説明

加熱凝固卵の製造方法及びこれを利用する卵スプレッドの製造方法

【課題】卵白部分がさらにソフトな食感であると共に、卵風味がさらに優れたものが強く求められている。
【解決手段】pH7.6〜9.2の卵白を有するホール生卵を水分増加率0〜3%の範囲となるように100℃を超えた170℃以下の水蒸気含有雰囲気で加熱して凝固させることにより、加熱凝固卵を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱凝固卵の製造方法及びこれを利用する卵スプレッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食パン等に塗り広げて使用することを始めとして、サンドウィッチ用のフィリングや、コロッケ等の具材や、料理のトッピング等の各種用途に使用される卵スプレッドは、従来、殻付生卵を茹でた後に殻を剥いて截断した截断物とマヨネーズ等の酸性水中油型乳化状調味料とを和えて製造するようにしていた。
【0003】
このとき、茹で卵の殻を剥きやすくするため、殻付生鶏卵を貯卵庫内でエージングして内部のpH値を高めてから茹でるようにしていることから、製造された卵スプレッドは、卵白部分が、高いpH値の影響により固い食感となってしまい、ソフトな食感に欠けてしまっていた。
【0004】
そこで、例えば、下記特許文献1等においては、殻付生鶏卵を割卵して殻を取り除いたままの状態で濾過していない生の全卵、すなわち、卵黄膜に包まれた状態の生卵黄(黄身)と生卵白(白身)とからなるホール生卵を70〜100℃で加熱処理して凝固させた加熱凝固卵を用い、当該加熱凝固卵を截断した品温50℃以上の截断物と、酸性水中油型乳化状調味料とを混合処理した後、混合処理を開始してから60分以内に品温30℃以下にすることにより、卵白部分がソフトな食感になると共に、優れた卵風味となる製造方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−143444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、市場では、卵白部分がさらにソフトな食感であると共に、卵風味がさらに優れたものが強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決するためになされた本発明は、pH7.6〜9.2の卵白を有するホール生卵を水分増加率0〜3%の範囲となるように100℃を超えた170℃以下の水蒸気含有雰囲気で加熱して凝固させることにより、加熱凝固卵を製造することを特徴とする加熱凝固卵の製造方法である。
【0008】
また、本発明は、上述した方法で製造された加熱凝固卵と、酸性水中油型乳化状調味料とを混合することにより、卵スプレッドを製造することを特徴とする卵スプレッドの製造方法である。
【0009】
また、本発明は、上述した卵スプレッドの製造方法において、55℃以上の温度を有する前記加熱凝固卵と、前記酸性水中油型乳化状調味料とを容器に入れて密封した後に混合することを特徴とする卵スプレッドの製造方法である。
【0010】
また、本発明は、上述した卵スプレッドの製造方法において、前記容器が変形可能なものであり、前記加熱凝固卵と前記酸性水中油型乳化状調味料とを入れられて密封された前記容器に対して当該容器の外部から力を加えることにより上記加熱凝固卵を壊砕してから、当該加熱凝固卵と上記酸性水中油型乳化状調味料とを混合することを特徴とする卵スプレッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来よりもソフトな食感を得ることができると共に、卵風味をさらに高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る実施形態を以下に説明するが、本発明は以下に説明する実施形態のみに限定されるものではない。
【0013】
本実施形態に係る加熱凝固卵の製造方法は、pH7.6〜9.2の卵白を有するホール生卵を水分増加率0〜3%の範囲となるように100℃を超えた170℃以下の水蒸気含有雰囲気で加熱して凝固させることにより、加熱凝固卵を製造する方法である。
【0014】
