説明

加速度データ補正装置、及び、ナビゲーション装置

【課題】加速度センサとスピーカとが同一の筐体に内蔵されている装置において、加速度センサ出力からスピーカの振動の影響を除去すること。
【解決手段】筐体100に内蔵スピーカ132と加速度センサ124とが備え付けられた電子装置(カーナビゲーション装置)10は内蔵スピーカ132の振動が加速度センサ124の出力に及ぼす影響を除去する加速度データ補正部140を備え、加速度データ補正部140は、制御手段110と、内蔵スピーカ132に供給される音声信号をフーリエ変換する音声信号処理部141と、加速度センサ124の出力をフーリエ変換する加速度信号処理部142と、内蔵スピーカ132から音声信号が出力される場合に、ともにフーリエ変換された加速度センサの出力から音声信号の影響分を減じた後に逆フーリエ変換を行う信号合成部143と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体に内蔵スピーカと加速度センサとが備え付けられた電子装置において内蔵スピーカの振動が加速度センサの出力に及ぼす影響を加速度センサ出力から除去することを可能にする加速度データ補正装置、及び、ナビゲーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーナビゲーション装置においては、GPS衛星からのGPS信号を受信し、その情報に基づいて現在位置を算出し、算出した現在位置を、カーナビゲーション装置に設けられた表示画面に表示されている地図上に表示することにより、ユーザが今どこにいるのか識別できるようにしている。
【0003】
さらに、算出した現在位置のデータを地図データベースに記憶されている道路データと比較し、現在位置が道路データ上にない場合等は、各種のマッチング方法を用いて適切な道路上に現在位置をマッチングし、表示画面に地図とともに現在位置を表示している。
【0004】
上記のマッチング処理を正確に行うため、或いは車両がトンネル内やビルや山の谷間等のGPS信号が届きにくい場所を走行中であっても正確に現在位置を検出するため、カーナビゲーション装置には加速度センサやジャイロセンサが設けられていることが多い。カーナビゲーション装置は、加速度センサ及びジャイロセンサの出力信号を用いて、GPS信号に基づいて算出された現在位置のデータを補完し、より正確な現在位置を検出することができる。
【0005】
また、近年のナビゲーション装置には、純粋なナビゲーション機能だけでなく、各種のオーディオ機能が備え付けられており、カーナビゲーション装置に内蔵されたスピーカから音声を再生できる。例えば、ナビゲーション装置のディスプレイにおいて経路案内を行うと同時に、DVDや各種記録メディアに記録された音楽データを再生したり、地上ディジタル放送を受信してその音声をスピーカから再生したりする。スピーカ出力は、一般的には、1W程度である。
【0006】
内蔵スピーカによって音声再生を行うと、スピーカの振動がカーナビゲーション装置の筐体に伝わり、この筐体の振動が加速度センサにおいて検出され、加速度データ(加速度センサの出力)に音声出力影響が混入する。スピーカの振動による加速度センサ出力への影響が大きくなると、カーナビゲーション装置における現在位置検出や補完に及ぼす悪影響も大きくなる。また、スピーカの振動が加速度センサの出力に及ぼす影響は、カーナビゲーション装置の筐体が小型であればあるほど大きくなる。
【0007】
ところで、下記特許文献1(特開2010−28674号公報)は、加速度センサによる出力を補正し、本来期待されるセンサ出力を得るための歩数計機能を備えた「携帯端末」を開示している。この携帯端末は、ユーザよって所持された状態でユーザが歩行又は走行している際に加速度データを検出している。ユーザの歩行時には加速度データとして規則的な振動が検出されるはずであるが、実際には部分的に不規則な振動が検出されるので、補正用データを用いてユーザの歩行や走行による振動のみを抽出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−28674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載された携帯端末の発明においては、ユーザの歩行の状態が一定である場合を想定しているために、ユーザの歩幅が途中で変化したり、歩くペース等が変化したりした場合には補正用データを適用することができなくなり、ユーザの歩行や走行による振動の変化を正確に検出することはできなくなってしまう。
