説明

加熱効率に優れた塗装鋼板

【課題】マイクロ波反射特性、耐吸水性、熱反射特性、黒色性および端面部耐食性のすべてに優れる塗装鋼板を提供すること。
【解決手段】Alめっきステンレス鋼板を塗装原板とし、その上に耐熱性樹脂および黒色系近赤外線反射顔料を含むトップ塗膜を形成する。耐熱性樹脂は、その分子鎖の両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂の脱水縮合物である。黒色系近赤外線反射顔料は、400〜750nmの波長域における平均反射率が10%以下であり、かつ750〜2500nmの波長域における平均反射率が20%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波反射特性、耐吸水性、熱反射特性、黒色性および端面部耐食性のすべてに優れる塗装鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スチーム機能を有する電子レンジや、スチーム機能を有するオーブン(スチームオーブン)、スチーム機能を有するオーブンレンジ(スチームオーブンレンジ)などの、1台で複数の加熱手段を利用しうる加熱調理器が多数販売されている。これらの加熱調理器の加熱手段としては、1)マイクロ波加熱、2)オーブン加熱、3)過熱水蒸気加熱の3つが挙げられる。
【0003】
地球温暖化防止が叫ばれる近年においては、このような加熱調理器においても、被加熱物に対する加熱効率を高め、省エネルギー特性を高めることが、商品販売の重要なセールスポイントとなっている。したがって、1台で複数の加熱手段を利用しうる加熱調理器の加熱効率を向上させるためには、上記3つの加熱手段のすべてに対して優れた特性を有する庫内材を使用することが求められる。
【0004】
たとえば、マイクロ波加熱の加熱効率を向上させる手段としては、マイクロ波の反射特性が高い庫内材を使用することが考えられる(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、Al−Znめっき鋼板を庫内材として使用することで、マイクロ波加熱の加熱効率を向上させうることが記載されている。
【0005】
また、オーブン加熱の加熱効率を向上させる手段としては、熱(近赤外線)の反射特性が高い庫内材を使用することが考えられる(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、鱗片状アルミニウム粉末を分散させたトップ塗膜を形成した塗装鋼板を庫内材として使用することで、オーブン加熱の加熱効率を向上させうることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−59617号公報
【特許文献2】特開平10−208862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロ波加熱、オーブン加熱および過熱水蒸気加熱の3つの加熱手段を有する加熱調理器(例えば、スチームオーブンレンジ)の庫内材には、1)マイクロ波反射特性、2)耐吸水性、3)熱反射特性、4)黒色性および5)端面部耐食性が求められる。
【0008】
1)マイクロ波反射特性、2)耐吸水性
庫内材のマイクロ波反射特性を向上させることで、マイクロ波加熱の加熱効率を向上させることができる。このとき、庫内材が水分を含んでいると、庫内材のマイクロ波反射特性が顕著に低下してしまう。たとえば、過熱水蒸気加熱を行った直後にマイクロ波加熱を行った場合、庫内材が水分を含んでいると、マイクロ波加熱の加熱効率が顕著に低下してしまう。したがって、庫内材には、耐吸水性も求められる。
【0009】
3)熱反射特性、4)黒色性
庫内材の熱反射特性を向上させることで、オーブン加熱の加熱効率を向上させることができる。一方で、庫内材には加熱調理中に飛散した成分による汚れが付着しやすいことから、庫内材の色調は、汚れを目立ちにくくするために黒色(濃色)系であることが好ましい。
【0010】
熱反射特性の向上と黒色系の色調の付与との両立は困難である。すなわち、従来は、鱗片状金属粉末を分散させたトップ塗膜を形成することで、庫内材の熱反射特性を向上させていた(特許文献2参照)。これらの鱗片状金属粉末は、金属光沢を有するため、トップ塗膜に配合するほど淡色系の色調となってしまい、汚れが目立ちやすくなる。一方で、黒色顔料をトップ塗膜に配合することで、庫内材の黒色性を高めることができる。しかし、黒色顔料は、熱(近赤外線)を吸収してしまうため、トップ塗膜に配合するほど熱反射特性が低下してしまうのである。
【0011】
5)端面部耐食性
過熱水蒸気加熱の加熱効率を向上させるためには、加熱庫の気密性を高めることが重要である。加熱庫の気密性を高めると、庫内は高温高湿の過酷な腐食環境となるため、庫内材には高い耐食性が要求される。めっき鋼板や塗装鋼板を用いることで、鋼板の表面および裏面の耐食性はある程度確保できる。したがって、切断端面における耐食性が特に問題となる。
【0012】
以上のように、マイクロ波加熱、オーブン加熱および過熱水蒸気加熱の3つの加熱手段のすべてを有する加熱調理器の庫内材としては、1)マイクロ波反射特性、2)耐吸水性、3)熱反射特性、4)黒色性および5)端面部耐食性のすべてに優れる塗装鋼板が望まれているが、これまでにそのような塗装鋼板は開発されていない。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、マイクロ波反射特性、耐吸水性、熱反射特性、黒色性および端面部耐食性のすべてに優れる塗装鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、Alめっきステンレス鋼板を塗装原板とし、かつポリエーテルスルホン樹脂などの脱水縮合物をベースとするトップ塗膜に黒色系近赤外線反射顔料を配合することで上記課題を解決しうることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の塗装鋼板に関する。
