説明

加熱可能なプローブヘッドと保護カバーを有する赤外線温度計

【課題】冷えたプローブヘッドから発せられた赤外線放射は冷えた耳道から発せられた赤外線放射だけでなく、プローブヘッド自体から発せられた赤外線放射の反射を測定し、それに対応して読み取られる温度は低くなりすぎる。
【解決手段】加熱可能なプローブヘッド10を有し、特に患者の体温を耳で測る医療用温度計、及び加熱可能な保護カバー24を指向する。プローブヘッド10は、その先端に放射線入射口ゾーンを有する。加熱エレメント16もまたそこに配置される。加熱エレメント16は、プローブヘッド10の上に取り付けられるのに適した保護カバー24に接続されても良いし、プローブヘッド10の先端に固定されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱可能なプローブヘッドを有する赤外線温度計、特に耳の中で患者の体温を計る医療用温度計に関し、また加熱可能な保護カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
US−A−3491569によれば、加熱可能なプローブヘッドを有する、耳で計る温度計が知られている。プローブヘッドは、その先端に、加熱エレメントを受け入れるキャビティと、温度センサデバイスとして作用する電界効果トランジスタとを有している。キャビティの壁は、熱伝導性の良好な銅などの材料によって構成されている。電界効果トランジスタは、キャビティの壁に熱的に接続されている。外部からプローブヘッドにぶつかる放射熱エネルギーは、電界効果トランジスタに伝送され、電界効果トランジスタは対応する測定信号を発することによって応答する。電界効果トランジスタは、おおよその人間の体温まで、加熱エレメントによってあらかじめ加熱される。これは、熱せられていない熱センサデバイスに比べて、応答時間の短縮を意図したものである。
【0003】
US−A−4602642によれば、プローブヘッドにプローブヘッドの先端からプローブヘッドの内部に延びる導波管を含む、耳で計る温度計が知られている。その後端において導波路は金属ハウジングに固定され、金属ハウジングの中にはサーモパイル赤外線検出器が配置されている。金属ハウジングと、それに熱伝導性の良い関係で接続された赤外線検出器とは、加熱抵抗や制御アレンジメントによって、おおよその人間の体温に相当する温度まで加熱されても良い。しかしながら、温度計のそのような大きい部分を加熱するためには、比較的長い加熱時間とそれに対応した大量のエネルギーが必要となる。
【0004】
耳道に挿入されるプローブヘッドを加熱することによって、プローブヘッドと耳道との間に熱の流れが生じることを大部分は避けられる、すなわち、温度測定中、プローブヘッドと耳道とが熱的平衡状態になる。このようにして、別の方法によれば、耳管に導入されるプローブヘッドが耳管より低い温度であるため、耳管が冷やされることによってもたらされる、読み取りの温度が低くなりすぎるという間違った読み取りを避けられる。このような読み取りエラーは、プローブヘッドと耳管との最初の温度差、及び冷却期間や測定処理の時間にのみ依存するのではなく、耳管の内部でのプローブヘッドの位置やアラインメントのそれぞれによっても影響される。
【0005】
プローブヘッドが耳道の壁に直接に向けられているときには、冷えたプローブヘッドから発せられた赤外線放射は壁によって一部反射され(反射率は約3〜5%)、プローブヘッドによって検出される、この結果、冷えた耳道から発せられた赤外線放射だけでなく、プローブヘッド自体から発せられた赤外線放射の反射を測定し、それに対応して読み取られる温度は低くなりすぎる。しかしながら、対照的に、プローブヘッドが正しく鼓膜に向けられているときには、冷えたプローブヘッドから発せられた放射は、再びプローブヘッドに結合する前に、最初に耳道の中で相応のロスをもって複数回反射し、それに対応して測定結果の悪影響が減少する結果となる。
【0006】
加熱されないプローブヘッドを有する赤外線温度計のさらなる欠点は、プローブヘッドを耳管に入れる際に、プローブヘッドに覆い被さる保護カバーの温度が、周囲の温度と耳管の温度の相違に依存する深刻な変化の影響を受けやすいという点にある。これは、保護カバーから発せられる放射エネルギーの変化をも引き起こし、それに対応して測定エラーをもたらす。しかしながら、もし、保護カバーが加熱されていれば、温度がプローブヘッドの温度によって決定されるので、保護カバーの温度はほとんど変化しない。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、加熱可能なプローブヘッドを有する赤外線温度計を提供することであり、加熱可能なプローブヘッドに必要な熱エネルギーは、例えば温度計の中にある電池から取り出すことができるくらいに小さいものである。
