において、濃度を増加(10、30および90μg/ml)させた花粉タンパク質または花粉ペプチドの存在下、インキュベートした。[3H]−チミジンを細胞培養物に16時間添加し、[3H]−チミジンの取り込みを液体シンチレーションの原理を利用してベータカウンターで測定した。結果は5回の測定の平均値で表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のアレルゲン抽出物を製造するための方法は、
a)アレルゲンタンパク質を含むアレルゲンの天然源を抽出して抽出物を生成し、
b)前記抽出物を精製して非タンパク質成分を除去して精製抽出物を生成し、
c)前記精製抽出物を変性させて精製変性抽出物を生成する工程
を含んでおり、前記精製変性抽出物はタンパク質を含み、合わせて全タンパク質の少なくとも60%(w/w)を構成する最も豊富な(w/w)タンパク質群は少なくとも2種のタンパク質であり、全タンパク質が前記精製変性抽出物の乾燥重量の少なくとも60%(w/w)に相当する。
【0018】
この方法を方法Iと呼ぶ。
【0019】
従来技術の方法とは対照的に、本発明の方法により、抽出物を単一のペプチドまたはタンパク質に精製することなく、主にタンパク質を含むアレルゲン抽出物が製造される。
【0020】
従来技術の産物とは対照的に、本発明の産物は以下の利点を有する:
・タンパク質以外の免疫原性物質が実質的に除去されている
・この天然アレルゲン抽出物はT細胞を刺激することができるが、即時型アレルギー反応(好塩基球の活性化、マスト細胞の脱顆粒)を誘発する能力が低い。
【0021】
出発原料としては、様々な天然に存在するアレルゲンを用いることができる。典型的な天然原料はミルク、毒液、卵、雑草、牧草、樹木、灌木、花、野菜、穀物、菌類、果物、液果、ナッツ、種子、豆、魚類、甲殻類および/または貝類(shellfish)、海産物、肉類、香辛料、昆虫、ダニ、カビ、動物、ハトダニ(pigeon tick)、蠕虫、軟質珊瑚、動物の鱗屑、線虫、パラゴムノキ、およびこれらの混合物である。
【0022】
材料の抽出後、抽出物を精製して糖類、脂質類、核酸類等の非タンパク質成分を除去する。典型的には、いくつかの異なるタンパク質が精製抽出物のタンパク質画分に存在する。
【0023】
従来技術においては、1種のタンパク質が精製され、他の残りのタンパク質は「不純物」である。
【0024】
これに対し、タンパク質群を合わせて精製することが本発明の目的である。精製抽出物中のタンパク質群の相対的な量はSDS−PAGEに続いて濃度測定をする方法等により容易に測定される。
【0025】
タンパク質総重量の60%において、少なくとも2種類の最も主要なタンパク質を組み合わせる必要がある:すなわち単独で全タンパク質の60%(w/w)以上となるタンパク質はない。より好ましくは、全タンパク質の60%は少なくとも3種の主要なタンパク質により、好ましくは少なくとも4種の主要なタンパク質により、より好ましくは少なくとも5、6、7、8、9または10種のタンパク質により構成される。
【0026】
例えば、次のタンパク質が存在する:
タンパク質1:27%
タンパク質2:13%
タンパク質3:34%
タンパク質4:19%
タンパク質5:17%
【0027】
合わせて少なくとも60%(約60%以上)を構成する最も主要なタンパク質群はタンパク質3+1(34+27=61%)である。
【0028】
さらに、精製抽出物の総タンパク質含有量は該精製抽出物の少なくとも60重量%、好ましくは含有量は少なくとも70重量%または80重量%、より好ましくは90重量%である。
【0029】
抽出は好ましくは水溶液を用いて行われる。適した塩としては炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、酢酸塩、TRISおよびHEPES等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
さらに、多くの他の抽出法とは対照的に、抽出媒体の量は比較的多いことが好ましい:すなわちアレルゲンの天然源の少なくとも20倍の重量、好ましくは100倍以上の重量である。