【0010】
ところで、カーナビゲーション装置において検出される加速度データは、上記特許文献の歩行検出のように一定周期的なものではなく、自動車の加減速や上昇、下降、振動等に基づいたもっとランダムな要素を含んでいる。また、スピーカから音楽や楽曲を再生することに伴う加速度センサへの振動の影響も、上記特許文献の歩行検出のように間歇的に生じるのではなく、音楽再生中は定常的に生じることになる。従って、上記特許文献1の歩行検出における歩行データの補正の手法を、カーナビゲーション装置において検出された加速度データからスピーカの振動の影響分を除去することに応用しようとする場合、自動車の振動が歩行とは違って一定周期的なものではないために上記特許文献1のように正しい加速度データを推測して補完するのは難しいので、加速度データからスピーカの振動の影響を完全に除去することはできない。
【0011】
カーナビゲーション装置において、スピーカの振動が加速度センサに与える影響を補正することは、加速度センサ出力をローパスフィルタを通すことによって行われていたが、それでもスピーカの振動の影響を除去することはできなかった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、加速度センサとスピーカとが同一の筐体に内蔵されて使用される電子装置において加速度センサ出力からスピーカの振動の影響を除去することができる加速度データ補正装置、及び、ナビゲーション装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の加速度データ補正装置は、筐体に内蔵スピーカと加速度センサとが備え付けられた電子装置において前記内蔵スピーカの振動が前記加速度センサの出力に及ぼす影響を除去する加速度データ補正装置であって、前記内蔵スピーカに供給される音声信号を周波数成分に分解する音声信号処理手段と、前記加速度センサの出力を周波数成分に分解する加速度信号処理手段と、前記周波数成分に分解された前記加速度センサの出力から前記周波数成分に分解された前記音声信号を除去する信号合成手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の加速度データ補正装置の一態様において、前記加速度データ補正装置は、前記音声信号に基づく前記スピーカの振動が前記加速度センサの出力に及ぼす影響の大きさを表す周波数−振幅テーブルを備え、前記信号合成手段は、前記周波数成分に分解された前記加速度センサの出力から前記周波数成分に分解された前記音声信号を除去する際に、前記周波数−振幅テーブルを参照することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の加速度データ補正装置の一態様において、前記周波数−振幅テーブルは、前記加速度データ補正装置が停止している場合における、前記周波数成分に分解された前記加速度センサの出力と前記周波数成分に分解された前記音声信号に基づき作成されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の加速度データ補正装置の一態様において、前記信号合成手段は、前記周波数成分に分解された前記音声信号を、前記スピーカの振動が前記加速度センサの出力に影響するまでの時間だけ遅延して前記周波数成分に分解された加速度センサの出力から除去ことを特徴とする。
【0017】
さらに、前記電子機器は、ナビゲーション装置であり、前記ナビゲーション装置は、請求項1〜4の何れかに記載の加速度データ補正装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記の構成を備えたことにより、下記に説明する優れた効果を発揮する。すなわち、筐体に内蔵スピーカと加速度センサとが備え付けられた電子装置において前記内蔵スピーカの振動が前記加速度センサの出力に及ぼす影響を除去する加速度データ補正装置であって、前記内蔵スピーカに供給される音声信号を周波数成分に分解する音声信号処理手段と、前記加速度センサの出力を周波数成分に分解する加速度信号処理手段と、前記周波数成分に分解された前記加速度センサの出力から前記周波数成分に分解された前記音声信号を除去する信号合成手段と、を備えることにより、より正確な加速度センサ出力を得ることが可能となる。
【0019】
