説明

加熱乾燥用エマルション

【課題】優れた加熱乾燥性と制振性とを発揮し、自動車の室内床下の他、鉄道車両、船舶、航空機、電気機器、建築構造物、建設機器等に適用することができる水系制振材や、優れた加熱乾燥性とチッピング性とを発揮し、自動車外装、自動車部品、家電、機械等に好適に適用することができる水系チッピング材を与える加熱乾燥用エマルションを提供する。
【解決手段】不飽和カルボン酸単量体を必須とする単量体混合物を重合してなる加熱乾燥用エマルションであって、該加熱乾燥用エマルションは、沸点が80℃以上のアミンにより中和されてなる加熱乾燥用エマルション。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱乾燥用エマルションに関する。詳しくは、制振材配合物やチッピング材配合物を構成するものとして好適に用いられる制振材用共重合エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
制振材は、各種の構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つためのものであり、自動車の室内床下等に用いられている他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも利用されている場合がある。このような制振材としては、例えば、自動車の室内床下等には無機粉体を含んだアスファルトシートが用いられてきたが、熱融着させる必要性があることから、作業性等の改善が望まれ、制振材を形成する種々の制振材用組成物や重合体の検討がなされている。
【0003】
また、チッピング材は、自動車の車体や車体床裏部、足回り部品等が、走行中の飛び石等により損傷するのを防ぐためのものであり、一般的には塩化ビニルゾル組成物等により形成される。しかしながら、塩素等のハロゲンを含有する樹脂は焼却時に有害ガスを発生する原因となるため、近年環境保護対策の面から塩化ビニルゾル組成物に代替するチッピング材配合物の検討がなされている。
【0004】
特開平9−104842号公報には、合成樹脂エマルション、アスファルトエマルションから選ばれる少なくとも1種の展色剤、無機充填材及び合成樹脂粉末を特定量含む水系制振塗料組成物が開示されている。
特開平11−29737号公報には、(a)脂肪族共役ジエン系単量体、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体及び(c)これら単量体以外の他の単量体を特定重量割合でα−メチルスチレンダイマーの存在下に共重合して得られる共重合体ラテックスであって、損失係数(tanδ)やトルエン不溶分が特定された水系塗料用共重合体ラテックスが開示されている。
【0005】
特許文献3(特開2000−178497号公報)には、共役ジエン系単量体(a)、エチレン系不飽和カルボン酸アミド単量体(b)、エチレン系不飽和カルボン酸単量体(c)及び前記以外のエチレン系不飽和単量体(d)を特定重量割合で含む単量体混合物を無機過硫酸塩系の重合開始剤の存在下に乳化重合して得られる耐チッピング塗料用共重合体ラテックスが開示されている。また、特許文献4(特開2000−178498号公報)には、共役ジエン系単量体(a)、エポキシ基を有するエチレン系不飽和単量体(b)、エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(c)、前記(b)及び(c)以外のエチレン系不飽和単量体(d)を特定重量割合で含む単量体混合物を乳化重合して得られる加熱乾燥用重合体ラテックスが開示されている。更に、特許文献5(特開2000−178499号公報)には、共役ジエン系単量体(a)、エポキシ基を有するエチレン系不飽和単量体(b)、エチレン系不飽和カルボン酸アミド単量体(c)、(b)及び(c)以外のエチレン系不飽和単量体(d)を特定重量割合で含む単量体混合物を乳化重合して得られる加熱乾燥用重合体ラテックスが開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの技術では、優れた加熱乾燥性と制振性との両立を達成する制振材や、優れた加熱乾燥性とチッピング性との両立を達成するチッピング材を得ることができなかった。すなわち合成樹脂エマルションやアスファルトエマルションを用いる場合には、被膜を加熱乾燥して形成するときに表面乾燥すると共に未乾燥被膜中の水分が蒸発しようとするためにフクレが発生しやすいことから、加熱乾燥性を向上させる工夫の余地があった。また、共役ジエン系単量体とその他の単量体とから形成される共重合体ラテックスを用いる場合には、共役ジエン系単量体による単量体単位が制振性を充分に発揮するものではないことから、制振性を向上させる工夫の余地があった。
【0007】
特許文献6(特開平10−316888号公報)には、重合体粒子成分(A)、水溶性アクリル樹脂成分(B)及び水性硬化剤成分(C)を含有する水性塗料用樹脂組成物に関し、水性硬化剤成分(C)としてはメラミン化合物が開示されている。しかしながら、この技術では、実施例における水溶性アクリル樹脂成分(B)が、酸価が高くて安定なものではなく、フクレを発生する原因となる。これを抑制するために水性硬化剤成分(C)としてのメラミン化合物を水性塗料用樹脂組成物に添加しているが、硬化時にホルマリンが発生し、また、加熱乾燥性が充分でない等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−104842号公報
【特許文献2】特開平11−29737号公報
【特許文献3】特開2000−178497号公報
【特許文献4】特開2000−178498号公報
【特許文献5】特開2000−178499号公報
