説明

加熱炉

【課題】炉内空間の温度分布をより均一に保つと共に、エネルギー効率の高い加熱炉を提供する。
【解決手段】加熱炉1は、被加熱物100を加熱する炉内空間30と、炉内空間30を形成する内壁面40と、を備え、内壁面40は、炉内空間30内の被加熱物100を挟んで互いに対向する第1の内壁面41および第2の内壁面42を有し、第1の内壁面41は、被加熱物100の搬送方向Tの上流側に第1の傾斜部41aを有すると共に搬送方向Tの下流側に第2の傾斜部41bを有し、第2の内壁面42は、搬送方向Tの上流側に第3の傾斜部42aを有すると共に搬送方向Tの下流側に第4の傾斜部42bを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種物品を加熱する加熱炉に関し、特に煎餅や焼き菓子等の食品の焼成に用いられる加熱炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、煎餅や焼き菓子等の食品の製造においては、生地を加熱して焼成する焼成工程が必要となっており、この焼成工程においては様々な種類の加熱炉が使用されている。このような加熱炉には、バッチ式のものと連続式のものがあるが、生産性を向上させるためには、連続式の加熱炉を使用することが望ましい。
【0003】
このため、焼き菓子等の一般的な製造ラインにおいては、加熱条件に応じて複数の領域に区画されたトンネル状の加熱炉の内部を、チェーンコンベア等によって被加熱物を搬送しながら加熱、焼成を行うように構成された加熱炉が多く使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−295930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食品の焼成においては、炉内空間の温度分布を均一な状態に保ち、被加熱物を均一に加熱することが重要である。加熱にムラが生じた場合、最終製品の風味や食感が変化するばかりでなく、焦げ目や変形等の発生により美観が損なわれるなど、品質低下の一因となる。
【0006】
このため、例えば上記特許文献1に記載の発明では、炉内に複数の温度センサを配置し、これらの温度センサの測定結果に基づいてバーナ等への燃料および空気の供給量を制御し、炉内の温度を一定に保つようにしている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明では、温度分布を均一にするための炉内空間の形状、および加熱手段からの熱の供給方向が考慮されていないため、そもそも炉内空間において温度変化が生じやすいという問題があった。このため、炉内空間の温度分布を均一に保つためにはバーナ等の燃焼制御を頻繁に行わなければならず、エネルギー効率が悪化してランニングコストが高騰するという問題が生じていた。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、炉内空間の温度分布をより均一に保つと共に、エネルギー効率の高い加熱炉を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、被加熱物を加熱する炉内空間と、前記炉内空間を形成する内壁面と、を備え、前記内壁面は、前記炉内空間内の被加熱物を挟んで互いに対向する第1の内壁面および第2の内壁面を有し、前記第1の内壁面は、前記被加熱物の搬送方向の上流側に第1の傾斜部を有すると共に前記搬送方向の下流側に第2の傾斜部を有し、前記第2の内壁面は、前記搬送方向の上流側に第3の傾斜部を有すると共に前記搬送方向の下流側に第4の傾斜部を有し、前記第1の傾斜部および前記第2の傾斜部は、前記第1の内壁面の中心から前記搬送方向に沿って遠ざかるに従って漸次前記第2の内壁面に近づくように形成され、前記第3の傾斜部および前記第4の傾斜部は、前記第2の内壁面の中心から前記搬送方向に沿って遠ざかるに従って漸次前記第1の内壁面に近づくように形成されることを特徴とする、加熱炉である。
【0010】
(2)本発明はまた、前記第1の傾斜部および前記第2の傾斜部は、互いに対称に形成され、前記第3の傾斜部および前記第4の傾斜部は、互いに対称に形成されることを特徴とする、上記(1)に記載の加熱炉である。
【0011】
(3)本発明はまた、前記第1の内壁面および前記第2の内壁面は、互いに対称に形成されることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の加熱炉である。
【0012】
(4)本発明はまた、前記第1の内壁面および前記第2の内壁面は、前記搬送方向に直交する方向の寸法が、前記搬送方向の寸法以上に形成されることを特徴とする、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の加熱炉である。
【0013】
(5)本発明はまた、前記第1の内壁面または前記第2の内壁面に配置され、熱を発する発熱面によって前記被加熱物を加熱する加熱装置をさらに備え、前記加熱装置は、前記第1の内壁面における前記第1の内壁面の中心よりも前記搬送方向の上流側もしくは下流側、または前記第2の内壁面における前記第2の内壁面の中心よりも前記搬送方向の上流側もしくは下流側に配置されると共に、前記発熱面が前記炉内空間の中心側に向くように傾斜して配置されることを特徴とする、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の加熱炉である。
【0014】
(6)本発明はまた、前記加熱装置は、前記第1の内壁面における前記搬送方向の上流側および下流側にそれぞれ配置されると共に、前記第2の内壁面における前記搬送方向の上流側および下流側にそれぞれ配置されることを特徴とする、上記(5)に記載の加熱炉である。
【0015】
(7)本発明はまた、前記搬送方向の上流側に設けられ、前記被加熱物を前記炉内空間に搬入する開口である搬入口と、前記搬送方向の下流側に設けられ、前記被加熱物を前記炉内空間から搬出する開口である搬出口と、をさらに備えることを特徴とする、上記(5)または(6)に記載の加熱炉である。
【0016】
(8)本発明はまた、前記加熱装置は、前記第1の内壁面においては、前記第1の内壁面の前記搬送方向の上流側端部または下流側端部よりも前記第1の内壁面の中心に近接して配置され、前記第2の内壁面においては、前記第2の内壁面の前記搬送方向の上流側端部または下流側端部よりも前記第2の内壁面の中心に近接して配置されることを特徴とする、上記(5)乃至(7)のいずれかに記載の加熱炉である。
