説明

加熱処理装置、及びシート表面処理装置

【課題】筐体内にてシートを移動させつつ、該シートにおける温度の面内均一性を高めることの可能な加熱処理装置、及び該加熱処理装置を備えるシート表面処理装置を提供する。
【解決手段】第1成膜装置13、第2成膜装置14、及び第3成膜装置15は、筐体内を通過するシートSを該筐体内にて加熱する加熱処理装置を備えている。加熱処理装置は、シートSに対向する加熱面を有し、加熱面をシートSに面接触させて加熱面にシートSを追従させる往動と、加熱面をシートSから離して追従の開始位置に加熱面を戻す復動とを筐体内で交互に繰り返すホットプレートH1,H2を備えている。また、加熱処理装置は、ホットプレートH1,H2に設けられ、往動にてシートSを加熱面に吸着し、復動の前に該吸着を解除する吸着部を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筐体内を移動するシートに対して加熱処理を施す加熱機構を備える加熱処理装置、及び該加熱処理装置を備えるシート表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1に記載のように、ロールツーロール方式の薄膜太陽電池の製造装置が広く用いられている。ロールツーロール方式の装置では、シートを繰り出す装置とシートを巻き取る装置との間に各種の処理を行う装置が挟まれ、処理対象物であるシートが各種処理装置の間を連続的に流れる。そのため、処理対象物の搬送に必要なロボット等の装置を削減できるばかりでなく、こうした装置を用いて処理対象物を搬送するために必要な時間を削減することもできる。こうした利点から、ロールツーロール方式の装置は、上記薄膜太陽電池の製造装置に限らず、例えば薄膜二次電池や電子デバイスの製造装置としても採用されている。
【0003】
上記文献に記載のような装置では、各種処理装置の筐体内に搬入されたシートは、ガイドローラによって筐体内を通過するように案内される。そして、処理装置にて行われる処理が、例えば加熱処理を伴う成膜処理である場合には、シートに対する成膜処理が筐体内で実施されるまでに、該成膜処理に応じた温度にまでシートを加熱することが求められる。そのため、ガイドローラに接触式の加熱部を設けることで直接シートを加熱したり、筐体内に非接触式の加熱部を設けることで間接的にシートを加熱したりするようにしている。
【0004】
また、例えば特許文献2に記載のように、上記ガイドローラを用いることなく、平面状に形成された加熱部の表面に沿ってシートを搬送することによって、該シートを加熱する装置も知られている。こうした構成によれば、シートの搬送方向において成膜部と加熱部との距離を一定に保つことが可能であるため、該シートに対して施される成膜処理の均一性をシートの搬送方向にて高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−270133号公報
【特許文献2】特開2010−138424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記ガイドローラの外周面にシートを沿わせる場合には、シートとガイドローラとの接触が、シートの張力によって高められる。これに対し、平面状に形成された加熱部の表面にシートを沿わせる場合には、通常、加熱部の表面と水平な方向に沿った張力がシートに作用することになる。そのため、シートと加熱部との接触が、シートの張力によっては高められにくくなる。それゆえに、平面状の加熱部によれば、成膜部と加熱部との距離のばらつきは抑えられるものの、シートと加熱部との接触の不均一化により温度のばらつきが生じてしまうことになる。
【0007】
一方、ガイドローラによってシートが加熱される場合には、シートの張力がガイドローラに作用するため、確かに、シートとガイドローラとの接触は、シートの全体において均一なものとなる。しかしながら、シートとガイドローラとの接触を均一にする程の張力が加熱されるシートに対して作用するとなれば、シートそのものの変形が免れられないものとなるおそれがある。それゆえに、シートそのものの変形が抑えられる程度の張力でシートを搬送する必要があるため、結局のところ、シートと加熱部との接触が不均一になることにより温度のばらつきが生じてしまうおそれがある。
【0008】
なお、こうした問題は、上記ロールツーロール方式の製造装置に限らず、シートが筐体内を通過するときに、該シートを所定の温度とした状態で処理を行う装置、あるいはシートが筐体内を通過するときに、該シートを所定温度にまで加熱する装置においても概ね共通する。