[1]ステンレス鋼板の表面にAlめっき層を形成したAlめっきステンレス鋼板と、前記Alめっき層の上に形成された、耐熱性樹脂および黒色系近赤外線反射顔料を含むトップ塗膜とを有し;前記耐熱性樹脂は、その分子鎖の両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂の脱水縮合物であり;下記の方法によって算出される、前記耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比は、1.08〜2.86の範囲内であり、;前記黒色系近赤外線反射顔料は、400〜750nmの波長域における平均反射率が10%以下であり、かつ750〜2500nmの波長域における平均反射率が20%以上であり;前記トップ塗膜中における前記黒色系近赤外線反射顔料の含有量は、前記耐熱性樹脂100質量部に対して5〜35質量部の範囲内である、塗装鋼板。
[耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比の測定方法]
トップ塗膜を構成する耐熱性樹脂の赤外吸収スペクトルを赤外分光法で測定し;得られた赤外吸収スペクトルにおける、3300±100cm−1のヒドロキシ基のピーク高さの値、および1600±25cm−1のベンゼン環のピーク高さの値から、「ヒドロキシ基のピーク高さ/ベンゼン環のピーク高さ」として算出される値を耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比とする。ここで、前記ヒドロキシ基のピーク高さおよび前記ベンゼン環のピーク高さは、ベースラインからの各ピークの波数範囲における最上部までの高さである。
[2]前記ステンレス鋼板は、Cr:10.5〜30質量%、C:0〜0.12質量%、Si:0〜1質量%、Mn:0〜1質量%、N:0〜0.03質量%を含み、残部:Feおよび不可避的不純物からなる、[1]に記載の塗装鋼板。
[3]前記ステンレス鋼板は、Cr:10.5〜30質量%、C:0〜0.12質量%、Si:0〜1質量%、Mn:0〜1質量%、N:0〜0.03質量%を含み、さらにTi:0〜0.5質量%、Nb:0〜0.8質量%の1種または2種を含み、残部:Feおよび不可避的不純物からなる、[1]に記載の塗装鋼板。
[4]前記Alめっき層は、溶融Al−Siめっき層である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の塗装鋼板。
[5]マイクロ波加熱を行う加熱調理器具の庫内材用のプレコート鋼板である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の塗装鋼板。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マイクロ波反射特性、耐吸水性、熱反射特性、黒色性および端面部耐食性のすべてに優れる塗装鋼板を提供することができる。本発明の塗装鋼板は、例えば加熱調理器具用のプレコート鋼板として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の塗装鋼板の一実施の形態を示す断面模式図
【図2】実施例1の塗装鋼板のトップ塗膜を構成する耐熱性樹脂の赤外線吸収スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の塗装鋼板は、Alめっきステンレス鋼板(塗装原板)と、前記Alめっきステンレス鋼板の表面に形成されたトップ塗膜とを有する。後述するように、Alめっきステンレス鋼板とトップ塗膜との間には、化成処理皮膜やプライマー塗膜などが形成されていてもよい。
【0019】
図1は、本発明の塗装鋼板の一実施の形態を示す断面模式図である。図1に示されるように、本発明の塗装鋼板100は、Alめっきステンレス鋼板(Alめっき層120が形成されたステンレス鋼板110)と、トップ塗膜130とを有する。トップ塗膜130は、耐熱性樹脂132をベースとし、黒色系近赤外線反射顔料134を含有する。
【0020】
以下、本発明の塗装鋼板の各構成要素について説明する。
【0021】
[塗装原板]
塗装原板としては、ステンレス鋼板の表面にAlめっき層が形成されたAlめっきステンレス鋼板が使用される。
【0022】
ステンレス鋼板を基材とすることで、耐食性、特に切断端面部耐食性に優れる塗装鋼板とすることができる。また、ステンレス鋼板の表面にAlめっき層を形成することで、塗装鋼板のマイクロ波反射特性を高めることができる。Alめっきステンレス鋼板は、高温耐食性、加工部耐食性および切断端面部耐食性に加えて、マイクロ波反射特性も優れているため、スチーム機能を有する電子レンジまたはオーブンレンジの庫内材として使用されうる本発明の塗装鋼板の塗装原板として好ましい。
【0023】
ステンレス鋼板は、耐食性、特に切断端面部耐食性の向上に寄与する。ステンレス鋼の種類は、十分な耐食性を有するものであれば特に限定されないが、例えば10〜30質量%のCrを含有するステンレス鋼が好ましい。好適なステンレス鋼の例としては、Cr:10.5〜30質量%、C:0.12質量%以下、Si:1質量%以下、Mn:1質量%以下、N:0.03質量%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものである。また、より耐食性が求められる場合は、鋼材にTi:0.5質量%以下、Nb:0.8質量%以下の1種または2種を含有させることが好ましい。さらに、必要に応じて、Ni:0.6質量%以下、Cu:1質量%以下、V:0.08質量%以下、B:0.01質量%以下の1種以上を含有させてもよい。
