説明

加温販売用果汁飲料の加温劣化抑制方法、加温販売用果汁飲料の製造方法及び加温販売用果汁飲料

【課題】加温販売に供される果汁飲料の加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化を抑制する方法、当該果汁飲料の製造方法、及び当該果汁飲料を提供する。
【解決手段】加温販売用果汁飲料の加温による劣化を抑制する方法は、果汁飲料の製造工程においてショ糖と高甘味度甘味料とを配合するに際し、ショ糖の甘味度と配合量との積及び高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和が所定の値になるように、ショ糖及び高甘味度甘味料を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加温販売用果汁飲料の加温による劣化を抑制する方法、加温販売用果汁飲料を製造する方法、及び加温販売用果汁飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然果実等の果汁を含有する清涼飲料(果汁飲料)は、店頭や自動販売機等で販売に供される際に冷却されたり、50〜70℃程度に加温されたりしている。このうち、加温販売用の果汁飲料は、加温によりその香味や風味等の品質が劣化したり、液色の褐変等の視覚的変化(色調変化)が生じたりすることがある。
【0003】
近年、PETボトル等の透明密閉容器に充填した果汁飲料が普及しており、かかる透明密閉容器による販売に供される場合に、特に液色の褐変のような視覚的変化が生じると商品価値及び商品寿命を低下させてしまうため、視覚的変化に対応することが必要となる。
【0004】
このような状況において、従来、茶系飲料に関するものではあるが、茶飲料の調製において、有効成分としてサイクロデキストリンとアスコルビン酸又はアスコルビン酸塩とを配合することにより、加温販売される茶飲料の品質の加温劣化を抑制する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、果汁飲料の加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化を抑制する方法は、従来提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−73057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、加温販売に供される果汁飲料の加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化を抑制する方法、当該果汁飲料の製造方法、及び当該果汁飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明者らが鋭意研究した結果、加温販売に供される果汁飲料にショ糖と高甘味度甘味料とを所定の割合で配合することによって、加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化を抑制することができることが判明した。
【0008】
すなわち、本発明は、加温販売用果汁飲料の加温による劣化を抑制する方法であって、前記果汁飲料の製造工程において、ショ糖と高甘味度甘味料とを、前記ショ糖の甘味度と配合量との積及び前記高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和が所定の値になるように配合することを特徴とする加温劣化抑制方法を提供する(請求項1)。
【0009】
本発明において「甘味度」とは、甘味料の甘味の強さを意味し、具体的には、ショ糖の甘味度を1としたときの甘味の度合いを示す数値である。また、「高甘味度甘味料」とは、ショ糖の甘味度よりも高い甘味度を有する甘味料を意味し、天然甘味料、合成甘味料のいずれをも含む概念である。また、当該高甘味度甘味料には、2種以上の甘味料を混合した混合甘味料であって当該混合甘味料全体の甘味度がショ糖の甘味度よりも高いものも含まれるものとし、その混合甘味料にはショ糖の甘味度よりも低い甘味度を有する甘味料が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0010】
上記発明(請求項1)によれば、ショ糖及び高甘味度甘味料が所定の割合で果汁飲料中に配合されていることで、果汁飲料を加温することによって生じ得る液色の劣化を抑制することができ、また果汁飲料の風味や香味等の品質の劣化も抑制することができる。これにより、果汁飲料が加温状態で長期間(例えば、2週間以上)保存されていたとしても、商品劣化が抑制され、商品寿命を延長させることができる。
【0011】
上記発明(請求項1)においては、脱気水をさらに配合するのが好ましい(請求項2)。かかる発明(請求項2)によれば、果汁飲料の調製用の水の一部又はすべてとして脱気水を使用することで、果汁飲料を加温することによって生じ得る液色の劣化をより抑制することができる。
【0012】
