説明

加温式毛髪セット処理剤

【課題】本発明は、臭気の強い高濃度のメルカプタン系の還元剤を主剤とする現行法のコールドバーマ処理に比し、無臭でより安全性の高いタンニンを用い、毛髪のポリペプチド鎖間にタンニン架橋結合を生成させることにより毛髪のウエーブセットや、くせ毛、縮毛などの毛髪内部の歪を開放してストレートセット、矯正などをすることができる加温式毛髪セット処理剤を提供することを目的としている。また、上記タンニン架橋結合による毛髪セット処理は、現行法のコールドパーマ、ヘアカラー、ヘアブリーチ処理などによる化学作用によって引き起こされる損傷毛の強度の低下や弾性の低下などを補修して改善するのにもきわめて有効な手段になる。
【解決手段】本発明の加温式毛髪セット処理剤は、pH8〜10のアルカリ性領域で低分子化させ、亜硫酸塩による還元作用でさらに活性化させたタンニンを主剤とするタンニン架橋剤と、タンニン架橋剤で処理された毛髪の内部に残存するアルカリを中和する弱酸性の中和剤とからなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加温式毛髪セット処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からの毛髪のウエーブセットは、チオグリコール酸、システイン、アセチルシステイン、システアミン、チオ乳酸またはその塩類などの官能基としてチオール基(‐SH)を分子内にもつ還元力の強いメルカプタン系の還元剤を主剤とする第1剤で毛髪ケラチン中のシスチン結合(−S−S−)を部分的に切断し、臭素酸塩、過酸化水素などの酸化力の強い酸化剤を主剤とする第2剤によって切断されたシスチン結合を再結合させてウエーブを形成する常温または加温の2浴式技法などの簡素化されたシステムに依存する技術が実用化されている(特許文献1等参照)。
【0003】
また、基本的には同一の原理で還元剤と酸化剤を用いるくせ毛のストレートセットや縮毛の矯正なども実用化されている。
この他、電髪パーマなどの加熱機器(105〜110℃)を用い、毛髪蛋白質の熱変性を利用してウエーブを形成する加熱方式の技法も一部に実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−87447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような従来からのパーマネントウエーブやストレートパーマなどの処理を繰り返すと、還元剤および酸化剤の強い化学作用によって毛髪の組織および微細構造の損傷や毛髪の弾性や強度などの劣化を引き起こす場合が多くなる。
すなわち、上記のように1剤の強い還元剤を用いてシスチン結合を切断すると、毛髪のケラチン分子が大きく乱れ、ポリペプチド鎖間が大きく広がるために、2剤の酸化剤によるシスチン結合の再結合が妨げられ、シスチン結合が切断されたままの部分が増加して、毛髪の弾性や強度の劣化が促進される。
【0006】
また、毛髪は、パーマネントウエーブやストレートパーマだけでなく、へアカラー、へアブリーチ、縮毛の矯正等による不適当な処理や、コーミング、シャンプー、ドライヤーなどの手入れや髪型などにより多くの損傷を受ける場合も多い。
【0007】
さらに、臭気の強い高濃度のメルカプタン系の還元剤を主剤とする現行法のパーマネント液は、香料などによって一応マスキングされ、不快臭を防ぐ工夫がされているが、その不快臭の問題は依然として解決されていない。
【0008】
本発明は、無臭でより安全性の高いタンニンを用い、毛髪のポリペプチド鎖間にシスチン結合に代わる新しいタンニン架橋結合を生成させることにより毛髪のウエーブセットや、毛髪内部の歪を開放してくせ毛のストレートセットや、縮毛矯正などをすることができる加温式毛髪セット処理剤を提供することを目的としている。