【0024】
Alめっき層は、マイクロ波反射特性の向上に寄与する。マイクロ波加熱を行う場合、庫内材を構成する金属板の表面で誘電加熱が発生すると、マイクロ波のエネルギーが失われる。この誘電加熱によるマイクロ波の損失は、金属板の表面を構成する材料の導電率が大きいほど小さくなる。そのため、マイクロ波反射特性を向上させるには、ステンレス鋼板の表面をAuやAg、Cu、Alなどの導電率の大きい金属で被覆すればよい。ステンレス鋼板の表面をAl以外のAuやAg、Cuなどで被覆してもよいが、費用対効果の観点からは、Alで被覆することが好ましい。
【0025】
Alめっき層は、Alのみからなるめっき層であってもよいが、必要に応じてSiやZn、Mg、Ti、Ni、Cuなどを含んでいてもよい。たとえば、Alめっき層は、Al−Siめっき層(好ましくはAl−9質量%Siめっき層)である。Alめっき層の付着量は、特に限定されないが、片面あたり10〜60g/mの範囲内が好ましく、20〜50g/mの範囲内がより好ましい。
【0026】
Alめっきステンレス鋼板を作製するには、例えば、上記ステンレス鋼板の表面にFeやFe−B、Ni,Fe−Niなどのプレめっき層を形成した後に、このプレめっき層の上に溶融Al−Siめっき層を形成すればよい(特開平5−195182号公報参照)。プレめっき層は、溶融Alめっき層に対するステンレス鋼板表面の濡れ性を向上させる。プレめっき層の付着量は、片面あたり0.05〜5g/mの範囲内が好ましい。
【0027】
[化成処理皮膜]
Alめっきステンレス鋼板(塗装原板)は、塗膜密着性および耐食性を向上させる観点から、めっき層の表面に化成処理皮膜を形成されていてもよい。
【0028】
化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理などが含まれる。化成処理皮膜の付着量は、塗膜密着性の向上および腐食の抑制に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/mとなるように付着量を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/mの範囲内となるように付着量を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、5〜500mg/mとなるように付着量を調整すればよい。
【0029】
化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法でAlめっきステンレス鋼板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は、到達板温で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は、2〜10秒の範囲内が好ましい。
【0030】
[プライマー塗膜]
Alめっきステンレス鋼板(塗装原板)は、塗膜密着性および耐食性を向上させる観点から、めっき層または化成処理皮膜の表面にプライマー塗膜を形成されていてもよい。
【0031】
プライマー塗膜の構成は、特に限定されない。通常、プライマー塗膜は、耐熱性樹脂をベースとして防錆顔料を含有する。耐熱性樹脂の種類および防錆顔料の種類は、特に限定されない。耐吸水性を向上させる観点からは、耐熱性樹脂としては、後述するトップ塗膜と同じ耐熱性樹脂(分子鎖の両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂の脱水縮合物)が好ましい。防錆顔料の例には、リン酸マグネシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウムなどが含まれる。
【0032】
プライマー塗膜は、透明でもよいが、任意の着色顔料を加えて着色されていてもよい。着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄などが含まれる。着色顔料としては、後述するトップ塗膜と同様に黒色系近赤外線反射顔料を加えてもよい。また、プライマー塗膜には、鱗片状無機質添加材や無機質繊維などを加えて塗膜硬度および耐摩耗性を向上させてもよい。鱗片状無機質添加材の例には、ガラスフレーク、硫酸バリウムフレーク、グラファイトフレーク、合成マイカフレーク、合成アルミナフレーク、シリカフレークなどが含まれる。また、無機質繊維の例には、チタン酸カリウム繊維、ウォラスナイト繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、シリカ繊維、ロックウール、スラグウール、ガラス繊維、炭素繊維などが含まれる。
【0033】
プライマー塗膜の膜厚は、特に限定されないが、0.5〜30μmの範囲内が好ましい。膜厚が0.5μm未満の場合、塗膜密着性および耐食性を十分に向上させることができないおそれがある。また、プライマー塗膜が着色塗膜の場合は、Alめっきステンレス鋼板を隠蔽するために3μm以上の膜厚が好ましい。一方、膜厚が30μm超の場合、塗膜表面が柚子肌状になって外観が劣化するとともに、焼き付ける際にワキが発生しやすくなる。
【0034】
