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加熱および化学的固定の組合せによる生体試料のための安定化方法
説明

加熱および化学的固定の組合せによる生体試料のための安定化方法

本発明は、解析用の生体試料を安定化させる方法を提供する。本発明は、より詳しくは、タンパク質の一次構造、およびタンパク質リン酸化などの翻訳後修飾を維持するために、生体試料の加熱処理と化学的固定を組み合わせる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析用の生体試料を安定化させる方法に関する。本発明は、より詳しくは、タンパク質一次構造、およびタンパク質リン酸化などの翻訳後修飾を維持するために、生体試料の加熱と化学的固定を組み合わせる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料の解析には、試料が生物体から抽出される時点と解析が行われる時点の間でその構成要素の完全性が保たれていることが重要である。しかしながら、試料の分解は阻害するのも難しければ、検出するのも難しい。その結果、多くの解析では、解析が行われるずっと前に分解された種の存在を検出することができず、それに対応して、このような解析は、実際には、元の成分の代わりに臨界成分の分解産物を同定できるというものである。
【0003】
生物体におけるタンパク質の集合状態は、生理学、機能および疾病を理解するために重要である。タンパク質は、例えば細胞核、オルガネラ、原形質および膜などの多くの異なる細胞コンパートメント、ならびに細胞間隙および血液などの体液中に見られる。それらの遍在性にもかかわらず、タンパク質は環境に極めて敏感であり、従って、タンパク質は極めて急速に分解することがあるので、検出および同定はいつも容易なわけではない。
【0004】
生物体におけるタンパク質の集合状態の天然機能は、その生物体が生きている限り、生化学的経路の複雑ながら絶妙なバランスによって維持されている。生物体が死に至るか、生物体から組織試料が抽出されると、生物体または試料中の調節バランスが失われ、重要なタンパク質が分解し始める。分解はそれ自体、いくつかの異なる経路を表し得る。例えば、本来の役割が他のタンパク質を消化すること(「タンパク質加水分解」機能)であり、生物体が生きている限りその本来のレベルおよび活性が調節されるいくつかのタンパク質は、死後、制御を失う。従って、多くのタンパク質、ならびにコアクチベーター、ホルモンおよびコリプレッサーなどの重要なポリペプチドは、試料中の天然に存在するタンパク質加水分解タンパク質によって現に最後には消化される。消化は一般に1つまたは複数の点でのポリペプチド主鎖の破断を含み、それによってタンパク質またはペプチド断片が生じる。さらに他のタンパク質は加水分解などの他の手段によって自然に分解する場合もあり、生物体では、それらは絶えず合成されるのでそれらのレベルは維持されるが、死後は急速に消失する。例えば、プロテアーゼの死後活性および酸化ストレスは、脳内のペプチドおよびタンパク質濃度に重要な役割を果たすこと、ならびに翻訳後修飾の検出に関して示されている(非特許文献1;非特許文献2)(双方とも引用することにより本明細書の一部とされる)。
【0005】
しかしながら、どんなタンパク質が試料中に存在するかを調べるタンパク質同定の目的では、それらの個々の一次構造、すなわち、配列を確認できれば十分である。タンパク質およびポリペプチドは、二次元ゲルおよび質量分析などの方法によって広く検討されているが、このような技術は、自然のタンパク質分解が、臨界種の濃度が様々な測定閾値を下回るところまで進行していない試料を確保できるかどうかにかかっている。
【0006】
多くのタンパク質は、それらの機能および活性の調節および修飾の一部として本来の翻訳後修飾を受ける。タンパク質の翻訳後リン酸化および脱リン酸化は、細胞プロセスおよびシグナル伝達の調節に重要な生体プロセスである。従って、タンパク質リン酸化の同定およびレベルの測定は、タンパク質機能および細胞プロセスの理解に極めて重要である。
【0007】
タンパク質およびペプチドを調べるため、組織または細胞試料は通常、ある特定のバッファー条件中でのホモジナイゼーションによって破砕される。これらのバッファーはしばしば他のタンパク質を分解するタンパク質(プロテアーゼ)を含むあらゆるタンパク質活性の停止を引き起こすと思われる成分を含有する。しかしながら、患者またはモデル生物由来の組織試料の研究では、通常、ホモジナイゼーションおよびプロテアーゼの不活性化を行うまでに、ある時間、試料を酸素および栄養枯渇に曝される。
【0008】
従って、当技術分野では、抽出後、解析前に生体試料の保存を試みる技術が開発されてきた。このような技術の例としては、一般に試料をアルデヒド溶液中に浸漬すること、および試料にマイクロ波を放射することを含む組織固定がある(例えば、非特許文献3参照)。アルデヒド溶液の使用には、この溶液が組織に約0.5〜2mm/時でゆっくり浸透し、固定が完了する前に高分子が分解されてしまい、その結果、自然タンパク質分解を停止できないことから問題がある(非特許文献4)。マイクロ波放射には、一般に不均一である、すなわち、試料の一部が試料の分解を招くほどの高い温度に達することから問題がある。さらに、試料の一部が100℃を超える温度に達して、蒸気の噴出による小孔ができることもある(例えば、非特許文献5)。さらに、マイクロ波放射は、従来は、犠牲を伴うプロトコールの一部として生きている(非ヒト)被験体に適用され、従って、ヒトおよび非ヒト双方の被験体から抽出された試料を解析するためのツールとしてはまだ確立されていない。
【0009】
特許文献1は、試料の酵素分解を停止させるため、抽出後に試料の急速かつ不均一な加熱を含む、解析用の生体試料を調製する方法を記載している。特許文献1は、組織学的解析用の試料の化学的固定の必要性については触れていない。組織学的解析では、試料および切片が由来する組織の本来の構造に典型的な構造を維持する切片を得るために、試料を切片化する前に生体試料を固定化することが重要である。
【0010】
非特許文献6は、ホルマリン固定とその後のマイクロ波加熱を組み合わせた、組織学的解析用の生体試料を調製する方法を記載している。この方法は、試料の採取後の急速な分解に関する問題には取り組んでいない。