また、上記タンニン架橋結合による毛髪セット処理は、現行法のコールドパーマ、ヘアカラー、ヘアブリーチ処理などによる化学作用によって引き起こされる損傷毛の強度の低下や弾性の低下などを補修して改善するのにもきわめて有効な手段になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明にかかる加温式毛髪セット処理剤(以下、「毛髪セット処理剤」とのみ記す。)は、pH8〜10のアルカリ性領域で低分子化させ、亜硫酸塩による還元作用でさらに活性化させたタンニンを主剤とするタンニン架橋剤と、前記タンニン架橋剤で処理された毛髪の内部に残存するアルカリを中和する弱酸性の中和剤とからなることを特徴としている。
【0010】
本発明において、上記タンニン架橋剤のpHは8〜10に限定されるが、その理由はpHが8未満ではタンニンの低分子化が不十分でむらになりやすく、また、タンニンが毛髪内部まで浸透しにくくなって、タンニンによる架橋結合の生成が不十分になりやすいためであり、また、pHが10を超えると、毛髪の損傷を引き起こしやすいためである。
上記、タンニンを低分子化させるのに用いるアルカリ剤としては、特に限定されないが例えばモノ、ジおよびトリエタノールアミン、クエン酸塩、リン酸塩、炭酸塩などが挙げられ、これらが単独で用いられても併用されても構わない。また、低分子化されたタンニンをさらに活性化させる亜硫酸塩とは、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウムのことであり、これらが単独で用いられても併用されても構わない。
【0011】
タンニンは、天然物であり、一般に植物原材料からタンニンと同時に抽出される非タンニン分を含んでいる。非タンニン分は、通常植物原材料の種類及び部位や、輸出国での抽出条件などによって含有量が異なり、また精製の段階である程度除去されているが完全に分離除去するのは不可能なものである。
したがって、タンニンを活性化させるために配合される亜硫酸塩の使用量は、植物タンニンに含まれるタンニン量に応じて決定され、特に限定されないが、経験的に、使用する植物タンニンの1〜3倍の重量の亜硫酸塩を加えるようにすればよいことがわかっている。
すなわち、タンニンの還元作用は、50〜55℃、30〜60分間の規定条件下では、亜硫酸塩を植物タンニンの同量以下にすると、タンニンの活性化が不均一になりやすく、タンニン架橋結合の生成を低下させるばかりでなく、さらに毛髪のペプチド鎖間に「スライドむら」を生じさせる場合が多くなり、また3倍量以上使用してもタンニン架橋結合の生成には特に大きな変化が認められない。
【0012】
本発明において、タンニンとしては、特に限定されないが、カテコール系の縮合型タンニンを用いることが好ましい。
すなわち、一般の損傷毛は、その損傷の程度が事前に把握できないため、分子量の大きいカテコール系の縮合型タンニンを用いると、毛髪のケラチン分子の大きな乱れやポリペプチド鎖間隙が拡張されている損傷毛でも架橋結合の3次元網目構造の生成が有利になり架橋効果を高める。
【0013】
また、毛髪は毛根部、中間部、先端部などによって損傷の程度が異なるため分子量の大きいカテコール系の縮合型タンニンを中心に分子量の小さいピロガロール系の加水分解型タンニンを混合したものを用いると優れたセット効果が得られる。
上記混合物の、カテコール系の縮合型タンニンと、ピロガロール系の加水分解型タンニンとの混合比は、特に限定されないが、縮合型タンニン:加水分解型タンニン=7:3〜1:1(重量比)であることが好ましい。
【0014】
上記縮合型タンニンとしては、特に限定されないが、例えば、ケブラチョタンニン、ワットルタンニン、緑茶タンニン、マングローブタンニン、ガンビアタンニン、柿渋タンニンなどが挙げられ、これらが単独で用いられても併用されても構わない。
上記加水分解型タンニンとしては、特に限定されないが、例えば、五倍子タンニン、没食子タンニン、チェストナットタンニン、ミロバランタンニン、オークタンニンが挙げられ、これらが単独で用いられても併用されても構わない。
【0015】
上記タンニン架橋剤のタンニン濃度は、特に限定されないが、1〜10重量%が好ましく、3〜10重量%がより好ましい。
すなわち、毛髪へのタンニンの結合量は、上記タンニン架橋剤中のタンニン濃度を増すと一般に浸透速度を増して増加するが、結合量の多い縮合型タンニンではタンニン分子の集合状態により、逆に一定濃度以上にすると低下するおそれがある。