プライマー塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、耐熱性樹脂や防錆顔料などを含むプライマー塗料をAlめっきステンレス鋼板の表面に塗布し、焼き付ければよい。プライマー塗料の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法などが含まれる。また、焼き付け温度は、到達板温で300℃〜400℃の範囲内が好ましく、焼き付け時間は、30〜180秒の範囲内が好ましい。
【0035】
[トップ塗膜]
トップ塗膜は、Alめっきステンレス鋼板(塗装原板)の表面に形成されている。Alめっきステンレス鋼板の表面に化成処理皮膜またはプライマー塗膜が形成されている場合は、これらの上にトップ塗膜が形成される。トップ塗膜は、耐熱性樹脂をベースとして黒色系近赤外線顔料を含有する。
【0036】
ベースとなる耐熱性樹脂は、分子鎖の両末端にヒドロキシ基を有する、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルフィド樹脂もしくはポリアミドイミド樹脂またはこれらの組み合わせの脱水縮合物である。耐熱性樹脂としてこれらの脱水縮合物を使用することで、トップ塗膜の耐吸水性を向上させることができる。
【0037】
分子鎖の両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂は、例えば式(1)で示される。分子鎖の両末端にヒドロキシ基を有するポリフェニルスルフィド樹脂は、例えば式(2)で示される。分子鎖の両末端にヒドロキシ基を有するポリアミドイミド樹脂は、例えば式(3)で示される。式(1)〜(3)におけるl〜nを調整して、後述の樹脂分子量に調整すればよい。
【化1】

【0038】
焼き付ける前の樹脂の分子量(ポリスチレン換算数平均分子量)は、特に限定されないが、5000〜50000の範囲内が好ましく、15000〜30000の範囲内がより好ましい。分子量が小さすぎる場合、脱水縮合による分子間の架橋密度が大きくなりすぎ、トップ塗膜の加工性が低下してしまう。また、分子量が大きすぎる場合、溶剤に対する溶解度が低下してトップ塗料を形成するのが困難となり、かつ軟化点が高くなってトップ塗料の焼き付け温度が上昇してしまう。焼き付ける前の樹脂のポリスチレン換算数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0039】
分子鎖の両末端にヒドロキシ基を有する樹脂を含むトップ塗料を焼き付けると、これらの樹脂は脱水縮合により高分子量化する。十分に反応させた脱水縮合物は、親水性のヒドロキシ基をほとんど有さず、かつ緻密なため、耐吸水性に優れている。仮に、分子鎖の両末端に塩素基を有する樹脂を使用した場合は、トップ塗料を焼き付けても脱水縮合は生じない。したがって、親水性の塩素基が残存し、かつ分子間は架橋されないため、耐吸水性に劣る塗膜となってしまう。トップ塗膜が水分を含んでしまうと、その水分がマイクロ波を吸収してしまうため、塗装鋼板のマイクロ波反射特性を顕著に低下させてしまう。
【0040】
耐熱性樹脂は、十分に架橋反応が進行した脱水縮合物であることが好ましい。脱水縮合が不十分な場合、トップ塗膜中に親水性のヒドロキシ基が残存してしまい、耐吸水性が低下するおそれがあるからである。耐吸水性に劣るトップ塗膜は、マイクロ波加熱を行う前または行っている間に水分を含みやすい。上述の通り、トップ塗膜が水分を含んでしまうと、その水分がマイクロ波を吸収してしまうため、塗装鋼板のマイクロ波反射特性を顕著に低下させてしまう。
【0041】
具体的には、トップ塗膜を構成する耐熱性樹脂は、以下の測定方法で求められる「耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比」が1.08〜2.86の範囲内であることが好ましい。ヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比が2.86超の場合は、親水性のヒドロキシ基が多数残存するため、塗膜の耐吸水性が低下するおそれがある。一方、ヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比が1.08未満となるような条件でトップ塗料を焼き付けると、焼き付けている間に樹脂が劣化してしまい、トップ塗膜の凝集力が低下してしまうおそれがある。耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比を1.08〜2.86の範囲内とするには、トップ塗料の焼き付け条件を調製すればよい。具体的には、トップ塗料を350℃〜450℃程度で60〜300秒間程度焼き付ければよい。
[耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比の測定方法]
1)まず、トップ塗膜を構成する耐熱性樹脂の赤外吸収スペクトルを赤外分光法で測定する。
2)次いで、得られた赤外吸収スペクトルにおける、3300±100cm−1のヒドロキシ基のピーク高さの値、および1600±25cm−1のベンゼン環のピーク高さの値から、「ヒドロキシ基のピーク高さ/ベンゼン環のピーク高さ」として算出される値を耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比とする。ここで、ヒドロキシ基およびベンゼン環のピーク高さは、ベースラインからの各ピークの波数範囲における最上部までの高さとして求めたものである。各ピークのピーク高さを求める際のベースラインは、各ピークの両側の最下部を結ぶ線とすることが好ましい。隣接するピークが一部重複している場合であっても、隣接するピークの影響を排除できるからである。
【0042】
