説明

加硫性ハロゲン化エラストマー組成物

本発明は、窒素含有キレート化剤を含み、ハロゲン化エラストマー用のポリメルカプトベースの硬化系の加硫速度に及ぼす亜鉛汚染の影響を低減するのに使用可能な組成物を提供する。このようなキレート化剤は、ハロゲン化エラストマー加硫物の加硫反応に対するマイナスの変化または以降の物理的性質を誘起せずに、亜鉛汚染による加硫速度の変動性を排除するのに効果的である。本発明は、また、本発明の組成物を用いてハロゲン化エラストマーを硬化する方法と、これから調製される物品も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、開示が参照により本明細書に組み込まれている、2004年12月21日に出願の米国仮特許出願第60/638,093号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、ポリメルカプト架橋剤、加硫促進剤、無機塩基および窒素含有キレート化剤を含む、ハロゲン化エラストマー組成物用の改善された硬化系に関する。
【背景技術】
【0003】
ハロゲン化エラストマーは、過酸化物/助剤系、チアジアゾールベースの系、または照射架橋法の使用を含む多数の手段により硬化され得る。過酸化物硬化は、通常、スコーチ安全性、保存寿命または貯蔵安定性、低永久歪(low permanent set)および高温性能のために好ましい。しかしながら、過酸化物硬化系は、揮発分による金型への粘着および汚染のために、あるいは低温硬化を必要とする用途においては、装置または加工の制約により成型品での使用にはしばしば許容され得ない。チアジアゾールベースの硬化系は、より少量の揮発性副生物を生成する一方で、過酸化物硬化よりも広い範囲の温度と圧力の条件にわたって硬化する能力、良好な離型性および安価な配合剤、例えば芳香族オイルを使用する能力などの利点をもたらす。
【0004】
米国特許第4,128,510号において、Richwineは、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールまたはこの誘導体と塩基性材料を使用することにより、ハロゲン含有ポリマーが架橋可能であるということを教示した。この塩基性材料は金属酸化物、金属水酸化物および金属カルボン酸塩を含む。この‘510特許は、また、脂肪族あるいは芳香族アミン構造物または四級窒素基を含有する促進剤の添加が望ましいこともあるということを教示した。ブチルアルデヒドとアニリンの縮合生成物が特に有用な促進剤であると主張された。第2の特許の米国特許第4,288,576号においては、Richwineは、飽和ハロゲン含有エラストマー、例えば塩素化ポリチレンを硬化するために、ある加硫促進剤を特に含むことにより、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールおよび誘導体の使用を拡張した。‘576特許において挙げられた促進剤の類は、1)110℃以上の沸点を有し、約4.5以下のpK値を有するアミン;2)4.5以下のpK値のアミンと2.0以上のpK値を有する酸の塩;3)四級アンモニウム水酸化物およびこれらと2.0以上のpKを有する酸との塩;4)ジフェニル−およびジトリル−グアニジン;および5)アニリンと1〜7個の炭素原子を含有するモノ−アルデヒドの縮合生成物であった。加えて、この‘576特許は、少なくとも等量の無機塩基の存在を必要とした。
【0005】
Richwine特許以降、改善された2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール系を特許請求するいくつかの特許が出願された。BertaおよびKyllingstadは、水和水を含有した塩が配合温度以上の温度で、しかし通常の硬化温度以下で水を放出するならば、このような塩の添加が2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール系の硬化を増進することができるということを米国特許第4,482,681号におい主張した。硫酸マグネシウム七水和物、亜硫酸ナトリウム七水和物および硫酸カリウムアルミニウム十二水和物がこのような塩の特に特許請求された例であった。Sauerbierらは、改善された加硫物の性質および良好な離型性のために、アミドアミン、例えばテトラエチレンペンタミンジステアレートがアミンまたはアニリン−ブチルアルデヒド縮合生成物のいずれかよりも促進剤として有用であるということを米国特許第4、551、505号において主張した。
【0006】
