説明

加熱手段、触媒ユニットおよびこれを用いた分析装置

【課題】 試料中の成分変動にも素早く追随することができる分析装置を提供することにある。さらに、こうした分析装置には必須の構成要素となる、圧力損失の少ない交換が容易でコンパクトかつ迅速に機能する加熱手段あるいは触媒ユニットを提供することにある。
【解決手段】 内部に流路を有する加熱手段であって、該流路内に少なくとも1つの突起部あるいは段部を設けるとともに、該突起部あるいは段部の流路前後部に、流路中心線と平行かつ平坦な所定長の領域の内面を有することを特徴とする。前記加熱手段内の流路が所定の径を有する1の管状体で形成されるとともに、該1の管状体の内径と略同じ外径を有する他の管状体を挿入して外部流路との接続を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱手段、触媒ユニットおよびこれを用いた分析装置に関し、例えば、自動車排気ガス中のアンモニア分析装置のように高速処理を要する場合の、加熱手段、触媒ユニットおよびこれを用いた分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンモニア(NH)の測定方法としては、図7に示すような構成の定置排出源用NH分析装置が知られている(例えば特許文献1参照)。NH系と窒素酸化物(NOx)系の2系統のサンプリングプローブラインからなるサンプリングプローブ部51、それぞれの系の一酸化窒素(NO)濃度を測定する分析計を備えた分析部52、及び、2つの分析計から得られたNO濃度よりNH濃度を算出する演算部53から構成されている。サンプリングプローブラインの一方(NH系)には酸化形あるいは還元形の触媒Cが設けられており、酸化形にはアンモニア酸化触媒、還元形にはアンモニア還元触媒が用いられている。
【0003】
酸化形の測定原理は、NH系のNHを酸化触媒の働きで等モルのNOに酸化し、このNOの濃度を検出することによりNH濃度を測定するものである。排ガス中には、一般に、NOxも存在するので、検出器の上流で排ガス中の二酸化窒素(NO)をNO−NOコンバータによりNOに還元する。NOx系流路では、NOx濃度だけが検出され、NH系流路ではNH及びNOxの合計の濃度が検出されるので、この2つの流路の検出器の検出値の差がNH濃度となる。還元形の測定原理は、NH系のNHを還元触媒の働きで等モルのNOxと反応を行なわせ、反応により欠損したNOx濃度を検出することにより、NH濃度を測定するものである。この場合、NH系流路ではNH濃度の分だけ減少したNOx濃度が検出され、この両流路の検出値の差がNH濃度となる。
【0004】
一方、移動排出源用である自動車排気ガス分析装置としては、通常運転での排気ガス中には殆んど含まれておらず、NHの不安定さ、NHの吸着性の強さおよび排ガス中の測定成分の急激な変化に応答しうる測定手段がないことから実用化されたものはなかった。
【特許文献1】特開2000−9603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、昨今の環境分析の重要性、および自動車あるいはエンジンの各種改良に伴い、測定手段としても、排ガス中の測定成分の急激な変化に応答し連続的に測定可能な自動車排気ガスNH分析装置の要請が強くなってきた。
【0006】
具体的には、ガソリンエンジンにおいて、リーンバーンあるいはリッチスパイクと呼ばれる還元雰囲気の燃焼条件還元雰囲気によって数10〜数1000ppmのNHが発生することがある。また、ディーゼルエンジンにおいては、最近排ガス処理として、尿素添加が注目されている。つまり、大型ディーゼル車のNOx低減方策として有望視されているのが選択還元触媒(SCR)で、これは尿素水溶液を還元剤としてエンジンから排出されたNOxを触媒上で無害な窒素(N)に還元するという方式で、このとき、数10〜数100ppmのNHが発生することがある。こうした発生NHを、正確にかつ応答性よく測定することが分析装置の課題となる。
【0007】
特に、発生NHを酸化処理あるいは還元処理によって変換する場合においては、上記のようなNHの不安定さや吸着性の強さを原因とする、応答遅れや効率低下(処理中のロス)の影響は無視できないものである。つまり、酸化処理手段あるいは還元処理手段の機能・特性が、こうした課題の大きな要因であり、改善が緊急の課題となっている。
【0008】
また、NH測定に限らず、各種の分析装置に用いられる加熱手段あるいは触媒ユニットについては、その応答性・高効率化の要請と併せ、コンパクト化が従来からの大きな課題であった。