【特許文献6】特開平10−316888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、優れた加熱乾燥性と制振性とを発揮する水系制振材や優れた加熱乾燥性とチッピング性とを発揮する水系チッピング材を与える加熱乾燥用エマルションを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、種々の制振材やチッピング材に用いられる重合体を検討するうち、水系制振材を与える共重合エマルションが作業性等の点において優れていることにまず着目し、エマルションを重合した後、沸点が80℃以上の高沸点のアミンで中和することにより、エマルションの安定性が向上すること、加熱乾燥性が優れたものとなること、また、このようなエマルションを必須とする制振材配合物から形成される制振材の制振性やチッピング材配合物から形成されるチッピング材のチッピング性が向上することを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。すなわちエマルションを沸点が80℃以上の高沸点のアミンで中和すると、エマルションの安定性が向上するだけでなく、加熱乾燥性、制振性やチッピング性等の特性が向上することを見いだした。特開平10−316888号公報に記載の水性塗料用樹脂組成物には、ジメチルエタノールアミンが添加されているが、水溶性アクリル樹脂成分(B)を水性化するために用いられていることから、この点において本発明の加熱乾燥用エマルションは、該水性塗料用樹脂組成物と相違するものである。
【0011】
またこのようなエマルションの酸価やガラス転移点(Tg)を特定範囲に設定したり、不飽和カルボン酸単量体としてエチレン系不飽和カルボン酸単量体を特定質量割合で含む単量体混合物により形成したりすると、水系制振材において優れた加熱乾燥性と制振性とをより充分に発揮することができることや、水系チッピング材において優れた加熱乾燥性とチッピング性とを発揮することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0012】
すなわち本発明は、不飽和カルボン酸単量体を必須とする単量体混合物を乳化重合してなる加熱乾燥用エマルションであって、上記加熱乾燥用エマルションは、沸点が80℃以上のアミンにより中和されてなる加熱乾燥用エマルションである。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明の加熱乾燥用エマルションは、不飽和カルボン酸単量体を必須とする単量体混合物を重合してなる。
上記加熱乾燥用エマルションは、水を連続相とし、不飽和カルボン酸単量体を必須とする重合体が分散している水系のものである。通常ではこのような加熱乾燥用エマルションを必須とする制振材配合物を塗布することにより制振材を形成し、チッピング材配合物を塗布することによりチッピング材を形成することになる。なおエマルションにより形成される制振材やチッピング材をそれぞれ水系制振材や水系チッピング材ともいう。なお、「加熱乾燥用エマルション」とは、加熱乾燥により塗膜を形成させる場合に好適に用いられるものであることを意味する。
【0014】
本発明の加熱乾燥用エマルションを形成することになる単量体混合物としては、不飽和カルボン酸単量体を必須とし、不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体を含むことが好ましい。不飽和カルボン酸単量体としては、分子中に不飽和結合とカルボキシル基とを有する化合物であれば特に限定されるものではないが、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を用いることが好ましい。
【0015】
本発明ではまた、単量体混合物が、アクリル系単量体を必須として含んでなることが好ましい。アクリル系単量体とは、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体を意味する。
【0016】
上記単量体混合物におけるアクリル系単量体の含有量としては、例えば、全単量体混合物に対して50質量%以上となるようにすることが好ましい。このような単量体混合物としては、制振性やチッピング性の点から、共役ジエン系単量体の含有量が全単量体混合物に対して10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、5質量%以下であり、最も好ましくは、共役ジエン系単量体を含有しないことである。
【0017】
本発明では、上記単量体混合物が、全単量体混合物に対して官能基を有する不飽和単量体を10質量%未満含有するものであることが好ましい。官能基を有する不飽和単量体における官能基は、加熱乾燥用エマルションを重合により得る際に架橋することができる官能基であればよい。このような官能基の作用により、加熱乾燥用エマルションの成膜性や加熱乾燥性を向上することができることになる。より好ましくは、0.1〜3.0質量%である。
なお上記質量割合は、全単量体混合物100質量%に対する質量割合である。
【0018】
上記官能基としては、例えば、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジニル基、イソシアネート基、メチロール基、ビニルエーテル基、シクロカーボネート基、アルコキシシラン基等が挙げられる。これらの官能基は、不飽和単量体の1分子中に1種あってもよく、2種以上あってもよい。
【0019】
上記官能基を有する不飽和単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−i−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能性不飽和単量体類;グリシジル(メタ)アクリレート、アクリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有不飽和単量体類等が挙げられる。これらの中でも、官能基を2個以上有する不飽和単量体(多官能性不飽和単量体)を用いることが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明ではまた、上記単量体混合物が、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜20質量%及び他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体99.9〜80質量%を含んでなることが好ましい。エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含むことにより、加熱乾燥用エマルションを必須とする制振材配合物やチッピング材配合物において、無機粉体等の充填剤の分散性が向上し、制振性やチッピング性がより向上することになる。また、その他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体を含むことにより、加熱乾燥用エマルションの酸価、Tgや物性等を調整しやすくなる。上記単量体混合物において、エチレン系不飽和カルボン酸単量体が0.1質量%未満であっても、20質量%を超えても、いずれも、エマルションが安定に共重合できないおそれがある。