Honsbergは、必要とされる塩基性金属酸化物の量を低下させることにより、金属酸化物、アミンおよび2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールの硬化系へのポリヒドロキシアルコールの添加が改善された熱老化特性を有する加硫物を与えるということを米国特許第4,745,147号において主張した。Salernoは、特定の2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール誘導体と脂肪族アミンの組み合わせ物を紹介し、混合化合物の貯蔵安定性とこの系に固有のバッチ間の硬化変動に対する抵抗性が改善されているために、これらが2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、モノベンゾエート−ブチルアルデヒド−アニリン縮合生成物系よりも優れているということを主張した(Salerno, M. 「New Thiazole Cure System Offers Benefits to Chlorinated Polymers」, Elastomerics, April 1992)。Classは、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、アミン、金属酸化物系の早期硬化すなわちスコーチの変動性が水の影響によること、そしてこの変動がポリチレングリコールの添加により解消可能であるということを米国特許第5,665,830号において主張した。以降の特許の米国特許第5,686,537号において、Classは、グリセリンの使用がこれらの硬化系に及ぼす水の影響を同様に解消するということを主張した。
【0007】
2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール以外のポリメルカプト化合物を用いるハロゲン化エラストマーの加硫性組成物が開示され、研究されてきた。MoriおよびNakamuraは、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオールの使用についての研究を公表した(Journal of Applied Polymer Science, Vol.30, p.1049, 1985)。彼らは、塩素化ポリチレンの架橋に1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオールを使用する場合、加硫速度を増加させるためには、オニウム化合物、例えば四級アンモニウムあるいはホスホニウム塩またはポリチレングリコールの使用が必要とされるということを見出した。彼らは、ポリチレングリコールの使用による加速が求核性置換に対するクラウンエーテル促進剤に類似の機構によるということを示唆した。
【0008】
ハロゲン化エラストマーに対する更なるポリメルカプトベースの加硫系、特にハロブチルとエピハロヒドリンゴムの共硬化性ゴムブレンドがBertaにより米国特許第4,591,617号で教示された。この‘617特許は、トリチオシアヌル酸、ジチオヒダントイン、ジメルカプトトリアゾール、ジチオールトリアゼンおよびこれらの化合物の種々の誘導体を無機塩基および促進剤により処理することがクロロエラストマーの硬化に有用であるということを教示した。ジメルカプトピラジンまたはジメルカプトキノキサリンをベースとするハロゲン化エラストマー用の類似の加硫系がyによる米国特許第4,357,446号により提案された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
優れた加硫物の性質がハロゲン化エラストマー用のポリメルカプト/金属(水)酸化物/促進剤ベースの加硫系により得られるにも拘わらず、2つのキーとなる問題が残っていて、これらの有用性を制限する。第1の問題は、加硫物品を成形する前の貯蔵時のこの化合物の早期加硫であり、第2の問題は加硫速度の変動性である。エラストマー化合物は、調製後、貯蔵の通常の環境条件下で安定であって、完成物品の成形の前に最少の加硫しか起こらないということが望まれる。完成加硫物品を成形する工程、例えば射出成形、押し出しまたは圧縮成形を一貫して、そしてスクラップ材料の生成なしで行うことができるように、不変の加硫速度が望まれる。
【0010】
ポリメルカプト化合物、例えば2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールとこの誘導体、金属(水)酸化物とこれらの弱酸との塩および加硫促進剤、例えば四級アンモニウム化合物またはアミンを含有するハロゲン化エラストマー組成物の加硫速度は、普通の不純物、例えば酸性充填剤、塩素化パラフィン、イソシアネート、エポキシ、鉛および特に亜鉛化合物、例えば酸化亜鉛の存在に50ppmという低いレベルで極めて敏感である。この所望の組成物からのこれらの成分を排除するための努力を行うことができるが、これらの不純物は、前の使用により装置片中に残存し、そしてこの組成物を不注意で汚染する可能性がある。