【0009】
そこで、この発明の目的は、こうした要請に対応し、試料中の成分変動にも素早く追随することができる分析装置を提供することにある。さらに、こうした分析装置には必須の構成要素となる、圧力損失の少ない交換が容易でコンパクトかつ迅速に機能する加熱手段あるいは触媒ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す加熱手段、触媒ユニットおよびこれを用いた分析装置によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
本発明は、加熱手段であって、内部に流路を有する加熱手段であって、流路内に少なくとも1つの突起部を設けるとともに、該突起部の流路前後部に、流路中心線と平行かつ平坦な所定長の領域の内面を有することを特徴とする。
【0012】
一般に、層流に近いガス流の加熱においては、ガス流と平行な加熱体との接触面近傍において境界層を形成し、その内部でのガス体は急速に温度上昇を生じるが、境界層外のガス体の温度を上昇させることは難しい。本発明者は、こうした課題に対し、層流に近いガス流を形成した後の流路に突起部あるいは段部を設けることによって、乱流を形成するとともに、境界層にあったガスと層外にあったガスを混合・移動させ、突起部の後段に設けられたガス流と平行な流路(平行平坦部)において、境界層に移動したガスを急速加熱することによって、短時間にガス流全体の昇温を図ることができることを案出した。また、流量が多い場合などには、突起部あるいは段部を複数設けることによって、ガス条件にあった急速加熱効果を得ることができる。
【0013】
つまり、本発明は、突起部あるいは段部の設置によるガスの攪拌・混合効果と平行平坦部での安定したガス流の形成とを利用しつつ、前者での熱流の入れ替え・熱拡散効果と後者の円滑な伝熱効果を有効に活かすことによって、短い流路での急速な加熱手段を可能としたものである。従って、加熱ユニット全体としてのコンパクト化も可能となり、特に導入ガスと温度差の大きい場合に優位性が高い。
【0014】
本発明は、上記加熱手段であって、前記加熱手段内の流路が所定の径を有する1の管状体で形成されるとともに、該1の管状体の内径と略同じ外径を有する他の管状体を挿入して外部流路との接続を行うことを特徴とする。
【0015】
所定流量のガスの加熱には、所定の加熱容積の確保が必要となる一方、加熱後は素早くガスの移送を行うことが好ましい。本発明においては、2つの異径の管状体を嵌装し、大径の管状体内部を加熱部として加熱容積を確保し、加熱後は管径を小さくして流速を高くすることによって、効率のよい加熱ユニットを構成することができる。また、嵌装した2つの管状体の内部の管端面は段部を形成することから、この段部を触媒等の部材の固定に使用することで、不要な部材を用いずに、かつ圧力損失などの発生なく部材の加熱を行うことができる。特に、本発明に適用対象の1つである高速応答型分析装置における加熱ユニットあるいは触媒ユニットの形成においては、高速加熱を目的とすることから、こうした機能は非常に有効となる。
【0016】
本発明は、上記加熱手段を用いた触媒ユニットであって、前記突起部あるいは段部を固定手段としてメッシュ形状の触媒を配することを特徴とする。
【0017】
上記のように、本発明に係る加熱ユニットは、非常に短時間での加熱を可能とし、かつ流路に突起部あるいは/および段部を有している。従って、こうした機能を触媒ユニットとしてさらに有効に活かすには、内部に挿入する触媒自体が圧力損失の上昇を生じないことおよびその固定にフィルタや保持部材などを用いないことが好ましい。本発明においては、かかる観点から、メッシュ形状の触媒を、突起部あるいは段部を固定手段として挿入することによって、非常に応答速度に優れ、ガス中の物質吸着などのない、触媒の交換が容易でコンパクトな触媒ユニットを構成することが可能となる。
【0018】
本発明は、上記加熱手段あるいは触媒ユニットを用いた分析装置であって、試料採取流路を複数に分岐し、その少なくとも1つの流路に前記加熱手段あるいは触媒ユニットを配置することを特徴とする。
【0019】