【0011】
例えばリン酸化状態に特異的な抗体を使用することによるタンパク質リン酸化の検討は、研究的および診断的病理学における重要なツールを提供する。しかしながら、この技術、例えば、免疫組織化学的研究を適用する最大の利益は、試料の完全な安定化が達成できる前の試料におけるリン酸化の急速な消失によって制限される(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2007/024185号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Skold et al, ”A Neuroproteomoic Approach to Targeting Neuropeptides in the Brain”, Proteomics, 2, 447−454, 2002
【非特許文献2】Svensson et al., ”Peptidomics−Based Discovery of Novel Neuropeptides”, Proteome Res., 2, 213−219, 2003
【非特許文献3】Theodorsson et al, ”Microwave Irradiation Increases Recovery of Neuropeptides from Brain Tissues”, Peptides, 11 :1191−1197, 1990
【非特許文献4】Fox et al., ”Formaldehyde fixation” J. Histochem. Cytochem. 33:845−853, 1985
【非特許文献5】Fricker et al., ”Quantitative Neuropeptidomics of Microwave−irradiated Mouse Brain and Pituitary”, Molecular & Cellular Proteomics, 4:1391−1405, 2005
【非特許文献6】Shiurba et al. (”Immunocytochemistry of formalin−fixed human brain tissues: microwave irradiation of free−floating sections”, Brain Research Protocols 2: 109−119, 1998)
【非特許文献7】Mandell, ”Phosphorylation state−specific antibodies. Applications in investigative and diagnostic pathology”, Am. J. Pathol. 163: 1687−1698, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
よって、試料の自然分解を妨げ、また、信頼性かつ再現性のある結果を提供する方法で、解析前の組織試料の含量および構造を保存するための信頼性のある方法の必要がある。
【0015】
本明細書において背景技術の記述は、本発明の内容を説明するために含められる。引用されているいずれの資料も、特許請求の範囲の優先日において公開されている、既知である、または共通の一般知識の一部であったことを認めるものとみなされるべきでない。
【0016】
本明細書の記載および特許請求の範囲を通じて、「含む」という用語およびその変形形態は、他の付加物、成分、整数または工程を排除するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、解析前の生体試料を固定するために慣用されるホルマリンが組織に約0.5〜2mm/時でゆっくり浸透し、固定が完了する前に高分子が分解されてしまうという理解に基づくものである。特に、当技術分野で利用可能な標準法を使用した後には、固定の完了前のタンパク質のリン酸化状態における大きな変化を示すことがある。
【0018】
本発明者らは、加熱処理と化学的固定を組み合わせて、有効かつ信頼性のある生体試料の安定化方法を提供することによってこの問題を解決した。
【0019】
よって、本発明は、解析用の生体試料安定化させる方法を提供する。
【0020】
本方法は、
a)試料を70℃より高い温度まで加熱して酵素プロセスを停止させること、および
b)次いで、その試料に化学的固定を施すこと
を含む。
【0021】
好ましくは、本方法は、組織学的解析、最も好ましくは、組織化学的解析および/または免疫組織化学解析用の生体試料を安定化させることを目的とする。
【0022】
好ましくは、試料は、80℃より高い温度、例えば90℃より高い温度まで、最も好ましくは95℃より高い温度、例えば100℃まで加熱される。
【0023】
好ましくは、化学的固定は架橋剤を用いて行われる。好ましくは、架橋剤はアルデヒド、最も好ましくは、ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドである。
【0024】
一実施形態では、生体試料は、翻訳後修飾を有する少なくとも1つのタンパク質を含む。
【0025】
別の実施形態では、加熱は、一定量の試料を、均一かつ急速な加熱を可能とする形状とし、それにより、成形試料を形成することによって行われる。
【0026】
一実施形態では、生体試料は、均一かつ急速な加熱という点で効果的な加熱を助ける形状にされる。これが酵素プロセスの遮断を得るのに必要な時間を短縮する助けとなる。タンパク質によって駆動されるある種の酵素プロセスを遮断することにより、その試料の他の構成要素の分解が避けられる。生体試料を採取してから生物学的解析の実施するまでの時間は、例えば1〜3分といった短時間であっても、分解のレベルに大きな影響を及ぼすことから、試料を採取した後、速やかに加熱を行うことが重要である。試料を加熱することで、酵素として働くタンパク質は、それらの二次構造および三次構造を失い、それによって活性も失い、試料の分解が最小限となる。
【0027】