前記ホール生卵は、殻付生鶏卵を割卵して殻を取り除いたままの状態で濾過していない生の全卵であり、例えば、卵黄膜に包まれた状態の生卵黄(黄身)と生卵白(白身)とからなる状態のものや、割卵時の物理的な衝撃等によって卵黄膜が破れてしまった状態のもの等が挙げられる。
【0015】
ここで、卵黄膜に包まれた状態の生卵黄(黄身)と生卵白(白身)とからなる状態のホール生卵を全体に対する割合で70%以上使用すると、製造された加熱凝固卵における卵黄部分のホクホクとした食感を高めることができるので好ましく、さらに、卵黄球の残存率が85%以上(特に、90%以上)であると、卵黄部分のホクホクとした食感をより高めることができるので非常に好ましい。
【0016】
なお、卵黄球の残存率Y(%)は、水(400g)を入れたビーカ中に、加熱凝固卵の卵黄を半割にして入れ(60g)、撹拌機で撹拌(50秒)した後、メッシュ(2×2mm)のザルに通し、当該ザルに残った卵黄の重量X(g)を測定し、下記の式に基づいて算出することができる。
【0017】
Y=100−(X/60)×100
【0018】
また、前記ホール生卵は、前記卵白がpH7.9〜9.2の範囲のものを使用し、特に、前記卵白がpH7.9〜8.9(新鮮な卵)の範囲のものを使用すると好ましい。なぜなら、前記卵白がpH9.2を超えると(エージングした卵)、加熱凝固した卵白部分が固い食感となって、ソフトな食感を得にくくなってしまうからである。
【0019】
このような上記ホール生卵を水分増加率0〜3%の範囲となるように100℃を超えた170℃以下の水蒸気含有雰囲気で加熱して凝固させる。具体的には、上記ホール生卵をステンレス製のバット等に入れ(1個又は複数個)、当該バット等を処理庫内に載置してヒータ及びファン等で100℃を超えた170℃以下の熱風を当該処理庫内に均一に循環させながら、当該処理庫内の雰囲気中の水蒸気量を飽和状態(湿度100%)以上となるように当該熱風中に水蒸気を供給することにより、上記ホール生卵を加熱凝固させる。
【0020】
このとき、加熱凝固した上記卵が、上記ホール生卵に対して0〜3%(好ましくは0〜2%)の範囲の水分増加率となるように雰囲気中の水蒸気量を調整する。なぜなら、上記水分増加率が0%未満、すなわち、上記卵から水分が蒸発してしまうと、上記加熱凝固卵の表面が乾燥して褐色の被膜を生じやすくなり、固い食感となって、ソフトな食感を得ることが難しくなってしまい、上記水分増加率が3%を超えると、上記加熱凝固卵が水っぽくなり、卵風味を感じにくくなってしまうからである。
【0021】
ここで、上記雰囲気中の水蒸気量が飽和状態よりも少ないと、前記卵から水分が蒸発して、当該卵の重量が減少してしまい、上記雰囲気中の水蒸気量が飽和状態よりも多いと、当該雰囲気に含有されている水分が前記卵に加わって、当該卵の重量が増加してしまう現象を生じるようになる。
【0022】
このため、上記水分増加率は、加熱凝固前の上記ホール生卵の重量を予め計測しておき、加熱凝固後に当該卵(加熱凝固卵)の表面やバット等の容器内に溜まった水分を捨ててから当該卵(加熱凝固卵)の重量を計測し、加熱凝固前の重量と加熱凝固後の重量との差分を算出することにより、求めることができる。
【0023】
このような雰囲気中の水蒸気量の調整は、上記処理庫内に水蒸気を供給する供給ラインのノズルから噴射される水蒸気のゲージ圧力が所定の範囲となるように、当該供給ラインの噴射用バルブの開度を調整することにより、簡単に行うことができる。具体的には、処理庫内の容量や温度によって異なるが、例えば、処理庫内の容量が0.5m3であれば、雰囲気温度が100℃を超えた170℃以下のときに、ゲージ圧力が0.1〜0.5MPaの範囲となるように、噴射用バルブの開度を調整することにより、前記水分増加率を0〜3%の範囲とすることができる。
【0024】
また、水蒸気を含有する上記雰囲気の温度が100℃を超えた170℃以下(好ましくは110〜140℃)となるように当該雰囲気を加熱する。なぜなら、上記雰囲気の温度が100℃未満であると、得られた加熱凝固卵の卵風味が従来とほとんど同じ程度しか得られず、上記雰囲気の温度が170℃を超えると、得られる加熱凝固卵の卵白部分がパリパリになったり焦げを生じたりして、当該加熱凝固卵が目玉焼きのような状態となる可能性があるからである。
【0025】