本発明の加速度データ補正装置の一態様によれば、前記加速度データ補正装置は、前記音声信号に基づく前記スピーカの振動が前記加速度センサの出力に及ぼす影響の大きさを表す周波数−振幅テーブルを備え、周波数−振幅テーブルを参照して前記周波数成分に分解された前記音声信号を除去するため、加速度センサ出力に混入した音声信号成分をより正確に除去することが可能となる。
【0020】
本発明の加速度データ補正装置の一態様によれば、前記周波数−振幅テーブルは、前記加速度データ補正装置が停止している場合における、前記周波数成分に分解された前記加速度センサの出力と前記周波数成分に分解された前記音声信号に基づき作成されることが望ましい。
【0021】
本発明の加速度データ補正装置の一態様によれば、音声信号の影響分を、スピーカから出力され筐体を伝わって加速度センサに到達する時間だけ遅延させて加速度センサの出力から減じる。これにより、スピーカの振動が筐体を伝わって加速度センサの出力に混入する時間的なずれを考慮に入れて、音声信号を加速度センサ出力から除去することができ、より正確な加速度センサ出力を得ることが可能となる。
【0022】
さらに、本発明のナビゲーション装置によれば、筐体に内蔵されたスピーカからの音声出力が振動となって加速度センサの出力に影響を及ぼすが、この加速度センサ出力に混入した音声信号成分を除去することができ、より正確な加速度センサ出力を得ることが可能となる。したがって、より正確に現在位置の検出を行うことができるようになり、経路案内の精度を向上させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本実施例のカーナビゲーション装置の内部ブロック図である。
【図2】図2は、音声信号が加速度センサにおいてどの程度の大きさの加速度データとして検出されるかを測定し周波数ごとに分解した周波数−振幅テーブルを示す。
【図3】図3は、スピーカの振動による影響を加速度センサの測定データから除去するための補正動作のフローチャートである。
【図4】図4は、ともにフーリエ変換された加速度データから音声信号成分を除去する状態を模式的に示した図である。
【図5】図5は、図4(a)のフーリエ変換された加速度データのうち、ある時刻における加速度データを表したものであり、そのうちの実際の加速度成分と音声信号による影響分とを図示したものである。
【図6】図6は、本実施例のカーナビゲーション装置10において周波数−振幅テーブルを作成するための動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本願発明を実施するための最良の形態を実施例と共に図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための加速度データ補正装置として、本装置が組込まれたカーナビゲーション装置を例示して説明するものであって、本発明をこのカーナビゲーション装置に特定することを意図するものではなく特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなくその他の加速度データ補正装置にも等しく適用し得るものである。
【実施例】
【0025】
本発明の加速度データ補正装置は、スピーカと加速度センサとが同一の筐体内に内蔵された電子装置(以下、カーナビゲーション装置)に電子的な方法で接続されて使用されることも可能であるし、或いは、カーナビゲーション装置に組込まれて使用されることも可能である。本実施例では、カーナビゲーション装置に本発明の加速度データ補正装置が組込まれた場合について説明する。
【0026】
まず、図1を参照して、本実施例のカーナビゲーション装置10の各部の構成について説明する。なお、図1は、本実施例のカーナビゲーション装置10の内部ブロック図である。カーナビゲーション装置10は、筐体100とその内部に設けられる制御手段110、ナビゲーション部120、オーディオビジュアル部130、加速度データ補正部140を備えて構成される。
【0027】
筐体100は、カーナビゲーション装置10を構成する各種の電子部品を収容するためのハウジングである。特に、筐体100内には後述する加速度センサ124、スピーカ132が内蔵されている。筐体100は自動車のダッシュボード等、車両の適当な箇所に設置され、ドライバーやユーザがカーナビゲーション装置10を視認して利用することができるようになる。
【0028】
制御手段110は、CPU、RAM、ROM(いずれも図示せず)から構成され、RAMやROMに記憶された制御プログラムをCPUにおいて実行することにより、カーナビゲーション装置10の各部の動作、つまり、ナビゲーション部120、オーディオビジュアル部130、加速度データ補正部140の動作を制御、統括する。