なお、撥水性が強く、乾燥毛の多い縮毛、渦状毛などの異常毛の矯正においては、上記のストレートセット処理と同様にまず毛髪内部の歪を開放して硬毛を軟化させた後、直線状に固定した状態で新たにタンニン架橋結合を生成することによって目的を達することができるが、異常毛の矯正においては上記ストレートセット処理の場合と異なり、ワットルタンニンまたはケブラチョタンニンなどのカテコール系の縮合型タンニンの比較的濃度の高い3〜10%処理液を用い、50〜55℃、20分間の加温処理をするのが極めて有効で優れたセット効果が得られる。
【0016】
本発明において、上記中和剤に含まれる酸としては、上記タンニン架橋剤で処理された毛髪内部の残存アルカリを中和することができれば、特に限定されないが、例えば、クエン酸、酒石酸、乳酸、りん酸、酢酸等の弱酸及びこれらの塩が挙げられ、これらが単独で用いられても併用されても構わない。
また、上記中和剤の弱酸濃度は、特に限定されないが、0.5〜1.0重量%が好ましい。すなわち、弱酸濃度が0.5重量%未満ではセット効果や耐久性などにむらが生じやすくなり、1.0重量%を超えると、毛髪が固くなり、触感などに変化が生じやすくなるおそれがある。
【0017】
また、本発明において、上記タンニン架橋剤及び中和剤には、毛髪内部への浸透性を高めるために、陰イオン界面活性剤や非イオン界面活性剤等の浸透剤を加えるようにしても構わない。
さらに、上記タンニン架橋剤及び中和剤には、本発明の目的を阻害しない範囲で、増粘剤、ゲル化剤、着色料、香料などの毛髪化粧料等に一般的に用いられている公知の添加剤を必要に応じて適宜加えるようにしても構わない。
因みに、縮毛は一般に疎水性が強く、乾燥毛の損傷毛が多いため、上記タンニン架橋剤に浸透作用の強い陰イオン界面活性剤や柔軟性を付与する油性成分を添加しておくことが好ましい。すなわち、添加によって極めて優れた矯正効果が期待できる。
【0018】
また、上記タンニン架橋剤及び中和剤の形態は、特に限定されないが、例えばローション状、クリーム状、ジェル状などが挙げられる。
【0019】
本発明にかかる毛髪セット処理は、毛髪をあらかじめシャンプーによって洗髪して汚れを除去したのち、ウエーブセット処理では予め毛髪をロッドに巻いて形を整えて上記タンニン架橋剤を毛髪に均一に塗布する方法がとられ、また、ストレートセット処理では毛髪を平板状の保持板に沿うように伸長状態で形を整えて上記タンニン架橋剤を毛髪に均一に塗布する方法がとられる。
【0020】
上記タンニン架橋剤による処理温度は、特に限定されないが、40〜55℃の加温状態が好ましい。
すなわち、上記タンニン架橋剤の処理温度が、40℃未満であると、タンニンの毛髪への浸透速度や反応速度が低下するために長い処理時間を要し、55℃を超えると、上記タンニン架橋剤が頭皮についた場合、一般的に使用者が熱く感じて不快感をもよおすおそれがあり、あまり熱すぎると頭皮の火傷を引き起こすおそれがある。
なお、上記タンニン架橋剤の加温方法は、特に限定されないが、処理時間中、通常のパーマネント処理に用いられているスチーマー等を用いて毛髪を水蒸気雰囲気中に保持する方法が好ましい。
【0021】
上記タンニン架橋剤による処理時間は、毛髪の性状によっても異なるので、40〜55℃の温度範囲では15〜30分間必要とする。なお、処理温度を50〜55℃に高めてタンニンの浸透速度や反応速度を増し、処理時間を10〜20分間程度に短縮することが好ましい。
【0022】
上記中和剤の処理温度は、特に限定されず、常温で構わないが、寒冷地を考慮すると30〜40℃が好ましい。
【0023】
上記中和剤による処理時間は、毛髪内部を中和することができれば特に限定されないが、10〜30分間が好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる毛髪セット処理剤は、以上のように、pH8〜10のアルカリ性領域で低分子化させ、亜硫酸塩による還元作用でさらに活性化させたタンニンを主剤とするタンニン架橋剤で、毛髪内部のポリペプチド鎖間にタンニン架橋結合の3次元網目構造を多数生成させることにより毛髪のウエーブセットや、くせ毛のストレートセットや、縮毛の矯正などをすることができる特徴がある。また本毛髪セット処理剤は、現行法のコールドパーマ、ヘアカラー、ヘアブリーチ処理などによる化学作用によって引き起こされる損傷毛の強度低下や弾性の低下などを補修して改善するのにもきわめて有効な手段になる。
