説明

加硫用成形部材

【課題】有機過酸化物を含むゴム組成物で形成された未加硫成形体の加硫に供しても、耐引裂性、離型性が大きく改善された成形部材(加硫用成形部材)を提供する。
【解決手段】成形部材としてのジャケット10を、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーと架橋剤(硫黄及び樹脂架橋剤)とを含み、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーとの割合が前者/後者=10/90〜60/40(質量比)であるゴム組成物の架橋体で形成し、引裂性を改善し、加硫成形体としてのベルトスリーブ7に対する離型性を改善し、使用回数(寿命)を大きく向上させる。樹脂架橋剤は、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と架橋助剤とを含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未加硫成形体(ベルトスリーブなど)を加硫するのに有用な成形部材(加硫用成形部材)に関する。より詳細には、ゴム層が有機過酸化物を含むゴム組成物にて形成された未加硫成形体[筒状ベルトスリーブ(Vリブドベルト、ローエッジベルトなどの動力伝動用ベルト、搬送用ベルトなど)]を覆って加硫(又は架橋)するために使用され、繰り返し使用しても破損しにくい成形部材(ベルトスリーブの加硫用ジャケットなどの加硫用成形部材)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化、コンパクト化の社会的要請を背景に、自動車のエンジンルーム周辺の雰囲気温度は従来に比べて上昇し、この雰囲気温度の上昇に伴って動力伝動用ベルトの使用環境温度も高くなってきた。従来、動力伝動用ベルトに用いるポリマーは、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどが主流であったが、耐熱性の改善や、環境負荷物質を含まない材料の要求が増すにつれて、エチレン−α−オレフィンエラストマーが採用され、このポリマーの架橋剤として有機過酸化物が用いられるようになった。
【0003】
前記動力伝動用ベルトは、円筒状の金型にベルトを構成する各部材を順に巻き付けて成形し、この成形した未加硫ベルトスリーブの外周側に、ゴム製ジャケットを被せて加硫し、加硫後に前記ジャケットを抜き取る(又は離型)作業により製造されている。この製造工程において、加硫後にジャケットを抜き取る作業は大変な重労働であり、とりわけジャケットの離型性が劣ると、作業性、特に自動化された製造ラインの作業性を著しく低下させる。また、前記ジャケットは、ベルトスリーブの加硫に何回も繰り返し使用されるので、繰り返し使用における経時的な劣化による破損や離型性の低下も問題になる。
【0004】
前記ジャケットに使用するゴム素材としては、従来から、耐熱性に優れ、ガス透過性が低いブチルゴムが使用されている。しかし、ベルトスリーブのゴム層として、ブチルゴムに架橋剤として有機過酸化物を配合したゴム組成物を使用すると、ブチルゴムが、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの攻撃を受け、主として分解反応を起こす。特に有機過酸化物を含むゴム組成物からなるゴム層が、ブチルゴムを素材とするジャケットに直接密着すると、ジャケットのブチルゴムが損傷する。そのため、従来の硫黄架橋系のゴム組成物からなるベルトスリーブに比べて、ジャケット内周面(ベルトスリーブのゴム層が密着する面)の硬化劣化が著しく、使用可能な繰り返し回数が短くなる。さらに、ジャケット外周面は、加硫において加圧水蒸気に直接曝されるので、ブチルゴムが軟化又は劣化して粘着性が発現し、作業性を損なう。
【0005】
そこで、特開2009−34979号公報(特許文献1)には、ジャケットの離型性を改善し、使用回数を増加するため、ブチルゴムと、ヨウ素価が10以下のエチレン−α−オレフィンエラストマー(EPDMなど)とを65:30〜90:5の割合で混合したゴム組成物を用いて加硫用ジャケットを形成することが提案されている。この文献のジャケットは、ベルトスリーブとの離型性を改善でき、破損しにくく耐久性(寿命)を向上できる。
【0006】
しかし、このジャケットを用いて、架橋剤として有機過酸化物を配合したゴム組成物で形成されたベルトスリーブを加硫すると、熱老化による耐引裂性が低く、突如亀裂が発生するという問題が生じる。このような問題は、前記ベルトスリーブの加硫に限らず、有機過酸化物を含むゴム組成物の未加硫成形体と接触した状態で加硫する加硫用成形部材についても同様に生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−34979号公報(特許請求の範囲、[発明の効果])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、有機過酸化物を含むゴム組成物で形成された未加硫成形体(ベルトスリーブなど)の加硫に供しても、耐引裂性、離型性が大きく改善された成形部材(加硫用ジャケットなどの加硫用成形部材)、及び未加硫成形体(ベルトスリーブなど)に対する離型性又は引き裂き性を改善する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、未加硫成形体(ベルトスリーブなど)の加硫に長期間に亘り繰り返し使用でき、使用回数(寿命)を大きく向上できる加硫用成形部材(加硫用ジャケットなど)を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、加硫条件下で繰り返し使用しても、所定のゴム特性及び耐引き裂き性を維持できるとともに、亀裂が発生することのない加硫用成形部材(加硫用ジャケットなど)を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、前記特性に加えて、高い硬度を確保できる加硫用成形部材(加硫用ジャケットなど)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーとの割合が、加硫成形体(ベルトスリーブなど)に対する加硫用成形部材(加硫用ジャケットなど)の離型性及び耐引き裂き性に大きく影響すること、ブチルゴムに対するα−オレフィンエラストマーの割合を大きくすると、加硫成形体(ベルトスリーブなど)に対する加硫用成形部材(加硫用ジャケットなど)の離型性及び耐引き裂き性が大きく向上すること、特に、特定の架橋系で架橋させると、上記特性が極めて向上し、加硫用成形部材(加硫用ジャケットなど)の使用回数(寿命)を大きく向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の加硫用成形部材(ジャケットなど)は、未加硫成形体(ベルトスリーブなど)と接触した状態で未加硫成形体を加硫するための成形部材(筒状ジャケットなどの加硫用成形部材)であって、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーと硫黄及び樹脂架橋剤とを含み、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーとを前者/後者=10/90〜60/40(質量比)の割合で含むゴム組成物の架橋体で形成されている。