【0011】
酸化亜鉛は、多数のエラストマーのイオウベースの加硫における普通の成分であり、そして化合物の交差汚染はゴム業界で普通である。本発明者らは、窒素含有キレート化剤、例えば1,10−フェナントロリンを組み込むことにより、ハロゲン化エラストマー用のポリメルカプトベースの硬化系の加硫速度に及ぼす酸化亜鉛の汚染の影響を排除するか、あるいは著しく低減することが可能であることを見出した。このようなキレート化剤は、遷移金属化合物を結合するということが知られているが、これらがハロゲン化エラストマー加硫物の加硫反応に対するマイナスの変化および以降の物理的性質を誘起せずに、ZnO汚染による加硫速度の変動性を排除するのに効果的であるということは驚くべきことである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、a)ポリメルカプト架橋剤、b)加硫促進剤、c)無機塩基およびd)ハロゲン化エラストマー中で可溶性である窒素含有キレート化剤を含む組成物を提供する。これらの組成物およびこれらの組成物の更なる実施形態が本明細書中で述べられる。これらの組成物は本明細書中で述べられるハロゲン化エラストマーを硬化するのに使用される。本発明は、また、本発明の組成物を用いてハロゲン化エラストマーを硬化する方法も提供する。
【0013】
本発明は、本明細書中で述べる本発明の組成物から形成される硬化組成物を提供する。本発明は、また、本明細書中で述べる本発明の組成物から形成される少なくとも一つの構成要素を含む物品も提供する。本発明は、本明細書中で述べる本発明の組成物から形成される硬化組成物から形成される少なくとも1つの構成要素を含む物品も提供する。
【0014】
一つの実施形態においては、この組成物は、窒素二座配位子を含有する芳香族ヘテロ環塩基である窒素含有キレート化剤を含有する。もう一つの実施形態においては、この窒素含有キレート化剤は1,10−フェナントロリンである。更にもう一つの実施形態においては、この窒素含有キレート化剤は2,2−ビピリジルである。
【0015】
もう一つの実施形態においては、この組成物は、ターピリジン、ジエチレントリアミンおよびこれらの誘導体からなる群より選択される三座窒素含有化合物である窒素含有キレート化剤を含有する。更にもう一つの実施形態においては、この窒素含有キレート化剤は、トリエチレンテトラミン、ポルフィリン、フタロシアニンおよびこれらの誘導体からなる群より選択される四座窒素含有化合物である。なお更なる実施形態においては、窒素含有キレート化剤は、アジリジンホモポリマー、アジリジン/1,2−ジアミノエタンコポリマーおよびアンモニアと1,2−ジクロロエタンのポリマー型縮合生成物からなる群より選択されるポリアミンである。
【0016】
もう一つの実施形態においては、この組成物は、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールまたはこれらの誘導体である、ポリメルカプト硬化剤を含有する。更にもう一つの実施形態においては、このポリメルカプト硬化剤は2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール−5−チオベンゾエートである。
【0017】
もう一つの実施形態においては、この組成物は、四級アンモニウムあるいはホスホニウム塩、三級アミンおよびジヒドロピリジン誘導体からなる群より選択される加硫促進剤を含有する。
【0018】
もう一つの実施形態においては、この組成物はハロゲン化エラストマーを更に含有する。更なる実施形態においては、このハロゲン化エラストマーは、ポリクロロプレン、ポリエピクロロヒドリン、エピクロロヒドリン/エチレンオキシドコポリマー、クロロスルホン化ポリチレン、塩素化ポリチレン、塩素化エチレンα−オレフィンコポリマー、ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレンのコポリマーおよび塩素化あるいは臭素化ブチルゴムからなる群より選択される。更にもう一つの実施形態においては、このハロゲン化エラストマーは塩素化ポリチレンである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の組成物は、本明細書中で述べる2つ以上の実施形態の組み合わせ物を含有し得る。本発明の組成物の製造方法およびこのような組成物から調製される物品も本明細書中で述べる2つ以上の実施形態の組み合わせ物も含有し得る。
【0020】