トップ塗膜は、着色顔料として黒色(濃色)系近赤外線反射顔料を含有する。たとえば、本発明の塗装鋼板をオーブンレンジの庫内材に適用する場合、オーブンレンジの庫内材としては、意匠性の観点から黒色(濃色)系の色調が好まれる。しかし、オーブンレンジの庫内材に黒色系の色調のトップ塗膜が形成されている場合、オーブン加熱の際に放射される近赤外線がトップ塗膜に吸収されてしまうため、加熱効率が低下してしまう。したがって、本発明の塗装鋼板では、トップ塗膜に黒色系の色調を付与しつつオーブン加熱の加熱効率を向上させるために、400〜750nmの波長域(可視光)における平均反射率が10%以下であり、かつ750〜2500nmの波長域(近赤外線)における平均反射率が20%以上の黒色系熱反射顔料をトップ塗膜に配合する。各波長域における平均反射率は、分光光度計を用いて測定することができる。
【0043】
黒色系近赤外線反射顔料の種類は、400〜750nmの波長域(可視光)における平均反射率が10%以下であり、かつ750〜2500nmの波長域(近赤外線)における平均反射率が20%以上のものであれば特に限定されない。黒色系近赤外線反射顔料の例には、Fe、Cr、CoO、CuOまたはこれらの組み合わせを含有する焼成顔料が含まれる。黒色系近赤外線反射顔料の市販品としては、42−703A、42−706A(いずれも東罐マテリアル・テクノロジー株式会社)や、AG235ブラック(川村化学株式会社)などが挙げられる。
【0044】
黒色系近赤外線反射顔料の含有量は、上記耐熱性樹脂100質量部に対して5〜35質量部の範囲内が好ましい。含有量が5質量部未満の場合、濃い色調を付与することができない。一方、含有量が35質量部超の場合、トップ塗膜の凝集力が低下して、加工性が低下するおそれがある。
【0045】
また、トップ塗膜には、鱗片状無機質添加材や無機質繊維などを加えて塗膜硬度および耐摩耗性を向上させてもよい。鱗片状無機質添加材の例には、ガラスフレーク、グラファイトフレーク、合成マイカフレーク、合成アルミナフレーク、シリカフレークなどが含まれる。また、無機質繊維の例には、チタン酸カリウム繊維、ウォラスナイト繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、シリカ繊維、ロックウール、スラグウール、ガラス繊維、炭素繊維などが含まれる。
【0046】
トップ塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5〜40μmの範囲内が好ましい。膜厚が5μm未満の場合、黒色性および非粘着性を十分に発現させることができない。一方、膜厚が40μm超の場合、塗膜表面が柚子肌状になって外観が劣化するとともに、焼き付けする際にワキが発生しやすくなる。加工性の観点からは、トップ塗膜の膜厚は、5〜20μmの範囲内が好ましい。
【0047】
トップ塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、耐熱性樹脂や黒色系近赤外線顔料などを含むトップ塗料をAlめっきステンレス鋼板(または化成処理皮膜もしくはプライマー塗膜)の表面に塗布し、焼き付ければよい。
【0048】
トップ塗料の溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)やN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などの非プロトン性極性溶剤;ジエチレングリコールジメチルエーテル(DMDG)やジエチレングリコールジエチルエーテル(DEDG)などのエーテル類;塩化メチレンや四塩化炭素などの脂肪族炭化水素の塩化物などが用いられる。これらの溶剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。また、これらの溶剤に、樹脂の溶解性を低下させない範囲でキシレンなどの炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコールなどの溶剤を添加してもよい。
【0049】
トップ塗料の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法などが含まれる。また、焼き付け温度は、到達板温で350℃〜450℃の範囲内が好ましく、焼き付け時間は、60〜300秒の範囲内が好ましい。この条件で焼き付けると、ベースとなる耐熱性樹脂が脱水縮合により十分に硬化する。
【0050】
以上のように、本発明の塗装鋼板は、1)Alめっきステンレス鋼板を塗装原板としているため、マイクロ波反射特性および端面部耐食性に優れている。また、本発明の塗装鋼板は、2)ポリエーテルスルホン樹脂などの脱水縮合物をトップ塗膜のベースとしているため、耐吸水性に優れている。さらに、本発明の塗装鋼板は、3)黒色系近赤外線反射顔料をトップ塗膜に配合しているため、黒色の色調を有しながらも、熱反射特性に優れている。
【0051】
本発明の塗装鋼板は、マイクロ波反射特性、耐吸水性、熱反射特性、黒色性および端面部耐食性のすべてに優れているため、例えばスチームオーブンレンジなどの加熱調理器具に用いられるプレコート鋼板として有用である。
【0052】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0053】
1.塗装鋼板の作製
塗装原板として、以下の4種類の鋼板を準備した。
[塗装原板A]
・溶融Al−9%Siめっきステンレス鋼板
・基材:板厚0.5mmのフェライト系ステンレス鋼板(Cr:12.16質量%、C:0.03質量%、Si:0.57質量%、Mn:0.8質量%、N:0.008質量%、Ni:0.12質量%、Nb:0.42質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼)
・片面めっき付着量:40g/m
