説明

加飾シート、およびそれを用いた加飾成形品の製造方法

【課題】表面に凹凸模様を有する加飾成形品を製造する際に用いられる加飾シートにおいて、高硬度性などの表面特性と耐ブロッキングおよび成形性とをより高いレベルで実現できる加飾シートを提供する。
【解決手段】基材フィルムの片面に少なくとも賦形層とハードコート層形成層とを順に備えた加飾シートであって、前記賦形層が、その表面に凹凸模様を有しており、前記ハードコート層形成層が、前記賦形層の凹凸模様に追従するように、前記賦形層上にハードコート層形成用組成物を塗布して形成されており、前記ハードコート層形成用組成物が、ビニル基、(メタ)アクリロイル基およびアリル基から選ばれる少なくとも一種を有する、重量平均分子量が50000以上である多官能性ラジカル重合型プレポリマーからなる電離放射線硬化性官能基Aと、表面に電離放射線硬化性官能基Bを有する反応性無機粒子と、多官能イソシアネート化合物と、を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾シートに関し、より詳細には、その表面に凹凸模様を有するハードコート層を備えた加飾成形品の製造に好適に使用できる加飾シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三次元曲面などの複雑な表面形状を有する樹脂成形体の加飾には、射出成形同時加飾方法が用いられる。射出成形同時加飾方法とは、射出成形の際に、金型内に挿入された加飾シートをキャビティ内に射出注入された溶融した射出樹脂と一体化させて、樹脂成形体表面に加飾を施す方法であり、樹脂成形体と一体化される加飾シートの構成の違いにより、一般に、射出成形同時ラミネート加飾法と射出成形同時転写加飾法とに大別される。
【0003】
射出成形同時転写加飾法においては、加飾シートを金型内面に密着させて型締した後、キャビティ内に溶融した射出樹脂を射出して、加飾シートと射出樹脂とを一体化し、次いで加飾成形品を冷却して金型から取り出した後、基材フィルムを剥離することにより、所望の加飾が施された転写層を転写した加飾成形品を得ることができる。
【0004】
このようにして得られる加飾成形品は、従来用いられている家庭用電化製品、自動車内装品などの分野に加えて、例えば近年パソコン市場の拡大に伴う、日常携帯できるモバイルパソコンを含めたノート型のパソコンの分野での使用や、自動車外装、携帯電話分野での使用も注目されている。これらの分野においては、加飾シートに対して、加飾成形品に優れた高硬度性などの表面特性を付与しうると同時に、より形状が複雑な成形品を得られる成形性が求められる。さらに、近年においては、絵柄等の加飾だけでなく、成形品の表面に立体的な模様を施したような加飾成形品が市場から求められている。
【0005】
このような要求を満たすため、低分子量のポリマーと多官能イソシアネートを含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いた保護層を有する転写材が提案されている(例えば、特許第3233595号公報)。しかしながら、保護層がタックフリーになりにくく、タックフリーの状態にするには、150℃という高温による焼付けや長時間の加熱処理を要するため、製造効率が悪かったり、また高硬度性などの表面特性におけるより厳しい要求には対応できないといった問題があった。
【0006】
また、特開2009−137219号公報には、高硬度性などの表面物性を得ることを目的として、低分子量のポリマーと硬化剤とコロイダルシリカ粒子とを含む保護層を有する転写材が提案されている。しかしながら、鉛筆硬度でH以上のより厳しい要求に対して十分ではなく、また、形状が複雑な成形品に対して、保護層が白化したり塗装割れを生じる場合があるといった問題があった。高硬度性などの表面特性と耐ブロッキングおよび成形性とは相反する性能であり、これらの相反する性能をより高いレベルで実現できる加飾シートが希求されている。
【0007】
さらに、特開平2−41242号公報には、凹凸模様を設けた転写シートを上記した射出成形同時転写加飾法に適用して、成形品の表面に凹凸模様を形成することが提案されている。このような転写シートを使用すれば、所望の凹凸模様ごとに成形金型の内面を賦形する必要がなくなるため、加飾成形品の製造コストを低減することができる。しかしながら、得られた加飾成形品の表面の凹凸模様が、成形品の使用時にすぐに摩滅してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3233595号公報
【特許文献2】特開2009−137219号公報
【特許文献3】特開平2−41242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、今般、表面に凹凸模様を有する加飾成形品を製造する際に用いられる加飾シートにおいて、賦形層(離型層)の表面に凹凸模様を設け、その上に、特定の電離放射線樹脂組成物からなるハードコート層形成層を設けることにより、高硬度性などの表面特性と耐ブロッキングおよび成形性とをより高いレベルで実現できる、との知見を得た。したがって、本発明は、表面に凹凸模様を有する加飾成形品を製造する際に用いられる加飾シートにおいて、高硬度性などの表面特性と耐ブロッキングおよび成形性とをより高いレベルで実現できる加飾シートを提供することである。
【0010】
また、本発明の別の目的は、上記の加飾シートを用いた成形品の製造方法、およびその製造方法により得られる表面の凹凸模様を有する加飾成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による加飾シートは、基材フィルムの片面に少なくとも賦形層とハードコート層形成層とを順に備えた加飾シートであって、