【0017】
(9)本発明はまた、前記発熱面は、長手方向が前記搬送方向に直交すると共に、幅方向が前記搬送方向に対して傾斜するように配置されることを特徴とする、上記(5)乃至(8)のいずれかに記載の加熱炉である。
【0018】
(10)本発明はまた、前記加熱装置は、複数が前記炉内空間の中心に対して対称に配置されることを特徴とする、上記(5)乃至(9)のいずれかに記載の加熱炉である。
【0019】
(11)本発明はまた、前記発熱面の前記搬送方向に対する傾斜角度は、10〜30°であることを特徴とする、上記(5)乃至(10)のいずれかに記載の加熱炉である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る加熱炉によれば、炉内空間の温度分布をより均一に保つと共に、エネルギー効率を高めることが可能という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る加熱炉を正面から見た概略断面図である。
【図2】加熱炉を右側面から見た概略断面図である。
【図3】(a)および(b)炉内空間の形状および発熱面の配置を示した概略図である。
【図4】(a)〜(d)本願の発明者が行ったシミュレーションの一例を示した図である。
【図5】(a)および(b)炉内空間のxy平面におけるその他の断面形状の例を示した概略図である。
【図6】(a)および(b)炉内空間のxy平面におけるその他の断面形状の例を示した概略図である。
【図7】(a)および(b)炉内空間のyz平面におけるその他の断面形状の例を示した概略図である。(c)発熱面をz方向に対しても傾斜させるようにした例を示した概略図である。
【図8】(a)〜(c)加熱炉の使用態様の例を示した概略図である。
【図9】(a)および(b)比較例の従来の加熱炉を示した概略図である。
【図10】(a)および(b)本発明の実施例の加熱炉を示した概略図である。
【図11】加熱試験の結果を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【0023】
まず、本実施形態に係る加熱炉1の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る加熱炉1を正面から見た概略断面図であり、図2は、加熱炉1を右側面から見た概略断面図である。なお、以下の説明では、加熱炉1を正面から見た場合の左右水平方向をx方向、垂直方向をy方向、前後水平方向をz方向とする。従って、図1は加熱炉1のxy平面における断面図であり、図2は加熱炉1のyz平面における断面図である。
【0024】
これらの図に示されるように、加熱炉1は、上部炉壁10と、下部炉壁11と、左側炉壁12と、右側炉壁13と、前部炉壁14と、後部炉壁15(以下、まとめて炉壁10〜15と呼ぶ場合がある)と、加熱装置20とを備えている。また、左側炉壁12には、横長の略長方形状の開口である搬入口12aが設けられ、右側炉壁13には、この搬入口12aと略同形状の開口である搬出口13aが搬入口12aに対向する位置に設けられている。
【0025】
本実施形態の加熱炉1は、複数の被加熱物100を搬送装置110によって炉内空間30内を搬送しながら加熱する連続式の加熱炉である。すなわち、被加熱物100は、搬送装置110によって搬入口12aを通して炉内空間30内に搬入され、炉内空間30内を移動しながら加熱装置20によって所定の時間加熱された後に、搬出口13aを通して外部に搬出されるようになっている。従って、本実施形態では、被加熱物100の搬送方向Tは、搬入口12aから搬出口13aへと水平に向かう方向(x正方向)となっている。
【0026】
炉壁10〜15は、それぞれアングルとプレートから構成された外殻の内側に抗火石を配置した構造となっており、抗火石のさらに内側に押え金網を配置することで抗火石が脱落しないように構成されている。炉壁10〜15のうち、左側炉壁12、右側炉壁13、前部炉壁14および後部炉壁15は、垂直方向に立設された略平板状の壁であり、上部炉壁10および下部炉壁11は、前後水平方向に延設された正面視の形状が略V字状(開いたコの字状)の壁となっている。
【0027】
上部炉壁10および下部炉壁11には、それぞれ2つの加熱装置20が開口内部に嵌め込むようにして配置されている。また、上部炉壁10および下部炉壁11の外側には、外部カバー10a、11aが適宜に設けられている。この外部カバー10aと上部炉壁10の間、および外部カバー11aと下部炉壁11の間には、必要に応じて断熱材が配置される。
【0028】
被加熱物100を加熱する空間である炉内空間30は、炉壁10〜15の内側面を組み合わせた内壁面40によって形成されている。そして、本実施形態では、内壁面40のうち上部炉壁10によって構成される第1の内壁面41の正面から見た左右両側部分を略ハの字状に傾斜させると共に、下部炉壁11によって構成される第2の内壁面42の正面から見た左右両側部分を略逆ハの字状に傾斜させるようにしている。
【0029】
具体的には、第1の内壁面41における搬送方向Tの上流側に、上流側が下がった第1の傾斜部41aを設け、第1の内壁面41における搬送方向Tの下流側に、下流側が下がった第2の傾斜部41bを設けている。また、第2の内壁面42における搬送方向Tの上流側に、上流側が上がった第3の傾斜部42aを設け、第2の内壁面42における搬送方向Tの下流側に、下流側が上がった第4の傾斜部42bを設けている。詳細は後述するが、炉内空間30内の被加熱物100を挟んで互いに対向する第1の内壁面41および第2の内壁面42をこのように傾斜させることで、炉内空間30の温度分布をより均一にすると共にエネルギー効率(熱効率)を高めることが可能となっている。
【0030】
加熱装置20は、被加熱物100を加熱するための熱を発する発熱面21を備えて構成されており、本実施形態では赤外線バーナから構成されている。具体的には、加熱装置20は、多数の微細孔を有する略矩形状のセラミックスプレートを長手方向に沿って複数配置し、これらセラミックスプレートの表面で燃料ガスと空気の混合気を燃焼させるように構成されている。従って、本実施形態では、発熱面21はセラミックスプレートの表面であり、この発熱面21が発する熱(主に赤外線の放射)によって被加熱物100を加熱するようになっている。なお、燃料ガスおよび空気は、それぞれ図示を省略した供給源から供給される。