上記のように、本発明に係る加熱ユニットあるいは触媒ユニットは、応答性や保守性などに非常に優れた機能を有している。従って、高速応答を要求される分析装置に、こうした機能を適用すれば、非常に優れた分析装置を構成することが可能となる。特に、試料採取流路を複数に分岐し、一方の試料に対して所定の処理を行い、未処理試料との比較測定を行う場合などにおいては、流路間における応答のズレを非常に小さくすることができることから、リアルタイムの測定が可能となる。また、多少の応答ズレが発生する場合であっても、個々の応答特性を補正することによって精度の高い測定が可能となる。
【0020】
本発明は、上記分析装置であって、前記加熱手段あるいは触媒ユニットの内部に、白金系触媒および/あるいはニッケル系触媒を配し、試料中のアンモニアを酸化することを特徴とする。
【0021】
NHの分析における現状の課題は既述の通りであるが、本発明における加熱手段あるいは触媒ユニットを用いた分析装置では、その内の最大の課題である応答速度の改善およびNHの吸着防止に優れた機能を発揮することができる。具体的には、試料採取流路を複数に分岐し、一方の流路に白金系触媒および/あるいはニッケル系触媒を配した本発明に係る触媒ユニットを用いて試料中のNHを酸化することによって、NHの吸着が少なく、迅速なNH→NOx変換ができ、未処理試料とのNOx比較測定を行うことによって、非常に応答速度の優れたNH分析装置を構成することができる。特に、NH→NOx変換は800℃以上の高温条件が必要となることから、本発明に係る触媒ユニットは非常に有用であり、また、流路における圧力損失が殆んどなく試料中の他の成分の吸着・ロスもないことから、未処理流路との応答差が殆んど生じることがない点においても優れている。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、従来困難であった、圧力損失の少ない交換が容易でコンパクトかつ迅速に機能する加熱手段あるいは触媒ユニットを提供することができる。また、こうした加熱手段あるいは触媒ユニットを分析装置に利用することによって、試料中の成分変動にも素早く追随することができ、1の試料流路を複数の流路に分岐し一方に加熱手段あるいは触媒ユニットを配設した場合にあっても、流路間の応答ズレの殆んどない分析装置を提供することができる。特に、自動車排ガス中のNH分析装置のように、従来応答性などの面で全く実用化されていなかった分野では、非常に有用な装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1(A)は、この発明に係る加熱手段の基本的な構成を例示している。加熱部1の内部に流路を形成する管状体2を配し、管状体2の複数の部位に突起部3(具体的には各々を3a,3b,3cで表す)を形成するとともに、該突起部3の流路前後部に平行平坦部4(具体的には各々を4a,4b,4c,4dで表す)を形成する。
【0025】
突起部3を形成する方法としては、例えば、図1(A)のように、管状体2の部位A,B,Cに絞りを設けることで、各々3a,3b,3cの突起部を形成することが可能である。管状体2に絞りを設けて突起部3を形成する場合には、比較的滑らかな形状の突起部3とすることができる。また、突起部3を形成する方法は、これに限定されるものではなく、種々の方法を用いることが可能である。例えば、図1(B)に例示するように、管状体2内部に異径の管状体2aの嵌挿することも可能である。この場合、管状体2aの断面形状は、任意に設定することが可能であり、角部を有する場合(段部を形成することになる)など種々の形状とすることが可能となる。
【0026】
また、図1(B)では、外部流路との接続のために、管状体2の内径と略同じ外径を有する管状体5を挿入している。管状体5の端部5aが、図1(A)における突起部3cと同等の機能を果たすとともに、加熱後のガス体の流速を高めることによって、効率のよい加熱ユニットを構成することができる。
【0027】
ここで、管状体2の管径は、使用流量あるいは加熱手段の大きさなど使用によって任意に設定可能であるが、通常約1L/min程度のガス流量の場合には、内径約φ4〜8mm程度とされる。
【0028】
このときの突起部における現象およびそれに伴う流路内位置による温度変化を、発明者は、その実験結果および知見を基に、図2(A)に示すように推考している。以下、流路内部のガス体の状態を2層あるいは3層に分けて説明する。
【0029】
(1)流路内部のガス体の状態を2層(境界層・中央層)に分けて考えると、
(1−1)当初、平行平坦部4aでの流路内の状態においては、層流に近いガス流を形成する。このとき、管壁に近い流れは境界層を形成し、図2(B)に示すように、比較的伝熱効果が高く短時間に温度上昇を生じ、流路中央層のガスは、境界層のガスからの伝熱によって温度上昇を生じる。
