説明

加硫ゴムと樹脂部材の接着方法

【課題】加硫ゴムと樹脂部材の接着を可能にすることができる加硫ゴムと樹脂部材を接着する方法を提供する。
【解決手段】加硫ゴム1と樹脂部材3を接着する方法において、加硫ゴム1の表面に前処理を施し、ポリジニトロソベンゼンを含有するレゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス2を塗布後、塗布物と樹脂部材を熱圧着して加硫ゴム1と樹脂部材3を接着することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴムと樹脂部材を接着する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴムと樹脂部材とを接着させる場合には、例えば特許文献1、2に記載のように、樹脂部材に接着剤であるレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物(RF)とゴムラテックス(L)との混合物(RFL)を含浸処理し、乾燥、ベーキング処理した後、未加硫ゴムと加硫接着させる方法がある。
【0003】
しかるに、このような技術では、未加硫ゴムは加硫接着で接着できるものの、構造的に緻密で、官能基が少ない加硫ゴムは、樹脂部材と良好な接着を行うことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−224267号公報
【特許文献2】特開2000−34455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、特に加硫ゴムと樹脂部材の接着を可能にすることができる加硫ゴムと樹脂部材を接着する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる加硫ゴムと樹脂部材の接着方法は、加硫ゴムと樹脂部材を接着する方法であって、前記加硫ゴムの表面に前処理を施し、ポリジニトロソベンゼンを含有するレゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックスを塗布後、ベーキング処理を行わずに塗布物と樹脂部材を熱圧着して加硫ゴムと樹脂部材を接着することを特徴とする。
【0007】
このような加硫ゴムと樹脂部材の接着方法においてより好ましくは、前記前処理をコロナ処理とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、加硫ゴムの表面に前処理を施し、レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックスに、架橋剤または架橋助剤としてポリジニトロソベンゼン(P−DNB)を配合したものを塗布後、塗布物と樹脂部材を熱圧着することで、成形工程の圧力と熱で加硫ゴムの表面のRFLと樹脂部材との接着を行うことができる。レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックスと樹脂間の接着メカニズムは完全には明らかにされていないが、(1)水素結合、(2)アンカー効果等の物理的な効果が複合的に影響しているものと推測されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の接着方法の工程を例示する工程図である。
【図2】本発明における剥離試験の概要を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、加硫ゴムの表面に前処理を施し、ポリジニトロソベンゼンを含有するレゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックスを塗布後、ベーキング処理を行わずに塗布物と樹脂部材を熱圧着して加硫ゴムと樹脂部材を接着することを特徴とする接着方法である。
【0011】
具体的には、加硫ゴムは、特に制限されることなく、例えば、ジエン系ゴム、例えば天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムなどに、カーボンブラック、加硫剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合して、一般的な方法で混練して、加硫したものである。
これらのゴムや添加剤は単独又は任意に混合して使用することができる。
【0012】
樹脂部材は、特に制限されることはなく、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリイミド、脂肪族ポリケトン等の合成高分子に、充填剤、カップリング剤、酸化防止剤、滑剤、表面処理剤、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、中和剤、ガラス繊維などの無機中空フィラー等の添加剤を配合して、所定の形状に形成したものである。
これらの樹脂や添加剤は単独又は任意に混合して使用することができる。また、樹脂部材の形状は、特に限定されず、コード、ケーブル、フィラメント、フィラメントチップ、コード織物、帆布等のいずれの形状とすることができる。
【0013】