本発明の方法は、タンパク質およびペプチドの一次構造および翻訳後修飾は保存するが、同時に、それらの元の二次構造、三次構造、および場合によっては四次構造を破壊する。従って、サンプルの加熱は、比較的存在量の少ないニューロペプチドなどの種およびより一般的な、そうでなければ分解されてしまうタンパク質の翻訳後修飾を、完全な状態に留めることを可能とすることを含む、いくつかの利点を有する。さらに、本方法は、ニューロペプチドおよびタンパク質の分解を再現性のある様式で最小化する。本方法はまた、種々の試料に由来するタンパク質およびペプチドの含量およびレベルを比較することを可能とする。
【0028】
本発明はさらに、本発明の方法を用いて安定化された生体試料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】死後0〜120分のマウス皮質由来ホルマリン固定組織におけるリン酸化型CREBであるpCREB(Ser133)の免疫組織化学的可視化を示す。ホルマリン浸漬前に室温でインキュベーション、パネルA 0分、パネルB 15分、パネルC 120分。パネルDは、本発明の方法(すなわち、抽出後にそのまま加熱した後、ホルマリン固定)で処理した試料を示す。
【図2】本発明の方法に従って試料を安定化させた後、室温でのインキュベーション時間を延長した後の試料のマウス小脳由来ホルマリン固定組織におけるリン酸化型のCREBであるpCREB(Ser133)の免疫組織化学的可視化の結果を示す。パネルA 安定化後0分、パネルB 15分、パネルC 6およびパネル 24時間。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(発明の詳細な説明)
概論
本発明は、解析用の生体試料を安定化させる方法を含む。生物体から抽出された試料は、ポリペプチドまたはタンパク質などの種々の高分子を含有する。解析用の試料を安定化させるために、種々の高分子の一次構造および翻訳後修飾の採取後の分解をできる限り最大限に停止させる。
【0031】
よって、一実施形態では、分解が最小限である、または好ましくは、in vivoの場合にその試料に見られるレベルもしくはその前後のレベルを維持する第一の時間の後に、試料を第二の時間、試料の全ての部分が特定の最低温度に達するような様式で急速かつ均一に加熱する。この温度は、種々の高分子が変性する、すなわち、それらの二次構造、三次構造および/または四次構造が破壊される温度あるが、高分子の一次構造が分解される温度ではないことから、変性温度と呼ばれる。変性温度は好ましくは、80℃より高い温度、例えば90℃より高い温度、最も好ましくは、95℃より高い温度、例えば100℃である。好ましくは、試料は100℃より高い温度に達しないようにする。
【0032】
好ましくは、変性される高分子は少なくとも、試料の自然の分解プロセスに役割を果たす高分子を含む。例えば、このような高分子としては、変性されなければ、例えば消化によって試料中の他の分子を分解するタンパク質分解酵素を含む。このような高分子にはさらに、ホスファターゼ、エステラーゼ、アシラーゼ、リパーゼ、ヒドロラーゼ、ヌクレアーゼ(リボヌクレアーゼおよびデオキシリボヌクレアーゼなど)、およびキナーゼが含まれる。
【0033】
本明細書において展開される条件は、絶対的なものではなく程度の効果をもたらすと理解すべきであり、当然のことながら、化学反応が全面的に停止できるわけではないと理解される。従って、例えば、用いる温度は変性および酵素活性の消失を引き起こすのに十分高く、ある分子セットの一次構造の分解は引き起こさないように十分低く選択されるが、小数の高分子がこれらの条件下でなお分解を受けないという意味ではない。このような高分子の数が有意でない、例えば、最初の分子の集団の5%未満、好ましくは最初の分子の集団の2%未満、いっそうより好ましくは1%未満、さらにより好ましくは0.1%未満であれば、本発明の目的に十分である。
【0034】
また、本明細書で二次構造という用語が用いられる場合、その活性および特異性を担う高分子の全体的な三次元構造を意味すると理解すべきである。従って、本明細書において二次構造という用語は、一般に二次構造、三次構造および四次構造と別個に呼ばれている高分子の特徴を意味する。
【0035】
別の実施形態では、試料は抽出後すぐに解析することを意図するものではなく、解析まで保存することを意図する。このような実施形態では、試料は抽出後、実施上可能な限りすぐに冷凍する。抽出から試料が冷凍温度に達するまでの時間は、分解が最小限となるものである。試料は、急速かつ均一な加熱を可能とする形状とする。試料はまた、冷凍中または冷凍前にこのような形状にすることができる。その後、試料を第二の時間、試料の全ての部分が変性温度に達するような様式で急速かつ均一に加熱する。この冷凍試料の第二の時間は、加熱前に冷凍されなかった試料の第二の時間と必ずしも同じでない。好ましくは、この第二の時間は、冷凍状態と加熱状態の間に試料に解凍時間がないほど急速なものである。例えば、急速加熱は好ましくは、1分未満、30秒未満、20秒未満、10秒未満、5秒未満または2秒未満に行う。
【0036】
本発明は、生体試料中のポリペプチド、タンパク質(抗体を含む)、炭水化物、脂質、ホルモンおよび代謝産物の解析への適用を意図した。しかしながら、他の分子および高分子も本明細書に記載の方法および装置から利益を受け得ると理解される。例えば、特に、内部の化学結合の配列を保存しつつ加熱により破壊され得る三次元構造を有する、生体試料中の他の高分子はいずれも、本明細書に記載の方法および装置によって解析のために保存することができる。このような他の高分子としては、限定されるものではないが、核酸およびオリゴヌクレオチドが含まれる。高分子は、一般に、同じまたは異なる属性の繰り返し単位から構成される高分子量の分子であると理解される。同様に、本発明の方法はまた、そうでなければ他の手段によって消化または分解される小分子(非高分子)のより精密な検出ももたらし得る。
【0037】
本明細書において、破壊される、および分解されるという用語は、試料中の分子構造の変更を指して用いられる。構造は、構造の属性が崩壊されなくとも、その機能を損なうような様式で変更されれば、破壊されたという。従って、例えばタンパク質は変性させ、そうすることで、その二次構造および/または三次構造および/または四次構造を破壊し、すなわち、その機能が崩壊するように変更することができる。しかしながら、このようなプロセスはその一次配列を変化させることはなく、従って、その属性は維持される。逆に、その化学属性が変化すれば、構造が分解される。従って、例えば、タンパク質を切断して2つ以上の断片を生成する場合は、その二次構造および/またはその三次および/またはその四次構造が変更されるだけでなく、その一次構造も変更されるので、そのタンパク質を分解してしまう。分解の別の例として、タンパク質ホスファターゼの作用または自然加水分解によるタンパク質およびペプチドのリン酸化などの翻訳後修飾の消失がある。
