説明

加熱調理器用部材

【課題】長期間にわたって、均一な黒色を有するとともに撥水性、非粘着性、耐摩耗性、耐焦げ付き性などの初期の優れた特性を維持することができる加熱調理器用部材を提供する。
【解決手段】PTFE微粒子がめっき皮膜10(黒化処理層10Aを含む)中に分散して共析させられて焼き網2の撥水性、非粘着性、耐焦げ付き性などを高め、汚染を軽減したり、或いは汚染の除去を容易にすることが可能となっている。また、複合めっき皮膜10の表層部に対して黒化処理が施されて複合めっき皮膜10よりも薄い黒化処理層10Aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フッ素材料系微粒子を共析させた黒色の複合めっき皮膜を有する、焼き網などの調理器具用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスコンロ、ガステーブル、電磁誘導ヒーターなどの加熱調理器では、焼き網を用いて魚の加熱調理が行われる(例えば特許文献1参照)。この加熱調理中に、魚の油脂分や肉片等の汚れが焼き網に付着して汚染される。そこで、焼き網の表面に耐熱フッ素樹脂を塗布することで焼き網の撥水性、非粘着性、耐焦げ付き性などを高め、汚染を軽減したり、或いは汚染の除去を容易にすることが提案されている。また、焼き網の表面汚染を目立ち難くするとともに焼き網の高級感を高める目的から、耐熱フッ素樹脂に黒色粒子を混入させて焼き網全体を黒色化する提案もなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−219号公報(例えば、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単に耐熱フッ素樹脂を塗布したのみでは、焼き網の洗浄を繰り返している間に塗布層が剥がれてしまい、焼き網の撥水性、非粘着性、耐焦げ付き性が部分的に劣化するという問題があった。また、このような塗布層の部分的剥がれにより焼き網の本体部や網素材が部分的に露出してしまい、焼き網の美感が損ねられて製品価値の低下を招いてしまう。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、長期間にわたって、均一な黒色を有するとともに撥水性、非粘着性、耐摩耗性、耐焦げ付き性などの初期の優れた特性を維持することができる加熱調理器用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる加熱調理器用部材は、上記目的を達成するため、本体部と、本体部の表面に形成されたフッ素化合物微粒子を分散含有する複合めっき皮膜とを備え、黒化処理により複合めっき皮膜の表層部に対して複合めっき皮膜よりも薄い黒化処理層が形成されていることを特徴としている。
【0007】
このように構成された本発明では、フッ素化合物の微粒子が金属とともに加熱調理器用部材の本体部表面に分散して共析させられて調理器具用部材の汚れを低減させるとともに、汚れが発生した場合にも、その除去を容易に行うことができる。また、上記のように本体部表面に複合めっき皮膜を形成しているため、耐熱フッ素樹脂を塗布した従来製品(以下「耐熱フッ素塗布製品」)よりも耐剥離性を長期間にわたって維持させることができる、つまり長期間にわたって撥水性、非粘着性、耐摩耗性、耐焦げ付き性などの初期の優れた特性を維持することができる。
【0008】
また、調理器具用部材の表面を黒色とするために、本発明では複合めっき皮膜に対して黒化処理を施しているため、調理器具用部材の表面を均一に黒色化することができる。ただし、後で詳述するように複合めっき皮膜に対する黒化処理層の割合に応じて複合めっき皮膜の耐剥離性が変化する。これは、本願発明者が種々の実験などから得た知見であり、長期間にわたって均一な黒色表面を得るためには、上記割合を制御することが非常に重要となる。そこで、本発明では厚み方向において複合めっき皮膜全体に対して黒化処理を施すのではなく、表層部のみに黒化処理を施して複合めっき皮膜よりも薄い黒化処理層を形成している。このように(黒化処理層の厚みTa)<(黒化処理後の複合めっき皮膜の厚みT0)を満足するように構成することで複合めっき皮膜の耐剥離性を確保している。例えば焼き網などの加熱調理器用部材においては、Ta/T0≦0.5が満足されるように構成するのが望ましい。