また、レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)は、レゾール化反応により得られたレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物と、ラテックスとからなる組成物の溶液である。
【0014】
レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物は、レゾルシンとホルムアルデヒドまたは比較的低分子量のレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物とホルムアルデヒドを、いわゆるレゾール反応によりレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合反応させ得られる反応物である。ホルムアルデヒド由来の構成単位とレゾルシン由来の構成単位とを含有し、ホルムアルデヒド由来の構成単位が化学量論的に不足する状態を維持して、これにより樹脂部材を低分子量で可溶性に維持することができる。
【0015】
ラテックスは、例えば、ビニルピリジンラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、天然ゴムラテックス、アクリル酸エステル共重合体系ラテックス、ブチルゴムラテックス、クロロプレンラテックス等が挙げられ、これらは単独であるいは二種以上混合したものなどを用いることができる。
【0016】
上記RFL接着剤の溶液または分散液の溶媒としては酸性、中性もしくはアルカリ性の水、またはアセトン、アルコール等の有機溶媒を用いることができるが、ラテックスはpHが中性領域では水溶性が低く、熟成でのレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合反応を十分行わせるため、アルカリ性または、中性の水を用いることが好ましい。
ここで、アルカリ性の水とは水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化アンニモニウムまたは、モノメチルアミン、アンモニア等の有機アミンを水に溶解したものである。また、任意のアニオン系界面活性剤を用いて、ボールミル、サンドミルによって中性の水に分散させて使用することも可能である。この場合、接着力を有効に発現させるために、界面活性剤の量を分散状態が悪くならない程度に少量にすることが必要である。
なお、上記レゾルシンと、ホルムアルデヒドと、ラテックスと、アルカリ成分との質量比は、特に限定されない。
【0017】
上記レゾール化させて得られるレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物をラテックスとの混合下で反応させる方法としては、例えば、アルカリ性液下で、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物の原材料(レゾルシン、比較的低分子量のレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物、ホルムアルデヒド)とラテックスとを混合させる方法、更に、反応開始時はラテックスと混合せず、アルカリ液性下で、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物の原材料でレゾール化反応を開始させるが、なるべく反応初期段階で低縮合度の反応中間体をラテックスと混合して反応を続行させる方法等が挙げられる。
【0018】
上記のRFL溶液には、少量ずつ攪拌させながらP−DNBを配合する。P−DNBの配合割合は、好ましくはレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物100重量部に対して0.03〜0.1重量部、より好ましくは0.03〜0.05重量部とする。0.1重量部を超えてP−DNBを配合すると、RFLとP−DNBが充分に溶けないという問題を生じ得る。また、P−DNBの配合が0.03重量部未満であれば、十分な接着促進効果を得ることができない。
【0019】
次に、本発明の接着方法では、図1に接着方法の工程図で示すように、まず(1)平板状の加硫ゴム1の表面にコロナ処理を行い、(2)加硫ゴム1のコロナ処理した面へP−DNBを配合したRFL溶液2を刷塗り工する。(3)塗布したRFL溶液2を、好ましくは80℃以下で、より好ましくは20〜50℃で、さらに好ましくは23〜27℃で、風乾により乾燥させる。風乾させた後、RFL塗工面へあらかじめ成形した平板状の樹脂成形体3を配置する。その後(4)15〜20MPaの圧力、170〜200℃、10〜30分の温度と圧力で両者を熱処理とプレス成形する。これらの工程により、加硫ゴムと樹脂部材を強固に接着させることができる。
【0020】
ここで、前処理は、電子線、マイクロ波、コロナ放電、プラズマ処理等を行うことができ、好ましくはコロナ放電による処理であり、この表面処理により極性成分と水素結合成分を増大させて接着力を向上させ、かつ、部材各々のぬれ性(密着性)を向上させることができる。
【0021】