そして、本実施形態に係る卵スプレッドの製造方法は、上述した方法で製造された加熱凝固卵と、マヨネーズ等の酸性水中油型乳化状調味料とを混合することにより卵スプレッドを製造する方法である。
【0026】
上記卵スプレッドは、食パン等に塗り広げて使用することを始めとして、サンドウィッチ用のフィリングや、コロッケ等の具材や、料理のトッピング等の各種用途に使用されるものであり、必要に応じて、野菜の截断物等が混合される場合もある。
【0027】
このような卵スプレッドの製造方法においては、55℃以上(特には60℃以上)の温度を有する上記加熱凝固卵と、マヨネーズ等の酸性水中油型乳化状調味料とを容器に入れて密封した後に混合すると好ましい。
【0028】
具体的には、上述したようにして製造されて55℃以上(特には60℃以上)の温度を有する前記加熱凝固卵を変形可能な容器(例えば、ポリ袋等)に入れると共に、マヨネーズ等の酸性水中油型乳化状調味料を当該ポリ袋に入れて当該ポリ袋を密封した後、当該ポリ袋をテーブル等に載置して、当該ポリ袋内の上記加熱凝固卵を区分けするようにブレード等で当該ポリ袋の外部上方から力を加えることにより、当該ポリ袋を截断することなく当該加熱凝固卵をマス目状に押し分けて賽の目状に壊砕(押し切り)したら、当該ポリ袋の内部を撹拌するように当該ポリ袋を揉んで上記加熱凝固卵と上記調味料とを混合するのである。
【0029】
ここで、製造されてすぐの55℃以上(特には60℃以上)の温度を有するまだ熱いうちに上記加熱凝固卵を前記ポリ袋に入れて密封すると、熱いうちのしっとりとした柔らかい卵黄に対してマヨネーズ等の酸性水中油型乳化状調味料を混ぜ合わせることができるので、当該卵黄と当該調味料との味なじみをよくすることができ、酸性の当該調味料特有のツンとした感じを大きく低減することができると共に、硫化水素化合物等のような卵風味を醸し出す揮発成分を大気中に放散させることなく当該ポリ袋内に封じ込めた状態で室温下に至らせながら卵スプレッドを調製することができるので、卵風味をさらに向上させることができることから、非常に好ましい。
【0030】
さらに、55℃以上(特には60℃以上)の温度を維持したまま前記加熱凝固卵を密封するまでの間に当該加熱凝固卵が他の物品と接触する頻度を非常に少なくすることもできるので、菌の混入を抑制することもでき、静菌剤を添加することなく日持ちを向上させることができるばかりか、マヨネーズ等の酸性水中油型乳化状調味料の混合量を低減させてpH値を高く設定することもでき(pH6.5〜7.5)、卵白部分が固くなることを抑制して、ソフトな食感が維持しやすくなると共に、酸味が抑えられて卵風味がより際立つようにもなることから、非常に好ましい。
【0031】
このようにして製造された上記卵スプレッドにおいては、従来よりもソフトな食感を得ることができると共に、卵風味をさらに高めることができる。
【0032】
なお、本実施形態においては、熱風中に水蒸気を供給した雰囲気により、前記ホール生卵を加熱凝固させる場合について説明したが、他の実施形態として、例えば、過熱水蒸気中に水蒸気を供給した雰囲気により、前記ホール生卵を加熱凝固させることも可能である。
【0033】
しかしながら、本実施形態の場合のように、熱風中に水蒸気を供給した雰囲気を使用するようにすると、過熱水蒸気中に水蒸気を供給した雰囲気を使用する場合よりも、水分増加率0〜3%の範囲となるように100℃を超えた170℃以下の水蒸気含有雰囲気で前記ホール生卵を加熱して凝固させることが簡単かつ低コストでできるので、好ましい。
【0034】
このとき、熱風又は過熱水蒸気のみでは、前記ホール生卵を上記温度範囲の雰囲気下で加熱することができるものの、当該ホール生卵が乾燥して、前記水分増加率が0%未満になってしまう一方、水蒸気のみでは、前記ホール生卵を上記温度範囲の雰囲気下で加熱することができなくなってしまうので、水蒸気と熱風又は過熱水蒸気とを併用する。
【0035】
また、本実施形態においては、55℃以上(特には60℃以上)の温度を有する前記加熱凝固卵をポリ袋に入れると共に、前記調味料を当該ポリ袋に入れて当該ポリ袋を密封した後、ブレード等で当該ポリ袋の外部上方から力を加えることで、当該ポリ袋を截断することなく当該加熱凝固卵を壊砕(押し切り)してから、当該ポリ袋を揉んで上記加熱凝固卵と上記調味料とを混合することにより卵スプレッドを製造する場合について説明したが、他の実施形態として、例えば、55℃以上(特には60℃以上)の温度を有する前記加熱凝固卵を刃等で賽の目状に截断してから、55℃以上(特には60℃以上)の温度を有するうちにポリ袋に入れると共に、前記調味料を当該ポリ袋に入れて当該ポリ袋を密封した後、当該ポリ袋を揉んで上記加熱凝固卵と上記調味料とを混合することにより卵スプレッドを製造することも可能である。