前記賦形層が、その表面に凹凸模様を有しており、
前記ハードコート層形成層が、前記賦形層の凹凸模様に追従するように、前記賦形層上にハードコート層形成用組成物を塗布して形成されており、
前記ハードコート層形成用組成物が、ビニル基、(メタ)アクリロイル基およびアリル基から選ばれる少なくとも一種を有する、重量平均分子量が50000以上である多官能性ラジカル重合型プレポリマーからなる電離放射線硬化性官能基Aと、表面に電離放射線硬化性官能基Bを有する反応性無機粒子と、多官能イソシアネート化合物と、を含んでなる、
ことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の態様によれば、前記反応性無機粒子が、反応性シリカ粒子および/または反応性異形シリカ粒子であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の態様によれば、前記多官能性ラジカル重合型プレポリマーが、アクリル(メタ)アクリレート系プレポリマーであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の態様によれば、前記多官能イソシアネート化合物が、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基およびエポキシ基から選ばれる少なくとも一種を有する電離放射線硬化性官能基Cを有することが好ましい。
【0015】
また、本発明の態様によれば、前記賦形層が、電離放射線硬化性樹脂からなることが好ましい。
【0016】
また、本発明の態様によれば、前記賦形層と前記ハードコート層形成層との間に、離型層がさらに設けられてなることが好ましい。
【0017】
また、本発明の態様によれば、前記基材フィルムの、賦形層を設けた面とは反対側の面に、帯電防止層が設けられてなることが好ましい。
【0018】
発明の別の態様による加飾シートを用いた成形品の製造方法は、射出成形金型の内側に前記加飾シートを配置し、
前記金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、前記加飾シートが表面に積層されて一体化した樹脂成形体を形成し、
前記樹脂成形体を金型から取り出し、
前記ハードコート層形成層と前記賦型層との間で剥離するように、前記加飾シートが一体化した樹脂成形体から、前記加飾シートの基材フィルム側を剥離し、
前記樹脂成形体に電離放射線を照射して、前記加飾シートのハードコート層形成層を硬化させて、表面に凹凸模様を有するハードコート層を備えた成形品を形成する、
ことを含んでなることを特徴とする。
【0019】
また、本発明によれば、上記の製造方法により得られる、表面の凹凸模様を有する加飾成形品も提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加飾シートの賦形層に凹凸模様が形成され、その凹凸模様に追従するようにハードコート層形成層が設けられているため、絵柄等の加飾だけでなく所望の凹凸模様を成形品の表面に形成することができ、従来のように金型内側に凹凸模様を形成する必要がない。また、ハードコート層形成層が上記した特定の樹脂組成物からなるため、高硬度性などの表面特性と耐ブロッキングおよび成形性とをより高いレベルで実現できるとともに、成形品の表面に形成された凹凸模様がハードコート層を兼ねるため高硬度性および耐スクラッチ性が高く、凹凸模様の摩擦等による摩滅を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による加飾シートの断面を示す模式図である。
【図2】本発明による加飾成形品の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<加飾シート>
本発明による加飾シートは、基材フィルムの片面に少なくとも賦形層とハードコート層形成層とを順に有しており、賦形層がその表面に凹凸模様を有しており、ハードコート層形成層が、前記賦形層の凹凸模様に追従するように、前記賦形層上にハードコート層形成用組成物を塗布して形成されたものである。以下、本発明の加飾シートを、図1および図2を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明の加飾シートの好ましい一態様についての断面を示す模式図である。加飾シート1は、ポリエステルフィルム等からなる基材フィルム11の一方の表面に、賦形層12、ハードコート層形成層14が順に積層された層構成を備えたものであるが、本発明の好ましい実施態様においては、後記するように剥離層19の離型性を向上する目的で、賦形層12とハードコート層形成層14との間に、離型層13が設けられていてもよい。賦形層12は、表面に凹凸模様12Aを有しており(離型層13を有する場合は、離型層13の表面にも、凹凸模様12Aに追従するように凹凸模様13Aを有する)、その賦形層上に設けられたハードコート層形成層14は、凹凸模様12A(および凹凸模様13A)に追従するように塗布されて形成されたものである。本発明の好ましい態様として、ハードコート層形成層14上には、さらにアンカー層15、絵柄層16および接着層17が順に形成されていてもよい。また、基材フィルム11の他方の面(賦形層12を設けた面とは反対側の面)に帯電防止層20が設けられていてもよい。以下、本発明による加飾シートを構成する各層について、以下、説明する。
【0024】
<基材フィルム>