[塗装原板B]
・溶融Al−9%Siめっきステンレス鋼板
・基材:板厚0.5mmのフェライト系ステンレス鋼板(Cr:17.67質量%、C:0.008質量%、Si:0.36質量%、Mn:0.22質量%、N:0.012質量%、Ti:0.21質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼)
・片面めっき付着量:40g/m
[塗装原板C]
・フェライト系ステンレス鋼板(Cr:17.03質量%、C:0.06質量%、Si:0.54質量%、Mn:0.22質量%、N:0.02質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼)
・板厚:0.5mm
[塗装原板D]
・溶融Al−9%Siめっき鋼板
・基材:板厚0.5mmのSPCC
・片面めっき付着量:40g/m
【0054】
塗装原板の表面を脱脂した後、クロムフリー化成処理液(チタンフッ化水素酸(HTiF):0.1mol/L、ジルコンフッ化水素酸(HZrF):0.1mol/L)をTiおよびZrの総金属元素換算付着量が3.5mg/mとなるようにバーコーターで塗布した。化成処理液を塗布した鋼板を到達板温100℃で10秒間加熱して、化成処理皮膜を形成した。
【0055】
化成処理された塗装原板の表面に、プライマー塗料を塗布し、到達板温330℃または400℃で90秒間焼き付けて、乾燥膜厚5μmのプライマー塗膜を形成した。プライマー塗料は、溶剤(N−メチル−2−ピロリドン(NMP)50%、メチルイソブチルケトン(MIBK)20%、キシレン30%)に、耐熱性樹脂を添加して調製した。プライマー塗料中の耐熱性樹脂の配合量は18質量%とした。
【0056】
耐熱性樹脂は、数平均分子量が22000〜24000の両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂(商品名PES5003P;住友化学工業株式会社)、または数平均分子量が17000〜19000の両末端に塩素基を有するポリエーテルスルホン樹脂(商品名PES4100P;住友化学工業株式会社)を使用した。
【0057】
次いで、プライマー塗膜の表面に、トップ塗料を塗布し、到達板温330℃または400℃で120秒間焼き付けて、乾燥膜厚10μmのトップ塗膜を形成した。トップ塗料は、溶剤(N−メチル−2−ピロリドン(NMP)50%、メチルイソブチルケトン(MIBK)20%、キシレン30%)に、耐熱性樹脂および黒色顔料を添加して調製した。トップ塗料中の耐熱性樹脂の配合量は18質量%とし、黒色顔料の配合量は3.6質量%とした。
【0058】
耐熱性樹脂は、プライマー塗料に配合したものと同一のものを使用した。黒色顔料は、鉄・クロム系近赤外線反射顔料(42−706A;東罐マテリアル・テクノロジー株式会社)、またはカーボンブラック顔料(MA−100;三菱カーボン株式会社)を使用した。
【0059】
両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂を用いて作製した塗装鋼板(実施例1、2、比較例1、2、4、5;表1参照)について、トップ塗膜を構成する耐熱性樹脂の「ヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比」を測定した。耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比は、赤外分光光度計(AVATAR 320 FT−IR;Nicolet社)を用いて測定された赤外吸収スペクトルにおける、3300±100(cm−1)のヒドロキシ基のピーク高さおよび1600±25(cm−1)のベンゼン環のピーク高さから、「ヒドロキシ基のピーク高さ/ベンゼン環のピーク高さ」として求めた。ヒドロキシ基およびベンゼン環のピーク高さは、各ピークの両側の最下部を結ぶ線をベースラインとし、このベースラインからの各ピークの波数範囲における最上部までの高さとして求めた。図2は、実施例1の塗装鋼板のトップ塗膜を構成する耐熱性樹脂の赤外吸収スペクトルである。
【0060】
作製した塗装鋼板の構成を表1に示す。プライマー塗料およびトップ塗料をいずれも到達板温400℃で焼付けた実施例1、2、比較例1、2、5の塗装鋼板は、トップ塗膜を構成する耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比が1.89〜1.96であった。一方、プライマー塗料およびトップ塗料をいずれも到達板温330℃で焼付けた比較例4の塗装鋼板は、耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比が3.33であった。
【表1】

【0061】
2.評価試験
(1)吸水性試験
実施例1、2および比較例3、4の塗装鋼板について、塗膜(プライマー塗膜およびトップ塗膜)の吸水性を評価した。
【0062】
実施例1、2および比較例3、4の塗装鋼板のそれぞれから、50mm角の試験片を3枚ずつ採取した。また、50mm角の塗装原板(塗装原板Aおよび塗装原板B)も3枚ずつ準備した。各試験片を50℃の蒸留水中に24時間浸漬した後、20℃の蒸留水中に15分間浸漬して冷却した。冷却後、各試験片の表面に付着した水分を拭き取り、吸水させた各試験片の重量(W)を測定した。
【0063】
吸水させた各試験片(重量Wを測定したもの)および各塗装原板を、50℃の乾燥機中において24時間乾燥させた。次いで、デシケータ中で20℃まで放冷した後、乾燥させた試験片の重量(W)および乾燥させた塗装原板の重量(W)を測定した。測定された3枚の塗装原板の重量(W)から、塗装原板の平均重量(W)を算出した。