なお、本発明において「脱気水」とは、水、イオン交換水又は蒸留水等に含まれる溶存酸素量を低下させたものを意味する。その製造方法としては、加熱脱気、真空脱気、膜脱気等の方法が挙げられるが、本発明における脱気水は、いずれの方法により製造されたものであってもよい。

【0013】
上記発明(請求項1,2)においては、前記高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム及びスクラロースを含有するのが好ましい(請求項3)。
【0014】
また、本発明は、少なくとも果汁と、ショ糖と、高甘味度甘味料とを配合する工程を含み、前記工程において、前記ショ糖の甘味度と配合量との積及び前記高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和が所定の値になるように、前記ショ糖及び前記高甘味度甘味料を配合することを特徴とする加温販売用果汁飲料の製造方法を提供する(請求項4)。
【0015】
上記発明(請求項4)によれば、ショ糖及び高甘味度甘味料を所定の割合で配合することだけで、加温することによって生じ得る液色の劣化を抑制することができ、また風味や香味等の品質の劣化も抑制することのできる果汁飲料を容易に製造することができる。
【0016】
上記発明(請求項4)においては、脱気水をさらに配合するのが好ましく(請求項5)、上記発明(請求項4,5)においては、前記高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム及びスクラロースを含有するのが好ましい(請求項6)。
【0017】
さらに、本発明は、少なくとも果汁と、ショ糖と、高甘味度甘味料とを含有し、前記ショ糖の甘味度と配合量との積及び前記高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和が所定の値になるように、前記ショ糖及び前記高甘味度甘味料を含有することを特徴とする加温販売用果汁飲料を提供する(請求項7)。
【0018】
上記発明(請求項7)によれば、ショ糖及び高甘味度甘味料が所定の割合で果汁飲料中に配合されていることで、果汁飲料を加温することによって生じ得る液色の劣化を抑制することができ、また果汁飲料の風味や香味等の品質の劣化も抑制することができる。これにより、果汁飲料が加温状態で長期間(例えば、2週間以上)保存されていたとしても、商品劣化が抑制され、商品寿命を延長させることができる。
【0019】
上記発明(請求項7)においては、脱気水をさらに含有するのが好ましく(請求項8)、上記発明(請求項7,8)においては、前記高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム及びスクラロースを含有するのが好ましい(請求項9)。
【0020】
上記発明(請求項7〜9)においては、透明密閉容器に充填されてなるのが好ましい(請求項10)。加温販売に供される果汁飲料は、加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化が抑制されるため、上記発明(請求項10)によれば、透明密閉容器に充填された上での加温販売に好適に供され得る。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、加温販売に供される果汁飲料の加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化を抑制する方法、当該果汁飲料の製造方法、及び当該果汁飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1〜4及び比較例1〜3の果汁飲料における加温前と60℃に加温14日間経過後及び加温前と70℃に加温14日間経過後の色差(ΔE)を示すグラフである。
【図2】実施例1〜4及び比較例1〜3の果汁飲料における60℃及び70℃に加温14日間経過後の官能評価試験の結果(加熱臭)を示すグラフである。
【図3】実施例1〜4及び比較例1〜3の果汁飲料における60℃及び70℃に加温14日間経過後の官能評価試験の結果(嗜好性)を示すグラフである。
【図4】実施例1〜4及び比較例1〜3の果汁飲料における60℃及び70℃に加温14日間経過後の官能評価試験の結果(糖と酸とのバランス)を示すグラフである。
【図5】実施例5〜9の果汁飲料における加温前と60℃に加温14日間経過後の色差(ΔE)を示すグラフである。
【図6】実施例10〜15の果汁飲料における加温前と60℃に加温14日間経過後の色差(ΔE)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る加温販売用果汁飲料は、少なくとも果汁と、ショ糖と、高甘味度甘味料を含むものである。
【0024】
本実施形態に係る加温販売用果汁飲料に含まれ得る果汁としては、特に限定されるものではなく、レモン果汁、ユズ果汁、オレンジ果汁、グレープフルーツ果汁等の柑橘類果汁、リンゴ果汁、モモ果汁、ブドウ果汁等が挙げられる。これらのうち、レモン果汁、ユズ果汁等の柑橘類果汁、リンゴ果汁が好適に用いられ、特にレモン果汁やユズ果汁は、加温による液色の劣化が生じやすいため、好適に用いられる。
【0025】