【0009】
また、本発明では複合めっき皮膜内にフッ素化合物微粒子が分散して存在している。このため、複合めっき皮膜の表面にフッ素化合物微粒子の一部が露出しており、これらのフッ素化合物微粒子が加熱調理器用部材の洗浄時に黒化処理層から剥がれ落ちることがある。したがって、フッ素化合物微粒子の粒径に比べて黒化処理層が薄い場合には、フッ素化合物微粒子の剥落によって黒化処理されていない複合めっき皮膜層が露出し、色ムラの原因となることがある。この点を考慮すれば、黒化処理層の厚みTaが、フッ素化合物微粒子の平均粒径を超えるように構成するのが望ましい。
【0010】
ここで、例えば従来より多用されている無電解ニッケルめっき法により複合めっき皮膜を形成してもよく、この複合めっき皮膜に対して黒化処理(化成処理)を施すことにより複合めっき皮膜の表層部に硫化ニッケル層を形成して加熱調理器用部材の黒色化を図ってもよい。
【0011】
また、本体部の最上層に光沢ニッケル層を形成してもよく、これにより本体部に対する複合めっき皮膜の密着性をさらに高めて耐剥離性を向上させるとともに、加熱調理器用部材に光沢性を与えて製品の高級感を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明では、フッ素化合物微粒子を分散含有する複合めっき皮膜を本体部の表面に形成するとともに、その複合めっき皮膜の表層部を黒化処理して複合めっき皮膜よりも薄い黒化処理層を形成している。したがって、本発明にかかる加熱調理器用部材によれば、長期間にわたって、均一な黒色を有するとともに撥水性、非粘着性、耐摩耗性、耐焦げ付き性などの初期の優れた特性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる加熱調理器用部材の一実施形態たる焼き網の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1の焼き網の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明にかかる加熱調理器用部材の一実施形態たる焼き網の全体構成を示す斜視図である。また、図2は図1の焼き網の部分断面図であり、同図(a)は黒化処理前を示す一方、同図(b)は黒化処理後を示している。この焼き網2は、例えば特許文献1に記載の電磁誘導加熱式調理器において魚や茄子などを調理する際に用いられるものである。この加熱調理器では、焼き網2は受け皿に載置された状態で調理室内に対して収納され、また受け皿とともに調理室からスライドして引き出し可能となっている。
【0015】
この焼き網2では、複数のステンレスワイヤーなどの金属ワイヤーを加工し、また溶接して網状に形成された網素材4に対して電気ニッケルめっき層6が形成されて本体部8が構成されている。本実施形態では、焼き網2に対して光沢性を付与するために、電気ニッケルめっき層6は、半光沢ニッケルめっき、ウッドニッケルめっきおよび光沢ニッケルめっきの三層構造となっており、8[μm]以上の厚みで形成されている。
【0016】
このように構成された電気ニッケルめっき層6上に、下記の複合めっき浴によりポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」という)複合めっき皮膜10が形成されて焼き網2全体を覆っている。
【0017】
この実施形態では、脱イオン水又は市水1[L]に対し、
・アトテック・ジャパン製の無電解ニッケルめっき溶液A、B(商品名「Black EN」)をそれぞれ60[mL]、150[mL]、
・1[μm]以下のPTFE微粒子(荏原ユージライト株式会社製の商品名「エコルティ ディスパージョン」)7[g/L]、
・界面活性剤(荏原ユージライト株式会社製の商品名「エコルティ テフ SW」)0.5[mL/L]、
の割合で添加した複合めっき浴を使用して3[μm]以上の厚みを有する複合めっき皮膜10を形成する。
【0018】