この加硫用成形部材(加硫用ジャケットなど)は、ブチルゴムに対してエチレン−α−オレフィンエラストマーの割合が多いため、未加硫成形体(未加硫ベルトスリーブなど)の加硫工程での有機過酸化物の作用に対する成形部材(加硫用成形部材)の耐性(耐引裂性、離型性、耐軟化劣化など)を改善でき、使用回数を大きく増加できる。また、架橋剤として前記硫黄及び樹脂架橋剤を用いるため、ゴム組成物を複合的に架橋することができ、加硫(高温環境)条件下での繰り返し使用において物性(硬度、伸びなど)、耐引裂力を維持でき、亀裂発生による早期破損を防止できる。また、樹脂架橋剤は、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と架橋助剤(ハロゲン含有化合物など)とを含んでいてもよい。アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と架橋助剤との併用により、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を用いても、十分な硬度を確保できる。
【0014】
より具体的には、本発明の成形部材(加硫用成形部材)は、外層として未加硫ゴム層を備えた未加硫成形体を覆って又は未加硫成形体と接触した状態で加硫するための成形部材(加硫用成形部材)であって、ブチルゴムと、エチレン−α−オレフィンエラストマーと、架橋剤としての硫黄及び樹脂架橋剤とを含み、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーとの割合が前者/後者=10/90〜60/40(質量比)であり、樹脂架橋剤が、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と架橋助剤(ハロゲン含有化合物など)とを含むゴム組成物の架橋体で形成してもよい。本発明の成形部材は、未加硫成形体としての未加硫ベルトスリーブを覆って加硫するための筒状ジャケットとして有用である。
【0015】
本発明の成形部材(ジャケットなどの加硫用成形部材)は、未加硫成形体(未加硫ベルトスリーブなど)の外層が、有機過酸化物を含むゴム組成物で形成されたゴム層であっても、高い離型性及び耐引き裂き性を維持しつつ、繰り返し長期間に亘り使用できる。そのため、本発明は、加硫した成形体(ベルトスリーブなど)からの成形部材(加硫用成形部材)の離型性又は成形部材(加硫用成形部材)の引裂性を改善する方法も包含する。この方法では、有機過酸化物を含むゴム組成物で形成された未加硫ゴム層を外層に備えた未加硫成形体(未加硫ベルトスリーブなど)と成形部材(筒状ジャケットなどの加硫用成形部材)とが接触した状態で又は未加硫成形体(未加硫ベルトスリーブなど)に成形部材(筒状ジャケットなどの加硫用成形部材)を被せて前記未加硫成形体を加硫し、加硫した成形体からの前記成形部材(加硫用成形部材)の離型性又は成形部材(加硫用成形部材)の引裂性を改善する。そして、前記成形部材(加硫用成形部材)を、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーと架橋剤とを含み、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーとの割合が前者/後者=10/90〜60/40(質量比)であるゴム組成物の架橋体で形成することにより、離型性又は引裂性を改善する。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、ブチルゴムに対してエチレン−α−オレフィンエラストマーの割合が多いゴム組成物で成形部材(加硫用成形部材)を形成するため、有機過酸化物を含むゴム組成物で形成された未加硫成形体(ベルトスリーブなど)の加硫に供しても、耐引裂性、離型性を大きく改善できる。また、未加硫成形体(ベルトスリーブなど)の加硫へ繰り返し供しても、高い耐引裂性、離型性を維持しつつ、使用回数(寿命)を大きく向上できる。また、架橋剤として硫黄と樹脂架橋剤とを併用して、ゴム組成物を複合的に架橋すると、加硫(高温環境)条件下での繰り返し使用において物性(硬度、伸びなどのゴム特性)、耐引裂力を維持でき、亀裂発生による早期破損を防止できる。さらに、樹脂架橋剤を、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と架橋助剤(ハロゲン含有化合物)とで構成すると、樹脂架橋剤を用いても十分な硬度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は金型面に成形されたベルトスリーブを示す概略図である。
【図2】図2は本発明に係るジャケット内に図1に示すベルトスリーブを収容した状態を示す断面図である。
【図3】図3はVリブドベルトを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図3に示すVリブドベルトを得るためのベルトスリーブの加硫に用いられるジャケットを例にとって、本発明の実施の形態を説明する。図1は円筒状の金型面にベルトスリーブを成形した状態を示す概略図であり、図2は図1の金型面に成形したベルトスリーブにジャケットを被せた状態を示す概略縦断面図である。
【0019】
図3に示すVリブドベルトは、ゴム付き帆布(補強布)3と、このゴム付き帆布(補強布)に積層された接着ゴム層5と、この接着ゴム層に積層された圧縮ゴム層6とを備えており、この圧縮ゴム層6にV字状溝が形成されている。また、接着ゴム層5には心線4がスパイラル状に埋設され、圧縮ゴム層6に補強用短繊維が含有されている。
【0020】
図示する例では、成形機(図示せず)に取付けられた円筒状の金型1の成形面2に離型剤を塗布して乾燥し、離型剤の塗布面に、ゴム付き帆布(補強布)3を巻き付けた後、心線4をスパイラル状にスピニングし、シート状の接着ゴム層5とシート状の圧縮ゴム層6とを予め積層した積層シートを巻き付けることによりベルトスリーブ7を形成している。なお、この例では、シート状の接着ゴム層5とシート状の圧縮ゴム層6は、それぞれエチレン−α−オレフィンエラストマーを含むゴム組成物で形成されている。
【0021】
成形機から金型1を脱着した後、ベルトスリーブ7の圧縮ゴム層6の外周面には、ゴム組成物で構成された中空筒状体であるジャケット10が被せられ、ベルトスリーブ7がジャケット10で覆われる。すなわち、ジャケット10の内壁がベルトスリーブ7の圧縮ゴム層6と接触した状態で、中空ジャケット10内にベルトスリーブ7が収容される。また、ベルトスリーブ7は、ジャケット10を被せた状態で(ジャケット10内に収容又は装着された状態で)加硫ユニット(加硫缶)に装着され、通常の条件で加硫される。この例では、ジャケット10の軸方向の両端縁部には、密閉蓋などにより、加硫時に内部を密閉するためのフランジ11が設けられている。なお、フランジ11は必ずしも必要ではない。