【0036】
しかしながら、本実施形態の場合のようにすると、先に説明したように、硫化水素化合物等のような卵風味を醸し出す揮発成分を大気中に放散させることなく前記ポリ袋内に封じ込めた状態で室温下に至らせながら卵スプレッドを調製することができるので、卵風味をさらに向上させることができると共に、他の物品と接触する頻度を非常に少なくすることができ、菌の混入を抑制することができるので、前記調味料の混合量を低減させてpH値を高く設定することができ(pH6.5〜7.5)、卵風味をより際立たせることができることから、非常に好ましい。
【0037】
また、前記卵スプレッドは、pH5.5〜7.5(特にはpH6.5〜7.3)であると好ましい。なぜなら、pH5.5未満であると、卵白が固くなりやすいと共に、酸味が強くなって、卵風味を感じにくくなってしまい、pH7.5を超えると、日持ちしにくくなると共に、えぐ味を感じやすくなるからである。
【0038】
また、前記加熱凝固卵の卵白(白身)部分が厚さ5〜25mmとなるように、前記ホール生卵を前記バット等に入れて加熱凝固させると、当該ホール生卵を全体にわたって均一に加熱することが確実にできるので、加熱時間を短く済ますことができ、硫化水素化合物等のような卵風味を醸し出す揮発成分の放散量を抑制することができることから、非常に好ましい。
【実施例】
【0039】
本発明に係る実施例を以下に説明するが、本発明は以下に説明する実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
〈試験体及び比較体の製造〉
《試験体11:基本条件》
殻付生鶏卵を割卵して殻を取り除いたホール生卵(生卵白:pH9.0)をステンレス製のバット(幅:30cm、長さ:36cm、高さ:10cm)に入れ(個数:20個、重量:1100g、卵白部分の高さ:1cm)、当該バットを処理庫内(容量:0.5m3)に載置してヒータ及びファンにより熱風(110℃)を当該処理庫内に均一に循環させながら、水分増加率が2%となるように当該熱風中に水蒸気を供給(ゲージ圧力:0.12MPa)して当該ホール生卵を加熱(15分間)することにより、加熱凝固卵を得る。
【0041】
次に、前記処理庫内から前記バットを取り出して、当該バット内の前記加熱凝固卵(卵黄球残存率:85%、温度:55℃)を、マヨネーズ(275g(卵スプレッド全体重量に対する割合で20%))を入れたポリ袋内に移し入れて密封した後、当該ポリ袋をテーブルに載置して、当該ポリ袋内の上記加熱凝固卵を区分けするようにブレード等で当該ポリ袋の外部上方から力を加えることにより、当該ポリ袋を截断することなく当該加熱凝固卵をマス目状に押し分けて賽の目状に壊砕(押し切り)したら、当該ポリ袋の内部を撹拌するように当該ポリ袋を揉んで上記加熱凝固卵とマヨネーズとを混合して、卵スプレッド(pH6.5)を製造した(試験体11)。
【0042】
《試験体12:水分増加率変更(1)》
上述した試験体1の製造条件において、加熱凝固卵の水分増加率が1.5%となるように、加熱温度(135℃)、加熱時間(10分間)、水蒸気供給量(ゲージ圧力:0.15MPa)を変更する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(試験体12)。
【0043】
《試験体13:水分増加率変更(2)》
上述した試験体1の製造条件において、加熱凝固卵の水分増加率が1%となるように、加熱温度(135℃)、加熱時間(8分間)を変更する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(試験体13)。
【0044】
《試験体14:水分増加率変更(3)》
上述した試験体1の製造条件において、加熱凝固卵の水分増加率が3%となるように、加熱時間(8分間)、水蒸気供給量(ゲージ圧力:0.25MPa)を変更する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(試験体14)。
