説明

加硫ゴム製品の加硫度評価方法

【課題】複雑な装置等を用いることなく、種々の形状のゴム製品の加硫度合いを、容易にかつ精度良く推定することのできる加硫ゴム製品の加硫度評価方法を提供する。
【解決手段】加硫工程後のゴム製品から所定形状の試験片を複数個採取し、その複数個の一部に予め決められた条件下で加熱処理を施した後、この加熱処理後の試験片と、上記加熱処理を行っていない残りの試験片とを、室温下でトルエンに所定時間浸漬し、浸漬後の膨潤度S(浸漬後の体積V/浸漬前の体積V)をそれぞれ測定するとともに、上記加熱処理を行っていない試験片の膨潤度(S)に対する上記加熱処理後の試験片の膨潤度(S)の変化率〔((S−S)/S)×100〕を求め、この膨潤度の変化率を基準にして加硫度合いを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴム製品のゴム物性に影響を与える加硫度を評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加硫ゴムは、原料ゴムに硫黄やその他の架橋剤,加硫促進剤等を加え、加熱を行なうことによって、ゴム分子鎖間あるいはその分子鎖の中に三次元網目状の架橋構造が形成されている。この加硫ゴムの加硫度(架橋密度)を測定する手段としては、加硫ゴム中の各架橋部位を試薬で選択的に切断し、各々の切断反応後の加硫ゴム膨張前後の体積変化、すなわち膨潤度(加硫ゴムの良溶媒浸漬前後の体積変化の割合)からフローリイーレーナー(Flory−Rehner)の式を用いて架橋密度を求め、架橋構造を分析するのが一般的である(例えば、特許文献1等を参照。)。
【0003】
一方、種々の形状に加工された加硫ゴム製品においては、加硫工程終了後の架橋度合い(加硫度合い)を定量的に測定することができれば、製品である加硫ゴムの物性(弾性,耐久性等)を推測することが可能なことから、上記のような厳密な加硫度の測定に代わり、JIS K 6262(加硫ゴム及び熱可塑性樹ゴム−常温,高温及び低温における圧縮永久ひずみの求め方)に準じた「圧縮永久ひずみ法」が用いられている。
【0004】
また、加硫工程等の製造現場においては、簡易的に加硫度合いを推測する方法として、ゴム製品から切り出した試験片(テストピース)を室温下でトルエンに一定時間浸漬し、その浸漬前と浸漬後の試験片の膨潤度(体積変化率=浸漬後の体積/浸漬前の体積)を比較する「トルエン膨潤法」が用いられている(例えば、特許文献2〜3等を参照。)。
【特許文献1】特開2000−309665号公報
【特許文献2】特開2001−261891号公報
【特許文献3】特開2007−153209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような圧縮永久ひずみ法を用いた加硫度合いの測定では、正確な値を得るために、試験片にある程度の大きさが必要で、かつ、その試験片を複数個用意する必要が生じる。そのため、加硫後のゴム製品にも、これら試験片の必要個数を全て切り出しできるほどの大きさが要求され、サイズの小さなものや薄いもの、あるいは形状の複雑なゴム製品の加硫度の評価には適用することができない。
【0006】
一方、トルエン膨潤法は、大掛かりな設備なしに簡単に行なうことができるうえ、試験片のサイズ・形状に制限がなく、異なる条件のサンプルを同時に比較することができるという利点がある。図3にトルエン膨潤法による膨潤度測定の結果の一例を示す。なお、図において、点B1〜B5が測定された膨潤度の値であり、一点鎖線αが最高架橋密度点(B3)を示す。
【0007】
このグラフのように、従来のトルエン膨潤法によれば、試験片のサイズ等に関わらず、簡便にゴム製品の膨潤度を測定することができる。しかしその反面、未反応部位の多いサンプル(B1)と、反応(架橋)が進み過ぎたサンプル(B4)とが同じような値を取ってしまうため、加硫度合いの大小の判別が難しいという問題があった。すなわち、加硫が不充分では、満足のできるゴム物性が得られず、逆に加硫が過度に行なわれると、加硫戻りによる硬度低下や動特性の変動等の問題が生じることがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、複雑な装置等を用いることなく、種々の形状のゴム製品の加硫度合いを、容易にかつ精度良く推定することのできる加硫ゴム製品の加硫度評価方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の加硫ゴム製品の加硫度評価方法は、加硫工程後のゴム製品から所定形状の試験片を複数個採取し、その複数個の一部に予め決められた条件下で加熱処理を施した後、この加熱処理後の試験片と、上記加熱処理を行っていない残りの試験片とを、室温下でトルエンに所定時間浸漬し、浸漬後の膨潤度S(浸漬後の体積V/浸漬前の体積V)をそれぞれ測定するとともに、上記加熱処理を行っていない試験片の膨潤度(S)に対する上記加熱処理後の試験片の膨潤度(S)の変化率〔((S−S)/S)×100〕を求め、この膨潤度の変化率を基準にして加硫度合いを評価するという方法をとる。