【0029】
ナビゲーション部120は、カーナビゲーション装置10が搭載された車両の現在位置を検出する。検出された現在位置は、後述する表示部134に表示される周辺地図上に表示される。ナビゲーション部120は、現在位置検出手段121、マップマッチング部125、地図データベース126を備えている。
【0030】
現在位置検出部121は、GPS受信部122、自律航法部123を備え、自律航法部123はさらに加速度センサ124を備える。GPS受信部122は所定の時間間隔で地球上空を周回している複数のGPS衛星から受信する時刻情報を含む電波(GPS信号)に基づき車両の現在位置(GPS測位位置)を算出する。自律航法部123は加速度センサ124からの出力に基づき、GPS受信部122が受信したGPS信号に基づき算出した現在位置を補完することができる。また自律航法部123を備えることによって、GPS信号が受信できないトンネルや地下街、地下駐車場、建物内の駐車場、あるいは、高層ビル街などGPS信号の反射によるマルチパスの影響を受ける場所でも、加速度センサ124からの出力によりカーナビゲーション装置10(車両)の位置を算出することができる。
【0031】
加速度センサ124は、カーナビゲーション装置10の3軸方向に加わる加速度の変化を検出しており、検出された加速度を2回積分することでそれぞれの軸方向への移動距離を算出することができる。しかしながら、後述するように、加速度センサ124において検出される加速度データには、後述するスピーカ出力によって筐体が振動し、その振動による影響が含まれている。
【0032】
なお、本実施例では、自律航法部123が加速度センサ124のみを備える構成について説明したが、ジャイロセンサ(図示せず)を備えていてもよい。ジャイロセンサはカーナビゲーション装置10、或いはそれが搭載された車両の右左折或いはカーブ走行検出等を行うための角速度の変化を検出することができ、GPS信号によって特定された現在位置を補完して、現在位置を正確に算出することが可能となる。
【0033】
マップマッチング部125は、GPS受信部122によって検出され、自律航法部123によって補完された現在位置と、後述する地図データベース126中の道路データとを比較し、直近の道路上に、又は、直前までの現在位置(走行道路や進行方向を含んでもよい)を参照して適切な道路上に現在位置を設定する。
【0034】
地図データベース126は、道路データ、建物データ、背景データ、テキストデータから構成される地図情報を保持している。
【0035】
道路データは、道路をその屈曲点、分岐点等の結節点をノードとするノードデータと、それぞれのノード間を結ぶ経路をリンクとしたリンクデータから構成される。ノードデータは、ノード番号、ノードの位置座標(緯度・経度)、交差点情報や交差点名称等のノード属性、さらに接続リンク本数、接続リンク番号のデータを含んで構成される。
【0036】
また、リンクデータは、リンクの始点及び終点となるノード番号、高速道路や一般道や街路等を区別するための第一道路種別、さらに、それぞれの道路の本線や連結路を区別するための第2道路種別、距離及び/又は所要時間、国道○号線のような道路名称、進行方向のデータを含んで構成される。リンクデータは上記に加えて、リンク属性として橋、トンネル、踏切、料金所等のデータが付与される。
【0037】
建物データは、建物の少なくとも3点からなる位置座標(緯度・経度)、駅、ビル、民家等の建物の種別、表示色のデータを含んで構成される。また背景データは、海岸線、湖沼、河川形状、山林等の背景画像データとなる少なくとも3点からなる位置座標(緯度・経度)、表示色のデータを含んで構成される。
【0038】
テキストデータは、それぞれの地名や河川名等の文字(名称)、及びその座標(緯度・経度)のデータを含んで構成される。
【0039】
ナビゲーション部120は現在位置又は指定の出発地から指定の目的地に至る経路を探索する経路探索部(図示せず)や、探索された案内経路と現在位置に応じて経路案内を行う経路案内部(図示せず)を備えていてもよい。
【0040】
オーディオビジュアル部130は、オーディオ再生部131、スピーカ132、表示入力部133を備えて構成される。オーディオ再生部131は、SDカード等の各種記録メディアに対応した読取り手段、デコーダ、アンプ(いずれも図示せず)等を備えて構成され、SDカード等に記録された音声信号データ等を読取り、音声信号として復号化して増幅する。そして、増幅した音声信号をスピーカ132と音声信号処理部141へ出力する。また、オーディオ再生部131は、CDドライブとCD再生機能、ワンセグチューナー等であってもよい。