【0025】
すなわち、上記タンニン架橋剤は、pH8〜10のアルカリ性領域でタンニンを低分子化させ、亜硫酸塩の還元作用で、さらにタンニンを親水化、活性化させることにより毛髪内部への浸透性を高め、毛髪に塗布したのち、スチーマーを使用して加温処理すると、毛髪への反応速度を増し、ポリペプド鎖問に水素結合、共有結合を主体とする多数の強固なタンニン架橋結合の3次元網目構造を生成して、毛髪のセット効果を発揮するとともに損傷毛の場合には弾性や強度を高める補修効果なども示す。
【0026】
一方、上記中和剤は、タンニン架橋剤で処理された毛髪内部の残存アルカリを中和して、毛髪蛋白質の等電点(pH5〜6)付近にする弱酸性の処理液で、毛髪の性状を安定にさせるのと同時に上記のようなタンニン架橋結合の3次元網目構造を安定させるのに有効になる。
【0027】
また、本発明の毛髪セット処理剤の主剤となるタンニンは、古くから食品、医療分野に広く多用されている植物性のポリフェノール化合物で、現行法の強い不快臭をもつメルカプタン系の還元剤に比し、無臭で、しかもより安全性の高い毛髪セット処理剤への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】未処理毛髪と、タンニンによってセット処理した毛髪と、各濃度の亜硫酸塩のみで処理した毛髪の荷重伸長曲線を比較して示すグラフである。
【図2】従来のコールドパーマによる損傷毛と、その損傷毛に図1と同様のタンニンによる毛髪セット処理をした毛髪の荷重伸長曲線を比較して示すグラフである。
【図3】毛髪へのケブラチョタンニンと五倍子タンニンの結合量とタンニン架橋剤のpHとの関係を示すグラフである。
【図4】毛髪へのタンニン結合量と処理温度・時間との関係を示すグラフである。
【図5】タンニンの種類及び濃度とタンニン結合量との関係を示すグラフである。
【図6】毛髪のウエーブ効果等の評価に使用したウエーブモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、実験例を参照しつつ本発明を詳しく説明する。
【0030】
(実験例1)
ケブラチョタンニンを用い、モノおよびトリエタノールアミンを用いてpH9に調整した3重量%のタンニン水溶液に5重量%の亜硫酸ナトリウムを加えて50℃、30分間作用させ、タンニンを還元して活性化させたタンニン架橋剤を得た。
得られた45℃のタンニン架橋剤に日本人の未処理毛髪(I)を20分間浸漬したのち、取り出した毛髪に0.5重量%のクエン酸を含む中和剤(pH4付近)を塗布して20分間室温放置し、毛髪内部に残存するアルカリを中和して毛髪蛋白質の等電点(pH5〜6)付近にした。
上記中和剤で処理した毛髪はロッドからはずして、水洗乾燥して処理毛髪(II)を得た。
【0031】
(実験例2)
実験例1のタンニン架橋剤に代えて、タンニンを含まず、モノおよびトリエタノールアミンを用いてpH9に調整した液に1重量%の亜硫酸ナトリウムを加えて比較処理液Aを得た。
得られた45℃の比較処理液Aに未処理毛髪(I)を20分間浸漬したのち、取り出した毛髪に0.5重量%のクエン酸を含む中和剤(pH4付近)を塗布して20分間室温放置し、毛髪内部に残存するアルカリを中和して毛髪蛋白質の等電点(pH5〜6)付近にした。
中和剤で処理した毛髪はロッドからはずして、水洗乾燥して処理毛髪(III)を得た。
【0032】
(実験例3)
実験例1のタンニン架橋剤に代えて、タンニンを含まず、モノおよびトリエタノールアミンを用いてpH9に調整した液に3重量%の亜硫酸ナトリウムを加えて比較処理液Bを得た。