【0008】
本発明によれば、この目的は、プローブヘッド、及び/又は公知の方法でプローブヘッドに取りつけられることに適した保護カバーが、プローブヘッド、及び/又は保護カバーの前の領域だけを、通常の耳管のおおよその温度に相当する温度まで加熱することができるような方法で構成されていることによって達成される。
【0009】
赤外線温度計のプローブヘッドの構成は、本発明に開示されているように、プローブヘッドに搭載された赤外線センサがごく限られた視野しか持たないという事実を利用している。従って、プローブヘッドのその部分だけが赤外線センサの視野にある耳管の部分の温度と同じ温度を示せば十分である。それゆえ、本発明に従って組み立てられたプローブヘッドでは、実用的にプローブヘッドの先端、つまり、特に前部表面が加熱可能に設計される。この比較的小さい領域は、それ自身を高エネルギー効率の方法で加熱するのに役立ち、プローブヘッドの加熱されない部分と熱的に分離されていることが好ましい。
【0010】
本発明の赤外線温度計は、そのプローブヘッドの先端に、放射線入射口ゾーンと、好ましくは電気的に加熱する加熱エレメントとを有する。加熱エレメントはプローブヘッドに組み付けられても良いし、プローブヘッドを取り付けるのに適合した保護カバーに加熱エレメントが装備されてもよい。また、2つの加熱エレメントを備え、一がプローブヘッドに取り付けられ、他がプローブヘッドを取り付けるのに適合した保護カバーに結合されてもよい。
【0011】
加熱エレメントは、例えば、プローブヘッドの先端に搭載された少なくとも一つのNTC又はPCT抵抗又はトランジスタを備える。しかしながら、加熱エレメントは、例えば、金属コーティングによって形成された導電トラック、又は導電性プラスチック材料から作られるコーティングであることも可能であり、これはプローブヘッドの先端、保護カバー、又はプローブヘッド自体に配置された放射線入射窓に適用される。
【0012】
本発明の赤外線温度計の好ましい実施形態によれば、放射線入射口ゾーンは、加熱エレメントによって加熱することができる赤外線透過窓によって規定される。これは、特に単純には、窓の周りを通って良好な熱導電性を有する関係で窓と接続される、例えば、コンスタンタンによって作られる加熱ワイヤによって達成される。窓は、赤外線に対して透明で容易に変形しやすい、例えば、カルコゲートガラスによって作られてよい。特に洗練された実施品では、窓は、特にシリコンなどの半導体によって作られ、その中で、発熱導体抵抗として作用し得る導電トラックはドーピングによって形成される。加熱できる窓を有するこれらの実施形態の利点は、加熱エレメントがプローブヘッドの先端全体、すなわち、放射線入射口ゾーンを含むプローブヘッドの前部の全表面を所望の温度に加熱し、プローブヘッドによって耳管の熱的平衡を実質的に乱されないようにし、これに起因する読み取りの間違いを最小限にする点である。
【0013】
本発明の赤外線温度計は、さらに、加熱エレメントのための制御デバイスを含み、制御デバイスは、加熱エレメント、及び例えばバッテリーなどのエネルギー源に接続される。制御デバイスは、プローブヘッドの温度を決定し、及び/又は調節する。この効果のため、プローブヘッドとユーザの耳管の間、及び/又は好ましくはプローブヘッドの先端に配置された温度センサへの熱の流れを検知する熱フラックスセンサが接続されている。しかしながら、本発明の赤外線温度計の好適な実施形態においては、追加のセンサを備える代わりに、加熱エレメント自体をセンサとして用いる。そして、制御デバイスは、加熱エレメントの測定可能な特徴的な数量、例えば、電気抵抗、閾値電圧、あるいは順電圧から、加熱エレメントの温度を決定し、これにより、プローブヘッドの先端の温度を決定する。
【0014】
特別の利便性を提供する本発明の赤外線温度計においては、制御デバイスはまた、温度測定を実行する前後のそれぞれにおいて、加熱エレメントの起動及び停止のプロセスを制御する。加熱サイクルは、プローブヘッドが耳管に導入されるとすぐに自動的に開始され、同様に、温度がとられた後に自動的に停止する。挿入及び引き出す動作は、例えば、制御デバイスに接続された放射線温度センサによって測定される放射線温度の変化、又は、温度センサによって測定されるプローブヘッドの温度の変化、又は、熱フラックスセンサからの対応信号によって、検出することが可能である。このような方法で、間違いの要素を排除し、十分に高い測定の正確性を常に保証することができる。