本発明の加熱乾燥用エマルションでは、これらの単量体から形成される単量体単位の相乗効果により、水系制振材において優れた加熱乾燥性と制振性とを、水系チッピング材において優れた加熱乾燥性とチッピング性とをより充分に発揮することが可能となる。
なお上記質量割合は、全単量体混合物100質量%に対する質量割合である。
【0021】
上記エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、モノメチルマイエート、モノエチルマイエート等の不飽和カルボン酸類又はその誘導体等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0022】
上記他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、上述した官能基を有する不飽和単量体や、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン等の芳香族不飽和単量体等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0023】
本発明の加熱乾燥用エマルションは、沸点が80℃以上のアミンにより中和されてなる。中和方法としては、例えば、不飽和カルボン酸単量体を必須とする単量体混合物を重合した後に行うことが好ましい。加熱乾燥用エマルションは、中和剤で中和されることにより安定化するが、中和剤として沸点が80℃以上のアミンを用いることにより、水系制振材において優れた加熱乾燥性と制振性とを発揮し、また、水系チッピング材において優れた加熱乾燥性とチッピング性とを発揮することとなる。好ましくは、沸点が130〜170℃のアミンを用いることである。
本願発明の沸点は、常圧での沸点である。
【0024】
本発明の加熱乾燥用エマルションは、不飽和カルボン酸単量体を必須とする単量体混合物を重合して得られる重合体を含んでなるが、該重合体の酸価が0.5〜160mgKOH/gであることが好ましい。これにより、加熱乾燥用エマルションの安定性がより充分なものとなる。0.5mgKOH/g未満であると、加熱乾燥用エマルションの水性化が不充分となるおそれがあり、160mgKOH/gを超えると、加熱乾燥用エマルションを必須とする制振材配合物やチッピング材配合物から形成される塗膜の耐水性が充分でなくなるおそれがある。より好ましくは、5.0〜40.0mgKOH/gである。
【0025】
本発明の加熱乾燥用エマルションはまた、ガラス転移点(Tg)が−50〜40℃であることが好ましい。Tgが−50℃未満であっても40℃を超えても制振性やチッピング性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは、−10〜20℃である。なお加熱乾燥用エマルションのTgは、加熱乾燥用エマルションを形成する各単量体の単独重合体のTgにより計算することができる。
【0026】
本発明の加熱乾燥用エマルションは、数平均分子量が小さいと、本発明の加熱乾燥用エマルションを必須とする制振材配合物やチッピング材配合物において、無機粉体等の充填剤と加熱乾燥用エマルションとの親和性が向上して分散性が向上することになる。
【0027】
上記加熱乾燥用エマルションは、トルエン溶媒で測定したゲル分率が0〜45質量%であることが好ましい。本発明におけるゲル分率とは、加熱乾燥用エマルションから形成される被膜のトルエン溶媒への溶解性を示す指標であり、ゲル分率が高い程トルエン溶媒への溶解性が少なくなることを意味する。ゲル分率は、樹脂の分子構造を反映するものであり、本発明の加熱乾燥用エマルションのゲル分率が45質量%を超えると、制振材配合物やチッピング材配合物にしたときに充分な制振性やチッピング性が発揮されないおそれがある。また、制振性やチッピング性の温度依存性が大きくなり、例えば、特定の温度領域に制振性のピークを有することになる。優れた制振性やチッピング性が発揮されるようにするためには、5〜45質量%とすることが好ましい。より好ましくは、0〜30質量%である。
【0028】
上記ゲル分率の測定方法としては、例えば、以下に記載するようなトルエン不溶分測定方法により測定することが好ましい。
ゲル分率(トルエン不溶分)の測定方法
加熱乾燥用エマルションを離型紙上、0.2cm厚みの型枠中に流し込み、厚さ0.2cmのフィルムを作製する。このフィルムを2cm(縦)×2cm(横)×0.2cmに切りだし試験フィルムとする。この試験フィルムをトルエン100mlに浸漬し、室温において、マグネチックスターラーで6時間攪拌する。その後、100メッシュ金網で濾過し、濾液の固形分を求め、ゲル分を算出する。
【0029】
上記加熱乾燥用エマルションは、制振材配合物にしたときの損失係数(tanδ)が0.15以上であることが好ましい。すなわち、本発明の加熱乾燥用エマルションを用いて制振材配合物を調製し、この制振材配合物から形成される被膜の損失係数(tanδ)が0.15以上となることが好ましい。なお、制振性すなわち損失係数は用いる被膜のtanδに相関し、tanδが高い程損失係数が高く制振性に優れていることになる。
上記損失係数(tanδ)が0.15未満であると、水系制振材において優れた制振性を発揮することができなくなるおそれがある。より好ましくは、0.16以上であり、更に好ましくは、0.18以上である。
【0030】
上記制振材配合物にしたときの損失係数(tanδ)の測定方法としては、例えば、以下に記載するように、制振材配合物を調製して測定することが好ましい。
制振材配合物の組成
加熱乾燥用エマルション 100重量部
炭酸カルシウム:NN♯200(商品名、日東粉化工業社製) 250重量部
分散剤:デモールEP(商品名、花王社製) 1重量部
増粘剤:アクリセットAT−2(商品名、日本触媒社製) 2重量部
消泡剤:ノプコ8034L(商品名、サンノプコ社製) 0.3重量部
【0031】
損失係数(tanδ)の測定方法
上記制振材配合物をカチオン電着塗装鋼板(15幅×250長さ×厚み0.8mm)上、3mm厚の型枠中に流し込み、150℃×30分乾燥し、試験片とした。この試験片について小野測器社製の損失係数測定システム・片持ち梁法を用いて25℃の測定環境の損失係数を測定する。
【0032】
本発明の加熱乾燥用エマルションの製造方法について以下に説明する。