また、上記果汁としては、果実の搾汁液(ストレート果汁)、搾汁液を濃縮した濃縮果汁、濃縮果汁をさらに希釈した還元果汁、搾汁液に酵素処理等を施すことで清澄化した透明果汁等が挙げられる。
【0026】
上記果汁の配合量は、特に限定されるものではないが、飲料全量に対して1〜15質量%であるのが好ましく、1〜10質量%であるのがより好ましい。果汁の配合量が上記範囲内であることで、加温状態で摂飲した際に嗜好性の高い果汁飲料とすることができる。
【0027】
本実施形態に係る加温販売用果汁飲料に含まれ得る高甘味度甘味料としては、例えば、ショ糖の甘味度よりも高い甘味度を有する一の甘味料や、当該一の甘味料にショ糖の甘味度よりも低い甘味度を有する甘味料のうちの1種若しくは2種以上の甘味料及び/又はショ糖の甘味度よりも高い甘味度を有する他の甘味料のうちの1種若しくは2種以上の甘味料を混合した混合甘味料であって混合甘味料全体の甘味度がショ糖の甘味度よりも高いもの等を用いることができる。
【0028】
上記ショ糖の甘味度よりも高い甘味度を有する甘味料としては、食品添加物として認められているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム等の合成甘味料;アスパルテーム、アリテーム等のアミノ酸系甘味料;ステビア、グリチルリチン、カンゾウ抽出物等の天然甘味料等が挙げられ、これらのうちアセスルファムカリウム及びスクラロースを好適に用いることができる。
【0029】
また、上記ショ糖の甘味度よりも低い甘味度を有する甘味料としては、例えば、イソマルツロース、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコールやそれらの還元体、さらにはオリゴ糖類、その他の甘味料が挙げられる。
【0030】
本実施形態に係る加温販売用果汁飲料におけるショ糖の配合量は、飲料全量に対して1.4〜6.6質量%であるのが好ましく、特に2.0〜5.5質量%であるのが好ましい。ショ糖の配合量が6.6質量%を超えると、果汁飲料の加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化を抑制するのが困難になるおそれがあり、1.4質量%未満であると、高甘味度甘味料の配合量が多くなりすぎて、高甘味度甘味料の苦味や後引きの悪さに加え、濃度感、バランスが悪くなるおそれがある。
【0031】
本実施形態に係る加温販売用果汁飲料における高甘味度甘味料の配合量は、配合する甘味料の甘味度に応じて適宜決定すればよいが、ショ糖の甘味度を基準としてショ糖の配合量に換算したショ糖換算(高甘味度甘味料の甘味度×高甘味度甘味料の配合率)で、飲料全量に対して2.4〜13.6質量%であるのが好ましく、特に3.0〜11.0質量%であるのが好ましい。高甘味度甘味料の配合量が13.6質量%(ショ糖換算)を超えると、高甘味度甘味料の苦味や後引きの悪さに加え、濃度感、バランスが悪くなり、2.4質量%(ショ糖換算)未満であると甘味度を維持するためにショ糖配合量が多くなり、果汁飲料の加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化を抑制するのが困難となる。なお、低甘味度甘味料を配合する場合、その配合量は得られる果汁飲料の風味や香味が嗜好性の高いものとなるように、適宜調整すればよい。
【0032】
本実施形態に係る加温販売用果汁飲料におけるショ糖と高甘味度甘味料との配合量は、ショ糖の甘味度と配合量との積及び高甘味度甘味料の甘味度(高甘味度甘味料として混合甘味料を用いる場合には混合甘味料全体の甘味度)と配合量との積の和が所定の値、具体的には7〜15、好ましくは8〜13、より好ましくは8〜11になるように決定する。
【0033】
ショ糖及び高甘味度甘味料の配合割合は、例えば、下記式(1)に基づいて算出する。
【0034】
【数1】

【0035】
式(1)中、Xは「ショ糖の甘味度と配合量との積及び高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和」を、Yは「ショ糖の甘味度(=1)」を、yは「ショ糖の配合量(質量%)」を、Zは「高甘味度甘味料の甘味度(高甘味度甘味料として混合甘味料を用いる場合には当該混合甘味料全体の甘味度)」を、zは「高甘味度甘味料(混合甘味料)の配合量(質量%)」を表す。
【0036】
例えば、甘味度200のアセスルファムカリウムを高甘味度甘味料として用い、ショ糖の甘味度と配合量との積及び高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和を9.2と設定した場合、ショ糖の配合量を4質量%と決定すれば、高甘味度甘味料の配合量を、(9.2−4)/200=0.026質量%と決定することができる。また、高甘味度甘味料として、アセスルファムカリウム、スクラロース及びイソマルツロースの還元体からなる混合甘味料(混合甘味料全体の甘味度=200)を用い、ショ糖の甘味度と配合量との積及び高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和を9.2と設定した場合、ショ糖の配合量を4質量%と決定すれば、高甘味度甘味料(混合甘味料)の配合量を、(9.2−4)/200=0.026質量%と決定することができる。