【0031】
抽出物の精製は次のうちの1つまたは複数により行ってもよい:
・イオン交換クロマトグラフィー工程(陰イオン交換クロマトグラフィーおよび陽イオン交換クロマトグラフィーを含む)
・サイズ排除クロマトグラフィー工程(ゲル濾過とも呼ばれる)
・沈殿工程
・疎水性相互作用クロマトグラフィー工程
・シュードアフィニティー(pseudo−affinity)クロマトグラフィーおよびアフィニティークロマトグラフィー、ならびに/または
・透析濾過(diafiltration)
【0032】
ある好ましい態様においてはイオン交換クロマトグラフィーが用いられ、ここで陽イオン交換体の場合、ローディング溶液は、該陽イオン交換体の酸性官能基のpKaと抽出物中のタンパク質のうち最も低いpKaを有するタンパク質のpKaとの間のpHを有する。陰イオン交換体の場合、該pHは、該陰イオン交換体の塩基性官能基のpKaと抽出物を構成するタンパク質のうち最も高いpKaを有するタンパク質のpKaとの間である。
【0033】
この方法により、全てのタンパク質がイオン交換体に結合するが、中性の不純物およびイオン交換樹脂と同一の電荷を有する不純物は除去される。
【0034】
ある好ましい態様において、少なくとも1つの精製工程は、1種または複数種の界面活性剤および/または変性剤を含む溶液を用いて行われる。界面活性剤は、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性または両性であってよい。適した変性剤は、カオトロピック剤、還元剤およびこれらの混合物である。適した変性剤は、例えば尿素、塩化グアニジニウム、エチレングリコール、イソプロパノールである。尿素の適した濃度は3M以上、好ましくは4M以上である。グアニジニウムの適した濃度は好ましくは2M、好ましくは3M以上である。エチレングリコールおよび/またはイソプロパノールの適した濃度は5重量%以上、より好ましくは10重量%以上であり、20重量%以下である。
【0035】
一部の例では、本発明の方法Iによる精製抽出物の製造で十分である。この種類の抽出物をアレルギー性疾患のex vivo/in vivoおよびin vitroでの診断、予防的および治療的処置を行うために用いてもよい。本発明のさらなる態様は、方法Iによる抽出物、または任意の他の原料由来の抽出物のいずれかからアレルゲン加水分解物を製造するための方法である。抽出物が方法I以外の任意の他の精製アレルゲン原料に由来する場合、消化性を改善するために変性の予備工程が必要である。
【0036】
前記方法(方法II)は、以下の工程を含む
a)変性アレルゲンを加水分解してアレルゲン加水分解物を生成し、
b)前記アレルゲン加水分解物を精製して10,000Da超の分子量を有するペプチドおよび1,000Da未満の分子量を有するペプチドを除去して、70%、より好ましくは80%のペプチドが10,000Da〜1,000Daである精製加水分解物を得る。
【0037】
これにより得られた産物の利点は、ペプチドが変性タンパク質の消化産物であることである。特定サイズへの調整により、これらは即時型アレルギー反応を誘発する能力が少なく、また炎症誘発性反応を誘発する能力も少ない。
【0038】
必要な場合は、好ましくはカオトロピック剤、還元剤またはこれらの混合物の存在下で変性が行われる。適したカオトロピック剤は、例えば尿素および塩化グアニジニウムである。典型的な還元剤は例えばジチオストレイトール、β−メルカプトエタノール、チオ−グリセロールおよびこれらの混合物である。
【0039】
加水分解工程は典型的には酵素により行われる。適した酵素は例えばペプシン、トリプシン、キモトリプシンである。この加水分解工程もカオトロピック剤、好ましくは尿素または塩化グアニジニウムの存在下で行われうる。加水分解過程では尿素および塩化グアニジニウムの濃度は4M未満、好ましくは3M未満であるべきである。
【0040】
方法IIの工程b)において、10,000Da超または1,000Da未満の分子量を有するペプチドは除去される。
【0041】