得られた45℃の比較処理液Bに未処理毛髪(I)を20分間浸漬したのち、取り出した毛髪に0.5重量%のクエン酸を含む中和剤(pH4付近)を塗布して20分間室温放置し、毛髪内部に残存するアルカリを中和して毛髪蛋白質の等電点(pH5〜6)付近にした。
中和剤で処理した毛髪はロッドからはずして、水洗乾燥して処理毛髪(IV)を得た。
【0033】
(実験例4)
実験例1のタンニン架橋剤に代えて、タンニンを含まず、モノおよびトリエタノールアミンを用いてpH9に調整した液に5重量%の亜硫酸ナトリウムを加えて比較処理液Cを得た。
得られた45℃の比較処理液Cに未処理毛髪(I)を20分間浸漬したのち、取り出した毛髪を0.5重量%のクエン酸を含む中和剤(pH4付近)を塗布して20分間室温放置し、毛髪内部に残存するアルカリを中和して毛髪蛋白質の等電点(pH5〜6)付近にした。
中和剤で処理した毛髪はロッドからはずして、水洗乾燥して処理毛髪(V)を得た。
【0034】
上記未処理毛髪(I)と、実験例1〜4で得られた処理毛髪(II〜V)のそれぞれについて、定速伸長型インストロン引張試験機を用いて荷重伸長曲線を求め、その結果を図1に示した。
図1から、タンニン架橋結合が亜硫酸ナトリウムの還元作用による開裂で「スライド」させた毛髪のポリペプチド鎖間に生成されることが示唆される。
【0035】
(実験例5)
通常のコールドパーマによる損傷毛と、その損傷毛を実験例1と同様のタンニン架橋剤及び中和剤を用いてタンニンによるセット処理をした毛髪について、それぞれ定速伸長型インストロン引張試験機による荷重伸長曲線を求め、その結果を図2に示した。
図2から、本発明の毛髪セット処理剤を用いた毛髪セット処理においては、コールドパーマ、ヘアカラー、ヘアダイブリーチなどによる強い還元・酸化による化学作用によって損傷した通常の損傷毛においても毛髪の強度低下や伸度の増大を補修して改善するのに極めて有効な手段になることがわかった。
【0036】
(実験例6)
ケブラチョタンニンおよび五倍子タンニンを用い、毛髪をクラーク・ラブス氏の緩衝液によってpH1〜10(pH1,3,5,6,7,8,9,10の8段階に調整)まで変化させた3重量%のタンニン水溶液に毛髪を45℃で20分間浸漬処理し、毛髪に対するタンニンの結合量を調べ、その結果を図3に示した。
(タンニン結合量の測定方法)
各pH領域におけるタンニンの結合量は、レーベンタール氏法によりインジゴカルミン溶液を指示薬として、0.1N過マンガン酸カリウムで滴定してその消費量を求め、処理前後のタンニン量から毛髪1gあたりの結合量(mg)を換算値で示した。
なお、タンニンの結合量の測定は、以下の実験例でも同様にして行った。
図3から、いずれのタンニンにおいても、pH5〜6(毛髪蛋白質の等電点)付近でタンニン結合量が極小値を示し、また、pH1付近に極大値を示すが、特に縮合型のケブラチョタンニンではpH9付近のアルカリ性領域でタンニン結合量が特異的に増大し、極大値を示すことが明らかになった。
【0037】
(実験例7)
実験例1と同様のケブラチョタンニンによる架橋剤を用い、まず35℃、45℃および55℃に温度調整して、それぞれ処理時間を5〜60分間の範囲に変化させて浸漬処理した毛髪に対するタンニン結合量を調べ、その結果を図4に示した。
図4から、処理温度を高めると、一般に毛髪に対するタンニンの浸透速度や反応速度が増しタンニン結合量も増大するが、特に55℃の処理温度では10〜20分間の処理時間で結合量が急激に増大し、ほぼ一定の値を示すことが明らかになった。
【0038】
(実験例8)
五倍子、チェスナット、ミロバランなど3種の加水分解型タンニンと、ケブラチョ、ワットル、マングローブ、ガンビアなど4種の縮合型タンニンを用い、pH9に調整してタンニン濃度を5〜25重量%の範囲に変化させたタンニン水溶液で、毛髪を45℃、20分間浸漬処理し、毛髪に対するタンニンの結合量を調べ、その結果を図5に示した。
図5から、毛髪へのタンニン結合量は、タンニンの種類によって大きく異なるが、特にケブラチョおよびワットルタンニンではタンニン濃度を高めると大きな結合量を示し、また10〜15重量%濃度でほぼ極大値を示すことが明らかになった。
【0039】
(実験例9)