【0038】
本発明とともに用いられる試料は、生物体由来のいずれの生体試料も含み得る。従って、試料には、限定されるものではないが、組織、筋肉、骨、骨髄、歯、毛、皮膚、または脳、腎臓、肝臓、胃、腸、生殖器官もしくは膵臓などのいずれの器官も含まれる。試料としては、さらに、限定されるものではないが、涙、唾液、血液、精液、汗または尿を含む体液も含まれる。
【0039】
生物体は好ましくは哺乳類であるが、爬虫類、無脊椎動物、魚類、昆虫または鳥類であってもよい。生物体はさらにより好ましくはヒトであるが、限定されるものではないが、非ヒト霊長類、ウサギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、サル、マウスまたはラットを含む動物であってもよい。
【0040】
実験理論
組織が生きている場合、タンパク質が合成され、分解される。これは動的なプロセスであり、種々の機構によって包括的に制御される。例えば、タンパク質分解は生きている組織内で自然に起こるが、それは一般に、タンパク質分解されるタンパク質がそれらの機能を遂行するのに十分な量で残るように調節される。疾病状態はこのバランスを変化させることがあり、従って、そのバランスの変化を用いて疾病を特徴付けることができる。
【0041】
タンパク質の翻訳後修飾は、タンパク質の機能および活性を改変および制御する重要な手段であり、多くの細胞プロセスおよびシグナル伝達の重要な部分である。特異的プロテインキナーゼおよびタンパク質ホスファターゼによるタンパク質のリン酸化および脱リン酸化による細胞プロセスの調節は、極めて動的なプロセスである。特異的タンパク質のリン酸化のレベルは細胞および組織の状態の指標となり、従って、研究上大いに注目される。
【0042】
試料のペプチドーム、すなわち、特定の細胞、組織、生物体または系に存在するペプチドのセットは、そのプロテオームと直接関連する。プロテオームとペプチドームの間の分子分布は、プロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害剤によって制御される。死後、酵素活性は、脳組織などの組織中のペプチドおよびタンパク質内容の保全に役割を果たす。自然のタンパク質−ペプチドホメオスタシスから生じる、試料中のタンパク質分解からの極めて豊富なペプチドが常に低レベルで存在する。
【0043】
組織および細胞の多くの研究が、生きている生物体の支持的環境から取り出すこと、従って、種々の調節プロセスを妨げること、特に、例えば組織への血流が断たれる場合など、試料において酸素および栄養欠乏に至らせることを必要とする。組織への血液送達の制限である虚血は、次に低酸素症および無酸素症に至る。
【0044】
組織の分解は、脳組織の試料に関して特に密な研究がなされてきた。従って、たとえ脳細胞が、筋肉細胞の場合(すなわちミオグロビン(myglobin)を伴う)と同様に、酸素の貯蔵庫を含まなくとも、それらの酸素利用率は高い。脳細胞の生存を確保するには、酸素および栄養の絶え間ない供給が必要である。脳組織の研究におけるジレンマは、多くのタイプの解析技術では、脳組織をその酸素および栄養供給環境から取り出さなければならないことである。酸素が無ければ、酸化的リン酸化およびその後のアデノシン三リン酸(「ATP」)の生産は断たれ、細胞機能に欠陥が生じる。脳組織の分解が始まる時間は、他の生体組織または体液の分解時間よりもはるかに短い。
【0045】
さらに、脳内であっても、タンパク質およびポリペプチドの分解時間は均一でない。酸素の保持は一般に低く、不均一で、種々の脳構造間で大きな変動がある。酸素の保持は一般に、皮質の灰白質などの細胞体および樹状突起が豊富な領域では高く、皮質の白質、橋および脳弓などの繊維が優勢な領域では低い(例えば、Erecinska et al, ”Tissue Oxygen Tension and Brain Sensitivity to Hypoxia”, Respir. Physiol, 128, 3:263−276, 2001参照)。
【0046】
グルコースは、成体脳の主要な代謝基質である。グルコースは、解糖を介して代謝されてピルビン酸となり、ミトコンドリアのクレブス回路に入り、そこで酸素の存在下、完全に酸化されて二酸化炭素および水となる(例えば、Goldman et al., ”Acid−induced Death in Neurons and Glia” J. Neuroscience,. 11 :2489−2497, 1991参照)。酸素の減少はミトコンドリアにおけるピルビン酸の酸化を妨げる。結果として、ミトコンドリアATPの生産は抑えられ、解糖系のATP生産だけが残る。虚血脳では、ATPの生成は、内在する物質の嫌気性変換を介して起こる。
【0047】
示したように、脳は少量の酸素貯蓄しか含まない。血管内の酸素貯蓄が正常な酸素消費を支えることができるのはわずか数秒間である。
【0048】
好気的解糖下でのATP約35モルに比べて、嫌気的解糖はグルコース1モル当たり2モルのATPを生じるに過ぎない。この結果、ATP、ADPおよびホスホクレアチン(PCr)の内在貯蓄が利用される。クレアチンリン酸は、ADPにリン基を与え、それにより、これをATPに変換する。クレアチンリン酸を含む高エネルギーリン酸化合物は、in vitroにおいてニューロンおよびグリアの双方に匹敵する濃度で存在する(例えば、Folbergrova et al., ”Phosphorylase Alpha and Labile Metabolites During Anoxia: Correlation to Membrane Fluxes of K and Ca2+”, J. Neurochem., 55(5): 1690−6, 1990参照)。
【0049】
