説明

加熱調理用プレミックス組成物およびバッター

【課題】この発明は、電子レンジで加熱調理するスポンジケーキや蒸パンなどのケーキ類のスポンジ組織において、蛋白質や各種栄養成分を強化しながらも、通常品と比較して遜色無く、ソフトで口どけのよい性状を付与し、さらに加熱直後から生ずる焼き縮みを解消し、ボリュウムがあって見栄えのよい電子レンジ調理用ケーキプレミックスを得ること。
【解決手段】穀物粉を主成分とし、ゲル化しない蛋白質、膨張剤、これに熱凝固性多糖類を加えてなる加熱調理用プレミックス組成物、及び熱凝固性多糖液、熱凝固性多糖液と水、熱凝固性多糖液と牛乳、熱凝固性多糖液と牛乳と水からなる群のいずれかを穀粉類、ゲル化しない蛋白質および膨張剤に加え、その粘度を500Pa・s以下とした加熱調理用バッター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭などで手軽に加熱調理できるスポンジケーキ用の蛋白質含有プレミックス組成物およびこれを用いたバッターに関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキの基本的な組成は、鶏卵、砂糖、小麦粉である。溶いた鶏卵を強くかき混ぜて気泡を形成させ、これをオーブンなどで加熱すると気泡が膨張して生地が膨れ、蛋白質の熱変性によって空気を含んだまま熱凝固することによって生地の基本的な骨格が生成され、さらに、これに小麦粉が加えることにより、生地の中で形成されたグルテンと、焼き上げたときに糊化した澱粉とが生地の骨格をより強化させている。
しかし、ふっくらとしたスポンジケーキを調理するには、鶏卵を十分に泡立て、生地成分を配合し、均一に混練するなど、手間と時間を要した。
【0003】
このようなスポンジケーキを、より簡単に調理できるよう鶏卵に替えて膨張剤を添加した加熱調理用プレミックスが登場した。このプレミックスは、小麦粉や砂糖などの生地成分が予め配合されており、固形粉末成分からなるので、流通や保存性に優れ、調理に当たってはプレミックスに水あるいは牛乳を添加、混合し、得られたバッター液を加熱するだけで誰でも簡単にスポンジケーキを作ることができる。
しかしながら、膨張後の体積維持のため、加熱によってゲル化する成分である蛋白質などを加える必要があるが、適量範囲を超えて添加すると、蛋白質特有の味が強く出てしまい風味が落ちるとともに、べチャついた食感となり、粘度も高くなり取扱が難しくなるといった問題があった。
【0004】
さらに、このようなスポンジケーキを加熱するには、オーブンや蒸し器を必要とするが、これらの調理手段は、加熱時間が長く、予熱や放冷にも時間がかり手間がかかるものであった。そこで、各家庭に広く普及した電子レンジを使用することが考えられる。電子レンジを使用すれば、調理物の内部から加熱できるので、調理時間が短くて済み、操作も簡単となる。
【0005】
しかし、小麦粉を含むスポンジケーキ用プレミックスを電子レンジで加熱調理した場合、内部から加熱されるため生地が膨張する際、加熱ゲルが膨張を阻害するため十分な膨化が行えなくなる。そのために、これを原料とするケーキのスポンジ組織は、グルテン特有の強い粘弾性となり、膨化もグルテンの緊縮力のために抑制されて不十分なものとなる。さらに、食感もオーブンで加熱したものと比較してゴム様の食感を呈するものとなり、加えて、加熱直後、膨化に関与した水蒸気が急速に凝縮するため焼縮みが発生し易いといった問題があった。
【0006】
このような問題を解決するものとして、電子レンジでもソフトで口解けが良く、加熱直後の焼き縮みを解消したカップケーキ用プレミックスが提案されている(特許文献1)。このプレミックスでは、熱凝固性蛋白とα化澱粉を添加することにより、ソフトな食感と加熱調理後のケーキの焼き縮みを少なくすることができる。