毛髪のウエーブ効果を評価し表現する適正な方法は、現在確立されておらず、それぞれ独自の方法に依存している。本発明における一連の実験においては、できるだけ厳しい評価を心がけ、その1つの手段として図6に示す5段階方式のウエーブモデル図を作製し、これとの比較により表現した。具体的には、17〜18cmの日本人正常毛の毛髪束と、φ6mmのロッドを使用してウエーブの状態の異なる5種類の資料を作製し、1〜5級の5段階方式で表現した。
また、セット効果の耐久性についても、現在確立されておらず、それぞれ独自の方法に依存している。そこで、セット効果の耐久性についても、ウエーブ効果を評価した毛髪をさらに40±2℃の温水中に20分間浸漬して乾燥した後、図6に示す5段階方式のウエーブモデル図を用いて評価した。
【0040】
(実験例10)
ワットルタンニンと五倍子タンニンの混合物(重量比で1:1)を用い、モノエタノールアミンおよびリン酸水素ニナトリウムでpH9に調整した3重量%のタンニン水溶液に5重量%の亜硫酸ナトリウムを加えて50℃、30分間作用させ、タンニンを還元させてタンニン架橋剤を得た。
得られた上記タンニン架橋剤を毛髪に均一に塗布したのち、50℃のスチーマーを使用して20分間加温放置してセット処理をした。
セット処理完了後に、0.5重量%の酒石酸および0.5重量%のりん酸を含む中和剤を毛髪束に充分に塗布し、さらに20分間室温放置して毛髪内部に残存するアルカリを中和して毛髪蛋白質の等電点(pH5〜6)付近にして毛髪束をロッドからはずして水洗、乾燥した。
処理完了後の毛髪は、毛髪ウエーブ効果の評価を行ったところ、図6に示す耐久性のある4〜5級の優れたウエーブセット効果を示した。
【0041】
(実験例11)
ケブラチョタンニンとガンビアタンニンの混合物(重量比で7:3)を用い、モノエタノールアミンおよびクエン酸塩でpH9に調整した3重量%のタンニン水溶液に5重量%の亜硫酸カリウムを加えて50℃、60分間作用させ、タンニンを還元して活性化させたタンニン架橋剤を得た。
そして、得られた上記タンニン架橋剤を毛髪に均一に塗布したのち、55℃のスチーマーを使用して20分間加温放置して毛髪をセット処理した。
セット処理完了後に、0.5重量%のクエン酸および0.5重量%の酒石酸を含む中和剤を毛髪に充分に塗布し、さらに20分間室温放置して毛髪内部に残存するアルカリを中和して毛髪蛋白質の等電点(pH5〜6)付近にして毛髪をロッドからはずして水洗、乾燥した。
処理完了後の毛髪は、毛髪のウエーブ効果の評価を行ったところ、従来からのウエーブセットがかかり難い毛髪においても、図6に示す耐久性のある4〜5級の優れたウエーブセット効果を示した。
【0042】
(実験例12)
ワットルタンニンと緑茶タンニンの混合物(重量比で1:1)を用い、トリエタノールアミンおよび炭酸ナトリウムを加えてpH9に調整した3重量%のタンニン水溶液に5重量%の亜硫酸ナトリウムを加えて50℃、60分間作用させ、タンニンを還元して活性化させたタンニン架橋剤を得た。
つぎに、治具を用いてくせのある毛髪を直線状に保持した状態で、上記タンニン架橋剤を毛髪に塗布した後、55℃のスチーマーを用いて20分間加温放置してセット処理した。
セット処理完了後に、0.5重量%のクエン酸からなる中和剤を毛髪に充分に塗布し、さらに20分間室温放置して毛髪内部に残存するアルカリを中和して毛髪蛋白質の等電点(pH5〜6)付近にしてから、毛髪を治具からはずして水洗、乾燥した。
処理完了後の毛髪は、くせがなくなり、ほぼ直線状を示した。
【0043】
(実験例13)
ワットルタンニンとケブラチョタンニンの混合物(重量比で7:3)を用い、トリエタノールアミンおよびりん酸水素二ナトリウムでpH9に調整した3重量%のタンニン水溶液に5重量%の亜硫酸ナトリウムを加えて50℃、60分間作用させ、タンニンを還元して活性化させた。さらに、浸透剤としてのラウリル硫酸ナトリウムを0.5重量%、スクワランを0.2重量%となるように加えてタンニン架橋剤を得た。
つぎに、治具を用いてくせのある毛髪を直線状に保持した状態で、上記タンニン架橋剤を毛髪に塗布した後、55℃のスチーマーを用いて20分間加温放置してセット処理した。