これらの内在エネルギー基質を用いることにより、エネルギー代謝は虚血においておよそ1分間支えることができる(Hansen, ”Effect of Anoxia on Ion Distribution in the Brain”, Physiol. Rev., 65, 1:101−48, 1985)。虚血研究では、60秒後に、グルコースレベルは枯渇し、乳酸レベルは3倍増加した。2分後、乳酸レベルは5倍に増加した(Folbergrova et al)。高エネルギーリン酸基の利用は、およそ10秒後に30%、1分後に15%、2分後には0近くまで減少した(Hansen; Folbergrova, et al.)。
【0050】
心停止による無酸素症の誘導直後にラット脳皮質からのKイオンの流出が見られる(Hansen)。無酸素症の最初の2分の間にKイオンの緩慢な増加が見られる(K−I相)。約2分後、細胞外Kイオン濃度は、数秒以内に10mMから約60mMに上昇する(K−II相)。ATPエネルギー代謝および酸素消費が極めて低レベルに落ち込んだ際に、すなわち、虚血後1〜2分の間に、細胞外カリウムの急速な増加が起こる。次の数分の間に、細胞外Kレベルは80mMにまで緩慢に上昇する(K−III相)。K−I相中の緩慢な上昇は、Na−K−ATPアーゼ活性の低下によるKイオンの内部への汲み上げが不十分なためであり得る。虚血1〜2分後、ATPエネルギーレベルはNa−K−ATPアーゼ活性を支えるには不十分であり、脱分極およびNa、K、CaおよびClの減少が起こる(例えば、Hille, Ionic Channels in Excitable Membranes, Sinauer Associations, Sunderland, MA, 1992参照)。
【0051】
ラット皮質における全虚血は、およそ60秒後に細胞内Caレベルの急速な増加を誘発する(Kristian, ”Metabolic Stages, Mitochondria and Calcium in Hypoxic/Ischemic Brain Damage”, Cell Calcium, 36, 3−4:221−33, 2004)。虚血により誘発されるイオンホメオスタシスの変化は脱分極を引き起こし、電位依存性CaレベルおよびNMDA−受容体を介してCaの流入を招く。虚血ラット皮質をNMDAアンタゴニストで処理すると、30秒以内に細胞内Caの増加が遅延される(Kristian)。Ca−ATPアーゼ活性およびオルガネラへのCa隔離はATP駆動性であり、従って、エネルギー代謝速度に敏感である。ラット皮質におけるグルコースレベルの増加もまた、Ca流入を90秒遅延させる(Kristian)。エネルギー代謝が抑えられると、Caはオルガネラから放出される。このCaの増加がK−Caチャネルを活性化することができ、それにより、K流出が促進される(Hille)。イオンバランスが失われると、細胞オルガネラが虚脱し、タンパク質およびペプチドが放出され、分解される。
【0052】
記載したように、生きている生物体から組織試料を取り出した後、分解が増え、または非制御状態を続けることがあり、それにより、急速に試料内のタンパク質およびポリペプチドの分解に至る。従って、組織のタンパク質およびポリペプチド組成に関して最大の情報を得るためには、生物体から試料を取り出した後、試料はできるだけ速やかに加熱するべきである。特定の理論に縛られるものではないが、組織は、ATPレベルが、試料中にイオン勾配がもはや維持されなくなるところを下回る前に加熱するべきであると考えられる。ナトリウムおよびカリウムなどのイオンの濃度勾配によって呈される細胞膜間の電気化学的勾配は、細胞化学のエネルギー源となる。NaATPアーゼおよびKATPアーゼなどの酵素は、このような勾配を作り出し、維持するためにATPを用いる。ひと度細胞がエネルギー不全を受けると、すなわち、ひと度ATPレベルが閾値レベルより下に落ちると、イオンホメオスタシスの混乱の結果として、細胞内間隙にカルシウムが蓄積する。イオンバランスが失われると、細胞オルガネラが虚脱し、およびタンパク質およびペプチドが放出され、分解される。
【0053】
抽出
生物体からの試料の抽出は、いくつかの形を採り得る。
【0054】
例えば、試料は生物体から、切断、スミア採取によって、またはシリンジもしくはカテーテルでの抜き取りによって抽出することができる。
【0055】
一般に全ての生体試料に、ATP生産およびリン酸化が断たれ、イオン勾配が失われ、細胞オルガネラが虚脱し、タンパク質およびペプチドが放出され、タンパク質分解が増加し、最終的には壊死に至る同様の工程を施すが、これらの工程のそれぞれの速度は、少なくとも部分的に、試料のタイプによって異なる。従って、組織が生物体から取り出されてから、試料によっては10分といった長い時間まで大規模な分解が起こらないものもあるが、3分、2分、1分、30秒、10秒またはそれ未満といったすぐさま大規模な分解が起こる試料もある。特に、タンパク質リン酸化などの翻訳後修飾の消失は数秒のうちに起こる場合がある。よって、生物体からの試料の抽出からその試料が加熱されるまでの時間は(本明細書においてさらに記載される)、好ましくは3分、さらにより好ましくは2分、いっそうより好ましくは10秒〜2分の間である。いくつかの実施形態では、試料の分解を避けるために、試料は、試料の取り出しと所望の形状への試料の成形を同時に行う装置によって抽出することができる。次に、この試料をすぐに加熱装置に導入して、さらなる分解を停止させる。
【0056】
試料形状