【0009】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、筐体内にてシートを移動させつつ、該シートにおける温度の面内均一性を高めることの可能な加熱処理装置、及び該加熱処理装置を備えるシート表面処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、筐体内を通過するシートを該筐体内にて加熱する加熱処理装置であって、前記シートに対向する加熱面を有し、前記加熱面を前記シートに面接触させて前記加熱面に前記シートを追従させる往動と、前記加熱面を前記シートから離して前記追従の開始位置に前記加熱面を戻す復動とを前記筐体内で交互に繰り返す移動体と、前記移動体に設けられ、前記往動にて前記シートを前記加熱面に吸着し、前記復動の前に該吸着を解除する吸着部とを備えることを要旨とする。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、加熱面を有する移動体は、該加熱面にシートを吸着させつつ該シートを追従する。そして、こうした移動体に対するシートの吸着が、移動体の復動の前に解除される。これにより、移動体の加熱面にシートが吸着された状態で、該シートが搬送されて、この間に、シートに対する加熱処理が行われる。その結果、シートが筐体内を移動しても、該シートにおける温度の面内均一性が高められることになる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の加熱処理装置において、前記加熱面が、平面であり、前記移動体が、前記加熱面を有したホットプレートであることを要旨とする。
例えば、移動体がガイドローラによって構成されて、このガイドローラの外周面によってシートが搬送される場合には、シートとガイドローラとの接触が、シートの張力によって高められる。一方、例えば、移動体がホットプレートによって構成されて、ホットプレートの表面によってシートが搬送される場合には、通常、水平方向に沿った張力がシートに作用することになる。そのため、シートとホットプレートとの接触が、上述したような張力によっては高められ難くなる。
【0013】
この点、請求項2に記載の発明によれば、平面である加熱面にシートが吸着された状態で、該シートが搬送されることになる。それゆえに、シートの張力がシートと移動体との接触に作用しないような搬送の形態であっても、移動体にシートが吸着されてこれらが面接触するため、シートにおける温度の面内均一性を高めることが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の加熱処理装置において、複数の前記ホットプレートを備え、複数の前記ホットプレートが連なって往動し、複数の前記ホットプレートのうち前記開始位置から遠いホットプレートから順に前記復動することを要旨とする。
【0015】
一つの移動体によってシートが加熱される形態では、移動体が復動するときにシートの加熱が行われなくなる。そして、こうしてシートが加熱されない期間にも、シートが搬送方向に搬送されることになる。その結果、移動体が復動する間に搬送されるシートの搬送量が移動体によって加熱された領域よりも大きくなると、移動体によって加熱されない領域がシートにおいて発生することとなる。
【0016】
この点、請求項3に記載の発明によれば、複数のホットプレートが連なって往動するとともに、開始位置から遠いホットプレートから順に、ホットプレートが復動する。その結果、一つのホットプレートが復動するときには、他のホットプレートによってシートが加熱され続ける。それゆえに、ホットプレートによって加熱されない領域を縮小することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の加熱処理装置において、前記移動体が、前記復動では、前記シートの下面から該シートの下方に移動することによって前記シートから離れることを要旨とする。
【0018】
シートにおける加熱された領域からホットプレートが離れる際、ホットプレートがシートから離れる方向には、シートの下方とシートの幅方向とが挙げられる。これら2つの方向のうち、シートの幅方向へホットプレートが移動する態様では、ホットプレートの幅の2倍以上の幅が、装置そのものに求められる。
【0019】
この点、請求項4に記載の発明によれば、ホットプレートの下降によって該ホットプレートがシートから離れるため、シートの幅方向においては、装置サイズの拡大が抑えられることとなる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の加熱処理装置において、前記移動体が、前記復動にて、前記シートの搬送方向へ移動しつつ該シートの下面から該シートの下方に移動してから前記開始位置に戻ることを要旨とする。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、シートを吸着していた移動体は、該シートの搬送方向へ移動しつつ該シートの下方へ移動する。そのため、シートに対する移動体の離脱が、円滑に行われるようになる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、請求項3〜5のいずれか一項に記載の加熱処理装置において、複数の前記ホットプレートが、互いに独立して前記往動と前記復動とを行う二つの前記ホットプレートであり、前記ホットプレートの復動速度は、該ホットプレートの往動速度よりも大きいことを要旨とする。