【0045】
《試験体15:生卵白pH変更(1)》
上述した試験体1の製造条件において、生卵白のpH値が異なる(pH8.5)ホール生卵を使用する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(試験体15)。
【0046】
《試験体16:生卵白pH変更(2)》
上述した試験体1の製造条件において、生卵白のpH値が異なる(pH9.2)ホール生卵を使用する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(試験体16)。
【0047】
《試験体17(卵白高さ変更)》
上述した試験体1の製造条件において、前記バットのサイズを変更(幅:15cm、長さ:18cm、高さ:10cm)すると共に(卵白部分の高さ:4cm)、前記熱風を過熱水蒸気に変更して、加熱凝固卵の水分増加率が1.5%となるように、加熱温度(135℃)、加熱時間(20分間)、水蒸気供給量(ゲージ圧力:0.15MPa)を変更する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(試験体17)。
【0048】
《比較体1:基準(茹で卵)》
殻付生鶏卵(生卵白:pH9.2)を湯(95℃)中で茹でた後(12分間)、冷水(4℃)で冷却してから脱殻装置で卵殻を剥くことにより、茹で卵(1100g)を得た。なお、茹で卵の表面に付着残留する卵殻を除去するように、茹で卵に流水をかけたり、茹で卵を水中に浸漬したりするため、茹で卵は、水に5分間程度接触している。
【0049】
次に、前記茹で卵をダイサでダイス状に截断した後、カントミキサにマヨネーズ(275g(卵スプレッド全体重量に対する割合で20%))を投入すると共に、上記茹で卵を投入して混合(5分間)することにより、卵スプレッドを製造した(比較体1)
【0050】
《比較体2:水分増加率変更(4)》
先に述べた試験体11の製造条件において、加熱凝固卵の水分増加率が−0.2%となるように、加熱温度(180℃)、加熱時間(8分間)、水蒸気供給量(ゲージ圧力:0.25MPa)を変更する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(比較体2)。
【0051】
《比較体3:水分増加率変更(5)》
先に述べた試験体11の製造条件において、加熱凝固卵の水分増加率が−0.5%となるように、水蒸気供給量(ゲージ圧力:0.05MPa)を変更する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(比較体3)。
【0052】
《比較体4:低温加熱》
先に述べた試験体11の製造条件において、加熱凝固卵の水分増加率が1.5%となるように、加熱温度(95℃)、加熱時間(20分間)を変更する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(比較体4)。
【0053】
《比較体5:生卵白pH変更(3)》
上述した試験体11の製造条件において、生卵白のpHが異なる(pH9.5)ホール生卵を使用する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(比較体5)。
【0054】
〈評価方法及び評価結果〉
上述したようにして得られた卵スプレッド(試験体11〜17及び比較体1〜5)の卵白部分のソフト感及び卵風味を5名のパネラで各々官能評価してその平均をそれぞれ求めた。その評価結果を下記の表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
上記表1の記載からわかるように、試験体11〜13(水分増加率1〜2%)においては、卵白部分のソフト感及び卵風味の両者共に比較体1(基準)よりもかなりよい結果が得られた。試験体14(水分増加率3%)においては、卵白部分のソフト感が比較体1(基準)よりもかなりよかったが、少し水っぽい感じとなり、卵風味が、上記試験体11〜13よりは劣るものの、比較体1(基準)よりはよい結果となった。
【0057】
これに対し、比較体2,3(水分増加率−0.2〜−0.5%)は、水分が減少していることから、卵白部分のソフト感が比較体1(基準)に対して同程度以下になってしまうと共に、表面に膜が生成してしまい、卵風味も比較体1(基準)に対して同程度以下になってしまった。