配合されて、架橋時にエラストマー製品を形成することができるハロゲン原子を含有するいかなるポリマーまたはコポリマーも本発明の目的にはハロゲン化エラストマーと考えられることができる。ハロゲン化エラストマーの例は、限定ではないがポリクロロプレン、ポリエピクロロヒドリン、エピクロロヒドリン/エチレンオキシドコポリマー、クロロスルホン化ポリチレン、塩素化ポリチレン、塩素化エチレンα−オレフィンコポリマー、ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレンのコポリマーおよび塩素化あるいは臭素化ブチルゴムを含む。
【0021】
塩素化エチレンコポリマーの例は、エチレンと、C−Cl0αモノオレフィンからなる群より選択される少なくとも一つのエチレン型不飽和モノマーを含むコポリマーから調製されるものを含む。塩素化グラフトコポリマーも含まれる。本発明の組成物中で使用され得る好適な塩素化エチレンコポリマーの特定の例は、エチレンと、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテンまたはオクテンとのコポリマーを含む。このコポリマーはジポリマー、ターポリマーまたは高次コポリマーであり得る。塩素化ポリチレンは好ましい塩素化オレフィンエラストマーである。塩素化エラストマーのいくつかの特別な例を下記に更に述べる。このようなコポリマーのエステル基が硬化条件の下で不活性のままである場合には、塩素化エチレン・エステルコポリマー、例えばエチレン・メチルアクリレートおよびエチレン・メチルメタクリレートも本発明での使用に好適であり得る。
【0022】
ポリメルカプト架橋剤は、米国特許第4,128,510号で述べられている2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールとこの誘導体;1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオールおよびこの誘導体;米国特許第4,234,705号で述べられているジメルカプトトリアゾール;米国特許第4,342,851号で述べられている2−4−ジチオヒダントイン;および米国特許第4,357,446号で述べられている2、3−ジメルカプト−ピラジンまたは2、3−ジメルカプト−キノキサリンを含む。好ましくは、この架橋剤は2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール−5−チオベンゾエートである。このポリメルカプト化合物は、通常、ハロゲン化エラストマー100部当り0.5〜5部(phr)のレベルで組み込まれる。すべての個別の値および0.5〜5phrの下位範囲が本明細書で含まれ、そして開示されている。これらの特許の各々は参照により全体が本明細書に組み込まれている。
【0023】
この組成物中で有用な加硫促進剤は、四級アンモニウムあるいはホスホニウム塩、三級アミンおよびジヒドロピリジン誘導体を含む。通常の加硫促進剤は、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリドまたはN−フェニル−3,5−ジエチル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジンを含む。加硫促進剤は、ハロゲン化エラストマーの0.2〜1phrのレベルで組み込まれる。すべての個別の値および0.2〜1phrの下位範囲が本明細書で含まれ、そして開示されている。
【0024】
無機塩基、例えば金属酸化物、水酸化物またはこれらと弱酸との塩は、酸受容体として作用して、硬化反応の副生物として形成されるハロゲン化水素酸を捕捉する。通常の金属は、周期律表のII族の金属、例えばMg、CaまたはBaを含む。これらの化合物の例は、限定ではないが、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムおよび炭酸バリウムを含む。好ましい塩基性金属酸化物および水酸化物は酸化マグネシウムと水酸化マグネシウムである。この塩基性金属酸化物は、ハロゲン化エラストマーの2〜10phrのレベルで組み込まれる。すべての個別の値および2〜10phrの下位範囲が本明細書で含まれ、そして開示されている。
【0025】
窒素含有キレート化化合物は、二座窒素化合物(bidentate nitrogen compounds)、三座窒素化合物(tridentate nitrogen compounds)、四座窒素化合物(tetradentate nitrogen compounds)および多座窒素化合物(polydentate nitrogen compounds)を含む。各キレート化化合物は、帯電金属原子または分極性金属原子または他の帯電部分または分極性部分と結び付いて配位錯体を形成することのできる、立体配座で配向する2つ以上の窒素原子を含有する。このような化合物は、1個以上の芳香族環上に相互にパラ位の2個の窒素原子のみを含有しない。
【0026】