【0022】
そして、未加硫ベルトスリーブ7をジャケット10内に収容した状態で加硫工程が終了すると、加硫ベルトスリーブ7からジャケット10が抜き取られ、ベルトスリーブ7が得られる。その際、ジャケット10には、高い耐引き裂き性、加硫ベルトスリーブ7に対する離型性、加硫工程での耐劣化性などが要求される。以下に、ベルトスリーブ及びジャケットについて詳細に説明する。
【0023】
[ベルトスリーブ]
ベルトスリーブ7の外層(圧縮ゴム層6)を形成するゴム組成物は、特に制限されないが、通常、ゴム成分と加硫剤又は架橋剤とを含むゴム組成物が使用される。本発明は、特に、過酸化物を含むゴム組成物(過酸化物加硫型ゴム組成物)で未加硫ベルトスリーブの外層(未加硫ゴム層)を形成し、未加硫ベルトスリーブの外層を加硫又は架橋するのに有用である。
【0024】
ゴム組成物のゴム成分としては、過酸化物で加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、エチレン−α−オレフィンエラストマーなど)、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのゴム成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0025】
圧縮ゴム層6の好ましいゴム成分は、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムである。α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどの鎖状α−C3−12オレフィンなどが挙げられる。α−オレフィンは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのα−オレフィンのうち、プロピレンなどのα−C3−4オレフィン(特にプロピレン)が好ましい。ジエンモノマーとしては、通常、非共役ジエン系単量体、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが例示できる。これらのジエンモノマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。代表的なエチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)としては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム(エチレン−プロピレンゴム(EPR))、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム(エチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDMなど)などが例示できる。好ましいエチレン−α−オレフィンエラストマーはEPDMである。
【0026】
エチレン−α−オレフィンゴムにおいて、エチレンとα−オレフィンとの割合(質量比)は、前者/後者=40/60〜90/10、好ましくは45/55〜85/15(例えば、50/50〜82/18)、さらに好ましくは55/45〜80/20(例えば、55/45〜75/25)程度であってもよい。また、ジエンの割合は、4〜15質量%程度の範囲から選択でき、例えば、4.2〜13質量%(例えば、4.3〜12質量%)、好ましくは4.4〜11.5質量%(例えば、4.5〜11質量%)程度であってもよい。なお、ジエン成分を含むエチレン−α−オレフィンゴムのヨウ素価は、例えば、3〜30(好ましくは5〜25、さらに好ましくは10〜20)程度であってもよい。
【0027】
上記圧縮ゴム層6のゴム組成物は、架橋剤として有機過酸化物を含んでいる。有機過酸化物としては、通常、ゴム、樹脂の架橋に使用されている過酸化物、例えば、ハイドロパーオキサイド(t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラブチルハイドロパーオキサイド、t−アミルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなど);ジアシルパーオキサイド(ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイドなど);アルキルパーオキシエステル(t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−アミルパーオキシベンゾエートなど)、パーオキシカーボネート(t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネートなど);ジアルキルパーオキサイド[ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジt−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−アミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなど];パーオキシケタール(エチル−3,3−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブチレートなど);ケトンパーオキサイド(メチルエチルケトンパーオキサイドなど)などが例示できる。これらの有機過酸化物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機過酸化物のうち、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)などを利用する場合が多い。また、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期が150〜250℃(例えば、175〜225℃)程度の過酸化物が好ましい。
【0028】
有機過酸化物の添加量は、ゴム成分(エチレン−α−オレフィンエラストマーなど)100質量部に対して、約1〜8質量部、好ましくは1.2〜5質量部、さらに好ましくは1.5〜4.5質量部(例えば、2〜4.5質量部)程度である。
【0029】
