説明

加硫用ゴム組成物およびその加硫物

【課題】活性点としてエポキシ基を導入した特定のポリエーテル系共重合体、および、特定の加硫剤を用いることにより、耐熱性等の諸特性を具備する加硫用ゴム組成物、およびこれを用いた加硫物の提供。
【解決手段】(a)架橋性オキシラン単量体単位として下記一般式(I)および一般式(I)にメチル基が付加した官能基を各1個有するジエポキシ単量体単位0.5〜10モル%、及び、前記ジエポキシ単量体単位と共重合可能なオキシラン単量体単位90〜99.5モル%を共重合して得られるポリエーテル系共重合体と、(b)ポリチオール系加硫剤、ポリオール系加硫剤、及び、ポリカルボン酸系加硫剤からなる群より一種以上選択。


一般式(I)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム部品として有用なポリエーテル系共重合体を用いた加硫用ゴム組成物およびその加硫物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテル系の重合体は、原料となるオキシラン化合物の種類を選択することにより、様々な性質をもつポリマーとなるため、自動車用ゴム部品、電気、電子機器用ゴム部材、土木、建築用ゴム資材、各種工業用ゴム部材、各種プラスチックブレンド用ポリマー、高分子固体電解質等の広範な分野で使用されている。
【0003】
特に、一般的にエピクロルヒドリン系ゴムと呼ばれるエピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキシド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキシド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体は、優れた耐熱性、耐油性、耐燃料油性、耐オゾン性、低温特性、半導電特性などを有していることから、自動車用ゴム部品や電気、電子機器用ゴム部材として広く利用されている。
【0004】
これらポリエーテル系重合体を加硫する際の、加硫剤と反応する活性点としては、ポリマー中のハロゲン原子やアリル基の二重結合を利用するものが一般的である。
【0005】
しかしながら、ハロゲンを利用した加硫では、加硫反応中にポリマーから離脱するハロゲンや、このハロゲンと受酸剤が反応することにより生成する金属塩化物が原因となって、射出成形時の金型汚染や、金属と接触して利用されるゴム部材においては、金属を腐蝕させるといった問題点がある。また、二重結合を利用した硫黄加硫などでは、充分な耐熱性を有するゴム部品が得られない問題を有する。
【0006】
ハロゲンや二重結合を利用しないポリエーテル系共重合体の活性点としては、側鎖にエポキシ基を導入する方法(例えば特許文献1、特許文献2参照)が提案されている。
【0007】
また、側鎖にエポキシ基を有するポリエーテル系共重合体を架橋せしめる方法としては、架橋剤にポリアミン類や、酸無水物を用いる方法(例えば特許文献3参照)が提案されている。
【0008】
更に、エピクロルヒドリンのごときハロゲン含有化合物を用いないポリエーテル系重合体ゴムを架橋せしめる方法として、アルキルジチオカルバミン酸塩や活性硫黄放出型有機加硫剤などを加硫剤として用いる方法(特許文献4、特許文献5参照)などが提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開昭62−135525号公報
【特許文献2】特開昭62−168923号公報
【特許文献3】再公表特許WO97/42251号公報
【特許文献4】特開2005−154569号公報
【特許文献5】特開2008−106104号公報
【0010】
しかしながら、上記ポリエーテル系重合体の架橋方法では、特に自動車分野で求められる耐熱性、耐油性、耐燃料油性、圧縮永久歪みなどの諸特性を同時に満たすことができず、更なる改良が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記問題に鑑み、活性点としてエポキシ基を導入した特定のポリエーテル系共重合体、および、特定の加硫剤を用いることにより、耐熱性、耐油性、耐燃料油性、及び、圧縮永久歪みなどのいずれの特性を具備する加硫物を得ることができる加硫用ゴム組成物、およびこれを用いた加硫物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねたところ、特定のポリエーテル系共重合体と、特定の加硫剤を含有する加硫用ゴム組成物を用いた加硫物が、優れた特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の加硫用ゴム組成物は、(a)架橋性オキシラン単量体単位として下記一般式(I)および(II)で表される官能基を各1個有するジエポキシ単量体単位0.5〜10モル%、及び、前記ジエポキシ単量体単位と共重合可能なオキシラン単量体単位90〜99.5モル%を共重合して得られるポリエーテル系共重合体と、(b)ポリチオール系加硫剤、ポリオール系加硫剤、及び、ポリカルボン酸系加硫剤からなる群より選択される少なくとも一種の加硫剤を含有することを特徴とする。
【化1】