二座窒素化合物は、限定ではないが、エチレンジアミン、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリンおよびこれらの誘導体を含む。このような誘導体は、用語が本明細書中で使用されるように、それぞれの親化合物の構造に基づく化合物である。
【化1】

【0027】
三座窒素含有化合物は、限定ではないが、ターピリジン、ジエチレントリアミンおよびこれらの誘導体を含む。代表的な構造物を下記に示す。
【化2】

【0028】
四座窒素含有化合物は、限定ではないが、トリエチレンテトラミン、ポルフィリン、フタロシアニンおよびこれらの誘導体を含む。
【化3】

【0029】
多座窒素含有化合物は、限定ではないが、アジリジンホモポリマー(またはポリチレンイミン)、アジリジン/1,2−ジアミノエタンコポリマー、アンモニアと1,2−ジクロロエタンのポリマー型縮合生成物またはこれらの誘導体を含む。代表的なポリチレンイミン(PEI)は、一般的な骨格単位、−(CH−CH−NH)n−(式中、「n」は10〜10である)を持つポリマー型アミンである。ポリチレンイミンは分岐および/または球状ポリアミンも含み得る。一般に、これらの構造物は、通常、一級、二級および三級アミン官能基のよく定義された比を有し、そしてBASFおよびBayerから市販されている。代表的なポリチレンイミンの一部の例を下記に示す。
【化4】

【0030】
一つの実施形態においては、本発明での使用に好適な窒素含有キレート化化合物は、好ましくは窒素および酸素以外のいかなるヘテロ原子も含有せず、更に好ましくは水素、炭素および窒素のみを含有する。
【0031】
もう一つの実施形態においては、この窒素含有キレート化化合物は、この化合物の構造中にN−C−C−N結合配列を含有する。更なる実施形態においては、このN−C−C−N結合配列は下記に示す構造から選択される。
【化5】

【0032】
この窒素含有キレート化化合物は、本発明の有効な構成成分であるためには、この化合物のポリマー相中で可溶性あるいは微細分散性でなけらばならない。更には、この窒素含有キレート化剤は、エラストマー化合物を硬化する温度を超える沸点を有して、このキレート化剤への職業被爆(occupational exposure)と、できあがったエラストマー製品中の泡形成が最少化されるということが好ましい。
【0033】
一部の窒素含有キレート化化合物、例えばエチレンジアミン−四酢酸(EDTA)とこの塩は、多くのエラストマー化合物中に可溶性あるいは分散性でなく、それゆえ有効でない。硬化速度の変動性を排除する効果の程度は、窒素含有キレート化化合物の構造により変わる。好ましい窒素含有キレート化剤は1,10−フェナントロリンとこの誘導体である。窒素含有キレート化剤は、ハロゲン化エラストマーの0.2〜2phrのレベルで組み込まれる。好ましくは、この窒素含有キレート化剤のレベルはハロゲン化エラストマーの0.5〜1.5phrである。すべての個別の値および0.2〜2phrの下位範囲が本明細書で含まれ、そして開示されている。
【0034】
本発明の組成物は、ゴム加硫で普通に使用される他の成分、例えば充填剤、増量剤、可塑剤、安定剤および顔料を含み得る。最終加硫物の性質は、用途に適合するようにこれらの材料を添加することにより調整可能である。普通の充填剤の例は、炭酸カルシウム、カーボンブラックおよびクレイである。増量剤および可塑剤は、通常、芳香族あるいはナフテン系のオイルあるいはエステルである。通常の顔料は二酸化チタンである。
【0035】
エラストマー組成物の成分は、通常、強力インターナルミキサー、例えばBanbury(登録商標)ミキサー(Farrel Corporation)を使用することにより、ハロゲン化エラストマーポリマーと混合され、均一にブレンドされる。これらは、また、二本ロールミル上でミル掛けすることによっても、あるいは成分の均一なブレンドの製造を可能とせしめるいかなる他の機械的混合装置によっても組み込まれ得る。組成物の温度が約110℃を超えず、そして混合時間をできるだけ短く維持し、均一な組成物を生成するように、エラストマー組成物の成分を混合することが好ましい。
【0036】
この混合方法は、バインダー中に成分の一部を添加することにより改善され得る。例えば、反応促進剤をポリマー、例えばエチレン−プロピレン−ジエンゴム中に促進剤の25〜75パーセントの濃度で結合して、少量の成分を添加し易くすることができる。成分をニート(neat)で添加するか、あるいはバインダーとして添加するかは、本発明の結果に実質的に影響を及ぼさない。
【0037】