試料が均一に加熱できるよう試料をどのような形状にするか決定する場合には、好ましくは、試料を加熱するために用いられる装置のタイプおよび試料の種々の特徴を考慮に入れる。試料は、周知の熱伝達形態、すなわち、伝導、対流または放射のうち1以上によって加熱することができる。試料を伝導加熱によって加熱する場合、試料の形状をどのように選択するかを決定する際の因子は、試料内部のどの部分も熱源からの閾値距離を超えないのが好ましいということである。組織試料の性質によって異なる場合があるが、好ましくはこの閾値は5mmである。例えば、この閾値は1mm、2mm、3mm、3.5mm、4mm、4.5mm、5.5mm、6mm、6.5mm、7mm、7.5mm、8mm、9mmまたは1cmであり得る。いくつかの実施形態では、例えば超薄片、好ましくは、均一な厚さのものを作出するなど、できる限り最大の表面積/体積比を持つような形状とするのが好ましい。加熱装置が、試料中に挿入される円筒形加熱素子またはプローブなどの特定の形状である伝導素子を備えている場合、試料にも円筒形状がより望ましいものであり得る。試料の形状は、試料の表面から内部への熱伝導ができるだけ有効になるように、加熱中に試料に生じる温度勾配が最大となるものであるべきである。この加熱段階の速度は十分に速い速度で維持することもできるが、温度が高くなり過ぎないように、または試料の一部がゆっくり加熱され過ぎて、残りの試料と同じ温度まで加熱されないことがないように選択することもきできる。試料の一部が最大温度を超えてしまえば、試料中の水が沸騰し、細胞構造が破壊されるおそれがある。より極端な例では、着目するタンパク質またはポリペプチドの一次構造が、高くなり過ぎた温度によって破壊されるおそれがある。逆に、試料の一部が変性温度に達しなければ、非変性部分の残存によって試料全体が腐敗するおそれがある。加熱が均一であれば、これらの結果はいずれも避けられる。
【0057】
試料は、所望の形状に試料を切断することによって成形することもできる。いくつかの実施形態では、試料は、加圧して所望の形状にするなどして、プレスまたは平坦化される。いくつかの実施形態では、試料は、約1〜2,000ミクロンの間、例えば、1〜1,000ミクロン、1〜500ミクロン、1〜200ミクロン、1〜100ミクロン、1〜50ミクロン、1〜25ミクロン、1〜20ミクロン、1〜10ミクロンまたは1〜5ミクロンの間の厚さを有する。上記の範囲の種々の上限および下限は相互に交換可能であると理解すべきであり、限定されるものではないが、例えば、上記には具体的に挙げられていないが、500〜1,000ミクロンの場合と同様に、10〜50ミクロンの範囲も本発明の範囲内にあるとみなされる。
【0058】
また、本明細書において、時間、または長さ、または質量などの任意の量に関して、「約」とは、その着目する値が引用された値よりも最大5%小さいまたは大きいものまで変動し得ることを意味するものとする。よって、例えば、厚さ約10ミクロンは、9.5〜10.5ミクロンの範囲のいずれの厚さも意味するものとする。温度の場合、「約」とは、±2℃の変動を意図することを意味する。
【0059】
試料の冷凍
所望により、試料は、解析前に瞬間冷凍などによって冷凍することができる。試料は、好ましくは−20℃より低い温度、例えば−80℃より低い温度にすることができる。試料を冷凍する利点は、試料は新鮮状態よりも冷凍状態の方がより容易に取り扱うことができ、均一な加熱のためにより容易に所望の形状に成形することができる。冷凍試料は約5mm、約4mm、約3mm、約2mm、約1mmまたは0.5mm未満の厚さに切断することができる。好ましくは、冷凍試料では、試料形状はミクロン程度の厚さの薄いシートである。このような薄切片は、新鮮試料を切断する場合には容易には得られない。冷凍は、試料中(固体と考えられる試料中を含む)の液体を凝固させ、試料のより正確な切断を可能とする。さらに、冷凍は酵素活性を抑え、試料の他の成分の分解を防ぐ。
【0060】
試料が生物体から抽出された後に冷凍される場合には、試料は、加熱するまで、例えば−20℃未満または−4℃未満で冷凍維持すべきである。試料が冷凍される場合、氷の結晶が生じ、原形質膜を破壊する。さらに、冷凍試料を解凍すると、小胞膜は透過性となる。透過性の増大は、ひと度試料が解凍されると、冷凍されなかった試料よりも急速にタンパク質分解を引き起こすおそれがある。いくつかのタイプの生体試料では、試料に熱をかける前に解凍してはならない。すなわち、この試料は、熱がかけられる前に−20℃より高い温度になってはならない。試料が解凍されれば、大規模な分解が起こらないようにするために、試料の解凍から約30秒以内に試料を加熱する。
【0061】
加熱
試料は、試料中の高分子を、その高分子および他の高分子の一次構造を分解することなく変性させる温度まで、好ましくは均一に加熱する。加熱は伝導、対流または放射からの熱伝達によって行うことができる。その上に、また、その代わりに、試料の加熱は、試料にマイクロ波放射を向けることによって行うこともできる。
【0062】
試料は、変性させる分子のタイプに応じて、約70℃、80℃、90℃、95℃もしくは常圧で100℃の温度、または流体試料の沸点まで加熱することができる。いくつかの実施形態では、試料は、試料の沸点または常圧で100℃などの閾値温度を超えて上昇されないようにし、そうすれば一次構造は破壊されない。試料は、高分子を変性させるために加圧下でより高い温度まで加熱することもできる。試料の温度を閾値未満に維持し、それによりマクロ構造を維持することで試料の解析を容易にすることができる。この加熱工程によって達せられる温度が、試料を高分子の二次構造が破壊される温度に到達させれば、その高分子は変性する。ある特定の場合では、加熱は、タンパク質およびポリペプチドを分解する酵素活性を不能にする。加熱は、試料の酵素活性の少なくとも60%、例えば少なくとも70%、80%、90%または95%を抑えることができる。加熱はまた、着目するタンパク質およびポリペプチドの三次構造および二次構造を変化させることもできる。しかしながら、加熱によって高分子の一次構造および翻訳後修飾は分解されない。
【0063】
試料の全ての部分を急速に、例えば、2分未満、1分未満、30秒未満、10秒未満、5秒未満、2秒未満または1秒未満に少なくとも70℃の温度にするいずれの加熱装置も試料を加熱することができる。いくつかの実施形態では、加熱は試料の全ての部分を2〜3分以内に少なくとも70℃の温度にする。本明細書では、伝導または放射を用いて働く加熱装置を記載する。伝導加熱は、放射が試料を均一に加熱できない場合に使用することができる。凍っている試料では、マイクロ波放射加熱を用いると、試料の一部が試料の他の部分が所望の変性温度に達する前にその温度に達することがある。同様に、マイクロ波で加熱された氷塊は、水素結合した分子ネットワークがマイクロ波によって変化されないので、解凍しにくい。例えば、氷はマイクロ波放射を適用するよりも伝導による方が効率的に解凍される。氷が一部の領域で解け始めると、解けた氷、すなわち水は温まり始め、伝導によって周囲の氷を加熱する。これにより氷塊の一部が解凍され、氷塊の他の部分が解凍する前に沸騰に達する。生体試料におけるこの現象は、一様でない加熱を招き、一様に目的温度に加熱された試料中に存在するよりも多くのペプチド断片を試料中に存在させ得る。これを避けるための1つの選択肢は、加熱工程前に試料を解凍することである。もう1つの選択肢は、冷凍試料を加熱するためのマイクロ波放射以外の加熱方法を用いることである。このような加熱工程は、独立した解凍工程を全面的に避けることができる。