しかし、このプレミックスによっても、蛋白質や機能性素材などをさらに加えると食感が固くなることがあり、また、使用する熱凝固性蛋白は、穀粉に対し10〜120重量%、α化澱粉は穀粉中25〜55重量%添加しなければならず、調理の自由度が低くなり、さらに蛋白質の割合が多くなり風味が落ち、バッター液の粘度が高くなるため取扱が難しくなるという問題がある。
【0007】
以上説明したように加熱調理用プレミックスは、一般家庭用だけでなく業務用としても需要が強いが、ふっくらとしたスポンジケーキとするためには、生地成分の配合の自由度が非常に低く、蛋白質の増量や機能性素材の添加することは事実上不可能であった。
【特許文献1】特開2002-27904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、蛋白質を多量に添加しても風味が良くソフトでふっくらした食感のスポンジケーキを製造することができる加熱調理用プレミックス組成物を提供することである。
また、本発明の他の目的は、電子レンジを使用しても、焼き縮みがなくソフトでふっくらした食感のスポンジケーキを製造することができる電子レンジ加熱調理用プレミックス組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、穀粉類を主成分とするプレミックス中に、蛋白質としてゲル化しない蛋白質を使用し、発酵多糖(カードラン)を加えると、蛋白質を穀粉類に対し30%添加しても、加熱後に焼き縮みすることなく、また電子レンジを使用してもソフトでふっくらした食感のスポンジケーキを製造することができることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1)穀粉類、ゲル化しない蛋白質、膨張剤、および熱凝固性多糖類を含むことを特徴とする加熱調理用プレミックス組成物。
(2)前記穀粉類に対し0.1〜50重量%の熱凝固性多糖類を含むことを特徴とする(1)の加熱調理用プレミックス組成物。
(3)加熱が電子レンジによるものである(1)または(2)に記載される加熱調理用プレミックス組成物。
(4)熱凝固性多糖液、熱凝固性多糖液と水、熱凝固性多糖液と牛乳、熱凝固性多糖液と牛乳と水からなる群のいずれかを穀粉類、ゲル化しない各種蛋白質および膨張剤に加え、その粘度を500Pa・s以下とした加熱調理用バッター。
(5)さらに前記穀粉類に対し5〜15重量%の水不溶性食物繊維を加えたことを特徴とする(4)の加熱調理用バッター。
(6)加熱が電子レンジによるものである(1)または(2)に記載される加熱調理用バッター。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、穀粉類を利用して得る熱変性ゲルを熱変性多糖類として、さらに、その際に蛋白質を強化する目的で加熱ゲル化性の無い一般的な蛋白強化素材を小麦粉と代替としても十分なふっくら感を維持することができるので、プレミックスの配合組成の自由度が大きく、各種機能性素材を配合することが可能となる。
【0012】
また、本発明のプレミックス組成物によれば、ゲル化しない蛋白質や機能性材料を多量に添加しても、電子レンジを使用し、家庭において簡単にソフトでふっくらした食感のスポンジケーキを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の加熱調理用プレミックス組成物とは、穀粉類を主成分とし、これに糖類、ゲル化しない蛋白質、膨張剤、熱凝固性多糖、及び、必要に応じて機能性材料、香料や色素などの各種添加剤を含むものである。
【0014】
本発明で使用される穀粉類は、小麦粉、米粉など、スポンジケーキの原料として使用される公知の穀類、あるいはそれらの混合物が使用できる。本発明のプレミックス中の穀粉の配合量は、20〜80重量%であることが好ましく、40〜60重量%であることがより好ましい。プレミックス中の穀粉の配合量が80重量%を超えると機能性素材や蛋白強化素材を添加する目的を考えると、配合上の自由度が低くなり好ましくない。また20重量%未満では穀粉特有の風味や食感を維持できなくなるためスポンジケーキを設計する上では好ましくない。