ゴム組成物は、共架橋剤(架橋助剤、又は共加硫剤co−agent)を含んでいてもよい。共架橋剤(架橋助剤)としては、公知の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2−ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなど]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど]、ビスマレイミド類(脂肪族ビスマレイミド、例えば、N,N’−1,2−エチレンビスマレイミド、1,6’−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)シクロヘキサンなど;アレーンビスマレイミド又は芳香族ビスマレイミド、例えば、N−N’−m−フェニレンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレビスマレイミド、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’−ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼンなど)、硫黄などが挙げられる。これらの架橋助剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの架橋助剤のうち、ビスマレイミド類(N,N’−m−フェニレンジマレイミドなどのアレーンビスマレイミド又は芳香族ビスマレイミド)が好ましい。ビスマレイミド類の添加により架橋度を高め、粘着摩耗などを防止できる。
【0030】
共架橋剤(架橋助剤)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.01〜10質量部(例えば、0.05〜8質量部)、好ましくは0.1〜5質量部(例えば、0.5〜4質量部)、さらに好ましくは1〜3質量部程度である。
【0031】
さらに圧縮ゴム層6には、短繊維を含有させてもよい。短繊維としては、天然繊維(綿、麻など)、再生繊維(レーヨン、アセテートなど)、無機繊維(金属繊維、ガラス繊維、炭素繊維など)、合成繊維などが例示でき、合成繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、スチレン系繊維、ポリフルオロエチレン系繊維、アクリル系繊維、ビニルアルコール系繊維、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリC2−4アルキレンアリレート系繊維、液晶ポリエステル繊維などの全芳香族ポリエステル系繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維などの全芳香族ポリアミド系繊維など)、ポリウレタン系繊維などが挙げられる。これらの繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの繊維のうち、綿やレーヨンなどのセルロース系繊維、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6、などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)などが汎用される。
【0032】
短繊維を混入することにより、伝動ベルトの圧縮ゴム層の耐側圧性を向上できるとともに、プーリとの接触面となる圧縮ゴム層の表面をグラインダーで研磨加工して短繊維を突出させることにより、圧縮ゴム層の表面の摩擦係数を低下させ、ベルト走行時の騒音を軽減できる。これらの短繊維のうち、分子中に芳香環を有し、剛直で高い強度を有するとともに、高い耐磨耗性を有するアラミド短繊維が好適である。アラミド繊維は、例えば、商品名「コーネックス」、「ノーメックス」、「ケブラー」、「テクノーラ」、「トワロン」などとして市販されている。
【0033】
短繊維(アラミド繊維など)の平均繊維長は、例えば、1〜20mm、好ましくは2〜15mm、さらに好ましくは5〜10mm程度であってもよい。短繊維の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1〜50質量部(例えば、1〜30質量部)、好ましくは5〜40質量部、さらに好ましくは10〜35質量部程度である。
【0034】
さらに、圧縮ゴム層6には、必要に応じて、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、増強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、軟化剤(パラフィンオイル、プロセスオイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。
【0035】
これらの成分の添加量は、種類に応じて慣用の範囲から選択でき、例えば、増強剤(カーボンブラック、シリカなど)の使用量は、ゴム成分の総量100質量部に対して、10〜100質量部(好ましくは20〜80質量部、さらに好ましくは30〜70質量部)程度であってもよい。また、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛など)の使用量は、ゴム成分の総量100質量部に対して、例えば、1〜15質量部、好ましくは2〜10質量部、さらに好ましくは3〜7質量部程度であってもよく、軟化剤(パラフィンオイルなどのオイル類)の使用量は、ゴム成分の総量100質量部に対して、例えば、1〜30質量部、好ましくは5〜25質量部、さらに好ましくは10〜20質量部程度であってもよい。
【0036】
前記接着ゴム層5にも圧縮ゴム層6と同様のゴム組成物(エチレン−α−オレフィンエラストマーなどのゴム成分を含むゴム組成物)が使用できる。なお、接着ゴム層5のゴム組成物は、前記短繊維、有機過酸化物、架橋助剤などを含んでいる必要はなく、必要であれば、前記充填剤の含有量を低減してもよい。さらに、接着ゴム層5のゴム組成物は、前記加硫促進剤を含有していてもよい。加硫促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤[例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、N,N’−ジメチル−N,N’−ジフェニルチウラム・ジスルフィドなど]、チアゾ−ル系促進剤[例えば、2−メルカプトベンゾチアゾ−ル、2−メルカプトベンゾチアゾ−ルの亜鉛塩、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど]、スルフェンアミド系促進剤[例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなど]、ビスマレイミド系促進剤(例えば、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−1,2−エチレンビスマレイミドなど)、グアニジン類(ジフェニルグアニジン、ジo−トリルグアニジンなど)、ウレア系又はチオウレア系促進剤(例えば、エチレンチオウレアなど)、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの加硫促進剤のうち、TMTD、DPTT、CBSなどが汎用される。
【0037】
加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは1.5〜5質量部程度であってもよい。
【0038】