【0037】
このようにしてショ糖と高甘味度甘味料との配合割合を決定することで、加温販売に供される果汁飲料における加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化を効果的に抑制することができる。また、上記配合割合によりショ糖と高甘味度甘味料とを含有せしめることで、果汁飲料の香味や風味を嗜好性の高いものとすることができる。
【0038】
本実施形態に係る加温販売用果汁飲料のpHは、2.0〜4.5であるのが好ましく、2.5〜4.0であるのがより好ましい。果汁飲料のpHが上記範囲であれば、果実(果汁)の呈味を損なうことなくほどよい酸味を与えることができる。
【0039】
なお、本実施形態に係る加温販売用果汁飲料は、所望により、ペクチン、ゼラチン、コラーゲン、寒天、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、大豆多糖類、アラビアガム、グァーガム、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム等の増粘安定剤;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料;酸化防止剤;炭酸水素ナトリウム(重曹)等のpH調整剤;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤;食物繊維、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナイアシン、パントテン酸等の強化剤;各種乳酸菌等をさらに含有していてもよい。
【0040】
本実施形態に係る加温販売用果汁飲料は、容器に充填した形態で提供することができ、特に、加温による液色の褐変等の色調変化が効果的に抑制されているため、透明密閉容器に充填した形態で提供するのが好ましい。当該透明密閉容器としては、例えば、PETボトル、ガラスビン等が挙げられる。
【0041】
本実施形態に係る加温販売用果汁飲料は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、まず、飲用に適した水に果汁、ショ糖及び高甘味度甘味料を上述したような配合量となるように添加し、所望によりその他の食品添加物等をさらに添加して攪拌し、飲料原液を調製する。
【0042】
上記飲用に適した水としては、例えば、市水、井水、イオン交換水、脱気水等が挙げられるが、これらのうちイオン交換水又は脱気水を用いるのが好ましく、特に脱気水を用いるのが好ましい。脱気水を用いることで、果汁飲料の加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化をより効果的に抑制することができる。なお、脱気水を用いる場合、飲用に適した水の一部又はすべてを脱気水とすることができる。
【0043】
加温販売用果汁飲料の製造に脱気水を用いる場合、脱気水の溶存酸素量は、5.0μg/mL以下であるのが好ましく、特に0.1〜1.0μg/mLであるのが好ましい。溶存酸素量が5.0μg/mLを超えると、脱気水を用いることによる効果が弱くなるおそれがある。
【0044】
上述のようにして得られた飲料原液にpH調整剤等を添加することにより、飲料原液のpHを所定の範囲に調整する。その後、pHを調整した飲料原液を加熱殺菌して透明密閉容器等の容器に充填する。このようにして、本実施形態に係る加温販売用果汁飲料を製造することができる。
【0045】
このようにして製造された加温販売用果汁飲料中の溶存酸素量は、0.1〜5μg/mLであるのが好ましく、特に0.1〜3μg/mLであるのが好ましい。果汁飲料中の溶存酸素量が5μg/mLを超えると、商品価値を低下させ、商品寿命を短縮させてしまうおそれがある。
【0046】
このようにして製造される本実施形態に係る加温販売用果汁飲料は、50〜70℃程度で加温されて販売に供されることになるが、ショ糖と高甘味度甘味料とを含み、それらの配合割合が一定の範囲に調整されていることで、加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化を効果的に抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、加温販売用果汁飲料の商品劣化が抑制され、商品寿命を延長させることができる。
【0047】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0049】
〔実施例1〜4,比較例1〜3〕
表1及び表2に示す配合に従って飲料原料を混合し、得られた混合物を95℃まで加温し、PETボトルに充填することで、果汁飲料(実施例1〜4、比較例1〜3)を製造した。実施例1〜2及び4、並びに比較例1〜3の果汁飲料は、水としてイオン交換水を用い、実施例3の果汁飲料は、水としてイオン交換水を脱気した脱気水を用いた。また、比較例1の果汁飲料は、砂糖としてグラニュー糖と果糖ブドウ糖液糖との混合物(同量(4.6質量%)ずつ配合)を用いた。さらに、実施例1〜4及び比較例1〜3の果汁飲料における砂糖及び高甘味度甘味料の配合量は、下記式(1)に基づき、砂糖を9.2質量%配合したときの甘味度と同一の甘味度になるように適宜調整した。