【0023】
請求項6に記載の発明によれば、ホットプレートは、復動時に往動時よりも高速で移動する。そのため、往動時及び復動時に同一の速度で移動するよりも、復動にかかる時間を短くすることができる。それゆえに、既にシートに対する追従を始めているホットプレートと、追従の開始位置に到達したホットプレートとが離間することによってシートにおいて加熱されない領域ができることを抑えられる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、前記吸着部は、前記シートを前記加熱面に吸引吸着することを要旨とする。
請求項7に記載の発明によれば、シートが吸引によって加熱面に吸着されることから、シートの形成材料が、例えば金属であれ樹脂であれ、吸着部によるシートの吸着が可能になる。これにより、加熱処理装置によって処理可能なシートの種類における制限が小さくなることから、加熱処理装置の汎用性が高められる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、筐体内を通過するシートの下面を該筐体内にて加熱する加熱処理装置と、前記筐体内に設けられて、前記シートの上面に処理剤を供給する供給部とを備えるシート表面処理装置であって、前記加熱処理装置が、請求項1〜7のいずれか一項に記載の加熱処理装置であることを要旨とする。
【0026】
請求項8に記載の発明によれば、筐体内を通過するシートの温度における面内均一性が高められる。これにより、処理剤を用いた表面処理におけるシート面内でのばらつきが抑えられるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態における成膜装置の全体的な平面構造を示す平面図であって、該成膜装置の内部構造を説明するために、該成膜装置における筐体の天部が省略された図。
【図2】同成膜装置に備えられる移動機構の構成を二つのホットプレートとともに概念的に示す図。
【図3】(a)(b)(c)同成膜装置における二つのホットプレートの移動の態様を示す図。
【図4】変形例の成膜装置におけるホットプレートの移動の態様を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の加熱処理装置、及びシート表面処理装置の一実施形態について図1〜図3を参照して説明する。まず、シート表面処理装置を成膜装置として具体化した一実施形態について図1を参照して説明する。
【0029】
図1に示されるように、成膜装置10には、例えば銅で形成されたシートSを繰り出すシート供給装置11が、シートSの搬送方向Cにおける上流に配置され、また、繰り出されたシートSを巻き取るシート回収装置12が、同搬送方向Cにおける下流に配置されている。また、成膜装置10において、これらシート供給装置11とシート回収装置12との間には、成膜装置10を構成する3つの装置、すなわち第1成膜装置13、第2成膜装置14、及び第3成膜装置15が挟まれている。これら装置11〜15は、各装置間での雰囲気の混合を防ぐエアーカーテン装置Gを介して接続されている。
【0030】
シート供給装置11には、搬送方向Cに直交する方向に延びるとともに、配設位置にて自転する複数のロールから構成されるシート繰り出し機構11aが搭載されている。シート繰り出し機構11aは、シートSの巻き回された供給ロール11bと、供給ロール11bから繰り出されたシートSを搬送する搬送ロール11cとから構成されている。また、シート供給装置11には、第1成膜装置13に向けてシートSを搬出するための搬出口11dが形成されている。そして、シート供給装置11は、シート繰り出し機構11aによって繰り出されたシートSを搬出口11dから第1成膜装置13側に向かって搬出する。なお、シート繰り出し機構11aを構成するロールの数は上述に限らず、シートSの搬出が可能であれば任意に変更可能である。
【0031】
シート回収装置12には、上記シート繰り出し機構11aと同様に、搬送方向Cに直交する方向に延びるとともに、配設位置にて自転する複数のロールから構成されるシート巻き取り機構12aが設けられている。シート巻き取り機構12aは、巻き取られたシートSが巻き回される回収ロール12bと、シート回収装置12に搬入されたシートを回収ロール12bに向けて搬送する搬送ロール12cとから構成されている。また、シート回収装置12には、該シート回収装置12内にシートSを搬入するための搬入口12dが形成されている。そして、シート回収装置12は、搬入口12dから搬入されたシートSを上記シート巻き取り機構12aによって巻き取る。
【0032】
なお、上記シート回収装置12には、シート回収装置12に搬入されたシートに対して封止剤を塗布するとともに、該封止剤の塗布されたシートSに対してアルミニウムシートをラミネートするラミネート機構12eが搭載されている。