【0015】
好ましくは、測定の正確性を最適化するために、プローブヘッドとユーザの耳管との間の熱の流れを熱フラックスセンサによって決定し、この熱の流れを最小化するように熱出力を制御する。熱の流れを最初から可能な限り最小のレベルに保つため、プローブヘッドは、耳管と接触するプローブヘッドの領域の熱容量及び熱伝導性ができる限り小さくなるように設計されることが好ましい。
【0016】
本発明の保護カバーでは、とりわけ、保護カバーの先端領域は、電気的な加熱エレメントによって加熱することができる。保護カバーは、従来技術において知られているように円錐形状であり、先端に赤外線を伝達可能な放射線入射口ゾーンを有している。加熱エレメントは、放射線入射口ゾーンを取り囲む、金属又は導電性プラスチック材料からなる導電性のトラック形コーディングであることが好ましい。加熱エレメントへのエネルギー供給には、電気的又は電磁的に接続された、好ましくは赤外線温度計のバッテリーを使用したデバイスが用いられる。この温度計は、うまく配置されたコンタクトを有し、例えば、保護カバーが取り付けられるときに、保護カバーのトラック型の導電性コーティングと電気的に接触させる。あるいは、短絡巻き線として設計された加熱エレメントへの誘導エネルギー伝達のためのデバイスを備えることも可能である。
【0017】
本発明のさらなる特徴や利点は、添付のクレームからのみならず、後に続く添付の図面に描かれた発明に係る赤外線温度計のプローブヘッドの好適実施形態の記述からも明らかになるであろう。図面では、同様の部品に同様の番号及び同様の図面の説明を割り当てている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】環状の加熱エレメントと保護カバーとが取り付けられた本発明の第1実施形態に係るプローブヘッドである。
【図2】環状の加熱エレメントと保護カバーとが取り付けられた本発明の第2実施形態に係るプローブヘッドである。
【図3】加熱可能な赤外線透過窓と保護カバーとが取り付けられた本発明の第3実施形態に係るプローブヘッドである。
【図4】加熱可能な赤外線透過窓が取り付けられた本発明の第4実施形態に係るプローブヘッドである。
【図5】図3に概略的に描かれたプローブヘッドの詳細を示す図である。
【図6】加熱エレメントを備えた保護カバーの断面図及び平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明のプローブヘッド10を示し、プローブヘッド10は放射線入射口12に向かって円錐状のテーパになっているプローブヘッドハウジング14を有すると共に、その先端に放射線入射口12を取り囲む環状の加熱エレメント16を有する。加熱エレメント16は、好ましくは電気的に加熱することが可能である。プローブヘッドハウジング14を通じて、放射線入射口12から図示しない赤外線センサまで赤外線道波路18が縦方向に延び、赤外線センサは検出された赤外線放射線を電気信号出力に変換し、電気信号出力は、同じく図示しない電気的測定デバイスによって評価するのに適し、そして、関連付けられた指示デバイスによって指示するのに適するものである。赤外線道波路18の先端には、赤外線透過窓20が備えられている。熱的に分離するために、赤外線道波路18とプローブハウジングヘッド18との間にスペース22が保たれている。窓を汚れや損傷から保護するために、窓はプローブヘッドの先端に関して、わずかにへこんでいる。プローブヘッド10には、プローブヘッドハウジングの形状に一致する取り外し可能な保護カバー24が、従来技術において知られた方法によって取り付けられる。
【0020】
図2に描かれた本発明のプローブヘッド10は、電気的に加熱できる環状の加熱エレメント16が幅方向に大きくされてプローブヘッドハウジング14と赤外線道波路18の間のスペース18を完全に覆っている点のみが、図1の実施形態と異なる。環状部16の内径は、赤外線道波路18の内径にほぼ相当する。このような方法で加熱エレメントは、放射線入射口12を除くプローブヘッドの先端を覆う。
【0021】
図3に描かれた本発明のプローブヘッドは、赤外線透過窓20が赤外線道波路18の先端を閉じておらず、放射線入射口12を閉じている点が、図1のプローブヘッドと異なる。加熱エレメント16は窓20に接続され、良好な熱伝導性の関係を確立している。窓は、例えばシリコンのような十分な熱伝導性を有する材料から作られるのが好ましい。
【0022】