【0041】
スピーカ132はカーナビゲーション装置10の筐体100の内部に機械的に取付けられる。また、スピーカ132はオーディオ再生部131から出力される音声信号を音声として出力する。スピーカ132はカーナビゲーション装置10に1つ又は2つ搭載される。
【0042】
表示入力部133は表示部134と入力部135を備えて構成される。表示部134は液晶表示ユニットであり、入力部135は液晶表示ユニットの液晶画面上に取り付けられたタッチパネルである。表示部134は、地図画像や現在位置を示す表示画像等を表示し、入力部135はユーザにより操作され、音楽再生指示等の入力を行うのに使用される。
【0043】
加速度データ補正部140は、音声信号処理部141、加速度信号処理部142、信号合成部143、周波数−振幅テーブル144を備えて構成される。音声信号処理部141はオーディオ再生部131によって再生されている(出力される)音声信号から高周波数成分を除去し、次いでフーリエ変換を行うことによって音声信号を周波数成分に分解し、周波数成分に分解された音声信号とする。
【0044】
加速度信号処理部142は、加速度センサ124において検出された3軸方向の加速度データから高周波数成分を除去し、次いで各軸方向の加速度データごとにフーリエ変換を行うことによって加速度データを各軸方向の周波数成分に分解する。
【0045】
信号合成部143は、周波数成分に分解された加速度データと周波数成分に分解された音声信号との時間的なタイミング調整を行い、次いで周波数成分に分解された加速度データから周波数成分に分解された音声信号による影響分を除去し、逆フーリエ変換を行うことによって、スピーカ132の振動による影響を除去した加速度データを得ることができる。
【0046】
加速度データと音声信号とのタイミング調整は、スピーカ132における音声出力が物理的振動となってカーナビゲーション装置10の筐体100を移動して加速度センサ124に到達した場合に加速度センサ124によってどの程度遅延して検出されるかを予め測定しておき、この遅延時間の分だけ音声信号を遅延させることによって、検出される加速度データとの時間的タイミングを一致させる。なお、このタイミング調整については後述する。
【0047】
また、信号合成部143は、周波数−振幅テーブル144を参照して周波数ごとの加速度データの音声信号による影響(スピーカの振動による影響)を除去する。加速度センサ124が3軸方向のそれぞれについて加速度を検出するので、信号合成部143も加速度データの3軸方向のそれぞれに対する音声信号の影響を除去する。
【0048】
周波数−振幅テーブル144は、スピーカ132による音声出力が物理的な振動となってカーナビゲーション装置10の筐体100を伝わって加速度センサ124に到達し、加速度センサ124において検出される加速度データにどの程度影響を及ぼしているかを、周波数、音量ごとの加速度センサ出力値との関係を表すテーブルである。
【0049】
図2は、ある試験用音声信号データをオーディオ再生部131において再生(読み出)し、スピーカ132から音声として出力させた場合に、その音声出力が周波数ごとに加速度センサ124においてどの程度の大きさの加速度データとして検出されるかを測定した周波数−振幅テーブル144を表している。
【0050】
周波数−振幅テーブル144は、ある試験用音声信号データを再生した際に、再生された音声信号をフーリエ変換して周波数帯f1〜f20に分解してこれを横軸にとり、縦軸には試験用音声信号データの音声信号の振幅1〜14をとっている。そして、周波数−振幅テーブル144は、各周波数帯における音声信号において所定の振幅が加速度センサ124ではどの程度の振幅として検出されるかを示している。
【0051】
例えば、周波数帯f1では、試験用オーディオデータの音声信号の振幅は6であり、そのときに加速度センサ124では検出された加速度データの振幅は15である。そこで周波数帯f1、音声信号の振幅6が交わる箇所に加速度データの振幅である15が記載されている。
【0052】
また、周波数帯f2では、試験用音声信号データの音声信号の振幅は7であり、そのときに加速度センサ124では16の振幅が検出されたので、周波数帯f2、音声信号の振幅7が交わる箇所に加速度データの振幅である16が記載されている。他の周波数帯についても同様であり、周波数帯毎の音声信号と加速度データの振幅とが対応付けられて記憶されている。