【0010】
本発明は、加硫ゴム製品の製造現場で加硫条件を決定するにあたり、「製品の加硫度が加硫曲線のどのあたりまで来ているか、簡単に確認したい」というニーズに応えるべくなされたものである。
【0011】
先に述べたように、従来から、加硫ゴムの加硫度合いを簡便に判定する方法として「トルエン膨潤法」が知られていたが、この測定方法は精度に欠ける面があった。そこで、本発明者らは、1)しっかり熱が加えられたゴムは、未反応状態の加硫剤等の成分が少なく、熱に強い安定した架橋鎖が多いため、後に外部から熱を加えても架橋構造の変化が少ない。2)熱がしっかり加えられなかったゴムは、未反応状態の加硫剤等の成分が多く残留し、後に外部から熱が加わると架橋がさらに進行する、という特徴に着目し、鋭意検討を重ねた結果、従来の「トルエン膨潤法」の供試体に、熱処理(老化促進処理)を施したサンプルを新たに加え、この老化処理後の供試体の膨潤度と、老化処理を施さない供試体の膨潤度とを比較することにより、ゴム製品の加硫度合いの推定の精度を向上させることができることを見出した。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上のような知見にもとづきなされたものであり、本発明の加硫ゴム製品の加硫度の評価方法は、加硫工程後のゴム製品から採取した所定形状の試験片と、この試験片に所定の加熱処理(例えば、80℃×70時間)を施したサンプルとを供試体としてトルエン膨潤法を行ない、加熱処理を行っていない試験片の膨潤度(浸漬後の体積/浸漬前の体積)に対する加熱処理を行った試験片の膨潤度の変化率((加熱処理前の膨潤度−加熱処理後の膨潤度)/加熱処理前の膨潤度)を求めた後、この膨潤度の変化率(%)を、予め実験により求めた基準値あるいは加硫度曲線(上記変化率と加硫工程で加えられた積算熱量との相関を表すグラフ等)と比較することにより、ゴム製品の加硫度合いを簡単にかつ精度良く推定することができる。
【0013】
また、この加硫度合いの測定方法は、試験片の形状を比較的自由に設定することが可能で、サイズの小さなものや薄いもの、あるいは形状の複雑なゴム製品への適用も容易である。したがって、本発明の加硫ゴム製品の加硫度の評価方法は、複雑な装置等を用いることなく、種々の形状のゴム製品の加硫度合いを、容易にかつ高精度に推定することができる。
【0014】
なお、加硫ゴム製品の製造現場において、加硫工程における加熱条件の設定等に、本発明の加硫ゴム製品の加硫度評価方法を用いれば、その製品に最適な製造(加硫)条件を容易に設定することができる。したがって、本発明の加硫ゴム製品の加硫度評価方法は、製造現場における生産効率および歩留まりを向上させ、ひいては加硫ゴム製品のコストダウンを達成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施の形態を実際に行なった試験にもとづいて詳しく説明する。
なお、本発明の加硫ゴム製品の加硫度評価方法は、加硫工程終了後のゴム製品から、同一形状の試験片を複数個採取し、あらかじめ決められた条件下で加熱処理(老化処理)を行なうサンプルAと、そのまま室温下で保管するサンプルB(ブランク)とに分けて行なわれるが、以下の実施例では、工程(製造現場)における試験片採取に代えて、実験室で作製した検体から採取したサンプルを用いて行なった。また、本発明は、実施例に限定されるわけではない。
【実施例】
【0016】
〔試験片の作製〕
本実施例においては、製造工程における試験片採取に代えて、実験室レベルでの再現試験として、下記「表1」に示す割合で混合してなる加硫天然ゴム材料を用いて、JIS K 6262:2006に規定される「圧縮永久ひずみ試験」に使用される「大型試験片」(直径:29.0mm,厚さ:12.5mm)を、加硫条件(加硫時間)を変えながら作製し、得られたこの円板状大型試験片を2mm厚にスライスし、さらに半分(半円状)にカットして供試試験片とした。なお、サンプルは全て150℃で加硫作業を行なうものとし、その加硫時間は、A1,B1が11分、A2,B2が13分、A3,B3が15分、A4,B4が17分、A5,B5が19分である。また、季節や天候による影響を避けるため、ブランクとなるサンプルBは、デシケータや恒温恒湿室等で保管することが望ましい。
【0017】
【表1】

サンプル作成条件:加硫温度:150℃ 加硫時間:11,13,15,17,19分
【0018】
〔試験片の加熱処理〕
加熱(老化)処理を行なうサンプルAは、80℃に保たれたオーブン中に試験片を70時間保管し、所定時間経過後に取り出して、デシケータ中や恒温恒湿室内等で放冷し、ブランクと同様の試料調整を行なった。
【0019】
〔膨潤度の測定〕
つぎに、本実施例における「膨潤度」の測定方法を説明する。
膨潤度Sの測定は次の手順で行なわれる。
A)比重計(島津製作所製 SGM300P)を用いてサンプルの質量および体積を測定する。なお、このトルエン浸漬前の質量をW,体積をVとする。