【0064】
以下の式により、各試験片の吸水率を算出した。3枚の試験片の吸水率の平均値を、各塗装鋼板の塗膜の吸水率とした。
吸水率(%)=(W−W)/(W−W)×100
【0065】
表2は、各塗装鋼板の塗膜の吸水率の測定結果を示す表である。
【表2】

【0066】
表2に示されるように、実施例1、2の塗装鋼板の塗膜(耐熱性樹脂:両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂の脱水縮合物、ヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比:1.89〜1.96)は、比較例3の塗装鋼板の塗膜(耐熱性樹脂:両末端に塩素基を有するポリエーテルスルホン樹脂)および比較例4の塗装鋼板の塗膜(耐熱性樹脂:両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂の脱水縮合物、ヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比:3.33)に比べて、吸水率が小さかった。これは、両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂を十分に脱水縮合させて形成した塗膜には、親水性のヒドロキシ基がほとんど残存していないのに対し、両末端に塩素基を有するポリエーテルスルホン樹脂を用いて形成した塗膜には、親水性の塩素基が残存し、両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂を不十分に脱水縮合させて形成した塗膜には、親水性のヒドロキシ基が残存しているためと考えられる。
【0067】
(2)マイクロ波反射特性試験
実施例1、2および比較例1、3、4の塗装鋼板について、マイクロ波の反射特性を評価した(JIS C9250参照)。市販の電子レンジの加熱室の壁面のうち、マグネトロンが配置されている面を除く全面に、塗装鋼板をトップ塗膜が内側を向くように貼り付けた。そして、加熱室底面の中央部に、1000mLの水を入れた容量1000mLのビーカーを2個互いに接するように並べた。この状態で、水2000mLを所定の出力(300W、500Wまたは800W)で2分間加熱し、加熱前後の水温を測定した。測定された加熱前後の平均水温の値から、以下の式により、単位時間あたりの水に吸収されたエネルギー(W)を算出した。
単位時間あたりの水に吸収されたエネルギー(W)
=水の比熱×水の重量(g)×平均水温の上昇値(℃)/加熱時間(秒)
=4.2×2000(g)×(T2−T1)(℃)/120(秒)
=70×(T2−T1)
ここで、「T1」は加熱前の平均水温(℃)であり、「T2」は加熱後の平均水温(℃)である。
【0068】
表3は、電子レンジの出力と、単位時間あたりの水に吸収されたエネルギーとの関係を示す表である。
【表3】

【0069】
表3に示されるように、実施例1、2の塗装鋼板(塗装原板:溶融Al−9%Siめっき層ステンレス鋼板)を庫内材とした場合と、比較例1の塗装鋼板(塗装原板:ステンレス鋼板)を庫内材とした場合とを比較すると、実施例1、2の塗装鋼板を使用した場合の方が、すべての設定出力において水に吸収されたエネルギーが大きかった。これは、ステンレス鋼板よりも、溶融Al−9%Siめっきステンレス鋼板の方がマイクロ波の反射特性に優れているためと考えられる。
【0070】
また、実施例1、2の塗装鋼板(塗膜を構成する耐熱性樹脂:両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂の脱水縮合物)を庫内材とした場合と、比較例3の塗装鋼板(塗膜を構成する耐熱性樹脂:両末端に塩素基を有するポリエーテルスルホン樹脂)を庫内材とした場合とを比較すると、実施例1、2の塗装鋼板を使用した場合の方が、すべての設定出力において水に吸収されたエネルギーが大きかった。これは、両末端に塩素基を有するポリエーテルスルホン樹脂を用いて形成したトップ塗膜(およびプライマー塗膜)は、塗装鋼板を壁面に貼り付けた段階で水分を含有しており、マイクロ波のエネルギーが失われてしまったためと考えられる。
【0071】
同様に、実施例1、2の塗装鋼板(トップ塗膜を構成する耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比:1.89〜1.96)を庫内材とした場合と、比較例4の塗装鋼板(トップ塗膜を構成する耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比:3.33)を庫内材とした場合とを比較すると、実施例1、2の塗装鋼板を使用した場合の方が、すべての設定出力において水に吸収されたエネルギーが大きかった。これは、ヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比が大きいトップ塗膜は、塗装鋼板を壁面に貼り付けた段階で水分を含有しており、マイクロ波のエネルギーが失われてしまったためと考えられる。
【0072】
(3)熱反射性試験
実施例1および比較例5の塗装鋼板について、熱反射性試験を実施した。実施例1または比較例5の塗装鋼板を壁面材として用いて加熱庫(幅34cm×奥行36cm×高さ23cm)を作製し、加熱庫内にはガラスセラミックプレートを設置した。ガラスセラミックプレートを用いて加熱庫内を赤外線加熱し、加熱庫の壁面の温度を経時的に測定した。表4に、加熱庫の天井面温度の測定結果を示す。
【0073】
【表4】

【0074】