本発明の加熱乾燥用エマルションの製造方法としては、不飽和カルボン酸単量体を必須とする単量体混合物を重合した後、沸点が80℃以上のアミンで中和することにより行われることが好ましい。単量体混合物を重合する方法としては、例えば、乳化重合法を好適に適用することができる。乳化重合を行う形態としては特に限定されず、例えば、水性媒体中に単量体混合物、重合開始剤及び界面活性剤を適宜加えて重合することにより行うことができる。また、分子量調節のために重合連鎖移動剤等を用いてもよい。
【0033】
上記水性媒体としては特に限定されず、例えば、水、水と混じり合うことができる溶媒の1種又は2種以上の混合溶媒、このような溶媒に水が主成分となるように混合した混合溶媒等が挙げられる。これらの中でも、水を用いることが好ましい。
【0034】
上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、ブチルハイドロパーオキサイド等の公知の水溶性又は油溶性開始剤等が挙げられる。また、乳化重合を促進させるため、還元剤として亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸等を用いてレドックス系開始剤としてもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記重合開始剤の使用量としては特に限定されず、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、全単量体混合物100重量部に対して、0.1〜2重量部とすることが好ましい。より好ましくは、0.2〜1重量部である。
【0036】
上記界面活性剤としては特に限定されず、例えば、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、ノニオンアニオン性乳化剤のいずれの乳化剤も使用することができる。これらの乳化剤の中でも、乳化重合安定性の点でノニオン性乳化剤、ノニオンアニオン性乳化剤を用いることが好ましく、ノニオン性乳化剤とノニオンアニオン性乳化剤とを併用するのがより好ましい。アニオン性乳化剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、ロジン酸石鹸、アルキルスルホン酸石鹸、ジアルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩等が挙げられる。ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
上記界面活性剤の使用量としては特に限定されず、乳化剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、全単量体混合物100重量部に対して、0.05〜2.5重量部とすることが好ましい。より好ましくは、0.1〜1重量部である。
【0038】
上記重合連鎖移動剤としては特に限定されず、例えば、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メルカプト酢酸2−エチルヘキシルエステル、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル、メルカプトピロピオン酸トリデシルエステル等のメルカプトカルボン酸アルキルエステル;メルカプト酢酸メトキシブチルエステル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチルエステル等のメルカプトカルボン酸アルコキシアルキルエステル;オクタン酸2−メルカプトエチルエステル等のカルボン酸メルカプトアルキルエステルや、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、アニソール、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類を用いることが好ましい。重合連鎖移動剤の使用量としては、例えば、全単量体混合物100重量部に対して、通常0〜1重量部、好ましくは0〜0.5重量部である。
【0039】
上記乳化重合においては、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等のキレート剤、ポリアクリル酸ナトリウム等の分散剤や無機塩等の存在下で行ってもよい。また、単量体混合物や重合開始剤等の添加方法としては、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0040】
上記乳化重合における反応条件としては、単量体混合物の組成や用いる重合開始剤等に応じて適宜設定すればよい。重合温度は、例えば、5〜90℃とすることが好ましい。より好ましくは、20〜85℃である。重合時間は、例えば、3〜8時間とすることが好ましい。また、重合や滴下は攪拌下に行われることが好ましい。
【0041】
上記沸点が80℃以上のアミンとしては特に限定されず、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等の三級アミン等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、ジメチルエタノールアミンが好適である。また、本発明の加熱乾燥用エマルションの製造においては、沸点が80℃以上のアミンにより中和を行うことが好ましいが、沸点が80℃以上のアミンと共に他の塩基1種又は2種以上を用いてもよい。他の塩基としては特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア水等が挙げられる。
【0042】
上記沸点が80℃以上のアミンの添加量としては特に限定されず、例えば、加熱乾燥用エマルションの酸価、すなわち加熱乾燥用エマルションに含有される重合体が有する酸基1当量に対してアミンが0.6〜1.4当量となるように添加することが好ましい。より好ましくは、0.8〜1.2当量である。また、沸点が80℃以上のアミンと他の塩基とを併用する場合には、加熱乾燥用エマルションに含有される重合体が有する酸基1当量に対するこれらの合計量が上記の範囲になるようにすればよい。この場合、沸点が80℃以上のアミンと他の塩基との使用割合としては、例えば、沸点が80℃以上のアミン/他の塩基が当量比で5/5以上となるようにすることが好ましい。より好ましくは、8/2以上である。
【0043】