【0015】
本発明で使用される熱凝固性多糖類とは、発酵多糖(カードラン)をいう。カードランとは、主に増粘安定剤として使用される食品添加物で、グラム陰性細菌の培養液より分離して得られるものであり、主成分は、β−1,3−グルカンである。本発明のプレミックス中の熱凝固性多糖類の配合量は、穀粉に対し0.5〜30重量%であることが好ましく、5重量%程度であることがより好ましい。プレミックス中の穀粉全量とのバランスにより一概には決められないが、熱凝固性多糖類の配合量が穀粉に対し30重量%を超えるとふんわり感が出せなくなり、0.5重量%未満では焼き縮み抑制効果が発揮できなくなる・。
【0016】
本発明で使用されるゲル化しない蛋白とは、大豆蛋白、コラーゲン、乳などをいう。本発明のプレミックス中のゲル化しない蛋白質の配合量は、プレミックス中に含まれる全蛋白質量30重量%未満であることが好ましく、5〜25重量%であることがより好ましい。プレミックス中の蛋白質の配合量が5重量%未満では本発明を適用する意義が薄まる。プレミックス中に含まれるゲル化しない蛋白質量が30重量%以上の場合十分なふっくら感を維持することが出来なくなるため好ましくない。
【0017】
本発明で使用される機能性材料とは、体調や健康を維持・改善する目的で摂取する食品・食品添加物・医薬部外品・医薬品などをいう。本発明のプレミックス中の機能性材料の配合量は、各々の機能性素材に応じて必要とする量が異なるため一概には言えないが、風味のバランスを無視する場合ゲル化しない蛋白質と同様プレミックス中に含まれる全蛋白質量30重量%未満であることが好ましい。
【0018】
本発明でいうスポンジケーキには、スポンジケーキ、シフォンケーキ、蒸しパン、カステラ、ホットケーキ、マフインのほか、クロワッサンなどの通常の焼パンも含まれる。
【0019】
本発明のプレミックスを調理するには、本発明のプレミックスに、水及び/または牛乳を加え攪拌・混合してバッター液を作る。本発明のプレミックスに対する水および/又は牛乳の配合量は、プレミックス100gに対し、水および/又は牛乳が30〜250mlが好ましく、この範囲であれば、プレミックスの組成にもよるが、バッター液の粘度が取り扱い易い500Pa・s未満となる。水および/又は牛乳の配合量が30ml未満では粘度が大幅に上昇し500Pa・s未満を維持することが難しくなる。また、250mlを超えると、粘度は好ましいが、風味が薄まりおいしさの観点では好ましいとは言えない。
【0020】
次に、このバッター液を適宜の容器に入れ加熱調理する。
加熱調理には、オーブン、蒸し器などの一般的な加熱調理器具が使用できるが、本発明のプレミックスを使用すれば、電子レンジを使用してもふっくらとしたケーキを作ることができる。
【0021】
また、プレミックスの包装容器として、内面を樹脂でコーティングした紙容器のような耐熱性を有する素材、あるいはポリエチレンテレフタレートのように電子レンジ対応の素材で作成すれば、容器内でバッターを作りそのままオーブンや電子レンジで調理することができる。
【0022】
以下、本発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(調理例1,2,3)
下記の表1に示す組成よりなるプレミックスを常法により混合して電子レンジ調理用ケーキミックス組成物を得た。このケーキミックスを容量350mlのカップ状容器に入れよく攪拌混合し、ケーキ用ミックスバッターを得た。この各バッターの粘度は表1の通りであった。次いで、この各バッターを出力500Wの電子レンジで2分間加熱し目的とするスポンジケーキを得た。各ケーキは、カードランを使用した調理例2と、加熱ゲル化するα化小麦デンプンを使用した調理例3で均一できめの細かい組織を呈し食感もふっくらとしていた。それ以外の調理例1は加熱時に膨張したものがレンジ終了後に急速に縮みベチャ付いてゴム様の食感となってしまった。
【0024】