一般式(I)

【化2】

一般式(II)

【0014】
本発明の加硫用ゴム組成物は、前記ポリエーテル系共重合体が、ハロゲンを有しないオキシラン単量体単位より構成されたポリエーテル共重合体であることが好ましい。
【0015】
本発明の加硫用ゴム組成物は、前記ポリチオール系加硫剤が、キノキサリン系加硫剤、及び/又は、トリアジン系加硫剤であることが好ましい。
【0016】
本発明の加硫用ゴム組成物は、前記ポリオール系加硫剤が、ポリヒドロキシベンゼン系加硫剤であることが好ましい。
【0017】
本発明の加硫用ゴム組成物は、前記ポリカルボン酸系加硫剤が、フタル酸系加硫剤であることが好ましい。
【0018】
本発明の加硫物は、前記いずれかに記載の加硫用ゴム組成物を加硫してなることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の構成につき詳細に説明する。
【0020】
本発明の加硫用ゴム組成物は、(a)ジエポキシ単量体及びこれと共重合可能なオキシラン単量体を共重合して得られるポリエーテル系共重合体と、(b)ポリチオール系加硫剤、ポリオール系加硫剤、および、ポリカルボン酸系加硫剤からなる群より選択される少なくとも一種の加硫剤を含有する。
【0021】
<ポリエーテル系共重合体>
本発明において用いられるポリエーテル系共重合体は、下記一般式(I)および(II)で表される官能基を各1個有するジエポキシ単量体(以下、ジエポキシ単量体とする。)単位が0.5〜10モル%であり、好ましくは1〜8モル%であり、前記ジエポキシ単量体単位と共重合可能なオキシラン単量体単位が90〜99.5モル%であり、好ましくは92〜99モル%を共重合して得られる。ジエポキシ単量体単位が0.5モル%未満では充分な架橋密度が得られず、結果として加硫物の物理的特性の低下や圧縮永久歪みの悪化を招く。また、ジエポキシ単量体単位が10モル%を超えるとコンパウンドの貯蔵安定性の低下、いわゆるスコーチの問題が発生するため好ましくない。
【化1】

一般式(I)

【化2】

一般式(II)