基材フィルム11は、加飾シート1の支持体となるものであり、賦形層12、離型層13およびハードコート層形成層14を支持できるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、基材フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチルなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、三酢酸セルロース、セロファン、ポリカーボネート、ポリウレタン系などのエラストマー系樹脂などによるものを好適に利用できる。これらのなかでも、成形性および耐熱性の観点から、ポリエステル系樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という。)が好ましい。
【0025】
基材フィルムの厚さとしては、成形性や形状追従性、取り扱いが容易であるとの観点から、25〜150μmの範囲が好ましく、さらに25〜75μmの範囲がより好ましい。
【0026】
<賦形層>
本発明による加飾シートを構成する賦形層12は、ハードコート層形成層14が成形体に転写された後に硬化してハードコート層となったときに、その表面に所望の凹凸模様を付与するために設けられるものである。したがって、賦形層12は、その表面に、成形体の表面に付与したい所望の凹凸模様12Aが形成されている。
【0027】
賦形層12の表面に、所望の凹凸模様を形成する方法としては、基材フィルム11上に、後記するような電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布し、その上からエンボス加工を行い、エンボス賦形された電離放射線硬化性樹脂に電離放射線を照射して樹脂を硬化させることにより形成することができる。また、特開平5−138736号公報に記載されているフィラーを用いた凹凸模様の形成方法を採用してもよい。
【0028】
上記した電離放射線硬化性樹脂組成物としては、公知のラジカル重合性不飽和基を有する熱可塑性樹脂モノマーやプレポリマーを使用することができ、例えば、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、トリアクリルイソシアヌレート、シクロヘキサンジオールジアクリレート、シクロヘキサンジオールジメタクリレート、スピログリコールジアクリレート、スピログリコールジメタクリレート等のアクリル系モノマーや、それらモノマーのプレポリマーを使用できる。また、水酸基を有するモノマーとアクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基を有するモノマーとを重縮合したもの、カルボキシル基やスルホン基を有するモノマーと水酸基を有するモノマーとを重縮合したもの、エポキシ基、イソシアネート基あるいはアジリジニル基を有するモノマーと水酸基またはカルボキシル基を有するモノマーとを付加重合したもの、およびエポキシ基またはアジリジニル基を有するモノマーあるいはイソシアネート化合物と水酸基含有アクリル酸エステルモノマーとを付加重合したものを使用してもよい。
【0029】
水酸基を有するモノマーとしては、N−メチロールアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートなどが挙げられ、カルボキシル基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロイルオキシエチルモノサクシネートなどが挙げられ、エポキシ基を有するモノマーとしてはグリシジルメタクリレートなどが挙げられ、アジリジニル基を有するモノマーとしては、2−アジリジニルエチルメタクリレート、2−アジリジニルプロピオン酸アリルなどが挙げられ、アミノ基を有するモノマーとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルエチルメタクリレートなどが挙げられ、スルホン基を有するモノマーとしては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルフォン酸などが挙げられ、イソシアネート基を有するモノマーとしては、2,4−トルエンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチルシクリレートとの1モル対1モル付加物などのジイソシアネートと活性水素とを有するラジカル重合性モノマーなどが挙げられる。
【0030】
上記したモノマーおよびプレポリマーに加えて、樹脂の架橋密度や耐熱性を向上させるために、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート、プロピレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、プロピレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート、ソルビトールテトラグリシジルエーテルテトラアクリレート、ソルビトールテトラグリシジルエーテルテトラメタクリレート等を適宜添加してもよい。
【0031】
また、電離放射線硬化性樹脂組成物には、増感剤としてベンゾキノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル類、ハロゲン化アセトフェノン類、ピアチル類などの紫外線照射によりラジカルを発生するものを添加してもよい。
【0032】