【0053】
さらに、この周波数−振幅テーブル144は音量ごとに準備されている。これは、同じ周波数の音声であっても、スピーカ132から出力される音声の大きさによって筐体100の振動が一定ではないことを考慮に入れるためである。例えば、同一の周波数の場合において、音量が下がれば筐体100を伝わる振動は小さくなると考えられるが、音量の下げ幅と、筐体を伝わる振動の下がり幅(振動が小さくなる幅)は、正比例するとは限らない。すなわち、大きく音量を下げた場合(又は上げた場合)でも、筐体を伝わる振動がその音量に正比例して小さくなる(又は大きくなる)とは限らない。そのため、音量ごとに周波数−振幅テーブル144を準備することで、音量の下げ幅(調節量)に応じた筐体を伝わる振動量(加速度データに影響するスピーカの振動)を算出できる。
【0054】
次に、図3を参照して本実施例においてスピーカ132における音声出力による振動が加速度センサ124の加速度データへ及ぼす影響を除去する動作について説明する。なお、図3は、スピーカ132の振動による影響を加速度センサ124の加速度データから除去するための補正動作のフローチャートである。
【0055】
ステップS301において、オーディオ再生部131はSDカード等の各種メディアに記録されている音声信号データを読込み、複合化して音声信号として出力する。出力された音声信号は、ステップS302においてスピーカ132から音声として出力される。ステップS303において、スピーカ132から音声として出力される際に、スピーカ132が物理的に振動し、この振動がカーナビゲーション装置10の筐体100を振動させる(ステップS303)。
【0056】
筐体100の振動は筐体100を移動して加速度センサ124に到達する。ステップS304において、加速度信号処理部142は加速度データを取得する。この加速度データには、音声信号がスピーカ132において音声として出力されることによって生じた筐体100の振動による加速度の変動と、カーナビゲーション装置10が設置された車両の動静による加速度の変動とが含まれる。ステップS305において、加速度信号処理部142は加速度センサ124によって検出された加速度データを3軸方向ごとにフーリエ変換し、各周波数成分に分解する。
【0057】
ステップS305の処理に続いてステップS306の処理が行われる。すなわち、ステップS301においてオーディオ再生部131が音声信号データの再生を行っている場合、ステップS306において音声信号処理部141は再生されている音声信号をフーリエ変換し各周波数成分に分解する。
【0058】
なお、図3では、ステップS305の加速度データをフーリエ変換した後に、ステップS306の音声信号のフーリエ変換の処理が行われることが記載されているが、本発明はこれに限定されない。ステップS301における音声信号の出力の後に、ステップS302〜S305の加速度データをフーリエ変換する処理とステップS306の音声信号をフーリエ変換する処理とを並行して行うようにしてもよい。
【0059】
スピーカ132において出力される音声と加速度センサ124において検出される加速度データに含まれる音声信号の影響分には、時間的なずれがある。これは、スピーカ132における音声出力によって生じる振動が筐体100を伝わって加速度センサ124に到達するまでの時間に関係している。そこで、ステップS307において、信号合成部143は、ステップS305においてフーリエ変換された加速度データとステップS306においてフーリエ変換された音声信号との時間的な差を一致させるためのタイミング調整を行う。
【0060】
ステップS308において、信号合成部143は周波数−振幅テーブル144を参照することによって各周波数帯における音声信号が加速度データに及ぼす影響を求め、フーリエ変換された加速度データからフーリエ変換された音声信号による影響分を除去し、ステップS309において信号合成部143は音声信号による影響分が除去された加速度データに対して逆フーリエ変換を行い、補正された加速度データとして出力する。
【0061】
上記のステップ308においてフーリエ変換された加速度データからフーリエ変換された音声信号を除去する処理について、さらに図4、5を参照して説明する。なお、図4は、ともにフーリエ変換された加速度データから音声信号を除去する状態を模式的に示した図である。
【0062】