【0022】
具体的なジエポキシ単量体の例としては、2,3−エポキシプロピル−2’,3’−エポキシ−2’−メチルプロピルエーテル、2,3−エポキシプロピル−2’,3’−エポキシ−2’−メチルプロピルエステルなどを挙げることができる。
【0023】
前記オキシラン単量体としては、ジエポキシ単量体と共重合可能であればいかなるものでも良く、求められるゴム部品の性能に応じて適宜選択され得る。共重合可能なオキシラン単量体を例示すると、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、イソブチレンオキシド、n−ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシド類、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリンなどのエピハロヒドリン類、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n−ブチルグリシジルエーテル、i−ブチルグリシジルエーテル、t−ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2、2−メトキシエトキシエチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類、グリシジルアセテート、グリシジルプロピオネート、グリシジルベンゾエート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジルエステル類、グリシジルメチルカーボネート、グリシジルエチルカーボネート、グリシジルプロピルカーボネートなどのグリシジルカーボネート類、グリシド酸メチル、グリシド酸エチル、グリシド酸ブチルなどのグリシド酸類などを挙げることができ、これら1種以上がジエポキシ単量体との共重合に用いられる。これら例示のうち、オキシラン単量体がハロゲンを含有していると、後述の加硫剤とハロゲンが反応して塩化水素等のハロゲン化水素を生成する。更に生成した塩化水素等のハロゲン化水素と金属化合物が反応して金属ハロゲン化物を生成し、結果的に射出成形時の金型汚染や、金属と接触して利用されるゴム部材では金属を腐蝕させる問題が起こる可能性があるため、本発明においてはハロゲンを有していない(実質的に有していない)オキシラン単量体単位を用いることにより、ポリエーテル系共重合体を構成する方が好ましい。
【0024】
本発明に使用されるポリエーテル系共重合体系共重合体の分子量については、ゴム材料の加工性の観点から、JIS K 6300−1に記載の方法にしたがって、100℃で測定したムーニー粘度(ML1+4)が5〜200であることが好ましく、より好ましくは30〜150の範囲内である。前記ムーニー粘度が前記範囲を外れると、加工が困難となり、好ましくない。
【0025】
前記範囲のムーニー粘度を有するポリエーテル系共重合体は、触媒としてオキシラン化合物を開環重合させ得るものを使用し、温度−20〜100℃の範囲で溶液重合法や、スラリー重合法などにより製造することができる。
【0026】
前記触媒としては、例えば有機アルミニウムを主体とし、これに水やリンのオキソ酸化合物やアセチルアセトンなどを反応させて得られる触媒系、有機亜鉛を主体とし、これに水を反応させて得られる触媒系、有機錫−リン酸エステル縮合物触媒系などが挙げられる。例えば、本出願人による米国特許第3,773,694号明細書に記載の有機錫−リン酸エステル縮合物触媒系を使用してポリエーテル多元共重合体を製造することができる。
【0027】
<加硫剤>
本発明においては、加硫剤としてポリチオール系加硫剤、ポリオール系加硫剤、ポリカルボン酸系加硫剤からなる群より選択される少なくとも一種が用いられる。
【0028】
本発明におけるポリチオール系加硫剤とは、分子内に2つ以上のチオール基を有する化合物、またはその誘導体であり、例としては、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール−5−チオベンゾエートなどのチアジアゾール系加硫剤、2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン、1−ヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジブチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−フェニルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジンなどのトリアジン系加硫剤、キノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、5,6−ジメチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネートなどのキノキサリン系加硫剤、ピラジン−2,3−ジチオカーボネート、5−メチル−2,3−ジメルカプトピラジン、5,6−ジメチル−2,3−ジメルカプトピラジン、5−メチルピラジン−2,3−ジチオカーボネートなどのピラジン系加硫剤などを挙げることができる。
【0029】
上記ポリチオール系加硫剤のうち、コンパウンドの貯蔵安定性、および得られるゴム製品の圧縮永久歪みの観点から、好ましくは、キノキサリン加硫剤、及び、トリアジン系加硫剤である。