また、上記のようにして形成されたPTFE複合めっき皮膜10の表層部に対して下記の黒化処理剤により黒化処理(化成処理)が施されて厚みTaの黒色の黒化処理層10Aが形成される一方、残部が非処理層10Bとなっている。このように、本実施形態では、
(黒化処理層10Aの厚みTa)<(黒化処理後の複合めっき皮膜10の厚みT0)
が満足されるように、非処理層10Bを残しつつ黒化処理層10Aを複合めっき皮膜10の表層部に形成している。
【0019】
この実施形態で使用した黒化処理剤は、脱イオン水又は市水に対し、塩化第二鉄200[g/L]および塩酸20[mL/L]を添加したものであり、当該黒化処理剤を用いてPTFE複合めっき皮膜10の表層部に含まれるニッケルを硫化して黒色の黒化処理層(硫化ニッケル層)10Aを形成した。もちろん、黒化処理層10AにはPTFE微粒子がそのまま分散して存在しており、撥水性などの特性は失われず、そのまま維持されている。
【0020】
以上のように、本実施形態では、PTFE微粒子がめっき皮膜10(黒化処理層10Aを含む)中に分散して共析させられて焼き網2の撥水性、非粘着性、耐焦げ付き性などを高め、汚染を軽減したり、或いは汚染の除去を容易にすることが可能となっている。このように焼き網2の表面にPTFE微粒子を分散させた点においては耐熱フッ素塗布製品と共通するが、本実施形態では本体部8表面にPTFE複合めっき皮膜10を形成しているため、耐熱フッ素塗布製品よりも耐剥離性を格段に向上させることができ、長期間にわたって撥水性、非粘着性、耐摩耗性、耐焦げ付き性などの初期の優れた特性を維持することができる。
【0021】
また、本実施形態では、PTFE複合めっき皮膜10(黒化処理層10Aを含む)の下地に光沢ニッケルめっき層を形成しているため、本体部8に対して複合めっき皮膜10の密着性を高めて耐剥離性を向上させるとともに、焼き網2にさらに光沢性を与えて製品の美感をより一層高めることができる。
【0022】
さらに、本実施形態では、複合めっき皮膜10全体に黒化処理を施すのではなく、複合めっき皮膜10の表層部のみを黒化処理している。その理由について、以下に詳述する。
【0023】
本願発明者は、複合めっき皮膜10に対する黒化処理層の割合(=Ta/T0)に応じて複合めっき皮膜10の表面外観や皮膜の耐剥離性がどのように変化するのを検証するため、次の実験を行った。この実験では、焼き網2に対して電気ニッケルめっき処理により厚さ約25[μm]の電気ニッケルめっき層6並びに上記した複合めっき浴を使用して厚さ約3.3[μm]の複合めっき皮膜10が形成された、焼き網2を複数個準備し、温度35゜Cに温調した上記黒化処理剤に浸漬して黒化処理を施した。なお、ここでは各焼き網2の黒化処理剤への浸漬時間を互いに相違させて黒化処理層10Aの厚みTaおよび非処理層10Bの厚みTbを調整している。
【0024】
また、黒化処理後の焼き網2に対して水洗処理、アルカリ処理液による安定化処理、水洗処理、ならびに350゜C−10分の熱処理をこの順序で加えた後、黒化処理層10Aの厚みTa、非処理層10Bの厚みTbの計測、ならびに外観評価を行った。この結果を表1に示す。
【表1】

【0025】
なお、同表中の評価方法は以下の通りである。
<ムラ>
◎ : 黒色のある均一な外観
○ : 黒味の弱い均一な外観
△ : 黒味がなく白っぽい外観
× : 不均一で未黒化部分のある外観
<スス状剥がれ>
◎ : スス状の剥がれが全くない外観
○ : 2%未満のスス状剥がれがある外観
△ : 2%〜10%未満のスス状剥がれがある外観
× : 10%以上のスス状剥がれがある外観。
【0026】
表1に示す結果から複合めっき皮膜10よりも薄い黒化処理層10Aを形成するように黒化処理を実行することでスス状剥がれを防止しながら均一な黒色を有する焼き網2が得られることが確認された。また、スス状剥がれの発生率をより改善するためには、黒化処理後の複合めっき皮膜10に対する黒化処理層10Aの割合が0.5以下となるように黒化処理時間などの黒化処理条件を調整すればよい。また、上記割合が0.42以下となるように黒化処理条件を調整することで、スス状剥がれの発生をさらに抑制しながら均一な黒色を焼き網2が得られる。さらに、上記割合が0.32以下となるように黒化処理条件を調整することで、スス状剥がれの発生をほぼ完全に抑えながら均一な黒色を焼き網2が得られる。なお、同表から明らかなように、黒化処理により複合めっき層10の膜厚(T0=Ta+Tb)が減少するため、この点を考慮し、少なくとも厚さ1.5[μm]以上のPTFE複合めっき層10が残存するように黒化処理条件を設定するのが望ましい。