心線を構成する繊維としては、前記と同様の繊維が例示できる。前記繊維のうち、補強性の点から、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレートなどのC2−4アルキレンアリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ベルトスリップ率を低下できる点から、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、エチレンナフタレート系繊維)、ポリアミド繊維が好ましい。繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば、2000〜10000デニール(特に4000〜8000デニール)程度であってもよい。
【0039】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜1mm、さらに好ましくは0.7〜0.8mm程度であってもよい。
【0040】
ゴムとの接着性を改善するため、心線には接着処理を施してもよい。接着処理では、一般的に、繊維をレゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)に浸漬後、加熱乾燥して表面に均一に接着層を形成することが行うことができる。なお、この接着処理に限らず、心線の繊維を、慣用の接着性成分、例えば、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)で前処理した後、RFL液で処理してもよい。RFL液は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物(プレポリマー)をラテックスに混合した組成物である。ラテックスとしては、例えば、クロロプレン、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、NBRなどが例示できる。心線は、接着処理した後に、ゴム層に埋設してもよい。
【0041】
動力伝動用ベルトとして利用される場合、接着ゴム層5には、ベルト長手方向に延びる心線が埋設されていてもよい。心線(又はコード)は、ゴム層5の厚み方向の略中央部、圧縮ゴム層6と接着ゴム層5との界面付近、ゴム付き帆布(補強布)3と接着ゴム層5との界面付近に埋設してもよく、ベルトの幅方向に等間隔で埋設してもよい。隣接する心線の間隔(スピニングピッチ)は、例えば、0.5〜2mm、好ましくは0.8〜1.5mm、さらに好ましくは1〜1.3mm程度である。
【0042】
ゴム付き帆布3は、慣用の方法、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)を、RFL液で処理(浸漬処理など)した後、ゴム組成物(接着ゴム層5、圧縮ゴム層6と同様のゴム組成物)を擦り込むフリクション・コーティング又は積層により得ることができる。
【0043】
[ジャケット(加硫用ジャケット)]
ジャケット10は、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーとを含むゴム組成物で形成されたゴム層13を備えている。ブチルゴム(イソブチレン−イソプレン共重合体)の不飽和度(イソプレン含有量)は、例えば、0.1〜3.5モル%(例えば、0.5〜2.5モル%、好ましくは0.7〜2モル%)程度であってもよい。また、ブチルゴムのムーニー粘度(ML1+8(125℃))は、例えば、10〜100(例えば、20〜75、好ましくは25〜65、さらに好ましくは30〜55)程度であってもよい。さらに、必要であれば、ブチルゴムは、ハロゲン化されていてもよく、部分架橋されていてもよい。ハロゲン化ブチルゴムは、例えば、ハロゲン含量0.5〜2.5質量%(例えば、1〜2.2質量%)程度の塩素化又は臭素化ブチルゴムであってもよい。
【0044】
前記エチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、ベルトスリーブの圧縮ゴム層6と同様のエチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレンと前記例示のα−オレフィンとの共重合体、エチレンと前記例示のα−オレフィンと前記例示のジエンモノマーとの共重合体)が使用でき、通常、エチレン−α−オレフィンゴム(エチレン−プロピレンゴム(EPR)など)、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム(エチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDM)など)が使用される。また、エチレンとα−オレフィンとの割合(質量比)、ジエンの割合も前記と同様である。なお、ジエン成分を含むエチレン−α−オレフィンゴムのヨウ素価は、前記と同様に3〜30(好ましくは5〜25、さらに好ましくは10〜20)程度であってもよい。本発明では、10を超えるヨウ素価(例えば、12〜30、好ましくは15〜20程度)を有するエチレン−α−オレフィンゴムであっても有効に利用でき、耐引き裂き性、離型性、及び繰り返し使用回数を大きくできる。
【0045】
未加硫ベルトスリーブをジャケット内に収容してベルトスリーブを加硫する加硫工程では、通常、未加硫ベルトスリーブとジャケットが接触し、ベルトスリーブのゴム組成物が有機過酸化物を含むため、ジャケットが有機過酸化物の分解により生じたラジカルの攻撃を受けて分解され、硬化劣化し、ジャケットの引裂性、加硫したベルトスリーブからの前記ジャケットの離型性が低下する。そこで、本発明では、ブチルゴムに対するエチレン−α−オレフィンエラストマーの割合を多くすることにより、加硫工程での有機過酸化物の分解により生じたラジカルの攻撃を受けて分解されるポリマー鎖の割合を低減し、ジャケットの硬化劣化(ジャケット内周面の劣化)を抑制し、ジャケットの耐引裂性、加硫したベルトスリーブからのジャケットの離型性、並びにジャケットの使用回数(寿命)を向上させる。
【0046】
ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーとの割合(質量比)は、前者/後者=10/90〜60/40、好ましくは15/85〜55/45、さらに好ましくは20/80〜50/50程度である。ブチルゴム及びエチレン−α−オレフィンエラストマーの総量100質量部に対して、前記エチレン−α−オレフィンエラストマーの割合が40質量部より少なくなると、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの攻撃を受けて分解されるポリマー鎖の割合が多くなり、硬化劣化により破損しやすくなると共に、ジャケット外周面の軟化(粘着)が生じる。一方、エチレン−α−オレフィンエラストマーが90質量部より多くなると、有機過酸化物によるポリマー鎖の分解、軟化劣化によるジャケット外周面の粘着は抑制されるが、ジャケットの製作(成形性)が困難になる。
【0047】