【0030】
前記キノキサリン加硫剤としては、特に好ましくは、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネートである。
【0031】
前記トリアジン系加硫剤としては、特に好ましくは2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジンである。
【0032】
本発明におけるポリオール系加硫剤とは、分子内に2つ以上の水酸基を有する化合物であり、例としては、o−ジヒドロキシベンゼン、m−ジヒドロキシベンゼン、p−ジヒドロキシベンゼンなどのポリヒドロキシベンゼン系加硫剤、ビスフェノールA、ビスフェノールAF、ビスフェノールSなどのビスフェノール系加硫剤を挙げることができる。加硫速度の観点から、好ましくはポリヒドロキシベンゼン系加硫剤であり、特に好ましくはm−ジヒドロキシベンゼンである。
【0033】
本発明におけるポリカルボン酸系加硫剤とは、分子内に2つ以上のカルボン酸基を有する化合物であり、例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのフタル酸系加硫剤、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸などを挙げることができる。加硫速度の観点から、好ましくはフタル酸系加硫剤であり、特に好ましくはイソフタル酸である。
【0034】
上記加硫剤の配合割合としては、通常、ポリエーテル系共重合体の100重量部に対して、好ましくは0.3〜5重量部、より好ましくは0.3〜3重量部、特に好ましくは、0.5〜3重量部の範囲内である。
【0035】
これら加硫剤に加硫促進剤および/または加硫遅延剤を適用することは任意である。加硫促進剤としては、用いられる加硫剤に応じて適宜選択されるが、例としては周期表第I族(1族)金属の炭酸塩、周期表第II族(2族および12族)金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、亜リン酸塩、周期表III族(3族および13族)金属の酸化物、水酸化物、カルボン酸塩、ケイ酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、周期表第IV族(4族および14族)金属の酸化物、塩基性炭酸塩、塩基性カルボン酸塩、塩基性亜リン酸塩、塩基性亜硫酸塩、三塩基性硫酸塩等の金属化合物、ゼオライト類、アルミノホスフェート型モレキュラーシーブ、層状ケイ酸塩、合成ハイドロタルサイト、チタン酸アルカリ金属塩等の無機マイクロポーラス・クリスタル、硫黄、モルホリンスルフィド類、ジチオカルバミン酸類、ジチオカルバミン酸の金属塩類、アミン類、アミンの弱酸塩類、イミダゾール類、オニウム塩類、塩基性シリカ、四級アンモニウム塩類、四級ホスホニウム塩類、1, 8-ジアザビシクロ(5, 4, 0)ウンデセン-7、またはその塩類、1, 5-ジアザビシクロ(4, 3, 0)ノネン-5またはその塩類、塩基性シリカ、脂肪酸のアルカリ金属塩等を挙げることができる。これら加硫促進剤の通常用いられる配合割合としては、ポリエーテル系共重合体の100重量部に対し、金属化合物、無機マイクロポーラス・クリスタル、脂肪酸のアルカリ金属塩の場合は0.5〜10重量部、塩基性シリカの場合は3〜30重量部の範囲内である。
【0036】
また、加硫遅延剤も用いられる加硫剤に応じて適宜選択され、例としては、N−シクロヘキシルチオフタルイミド、無水フタル酸、有機亜鉛化合物、酸性シリカ等を挙げることができる。これら加硫遅延剤の通常用いられる配合割合としては、ポリエーテル系共重合体の100重量部に対し、0〜3重量部、酸性シリカの場合は0〜50重量部の範囲内である。
【0037】
上記加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤のうち、特に好ましい組み合わせと夫々の好ましいポリエーテル系共重合体の100重量部に対する配合割合を以下に列挙する。
(ア)加硫剤:2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン:0.5〜2重量部、加硫促進剤:ジチオカルバミン酸の金属塩:0〜3重量部、加硫遅延剤:N−シクロヘキシルチオフタルイミド:0〜3重量部
(イ)加硫剤:6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート:1〜3重量部、加硫促進剤:脂肪酸のアルカリ金属塩:1〜6重量部、加硫遅延剤:N−シクロヘキシルチオフタルイミド:0〜3重量部
(ウ)加硫剤:m−ジヒドロキシベンゼン:0.5〜5重量部、加硫促進剤:アミン類:0.5〜3重量部、加硫遅延剤:N−シクロヘキシルチオフタルイミド:0〜3重量部
(エ)加硫剤:イソフタル酸:0.5〜3重量部、加硫促進剤:4級アンモニウム塩類:0.5〜3重量部、加硫遅延剤:N−シクロヘキシルチオフタルイミド:0〜3重量部
【0038】
本発明のポリエーテル系共重合体には、上記以外の配合剤として、当該技術分野で通常用いられている配合剤、例えば、滑剤、充填剤、補強剤、可塑剤、老化防止剤、加工助剤、難燃剤、発泡剤、発泡助剤、導電剤、帯電防止剤、顔料、粘着付与剤などを必要に応じて任意に配合できる。さらに、当該技術分野で通常行われている、ゴム、樹脂等のブレンドを行うことも可能である。