また、上記RFLを加硫ゴムに付着させる方法としては、例えば、RFLに加硫ゴムを浸漬する方法、RFLを刷毛で塗布する方法、RFLをスプレーする方法等が挙げられるが、必要に応じて適当な方法を選択することができる。また、上記乾燥に引き続いて行う熱処理としては、樹脂部材のガラス転移温度以上で行うのが好ましい。
【0022】
このような接着方法は、タイヤ、コンベアベルト、ベルト、ホース、空気バネ等のあらゆるゴム製品に適用して、耐久性を向上させることができる。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0024】
(加硫ゴム)
ゴム材料として100%のNRを使用したものを、下記の通りに調製した。未加硫のNR、C/B、加硫剤、加硫促進剤など各種ゴム薬をバンバリーミキサーにて混練し、適当な時間にて所定の温度と圧力を加えゴムを加硫させた。温度150〜170℃、圧力は5〜8MPa、加硫時間は前記温度にて1ベスト〜2ベストとした。なお、1ベストはキュラストにおけるT90(分)である。
【0025】
(樹脂成形体)
補強材としてガラスフィラー50重量%を配合したPA66をあらかじめ板状に成形した。あらかじめ乾燥させておいたガラスフィラーを配合したPA66ペレットを、射出成形機にて板厚3mmに成形した。成形条件等は成形品にヒケやボイドといった成形欠陥の発生しない条件とした。なお、本実施例では、成形温度(樹脂温度)280℃、金型温度90℃とした。
【0026】
(接着剤)
レゾルシン8.45g、ホルムアルデヒド(製品名ホルマリン、37%溶液)10.81g、NaOH(1mol/L)4%溶液25.88g、P−DNB25.0gを、軟水265.9gに添加混合したものに、予め混合しておいたSBRラテックス(JSR2108(40%ラテックス))95.66gおよびVPラテックス(PYRATEX(41%ラテックス))93.32gを、攪拌混合して一昼夜熟成させてRFL溶液(濃度18%)の接着剤を得た。
【0027】
実施例:上記加硫ゴムの板状試験体(縦80mm×横20mm×厚さ3mm)の片面にコロナ処理を施した(コロナ処理:機器名(CTW−0212、ウエッジ株式会社製)、処理条件(出力:0.35kW、処理速度:25mm/分、処理回数:往復2回、電極距離:10mm))。コロナ処理を施した面に上記接着剤を約0.05g刷毛塗りし、室温で約1時間風乾させた。接着剤塗布面上にPA66樹脂成型体を配置し、15MPaの圧力、170℃、10分の温度と圧力で、両者について熱処理とプレス成形を行った。得られた成形体を実施例とした。なお、同様の条件で3個の試験体を準備した。
【0028】
比較例1:RFL接着剤塗布を行わなかった以外は、実施例1と同様の条件で試験体を準備した。
比較例2:P−DNBを含まないRFL接着剤を使用し、接着剤塗布後にベーキング処理を施した以外は、実施例1と同様の条件で試験体を準備した。ベーキング処理は、170℃、10分間の条件で実施した。
比較例3:P−DNBを含まないRFL接着剤を使用した以外は、実施例1と同様の条件で成形体を準備した。
上記比較例1〜3の試験体をそれぞれ3個準備し、接着性試験に供した。
【0029】
(剥離試験)
テンシロン万能試験機を用い、90度剥離試験用の治具を用いて樹脂側を固定した後、接着していない引張りしろのゴム部分をテンシロンのロードセルチャック部分に固定し、図2に示すように、毎分50mmの速度で引っ張った。実施例、比較例について、その引張強度により接着力を比較した。また、剥離後の界面形態を目視観察した。
【0030】
実施例、比較例1,2について、加硫ゴムとPA66樹脂成形体との接着力(剥離引張強度)の結果を表1に示す。また、接着性に合わせて、接着面を剥離した際に、RFL接着剤層が加硫ゴム側に付着している割合を観察し、表1に示した。
比較例1,2においては、加硫ゴムと樹脂成形体との接着性が見られなかった。比較例2では、RFL層が全て加硫ゴム側に残存していた。一方、実施例においては、加硫ゴムと樹脂成形体との良好な接着性が見られ、また、剥離試験において、RFL層がゴム側に30〜50%残存していたことから、接着剤が、ゴム、樹脂の双方に良好な親和性を有していることが判明した。
【0031】
【表1】

【符号の説明】
【0032】
1 加硫ゴム
2 RFL溶液
3 樹脂成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴムと樹脂部材を接着する方法において、
前記加硫ゴムの表面に前処理を施し、ポリジニトロソベンゼンを含有するレゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックスを塗布後、塗布物と樹脂部材を熱圧着して加硫ゴムと樹脂部材を接着することを特徴とする接着方法。
【請求項2】
前記前処理がコロナ処理である請求項1に記載の接着方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87223(P2013−87223A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229987(P2011−229987)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】