賦形層は、上記した電離放射線硬化性樹脂組成物を適当な溶剤に溶解または分散させたインキを、基材シート上に塗布・乾燥させ、上記のようにエンボス加工して凹凸模様を賦形し、電離放射線を塗布膜に照射することにより形成することができる。賦形層の厚みは、その表面に賦形する凹凸模様の形状にもよるが、概ね5〜30μm程度である。
【0033】
電離放射線としては、電子線や紫外線を用いることができる。電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いるプレポリマーやモノマーの種類、あるいはハードコート層形成層14の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度が好ましい。照射線量は、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。また、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを放射し、その照射線量は500〜1500mJ程度である。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈などが用いられる。
【0034】
<離型層>
加飾シートを用いて成形品の表面を加飾する際、ハードコート層形成層14、アンカー層15、絵柄層16および接着層17が順に積層してなる転写層18は、基材シート11から剥離されるが、離型層13は、この剥離を容易にするために必要に応じて設けられる層であり、賦形層12とハードコート層形成層14との間に設けられる。離型層を設けることにより、加飾シート1から転写層18を確実かつ容易に被転写体(成形体)へ転写させ、基材フィルム11、賦形層12、離型層13および必要に応じて設けられる帯電防止層20からなる剥離層19を確実に剥離することができる。
【0035】
この離型層13は、凹凸模様12Aを有する賦形層12上に設けられ、離型層13の表面(すなわち、ハードコート層形成層14が設けられる面)にも凹凸模様12Aに追従した凹凸模様13Aが形成されている。
【0036】
離型層には、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース樹脂系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤、アクリル樹脂系離型剤およびこれらの複合型離型剤などの離型剤が好ましく用いられる。これらのなかでも、離型層とハードコート層形成層との剥離強度を所定の範囲内とし、剥離層19を確実に剥離する観点から、メラミン樹脂系離型剤、またはアクリル樹脂系離型剤、あるいはアクリル−メラミン系などこれらを複合したものを好ましく用いることができる。
【0037】
メラミン樹脂系離型剤を用いる場合、離型剤の硬化を促進するため、酸触媒を使用することが好ましい。上記酸触媒としては特に限定されず、例えば、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸などが好ましく挙げられる。酸触媒の使用量は、メラミン樹脂系離型剤に含まれるメラミン樹脂の固形分に対して0.05〜3%程度が好ましく、0.05〜1%がより好ましい。また、離型剤の硬化を促進させるために、130〜170℃の加熱処理を10秒〜2分程度行うことが好ましい。
【0038】
離型層の表面に、賦形層12の凹凸模様12Aに追従するように凹凸模様13Aを形成するには、基材フィルム上に電離放射線硬化性樹脂組成物からなるインキを塗布して乾燥させ、次いで、上記のような離型剤に必要な添加剤を加えたものを適当な溶剤に溶解または分散して調製したインキを、電離放射線硬化性樹脂層上に公知の手段により塗布・乾燥した後、上記したようその表面にエンボス加工を行い、電離放射線を照射して電離放射線硬化性樹脂を硬化させることにより、賦形層と離型層とに同じ凹凸模様を形成することができる。
【0039】
離型層の厚みは、概ね0.1〜5μm程度であるが、賦形性に影響しないように1μm以下とすることがより好ましい。
【0040】
<ハードコート層形成層>
賦形層12(必要に応じて離型層13)上に設けられるハードコート層形成層14は、剥離層19が剥離された後、後記するように、硬化させることによりハードコート層となり、成形品の表面に凹凸模様等の加飾を行うとともに、ハードコート層は加飾された成形品の最外層となるため、摩滅や薬品などから成形品(凹凸模様を含む)や絵柄層を保護するための層である。このハードコート層形成層14は、ハードコート層形成用組成物を、表面に凹凸模様12Aを有する賦形層12(必要に応じて凹凸模様13Aを有する離型層13)上に塗布することにより形成されるが、ハードコート層形成用組成物を塗布する際に賦形層12(離型層13)の凹凸模様12A(13A)に追従するようにハードコート層形成層14が形成される。ハードコート層形成層14は、硬化することで、優れた高硬度性と耐スクラッチ性はもちろんのこと、耐薬品性や耐汚染性などの表面物性に優れるという性能を有する層であることを要する。
【0041】
ハードコート層形成用組成物は、ビニル基、(メタ)アクリロイル基およびアリル基から選ばれる少なくとも一種を有する、重量平均分子量が50000以上である多官能性ラジカル重合型プレポリマーからなる電離放射線硬化性官能基Aと、表面に電離放射線硬化性官能基Bを有する反応性無機粒子と、多官能イソシアネート化合物と、を必須成分として含む。なお、本発明において、電離放射線硬化性とは、電磁波または荷電粒子線の中で分子を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線または電子線などの照射により励起して、重合反応を生じることにより架橋、硬化する性能のことである。また、電離放射線硬化性官能基とは、上記電離放射線硬化性を発現しうる官能基を意味する。