ゴム層13のゴム組成物は、架橋剤を含んでいる。架橋剤としては、種々の架橋剤、例えば、前記有機過酸化物、金属酸化物、キノンジオキシムなどであってもよいが、硫黄(硫黄系加硫剤)と樹脂架橋剤とを併用するのが好ましい。ジャケット用ゴム組成物の使用回数(寿命)を向上させるためには、加硫(高温環境)条件下で繰り返し使用しても物性(硬度、伸び)、耐引裂性を維持することが必要である。このゴム組成物の架橋剤として樹脂架橋剤を単体で用いると、熱劣化による耐引裂力が低下し、高温環境条件下で繰り返し使用すると、突然破損することがある。一方、硫黄を単体で用いると、加熱時の耐引裂力は確保できるものの、伸びの低下が生じ、押圧に対する繰り返し変形に弱くなる。すなわち、加硫中はジャケットには外周側から加圧水蒸気により押圧が作用してジャケットが変形し、加硫後は元の形状に復元するが、押圧と押圧解除とによる繰り返し変形に対して弱くなる。これに対して、両者を併用して複合的に架橋すると、加硫(高温環境)条件下で繰り返し使用しても、物性(硬度、伸び)、耐引裂力が維持でき、亀裂発生による早期破損を防止できる。
【0048】
なお、一般に、ゴムの架橋方法として、硫黄架橋、有機過酸化物架橋、キノイド架橋、樹脂架橋などが知られている。一方、異なる2種類のゴムを任意の割合で混合し、共通の架橋剤によって架橋する(共架橋)と、それぞれのゴムの特性を付与できる。そのため、異種のゴムであっても共通の架橋剤が利用できると、同一の薬品による架橋反応が、異種のゴム間でも起こり、性能の安定化が期待できる。本発明では、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマー(EPDMなど)との共通の架橋剤として硫黄架橋、樹脂架橋を利用し、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマー(EPDMなど)とを共架橋する。
【0049】
硫黄系加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)などが挙げられる。これらの硫黄系加硫剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの硫黄系加硫剤のうち、コロイド硫黄、高分散性硫黄が好ましい。
【0050】
硫黄(硫黄系加硫剤)の使用量は、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマー(EPDMなど)との総量100質量部に対して、0.1〜1質量部(例えば、0.2〜0.8質量部)、好ましくは0.2〜0.6質量部程度である。
【0051】
樹脂架橋剤としては、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂(例えば、メチロール基を有するアルキルフェノール樹脂)が使用される。アルキルフェノール類としては、例えば、o−,p−又はm−クレゾール、3,5−キシレノール、p−t−ブチルフェノール、p−オクチルフェノール、p−t−オクチルフェノール、アミルフェノール、ノニルフェノールなどの直鎖状又は分岐鎖状C1−20アルキル−フェノール(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1−18アルキル−フェノール、特に直鎖状又は分岐鎖状C1−12アルキル−フェノール)などが例示できる。これらのフェノール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。ホルムアルデヒドは、パラホルムアルデヒドなどのホルムアルデヒドの縮合体の形態でも使用できる。アルキルフェノール類とホルムアルデヒドとが共縮合したアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂は、レゾール型であってもよくノボラック型であってもよい。さらに、必要であれば、ハロゲン化(例えば、臭素化)したアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂なども使用できる。ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で、例えば、300〜10000、好ましくは500〜8000,さらに好ましくは750〜5000程度であってもよい。
【0052】
樹脂架橋剤としてのアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂は、ゴム組成物の樹脂架橋に有効である限りいかなる樹脂も使用でき、特に限定されないが、比較的低分子量のメチロール基を有する化合物が好適である。このような化合物(アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂)は、例えば、商品名タッキロール(TACKIROL)201(田岡化学工業株式会社製品)、ヒタノール(HITANOL)2501(日立化成工業株式会社製品)、SP−1045、SP−1055[Schenectady Chem.社製品]などとして市販されている。
【0053】
樹脂架橋剤の使用量は、ブチルゴム100質量部に対して、5〜25質量部、好ましくは7.5〜20質量部、さらに好ましくは10〜15質量部程度である。
【0054】
ゴム成分の総量100質量部に対する樹脂架橋剤の使用量は、例えば、1〜10質量部、好ましくは2〜8質量部、さらに好ましくは2〜7質量部程度である。
【0055】
樹脂架橋剤は、架橋助剤(又は活性化剤)と組み合わせて使用するのが有利である。架橋助剤(又は活性化剤)としては、ハロゲン含有化合物、例えば、塩化スズや塩化第二鉄などの無機ハロゲン化合物、クロロプレンゴムやクロロスルホン化ポリエチレンなどのハロゲン含有エラストマーなどが例示できる。なお、必要であれば、ハロゲン化したアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂なども使用できる。なお、一般に、樹脂架橋剤単独でも架橋反応は起こるものの硬度を高めるのが困難である。アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と架橋助剤との併用によって、十分な硬度を確保できる。
【0056】
架橋助剤(又は活性化剤)の使用量は、樹脂架橋剤100質量部に対して、例えば、1〜75質量部、好ましくは5〜60質量部、さらに好ましくは10〜50質量部(例えば、20〜40質量部)程度である。
【0057】
ゴム層13のゴム組成物は、上記圧縮ゴム層6及び接着ゴム層5のゴム組成物と同様に、架橋促進剤(加硫促進剤)、加硫遅延剤、増強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、可塑剤又は軟化剤(パラフィンオイル、プロセスオイルなどのオイル類など)の他、必要に応じて種々の添加剤(例えば、老化防止剤、粘着付与剤、架橋促進剤、促進助剤、充填剤、着色剤、安定剤、難燃剤、帯電防止剤など)を含んでいてもよい。
【0058】