【0031】
加熱装置20は、第1の内壁面41の第1の傾斜部41aおよび第2の傾斜部41b、ならびに第2の内壁面の第3の傾斜部42aおよび第4の傾斜部42bにそれぞれ配置されている。すなわち、本実施形態の加熱炉1は、4つの加熱装置20を備えており、被加熱物100を上下両方から加熱するように構成されている。
【0032】
なお、本実施形態では、加熱炉1の前後方向(z方向)の寸法を比較的長く構成しているため、図2に示されるように、発熱面21(セラミックスプレート)の長さの等しい2つのバーナ20a、20bを、所定の間隔を空けて直列に配列することで1つの加熱装置20を構成している。このように、所定の間隔を空けて2つのバーナ20a、20bを配置することで、炉内空間30の中心部分が過剰に加熱されるのを防止することができる。すなわち、炉内空間30の温度分布をより均一にすることが可能となる。なお、2つのバーナ20a、20bの長さおよび両者の間隔の大きさは、特に限定されるものではなく、炉内空間の大きさや、バーナ20a、20bの性能等に応じて適宜に設定すればよい。
【0033】
4つの加熱装置20は、それぞれ長手方向をz方向と平行にした状態で、発熱面21が炉内空間30の中心側を向くようにxy平面内で傾斜して配置されている。また、第1の内壁面41に配置された2つの加熱装置20は、x方向において第1の内壁41の中心側寄りにそれぞれ配置され、第2の内壁面42に配置された2つの加熱装置20は、x方向において第2の内壁42の中心側寄りにそれぞれ配置されている。詳細は後述するが、加熱装置20をこのように配置することで、炉内空間30の温度分布をより均一にすると共にエネルギー効率を高めることが可能となっている。
【0034】
なお、図示は省略するが、本実施形態の搬送装置110は、被加熱物100を載置した金網状の無端ベルトをスプロケットにより走行させることで、複数の被加熱物100を連続的に搬送するベルトコンベヤ方式となっている。但し、本実施形態はこれに限定されるものではなく、搬送装置110は、例えばチェンコンベヤやウォーキングビーム等の他の方式のものであってもよい。
【0035】
次に、炉内空間30の形状および発熱面21の配置の詳細について説明する。図3(a)および(b)は、炉内空間30の形状および発熱面21の配置を示した概略図である。なお、同図(a)は、炉内空間30を正面から見た概略断面図であり、同図(b)は、炉内空間30を右側面から見た概略断面図である。同図(a)に示されるように、炉内空間30のxy平面における断面形状は、略八角形状に構成されており、同図(b)に示されるように、炉内空間30のyz平面における断面形状は、略四角形状に構成されている。すなわち、炉内空間30は、略八角柱状に構成されている。
【0036】
炉内空間30を形成する内壁面40の天井部分である第1の内壁面41は、x方向負側(すなわち搬送方向Tの上流側に)第1の傾斜部41aを有し、x方向正側(すなわち搬送方向Tの下流側に)第2の傾斜部41bを有している。第1の傾斜部41aは、z方向と平行且つx方向に対して角度θ1だけ傾斜するように形成されており、第1の内壁面41の中心O1からx負方向に遠ざかるに従って漸次第2の内壁面42に近づくように構成されている。また、第2の傾斜部41bは、z方向と平行且つx方向に対して角度θ2だけ傾斜するように形成されており、第1の内壁面41の中心O1からx正方向に遠ざかるに従って漸次第2の内壁面42に近づくように構成されている。
【0037】
同様に、炉内空間30を形成する内壁面40の底部分である第2の内壁面42は、x方向負側(すなわち搬送方向Tの上流側に)第3の傾斜部42aを有し、x方向正側(すなわち搬送方向Tの下流側に)第4の傾斜部42bを有している。第3の傾斜部42aは、z方向と平行且つx方向に対して角度θ3だけ傾斜するように形成されており、第2の内壁面42の中心O2からx負方向に遠ざかるに従って漸次第1の内壁面41に近づくように構成されている。また、第4の傾斜部42bは、z方向と平行且つx方向に対して角度θ4だけ傾斜するように形成されており、第2の内壁面42の中心O2からx正方向に遠ざかるに従って漸次第1の内壁面41に近づくように構成されている。
【0038】
本願の発明者が行った種々のシミュレーションや実験によれば、このように第1の内壁面41および第2の内壁面42に第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bを設けることにより、炉内空間30内の空気を適宜に対流循環させることができるため、従来以上に炉内空間30の温度分布を均一化すると共にエネルギー効率(熱効率)を高めることが可能となる。また、炉内空間30の温度分布をより均一にすると共にエネルギー効率を高めるためには、炉内空間30の形状は、炉内空間30の中心Oに対して対称的な形状であることが好ましい。
【0039】
このため、本実施形態では、第1の傾斜部41aおよび第2の傾斜部41bを互いに対称に形成すると共に、第3の傾斜部42aおよび第2の傾斜部42bを互いに対称に形成している。さらに、第1の内壁面41および第2の内壁面42についても互いに対称に形成している。すなわち、傾斜角度θ1〜θ4は全て同じ角度となっている。
【0040】
ここで、θ1〜θ4の値は、特に限定されるものではないが、本願の発明者が行った種々のシミュレーションや実験によれば、炉内空間30の温度分布およびエネルギー効率をより向上させるためには、θ1〜θ4は10〜30°の範囲内であることが好ましく、本実施形態では、θ1〜θ4を全て20°としている。
【0041】
また、本願の発明者が行った種々のシミュレーションや実験によれば、炉内空間30のy方向寸法Lyおよびx方向寸法Lxの比は、炉内空間30の温度分布およびエネルギー効率をより向上させるためには、Ly:Lx=1:1.2〜1.5の範囲内であることが好ましい。
【0042】
発熱面21は、細長い略長方形状に構成されており、長手方向がz方向と平行となるように配置されている。そして、発熱面21は、第1の内壁面41においては第1の内壁面41の中心O1よりも外側、すなわち第1の内壁面41の中心O1に対してx方向正側およびx方向負側にそれぞれ配置されている。また、発熱面21は、第2の内壁面42においては第2の内壁面42の中心O2よりも外側、すなわち第2の内壁面42の中心O2に対してx方向正側およびx方向負側にそれぞれ配置されている。