エラストマー化合物を架橋してエラストマー製品とする条件は、圧縮成型または射出成型において行われるような、130℃〜200℃の温度および常圧から高圧の範囲にある。架橋反応が起こる時間は、温度および組成物中のポリメルカプト化合物、促進剤および金属酸化物の濃度により変わる。低い温度および低い濃度は、架橋対象の完成部品に対して長い時間を必要とする。通常の架橋時間は1分ないし数時間であり得る。
【0038】
好適な塩素化ポリチレンエラストマーは、a)0.01〜120dg/分の、更に好ましくは0.05〜100dg/分のI10値を有するポリチレンから調製される塩素化ポリチレンホモポリマー、およびb)i)エチレンとii)25重量パーセント(モノマーの全重量基準で)までの共重合性モノマーの共重合された単位を含む、0.01〜120dg/分のI10値を有するエチレンコポリマーから調製される塩素化エチレンコポリマーからなる群より選択され得る。
【0039】
ハロゲン化エラストマーのある特別な例は、参照により全体が本明細書に組み込まれている、米国特許第6,720,383号で述べられているように、塩素化エラストマーを含む。このようなエラストマーは、15〜48重量パーセントの塩素含量を有する塩素化オレフィンエラストマーを含み;前記塩素化オレフィンエラストマーはi)0.05〜0.8dg/分のI10値を有するポリチレンホモポリマーおよびii)0.05〜0.8dg/分のI10値を有する、エチレンと25重量パーセントまでの共重合性モノマーのコポリマーからなる群より選択されるオレフィンポリマーから調製される。
【0040】
一つの実施形態においては、本発明の実施で有用な塩素化オレフィンエラストマーは、エラストマーの全重量基準で15〜48重量パーセントの塩素、好ましくは25〜38重量パーセントの塩素を含有する。もう一つの実施形態においては、非塩素化のポリオレフィンベース樹脂の分子量は、ほぼ400,000〜1,000,000g/モルの範囲にある。
【0041】
もう一つの実施形態においては、本発明の組成物中での使用に好適な塩素化オレフィンエラストマーは、分岐あるいは非分岐のポリオレフィン樹脂から調製され得る。このポリオレフィンベース樹脂は、フリーラジカル法、チーグラー・ナッタ触媒法またはメタロセン触媒系による触媒法、例えば参照により全体が本明細書に組み込まれている、米国特許第5,272,236号および第5,278,272号で開示されている方法により調製され得る。
【0042】
塩素は、溶液塩素化、水性スラリー塩素化(TYRIN用のダウ法)、流動床塩素化、溶融塩素化および他の塩素化法の種々の方法でこのポリチレンに導入可能である。このポリマーに導入される塩素の全レベルは、製品の必要性と加工の能力に依って変わることができる。通常の市販品のグレードは、この範囲を超えることは可能であるが、25〜42重量パーセント塩素の範囲にある。このベース樹脂の塩素化は、懸濁液、溶液、固体状態または流動床で起こり得る。フリーラジカル懸濁液塩素化法は、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第3,454,544号、第4,767,823号およびその中で引用されているリファレンスで述べられている。このような方法は、微粉砕されたエチレンポリマーの水性懸濁液を準備し、次に塩素化する方法を含む。フリーラジカル溶液塩素化法の例は、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第4,591,621号で開示されている。このポリマーは、例えば参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第4,767,823号で教示されているように、溶融物または流動床でも塩素化され得る。
【0043】
種々の密度の種々のエチレン含有原料がこの塩素化法で使用可能である。大多数の場合の制約要素は、塩素化が起こる方法(溶液、スラリーなど)である。
【0044】
塩素化法によって、骨格上の塩素の配置を変えて、塩素のランダム分布または塩素のブロック分布を有する樹脂を製造することができる。塩素のランダム分布の例は、36重量パーセントの塩素含有ポリマー中で5個の炭素原子当りほぼ1個の塩素を含む。塩素のブロック分布の例は、重度塩素化(2個の炭素原子毎に1個の塩素)されたポリチレン骨格に沿ったポリマー配列と、主としてエチレンからなる同一骨格に沿った隣接した配列を含む。塩素のランダムおよびブロック分布の両方を含有するポリマーも本発明の範囲内に含まれる。好ましい実施形態においては、このポリマーはポリマー試料の分子鎖の骨格に沿って塩素のランダム分布を含有する。
【実施例】
【0045】
次の実施例は本発明を例示するが、本発明の範囲を制限するように意図されていない。本発明の例は、ポリメルカプト化合物、塩基性金属酸化物および促進剤硬化系によりハロゲン化エラストマーを架橋する場合、可溶性窒素含有キレート化剤の添加が組成物の酸化亜鉛による汚染と関連する硬化速度の変動性を低下させるということを示す。これらは、また、加硫物の加硫反応またはその結果としての物理的性質におけるマイナスの変化を誘起せずに、硬化速度の非変動性の改善が行われるということも示す。