【0039】
本発明によるポリエーテル系共重合体を用いてゴム製品を製造するには、従来のポリマー加工の分野において用いられている任意の混合手段、例えばミキシングロール、バンバリーミキサー、各種ニーダー類等を用いて加硫剤他の配合剤を混合し、これを加硫することにより得ることができる。加硫に要する温度、および時間は用いられる加硫剤、加硫促進剤などにより適宜設定されるが、通常は温度100〜250℃、時間0.5〜300分の範囲内である。加硫成型の方法としては、金型による圧縮成型、射出成型、スチーム缶、エアーバス、赤外線或いはマイクロウェーブによる加熱等任意の方法を用いることができる。
【0040】
上記のようにして得られた本発明によるポリエーテル系共重合体の加硫物は、エピクロルヒドリン系ゴムに代表されるポリエーテル系ゴムが使用されている分野に広く応用することができる。例えば、自動車用などの各種燃料系積層ホース、エアー系積層ホース、チューブ、ベルト、ダイヤフラム、シール類等ゴム材料や、OA機器に用いられる帯電ロール、転写ロールなどの半導電性ゴム部品、一般産業用機器・装置等のゴム材料として有用である。なかでも本発明によるポリエーテル系共重合体の優れた耐熱性、耐油性などを活かして、特に自動車用ゴム部品への応用が期待される。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
<重合用触媒の製造>
攪拌機、温度計、およびコンデンサーを備えた三つ口フラスコにトリブチル錫クロライド10g、およびトリブチルフォスフェート35gを投入し、窒素気流下に攪拌しながら250℃で20分間加熱して留出物を留去させ、残留物として室温で固体状の縮合物を得た。以下、これを重合用触媒として使用した。
【0043】
<ジエポキシ単量体の合成>
攪拌機を取り付けた容量3Lのセパラブルフラスコにアリルアルコール484g、およびメタアリルクロリド820gを投入し、内容液の温度を90℃以下に維持しながら、48%水酸化ナトリウム水溶液900gを滴下ロートを用いて、2時間かけて滴下した。反応温度を80℃に保持したまま更に反応を2時間継続し、室温まで冷却した後分液ロートを用いて有機層のみを取り出した。得られた有機層を2回水洗し蒸留することにより、ガスクロマトグラフィーで測定した純度96%のアリル−2−メチルプロペニルエーテル630gを得た。
【0044】
次いで、得られたアリル−2−メチルプロペニルエーテル400g、ジクロロメタン1200g、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド70gを攪拌機を取り付けた容量5Lのセパラブルフラスコに投入し、内容液の温度を30℃以下に維持しながら、有効塩素13%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液3000gを滴下ロートを用いて、3時間かけて滴下した。反応温度を30℃に保持したまま更に反応を2時間継続し、室温まで冷却した後分液ロートを用いて有機層のみを取り出した。得られた有機層を1%チオ硫酸ナトリウム水溶液100ml、15%硫酸ナトリウム水溶液100mlで順次洗浄し減圧下で蒸留することにより、ガスクロマトグラフィーで測定した純度98%の2,3−エポキシプロピル−2’,3’−エポキシ−2’−メチルプロピルエーテル195gを得た。
【0045】
<重合体の分析>
以下の製造例1及び2で得られたポリエーテル系共重合体の共重合組成はH−NMRスペクトルより求めた。製造例3、参考例1で得られたポリエーテル系共重合体の共重合組成はH−NMRスペクトルと塩素、臭素含有量測定結果を併せて算出した。また、ポリエーテル系共重合体のムーニー粘度(ML1+4)は、JIS K 6300に記載の方法に従い、Lローターを用いて100℃で測定を行った。
【0046】
(製造例1)
内容量20Lのジャケット付きステンレス製反応器の内部を窒素置換し、上記縮合物(重合用触媒)9g、オキシシラン単量体としてフェニルグリシジルエーテル885g、ジエポキシ単量体として2,3−エポキシプロピル−2’,3’−エポキシ−2’−メチルプロピルエーテル121g、および溶媒としてノルマルヘキサン4353gを仕込み、エチレンオキシド445gはフェニルグリシジルエーテルの重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、逐次添加した。反応温度を30℃に維持したまま8時間後に水10gを加えて重合反応を停止した。デカンテーションにより粒子状の重合体を取り出した後、減圧下、80℃で8時間乾燥してポリエーテル系共重合体995gを得た。得られたポリエーテル共重合体の共重合組成は、フェニルグリシジルエーテル単位32モル%、エチレンオキシド単位65モル%、2,3−エポキシプロピル−2’,3’−エポキシ−2’−メチルプロピルエーテル単位3モル%であった。また、100℃で測定したムーニー粘度は47であった。
【0047】
(製造例2)