【0058】
さらに、比較体4(加熱温度95℃)は、卵白部分のソフト感が比較体1(基準)よりもかなりよい結果が得られたが、加熱温度が低いことから、卵風味が比較体1(基準)に対して同程度以下しか得られなかった。
【0059】
また、試験体15(生卵白pH8.5)においては、卵白部分のソフト感及び卵風味の両者共に比較体1(基準)よりもかなりよい結果が得られた。試験体16(生卵白pH9.2)においては、卵風味が比較体1(基準)よりもかなりよかったが、pH値が少し高めであることから、卵白部分のソフト感が、上記試験体11〜15よりは劣るものの、比較体1(基準)よりはよい結果となった。
【0060】
これに対し、比較体5(生卵白pH9.5)は、卵風味が比較体1(基準)よりもかなりよかったが、pH値がかなり高めであることから、卵白部分のソフト感が、比較体1(基準)に対して同程度以下しか得られなかった。
【0061】
また、試験体17(卵白高さ4cm)においては、卵白部分のソフト感が比較体1(基準)よりもかなりよかったが、全体にわたって均一に加熱するのに要する時間が長くなるため、硫化水素化合物等のような卵風味を醸し出す揮発成分の加熱中の放散量が多くなることから、卵風味が、上記試験体11〜13,15,16よりは劣るものの、比較体1(基準)よりはよい結果となった。
【0062】
[実施例2]
〈試験体の製造〉
《試験体21:ポリ袋入れ70℃》
上述した実施例1の試験体11の場合において、前記処理庫内から取り出した前記バット内の前記加熱凝固卵に対して上記試験体11の場合よりも迅速に対応することにより、当該加熱凝固卵を上記試験体11の場合よりも高い温度(70℃)で前記ポリ袋に入れるようにする以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(試験体21)。
【0063】
《試験体22:ポリ袋入れ45℃》
上述した実施例1の試験体11の場合において、前記処理庫内から取り出した前記バット内の前記加熱凝固卵に対してしばらく放置してから対応することにより、当該加熱凝固卵を上記試験体11の場合よりも低い温度(45℃)で前記ポリ袋に入れるようにする以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(試験体22)。
【0064】
《試験体23:截断後ポリ袋入れ20℃》
上述した実施例1の試験体11の場合において、前記処理庫内から取り出した前記バット内の前記加熱凝固卵を刃で賽の目状に截断してから、当該加熱凝固卵(20℃)を前記ポリ袋に入れて当該ポリ袋を密封した後、当該ポリ袋の内部を撹拌するように当該ポリ袋を揉んで上記加熱凝固卵と前記マヨネーズとを混合する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(試験体23)。
【0065】
《試験体24:保温截断後ポリ袋入れ50℃》
上述した実施例1の試験体11の場合において、前記処理庫内から取り出した前記バット内の前記加熱凝固卵を保温(50℃)しながら刃で賽の目状に截断してから、当該加熱凝固卵(50℃)を前記ポリ袋に入れて当該ポリ袋を密封した後、当該ポリ袋の内部を撹拌するように当該ポリ袋を揉んで上記加熱凝固卵と前記マヨネーズとを混合する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッドを製造した(試験体24)。
【0066】
〈評価方法及び評価結果〉
上述したようにして得られた卵スプレッド(試験体21〜24)の卵白部分のソフト感及び卵風味を上述した実施例1の場合と同様にしてそれぞれ求めた。その評価結果を下記の表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
上記表2からわかるように、試験体21(ポリ袋入れ70℃)においては、卵白部分のソフト感及び卵風味の両者共に基準(比較例1)よりも非常によく、前記試験体11〜13,15よりもよい結果が得られた。
【0069】