【0043】
そして、第1の内壁面41において各発熱面21は、x方向において第1の内壁面41のx方向負側端部41cおよびx方向正側端部41dよりも第1の内壁面41の中心O1に近い位置に配置されると共に、第2の内壁面42において各発熱面21は、x方向において第2の内壁面42のx方向負側端部42cおよびx方向正側端部42dよりも第2の内壁面42の中心O2に近い位置に配置されている。
【0044】
本願の発明者が行った種々のシミュレーションや実験によれば、炉内空間30の温度分布をより均一にすると共にエネルギー効率を高めるためには、発熱面21の配置は、炉内空間30の形状と同様に、炉内空間30の中心Oに対して対称であることが好ましい。このため、本実施形態では、発熱面21を炉内空間の中心Oに対して対称に配置している。
【0045】
また、各発熱面21は、炉内空間の中心O側を向くように、それぞれ幅方向がx方向に対して同一の角度で傾斜した状態で配置されている。具体的には、各発熱面21は、xy平面内において幅方向がx方向に対して角度θ5だけ傾斜、換言すれば、図3(a)に示されるように、発熱面21の法線方向がy方向に対して角度θ5だけ傾斜した状態でそれぞれ配置されている。
【0046】
ここで、発熱面21の傾斜角度θ5は、特に限定されるものではないが、本願の発明者が行った種々のシミュレーションや実験によれば、炉内空間30の温度分布をより均一にすると共にエネルギー効率を高めるためには、傾斜角度θ5の値は10〜30°の範囲内であることが好ましく、15〜25°の範囲内であればより好ましい。このため、本実施形態では、発熱面21の傾斜角度θ5をθ1〜θ4と等しい20°としている。従って、各発熱面21は、自身が配置された第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bと平行となっている。
【0047】
図4(a)〜(d)は、本願の発明者が行ったシミュレーションの一例を示した図である。このシミュレーションにおいては、炉内空間30のxy平面における断面形状を六角形状に設定すると共に、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bの傾斜角度θ1〜θ4を10°に設定している。そして、被加熱物100の搬送に伴う搬入口12aからの外気の流入および搬出口13aからの炉内空気の流出を設定し、4つの加熱装置20が有する発熱面21の傾斜角度θ5および配置を変更した場合の炉内空間30の温度分布を有限要素法によって計算した。
【0048】
上述のように、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bを設けることによって炉内空間30内の空気を適宜に対流循環させることができるため、炉内空間30の温度分布は、同図(a)〜(d)のいずれの例においてもある程度均一に保つことが可能となっている。しかしながら、搬入口12aからの外気の流入および搬出口13aからの炉内空気の流出の影響により、同図(a)〜(d)のいずれの例においても、搬入口12a近傍に温度勾配が生じている。
【0049】
本願の発明者は、この温度勾配が生じる範囲を、発熱面21の傾斜角度θ5および配置を工夫することによって縮小可能であることを見出した。具体的には、まず同図(a)に示される例においては、発熱面21の傾斜角度θ5を5°に設定しており、この場合、炉内空間30の中心Oにまで到達する比較的広い範囲にわたって温度勾配が生じている。
【0050】
次に、同図(b)に示される例においては、発熱面21の傾斜角度θ5を10°に設定、すなわち発熱面21を第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bと平行となるようにしている。この例では、同図(a)に示される例よりも温度勾配が生じる範囲が縮小している。そして、同図(c)に示される例においては、発熱面21の傾斜角度θ5を20°に設定しており、この場合、同図(b)に示される例よりもさらに温度勾配が生じる範囲が縮小されている。
【0051】
また、同図(d)に示される例においては、発熱面21の傾斜角度θ5を10°に設定すると共に、各発熱面21を同図(b)に示される例よりもx方向に離隔させて配置している。このようにした場合、温度勾配が生じる範囲がx方向に伸びてしまい、同図(b)および同図(a)に示される例よりも広い範囲にわたって温度勾配が生じている。
【0052】
本願の発明者は、このようなコンピュータによるシミュレーションと共に、シミュレーション結果に基づく実機による実験を繰り返すことにより、(1)発熱面21を第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bと共に炉内空間30の中心O側に向けて傾斜させること、(2)発熱面21の傾斜角度θ5を10〜30°、より好ましくは15〜25°の範囲内とすること、(3)各発熱面21をx方向(搬送方向T)において炉内空間30の中心O側に寄せて互いに近接させて配置すること、および(4)発熱面21を炉内空間30の中心Oに対して対称に配置すること等が、搬入口12aおよび搬出口13aからの空気の流入、流出がある場合において炉内空間30の温度分布を均一化すると共にエネルギー効率を高めるのに効果的であることを見出した。
【0053】
本実施形態では、従来顧みられることのなかったこのような新しい知見に基づいて、加熱炉1における炉内空間30の形状および発熱面21の配置を、図3において説明した形状および配置に設定している。さらに、本実施形態では、加熱装置20を上部炉壁10および下部炉壁11内に埋め込むようにして配置することで、加熱装置20と第1の内壁面41および第2の内壁面42の間に熱気が滞留するのを防止し、よりエネルギー効率を高めるようにしている。
【0054】
また、各発熱面21を第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bに配置すると共に、発熱面21の傾斜角度θ5と第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bの傾斜角度θ1〜θ4を揃えることで、よりスムーズな対流循環を実現するようにしている。
【0055】