表4に示されるように、トップ塗膜に一般的な黒色顔料(カーボンブラック)を配合した比較例5の塗装鋼板では、加熱開始してから3分過ぎには天井面の温度が100℃を超えてしまい、5分後には134.2℃まで上昇していた。これは、黒色顔料が近赤外線を吸収してしまったためと考えられる。一方、トップ塗膜に黒色近赤外線反射顔料を配合した実施例1の塗装鋼板では、5分経過しても天井面の温度が80℃に達しておらず、優れた熱反射特性を有していた。天井面の温度の上昇速度を比較すると、黒色近赤外線反射顔料を配合した実施例1の塗装鋼板の天井面の温度の上昇速度は、一般的な黒色顔料を配合した比較例5の塗装鋼板の天井面の温度の上昇速度の約50%であった。
【0075】
(4)端面部耐食性試験
実施例1、2および比較例1、2の塗装鋼板から試験片を切り出し、端面部耐食性試験を実施した。各試験片について、JIS K2246に準拠して70℃で200時間湿潤試験を行った。試験後、各試験片の切断面に赤錆が発生しているか否かを観察して、端面部耐食性を評価した。切断端面全体の長さ(試験片の周囲長;厚さは考慮しない)に対する赤錆が発生している部分の長さを「赤錆発生率」として、赤錆発生率が5%未満の場合を「○」、5%以上30%未満の場合を「△」、30%以上の場合を「×」と評価した。表5は、端面部耐食性試験の結果を示す表である。
【0076】
【表5】

【0077】
表5に示されるように、塗装原板として、めっき原板がSPCCの溶融Al−9%Siめっき鋼板を使用した比較例2の塗装鋼板では、切断端面部において赤錆が発生していた。一方、塗装原板として、めっき原板がステンレス鋼板の溶融Al−9%Siめっきステンレス鋼板を使用した実施例1、2の塗装鋼板では、赤錆が全く発生しなかった。同様に、塗装原板として、ステンレス鋼板を使用した比較例1の塗装鋼板でも、赤錆が全く発生しなかった。
【0078】
以上の結果から、本発明の塗装鋼板は、マイクロ波反射特性、耐吸水性、熱反射特性、黒色性および端面部耐食性のすべてに優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の塗装鋼板は、マイクロ波反射特性、耐吸水性、熱反射特性、黒色性および端面部耐食性のすべてに優れているため、例えば、電子レンジやオーブン、オーブンレンジ、スチームオーブン、スチームオーブンレンジなどの加熱調理器具に用いられるプレコート鋼板として有用である。
【符号の説明】
【0080】
100 塗装鋼板
110 ステンレス鋼板
120 Alめっき層
130 トップ塗膜
132 耐熱性樹脂
134 黒色系近赤外線反射顔料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼板の表面にAlめっき層を形成したAlめっきステンレス鋼板と、
前記Alめっき層の上に形成された、耐熱性樹脂および黒色系近赤外線反射顔料を含むトップ塗膜と、を有し、
前記耐熱性樹脂は、その分子鎖の両末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン樹脂の脱水縮合物であり、
下記の方法によって算出される、前記耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比は、1.08〜2.86の範囲内であり、
前記黒色系近赤外線反射顔料は、400〜750nmの波長域における平均反射率が10%以下であり、かつ750〜2500nmの波長域における平均反射率が20%以上であり、
前記トップ塗膜中における前記黒色系近赤外線反射顔料の含有量は、前記耐熱性樹脂100質量部に対して5〜35質量部の範囲内である、
塗装鋼板。
[耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比の測定方法]
トップ塗膜を構成する耐熱性樹脂の赤外吸収スペクトルを赤外分光法で測定し、
得られた赤外吸収スペクトルにおける、3300±100cm−1のヒドロキシ基のピーク高さの値、および1600±25cm−1のベンゼン環のピーク高さの値から、「ヒドロキシ基のピーク高さ/ベンゼン環のピーク高さ」として算出される値を耐熱性樹脂のヒドロキシ基/ベンゼン環吸光度比とする。ここで、前記ヒドロキシ基のピーク高さおよび前記ベンゼン環のピーク高さは、ベースラインからの各ピークの波数範囲における最上部までの高さである。
【請求項2】
前記ステンレス鋼板は、Cr:10.5〜30質量%、C:0〜0.12質量%、Si:0〜1質量%、Mn:0〜1質量%、N:0〜0.03質量%を含み、残部:Feおよび不可避的不純物からなる、請求項1に記載の塗装鋼板。
【請求項3】
前記ステンレス鋼板は、Cr:10.5〜30質量%、C:0〜0.12質量%、Si:0〜1質量%、Mn:0〜1質量%、N:0〜0.03質量%を含み、さらにTi:0〜0.5質量%、Nb:0〜0.8質量%の1種または2種を含み、残部:Feおよび不可避的不純物からなる、請求項1に記載の塗装鋼板。
【請求項4】
前記Alめっき層は、溶融Al−Siめっき層である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装鋼板。
【請求項5】
マイクロ波加熱を行う加熱調理器具の庫内材用のプレコート鋼板である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の塗装鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−91407(P2012−91407A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240862(P2010−240862)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】