重合時の仕込み量を、前記縮合物(重合用触媒)11g、オキシシラン単量体としてグリシジルメチルカーボネート753g、ジエポキシ単量体として2,3−エポキシプロピル−2’,3’−エポキシ−2’−メチルプロピルエーテル76g、エチレンオキシド250g、溶媒としてノルマルヘキサン2592g、及びテトラヒドロフラン1728gとした以外は製造例1と同様の手順でポリエーテル共重合体830gを得た。得られたポリエーテル共重合体の共重合組成は、グリシジルメチルカーボネート単位46モル%、エチレンオキシド単位51モル%、2,3−エポキシプロピル−2’,3’−エポキシ−2’−メチルプロピルエーテル単位3モル%であった。また、100℃で測定したムーニー粘度は35であった。
【0048】
(製造例3)
重合時の仕込み量を、前記縮合物(重合用触媒)8g、オキシシラン単量体としてエピクロルヒドリン856g、ジエポキシ単量体として2,3−エポキシプロピル−2’,3’−エポキシ−2’−メチルプロピルエーテル107g、エチレンオキシド375g、ノルマルヘキサン4014gとした以外は製造例1と同様の手順でポリエーテル共重合体1099gを得た。得られたポリエーテル共重合体の共重合組成は、エピクロルヒドリン単位49モル%、エチレンオキシド単位48モル%、2,3−エポキシプロピル−2’,3’−エポキシ−2’−メチルプロピルエーテル単位3モル%であった。また、100℃で測定したムーニー粘度は48であった。
【0049】
(参考例1)
重合時の仕込み量を、前記縮合物(重合用触媒)8g、オキシシラン単量体としてフェニルグリシジルエーテル828g、エピブロムヒドリン57g、エチレンオキシド490g、ノルマルヘキサン4124gとした以外は製造例1と同様の手順でポリエーテル共重合体1211gを得た。得られたポリエーテル共重合体の共重合組成は、フェニルグリシジルエーテル単位33モル%、エチレンオキシド単位65モル%、エピブロムヒドリン単位2モル%であった。また、100℃で測定したムーニー粘度は45であった。
【0050】
<配合剤>
実施例1〜7、及び、比較例1〜6の性能試験用加硫物の作成に用いた配合材料は以下の通りである。なお、配合表を表1及び表3に示した。
カーボンブラック:「シーストSO」、東海カーボン株式会社製
可塑剤:「アデカサイザーRS−107」、旭電化工業株式会社製
滑剤:「スプレンダーR−300」、花王株式会社製
445:老化防止剤、「ナウガード445」、クロンプトン・コーポレーション社製
ハイドロタルサイト、「DHT−4A」、協和化学工業株式会社製
PVI:加硫遅延剤、「サントガードPVI」、モンサント社製
DBU塩:加硫促進剤、「P−152」、ダイソー株式会社製
キノキサリン系加硫剤、「ダイソネットXL−21S」、ダイソー株式会社製
BZ:加硫促進剤、「ノクセラーBZ」、大内新興化学株式会社製
トリアジン系加硫剤:「アクターTSH」、川口化学工業株式会社製
HMDC:加硫促進剤、「ケミノックスAC−6」、ユニマテック株式会社製
ポリヒドロキシベンゼン系加硫剤:m−ジヒドロキシベンゼン
4級アンモニウム塩:オクチルトリメチルアンモニウムブロミド
フタル酸系加硫剤:イソフタル酸
PZ:加硫促進剤、「ノクセラーPZ」、大内新興化学株式会社製
TTFe:加硫促進剤、「ノクセラーTS」、大内新興化学株式会社製
TRA:加硫剤、「ノクセラーTRA」、大内新興化学株式会社製
その他配合剤:ステアリン酸ナトリウム、安息香酸アンモニウム
ECO:比較例2及び3において用いたエピクロルヒドリン系ゴム、「エピクロマーC」、ダイソー株式会社製
【0051】
<性能試験用加硫物の作成手順>
120℃に設定した容量1Lのニーダー中において、ポリエーテル共重合体100重量部を1分間素練りした後、表1及び表3に示したA練り配合剤を投入した。これらを5分間混練した後ニーダーより取り出し、70℃に設定した7インチロールでシート化してゴムのA練りシートを作成した。
【0052】
次いで、70℃に温度設定した7インチロールを用い、上記ゴムのA練りシートへ表1、表3に示したB練り配合剤を表1及び表3に示した配合量で加え、約5分間混練することにより、ゴムのB練りロールシートを作成した。
【0053】
前記B練りロールシートを、金型を用いて170℃に温度設定したプレスで15分間加熱・加圧することにより、2mm厚の加硫ゴムシートを成形し、150℃に温度設定したオーブン中で2時間熱処理(いわゆる二次加硫)を行った。得られたゴムシートを打ち抜き型により打ち抜いて、JIS K 6251に示されるダンベル状3号形試験片を得た。
【0054】
同様に、B練りロールシートを、金型を用いて170℃に温度設定したプレスで20分間加熱・加圧し、さらに150℃に温度設定したオーブン中で2時間熱処理(二次加硫)することにより、JIS K 6262に示される圧縮永久歪み測定用試験片を得た。
【0055】
<性能試験>
実施例及び比較例について、以下に示す性能試験を行い、評価した。なお、性能試験の評価結果を表2及び4に示した。
【0056】
(引張試験)
前記得られたダンベル状3号形試験片を用いて、JIS K 6251に記載の方法に従って、引張試験を行った。
【0057】
(老化試験)
JIS K 6257に記載の加硫ゴムの老化試験は、表2及び表4中に記載の条件により、セル形オーブン法で行った。
【0058】
(耐潤滑油性・耐燃料油性)
耐潤滑油性、および、耐燃料油性は、試験用潤滑油No.3油、および試験用燃料油Cを用い、表2及び表4中に記載の条件でJIS K 6258の方法に従って評価した。
【0059】
(圧縮永久歪み性)
圧縮永久歪み性の評価は、前記圧縮永久歪み測定用試験片を用いて、JIS K 6262に記載の方法に従って、表2及び表4中に記載の条件で行った。