次に、炉内空間30および発熱面21のその他の形態について説明する。図5(a)および(b)、ならびに図6(a)および(b)は、炉内空間30のxy平面におけるその他の断面形状の例を示した概略図である。上述の例では、炉内空間30のxy平面における断面形状を略八角形状とした例を示したが、炉内空間30のxy平面における断面形状はこれに限定されるものではなく、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bを有する形状であれば、どのような形状であってもよい。
【0056】
例えば、図5(a)に示されるように、炉内空間30のxy平面における断面形状は、略六角形状であってもよい。また、図5(b)に示されるように、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bをそれぞれ2つの異なる傾斜角度の領域から構成することにより、炉内空間30のxy平面における断面形状を略十二角形状に構成するようにしてもよい。
【0057】
具体的には、この図5(b)に示される例では、第1の傾斜部41aは、互いに傾斜角度の異なる第1の領域41a1および第2の領域41a2から構成され、第2の傾斜部41bは、互いに傾斜角度の異なる第1の領域41b1および第2の領域41b2から構成されている。また、第3の傾斜部42aは、互いに傾斜角度の異なる第1の領域42a1および第2の領域42a2から構成され、第4の傾斜部42bは、互いに傾斜角度の異なる第1の領域42b1および第2の領域42b2から構成されている。
【0058】
なお、図5(b)では、外側の第2の領域41a2、41b2、42a2、42b2の傾斜角度を内側(中心O1、O2側)の第1の領域41a1、41b1、42a1、42b1の傾斜角度よりも大きくしているが、内側の第1の領域41a1、41b1、42a1、42b1の傾斜角度を外側の第2の領域41a2、41b2、42a2、42b2の傾斜角度よりも大きくするようにしてもよい。また、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bを3つ以上の異なる傾斜角度の領域から構成するようにしてもよいことは言うまでもない。
【0059】
また、第1の内壁面41および第2の内壁面42において第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bを設ける位置および範囲は、特に限定されるものではなく、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bは、どのような位置および範囲に設けられるものであってもよい。例えば、図6(a)に示されるように、第1の傾斜部41aと第2の傾斜部41bの間の傾斜していない領域、および第3の傾斜部42aと第4の傾斜部42bの間の傾斜していない領域の範囲を広げるようにしてもよい。また、図6(b)に示されるように、第1の傾斜部41aおよび第2の傾斜部41bを近接させると共に第3の傾斜部42aおよび第4の傾斜部42bを近接させ、傾斜していない領域の間に第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bを設けるようにしてもよい。
【0060】
図7(a)および(b)は、炉内空間30のyz平面におけるその他の断面形状の例を示した概略図である。上述の例では、炉内空間30のyz平面における断面形状を略四角形状とした例を示したが、炉内空間30のyz平面における断面形状はこれに限定されるものではなく、xy平面における断面形状と同様に、z方向に対して傾斜した傾斜部を設けるようにしてもよい。
【0061】
例えば、同図(a)に示されるように、第1の内壁面41にz方向に対して傾斜した第5の傾斜部41eおよび第6の傾斜部41fを設けると共に、第2の内壁面42にz方向に対して傾斜した第7の傾斜部42eおよび第8の傾斜部42fを設けるようにしてもよい。また、同図(b)に示されるように、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bをx方向に対してだけではなくz方向に対しても傾斜させるようにしてもよい。
【0062】
この場合、炉内空間30のyz平面における断面形状は、図5および6において説明したような種々の形状を採用可能であることは言うまでもない。また、炉内空間30のxy平面における断面形状とyz平面における断面形状を等しくするようにしてもよいし、異なるようにしてもよい。
【0063】
図7(c)は、発熱面21をz方向に対しても傾斜させるようにした例を示した概略図である。この例では、加熱装置20を間隔を狭めた長尺のバーナ20aおよび短尺のバーナ20bから構成すると共に、バーナ20a、20bをそれぞれz方向に対して傾斜させることで、発熱面21をx方向だけでなくz方向に対しても傾斜させるようにしている。このように、発熱面21は、z方向に対しても傾斜して配置されるものであってもよい。
【0064】
このようにすることで、2つのバーナ20a、20bの間隔を小さくした場合にも、搬送装置110の幅方向(z方向)において発熱面21から搬送装置110上の被加熱物100までの距離を適宜に調節することができるため、搬送装置110の幅方向両端部に載置された被加熱物100の加熱量と、中央部に載置された被加熱物100の加熱量とをより高精度にバランスさせることが可能となる。
【0065】
なお、この場合、加熱装置20が配置される第1の内壁面41および第2の内壁面42の傾斜と共に発熱面21をz方向に対して傾斜させるようにしてもよいし、第1の内壁面41および第2の内壁面42をz方向に対して傾斜させることなく、発熱面21のみをz方向に対して傾斜させるようにしてもよい。また、同図(c)に示す例では、互いに長さの異なるバーナ20a、20bから1つの加熱装置20を構成しているが、長さの等しい2つのバーナ20a、20bをz方向に対して傾斜させるようにしてもよく、2つのバーナ20a、20bの間隔を大きくした場合において、さらにz方向に対して傾斜させるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0066】