(1−2)次に、突起部3aにおいて、乱流を形成するとともに、境界層にあったガスと中央層にあったガスが混合・移動する。このとき、境界層にあったガスの一部は、温度を幾分低下させながら高温を維持して中央層に移動し、中央層のガスの一部は、境界層にあったガスからの受熱量を増やしながら境界層に移動する。従って、境界層のガス温度は実線Aのように一旦低下し、中央層のガス温度は実線Bのように速やかに上昇する。
(1−3)突起部3aの後段に設けられた平行平坦部4bにおいては、(1−1)と同様、境界層に移動したガスを急速加熱するともに、中央層のガス温度も徐々に上昇する。
(1−4)突起部3b以降は、同様に(1−2)と(1−3)を繰り返すことによって、短時間にガス流全体の昇温を図ることができる。
【0030】
もし突起部がなければ、図2(B)に示すように、境界層のガスは破線A’のような温度勾配、また中央層のガスは破線B’のような温度勾配による温度上昇が生じる一方、本発明においては、境界層のガスは実線A、中央層のガスは実線Bに示すように蛇行的に温度上昇を繰り返す。このとき、突起部3の存在によって、その直後の平行平坦部における境界層のガスの温度上昇勾配が大きくなることから、加熱手段出口のガス流全体の平均温度は、突起部のない場合に比較して大幅に上昇させる、あるいは加熱流路の長さを大幅に短縮することが可能となる。
【0031】
(2)流路内部のガス体の状態を3層(境界層・中間層・中心層)に分けて考えると、
(2−1)平行平坦部4aでの流路内の状態においては、層流に近いガス流を形成する。このとき、図2(B)に示すように、境界層のガスは、比較的伝熱効果が高く短時間に温度上昇を生じ、流路中心層と境界層との中間(中間層)にあるガスは、境界層のガスからの受熱によって温度上昇を生じながら中心層に放熱し、中心層のガスは、中間層からの受熱のみで昇温する。
(2−2)突起部3aにおいて、乱流を形成するとともに、境界層・中間層・中心層にあったガスが相互に混合・移動する。このとき、境界層にあったガスの一部は、温度を幾分低下させながら高温を維持して中間層および中心層に移動する。中間層のガスの一部は、境界層にあったガスからの受熱量を増やしながら境界層に移動すると同時に、一部は温度を幾分低下させながら中心層に移動する。中心層のガスの一部は、境界層あるいは中間層にあったガスからの受熱量を増やしながら境界層あるいは中間層に移動する。
従って、境界層のガス温度は実線Aのように一旦低下し、中間部あるいは中心部のガス温度は実線Bのように速やかに上昇する。
(2−3)突起部3aの後段に設けられた平行平坦部4bにおいては、(2−1)と同様に、境界層に移動したガスを急速加熱するともに、中間部と中心部のガス温度も徐々に上昇する。
(2−4)突起部3b以降は、同様に(2−2)と(2−3)を繰り返すことによって、短時間にガス流全体の昇温を図ることができる。
【0032】
このときの流路内位置と各層の温度との関係は、境界層のガス温度を実線Aのように示し、中間部と中心部の平均ガス温度を実線Bのように示せば、図2(B)とほぼ同様の曲線となり、突起部3の存在によって、加熱手段出口のガス流全体の平均温度を大幅に上昇させる、あるいは加熱流路の長さを大幅に短縮することが可能となる。
【0033】
以上の内容は、図3(A)、(B)に示すように、図2(A)の管内位置4cにおける管径方向の温度分布についての実測データによって実証することができる。突起部3を1つ設けた状態を実線Cで、突起部3がない状態を破線C’で示すように、900℃設定の過熱手段の中心部において、約140℃の温度差が生じている。
【0034】
次に、上記加熱手段を適用し構成された触媒ユニットについて述べる。図4(A)は、上記加熱手段の突起部3bと3cの間の平行平坦部4bの位置に触媒6が配設されている場合を例示する。突起部3a、3bと順に加熱され、所定の温度に十分昇温された条件で触媒6を機能させることが可能となる。
【0035】
触媒6は、使用に応じた任意の形状・組成を選択し、触媒ユニットに設置することが可能であるが、形状面では、図4(A)のように突起部3bと3cとで固定する場合には、メッシュ状触媒が好ましい。触媒6による圧力損失の上昇がなく、フィルタや保持部材などを用いずに固定することができることから、吸着によるロスや応答遅れの発生を防止することが可能となる。また、触媒6の装着・着脱が簡単で、交換が容易である点においても優れている。
【0036】