【0042】
上記の多官能性ラジカル重合型プレポリマーは、電離放射線硬化性官能基Aを有するプレポリマーであれば特に限定されるものではない。このような電離放射線硬化性官能基Aを有するラジカル重合型プレポリマーとしては、例えば、アクリル(メタ)アクリレート系プレポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート系プレポリマー、ポリエステル(メタ)アクリレート系プレポリマー、エポキシ(メタ)アクリレート系プレポリマー、およびポリエーテル(メタ)アクリレート系プレポリマーなどのプレポリマーが好ましく挙げられる。これらのなかでも、アクリル(メタ)アクリレート系プレポリマーが好ましい。本発明においては、これらのプレポリマーを単独で、あるいは複数を組合せて用いてもよい。
【0043】
ここで、アクリル(メタ)アクリレート系プレポリマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、これと共重合可能な、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルなどの官能基含有(メタ)アクリル系化合物、あるいは(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボン酸とを共重合してなるプレポリマーである。
【0044】
ウレタン(メタ)アクリレート系プレポリマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンプレポリマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0045】
ポリエステル(メタ)アクリレート系プレポリマーとしては、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルプレポリマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるプレポリマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0046】
エポキシ(メタ)アクリレート系プレポリマーは、例えば比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ(メタ)アクリレート系プレポリマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシ(メタ)アクリレート系プレポリマーを用いることもできる。
【0047】
ポリエーテル(メタ)アクリレート系ポリマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0048】
本発明で用いられるプレポリマーの重量平均分子量は、50000以上であることを要し、より好ましくは50000超〜145000であり、さらに好ましくは53000〜115000である。重量平均分子量が上記範囲内であれば、ハードコート層形成用組成物のチキソ性が得られるため塗布が容易であり、かつ良好な成形性も得られる。なお、重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された値を意味し、標準サンプルにポリスチレンを用いた条件で測定された値である。
【0049】
また、優れた表面特性を得る観点から、プレポリマーの二重結合当量は、100〜800、好ましくは150〜500、より好ましくは150〜300である。なお、二重結合当量は、電離放射線硬化性官能基1molあたりの分子量を意味する。
【0050】
ハードコート層形成用組成物に含まれる反応性無機粒子は、表面に電離放射線硬化性官能基Bを有する。なお、電離放射線硬化性官能基とは、上記電離放射線硬化性を発現しうる官能基のことであり、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基およびアリル基といったエチレン性不飽和結合やエポキシ基、シラノール基などの官能基のことである。本発明においては、高硬度性および耐スクラッチ性の向上の観点から、電離放射線硬化性官能基Bが、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、およびアリル基であることが好ましい。
【0051】
無機粒子としては、シリカ粒子(コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、沈降性シリカなど)、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子、酸化亜鉛粒子などの金属酸化物粒子が好ましく挙げられ、高硬度性の向上の観点から、シリカ粒子およびアルミナ粒子が好ましく、特にシリカ粒子が好ましい。
【0052】
無機粒子の形状としては、球、楕円体、多面体、鱗片形などが挙げられ、これらの形状が均一で、整粒であることが好ましい。また、無機粒子の平均粒子径は、ハードコート層形成用組成物により形成する層の厚さにより適宜選択しうるが、通常0.005〜0.5μmが好ましく、0.01〜0.1μmがより好ましい。ここで、平均粒子径とは、溶液中の粒子を動的光散乱方法で測定し、粒子径分布を累積分布で表したときの50%粒子径(d50:メジアン径)であり、Microtrac粒度分析計(日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0053】