従って、精製加水分解物のペプチドは、1,000Da〜10,000Da分子量を有するペプチドを含む。長いペプチドまたは短いペプチドを除去するための適した方法は限外濾過およびサイズ排除クロマトグラフィーである。このサイズ排除クロマトグラフィーも、カオトロピック剤、例えば尿素、塩化グアニジニウム、エチレングリコール、イソプロパノールおよびこれらの混合物の存在下で行われてもよい。
【0042】
本発明のさらなる態様は、本発明の方法Iにより得ることができるアレルゲン抽出物である。典型的には、この抽出物においても、合わせてタンパク質全体の少なくとも60重量%を構成する、重量基準で最も主要なタンパク質群は、少なくとも2種のタンパク質、好ましくは少なくとも3もしくは4種のタンパク質、またはより好ましくは少なくとも5、6、7、8、9もしくは10種のタンパク質である。純度は光学濃度260nm:光学濃度280nmの比が1より小さく、好ましくは0.9より小さく、より好ましくは0.75〜0.9の間であることにより確かめられる。
【0043】
さらなる態様は、方法IIにより得ることができるアレルゲン加水分解物である。これは、以下のために用いることができる。
・アレルギー性疾患のin vivo診断:プリック試験、皮内注射、結膜試験、嗅ぎ(sniff)試験および吸入試験
・アレルギー性疾患のex vivoおよびin vitro診断:ELISAキットまたは試験に用いられる標準物質
・アレルギー性疾患の予防的処置および治療的処置:脱感作/減感作療法および免疫反応調節のための、アジュバントと組み合わせた/組み合わせないワクチン
【0044】
本発明のアレルゲン抽出物は、免疫寛容を誘導する医薬組成物および/または食品組成物の調製に使用できる。免疫寛容の誘導はアレルギー反応を治療または予防することに利用できる。
【0045】
本発明のさらなる態様は本発明のアレルゲン抽出物を完全型または加水分解型のいずれかで含む医薬組成物である。さらに、医薬組成物は以下の物質のうち1種以上を含んでいてもよい:ヌクレオシド三リン酸、ヌクレオシド二リン酸、ヌクレオシド一リン酸、核酸、ペプチド核酸、ヌクレオシドもしくはその類似体、免疫抑制性サイトカイン、免疫プロテアソームの発現を誘導する化合物、1,25−ジヒドロキシビタミンD3もしくはその類似体、リポ多糖類、エンドトキシン、熱ショックタンパク質、NADPH−チオレドキシン還元酵素もしくはNADP−チオレドキシン還元酵素のいずれかと組み合わせたチオレドキシン、ジチオスレイトール、サルブタノール(salbutanol)等のアドレナリン受容体アゴニスト、ブトキサミン等のアドレナリン受容体アンタゴニスト、接着分子ICAM−1の発現を調節する化合物、N−アセチル−L−システイン、γ−L−グルタミル−L−システイニル−グリシン(還元型L−グルタチオン)、アルファ−2−マクログロブリン、Foxp3遺伝子発現の誘導因子、フラボノイド、イソフラボノイド、プテロカルパノイド(pterocarpanoids)、レスベラトロール等のスチルベン、タキキニン受容体アンタゴニスト、キマーゼ阻害剤、CpGもしくはMPLのようなワクチンアジュバントまたはザイモサンのような寛容原性アジュバント、ベータ−1,3−グルカン、制御性T細胞誘導因子、腸管粘膜内層に粒子を付着させるための植物レクチン等の粘膜付着剤、亜鉛、亜鉛塩、多糖類、ビタミン、および細菌溶解物。
【0046】
天然アレルゲン源により、前記組成物は、花粉アレルゲン、ミルクアレルゲン、毒液アレルゲン、卵アレルゲン、雑草アレルゲン、牧草アレルゲン、樹木アレルゲン、灌木アレルゲン、花アレルゲン、野菜アレルゲン、穀物アレルゲン、菌類アレルゲン、果物アレルゲン、液果アレルゲン、ナッツアレルゲン、種子アレルゲン、豆アレルゲン、魚類アレルゲン、甲殻類および/または貝類アレルゲン、海産物アレルゲン、肉類アレルゲン、香辛料アレルゲン、昆虫アレルゲン、ダニアレルゲン、カビアレルゲン、動物アレルゲン、ハトダニアレルゲン、蠕虫アレルゲン、軟質珊瑚アレルゲン、動物の鱗屑アレルゲン、線虫アレルゲン、パラゴムノキのアレルゲンから選択されるアレルゲンを含んでいてもよい。
【0047】