【0033】
第1成膜装置13の筐体には、第1成膜装置13内にシートSを搬入する搬入口13aと、第1成膜装置13外にシートSを搬出する搬出口13bとが互いに対向するように形成されている。搬入口13aの近傍には、搬送方向Cに直交する方向に延びるとともに、配設位置にて自転することで、シートSを搬出口13b側に搬送する搬送ローラR1が設けられている。他方、搬出口13bの近傍には、搬送ローラR1と同様に、搬送方向Cに直交する方向に延びるとともに、配設位置にて自転することで、シートSを搬出口13b外に搬送する搬送ローラR2が設けられている。そして、搬送ローラR1,R2の各々が、自転しながらシートSの下面に接することによって、搬送方向CにシートSが搬送される。
【0034】
また、第1成膜装置13の筐体内において、上記搬入口13aと搬出口13bとの間であって、シートSの上方には、処理剤として例えば所定の金属膜を形成するための成膜材料等をシートSの表面に対して供給する供給部としての成膜機構Fが配置されている。成膜機構Fは、成膜材料をシートSの表面に、例えばスパッタやCVD等の公知の方法にて供給する機構である。この成膜機構Fは、上記シートSのうち、搬送方向Cに直交する方向である幅方向の全体にわたり成膜材料を到達させることができるように配置されている。そして、第1成膜装置13の筐体内をシートSが通過するとき、成膜機構Fは、該成膜機構Fの直下に搬送されたシートSの表面における幅方向の全体に膜を形成する。
【0035】
第1成膜装置13の筐体内には、例えば窒素などの不活性ガスが供給されて、外気に対して正圧となる雰囲気が形成されている。第1成膜装置13に接続されたエアーカーテン装置Gは、第1成膜装置13内から不活性ガスを排気することによって、第1成膜装置13の筐体内に外気が侵入することを防ぐ。
【0036】
加えて、第1成膜装置13の筐体内には、搬入口13aと搬出口13bとの間であってシートSの下方に、該シートSの下面に接しつつ、搬送方向Cへの往動と、該搬送方向Cとは逆の方向に復動する移動体としての第1ホットプレートH1が配置されている。また、搬入口13aと搬出口13bとの間であってシートSの下方には、これもまたシートSの下面に接しつつ、搬送方向Cへの往動と、該搬送方向Cとは逆の方向に復動する移動体としての第2ホットプレートH2とが配置されている。これら第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2は、加熱処理装置を構成している。
【0037】
シート表面形成装置としての第2成膜装置14と第3成膜装置15には、上述した第1成膜装置13と同様に、各々の筐体における上流側に、搬入口14a,15aが形成され、また各々の筐体における下流側に、搬出口14b,15bが形成されている。また、第2成膜装置14と第3成膜装置15とには、上述した第1成膜装置13と同様に、各々の筐体内に第1ホットプレートH1と第2ホットプレートH2とが配置されている。なお、これら第2成膜装置14と第3成膜装置15とは、各々のホットプレートH1,H2における処理温度が互いに異なるものの、上記第1成膜装置13と比較して、成膜機構Fから供給される成膜材料が異なるのみであることから、これら装置14,15に関する詳細な説明を割愛する。なお、第2成膜装置14及び第3成膜装置15に配置された第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2の処理温度は、上記第1成膜装置13の第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2と同一の温度であってもよい。
【0038】
こうした成膜装置10では、シートSが、シート供給装置11からシート回収装置12に向かって搬送方向Cに搬送される。この間に、シートSは、上記第1成膜装置13、第2成膜装置14、及び第3成膜装置15を順に経ることによって、所定の金属膜の積層体が、シートSの表面上に形成される。この間、上記第1成膜装置13、第2成膜装置14、及び第3成膜装置15に搬入されたシートSに追従するように、加熱処理装置の有する第1ホットプレートH1と第2ホットプレートH2とが連なって上記搬送方向Cに往動する。
【0039】
次に、各装置13,14,15の筐体内に搭載される加熱処理装置の詳細について図2を参照して説明する。
第1成膜装置13の筐体における底部には、加熱処理装置20を構成する第1直動機構21が搬送方向Cに延びるように敷設されている。第1直動機構21における第1ガイド21aは、搬送方向Cに延びるように形成され、この第1ガイド21aの内部には、搬送方向Cに往復する第1スライダー22aが収容されている。第1スライダー22aは、搬送方向Cの上流から下流に向かう往動方向への移動と、搬送方向Cの下流から上流に向かう復動方向への移動とを繰り返す。この第1スライダー22aには、該第1スライダー22aから鉛直方向の上側に延びる第1昇降機構22が固設され、また、第1昇降機構22の上端には、加熱処理装置20を構成する第1ホットプレートH1が連結されている。