また、無機粒子のなかでも、高硬度性の観点からは、異形無機粒子が好ましい。異形無機粒子は、無機粒子が平均連結数2〜40個の連結凝集した無機粒子群からなるものが好ましい。連結凝集は、規則的であっても不規則的であってもよい。無機粒子群を形成する無機粒子としては、シリカ(コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、沈降性シリカなど)、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛などの金属酸化物からなる無機粒子が好ましく挙げられ、高硬度性の向上の観点から、シリカあるいはアルミナからなる異形無機粒子であることが好ましい。すなわち、異形無機粒子は、シリカ粒子あるいはアルミナ粒子が平均連結数2〜40個の連結凝集したシリカ粒子群あるいはアルミナ粒子群からなるものであることが好ましく、特に、シリカ粒子が平均連結数2〜40個の連結凝集したシリカ粒子群からなる異形シリカ粒子が好ましい。
【0054】
上記無機粒子群を形成する無機粒子の形状は、球、楕円体、多面体、鱗片形などが好ましく挙げられ、これらの形状が均一で、整粒であることが好ましい。また、無機粒子群を形成する無機粒子の平均粒子径は、0.005〜0.5μmであることが好ましく、0.01〜0.1μmであることがより好ましい。また、異形無機粒子の平均粒子径としては、ハードコート層形成用組成物により形成する層の厚さにより適宜選択しうるが、通常0.005〜0.5μmが好ましく、0.01〜0.1μmがより好ましい。なお、平均粒子径は、上記した無機粒子の平均粒子径と同じ方法により測定したものである。
【0055】
本発明において使用される反応性無機粒子は、上記したシリカ粒子または異形シリカ粒子の表面に、電離放射線硬化性官能基Bを有する反応性シリカ粒子または反応性異形シリカ粒子であることが好ましい。これら粒子の表面に電離放射線硬化性官能基Bを結合させるには、シランカップリング剤を用いることができる。
【0056】
シランカップリング剤としては、ビニル基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、アリル基などを有する公知のシランカップリング剤が好ましく挙げられ、より具体的には、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などが好ましく挙げられ、より好ましくは、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシランである。
【0057】
無機粒子をシランカップリング剤で表面装飾する方法は、特に制限はなく公知の方法であればよく、シランカップリング剤をスプレーする乾式の方法や、無機粒子を溶剤に分散させてからシランカップリング剤を加えて反応させる湿式の方法などが挙げられる。
【0058】
ハードコート層形成用組成物に含まれる多官能イソシアネート化合物は、イソシアネート基を2個以上有する多官能イソシアネート化合物であることが好ましい。このような多官能イソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、あるいは、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチレンジイソシアネート(MDI)、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族(ないしは脂環式)イソシアネート等のポリイソシアネートが挙げられる。また、これら各種イソシアネートの付加体または多量体、例えば、トリレンジイソシアネートの付加体、トリレンジイソシアネート3量体(trimer)等や、ブロック化されたイソシアネート化合物等も挙げられる。
【0059】
また、本発明においては、多官能イソシアネート化合物のうち、電離放射線硬化性官能基Cとしてビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基およびエポキシ基から選ばれる少なくとも一種を有するものが、高硬度性の観点から特に好ましく、具体的には「Laromer LR9000(商品名)」(BASF社製)のように、エチレン性不飽和結合を有する官能基を少なくとも1個と、2個以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物が好ましい。
【0060】
本発明において使用されるハードコート層形成用組成物は、粘度を調整する目的で溶媒を含有してもよい。溶媒としては、トルエン、キシレンなどの炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、メチルグリコール、メチルグリコールアセテート、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコールなどのケトン類;蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ニトロメタン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどの含窒素化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなどのエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、テトラクロルエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレンなどのその他の物;またはこれらの混合物が好ましく挙げられる。より好ましい溶剤としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