本発明の加熱乾燥用エマルションは、必要に応じて添加剤や溶剤等と共に、制振材配合物やチッピング材配合物を構成することができるものである。このような本発明の加熱乾燥用エマルションを必須とする制振材配合物やチッピング材配合物は、本発明の好ましい実施形態の1つであり、優れた加熱乾燥性と制振性又はチッピング性とを発揮して、水系制振材又は水系チッピング材を形成することができるものである。このような制振材配合物から形成される制振材やチッピング材配合物から形成されるチッピング材、すなわち本発明の加熱乾燥用エマルションを必須として形成される制振材又はチッピング材もまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0044】
上記制振材を形成することになる制振材配合物における加熱乾燥用エマルションの配合量としては、例えば、制振材配合物の固形分100質量%に対して、加熱乾燥用エマルションの固形分が30〜60質量%となるようにすることが好ましい。また、制振材配合物の固形分濃度としては、例えば、制振材配合物100質量%に対して10〜40質量%となるようにすることが好ましい。
【0045】
上記添加剤としては、例えば、充填剤、着色剤、防腐剤、分散剤、増粘剤、揺変剤、凍結防止剤、pH調整剤、消泡剤、湿潤剤、防錆剤、密着付与剤等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、充填剤を含むことが好ましい。
【0046】
上記充填剤としては特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、硫酸バリウム、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、ガラストーク等の無機質の充填剤;ガラスフレーク、マイカ等の鱗片状無機質充填剤;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維等の繊維状無機質充填剤等が挙げられる。
【0047】
上記制振材配合物における充填剤の配合量としては、例えば、加熱乾燥用エマルションの固形分100重量部に対して、50〜400重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜350重量部である。
【0048】
上記溶剤としては、本発明の作用効果を奏する限り特に限定されず、1種又は2種以上を用いることができる。また、溶剤の配合量としては、例えば、制振材配合物の固形分濃度が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。
【0049】
上記制振材配合物はまた、加熱乾燥用エマルションと共に、多価金属化合物を含むことが好ましい。これにより、制振材配合物の安定性、分散性、加熱乾燥性や、制振材配合物から形成される制振材の制振性を向上することができる。多価金属化合物としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、本発明では酸化亜鉛を用いることが好ましい。
【0050】
上記多価金属化合物の形態としては特に限定されず、例えば、粉体、水分散体を用いることができる。これらの中でも、加熱乾燥用エマルションを必須とする制振材配合物の分散性が向上することから、乳化剤で水分散の状態にした形態で使用することが好ましい。このような乳化剤で水分散の状態にして使用すると、多価金属化合物がエマルション中に充分に分散されてエマルションと多価金属化合物とを組み合わせることによる作用効果が充分に発揮されることになる。これにより、加熱乾燥用エマルションを必須とする制振材配合物の安定性や分散性が向上し、更に加熱乾燥性が優れたものとなると共に、制振性も向上することになる。また、使用量としては、例えば、加熱乾燥用エマルションの固形分100重量部に対して、多価金属化合物が0.05〜5.0重量部となるようにすることが好ましい。より好ましくは、0.05〜3.5重量部である。
【0051】
上記チッピング材を形成することになるチッピング材配合物における加熱乾燥用エマルションの配合量としては、例えば、チッピング材配合物の固形分100質量%に対して、加熱乾燥用エマルションの固形分が30〜60質量%となるようにすることが好ましい。また、チッピング材配合物の固形分濃度としては、例えば、チッピング材配合物100質量%に対して10〜40質量%となるようにすることが好ましい。
【0052】
上記添加剤としては特に限定されず、上述したのと同様のもの等が挙げられ、充填剤を含むことが好ましい。また、チッピング材配合物における充填剤の配合量としては、例えば、加熱乾燥用エマルションの固形分100重量部に対して、50〜400重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜350重量部である。
【0053】
上記チッピング材配合物はまた、加熱乾燥用エマルションと共に、多価金属化合物を含むことが好ましい。これにより、チッピング材配合物の安定性、分散性、加熱乾燥性や、チッピング材配合物から形成されるチッピング材のチッピング性を向上することができる。多価金属化合物としては、上述したのと同様のもの等が挙げられ、酸化亜鉛を用いることが好ましい。多価金属化合物の形態も上述したのと同様であり、チッピング材配合物の分散性が向上することから、乳化剤で水分散の状態にした形態で使用することが好ましい。また、使用量としては、例えば、加熱乾燥用エマルションの固形分100重量部に対して、多価金属化合物が0.05〜5.0重量部となるようにすることが好ましい。より好ましくは、0.05〜3.5重量部である。
【0054】
上記溶剤としては、本発明の作用効果を奏する限り特に限定されず、1種又は2種以上を用いることができる。また、溶剤の配合量としては、例えば、チッピング材配合物の固形分濃度が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。
【0055】
上記制振材やチッピング材を形成することになる制振材配合物やチッピング材配合物は、加熱乾燥用エマルションと、上述した添加剤や溶剤等とを混合することにより製造することができる。混合に用いる装置としては特に限定されず、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等が挙げられる。
【0056】