架橋促進剤(加硫促進剤)としては、前記と同様に、チウラム系促進剤、チアゾ−ル系促進剤、スルフェンアミド系促進剤、ビスマレイミド系促進剤、グアニジン類、ウレア系又はチオウレア系促進剤、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類などが例示できる。これらの架橋促進剤(加硫促進剤)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。架橋促進剤(加硫促進剤)としては、通常、チウラム系促進剤、スルフェンアミド系促進剤などが汎用される。加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分の総量100質量部に対して、例えば、0.1〜15質量部、好ましくは0.5〜10質量部、さらに好ましくは0.5〜5質量部程度であってもよい。
【0059】
増強剤、特にカーボンブラックは、ジャケットの硬度やモジュラスなどの物性を高く保つために有用である。増強剤(カーボンブラックなど)の使用量は特に制限されないが、ゴム成分(ブチルゴム及びエチレン−α−オレフィンエラストマー)の総量100質量部に対して、例えば、30〜100質量部、好ましくは40〜80質量部(例えば、45〜65質量部)程度である。補強剤(カーボンブラックなど)の使用量が少なすぎると、硬度やモジュラスなどの物性が低下し、可塑剤を含む場合には、可塑剤のブリードアウトが顕在化しやすくなる。
【0060】
なお、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛など)の使用量は、ゴム成分の総量100質量部に対して、例えば、1〜15質量部、好ましくは2〜10質量部、さらに好ましくは3〜7質量部程度であってもよく、軟化剤(プロセスオイルなどのオイル類)の使用量は、ゴム成分の総量100質量部に対して、例えば、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜7質量部、さらに好ましくは1〜5質量部程度であってもよい。
【0061】
上記ジャケット10は、ゴム層13と、このゴム層に積層された補強材14(織布、編布、不織布から選ばれた少なくとも1種の繊維材料からなる布材)とを含む積層含浸体で形成してもよい。なお、補強材14は、ゴム層13の表面(内周面及び/又は外周面)に積層されていてもよく、ゴム層13内に埋設されていてもよい。
【0062】
補強材14には、前記例示の繊維、例えば、天然繊維(綿など)、再生繊維(レーヨンなど)、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、アクリル系繊維、ビニルアルコール系繊維、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレートなどのポリC2−4アルキレンアリレート系繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)などの繊維素材が利用できる。これらの繊維は単独で又は二種以上使用でき、混紡繊維であってもよい。補強材14は、平織、綾織、朱子織などの形態で製織した織布であってもよく、経糸と緯糸との交差角が90〜120°程度の広角度帆布や編布であってもよい。さらに補強材14は、不織布であってもよい。これらの補強材は、長繊維及び/又は短繊維で形成してもよい。さらに、織布は、前記レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)で処理(浸漬処理など)した後、ゴム組成物を擦り込むフリクション・コーティング又は積層してゴム付帆布を形成してもよい。
【0063】
本発明のジャケットは、前記ゴム組成物が架橋した架橋体で形成されている。このようなジャケット10は、所定厚みの未加硫のゴム層13と補強材14とを、未加硫のゴム層13間に補強材14を介在させながら、円筒状ドラム(内周面の成形型)に順次複数層巻き付ける方法、未加硫のゴム層13と補強材14とを積層し、補強材14を外側に位置させる方法により、補強材14が積層又は埋設した所定形状の未加硫ゴム層を形成する工程と、必要によりこの成形体の両端縁部にフランジ11を外方へ延出させて取り付ける工程と、中空筒状成形体の外周部に、ジャケットの外周面を形成する中空円筒状の成形型(未加硫ジャケットを成形加硫するために未加硫ジャケットに被せる成形型)を嵌入又は装着する工程と、成形型を装着した状態で加硫缶に入れて加硫する工程と、加硫した後、円筒状ドラムから成形体を取り出す工程を経ることにより得ることができる。
【0064】
このようにして得られた中空筒状ジャケットは、円筒状の未加硫ベルトスリーブの外層と接触した状態で(円筒状の未加硫ベルトスリーブを収容した状態で)加硫するために繰り返し使用される。すなわち、円筒状の未加硫ベルトスリーブのゴム組成物が過酸化物を含んでいても、加硫工程でジャケットが損傷するのを抑制でき、加硫したベルトスリーブに対する離型性も向上できる。特に、長期間に亘り繰り返し未加硫ベルトスリーブの加硫又は架橋に利用しても、高い離型性と耐引き裂き性を有し、寿命(使用回数)を大きく改善できる。
【0065】
なお、本発明は前記ベルトスリーブの加硫に限らず、過酸化物加硫型の未加硫ゴム組成物の成形体(又は外層を形成する未加硫ゴム層)と接触した状態で前記未加硫成形体(又は未加硫ゴム層)を加硫して成形し、成形体を長期間に亘り製造するための成形部材(又は成形金型)として有用である。例えば、本発明の成形部材(加硫用成形部材)は、ゴム型(ゴム金型)などとして利用し、ベルトスリーブに限らず種々のゴム型物製品の製造に適用できる。また、本発明の成形部材(加硫用成形部材)は、硬質であってもよく、可撓性ジャケット(ブラダー)などのように軟質又は可撓性を有していてもよい。可撓性ジャケット(ブラダー)を用いると、未加硫ゴム成形体と密着した状態で加硫できる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0067】
[ジャケットの作製]
表1に示す割合で各成分を含むゴム組成物をそれぞれバンバリーミキサーにより練り、練合物をカレンダーロールで厚さ0.5mmに圧延し、圧延シートを得た。この圧延シートを複数枚重ねて所定厚みにした後、RFL処理した編み布(75dのウーリーポリエステル製)を積層し、この積層シートを外径1,280mmの円筒状ドラムに複数回巻き付けて、厚さ5mmの未加硫成形体を形成した。前記と同じゴム組成物で形成したフランジを前記成形体に付着させて成形体の両端縁部の外方へ延出させた後、中空円筒状の筒体(ジャケット)を嵌入して加硫缶に装着し、加硫した後、円筒状ドラムから加硫成形体を抜き取り、ジャケットを作製した。加硫条件は170℃×20分、圧力1.0MPaであった。
【0068】
また、得られたジャケットについて、JIS K6253に基づく硬度、JIS K6251に基づく引張強さを測定するとともに、JIS K6257に基づいて熱老化試験を行った。その結果を表1に示す。
【0069】
[ベルトスリーブの作製]