【0050】
【数2】

【0051】
式(1)中、Xは「砂糖(ショ糖)の甘味度と配合量との積及び高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和」を、Yは「砂糖(ショ糖)の甘味度(=1)」を、yは「砂糖(ショ糖)の配合量(質量%)」を、Zは「混合甘味料(高甘味度甘味料)の甘味度」を、zは「混合甘味料(高甘味度甘味料)の配合量(質量%)」を表す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
実施例1〜4及び比較例1〜3の果汁飲料を、60℃又は70℃で加温した状態で保管し、加温前及び2週間後の飲料の液色についてのLab表色系におけるL値、a値及びb値を、分光色差計(spectrophotometer SE2000,日本電色工業社製)を用いて測定した。得られた結果から、加温前における飲料の液色を基準とした色差(ΔE)を下記式により算出した。
【0055】
ΔE={(ΔL)+(Δa)+(Δb)}1/2
式中、ΔLは「加温前の果汁飲料のL値と加温後の果汁飲料のL値との差分」を、Δaは「加温前の果汁飲料のa値と加温後の果汁飲料のa値との差分」を、Δbは「加温前の果汁飲料のb値と加温後の果汁飲料のb値との差分」を表す。
結果を図1及び表4に示す。なお、表4中、色調評価は、ΔEの平均値が5未満のものを「◎」、5以上7未満のものを「○」、7以上のものを「×」と評価した。
【0056】
また、実施例1〜4及び比較例1〜3の果汁飲料を60℃及び70℃で保管したものについて、官能評価を行った。かかる官能評価は、果汁飲料の開発を担当する訓練された7名のパネラーにより、60℃で2週間、70℃で2週間保管した各果汁飲料について、加熱臭、嗜好性、糖と酸とのバランスを表3に示す判断基準に従って4段階で評価した。結果を図2〜4、表4及び表5に示す。なお、表4中における総合評価は、色調評価及び官能評価のうちの低い方の評価を採用した。また、表5中における数値は、7人のパネラーの評価点の平均値を示すものであり、総点が12点未満のものを「×」、12点以上15点未満のものを「○」、15点以上のものを「◎」と評価した。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
図1及び表4に示すように、砂糖(ショ糖)と高甘味度甘味料とを配合した実施例1〜4の果汁飲料は、砂糖(ショ糖)のみを配合した比較例1〜2の果汁飲料に比して、色調の劣化が抑制されていることが確認され、実施例2及び3の果汁飲料のように、ショ糖の配合量と甘味度との積及び高甘味度甘味料の配合量と甘味度との積の和が9.2程度となるようにそれらを配合することで、液色の褐変等の色調の劣化を効果的に抑制し得ることが確認された。特に、実施例3の果汁飲料のように、脱気水を用いて製造されたものは、色調の劣化を極めて抑制し得ることが確認された。
【0061】
また、図2〜4、表4及び表5に示すように、官能試験の結果、比較例1及び比較例2の果汁飲料は加熱臭が際立っており、比較例3の果汁飲料は、嗜好性、濃度感が弱く、また糖と酸とのバランスも悪く、甘味料の後引きの悪さも目立っていた。一方、実施例2及び実施例3の果汁飲料では加熱臭も少なく、濃度感も適度にあり、最もバランスの優れた風味を有した。また、実施例1の果汁飲料では、若干加熱臭があるが、濃度感もありバランスが良好であった。さらに、実施例4の果汁飲料では、濃度感、バランスにやや劣るが、加熱臭は少なかった。
【0062】
総合的な評価として、比較例1〜2の果汁飲料は、色調の変化及び糖の加熱臭が際立ち、加温販売用果汁飲料としての商品価値の低下が著しく、比較例3の果汁飲料は、色調の変化は少ないが、甘味料独特の後引きが目立ち、バランスが悪いため、加温販売用果汁飲料としての商品価値が低いものであった。一方、実施例1〜4の果汁飲料に関しては、色調の変化が少なく、かつ香味が良いため、加温販売用果汁飲料としての商品価値が高く、特に実施例2及び実施例3において液色の褐変抑制、さらには香味の良さが確認された。このように、加温販売用果汁飲料の色調の劣化及び香味において、ショ糖と甘味料との配合割合の重要性が示唆された結果となった。
【0063】
〔実施例5〜9〕
実施例3の果汁飲料において、高甘味度甘味料としての混合甘味料を表6に示す高甘味度甘味料に変更した以外は実施例3と同様にして果汁飲料を製造した(実施例5〜9)。
【0064】
実施例5〜9の果汁飲料を、60℃で加温した状態で保管し、加温前及び2週間後の飲料の液色についてのLab表色系におけるL値、a値及びb値を、分光色差計(spectrophotometer SE2000,日本電色工業社製)を用いて測定した。得られた結果から、加温前における飲料の液色を基準とした色差(ΔE)を下記式により算出した。
【0065】
ΔE={(ΔL)+(Δa)+(Δb)}1/2