上記制振材配合物やチッピング材配合物は、例えば、基材に塗布して乾燥することにより制振材やチッピング材となる被膜を形成することになる。基材としては特に限定されるものではない。また、制振材配合物やチッピング材配合物を基材に塗布する方法としては、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて塗布することができる。
【0057】
上記制振材配合物やチッピング材配合物の塗布量としては、用途や所望する性能等により設定すればよいが、例えば、制振材配合物を塗布して制振材を形成する場合であれば、乾燥時の被膜の膜厚が0.5〜5.0mmとなるようにすることが好ましく、より好ましくは、1.5〜4.5mmである。また、チッピング材配合物を塗布してチッピング材を形成する場合であれば、乾燥時の被膜の膜厚が0.5〜5.0mmとなるようにすることが好ましく、より好ましくは、1.5〜4.5mmである。
【0058】
上記制振材配合物やチッピング材配合物を塗布した後、乾燥して被膜を形成させる条件としては、例えば、加熱乾燥してもよく、常温乾燥してもよいが、効率性の点で加熱乾燥することが好ましく、本発明では加熱乾燥性に優れることから、好適である。加熱乾燥の温度としては、例えば、制振材を形成する場合であれば、80〜210℃とすることが好ましい。より好ましくは、110〜160℃である。また、チッピング材を形成する場合であれば、80〜210℃とすることが好ましい。より好ましくは、110〜160℃である。
【0059】
本発明の加熱乾燥用エマルションを必須とする制振材配合物の用途としては特に限定されず、優れた加熱乾燥性と制振性とを発揮することができるため、例えば、自動車の室内床下の他、鉄道車両、船舶、航空機、電気機器、建築構造物、建設機器等に好適に適用することができる。また、本発明の加熱乾燥用エマルションを必須とするチッピング材組成物は、優れた加熱乾燥性と耐チッピング性とを発揮することができるため、自動車外装、自動車部品、家電、機械等に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明の加熱乾燥用エマルションは、上述のような構成よりなるため、制振材配合物やチッピング材配合物を構成するものとして好適に用いることができるものである。また、このような加熱乾燥用エマルションを必須とする制振材配合物は、優れた加熱乾燥性と制振性とを発揮して、水系制振材を形成することができるため、自動車の室内床下の他、鉄道車両、船舶、航空機、電気機器、建築構造物、建設機器等に適用することができるものである。更に、このような加熱乾燥用エマルションを必須とするチッピング材配合物は、優れた乾燥性と耐チッピング性とを発揮して、チッピング材を形成することができるため、自動車外装、自動車部品、家電、機械等に好適に適用することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に実施例を揚げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は、「重量部」を、「%」は、「質量%」を意味するものとする。
【0062】
実施例1
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けたセパラブルフラスコに脱イオン水170.5部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を70℃まで昇温した。一方上記滴下ロートにメチルメタアクリレート126.9部、スチレン253.9部、2−エチルヘキシルアクリレート147.3部、グリシジルメタクリレート5.4部、アクリル酸5.4部、予め25%水溶液に調整したノニポール200(商品名、ポリオキシエチレンフェニルエーテル:三洋化成工業社製)53.8部、20%水溶液に調整したハイテノールN−08(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩:第一工業製薬社製)21.5部及び脱イオン水129.3部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次にセパラブルフラスコの内温を70℃に維持しながら上記単量体乳化物を3時間かけて均一に滴下した。このとき同時に5%過硫酸カリウム水溶液53.9部、2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を3時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、76℃で3時間熟成後、冷却して中和剤としてジメチルエタノールアミンを6.7部添加した。後にAZO−50(酸化亜鉛の分散体・50%酸化亜鉛含有物:日本触媒社製)31.4部を添加して30分間攪拌した。それら乳化物を冷却後100メッシュのステンレス金網によりろ過を行い取り出した。これにより水性樹脂(共重合エマルション)を得た。得られた水性樹脂(共重合エマルション)の不揮発分は55.0%、pHは9.1、粘度は900mPa・sであった。
【0063】
実施例2
攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けたセパラブルフラスコに脱イオン水170.5部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で攪拌しながら内温を70℃まで昇温した。一方上記滴下ロートにメチルメタアクリレート126.9部、スチレン253.9部、2−エチルヘキシルアクリレート147.3部、グリシジルメタクリレート5.4部、アクリル酸5.4部、予め25%水溶液に調整したノニポール200(ポリオキシエチレンフェニルエーテル:三洋化成工業社製)を53.8部及び20%水溶液に調整したハイテノールN−08(ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩:第一工業製薬社製)を21.5部、脱イオン水129.3部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次にセパラブルフラスコの内温を70℃に維持しながら上記単量体乳化物を3時間かけて均一に滴下した。このとき同時に5%過硫酸カリウム水溶液53.9部、2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を3時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、76℃で3時間熟成後、冷却して中和剤としてジメチルエタノールアミンを6.7部添加した。それら乳化物を冷却後100メッシュのステンレス金網によりろ過を行い取り出した。これにより水性樹脂(共重合エマルション)を得た。得られた水性樹脂(共重合エマルション)の不揮発分は55.1%、pHは9.0、粘度は430mPa・sであった。