図4(a)は、加速度センサ124によって検出された加速度データを加速度信号処理部142においてフーリエ変換し、各周波数帯においてどれほどの振幅を有しているかを時間的経過とともに表している。図4(b)は、音声信号処理部141において音声信号をフーリエ変換し、さらに信号合成部143においてそのフーリエ変換された各周波数帯の音声信号の振幅に対して周波数−振幅テーブル144を参照し、それぞれの周波数帯の音声信号が筐体をどの程度振動させて加速度センサ124で検出されているかを算出し、時間的経過とともに示したものである。
【0063】
信号合成部143は、図4(a)に示されているフーリエ変換された加速度データから、図4(b)に示されている音声信号の影響分を周波数帯ごとに減算する。音声信号の影響分を除去した周波数帯毎の加速度成分を図4(c)に示す。図4(a)と図4(c)を比較すると明らかなように、加速度センサ124で検出された加速度の振幅よりも小さな振幅の加速度が残され、これがスピーカ132における音声出力による振動の影響を受けていない場合の加速度データである。なお、減算する方法は種々考えられるが、例えば、フーリエ変換された音声信号の逆位相をフーリエ変換された加速度データに加えることで減算することができる。
【0064】
図5は、図4(a)のフーリエ変換された加速度データのうち、ある時刻における加速度データを表したものであり、そのうちの実際の加速度成分と音声信号による影響分とを図示したものである。
【0065】
なお、以上の説明では、加速度センサ124が3軸の加速度データを検出し、3軸の加速度データ毎に、周波数成分に分解された加速度データから、周波数成分に分解された音声信号を除去するように説明を行なったが、この方法では、移動に伴う加速度データも除去される恐れがあるため、より正確には、上記の方法は、1軸の加速度データを検出する加速度センサ124に適用することが望まれる。
【0066】
また、3軸の加速度データを検出する加速度センサ124を用いる場合は、各軸ごとに周波数−振幅テーブル144を設けることが好ましい。すなわち、ナビゲーション装置10に対してスピーカ132の設置向きが前後方向の場合、加速度センサ124の各軸のうち、ナビゲーション装置10に対して前後方向の軸にスピーカ132の振動の影響分が大きく加わり、上下方向などには影響が小さいと考えられるためである。
【0067】
また、予めスピーカ132の設置向きが分かっている場合であれば、それに対応した軸(上記であれば前後方向の軸)のみ、音声信号(スピーカ132の振動)を除去するようにしてもよい。
【0068】
次に、図6を参照して、図2に示した周波数−振幅テーブル144の作成方法について説明する。図6は、本実施例のカーナビゲーション装置10において周波数−振幅テーブルを作成するための動作を示したフローチャートである。
【0069】
ステップS601において、まず、カーナビゲーション装置10が搭載された車両が停止しているかどうかを判定する。この判定は、エンジンが運転中かそれとも停止中かどうかを判定することによって行ってもよいし、GPS受信部122によって車両が移動しているか否かを判定することによって行ってもよい。車両が停止していない場合には処理を終了する。車両が停止していると判定された場合には、ステップS602においてオーディオ再生部131が試験用音声信号データを再生する。なお、試験用音声信号データに限定されず、どのような音声信号データでもよい。
【0070】
ステップS603において、音声信号処理部141は再生されている試験用音声信号データの音声信号をフーリエ変換して各周波数帯に分解し、さらに、音声信号処理部141は当該音声信号の各周波数帯の振幅を記憶する。ステップS604において、ユーザは入力部135を操作することにより、音声信号の再生音量を操作し、所定の音量で再生を行う。なお、ステップS604において、再生音量の操作を行なったが、説明の簡略化のため予め再生音量の操作は行なわれていたものとする。ステップS605において、再生されている所定音量の音声信号に基づく音声をスピーカ132から出力する。スピーカ132から音声が出力されると、スピーカ132の振動が筐体100を伝わって加速度センサ124に到達する。
【0071】
ステップS606において、加速度センサ124に到達した振動を加速度データとして検出し、その加速度データを加速度信号処理部142においてフーリエ変換し、各周波数帯に分解する。加速度センサ124においてこのときに検出される加速度データは、車両が停止しているときのものであるから、そのすべてがスピーカ132の振動による影響であると考えられる。ステップS607において、音声信号と加速度センサ124の出力間における時間的なずれを補正するタイミング調整を行う。