図5は、図3に概略的にのみ描かれた加熱エレメント16の詳細を示す図である。それは、加熱ワイヤ16´によって加熱できる、窓20を取り囲むフレーム26を含み、その温度は温度センサ28によって測定することができる。フレームは、窓20に特定の均一な熱を供給するのに加えて、窓20を損傷から保護する。フレームは、例えば、アルミニウムや、比較的良好な熱伝導性を有する材料から作られ、プローブヘッドハウジング14から熱的に分離される。
【0023】
図4に示すプローブヘッドは、プローブヘッドの先端がドーム形状の赤外線透過窓20で終結しており、窓は図示しない加熱エレメントによって直接に加熱できる点が、図1の実施形態と異なる。窓20はさらに、同じく図示しない温度センサを備え、窓の温度を測定する。加熱エレメントは、例えば、金属あるいは窓に適用される導電性プラスチック材料によって作られた導電性トラックである。しかし、窓はシリコンによって作られることが好ましく、これにより、窓の対応部分にドーピングすることによって直接に加熱エレメントを積層することができる。窓の温度は、ドープされた部分の電気抵抗から決定されるので、別の温度センサはなくてよい。あるいは、好ましくは加熱エレメントと同様に設計された温度センサを備えても良いのはもちろんである。
【0024】
窓は、好ましくは、円錐状に延びる側壁20aと、耳管への挿入を容易にするために前方に向かってドーム形状にされた前面20bとを有する。この加熱できる窓20については、側壁20aと耳管の接触も対応する前面20bとの接触もないことにより、耳管と窓との間でかなりの熱の交換がなされ、それに対応して測定結果の悪影響が低いレベルとなる。プローブヘッド10の前方の全領域が窓20によって実用的に気密シールされているという点を考慮すれば、保護カバーなしで測定を実行することも可能である。
【0025】
すべての実施形態において、加熱エレメントは図示しない制御デバイスに接続され、さらに、温度センサ、及び/又は熱フラックスセンサに接続され、プローブヘッド先端とユーザの耳管との間の熱の流れを検出しても良い。制御デバイスは、プローブヘッドが耳管に挿入されると、好ましくは自動的に熱サイクルを開始する機能、放射線温度測定中に熱の流れを最小化するためにプローブヘッドの温度を一定に保持するか、あるいは調節する機能、プローブヘッドが耳管から取り出されると、好ましくは自動的に、熱サイクルを終了させる機能を有する。
【0026】
図6に示す加熱できる保護カバーは、円錐形状のプラスチックボディと、その先端に放射線入射口ゾーン32とを従来技術において知られた方法で含む。金属コーティングによって作られる導電性トラックとして設計された加熱エレメントは、プラスチックボディの内側に蒸着によって適用され、放射線入射口ゾーン32を環状に取り囲む。導電性トラックの端部36は広くされており、コンタクトを形成する。しかしながら、プローブヘッド自体が加熱エレメントを備えていれば、加熱できる保護カバー24の代わりに、従来の加熱できない保護カバーを同様に使用できることが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0027】
10…プローブヘッド、12…放射線入射口、14…プローブヘッドハウジング、16…加熱エレメント、18…赤外線道波路、20…赤外線透過窓、22…スペース、24…保護カバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線温度計に用いられる保護カバーであって、該保護カバーの先端に放射線入射口ゾーンを有しており、該保護カバーの先端のみに配置された加熱エレメントを有し、前記加熱エレメントは、金属コーティング、及び/又は導電性プラスチック材料で作られたプラスチックコーティングを含むことを特徴とする保護カバー。
【請求項2】
前記加熱エレメントは導電性トラックの形状に構成され、前記放射線入射口ゾーンを環状に取り囲むことを特徴とする請求項1に記載の保護カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−207600(P2010−207600A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114515(P2010−114515)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【分割の表示】特願2000−608151(P2000−608151)の分割
【原出願日】平成12年3月10日(2000.3.10)
【出願人】(596181730)ブラウン ゲーエムベーハー (75)
【Fターム(参考)】