また、試験体22(ポリ袋入れ45℃)においては、卵白部分のソフト感が基準(比較例1)よりもかなりよく、前記試験体11〜15と同程度の結果を得られたが、加熱凝固卵をしばらく放置してから低い温度(45℃)でポリ袋に入れるようにしたことから、硫化水素化合物等のような卵風味を醸し出す揮発成分の大気中への放散量が多くなってしまうと共に、マヨネーズとのなじみ性が低下してしまい、卵風味が、前記試験体11〜13,15,16よりは劣ってしまったものの、比較体1(基準)よりはよい結果を得ることができた。
【0070】
また、試験体23(截断後ポリ袋入れ20℃)においても、卵白部分のソフト感が基準(比較例1)よりもかなりよく、前記試験体11〜15と同程度の結果を得られたが、截断してからポリ袋に入れることにより、加熱凝固卵の温度が低く(20℃)なってしまったことから、硫化水素化合物等のような卵風味を醸し出す揮発成分が大気中へかなり多く放散してしまうと共に、マヨネーズとのなじみ性も低くなってしまい、卵風味が、前記試験体11〜13,15,16よりは劣ってしまったものの、比較体1(基準)よりはよい結果を得ることができた。
【0071】
また、試験体24(保温截断後ポリ袋入れ50℃)においても、卵白部分のソフト感が基準(比較例1)よりもかなりよく、前記試験体11〜15と同程度の結果を得られたが、保温(50℃)しながら截断した後にポリ袋に入れることから、硫化水素化合物等のような卵風味を醸し出す揮発成分が大気中へ非常に多く放散してしまい、卵風味が、前記試験体11〜13,15,16よりは劣ってしまったものの、比較体1(基準)よりはよい結果を得ることができた。
【0072】
[実施例3]
〈試験体の製造〉
《試験体31》
上述した実施例1の試験体11の場合において、殻付生鶏卵を上記試験体11の場合よりも丁寧に割卵して殻を取り除いたホール生卵を使用して加熱凝固卵を得た後(卵黄球残存率:90%)、上記試験体11の場合において、卵スプレッド全体重量に対する割合で10%となるようにマヨネーズ(122g)を混合する以外は、上記試験体11の場合と同一の条件で製造することにより、卵スプレッド(pH7.5)を製造した(試験体31)。
【0073】
〈評価方法及び評価結果〉
上述したようにして得られた卵スプレッド(試験体31)の卵白部分のソフト感及び卵風味を上述した実施例1の場合と同様にしてそれぞれ求めた。その評価結果を下記の表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
上記表3からわかるように、試験体31においては、卵白部分のソフト感及び卵風味の両者共に基準(比較例1)よりも非常によく、前記試験体11〜13,15よりもよい結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る加熱凝固卵の製造方法及びこれを利用する卵スプレッドの製造方法は、従来よりもソフトな食感を得ることができると共に、卵風味をさらに高めることができるので、食品産業等において極めて有益に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH7.6〜9.2の卵白を有するホール生卵を水分増加率0〜3%の範囲となるように100℃を超えた170℃以下の水蒸気含有雰囲気で加熱して凝固させることにより、加熱凝固卵を製造する
ことを特徴とする加熱凝固卵の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で製造された加熱凝固卵と、酸性水中油型乳化状調味料とを混合することにより、卵スプレッドを製造する
ことを特徴とする卵スプレッドの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の卵スプレッドの製造方法において、
55℃以上の温度を有する前記加熱凝固卵と、前記酸性水中油型乳化状調味料とを容器に入れて密封した後に混合する
ことを特徴とする卵スプレッドの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の卵スプレッドの製造方法において、
前記容器が変形可能なものであり、
前記加熱凝固卵と前記酸性水中油型乳化状調味料とを入れられて密封された前記容器に対して当該容器の外部から力を加えることにより上記加熱凝固卵を壊砕してから、当該加熱凝固卵と上記酸性水中油型乳化状調味料とを混合する
ことを特徴とする卵スプレッドの製造方法。