次に、加熱炉1の使用態様について説明する。図8(a)〜(c)は、加熱炉1の使用態様の例を示した概略図である。本実施形態の加熱炉1は、被加熱物100の搬送方向T、すなわちx方向の寸法よりも、水平面内において搬送方向Tに直交するZ方向の寸法が長い場合に特に好適である。従って、加熱炉1は、単独で使用される場合はもちろん、同図(a)に示されるように、搬送方向Tに沿って複数が直列に配置されて使用される場合に、特に好適である。このような使用態様の例としては、例えば煎餅等の米菓の焼成において、生地を搬送しながら加熱冷却を繰り返す工程が挙げられ、このような工程における使用が加熱炉1にとって特に好適である。
【0067】
また、同図(b)に示されるように、加熱炉1は、搬送方向Tに沿って複数を一体的に連結することによって、複数の領域(すなわち炉内空間30)に区画された1つのトンネル状加熱炉2を構成するものであってもよい。また、上述の例では、搬送方向Tを水平方向とした例を示したが、同図(c)に示されるように、搬送方向Tを垂直方向とするようにしてもよい。この場合、同図(c)に示されるように、加熱炉1をxy平面内において90°転回させた状態で設置するようにすればよい。なお、搬送方向Tを垂直方向とした場合においても、上述のように複数の加熱炉1を搬送方向Tに沿って配列または連結するようにしてもよいことは言うまでもない。また、搬送方向Tは、斜め方向であってもよい。
【0068】
以上説明したように、本実施形態に係る加熱炉1は、被加熱物100を加熱する炉内空間30と、炉内空間30を形成する内壁面40と、を備え、内壁面40は、炉内空間30内の被加熱物100を挟んで互いに対向する第1の内壁面41および第2の内壁面42を有し、第1の内壁面41は、被加熱物100の搬送方向Tの上流側に第1の傾斜部41aを有すると共に搬送方向Tの下流側に第2の傾斜部41bを有し、第2の内壁面42は、搬送方向Tの上流側に第3の傾斜部42aを有すると共に搬送方向Tの下流側に第4の傾斜部42bを有し、第1の傾斜部41aおよび第2の傾斜部41bは、第1の内壁面41の中心O1から搬送方向Tに沿って遠ざかるに従って漸次第2の内壁面42に近づくように形成され、第3の傾斜部42aおよび第4の傾斜部42bは、第2の内壁面42の中心O2から搬送方向Tに沿って遠ざかるに従って漸次第1の内壁面41に近づくように形成されている。
【0069】
このような構成とすることで、炉内空間30内の空気(またはその他の気体)を適宜に対流循環させることが可能となり、複雑な温度制御等を行わなくても従来以上に炉内空間30の温度分布を均一化すると共にエネルギー効率(熱効率)を高めることができる。
【0070】
また、第1の傾斜部41aおよび第2の傾斜部41bは、互いに対称に形成され、第3の傾斜部42aおよび第4の傾斜部42bは、互いに対称に形成されることが好ましい。このようにすることで、炉内空間30内の空気をスムーズにムラなく対流循環させることができる。さらに、第1の内壁面41および第2の内壁面42は、互いに対称に形成されることが好ましく、このようにすることで、炉内空間30内の空気をよりスムーズにムラなく対流循環させることができる。
【0071】
また、第1の内壁面41および第2の内壁面42は、搬送方向Tに直交する方向の寸法が、搬送方向Tの寸法以上に形成されることが好ましい。すなわち、本発明は、搬送方向Tの寸法が比較的短い加熱炉に対して特に好適であり、このような加熱炉においても、従来以上に炉内空間30の温度分布を均一化すると共にエネルギー効率を高めることができる。
【0072】
また、加熱炉1は、第1の内壁面41または第2の内壁面42に配置され、熱を発する発熱面21によって被加熱物100を加熱する加熱装置20をさらに備え、加熱装置20は、第1の内壁面41における第1の内壁面41の中心O1よりも搬送方向Tの上流側もしくは下流側、または第2の内壁面42における第2の内壁面42の中心O2よりも搬送方向Tの上流側もしくは下流側に配置されると共に、発熱面21が炉内空間30の中心O側に向くように傾斜して配置されている。
【0073】
このようにすることで、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bとの相乗効果により、搬入口12aからの外気の流入および搬出口13aからの炉内空気の流出がある場合においても、炉内空間30の温度分布を均一化すると共にエネルギー効率を高めることができる。
【0074】
また、加熱装置20は、第1の内壁面41における搬送方向Tの上流側および下流側にそれぞれ配置されると共に、第2の内壁面42における搬送方向Tの上流側および下流側にそれぞれ配置されている。このようにすることで、搬入口12aおよび搬出口13aからの空気の流入、流出の影響をより効果的に軽減することができる。
【0075】
また、加熱炉1は、搬送方向Tの上流側に設けられ、被加熱物100を炉内空間30に搬入する開口である搬入口12aと、搬送方向Tの下流側に設けられ、被加熱物100を炉内空間30から搬出する開口である搬出口13aと、をさらに備えている。本発明は、搬入口12aからの外気の流入および搬出口13aからの炉内空気の流出の影響を軽減することができるため、このように搬入口12aおよび搬出口13aが常時開放されているような場合に、特に好適である。
【0076】
また、加熱装置20は、第1の内壁面41においては、第1の内壁面41の搬送方向Tの上流側端部(x方向負側端部41c)または下流側端部(x方向正側端部41d)よりも第1の内壁面41の中心O1に近接して配置され、第2の内壁面42においては、第2の内壁面42の搬送方向Tの上流側端部(x方向負側端部42c)または下流側端部(x方向正側端部42d)よりも第2の内壁面42の中心O2に近接して配置されている。このようにすることで、搬入口12aおよび搬出口13aからの空気の流入、流出の影響をより効果的に軽減することができる。
【0077】
また、発熱面21は、長手方向が搬送方向Tに直交すると共に、幅方向が搬送方向Tに対して傾斜するように配置されている。本発明は、このように搬送方向Tに対して横長に発熱面21を配置する場合に、特に好適である。
【0078】
また、加熱装置20は、複数が炉内空間30の中心Oに対して対称に配置されている。このようにすることで、搬入口12aおよび搬出口13aからの空気の流入、流出の影響をより効果的に軽減すると共に、炉内空間30の温度分布およびエネルギー効率をより向上させることができる。
【0079】
また、発熱面21の搬送方向Tに対する傾斜角度θ5は、10〜30°であることが好ましい。このようにすることで、搬入口12aおよび搬出口13aからの空気の流入、流出の影響をより効果的に軽減することができる。