【0064】
実施例3
攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けたセパラブルフラスコに脱イオン水170.5部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で攪拌しながら内温を70℃まで昇温した。一方上記滴下ロートにメチルメタアクリレート126.9部、スチレン253.9部、2−エチルヘキシルアクリレート147.3部、トリメチロールプロパントリメタクリレート5.4部、アクリル酸5.4部、予め25%水溶液に調整したノニポール200(ポリオキシエチレンフェニルエーテル:三洋化成工業社製)を53.8部及び20%水溶液に調整したハイテノールN−08(ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩:第一工業製薬社製)を21.5部、脱イオン水129.3部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次にセパラブルフラスコの内温を70℃に維持しながら上記単量体乳化物を3時間かけて均一に滴下した。このとき同時に5%過硫酸カリウム水溶液53.9部、2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を3時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、76℃で3時間熟成後、冷却して中和剤としてジメチルエタノールアミンを6.7部添加した。それら乳化物を冷却後100メッシュのステンレス金網によりろ過を行い取り出した。これにより水性樹脂(共重合エマルション)を得た。得られた水性樹脂(共重合エマルション)の不揮発分は55.0%、pHは8.8、粘度は380mPa・sであった。
【0065】
実施例4
攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けたセパラブルフラスコに脱イオン水170.5部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で攪拌しながら内温を70℃まで昇温した。一方上記滴下ロートにスチレン361.1部、2−エチルヘキシルアクリレート169.7部、トリメチロールプロパントリメタクリレート2.7部、アクリル酸5.4部、予め25%水溶液に調整したノニポール200(ポリオキシエチレンフェニルエーテル:三洋化成工業社製)を53.8部及び20%水溶液に調整したハイテノールN−08(ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩:第一工業製薬社製)を21.5部、脱イオン水129.3部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次にセパラブルフラスコの内温を70℃に維持しながら上記単量体乳化物を3時間かけて均一に滴下した。このとき同時に5%過硫酸カリウム水溶液53.9部、2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を3時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、76℃で3時間熟成後、冷却して中和剤としてジメチルエタノールアミンを6.7部添加した。それら乳化物を冷却後100メッシュのステンレス金網によりろ過を行い取り出した。これにより水性樹脂(共重合エマルション)を得た。得られた水性樹脂(共重合エマルション)の不揮発分は55.0%、pHは8.9、粘度は350mPa・sであった。
【0066】
比較例1
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けたセパラブルフラスコに脱イオン水170.5部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を70℃まで昇温した。一方上記滴下ロートにメチルメタアクリレート132.6部、スチレン230.1、ブチルアクリレート170.8部、グリシジルメタクリレート5.4部、予め25%水溶液に調整したノニポール200(商品名、ポリオキシエチレンフェニルエーテル:三洋化成工業社製)53.8部、20%水溶液に調整したハイテノールN−08(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩:第一工業製薬社製)21.5部及び脱イオン水129.3部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次にセパラブルフラスコの内温を70℃に維持しながら上記単量体乳化物を3時間かけて均一に滴下した。このとき同時に5%過硫酸カリウム水溶液53.9部、2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を3時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、76℃で3時間熟成後、冷却して25%のアンモニア水を5.1部添加した。後にAZO−50(酸化亜鉛の分散体・50%酸化亜鉛含有物:日本触媒社製)31.4部を添加して30分間攪拌した。それら乳化物を冷却後100メッシュのステンレス金網によりろ過を行い取り出した。これにより水性樹脂(共重合エマルション)を得た。得られた水性樹脂(共重合エマルション)の不揮発分は55.1%、pHは6.1、粘度は1500mPa・sであった。
【0067】
比較例2