セット処理完了後に、0.5重量%のクエン酸と0.5重量%の乳酸を含む中和剤を毛髪に充分に塗布し、さらに20分間室温放置して毛髪内部に残存するアルカリを中和して毛髪蛋白質の等電点(pH5〜6)付近にしてから、毛髪を治具からはずして水洗、乾燥した。処理完了後の毛髪は、くせがなくなり、ほぼ直線状を示した。
【0044】
(実験例14)
実験例1と同様の毛髪セット処理剤のタンニン架橋剤と中和剤とを用い、タンニン架橋剤中のケブラチョタンニンの濃度を0.5〜15重量%の範囲で変化させて、毛髪のセット処理を行った。処理完了後のそれぞれの毛髪について、ウエーブ効果、耐久性、触感の評価を行った。その結果を表1に示した。
なお、ウエーブ効果、耐久性については上記実験例9〜11と同様にして評価した。また、触感については、+++を極めて良好、++を良好、+をやや不良、−を不良と評価した。
【0045】
【表1】

【0046】
上記表1から、ケブラチョタンニンによる毛髪セット処理においては、タンニン濃度を1.0重量%以下にすると、毛髪のセット効果ならびに耐久性が低下するが、1.0〜10.0重量%の濃度範囲ではいずれも優れたウエーブ効果と耐久性が得られる。また、10.0重量%以上の濃度にすると逆にウエーブ効果と耐久性が弱まるばかりでなく、毛髪の触感を悪くする傾向があった。したがって、タンニン架橋剤に含まれるタンニン濃度は不必要に高めることなく、1重量%を超え10重量%未満の範囲が好ましいことがわかった。
なお、ウエーブ効果及び耐久性の5〜4級、3〜2級には、判定者によってバラツキが出ている。これは毛髪に起因するバラツキも含まれており、アンダーラインを引いた級、級はそれぞれ5級、3級に近いことを意味している(以下同じ。)。
【0047】
(実験例15)
タンニン架橋剤中のワットタンニンと五倍子タンニンの混合比を変えたことを除いて、実験例10と同様にして毛髪セット処理を行なった後、ウエーブ効果と耐久性を評価した。その結果を表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2で明らかなように、ワットルタンニンの混合割合が多いA〜Fのタンニン架橋剤を用いた毛髪では優れたウエーブ効果が判定され、また、D〜Fのタンニン架橋剤を用いた毛髪では、優れた耐久性を示すことが判定された。
したがって、この結果からタンニン特性の異なる縮合型タンニンと、加水分解型タンニンとを混合して用いる場合、縮合型タンニンと加水分解型タンニンの配合比が、以下の範囲、縮合型タンニン:加水分解型タンニン=7:3〜1:1(重量比)となっていることが好ましいと判定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH8〜10のアルカリ性領域で低分子化させ、亜硫酸塩による還元作用でさらに活性化させたタンニンを主剤とするタンニン架橋剤と、
タンニン架橋剤で処理された毛髪の内部に残存するアルカリを中和する弱酸性の中和剤とからなることを特徴とする加温式毛髪セット処理剤。
【請求項2】
タンニンが、カテコール系の縮合型タンニンである請求項1に記載の加温式毛髪セット処理剤。
【請求項3】
タンニンがカテコール系の縮合型タンニンと、ピロガロール系の加水分解型タンニンとの混合物である請求項1に記載の加温式毛髪セット処理剤。
【請求項4】
縮合型タンニンと、加水分解型タンニンの混合比が、重量比で、
縮合型タンニン:加水分解型タンニン=7:3〜1:1である請求項3に記載の加温式毛髪セット処理剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−184413(P2011−184413A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54018(P2010−54018)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(591193392)富士化学工業株式会社 (1)
【出願人】(599171132)川村通商株式会社 (1)
【Fターム(参考)】