【0064】
タイミング
生物体からの試料抽出後には、試料が分解されるおそれのある二相が存在する。第一相は、抽出で始まり、加熱工程の開始で終わる。第二相は、加熱工程の開始で始まり、試料が所望の温度に到達した際に終わる。試料が冷凍されなければ、第一相と第二相を合わせたものは、試料の分解前、すなわち、イオンのアンバランス、またはATPレベルの枯渇、およびそれに続く試料中の分子断片のレベルの増加の前に完了されるべきである。本明細書では、各タイプの生体試料に適用する時間を決定するための方法を記載する。しかしながら、冷凍されていない試料の場合には、この二相は10分以内、例えば、5分、3分、2分、1分または30秒以内に完了されるのが望ましい。いくつかの実装形態では、第二相は2分、1分、30秒、20秒、10秒、5秒、2秒、1秒以内またはそれ未満で行う。第一相は、試料が冷凍されていれば、延長および短縮の双方が可能である。試料は長期間、例えば、何日も、何週間も、何ヶ月もまたはさらには何年も冷凍維持することができるので、この相は延長される。しかしながら、第一相は、試料を解凍してから試料を加熱するまでの時間は、試料が解凍された後に起こる分解の加速化のために、極めて短く維持しなければならない。
【0065】
化学的固定
化学的固定は好ましくは、ホルマリン、すなわち、ホルムアルデヒド水溶液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水中4%ホルムアルデヒド中で行う。あるいは、固定は、グルタルアルデヒド水溶液中、例えば、リン酸緩衝生理食塩水中2.5%グルタルアルデヒド中で行う。好適な固定時間は通常6〜36時間の間である。
【0066】
生物学的解析の例
本発明の方法を用いて試料が安定化された後、試料はその試料を構成するタンパク質およびポリペプチドを決定するために解析することができる。試料は、好ましくは、組織学的方法、例えば、組織化学的方法および免疫組織化学的方法を用いて解析することができる。
【0067】
例示的装置
試料が新鮮なものであるか冷凍されているかにかかわらず、加熱されると、試料は排出可能な容器に入れることができ、そうすれば試料は、試料と熱源の間にエアポケットが無く、直接熱源と接触させることができる。容器は、解析結果に干渉する分子を放出しない、バッグまたはホイルなどの変形可能な1つの材料であり得る。このような容器に好適な材料としては、医学級ポリマーなどのポリマー、またはガスを放出しない他の材料を含み得るか、または試料を取り扱う際に試料に移行可能な成分を有し得る。
【0068】
調製された試料は、試料を均一に加熱するために構成された装置で加熱される。これにより、生体試料全体に急速かつ均一な熱伝達が可能となる。
【0069】
いくつかの実施形態では、熱源は、例えば加熱素子によって加熱される単一のプレートであり、試料は、容器に入れられているかどうかにかかわらず、一方の側からだけ熱を受け取る、すなわち、単一の接触面があり、生体試料に熱を伝えることができる。別の実施形態では、熱源は、生体試料を加熱するために放射(例えば、マイクロ波放射)を用いる装置である。放射源はマイクロ波発振器であり得る。あるいは、無線周波数(RF)または超音波などの他のタイプの放射を試料に適用することができる。
【0070】
放射源は、約1〜6ワット、例えば約3〜5ワットの間のエネルギーを出力することができる。いくつかの実施形態では、約2〜4ワット/分/グラム、例えば3.6ワット分が試料に投入され、生体試料が水と同様の熱容量を有する場合には、試料の温度を20℃から80℃に上昇させる。必要とされる放射エネルギーは3.6/効率(efficency)ワット分/グラムであり、すなわち、効率が10%であれば、必要な放射は36ワット分/グラムである。質量は試料と増量剤の双方を含み、すなわち、増量剤が試料と同じ質量を持ち、試料重10グラム、効率10%では、試料を1分で80℃に加熱するには360ワットが必要とされる。従って、20℃で1グラムを30秒で80℃に加熱するには約72ワットが必要とされる。
【0071】
本明細書に記載の方法はいずれも、本明細書に記載の他のいずれの方法に関しても実施可能である。
【実施例】
【0072】
実施例1:種々の処理の後の、マウス脳の試料におけるリン酸化型CREBの免疫組織化学的可視化
実験
生体試料および処理
マウスを頚椎脱臼によって犠牲にし、すぐに試料を採取した。犠牲後すぐに脳を摘出し、全体に次の処理のうちいずれかを施した:A:そのまま10%中性緩衝ホルマリン(NBF)中に浸漬、B:NB中に浸漬する前に室温で15分間維持、C:NBF中に浸漬する前に室温で2時間維持、D:新鮮組織用の自動設定でStabilizor T1装置(Denator AB, Sweden)での加熱処理によって安定化させ、処理直後にNBFに浸漬。
【0073】
全ての試料を、パラフィン包埋前に、室温、ホルマリン溶液中で24時間維持した。全ての試料を、それ以上二次的な切断を行わずにNFB中でインキュベートした。パラフィン包理前に、試料を半分に切り、元の試料の中央を通って切片が取れるように包埋した。
【0074】
組織化学
パラフィンブロックから、4ミクロン厚の切片を取り、すぐにSuperFrost Plusスライドガラス(BDH, Merck & Co., Inc., Poole, UK)の載せ、キシレン中でパラフィンを除去し、アルコールから水へ段階的に通して水和した。切片はヘマトキシリン−エオジン(DAKO AS, Copenhagen, Denmark)またはMallory trichrome(Bio−Optica, Milano, Italy)のいずれかで、どちらも変更を行わずに個々の製造業者の説明書に従って染色した。
【0075】
免疫組織化学