金型の成形面に、RFL液(スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体100質量部、レゾルシン14.6質量部、ホルマリン9.2質量部、苛性ソーダ1.5質量部、水262.5質量部)のみで処理した綿帆布を1プライ積層し、ポリエステル繊維のロープからなる心線を巻付け、表2に示す圧縮ゴム層用シートで形成された3プライ(3層構造の積層シート)と、この3プライの積層シートに表2に示す接着ゴム層用シートが1プライ積層された積層物(4層構造の積層シート)を巻き付けてベルトスリーブを作製した。なお、圧縮ゴム層用シートには、表2に示すゴム組成物をバンバリーミキサーで混練した後、カレンダーロールで圧延した厚さ1mmのシートを用いた。また、接着ゴム層用シートとしては、表2に示すゴム組成物を同様にして厚さ圧延した0.5mmのシートを用いた。
【0070】
そして、上記種々のジャケットを被せてベルトスリーブの加硫(170℃×40分、圧力1.0MPa)を繰り返し、10回使用後、100回使用後の離型性、及び寿命回数を評価した。
【0071】
なお、樹脂架橋剤としては、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂(商品名:SP-1055、Schenectady Chem社製)を用いた。また、加硫促進剤としては、チウラム系促進剤(TMTD)とスルフェンアミド系促進剤(CBS)とを用いた。ジャケット成形性及びジャケット離型性は、以下の基準で評価した。
【0072】
ジャケット成形性
○:円滑に成形できる
△:何とか成形できる
×:成形できない
ジャケット離型性
○:円滑に離型できる
△:何とか離型できる
×:離型できない
結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
表2中、加硫促進剤などとして、下記成分を用いた。
【0076】
加硫促進剤:テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)
加硫促進剤:ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)
加硫促進剤:N−シクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(CBS)
有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド(含有量40%)
架橋助剤:N,N’−m−フェニレンジマレイミド
表1から明らかなように、実施例1〜3では、エチレン−α−オレフィンエラストマーの割合が多くなると、引裂力、引張強さが大きくなり、熱老化後の物性でもその傾向は顕著であった。また、ジャケットを少なくとも200回以上使用しても、ブチルゴム特有のジャケット内周面の劣化や、ジャケット外周面の軟化劣化等の異常は発生しなかった。
【0077】
比較例1及び2は、ブチルゴムの割合が高いため、離型性は悪く、寿命も短くなった。比較例2では、ブチルゴム特有のジャケット内周面の劣化や、ジャケット外周面の軟化劣化などの異常により200回で寿命となったうえ、ジャケットの使用開始直後から離型性が悪かった。比較例1では210回で寿命となり、100回以内で離型性が悪化した。
【0078】
比較例3及び4は、エチレン−α−オレフィンエラストマーの配合比率は比較的高いが、架橋剤が硫黄及び熱硬化性樹脂の併用でないため、寿命は100回ももたず亀裂発生により早期に破損した。
【0079】
比較例5では、エチレン−α−オレフィンエラストマーの割合が多くなったため、ゴム組成物にタック性がなく、ジャケットの成形が困難であったためジャケットを製作できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、未加硫成形体(未加硫ベルトスリーブなど)を成形部材(ジャケットなどの加硫用成形部材)内に収容して加硫し、加硫成形体(加硫ベルトスリーブなど)を繰り返し製造するのに有用である。
【符号の説明】
【0081】
1…金型
3…ゴム付き帆布
4…心線
5…接着ゴム層
6…圧縮ゴム層
7…ベルトスリーブ
10…ジャケット
13…ゴム層
14…補強材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫成形体と接触した状態で未加硫成形体を加硫するための成形部材であって、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーと、硫黄及び樹脂架橋剤とを含み、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーとの割合が前者/後者=10/90〜60/40(質量比)であるゴム組成物の架橋体で形成されている成形部材。
【請求項2】
樹脂架橋剤が、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と架橋助剤とを含む請求項1記載の成形部材。
【請求項3】
未加硫成形体の外層が、有機過酸化物を含むゴム組成物で形成されたゴム層である請求項1又は2記載の成形部材。
【請求項4】
未加硫ベルトスリーブを覆って加硫するための筒状ジャケットである請求項1〜3のいずれかに記載の成形部材。
【請求項5】
有機過酸化物を含むゴム組成物で形成された未加硫成形体と成形部材とが接触した状態で未加硫成形体を加硫し、加硫した成形体からの前記成形部材の離型性又は成形部材の引裂性を改善する方法であって、前記成形部材を、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーと架橋剤と、硫黄及び樹脂架橋剤とを含み、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーとの割合が前者/後者=10/90〜60/40(質量比)であるゴム組成物の架橋体で形成し、離型性又は引裂性を改善する方法。
【請求項6】
有機過酸化物を含むゴム組成物で形成された未加硫ゴム層を外層に備えた未加硫ベルトスリーブに筒状ジャケットを被せて前記未加硫ベルトスリーブを加硫し、加硫したベルトスリーブからの前記ジャケットの離型性又はジャケットの引裂性を改善する方法であって、前記ジャケットを、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーと架橋剤と、硫黄及び樹脂架橋剤とを含み、ブチルゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマーとの割合が前者/後者=10/90〜60/40(質量比)であるゴム組成物の架橋体で形成し、離型性又は引裂性を改善する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−232517(P2012−232517A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103195(P2011−103195)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】