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けたセパラブルフラスコに脱イオン水170.5部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を70℃まで昇温した。一方上記滴下ロートにメチルメタアクリレート126.9部、スチレン253.9部、2−エチルヘキシルアクリレート147.3部、グリシジルメタクリレート5.4部、アクリル酸5.4部、予め25%水溶液に調整したノニポール200(商品名、ポリオキシエチレンフェニルエーテル:三洋化成工業社製)53.8部、20%水溶液に調整したハイテノールN−08(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩:第一工業製薬社製)21.5部及び脱イオン水129.3部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次にセパラブルフラスコの内温を70℃に維持しながら上記単量体乳化物を3時間かけて均一に滴下した。このとき同時に5%過硫酸カリウム水溶液53.9部、2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液40部を3時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、76℃で3時間熟成後、冷却して25%のアンモニア水を5.1部添加した。それら乳化物を冷却後100メッシュのステンレス金網によりろ過を行い取り出した。これにより水性樹脂(共重合エマルション)を得た。得られた水性樹脂(共重合エマルション)の不揮発分は55.3%、pHは8.6、粘度は680mPa・sであった。
【0068】
実施例1〜4及び比較例1〜2で得られた共重合エマルションを下記のとおりに配合し、制振材配合物とした。この制振材配合物を用いて下記の評価試験を行い、加熱乾燥性及び制振性を確認した。結果を表1及び表2に示した。
(制振材配合物の組成)
アクリル共重合エマルション 185部
炭酸カルシウム:NN♯200(商品名、日東粉化工業社製) 250部
分散剤:デモールEP(商品名、花王社製) 1部
増粘剤:アクリセットAT−2(商品名、日本触媒社製) 2部
消泡剤:ノプコ8034L(商品名、サンノプコ社製) 0.3部
【0069】
(1)加熱乾燥性試験
カチオン電着塗装板の上に、製造した制振材配合物をこの制振材配合物の乾燥膜厚が1.5mm、3.0mm、4.5mmとなるように塗布した。その後、熱風乾燥機を用いて、150℃で30分間乾燥し、得られた乾燥塗膜の膨れ・ワレ発生状態を以下の基準で評価した。
評価基準(目視評価)
○:膨れ・ワレの発生なし
△:膨れ・ワレが少し発生
×:膨れ・ワレが多数発生
【0070】
(2)損失係数
カチオン電着塗装板(15幅×250長さ×厚み0.8mm)の上に、製造した制振材配合物を塗布し、熱風乾燥機を用いて、150℃で30分間乾燥し、試験片とした。塗布量は、この制振材配合物の乾燥膜厚が1.5mm、3.0mm、4.5mmとなるように調整した。
この試験片について、小野測器社製の損失係数測定システムを用いて25℃の測定環境において片持ち梁法のtanδを測定し、制振性を評価した。すなわち、損失係数の値が大きい程、制振性が良いことを示す。
【0071】
〈耐チッピング性の評価〉
実施例1〜4、比較例1〜2で得られた共重合エマルションを下記のとおり配合し、チッピング材配合物とした。このチッピング材配合物から次の物性を確認した。結果を表1及び表2に示した。
・アクリル共重合エマルション 100部
・炭酸カルシウム NN♯200(商品名、日東粉化工業社製) 100部
・分散剤 デモールEP(商品名、花王社製) 1部
・増粘剤 アクリセットAT−2(商品名、日本触媒社製) 2部
・消泡剤 ノプコ8034L(商品名、サンノプコ社製) 0.3部
【0072】
カチオン電着塗装板の上に、製造した配合物を塗布し、熱風乾燥機を用いて、150℃で30分間乾燥した。塗布量は、この配合物の乾燥膜厚が1.0mmとなるようにテスト板を調整した。
チッピング性の測定は、このテスト板上の乾燥塗膜を水平面に対し60度の角度で立て、次いで乾燥塗膜の上に高さ2mのポリ塩化ビニル製パイプ(内径2cm)を立てた。その後、そのパイプを通して、M4ナットを2mの高さから乾燥塗膜面に連続的に落下させ、このテスト板の下地が露出するまでに落下したこのナットの総重量を測定した。その総重量をチッピング強度(Kg)として表し、それの大小により耐チッピング性を評価した。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸単量体を必須とする単量体混合物を重合してなる加熱乾燥用エマルションを含む配合物を塗布して形成される制振又は耐チッピング材であって、
該加熱乾燥用エマルションは、沸点が80℃以上のアミンにより中和されてなり、
該制振又は耐チッピング材は、加熱乾燥用エマルション含有配合物を乾燥時の被膜の膜厚が1.5〜4.5mmとなるように塗布して形成される
ことを特徴とする制振又は耐チッピング材。
【請求項2】
前記制振又は耐チッピング材は、加熱乾燥用エマルション含有配合物を塗布した後、110〜160℃で加熱乾燥して形成されることを特徴とする請求項1に記載の制振又は耐チッピング材。
【請求項3】
前記アミンは、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリンの1種又は2種以上の三級アミンである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制振又は耐チッピング材。
【請求項4】
前記アミンは、ジメチルエタノールアミンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の制振又は耐チッピング材。
【請求項5】
前記単量体混合物は、全単量体混合物に対して官能基を有する不飽和単量体を0.5〜1.0質量%含有するものである
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の制振又は耐チッピング材。
【請求項6】
前記官能基を有する不飽和単量体は、トリメチロールプロパントリメタクリレートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の制振又は耐チッピング材。

【公開番号】特開2010−43748(P2010−43748A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268022(P2009−268022)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【分割の表示】特願2002−26885(P2002−26885)の分割
【原出願日】平成14年2月4日(2002.2.4)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】