【0080】
なお、本実施形態では、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bを平面から構成した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bは曲面から構成されるものであってもよい。また、内壁面40の他の部分を曲面から構成するようにしてもよい。
【0081】
また、本実施形態では、第1の傾斜部41aおよび第2の傾斜部41bを互いに対称に形成し、第3の傾斜部42aおよび第4の傾斜部42bを互いに対称に形成した例を示したが、加熱装置20の構成や被加熱物100の加熱態様等によっては、第1の傾斜部41aおよび第2の傾斜部41bを互いに非対称に形成、または第3の傾斜部42aおよび第4の傾斜部42bを互いに非対称に形成するようにしてもよい。
【0082】
また、本実施形態では、第1の内壁面41および第2の内壁面42を互いに対称に形成した例を示したが、例えば炉内空間30のxy平面における断面形状を七角形状に構成する等、第1の内壁面41および第2の内壁面42を互いに非対称に形成するようにしてもよい。
【0083】
また、本実施形態では、4つの加熱装置20を備える例を示したが、加熱装置20の個数はこれ以外の個数であってもよい。また、複数の加熱装置20を設ける場合、搬送方向Tに対して発熱面21を傾斜させないものを含めるようにしてもよい。
【0084】
また、本実施形態では、複数の加熱装置20を炉内空間30の中心Oに対して対称に配置した例を示したが、加熱装置20の構成や被加熱物100の加熱態様等によっては、非対称に配置するようにしてもよい。例えば、第1の内壁面41のみまたは第2の内壁面42のみに加熱装置20を配置するようにしてもよい。また、例えば第1の内壁面41の搬送方向Tの上流側および第2の内壁面42の搬送方向Tの下流側のみに加熱装置20を配置するようにしてもよい。
【0085】
また、本実施形態では、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bに加熱装置20を配置した例を示したが、第1の内壁面41または第2の内壁面42における第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42b以外の部分に加熱装置20を配置するようにしてもよい。また、第1の内壁面41および第2の内壁面42以外の部分に追加の加熱装置を配置するようにしてもよい。
【0086】
また、本実施形態では、連続式の加熱炉の例を示したが、静止状態の被加熱物100を加熱するバッチ式の加熱炉に本発明を適用するようにしてもよい。また、搬入口12aおよび搬出口13aに扉を設けるようにしてもよい。
【0087】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の加熱炉は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【実施例1】
【0088】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0089】
本実施例では、上記実施形態の加熱炉1を実際に製作し、炉内空間30の温度分布および燃料消費量を測定する加熱試験を行った。また、比較例として、煎餅等の米菓の焼成工程において使用されている従来の加熱炉200について同様の加熱試験を行い、試験結果を比較した。
【0090】
図9(a)および(b)は、比較例の従来の加熱炉200を示した概略図であり、図10(a)および(b)は、本実施例の加熱炉1を示した概略図である。なお、図9(a)および図10(a)は、上方から見た概略断面図(zx平面における断面図)であり、図9(b)および図10(b)は、正面から見た概略断面図(xy平面における断面図)である。
【0091】
比較例の加熱炉200は、米菓の生地を焼成するのに使用されているものである。加熱炉200は、図9(a)および(b)に示されるように、垂直方向に立設された左側炉壁212、右側炉壁213、前部炉壁214および後部炉壁215を備えており、これらの炉壁212〜215は、断熱材を備える構造となっている。加熱炉200の炉内空間230の上部および下部にはそれぞれ3つの加熱装置220が配置されると共に、各加熱装置220の間には金属製の塞ぎ板が設けられており、これにより、炉内空間30は略直方体状に形成されている。
【0092】
各加熱装置220は、赤外線バーナから構成され、熱を発する発熱面221は、上部に配置された加熱装置220では略鉛直下方に向けられ、下部に配置された加熱装置220では略鉛直上方に向けられている。被加熱物である米菓の生地は、金網状の無端ベルトによって搬送方向Tをx正方向として搬送されるようになっており、左側炉壁212に設けられた搬入口212aから炉内空間230内に搬入され、右側炉壁213に設けられた搬出口213aから搬出される。
【0093】
本実施例の加熱炉1は、比較例の加熱炉200と同等の寸法となるように、図10(a)および(b)に示される寸法で製作した。また、第1〜第4の傾斜部41a、41b、42a、42bの傾斜角度θ1〜θ4、および発熱面21の傾斜角度θ5は、上記実施形態で示したようにそれぞれ20°とした。なお、加熱炉1が備える加熱装置20の個数(4つ)は、加熱炉200が備える加熱装置220の個数(6つ)よりも少なく、発熱面21の総面積は、発熱面221の総面積よりも小さくなっている。
【0094】
加熱試験では、燃料ガスの流量、燃料ガスの圧力、および炉内空間30、230の温度を測定した。炉内空間30、230の温度測定は、被加熱物の搬送高さに合わせて搬送装置の無端ベルトと同等の金網を配置し、この金網の上面と下面に温度センサを設置して行った。温度の測定点は、図9および10に示されるように、搬送される被加熱物の通過位置に合わせてA点〜I点の9点を設定した。すなわち、A点〜I点における金網の上面および下面の計18点において温度測定を行った。
【0095】
図11は、加熱試験の結果を示した表である。加熱試験では、炉内空間30、230の中心部(測定点E)の温度を約250℃に保持するようにして1時間の加熱を行い、この場合に必要な燃料ガス圧を測定すると共に、燃料ガス流量およびA点〜I点における上下面の温度を30分ごとに測定した。