【0027】
また、複合めっき皮膜10内ではPTFE微粒子が分散して存在しているため、次の点を考慮して黒化処理層の厚みTaを設定するのがさらに望ましい。すなわち、黒化処理された表面では、PTFE微粒子の一部が露出しており、焼き網2を洗浄している際に剥がれ落ちることがある。したがって、PTFE微粒子の粒径に比べて黒化処理層10Aが薄い場合には、PTFE微粒子の剥落によって黒化処理されていない複合めっき皮膜層、つまり非処理層10Bが露出し、色ムラの原因となることがある。この点を考慮すれば、黒化処理層10Aの厚みTaが少なくともPTFE微粒子の平均粒径を超える程度に黒化処理を実行するのがより望ましい。なお、ここで「PTFE微粒子の平均粒径」とは、微粒子の粒径を計測するのに適した計測法、例えば光散乱法を用いて求めることができる。
【0028】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したものに対して種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態では、加熱調理器用部材として焼き網2を例示し、焼き網2に対して本発明を適用しているが、本発明の適用対象は焼き網2に限定されるものではなく、例えば受け皿などの加熱調理器に使用される部材全般に対して適用することが可能であり、加熱調理器用部材の本体部の構成、材質、形状などについては任意である。
【0029】
また、上記実施形態では、PTFE微粒子を本発明の「フッ素化合物微粒子」として用いているが、その他のフッ素化合物(例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビフェニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体など)の微粒子を用いてもよい。
【符号の説明】
【0030】
2…焼き網(調理器具用部材)
4…網素材
6…電気ニッケルめっき層
8…本体部
10…複合めっき皮膜
10A…黒化処理層
10B…非処理層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、前記本体部の表面に形成されたフッ素化合物微粒子を分散含有する複合めっき皮膜とを備え、
前記複合めっき皮膜に対する黒化処理により前記複合めっき皮膜の表層部に対して前記複合めっき皮膜よりも薄い黒化処理層が形成されていることを特徴とする加熱調理器用部材。
【請求項2】
前記黒化処理層の厚みをTaとし、前記黒化処理後の前記複合めっき皮膜の厚みをT0としたとき、
Ta/T0≦0.5
が満足される請求項1に記載の加熱調理器用部材。
【請求項3】
前記黒化処理層の厚みTaは前記フッ素化合物微粒子の平均粒径を超える請求項2に記載の加熱調理器用部材。
【請求項4】
前記複合めっき皮膜は無電解ニッケルめっき法により形成された皮膜であり、
前記黒化処理層は前記黒化処理により前記複合めっき皮膜の表層部に形成される硫化ニッケル層である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の加熱調理器用部材。
【請求項5】
前記本体部の最上層には光沢ニッケル層が形成される請求項4に記載の加熱調理器用部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−57188(P2012−57188A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198749(P2010−198749)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(310016810)株式会社和生製作所 (2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】