式中、ΔLは「加温前の果汁飲料のL値と加温後の果汁飲料のL値との差分」を、Δaは「加温前の果汁飲料のa値と加温後の果汁飲料のa値との差分」を、Δbは「加温前の果汁飲料のb値と加温後の果汁飲料のb値との差分」を表す。
結果を図5及び表6に示す。
【0066】
【表6】

【0067】
図5及び表6から明らかなように、高甘味度甘味料の種類によって果汁飲料の液色の劣化の抑制効果に有意な差は確認されなかった。また、実施例5〜9の果汁飲料は、いずれも比較例2の果汁飲料に比して液色の劣化が抑制されていることが確認された。このことから、高甘味度甘味料の種類にかかわらず、ショ糖と高甘味度甘味料との配合割合を所定の範囲にすることで、果汁飲料の液色の劣化を抑制し得ることが判明した。
【0068】
〔実施例10〜15〕
実施例2の果汁飲料において、果汁の種類及び配合量を表7に示すように変更した以外は実施例2と同様にして果汁飲料を製造した(実施例10〜15)。
【0069】
【表7】

【0070】
実施例10〜15の果汁飲料を、60℃で加温した状態で保管し、加温前及び2週間後の飲料の液色についてのLab表色系におけるL値、a値及びb値を、分光色差計(spectrophotometer SE2000,日本電色工業社製)を用いて測定した。得られた結果から、加温前における飲料の液色を基準とした色差(ΔE)を下記式により算出した。
【0071】
ΔE={(ΔL)+(Δa)+(Δb)}1/2
式中、ΔLは「加温前の果汁飲料のL値と加温後の果汁飲料のL値との差分」を、Δaは「加温前の果汁飲料のa値と加温後の果汁飲料のa値との差分」を、Δbは「加温前の果汁飲料のb値と加温後の果汁飲料のb値との差分」を表す。
結果を図6及び表8に示す。
【0072】
【表8】

【0073】
図6及び表8から明らかなように、果汁量の増加に従って果汁飲料の液色の劣化が加速することが確認された。また、レモン果汁、ユズ果汁等の柑橘類果汁は、果汁飲料の液色が劣化しやすいことが確認された。このことから、特に柑橘類果汁を含む果汁飲料においてショ糖と高甘味度甘味料とを所定の割合で配合することで、優れた液色の劣化抑制効果を奏し得ると考えられる。

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の劣化抑制方法は、加温販売に供される果汁飲料の液色や品質の劣化の抑制に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加温販売用果汁飲料の加温による劣化を抑制する方法であって、
前記果汁飲料の製造工程において、ショ糖と高甘味度甘味料とを、前記ショ糖の甘味度と配合量との積及び前記高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和が所定の値になるように配合することを特徴とする加温劣化抑制方法。
【請求項2】
脱気水をさらに配合することを特徴とする請求項1に記載の加温劣化抑制方法。
【請求項3】
前記高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム及びスクラロースを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の加温劣化抑制方法。
【請求項4】
少なくとも果汁と、ショ糖と、高甘味度甘味料とを配合する工程を含み、
前記工程において、前記ショ糖の甘味度と配合量との積及び前記高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和が所定の値になるように、前記ショ糖及び前記高甘味度甘味料を配合することを特徴とする加温販売用果汁飲料の製造方法。
【請求項5】
脱気水をさらに配合することを特徴とする請求項4に記載の加温販売用果汁飲料の製造方法。
【請求項6】
前記高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム及びスクラロースを含有することを特徴とする請求項4又は5に記載の加温販売用果汁飲料の製造方法。
【請求項7】
少なくとも果汁と、ショ糖と、高甘味度甘味料とを含有し、
前記ショ糖の甘味度と配合量との積及び前記高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和が所定の値になるように、前記ショ糖及び前記高甘味度甘味料を含有することを特徴とする加温販売用果汁飲料。
【請求項8】
脱気水をさらに含有することを特徴とする請求項7に記載の加温販売用果汁飲料。
【請求項9】
前記高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム及びスクラロースを含有することを特徴とする請求項7又は8に記載の加温販売用果汁飲料。
【請求項10】
透明密閉容器に充填されてなることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の加温販売用果汁飲料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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