【0040】
第1ホットプレートH1には、シートSの下面と対向する上面である平面状の加熱面が設けられ、また該加熱面に熱量を供給する図示されないヒーターが内蔵されている。第1ホットプレートH1の加熱面は、上記成膜材料から膜を形成するために必要な処理温度、例えば300℃にまで加熱される。そして、第1成膜装置13の筐体内をシートSが通過するとき、第1ホットプレートH1は、その加熱面によってシートSの下面から該シートSを加熱する。また、この際、シートSの搬送方向Cにおいて各ホットプレートH1,H2の加熱面と成膜機構Fとの距離を一定に保つことが可能であるため、成膜材料に対する加熱処理の均一性を搬送方向Cにて高めることができる。
【0041】
第1ホットプレートH1の加熱面には、該加熱面と接するシートSを該加熱面に吸着するための複数の吸引孔VHが形成されている。吸引孔VHの各々は、第1ホットプレートH1の加熱面が形成される金属板を貫通して図示しない吸引ポンプに接続されている。なお、これら吸引孔VH、及び吸引ポンプにより吸着部が構成されている。吸引孔VHの吸引力は、第1ホットプレートH1の幅方向における中央から両端に向かって段階的に強くするようにしてもよい。また、吸引孔VHによる吸引は、同幅方向における中央から両端に向かって順に開始されるようにしてもよい。これにより、シートSが第1ホットプレートH1に接したときに、該シートSにおける幅方向の両端側が、同幅方向の中央よりも加熱面から離れていたとしても、シートSにおける加熱面に対向する領域の全体を加熱面によって吸着させることができるようになる。
【0042】
そして、第1ホットプレートH1は、上記第1スライダー22aの移動により上記往動方向及び復動方向に移動するとともに、上記第1昇降機構22の上昇及び下降により、上昇方向及び下降方向に移動する。また、第1ホットプレートH1が往動方向に移動しているときに、第1昇降機構22は、最も上昇した位置に第1ホットプレートH1を配置する。一方、第1ホットプレートH1が復動方向に移動しているときに、第1昇降機構22は、最も下降した位置に第1ホットプレートH1を配置する。なお、第1ホットプレートH1が往動しているときの移動速度である往動速度は、上記シートSが搬送方向Cに搬送されるときの移動速度である搬送速度に等しく、他方、第1ホットプレートH1が復動しているときの移動速度である復動速度は、シートSの搬送速度、つまりは第1ホットプレートH1の往動速度よりも大きい速度である。
【0043】
また、第1ホットプレートH1が往動方向に移動しているときに、上記吸引孔VHに接続された吸引ポンプが駆動されることで、シートSの下面が、第1ホットプレートH1の加熱面に吸着される。このとき、シートSの下面が、吸引孔VHによって第1ホットプレートH1の加熱面に吸着されていることから、シートSに対する加熱の均一性が高められ、ひいては、シートSの面内における温度の均一性も高められるようになる。第1ホットプレートH1によるシートSの吸着は、第1ホットプレートH1の往動から復動への切り替え時に、吸引ポンプの駆動が停止されることで終了する。そして、第1ホットプレートH1の復動から往動への切り替え時に、吸引ポンプの駆動が再び開始されることによって、シートSの吸引が再び行われる。なお、第1ホットプレートH1によるシートSの吸着、及び該第1ホットプレートH1によるシートSの吸着の停止は、吸引孔VHと吸引ポンプとの間に設けられた仕切弁を開閉することによって切り替えるようにしてもよい。
【0044】
第1成膜装置13の筐体における底部には、これもまた加熱処理装置20を構成する第2直動機構23が、上記第1直動機構21と同じく、搬送方向Cに延びるように敷設されている。第2直動機構23における第2ガイド23aは、第1ガイド21aに並設されて搬送方向Cに延びるように形成され、この第2ガイド23aの内部には、搬送方向Cに往復する第2スライダー24aが収容されている。第2スライダー24aは、第1スライダー22aと同様に、往動方向への移動と復動方向への移動とを繰り返す。この第2スライダー24aには、該第2スライダー24aから鉛直方向の上側に延びる第2昇降機構24が固設され、また、第2昇降機構24の上端には、加熱処理装置20を構成する第2ホットプレートH2が連結されている。
【0045】
第2ホットプレートH2には、第1ホットプレートH1と同様に、シートSの下面と対向する上面である平面状の加熱面が設けられ、また該加熱面に熱量を供給する図示されないヒーターが内蔵されている。第2ホットプレートH2の加熱面は、これもまた上記成膜材料から膜を形成するために必要な処理温度にまで加熱される。そして、第1成膜装置13の筐体内をシートSが通過するとき、第2ホットプレートH2は、その加熱面によってシートSの下面から該シートSを加熱する。また、第2ホットプレートH2の加熱面には、加熱面と接するシートSを該加熱面に吸着するための複数の吸引孔VHが形成されている。吸引孔VHの各々は、第2ホットプレートH2の加熱面が形成される金属板を貫通して図示しない吸引ポンプに接続されている。