B)適当な深さを有する容器にトルエンを適量入れ、サンプルを常温(JIS K 6250 標準温度23±2℃)でトルエンに24時間浸漬する。上記容器の適当な深さとトルエンの適量とは、膨潤後もサンプルが充分にトルエン中に浸漬する程度の深さと量である。
C)所定時間経過後、サンプルをトルエン液中から取り出し、サンプル表面についているトルエンを軽く落とした後、秤量計(日本シイベルヘグナー社製 AB204)で、トルエン浸漬後の質量Wを測定する。なお、サンプルの膨潤した部位には、トルエン(比重:0.87)が全て充填されているものと仮定し、膨潤後のサンプルの体積Vは、下記式(1)により近似されるものとする。
トルエン浸漬後の体積V≒V+((W−W)/0.87)・・・(1)
【0020】
したがって、トルエン浸漬による「膨潤度」は以下の式(2)により計算される。
膨潤度S=(((W−W)/0.87)/V)+1 ・・・(2)
〔式中、Vはトルエン浸漬前のサンプル体積、Wはトルエン浸漬前のサンプル質量、Wはトルエン浸漬後のサンプル質量であり、0.87はトルエンの標準比重を表す。〕
【0021】
この実施例において得られた、ブランク(サンプルB)と加熱処理後(老化後:サンプルA)の膨潤度の変化を図1のグラフに示す。なお、同図において、■B1〜B5はブランク(サンプルB)の測定値を、◆A1〜A5は加熱処理後(サンプルA)の測定値を表す。
【0022】
〔膨潤度の変化率の計算〕
つぎに、これらの膨潤度Sを用いて、加熱処理を行っていない試験片(ブランク=サンプルB)の膨潤度(S)に対する老化後の試験片(サンプルA)の膨潤度(S)の変化率C(%)を、下記式(3)により求めた。
膨潤度の変化率(C)=((S−S)/S)×100 ・・・(3)
【0023】
以上の計算により得られた膨潤度の変化率と加硫時間との関係を図2のグラフに示す。なお、同図において、●C1は((B1−A1)/B1)、C2は((B2−A2)/B2)、C3は((B3−A3)/B3)、C4は((B4−A4)/B4)、C5は((B5−A5)/B5)の値を表す。
【0024】
これら図1,2のグラフから、以下のことが分かる。
・図1のグラフにおいては、ブランクB1とB4のように、未反応部位の多い(加硫時間の短い)試験片と、反応が進み過ぎた(加硫時間の長い)試験片とが同じような値を取ってしまい、加硫度合いの大小の判別が難しい。
・しかしながら、例えば、B1−A1,B4−A4のように、同じ加硫条件でもブランクと老化後のサンプルの間の「差分」は異なる値をとることから、図2のように、これらの「膨潤度の変化率」を求めることにより、加硫度合いの判別が可能になる。
・また、このような手法を用いて加硫度合いの基準値(基準曲線)を設定することにより、製造工程における加硫ゴム製品のゴム物性の予測と、最適加工(加硫)条件の範囲の設定が可能になる。
【0025】
したがって、本発明の加硫ゴム製品の加硫度を評価する方法によれば、試験片の形状を比較的自由に設定することが可能で、サイズの小さなものや薄いもの、あるいは形状の複雑な加硫ゴム製品の加硫度合いを、複雑な装置等を用いることなく、容易にかつ高精度に推定できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の加硫ゴム製品の加硫度を評価する方法は、加硫ゴム製品の製造現場において、最適な加硫条件を決定する方法として好適である。また、製品の加硫度合いが、目標とする範囲内にあるかどうかの判定(品質管理等)に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例における「膨潤度」の加硫時間ごとの変化を示すグラフ図である。
【図2】本発明の実施例における「ブランク試験片の膨潤度に対する老化後試験片の膨潤度の変化率」を示すグラフ図である。
【図3】従来のトルエン膨潤法による「膨潤度」の加硫時間ごとの変化を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴム製品の加硫度を評価する方法であって、加硫工程後のゴム製品から所定形状の試験片を複数個採取し、その複数個の一部に予め決められた条件下で加熱処理を施した後、この加熱処理後の試験片と、上記加熱処理を行っていない残りの試験片とを、室温下でトルエンに所定時間浸漬し、浸漬後の膨潤度S(浸漬後の体積V/浸漬前の体積V)をそれぞれ測定するとともに、上記加熱処理を行っていない試験片の膨潤度(S)に対する上記加熱処理後の試験片の膨潤度(S)の変化率〔((S−S)/S)×100〕を求め、この膨潤度の変化率を基準にして加硫度合いを評価することを特徴とする加硫ゴム製品の加硫度評価方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−78523(P2010−78523A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249159(P2008−249159)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】