また、図1(B)の加熱手段を触媒ユニットに適用した構成例を図4(B)に示す。上記突起部3cおよび平行平坦部4cを管状体5に代えたもので、触媒6を配設後、管状体5を嵌装することで触媒6を固定することができる。加熱手段としての利点に加え、管状体5を抜くあるいは位置を変更することで、触媒固定の融通性が高い点あるいは内挿している触媒を容易に取り出し、交換することができる点においても優れている。
【0037】
図5は、上記加熱手段あるいは触媒ユニットを用い、NO分析部として化学発光式分析計(CLD)を用いた分析装置の1つの構成を例示する。試料中のNH測定を例にとると、試料ポンプ7によってサンプル入口から導入された試料は、採取流路中に配設された酸化触媒ユニット8、NO−NO変換ユニット9を経由してNO分析部10に導入され、オゾン分解ユニット11を介して排出される。NO分析部10には酸素源を基にオゾン発生手段12を介してオゾン(O)ガスが供給される。なお、試料中に酸化に必要な十分な酸素がない場合には、所定量の酸素(空気)を添加して試料中の支燃剤を補給し高い酸化反応効率を確保することができる。
【0038】
また、酸化触媒ユニット8およびNO−NO変換ユニット9の直前において試料流路を分岐して、切換弁13aおよび13bを作動し各ユニットへの導入およびパスを切換えることによって、測定成分を選択することができる。つまり、(a)試料を酸化触媒ユニット8およびNO−NO変換ユニット9に導入した場合には試料中のトータル窒素化合物を測定し、(b)酸化触媒ユニット8をパスしNO−NO変換ユニット9に導入したときにはNOxを測定し、(c)両者をパスしたときはNOを測定することができる。従って、これらの切換えを迅速に行うことによって、(a)−(b)=NH、(b)−(c)=NOを測定することができる。
【0039】
このとき、本発明に係る加熱手段あるいは触媒ユニットは、酸化触媒ユニット8、NO−NO変換ユニット9およびオゾン分解ユニット11に適用が可能であり、装置全体のコンパクト化に大きく寄与している。酸化触媒ユニット8では、内部に白金系触媒および/あるいはニッケル系触媒を配し、約800〜900℃の条件で、試料中のアンモニアを酸化する。また、NO−NO変換ユニット9では、内部にカーボン系触媒を配し、約150〜200℃の条件で、試料中のNOをNOに還元・変換する。さらに、オゾン分解ユニット11では、約200〜300℃の条件で、試料中のOを加熱分解して排気ガスを無害化する。本発明に係る加熱手段あるいは触媒ユニットは、こうした種々の温度条件に対しても適用可能であり、特に800℃以上の高温条件にも略同条件で対応できる点において非常に優位性が高い。
【0040】
上記の構成では、NHの酸化触媒として白金系触媒および/あるいはニッケル系触媒を例示したが、他にパラジウム系触媒や銅あるいはクロム系触媒などの酸化触媒の適用も可能である。ただし、メッシュ形状を構成し、かつ酸化効率を所定値(例えば変換効率90%)以上とするには、白金系触媒および/あるいはニッケル系触媒が好ましい。
【0041】
以上のように、本発明に係る分析装置では、NHの吸着が少なく、迅速なNH→NOx変換ができ、未処理試料とのNOx比較測定を行うことによって、非常に応答速度の優れたNH分析装置を構成することができる。また、NO,NO,NOxについても連続測定を行うことが可能である。
【0042】
本発明に係る分析装置の他の構成例を図6に示す。試料中のNH測定を例に取ると、試料ポンプ7によってサンプル入口から導入された試料を2つに分岐し、(d)一方を酸化触媒ユニット8に導入し、(e)他方をそのままの状態で、各々NO−NO変換ユニット9aおよび9bを経由してNO分析部10aおよび10bに導入され、オゾン分解ユニット11aおよび11bを介して排出される。このとき、(d)では試料中のトータル窒素化合物を測定し、(e)ではNOxを測定することができ、(d)−(e)=NHを連続的に測定することができる。また、(f)NO−NO変換ユニット9bの直前において試料流路を分岐して設けた切換弁13bを作動しユニットをパスすることによって、NOを測定することができ、(e)−(f)=NOを測定することができる。また、(g)切換弁13aを作動し酸化触媒ユニット8をパスすることによって、(e)と同様の流路を構成することができ、NOとNOxの同時測定が可能であり、(e)−(f)=NOを測定することができる。なお、試料中に酸化に必要な十分な酸素がない場合には、試料分岐前に所定量の酸素(空気)を添加して試料中の支燃剤を補給し高い酸化反応効率を確保することができる。