【表1】

【実施例2】
【0025】
(調理例4〜9)
下記の表2に示す組成よりなるプレミックスを定法により混合し電子レンジ調理用ケーキミックスを得た。各プレミックス10gに水10cc加えて混合し、得られたバッターをビーカーに注入し、出力1000Wの電子レンジで30秒間加熱した。加熱終了後の、ケーキの界面及び側面に残った膨張跡の高さを測定し、下記式で計算される加熱縮み率を求めた。
加熱縮み率(%) = (加熱終了時の膨化面の高さ/最大膨化面の高さ)×100
グルテン、α化澱粉、カードランなど、加熱によりゲル化する添加剤を配合することにより加熱後の焼き縮みの少ないケーキを得ることができた。
【0026】

【表2】

【実施例3】
【0027】
(調理例10〜13)
下記の表3に示す組成よりなる蛋白素材配合プレミックスを常法により混合して電子レンジ調理用ケーキミックス組成物を得た。このバッターを出力500Wの電子レンジで2分間加熱し目的とするスポンジケーキを得た。カードランを使用した調理例10,11は、蛋白量が増加してもふっくらした食感を維持したのに対して、α化小麦デンプンを使用した調理例12,13は、蛋白量が増加するのに対して食感が重くベチャつく傾向が見られた。
【0028】

【表3】

【実施例4】
【0029】
(調理例14−18)
下記の表4に示す組成よりなるプレミックスを常法により混合して電子レンジ調理用ケーキミックス組成物を得た。このバッターを出力1000Wの電子レンジで30秒間加熱しレンジケーキの膨化面を観察した。カードランを穀粉に対し1.7〜5.3重量%使用した調理例14−17は、加熱縮みを抑制するともに、スポンジケーキ特有のふんわり感を出すことができたが、添加量がそれより増えると、加熱縮み抑制効果は優れるものの、組織の歯ごたえが増す傾向が見られた(調理例18)。
【0030】

【表4】

【実施例5】
【0031】
(調理例19,20)
得られた知見をもとに、クロワッサン生地にカードランを添加し、効果を確認した。
表4に示されるクロワッサン生地をL3“M4”でミキシングし、冷蔵発酵90分、冷凍発酵2分させたものを40gづつに分割した。次に3つ折りを3回行ない成形し、30℃、70%のホイロで70分間発酵させ、205℃15分で焼成した。なお、折り毎に30分のベンチタイムを取った。
【0032】

【表5】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の加熱調理用プレミックスは、流通、保存性に優れ、しかも簡単にだれにでもおいしいスポンジケーキを調理できるので、社会的な需要が高い。また、成分配合の自由度が高いので、機能性食品や健康食品とすることが簡単にできるという利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類、ゲル化しない蛋白質、膨張剤、および熱凝固性多糖類を含むことを特徴とする加熱調理用プレミックス組成物。
【請求項2】
前記穀粉類に対し0.1〜30重量%の熱凝固性多糖類を含むことを特徴とする請求項1記載の加熱調理用プレミックス組成物。
【請求項3】
加熱が電子レンジによるものである請求項1または2に記載される加熱調理用プレミックス組成物。
【請求項4】
熱凝固性多糖液、熱凝固性多糖液と水、熱凝固性多糖液と牛乳、熱凝固性多糖液と牛乳と水からなる群のいずれかを穀粉類、ゲル化しない蛋白質および膨張剤に加え、その粘度を500Pa・s以下とした加熱調理用バッター。
【請求項5】
さらに前記穀粉類に対し5〜15重量%の水不溶性食物繊維を加えたことを特徴とする請求項3に記載の加熱調理用バッター。
【請求項6】
加熱が電子レンジによるものである請求項4または5に記載される加熱調理用バッター。