【0046】
なお、第2直動機構23、第2昇降機構24、及び第2ホットプレートH2の動作は、第1直動機構21、第1昇降機構22、及び第1ホットプレートH1に順に対応することから、その詳細についての説明を割愛する。
【0047】
次に、上記加熱処理装置20の作用について図3を参照して説明する。なお、図3(a)〜図3(c)は、先の図1のA−A線に沿った第1成膜装置13の断面構造を示している。また、第1成膜装置13と上記エアーカーテン装置Gとにおける不活性ガスの流れを破線矢印で示している。そして、上記第1成膜装置13、第2成膜装置14、及び第3成膜装置15のそれぞれにおける加熱処理装置20の動作は共通するものであることから、以下では第1成膜装置13に設けられた加熱処理装置20の動作についてのみ説明する。
【0048】
図3(a)では、第2ホットプレートH2が、シートSの下面を吸着して該シートSへの追従を開始する追従開始位置にある状態を示している。なお、追従開始位置とは、例えば、上記搬送ローラR1の近傍における第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2が配置される位置のことである。
【0049】
図3(a)に示されるように、搬入口13a側のエアーカーテン装置Gを介して第1成膜装置13の備える筐体31にシートSが搬入されると、該シートSは、筐体31内の搬送ローラR1,R2によって、搬出口13b側のエアーカーテン装置Gに順次搬送される。
【0050】
このとき、搬送ローラR1に近いホットプレート、例えば第2ホットプレートH2が、搬送ローラR1近傍の追従開始位置にて、シートSの下面の吸引と、シートSへの追従を開始する。これに対し、第1ホットプレートH1は、搬送ローラR2の近傍である追従終了位置にてシートSへの追従を一端終了して、上記追従開始位置に向かう復動を行っている。なお、第1ホットプレートH1の復動は、筐体31の下面に敷設された第1直動機構21が第1昇降機構22を復動方向D2に移動することで行われる。
【0051】
図3(b)に示されるように、第2ホットプレートH2が、上記追従開始位置から第2ホットプレートH2における搬送方向Cと平行な方向の長さ分だけ移動すると、第1昇降機構22が上昇方向D3に移動することによって、第1ホットプレートH1が、追従開始位置の下方から該追従開始位置に移動する。
【0052】
このとき、第1ホットプレートH1と第2ホットプレートH2とは、上記搬送方向Cに互いに隣接する。このように第1ホットプレートH1と第2ホットプレートH2とが連なるときの連なるときの距離は、これらホットプレートH1,H2の温度によって、これらホットプレートH1,H2の周囲の温度が該ホットプレートH1,H2と等しい温度となる距離とされる。
【0053】
こうして第1ホットプレートH1が追従開始位置に到達すると、該第1ホットプレートH1に接続された上記吸引ポンプが駆動されることで、シートSの下面が第1ホットプレートH1の加熱面に吸着される。
【0054】
第1ホットプレートH1と第2ホットプレートH2とが連なった状態になると、これらホットプレートH1,H2は、連なった状態を維持したまま、往動方向D1への移動である往動を行う。そして、シートSが成膜機構Fの直下に到達するときに該シートSの温度が上記成膜温度となるように、第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2は、シートSを吸着しつつ加熱する。
【0055】
そして、図3(c)に示されるように、第2ホットプレートH2が搬送ローラR2の近傍である追従終了位置に到達すると、上記吸引ポンプの駆動が停止されることで、第2ホットプレートH2の加熱面からシートSが脱離する。その後、第2ホットプレートH2の連結された第2昇降機構24が下降方向D4への移動を開始することによって、第2ホットプレートH2の復動が開始される。
【0056】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)上記第1ホットプレートH1と第2ホットプレートH2とは、加熱面にシートSの下面を吸着しつつ該シートSを追従する。そして、これらホットプレートH1,H2によるシートSの吸着は、第1ホットプレートH1と第2ホットプレートH2とが復動を開始する前に解除される。これにより、第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2の加熱面にシートSが吸着された状態で、該シートSが搬送される間に、シートSに対する加熱処理が行われる。その結果、シートSが筐体31内を移動しても、該シートSにおける温度の面内均一性が高められることになる。