【0061】
ハードコート層形成用組成物中の溶媒の量は、組成物の粘度に応じて適宜選定すればよいが、プレポリマーの固形分、反応性無機粒子およびその他後述する光重合開始剤などを合わせた固形分の含有量が通常10〜70質量%程度、好ましくは20〜50質量%となるような量である。
【0062】
ハードコート層形成用組成物には、光重合開始剤を配合してもよい。光重合開始剤としては、アセトフェノン系、ケトン系、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、ケタール系、アントラキノン系、ジスルフィド系、チオキサントン系、チウラム系、フルオロアミン系などの光重合開始剤が挙げられる。なかでも、アセトフェノン系、ケトン系、ベンゾフェノン系が好ましく挙げられる。これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で使用することができ、また複数を組み合わせて使用することもできる。
【0063】
光重合開始剤の含有量は、プレポリマーの固形分100質量部に対して、0.5〜10質量部程度とすることが好ましく、より好ましくは1〜8質量部、さらに好ましくは3〜8質量部である。
【0064】
本発明において使用されるハードコート層形成用組成物には、得られる所望物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、架橋剤、帯電防止剤、酸化防止剤、レベリング剤、チキソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、熱ラジカル発生剤、アルミキレート剤などが挙げられる。
【0065】
また、ハードコート層形成用組成物には、その効果を阻害しない範囲で、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂などのポリマーや、電離放射線硬化性官能基としてビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基およびエポキシ基から選ばれる少なくとも一種を有するモノマー、例えばウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、およびポリエーテル(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレートなどの反応性モノマーを配合することもできる。
【0066】
ハードコート層形成用組成物は、上記したプレポリマー、反応性無機粒子および多官能イソシアネート化合物を必須成分として含むが、プレポリマーの固形分と反応性無機粒子との合計に対するプレポリマーの固形分の含有量は、95質量%以下であることが好ましく、より好ましくは85質量%以下であり、70質量%以下であることが特に好ましい。また、プレポリマーの固形分の含有量の下限の範囲としては、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。プレポリマーの含有量を上記範囲内とすることにより、ハードコート層形成用組成物を用いてハードコート層形成層を形成する際、賦形層(あるいは(離型層)上にハードコート層形成用組成物を塗布して形成したハードコート層形成層は、必要に応じて熱乾燥するだけでタックフリーとなるため、電離放射線の照射や高温の焼付けなどによる半硬化処理を行うことなく、シートをロール状に巻き取ってもブロッキング(裏移り)することがない。また、半硬化処理の必要がなくなるため、成形した際に成形前後の加飾シートの面積比が130%以上となるような深絞りであっても、最大延伸部に塗膜割れや白化が生じることなく、良好に型の形状に追従できるハードコート形成層の形成が可能となる。さらに、成形転写後にハードコート形成層を電離放射線を用いて硬化することにより、優れた高硬度性が得られる。
【0067】
また、ハードコート層形成用組成物中の多官能イソシアネート化合物の固形分の含有量は、プレポリマーの固形分100質量部に対して、1〜30質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましく、3〜15質量部がさらに好ましい。多官能イソシアネート化合物の固形分の含有量を上記範囲内とすることにより、優れた高硬度性と成形性を維持したまま、成形時の耐熱性が得られる。
【0068】
ハードコート層形成層は、上記したハードコート層形成用組成物を賦形層(または離型層)上に塗布することにより形成される。塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができ、例えば、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、ダイコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などが挙げられる。
【0069】
ハードコート層形成層の厚さは、0.5〜30μmの範囲が好ましく、より好ましくは3〜15μmである。厚さを上記範囲内とすることにより、優れた高硬度性と耐スクラッチ性はもちろんのこと、耐薬品性や耐汚染性などの表面物性が得られると同時に、優れた成形性や形状追従性を得ることができる。また、材料費の点でも有利である。
【0070】
本発明においては、加飾シート1のハードコート層形成層14上に、アンカー層15を設けてもよい。アンカー層15は、ハードコート層形成層14と、後記する接着層17、または絵柄層16がある場合は絵柄層16との密着性を向上させるために、所望により設けられる層である。