【0046】
表1および4にこの実施例の組成物を掲げ、またすべての材料に対する供給源も掲げる。すべての成分量は100重量部のハロゲン化エラストマーを基準とする。比較例AおよびBは、窒素含有キレート化剤を添加しないZnO汚染の影響を示す。実施例1および2は、キレート化剤としての1,10−フェナントロリン存在下のZnO汚染の影響を示す。実施例3および4はキレート化剤としてのポリアミン存在下のZnO汚染の影響を示す。
【0047】
Banbury(登録商標)BRインターナルミキサー(Farrel Corporation)を用いて、表1および4中の組成物の各々を混合した。最初に、この乾燥した成分をこのミキサーに装填し、続いて液体成分と、次にハロゲン化エラストマーを装填した。遅い混合速度を使用した。この化合物が溶解した後、Banburyシュートを掃き落とし、105℃でミキサーからダンプした。ミキサーから排出される化合物を6インチ×13インチの二本ロールミル上に置き、ミルから出るときにロール掛けした。このミル手順を更に5〜6回繰り返して、すべての成分を確実に適当に分散させた。最終シートをミルからほぼ3mmの厚さで得た。最終シートから切断された試料を使用して、硬化速度を測定し、そして加硫物の物理的性質を試験するためにプラーク試料を圧縮成型した。
【表1】

【0048】
ASTM D2084にしたがって硬化速度試験をモンサント振動円板レオメーター(ODR)により177℃で行った。物理的性質試験用の試料をPHIゴムプレスにより177℃で圧縮成型した。t90硬化時間プラス追加の10パーセントを用いて、硬化時間をODR硬化速度試験から求めた。t90時間は、試料が試験時に観察される最終トルクの90パーセントに達する分での時間である。圧縮成型加硫物についての物理的性質試験をASTM D412にしたがって行った。
【0049】
表2は、比較例AおよびBと本発明の実施例1および2について得られた硬化速度データを掲げる。すべての実施例に対してODR試験を25分間行った。比較例AおよびBに対するデータは、硬化速度がZnOの添加により著しく抑制されたということを示す。このことは、トルクが最小(MLmin)と最大(MHmax)の間の変化の50パーセントに達する時間であるt50と、試料がトルク差の90パーセントに達する時間である、対応するt90の大きな増加により最も明確に示される。比較例BにおけるMHmaxも比較例Aにおけるよりも極めて小さく、試験の終わりで、この試料は架橋を完結していないということを示す。対照的に、本発明の実施例1および2は、表2で示すように硬化速度パラメーターの差異を著しく低下させた。
【表2】

【0050】
硬化および圧縮成型により得られる加硫物の物理的性質を表3に示す。実施例1および2の破断時伸びと最終張力は、すべての場合比較例AおよびBよりも優れている。加えて、本発明にしたがった窒素含有キレート化剤を添加することにより、加硫物の性質に及ぼすマイナスの影響はない。
【表3】

【0051】
表4は、比較例AおよびBの組成物と、ポリアミンを窒素含有キレート化剤として使用する本発明の実施例3および4の組成物を示す。この加硫物の硬化速度パラメーターおよび物理的性質をそれぞれ表5および6に掲げる。使用されるポリアミンは、ZnO汚染に対する防御をもたらすことに加えて、硬化速度パラメーターも加速する。実施例3および4は、ポリアミンが本発明による組成物中に存在する場合には、著しい量のZnOの存在下でこの硬化速度パラメーターが変化しないということを示す。
【表4】

【表5】

【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリメルカプト架橋剤、
b)加硫促進剤、
c)無機塩基および
d)ハロゲン化エラストマーに可溶性である窒素含有キレート化剤
を含む組成物。
【請求項2】
窒素含有キレート化剤が窒素二座配位子(a nitrogen bidentate ligand)を含有する芳香族ヘテロ環塩基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
窒素含有キレート化剤が1,10−フェナントロリンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
窒素含有キレート化剤が2,2−ビピリジルである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