好ましい態様において、前記医薬組成物は経口投与用、舌下ドラッグデリバリー用、または経腸ドラッグデリバリー用に調製される。
【0048】
本発明の方法をさらに以下の限定されない実施例により例示する。
【実施例】
【0049】
実施例1:抽出
1%(w/v)花粉(Lolium perenne、ALLERGON社)を炭酸水素ナトリウム(12.5mM)に加え、2時間、撹拌下でインキュベートした。次に、セライト(ACROS社)を2%(w/v)添加し、0.2μmフィルターを通すことにより、清澄化および濾過した。この試料を粗抽出物とする。
【0050】
抽出物中におけるアレルゲンの存在を花粉アレルギー患者の血清を用いたウェスタンブロットにより分析した。IgGおよびIgEエピトープは抗ヒトIgGまたは抗ヒトIgE抗体により可視化した。
【0051】
図1および図2に示すとおり、前記抽出物中には2種の主要なアレルゲンが存在する。
【0052】
前記粗抽出物をpH3.0まで酸性化し、Tween20(0.1%、v/v)を添加した。この試料を酸性化抽出物とする。
【0053】
実施例2:アレルゲンタンパク質の精製
アレルゲン抽出物を以下により精製した:
・陽イオン交換クロマトグラフィー
sartobind S-メンブレン(SARTORIUS社)を、カラム容量(Bv)の28倍の、炭酸水素ナトリウム 12.5mM、クエン酸塩 30mM、pH3.0、Tween20 0.1%(v/v)を用いて平衡化した。前記酸性化抽出物を平衡化したメンブレン上にロードした。カラムをまず35×Bvの、炭酸水素ナトリウム 12.5mM、クエン酸 30mM、pH3.0、Tween20 0.1%(v/v)を用いて洗浄し、次いで42×Bvの、炭酸水素ナトリウム 12.5mM、クエン酸塩 30mM、pH3.0、を用いて洗浄した。タンパク質を炭酸塩 0.1M、塩化ナトリウム 0.5M、pH9.15を用いて溶出した。タンパク質の存在は280nmにおけるODにより観察した。目的の画分をプールした。
・硫酸アンモニウム沈殿
この工程は0〜4℃において行った。
硫酸アンモニウムを飽和量の90%となるように撹拌下で産物に加えた。塩が完全に溶解した後、撹拌を止めた。懸濁液を一晩インキュベートし、15分間10,000gで2回遠心分離した。毎回注意しながら上清を捨てた。
・変性
ペレットを、尿素 6M、DTT 10mM、Tris.HCl 0.1M、pH8.0中で9mg/mlに再懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。
・G25樹脂(fine Sephadex、AMERSHAM社)によるサイズ排除クロマトグラフィー
変性した試料をカラム上にロードし、タンパク質をTris.HCl 25mM、尿素 1.5M、pH8.0を用いて溶出した。
【0054】
タンパク質の存在を280nmでのOD測定により観察した。目的の画分をプールし、精製変性アレルゲン抽出物とした。
【0055】
精製アレルゲン抽出物をさらに分析した。タンパク質純度を評価するため、タンパク質含有量(BCAアッセイ)および乾燥重量を測定した。精製効率は炭水化物の除去(オルシノール試験)およびOD260/OD280比の減少によっても確認した。
【0056】
表1:非タンパク質成分の除去による精製抽出物の生成
【表1】

【0057】
表1に示すように、前記精製工程により、以下のことが可能となる。
・抽出物中のタンパク質の割合が約15%から80%へと増加させる。
・OD260/OD280の比を、純粋なタンパク質の特徴となる0.5に近づかせる。
・炭水化物を相当程度に除去する(残存含有量はタンパク質の炭水化物部分を表しうる)。
【0058】
図4は、精製変性アレルゲン抽出物に対して得られる典型的なSDS−PAGEプロファイルを示す。図に示されるように、6種のタンパク質が、精製抽出物中のタンパク質の総重量の少なくとも60%に相当する。
【0059】
実施例3:変性アレルゲン抽出物の加水分解
抽出物を次のプロトコルを用いて加水分解した:
前記の精製アレルゲン抽出物をpH2.0に酸性化した。消化は、2.5mg/mlの花粉タンパク質および337mgのタンパク質に対して1Eu.Ph.Uのペプシン(MERCK社)を用いて、37℃で2時間行った。
【0060】
図5は精製抽出物(レーン2)と加水分解抽出物(レーン3)との比較を示す。図に示されるように、変性未消化タンパク質に相当する高分子量のタンパク質が、ペプシンとのインキュベーション後に消失した。
【0061】
実施例4:精製
MW≧10,000DaおよびMW≦1,000Daのペプチドを排除するために、加水分解産物を以下により精製した:
・G50樹脂(fine Sephadex、AMERSHAMから入手)によるサイズ排除クロマトグラフィー
イソプロパノール 16.5%(v/v)およびNaCl 0.1Mを加水分解物に加えた。この試料をすぐにG50カラム上にロードした。ペプチドを溶出し、ペプチド(MW≦10kDa)を含む画分を図6に示すようにプールした。
・1kDaメンブレン(限外濾過カセットOmega PES、PALL社)による透析濾過
ペプチドを10倍濃縮し、10倍容量のTris.HCl 50mM pH7.4に対して透析濾過し、最終的に2.5倍濃縮にする。この試料を精製アレルゲン加水分解物とする。
【0062】
精製の効率はサイズ排除HPLCにより調節した。Na2HPO4 50mM− SDS 0.5%(w/v) pH6.8を用いてBioSep−SEC S2000カラム(PHENOMENEX社)を流速1ml/分で平衡化した。ペプチドは214nmで検出した。
【0063】
10kDaおよび1kDaの範囲を図7に例示するように検量線から算出した。
【0064】
図8に示すように、1,000Da〜10,000Daの分子量を有するペプチドは精製加水分解物中の全ペプチドの約75%に相当する。
【0065】
実施例5:アレルゲン性の減少
花粉粗抽出物(実施例1による)、精製花粉タンパク質(実施例2による)および精製花粉ペプチド(実施例4による)のアレルゲン性特性を、それらが好塩基球脱顆粒を誘発する能力を測定することにより試験した。
【0066】
試験は、花粉アレルギーのボランティアからの新鮮なヒト血液試料に対して、花粉粗抽出物、精製タンパク質および精製ペプチドの濃度を増加させながら、in vitroで行った。好塩基球脱顆粒は、フローサイトメトリー法により、活性化細胞(すなわちIgE陽性細胞)の細胞膜上のgp53タンパク質マーカーの発現を測定することで試験した。このタンパク質は通常、休止細胞中では顆粒の膜内に存在し、細胞活性化の際に(顆粒膜と細胞膜との融合により)細胞表面上に現れる。従って標識された特異的抗gp53抗体により検出可能になる。図9に示すように、精製ペプチドは精製タンパク質よりも約30倍アレルゲン性が低く、花粉粗抽出物よりも100倍アレルゲン性が低い。
【0067】
実施例6:花粉タンパク質および花粉ペプチドの免疫原性
アレルゲンタンパク質およびアレルゲンペプチドの免疫原性は、それらがヒト末梢血単核細胞(PBMC)の増殖を刺激する能力を測定することにより調べた。
【0068】
「花粉アレルギーの」ボランティア由来の血液試料から密度勾配遠心分離により精製したPBMCを、5日間、96ウェルプレート中で、増加する種々の濃度の花粉タンパク質および花粉ペプチドの存在下で培養した。5日目に、[3H]−チミジンを細胞培養物に添加し、プレートをさらに37℃で16時間インキュベートした。[3H]−チミジンの取り込みを液体シンチレーションの原理を利用してベータカウンターを用いて測定した。
【0069】
花粉タンパク質(実施例2による)および花粉ペプチド(実施例4による)は、投与濃度依存的にヒトPBMCの増殖を刺激する。アレルゲンペプチドにより誘導された増殖は、タンパク質に反応して観察されたものよりもわずかに少ない。これらの結果は、ペプチド産生の工程において、T細胞活性化に関わるアレルゲンのエピトープの大部分が保存されていることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アレルゲンタンパク質を含むアレルゲンの天然源を抽出して抽出物を生成し、