【0096】
同図に示されるように、炉内空間30、230の中心部を約250℃に保持するようにした場合、加熱炉1において必要な燃料ガス圧および燃料ガス流量は、共に加熱炉200において必要な燃料ガス圧および燃料ガス流量よりも低い値となっている。特に、加熱炉1において必要な燃料ガス流量は、加熱炉200において必要な燃料ガス流量の約7割となっており、加熱炉1が加熱炉200よりも高いエネルギー効率を有していることが確認された。
【0097】
また、A点〜I点の温度を比較すると、加熱炉200では、200℃以下の温度となっている測定点が複数見られるのに対し、加熱炉1では、A点〜I点の略全てにおいて温度を230℃以上に保持することが可能となっている。特に、加熱炉1では、加熱炉200においては温度の低くなりがちなA点、C点、G点およびI点の温度を高く保つことが可能であり、炉内空間30の温度分布を加熱炉200よりも均一な状態に保持可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の加熱炉は、煎餅や焼き菓子等の食品の製造の分野だけではなく、例えば瓦、タイルおよび陶器等のセラミックス製品や、ガラス製品、金属製品等、加熱を必要とする各種物品の製造の分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 加熱炉
12a 搬入口
13a 搬出口
20 加熱装置
21 発熱面
30 炉内空間
40 内壁面
41 第1の内壁面
41a 第1の傾斜部
41b 第2の傾斜部
41c 第1の内壁面のx方向負側端部
41d 第1の内壁面のx方向正側端部
42 第2の内壁面
42a 第3の傾斜部
42b 第4の傾斜部
42c 第2の内壁面のx方向負側端部
42d 第2の内壁面のx方向正側端部
100 被加熱物
O 炉内空間の中心
O1 第1の内壁面の中心
O2 第2の内壁面の中心
T 被加熱物の搬送方向
θ5 発熱面の傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を加熱する炉内空間と、
前記炉内空間を形成する内壁面と、を備え、
前記内壁面は、前記炉内空間内の被加熱物を挟んで互いに対向する第1の内壁面および第2の内壁面を有し、
前記第1の内壁面は、前記被加熱物の搬送方向の上流側に第1の傾斜部を有すると共に前記搬送方向の下流側に第2の傾斜部を有し、
前記第2の内壁面は、前記搬送方向の上流側に第3の傾斜部を有すると共に前記搬送方向の下流側に第4の傾斜部を有し、
前記第1の傾斜部および前記第2の傾斜部は、前記第1の内壁面の中心から前記搬送方向に沿って遠ざかるに従って漸次前記第2の内壁面に近づくように形成され、
前記第3の傾斜部および前記第4の傾斜部は、前記第2の内壁面の中心から前記搬送方向に沿って遠ざかるに従って漸次前記第1の内壁面に近づくように形成されることを特徴とする、
加熱炉。
【請求項2】
前記第1の傾斜部および前記第2の傾斜部は、互いに対称に形成され、
前記第3の傾斜部および前記第4の傾斜部は、互いに対称に形成されることを特徴とする、
請求項1に記載の加熱炉。
【請求項3】
前記第1の内壁面および前記第2の内壁面は、互いに対称に形成されることを特徴とする、
請求項1または2に記載の加熱炉。
【請求項4】
前記第1の内壁面および前記第2の内壁面は、前記搬送方向に直交する方向の寸法が、前記搬送方向の寸法以上に形成されることを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれかに記載の加熱炉。
【請求項5】
前記第1の内壁面または前記第2の内壁面に配置され、熱を発する発熱面によって前記被加熱物を加熱する加熱装置をさらに備え、
前記加熱装置は、前記第1の内壁面における前記第1の内壁面の中心よりも前記搬送方向の上流側もしくは下流側、または前記第2の内壁面における前記第2の内壁面の中心よりも前記搬送方向の上流側もしくは下流側に配置されると共に、前記発熱面が前記炉内空間の中心側に向くように傾斜して配置されることを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかに記載の加熱炉。
【請求項6】
前記加熱装置は、前記第1の内壁面における前記搬送方向の上流側および下流側にそれぞれ配置されると共に、前記第2の内壁面における前記搬送方向の上流側および下流側にそれぞれ配置されることを特徴とする、
請求項5に記載の加熱炉。
【請求項7】
前記搬送方向の上流側に設けられ、前記被加熱物を前記炉内空間に搬入する開口である搬入口と、
前記搬送方向の下流側に設けられ、前記被加熱物を前記炉内空間から搬出する開口である搬出口と、をさらに備えることを特徴とする、
請求項5または6に記載の加熱炉。
【請求項8】
前記加熱装置は、
前記第1の内壁面においては、前記第1の内壁面の前記搬送方向の上流側端部または下流側端部よりも前記第1の内壁面の中心に近接して配置され、
前記第2の内壁面においては、前記第2の内壁面の前記搬送方向の上流側端部または下流側端部よりも前記第2の内壁面の中心に近接して配置されることを特徴とする、
請求項5乃至7のいずれかに記載の加熱炉。
【請求項9】
前記発熱面は、長手方向が前記搬送方向に直交すると共に、幅方向が前記搬送方向に対して傾斜するように配置されることを特徴とする、
請求項5乃至8のいずれかに記載の加熱炉。
【請求項10】
前記加熱装置は、複数が前記炉内空間の中心に対して対称に配置されることを特徴とする、
請求項5乃至9のいずれかに記載の加熱炉。
【請求項11】
前記発熱面の前記搬送方向に対する傾斜角度は、10〜30°であることを特徴とする、
請求項5乃至10のいずれかに記載の加熱炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−247103(P2012−247103A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118037(P2011−118037)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【特許番号】特許第4890655号(P4890655)
【特許公報発行日】平成24年3月7日(2012.3.7)
【出願人】(591095708)株式会社新井機械製作所 (15)
【Fターム(参考)】