パラフィンブロックから4ミクロン厚の切片を取り、すぐにSuperFrost Plusスライドガラス(BDH, Merck & Co., Inc., Poole, UK)の載せ、キシレン中でパラフィンを除去し、アルコールから水へ段階的に通して水和した。抗原賦活は、クエン酸バッファーpH6(NeuN抗体, Millipore (Chemicon), #MAB377)またはTEバッファーpH9(pCREB(Ser133)抗体, Abeam, #ab32096)中、マイクロ波オーブン(owen)にて750Wで10分、次いで350Wで15分行い、その後、DAKO Autostainer Plus(DAKO AS, Copenhagen)で処理した。一次抗体は全て、30分間インキュベートした。免疫染色は、Envision Real Detectionキット、ペルオキシダーゼ/DAB、ウサギ/マウス(K5007)およびヘマトキシリンによる対比染色を用い、全て製造業者の説明書(DAKO AS, Copenhagen)に従って検出した。
【0076】
画像の取り込みと処理
画像は、ScanScope(登録商標)XTデジタルスライドスキャナ(Aperio Technologies Inc., Vista, CA, USA)を用いて40倍で取り込んだ。サブセクションはAperioのImageScopeビューアーを用いて選択し、Adobe PhotoShop(Adobe Systems Incorporated, San Jose, CA, USA)を用いてパネルにアセンブルした。
【0077】
結果
図1は、室温でインキュベートした後にホルマリンに浸漬した、死後0〜120分のマウス皮質由来ホルマリン固定組織におけるリン酸化型CREBであるpCREB(Ser133)の免疫組織化学的可視化の結果を示す。ホルマリン浸漬前に室温でインキュベーション、パネルA 0分、パネルB 15分、パネルC 120分。パネルDは、本発明の方法(すなわち、抽出後にそのまま加熱した後、ホルマリン固定)で処理した試料を示す(パネルA 0分、パネルB 15分、パネルC 2時間)。パネルDは、本発明の方法で処理した、すなわち、抽出直後に加熱処理によって安定化させ、その後にホルマリン固定した試料を示す。大きな黒い点はpCREB陽性核であり、小さな灰色の点は、Hematosin−Eosin対比染色に陰性のpCREBである。0〜120分の試料では外側(右)から内側(左)へ明確な勾配が見て取れ、pCREBの分解を示す。死後時間が長いほど染色は薄くなり、pCREBの広範な分解を示す。本発明の方法に従って処理した試料では、試料全域に黒い大きなpCREB陽性核が見て取れ、pCREBの分解がほとんどないか、全くないことを示す。
【0078】
実施例2 マウス脳由来試料安定化
実験
生体試料および処理
マウスを頚椎脱臼によって犠牲にし、すぐに試料を採取した。犠牲後すぐに脳を摘出し、新鮮組織用の自動設定でStabilizor T1装置(Denator AB, Sweden)での加熱処理によって安定化させ、その後、室温で次の時間インキュベートした;A:0分、B:15分、C:6時間およびD:24時間、その後、NBFに浸漬。
【0079】
試料は全て室温、ホルマリン溶液中で24時間維持した後、パラフィン包埋した。試料は全て、それ以上二次的な切断を行わずにNFB中でインキュベートした。パラフィン包理前に、試料を半分に切り、元の試料の中央を通って切片が取れるように包埋した。
【0080】
組織化学、免疫組織化学および画像の取り込みおよび処理は、実施例1に記載のとおりに行った。
【0081】
結果
図2は、本発明の方法に従って試料を安定化させた後、室温でのインキュベーション時間を延長した後の試料のマウス小脳由来ホルマリン固定組織におけるリン酸化型のCREBであるpCREB(Ser133)の免疫組織化学的可視化の結果を示す。パネルA 安定化後0分、パネルB 15分、パネルC 6およびパネルD 24時間。処理後室温で24時間インキュベートした後でさえ、組織全域にpCREB陽性核が見て取れ、サンプルの完全な安定化を示す。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析用の生体試料を安定化させる方法であって、
a)試料を70℃より高い温度まで加熱して酵素プロセスを停止させること、および
b)次いで、前記試料に化学的固定を施すこと
を含む、方法。
【請求項2】
組織学的解析、最も好ましくは、組織化学的解析および/または免疫組織化学的解析用の生体試料を安定化させることを目的とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生体試料が、翻訳後修飾を有する少なくとも1つのタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生体試料が、リン酸化を有する少なくとも1つのタンパク質を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記試料が80℃より高い温度、例えば90℃より高い温度まで、最も好ましくは95℃より高い温度、例えば100℃まで加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化学的固定が架橋剤を用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記架橋剤がアルデヒドである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アルデヒドがホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法を用いて安定化された生体試料。

【公表番号】特表2013−501918(P2013−501918A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522779(P2012−522779)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050633
【国際公開番号】WO2011/014108
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(510224583)デナトール アクティエボラグ (2)
【Fターム(参考)】