b)前記抽出物を精製して非タンパク質成分を除去して精製抽出物を生成し、
c)前記精製抽出物を変性させて精製変性抽出物を生成する工程を含み、
前記精製変性抽出物はタンパク質を含み、合わせて全タンパク質の少なくとも60%(w/w)を構成する最も豊富な(w/w)タンパク質群は少なくとも2種のタンパク質であり、全タンパク質が前記精製変性抽出物の乾燥重量の少なくとも60%(w/w)に相当する
天然アレルゲンの精製抽出物の製造方法。
【請求項2】
塩を含まない溶液中、または炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、酢酸塩、TRISおよびHEPESから選択される塩を含む溶液中で抽出が行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抽出が抽出媒体を用いて行われ、前記抽出媒体の重量が前記アレルゲンの天然源の重量の少なくとも20倍、好ましくは100倍である請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記精製がイオン交換クロマトグラフィー工程、ゲル濾過クロマトグラフィーもしくはサイズ排除クロマトグラフィー工程、沈殿工程、疎水性相互作用クロマトグラフィー工程、シュードアフィニティークロマトグラフィー(pseudo−affinity)もしくはアフィニティークロマトグラフィー工程、または透析濾過(diafiltration)工程のうちの1つ以上を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの精製工程が界面活性剤および/または変性剤を含む溶液を用いて行われる請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
変性がカオトロピック剤、還元剤およびこれらの混合物の群から、好ましくは尿素、塩化グアニジニウム、ジチオストレイトール、チオグリセロール、β−メルカプトエタノールおよびこれらの混合物から選択される変性剤を用いて行われる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
尿素の濃度が4M超、好ましくは5M超、および/または塩化グアニジニウムの濃度が3M超、好ましくは4M超である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
a)変性アレルゲンを加水分解してアレルゲン加水分解物を生成し、
b)前記アレルゲン加水分解物を精製して10,000Da超の分子量を有するペプチドおよび1,000Da未満の分子量を有するペプチドを除去して、70%、より好ましくは80%のペプチドが10,000Da〜1,000Daである精製加水分解物を得る
工程を含む天然アレルゲンの精製抽出物の製造方法。
【請求項9】
加水分解が酵素、好ましくはペプシン、トリプシンまたはキモトリプシンを用いて行われる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
加水分解が、カオトロピック剤、好ましくは尿素および塩化グアニジニウムから選択されるカオトロピック剤の存在下で行われる請求項8または請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ペプチドの除去がサイズ排除クロマトグラフィーおよび/または限外濾過により行われる請求項8〜請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記サイズ排除クロマトグラフィー工程が、カオトロピック剤、好ましくは尿素、塩化グアニジニウム、エチレングリコール、イソプロパノールおよびこれらの混合物から選択されるカオトロピック剤の存在下で行われる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
加水分解に先立ち、未変性アレルゲンを変性して変性アレルゲンを生成する請求項8〜請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