【0057】
(2)平面である加熱面にシートSが吸着された状態で、該シートSが搬送される。それゆえに、シートSの張力がシートSと各ホットプレートH1,H2との接触に作用しないような搬送の形態であっても、各ホットプレートH1,H2にシートSが吸着されることで、シートSの下面と各ホットプレートH1,H2の加熱面であるこれらの表面とが面接触する。そのため、シートSにおける温度の面内均一性を高めることが可能となる。
【0058】
(3)二枚のホットプレートH1,H2が連なって往動するとともに、上記追従開始位置から遠いホットプレートH1,H2から順に、該ホットプレートH1,H2が復動するようにした。そのため、一方のホットプレートH1,H2が復動するときには、他のホットプレートH1,H2によってシートSが加熱され続けることになる。それゆえに、シートSのうち、ホットプレートH1,H2によって加熱されない領域を縮小することができる。
【0059】
(4)第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2が下降することによって、該ホットプレートH1,H2がシートSから離れる。シートSの幅方向への装置サイズの増大は、高さ方向への装置サイズの増大と比較して、装置の設置面積を大幅に増大させる。この点、上述した構成によれば、シートSの幅方向においては、上記成膜装置10のサイズの拡大が抑えられることとなる。
【0060】
(5)第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2は、復動時に往動時よりも高速で移動する。そのため、往動時及び復動時に同一の速度で移動するよりも、復動にかかる時間を短くすることができる。それゆえに、既にシートSに対する追従を始めているホットプレートH1,H2と、追従の開始位置に到達したホットプレートH1,H2とが離間することによってシートSにおいて加熱されない領域ができることを抑えられる。
【0061】
(6)上記第1成膜装置13、第2成膜装置14、及び第3成膜装置15では、筐体内を通過するシートSの温度における面内均一性が高められる。これにより、各種処理剤を用いた表面処理にて、シートSの面内におけるばらつきが抑えられるようになる。
【0062】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・シートSの形成材料は上記銅に限らず、例えば他の金属材料や樹脂材料によって形成されたシートであってもよい。上記実施形態にて説明した加熱処理装置20によれば、シートSが吸引によって第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2に吸着されることから、シートSの形成材料が、上記金属であれ樹脂であれ、シートSの吸着が可能になる。つまり、上記吸引による吸着によれば、加熱処理装置20によって処理可能なシートSの種類における制限が小さくなることから、加熱処理装置20の汎用性が高められることになる。
【0063】
・第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2によるシートSの吸着は、これらに接続された吸引ポンプによって行うようにした。これに限らず、シートSが磁性元素を含む材料によって形成されている場合には、第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2の表面に電磁石を配設し、これによってシートSの下面を吸着するようにしてもよい。これによれば、電磁石の切り替えを行うことによって、シートSの吸着と脱離とを行うことができる。
【0064】
・第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2は、搬送方向Cへの移動を停止すると同時に、シートSの下方への移動を開始するようにした。これに限らず、図4に示されるように、シートSを吸着していた第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2とは、該シートSの搬送方向C、言い換えれば往動方向D1へ移動しつつ、該シートSの下方へ移動、言い換えれば下降方向D4に移動するようにしてもよい。これにより、シートSに対する第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2の離脱が、円滑に行われるようになる。
【0065】
また、第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートは、搬送方向Cとは逆の方向への移動を停止すると同時に、上記追従開始位置までの上昇を開始するようにした。これに限らず、図4に示されるように、搬送方向C、言い換えれば往動方向D1へ移動しつつ、該シートを吸着可能な高さにまで上昇方向D3への移動を行うようにしてもよい。なお、図4においては、図示の便宜上、第2ホットプレートH2を割愛している。