【0043】
このとき、本発明に係る酸化触媒ユニット8は、応答性や保守性などに非常に優れた機能を有することから、流路間における応答のズレを非常に小さくすることができ、リアルタイムの測定が可能となる。
【0044】
以上のように、本発明に係る分析装置では、試料採取流路を複数に分岐し、一方の流路に白金系触媒および/あるいはニッケル系触媒を配した本発明に係る触媒ユニットを用いて試料中のNHを酸化することによって、NHの吸着が少なく、迅速なNH→NOx変換ができ、未処理試料とのNOx比較測定を行うことによって、非常に応答性の優れたNH分析装置を構成することができる。また、NH→NOx変換流路における圧力損失や試料中の他の成分の吸着・ロスもないことから、未処理流路との応答差が殆んど生じることがない。また、多少の応答ズレが発生する場合であっても、個々の流路において独立した応答特性を有することから、例えば(d)〜(g)の流路に同一NOガスを導入した時の応答を基に容易に補正するなど、応答ズレの影響を受けずに、精度の高い測定が可能となる。さらに、NO,NO,NOxについても連続測定を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上、この発明は、自動車排気ガス中のNHやNOxを迅速に測定する場合に非常に好適な手段として適用することができる他、各種燃焼炉などの固定排出源を含む各種排気ガス中のNHやNOxあるいはそれ以外の成分の測定、例えば、水素や塩化水素などの測定にも適用可能である。
【0046】
また、幅広い加熱温度領域に対応することができことから、排気ガスに限らず各種プロセスや研究用にも適用が可能であり、例えば、以下のような分野にも適用することができる。
(1)加熱ユニット単体として、触媒評価装置における模擬ガス発生装置
(2)エンジン内部の加熱状態におけるガスの挙動解析装置
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る加熱手段の基本的な構成を示す説明図。
【図2】本発明に係る加熱手段内部の温度分布を概略的に示す説明図。
【図3】本発明に係る加熱手段内部の管径方向の温度分布実測データを示す説明図。
【図4】本発明に係る触媒ユニットの基本的な構造を示す説明図。
【図5】本発明に係る分析装置の基本的な構成を示す説明図。
【図6】本発明に係る分析装置の他の構成例を示す説明図。
【図7】従来技術に係る分析装置の構成を概略的に示す説明図。
【符号の説明】
【0048】
1 加熱部
2、5 管状体
3 突起部
4 平行平坦部
6 触媒
7 試料ポンプ
8 酸化触媒ユニット
9 NO−NO変換ユニット
10 NO分析部
11 オゾン分解ユニット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流路を有する加熱手段であって、該流路内に少なくとも1つの突起部あるいは段部を設けるとともに、該突起部あるいは段部の流路前後部に、流路中心線と平行かつ平坦な所定長の領域の内面を有することを特徴とする加熱手段。
【請求項2】
前記加熱手段内の流路が所定の径を有する1の管状体で形成されるとともに、該1の管状体の内径と略同じ外径を有する他の管状体を挿入して外部流路との接続を行うことを特徴とする請求項1記載の加熱手段。
【請求項3】
請求項1または2記載の加熱手段を用いた触媒ユニットであって、前記突起部あるいは段部を固定手段としてメッシュ形状の触媒を配することを特徴とする触媒ユニット。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の加熱手段あるいは触媒ユニットを用いた分析装置であって、試料採取流路を複数に分岐し、その少なくとも1つの流路に前記加熱手段あるいは触媒ユニットを配置することを特徴とする分析装置。
【請求項5】
前記加熱手段あるいは触媒ユニットの内部に、白金系触媒および/あるいはニッケル系触媒を配し、試料中のアンモニアを酸化することを特徴とする請求項4記載の分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−53034(P2006−53034A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234595(P2004−234595)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】