【0072】
なお、重力方向については、車両が停止している場合でも、重力加速度が加速度データに含まれることが考えられる。そのため、重力方向の軸については、重力加速度分を加速度データから除去しておくことが好ましい。
【0073】
ステップS608において、記憶された音声信号の各周波数帯の振幅と加速度センサ124において検出された加速度データの各周波数帯の振幅とを対応付けて図示しない記憶部に記憶される。これは図2に示したような周波数−振幅テーブル144であってもよい。また、この音声信号と加速度データとは所定の音量の値ごとに対応付けられて記憶される。
【0074】
或いは、加速度センサ124において検出された加速度データの各周波数帯の振幅を1とした場合の音声信号の各周波数帯の振幅を算出して対応付けて記憶してもよい。
【0075】
上記には、カーナビゲーション装置に本発明の加速度データ補正装置が組込まれた例について説明したが、本発明の加速度データ補正装置はこの実施例に限定されるものではない。例えば、既存のカーナビゲーション装置10の加速度データ及び音声信号の入出力端子に接続することによって加速度データや音声信号を取得し、カーナビゲーション装置における加速度センサの測定データの誤差を補正するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0076】
10 カーナビゲーション装置
100 筐体
110 制御部
120 ナビゲーション部
121 現在位置検出部
122 GPS受信部
123 自律航法部
124 加速度センサ
125 マップマッチング部
126 地図データベース
130 オーディオビジュアル部
131 オーディオ再生部
132 スピーカ
133 表示入力部
134 表示部
135 入力部
140 加速度データ補正部
141 音声信号処理部
142 加速度信号処理部
143 信号合成部
144 周波数−振幅テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体に内蔵スピーカと加速度センサとが備え付けられた電子装置において前記内蔵スピーカの振動が前記加速度センサの出力に及ぼす影響を除去する加速度データ補正装置であって、
前記内蔵スピーカに供給される音声信号を周波数成分に分解する音声信号処理手段と、
前記加速度センサの出力を周波数成分に分解する加速度信号処理手段と、
前記周波数成分に分解された前記加速度センサの出力から前記周波数成分に分解された前記音声信号を除去する信号合成手段と、を備えることを特徴とする加速度データ補正装置。
【請求項2】
前記加速度データ補正装置は、前記音声信号に基づく前記スピーカの振動が前記加速度センサの出力に及ぼす影響の大きさを表す周波数−振幅テーブルを備え、前記信号合成手段は、前記周波数成分に分解された前記加速度センサの出力から前記周波数成分に分解された前記音声信号を除去する際に、前記周波数−振幅テーブルを参照することを特徴とする請求項1に記載の加速度データ補正装置。
【請求項3】
前記周波数−振幅テーブルは、前記加速度データ補正装置が停止している場合における、前記周波数成分に分解された前記加速度センサの出力と前記周波数成分に分解された前記音声信号に基づき作成されることを特徴とする請求項2に記載の加速度データ補正装置。
【請求項4】
前記信号合成手段は、前記周波数成分に分解された前記音声信号を、前記スピーカの振動が前記加速度センサの出力に影響するまでの時間だけ遅延して前記周波数成分に分解された加速度センサの出力から除去ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の加速度データ補正装置。
【請求項5】
前記電子機器は、ナビゲーション装置であり、
前記ナビゲーション装置は、請求項1〜4の何れかに記載の加速度データ補正装置を備えることを特徴とするナビゲーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−52851(P2012−52851A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194004(P2010−194004)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】