【0066】
・シートSの下面側に第1ホットプレートH1及び第2ホットプレートH2を配設するようにしたが、該シートSの上面側にこれらホットプレートを配置するとともに、該ホットプレートの加熱面にシートSの上面を吸着する構成としてもよい。
【0067】
・加熱処理装置20が二枚のホットプレートH1,H2を有するようにした。これに限らず、加熱処理装置が、一枚のホットプレート、あるいは、三以上のホットプレートを有するようにしてもよい。
【0068】
・移動体は、外周面に加熱面を有したローラであってもよく、吸着部は、該ローラの外周面に形成された吸引孔であってもよい。要は、移動体が行う移動は、回転であってもよく、移動体は、その加熱面をシートに面接触させて加熱面にシートを追従させる往動と、加熱面をシートから離して追従の開始位置に加熱面を戻す復動とを筐体内で交互に繰り返すものであればよい。そして、吸着部は、移動体に設けられ、往動にてシートを加熱面に吸着し、復動の前に該吸着を解除するものであればよい。
【0069】
・シール表面処理装置を各種金属膜の成膜装置として具現化するようにした。これに限らず、処理剤として例えば酸素や窒素等のガスを用いた酸化処理や窒化処理、あるいは、化合物膜や高分子膜の成膜処理等の表面処理を行う装置として具現化するようにしてもよい。
【0070】
・シート表面処理装置をロールツーロール方式の装置として具現化したが、ステッピングロール方式の装置として具現化するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…成膜装置、11…シート供給装置、11a…シート繰り出し機構、11d,13b,14b,15b…搬出口、12…シート回収装置、12a…シート巻き取り機構、12d,13a,14a,15a…搬入口、13…第1成膜装置、14…第2成膜装置、15…第3成膜装置、20…加熱処理装置、21…第1直動機構、21a…第1ガイド、22…第1昇降機構、22a…第1スライダー、23…第2直動機構、23a…第2ガイド、24…第2昇降機構、31…筐体、C…搬送方向、D1…往動方向、D2…復動方向、D3…上昇方向、D4…下降方向、F…成膜機構、G…エアーカーテン装置、H1…第1ホットプレート、H2…第2ホットプレート、R1,R2…搬送ローラ、S…シート、VH…吸引孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内を通過するシートを該筐体内にて加熱する加熱処理装置であって、
前記シートに対向する加熱面を有し、前記加熱面を前記シートに面接触させて前記加熱面に前記シートを追従させる往動と、前記加熱面を前記シートから離して前記追従の開始位置に前記加熱面を戻す復動とを前記筐体内で交互に繰り返す移動体と、
前記移動体に設けられ、前記往動にて前記シートを前記加熱面に吸着し、前記復動の前に該吸着を解除する吸着部とを備える
ことを特徴とする加熱処理装置。
【請求項2】
前記加熱面が、平面であり、
前記移動体が、前記加熱面を有したホットプレートである
請求項1に記載の加熱処理装置。
【請求項3】
複数の前記ホットプレートを備え、
複数の前記ホットプレートが連なって往動し、
複数の前記ホットプレートのうち前記開始位置から遠いホットプレートから順に前記復動する
請求項2に記載の加熱処理装置。
【請求項4】
前記移動体は、前記復動では、前記シートの下面から該シートの下方に移動することによって前記シートから離れる
請求項2又は3に記載の加熱処理装置。
【請求項5】
前記移動体は、前記復動にて、前記シートの搬送方向へ移動しつつ該シートの下面から該シートの下方に移動してから前記開始位置に戻る
請求項4に記載の加熱処理装置。
【請求項6】
複数の前記ホットプレートは、互いに独立して前記往動と前記復動とを行う二つの前記ホットプレートであり、
前記ホットプレートの復動速度は、該ホットプレートの往動速度よりも大きい
請求項3〜5のいずれか一項に記載の加熱処理装置。
【請求項7】
前記吸着部は、前記シートを前記加熱面に吸引吸着する
請求項1〜6のいずれか一項に記載の加熱処理装置。
【請求項8】
筐体内を通過するシートの下面を該筐体内にて加熱する加熱処理装置と、
前記筐体内に設けられて、前記シートの上面に処理剤を供給する供給部と
を備えるシート表面処理装置であって、
前記加熱処理装置が、請求項1〜7のいずれか一項に記載の加熱処理装置である
ことを特徴とするシート表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−2694(P2013−2694A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132981(P2011−132981)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】