【0060】
(金属腐食性)
金属腐食性は、加硫ゴムシートを表2及び表4中に記載の金属板に貼り付け、60℃、95%RHに温度・湿度設定した槽内で72時間保管し、金属の腐蝕具合を目視にて評価した。試験結果を表2及び表4に示した。なお、金属腐蝕性試験での目視判定は以下の通りである。
1:腐蝕が認められない
2:わずかな腐蝕によりゴムシート接触面の金属表面光沢が失われる
3:ゴムシート接触面の一部に錆が見られる
4:ゴムシート接触面全体に渡って錆が見られる
5:激しく腐蝕し、一部ゴムが金属面に固着する
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
上記表2より、実施例1〜7の加硫用ゴム組成物は、エポキシ基を導入したポリエーテル系共重合体において、特定の加硫剤を使用することにより、エピクロルヒドリン系ゴムを用いた比較例2の加硫用ゴム組成物と比較しても、耐熱性、耐油性、及び圧縮永久歪み性において、遜色のない加硫物を得られた。また、金属腐蝕性については、エピクロルヒドリン系ゴムを用いた比較例2に比べて、遥かに軽減されていることが、明らかとなった。
【0066】
実施例7の加硫用ゴム組成物は、エポキシ基とハロゲンを同時に有するポリエーテル系共重合体が用いられているが、エポキシ基を有しないポリエーテル系共重合体を用い、その他の配合内容を同一とした比較例3においては、加硫反応が進行しないことから、エポキシ基のみが活性点として作用していることが確認された。
【0067】
活性点としてハロゲンを導入したポリエーテル系共重合体を用いた比較例1の加硫用ゴム組成物では、耐熱性、耐油性、及び、圧縮永久歪み性は良好なものの、金属腐蝕性が著しく悪い結果となった。また、本発明における特定の加硫剤以外の加硫剤を用いた比較例4〜6では、耐熱性、耐油性、及び、圧縮永久歪み性を同時に満たすことができないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の加硫用ゴム組成物およびこれを用いた加硫物は、優れた耐熱性、耐油性、及び、圧縮永久歪み性を併せ持つため、エピクロルヒドリン系ゴムに代表されるポリエーテル系ゴムが使用されている分野に広く応用することができる。例えば、自動車用などの各種燃料系積層ホース、エアー系積層ホース、チューブ、ベルト、ダイヤフラム、シール類等ゴム材料や、一般産業用機器・装置等のゴム材料として有用である。なかでも本発明によるポリエーテル共重合体の優れた耐熱性、耐油性などを活かして、特に自動車用ゴム部品への応用が期待される。
【0069】
さらに、本発明の加硫用ゴム組成物およびこれを用いた加硫物は、加硫反応の活性点としてハロゲン原子を用いないため、例えば射出成形時の金型汚染や、金属と組み合わされて用いられる部品の金属腐蝕を低減することが可能となる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)架橋性オキシラン単量体単位として下記一般式(I)および(II)で表される官能基を各1個有するジエポキシ単量体単位0.5〜10モル%、及び、前記ジエポキシ単量体単位と共重合可能なオキシラン単量体単位90〜99.5モル%を共重合して得られるポリエーテル系共重合体と、
(b)ポリチオール系加硫剤、ポリオール系加硫剤、及び、ポリカルボン酸系加硫剤からなる群より選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする加硫用ゴム組成物。
【化1】

一般式(I)

【化2】

一般式(II)

【請求項2】
前記ポリエーテル系共重合体が、ハロゲンを有しないオキシラン単量体単位より構成されたポリエーテル共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の加硫用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ポリチオール系加硫剤が、キノキサリン系加硫剤、及び/又は、トリアジン系加硫剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の加硫用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ポリオール系加硫剤が、ポリヒドロキシベンゼン系加硫剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の加硫用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ポリカルボン酸系加硫剤が、フタル酸系加硫剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の加硫用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の加硫用ゴム組成物を加硫してなる加硫物。

【公開番号】特開2010−144013(P2010−144013A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321407(P2008−321407)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】