窒素含有キレート化剤がターピリジン、ジエチレントリアミンおよびこれらの誘導体からなる群より選択される三座窒素含有化合物(a tridentate nitrogen containing compound)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
窒素含有キレート化剤がトリエチレンテトラミン、ポルフィリン、フタロシアニンおよびこれらの誘導体からなる群より選択される四座窒素含有化合物(a tetradentate nitrogen containing compound)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
窒素含有キレート化剤がアジリジンホモポリマー、アジリジン/l,2−ジアミノエタンコポリマーおよびアンモニアと1,2−ジクロロエタンのポリマー型縮合生成物からなる群より選択されるポリアミンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ポリメルカプト硬化剤が2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールまたはこれらの誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ポリメルカプト硬化剤が2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール−5−チオベンゾエートである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
加硫促進剤が四級アンモニウムあるいはホスホニウム塩、三級アミンおよびジヒドロピリジン誘導体からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
ハロゲン化エラストマーを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
ハロゲン化エラストマーがポリクロロプレン、ポリエピクロロヒドリン、エピクロロヒドリン/エチレンオキシドコポリマー、クロロスルホン化ポリチレン、塩素化ポリチレン、塩素化エチレンα−オレフィンコポリマー、ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレンのコポリマーおよび塩素化あるいは臭素化ブチルゴムからなる群より選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
ハロゲン化エラストマーが塩素化ポリチレンである、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
硬化組成物から形成される少なくとも一つの構成成分を含み、硬化組成物が請求項11に記載の組成物から形成される物品。
【請求項15】
ハロゲン化エラストマーを請求項1に記載の組成物と接触させることを含むハロゲン化エラストマーを硬化する方法。
【請求項16】
窒素含有キレート化剤が窒素二座配位子を含有する芳香族ヘテロ環塩基である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
窒素含有キレート化剤が1,10−フェナントロリンおよび2,2−ビピリジルからなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
窒素含有キレート化剤がターピリジン、ジエチレントリアミンおよびこれらの誘導体からなる群より選択される三座窒素含有化合物である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
窒素含有キレート化剤がトリエチレンテトラミン、ポルフィリン、フタロシアニンおよびこれらの誘導体からなる群より選択される四座窒素含有化合物である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
窒素含有キレート化剤がアジリジンホモポリマー、アジリジン/1,2−ジアミノエタンコポリマーおよびアンモニアと1,2−ジクロロエタンのポリマー型縮合生成物からなる群より選択されるポリアミンである、請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2008−524429(P2008−524429A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548447(P2007−548447)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/046473
【国際公開番号】WO2006/069191
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】