変性がカオトロピック剤、還元剤およびこれらの混合物の存在下で行われる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の方法により得られる天然アレルゲンの精製変性抽出物。
【請求項16】
請求項8〜請求項14のいずれか1項に記載の方法により得られる精製アレルゲン加水分解物。
【請求項17】
免疫寛容を誘導するための医薬組成物および/または食品組成物の調製のための請求項15に記載のアレルゲン抽出物または請求項16に記載のアレルゲン加水分解物の使用。
【請求項18】
免疫寛容の誘導がアレルギー反応を治療または予防するために用いられる請求項17に記載の使用。
【請求項19】
請求項15に記載のアレルゲン抽出物または請求項16に記載のアレルゲン加水分解物を含む医薬組成物。
【請求項20】
ヌクレオシド三リン酸、ヌクレオシド二リン酸、ヌクレオシド一リン酸、核酸、ペプチド核酸、ヌクレオシドもしくはその類似体、免疫抑制性サイトカイン、免疫プロテアソームの発現を誘導する化合物、1,25−ジヒドロキシビタミンD3もしくはその類似体、リポ多糖類、エンドトキシン、熱ショックタンパク質、NADPH−チオレドキシン還元酵素もしくはNADP−チオレドキシン還元酵素のいずれかと組み合わせたチオレドキシン、ジチオスレイトール、サルブタノール(salbutanol)等のアドレナリン受容体アゴニスト、ブトキサミン等のアドレナリン受容体アンタゴニスト、接着分子ICAM−1の発現を調節する化合物、N−アセチル−L−システイン、γ−L−グルタミル−L−システイニル−グリシン(還元型L−グルタチオン)、アルファ−2−マクログロブリン、Foxp3遺伝子発現の誘導因子、フラボノイド、イソフラボノイド、プテロカルパノイド(pterocarpanoids)、レスベラトロール等のスチルベン、タキキニン受容体アンタゴニスト、キマーゼ阻害剤、CpGもしくはMPLのようなワクチンアジュバントまたはザイモサンのような寛容原性アジュバント、ベータ−1,3−グルカン、制御性T細胞誘導因子、腸管粘膜内層に粒子を付着させるための植物レクチン等の粘膜付着剤、亜鉛、亜鉛塩、多糖類、ビタミン、および細菌溶解物の群から選択される少なくとも1種の物質をさらに含む請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記アレルゲンが、花粉アレルゲン、ミルクアレルゲン、毒液アレルゲン、卵アレルゲン、雑草アレルゲン、牧草アレルゲン、樹木アレルゲン、灌木アレルゲン、花アレルゲン、野菜アレルゲン、穀物アレルゲン、菌類アレルゲン、果物アレルゲン、液果アレルゲン、ナッツアレルゲン、種子アレルゲン、豆アレルゲン、魚類アレルゲン、甲殻類および/または貝類(shellfish)アレルゲン、海産物アレルゲン、肉類アレルゲン、香辛料アレルゲン、昆虫アレルゲン、ダニアレルゲン、カビアレルゲン、動物アレルゲン、ハトダニ(pigeon tick)アレルゲン、蠕虫アレルゲン、軟質珊瑚アレルゲン、動物の鱗屑アレルゲン、線虫アレルゲン、パラゴムノキのアレルゲンから選択される請求項19または請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
経口投与用、舌下ドラッグデリバリー用、または経腸ドラッグデリバリー用の請求項19〜請求項21のいずれか1項に記載の医薬組成物。

【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−504278(P2010−504278A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517199(P2009−517199)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056454
【国際公開番号】WO2008/000783
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(509005742)バイオテック ツールズ エスエー (2)
【Fターム(参考)】