【0071】
アンカー層15は、2液性硬化ウレタン樹脂、熱硬化ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、塩素含有ゴム系樹脂、塩素含有ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系共重合体樹脂などを使用し、例えば上記のように形成したハードコート層形成層14の上に、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などにより塗布して形成することができる。アンカー層15の厚さは、通常0.1〜5μm程度であり、好ましくは1〜5μm程度である。
【0072】
本発明による加飾シートに、所望により設けられる絵柄層16は、加飾成形品に所望の意匠性を付与するための層である。絵柄層16の絵柄は任意であるが、例えば、木目、石目、布目、砂目、幾何学模様、文字などからなる絵柄を挙げることができる。また、絵柄層16は、上記絵柄を表現する柄パターン層および全面ベタ層を単独でまたは組み合わせて設けることができ、全面ベタ層は、通常、隠蔽層、着色層、着色隠蔽層などとして用いられる。
【0073】
絵柄層16は、通常は、上記のように形成したハードコート層形成層14の上、あるいはアンカー層15の上に、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、セルロース系樹脂などの樹脂をバインダーとし、適当な色の顔料または染料を着色剤として含有する印刷インキによる印刷を行うことで形成する。印刷方法としては、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写印刷、昇華転写印刷、インクジェット印刷などの公知の印刷法が挙げられる。絵柄層16の厚みは、意匠性の観点から5〜40μmが好ましく、5〜30μmがより好ましい。
【0074】
本発明による加飾シートに、所望により設けられる接着層17は、転写層18を接着性よく樹脂成形体に転写するために形成される層である。この接着層17には、樹脂成形体の素材に適した感熱性または感圧性の樹脂を適宜使用する。例えば、樹脂成形体の材質がアクリル系樹脂の場合は、アクリル系樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂成形体の材質がポリフェニレンオキサイド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用することが好ましい。さらに、樹脂成形体の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂を使用することが好ましい。
【0075】
接着層17の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。なお、絵柄層16が樹脂成形体に対して充分な接着性を有する場合には、接着層17を設けなくてもよい。接着層17の厚さは、通常0.1〜5μm程度が好ましい。
【0076】
また、本発明の加飾シートは、基材シート11の賦形層12を設けた面とは反対側の面に帯電防止層20が設けられていてもよい。帯電防止層20は、加飾シートへの異物の付着を防止するために好ましく設けられる層であり、基材フィルム11の賦形層を設ける面とは反対側の面に設けられる。
【0077】
帯電防止層に用いられる帯電防止剤としては、カルボン酸系、スルホン酸系、リン酸系などのアニオン性界面活性剤;第4級アンモニウム系などのカチオン系界面活性剤;アルキルベタイン系、アルキルイミダゾリン系、アルキルアラニン系などの両性界面活性剤;アルキレンオキサイド重合体、アルキレンオキサイド共重合体、脂肪族アルコール−アルキレンオキサイド付加物などのノニオン系界面活性剤;カーボンや、金、白金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、モリブデンなどの各種金属粉末などの無機導電性物質;ポリアセチレン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、あるいはアミノカルボン酸、ジカルボン酸およびポリエチレングリコールからなるポリエーテルエステルアミド樹脂などの導電性高分子などが好ましく挙げられる。
【0078】
帯電防止層は、上記した帯電防止剤と有機溶剤などからなる塗料を、グラビアコート法、ロールコート法などのコート法や、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法により、基材フィルム上に塗布することにより形成される。帯電防止層の厚さは、通常0.1〜5μmであることが好ましい。帯電防止層の厚さを上記範囲内とすることにより、優れた帯電防止性能が効率よく得られる。
【0079】
本発明の加飾シートは、ハードコート層形成層が必要に応じて熱乾燥するだけタックフリーとなるため、耐ブロッキング性に優れ、同時に耐熱性も付与できるので製造効率に優れるものである。また、タックフリーとするために電離放射線の照射や高温の焼付けなどによる半硬化処理を行う必要がないため、優れた成形性や形状追従性を有するものとなる。さらに、成形転写後にハードコート層形成層を電離放射線を用いて硬化することにより、優れた高硬度性および耐スクラッチ性が得られる。これらのことから、家庭用電化製品、自動車内装品などの分野や、パソコンの分野、とりわけパソコンの筐体など、幅広い分野において使用することができる。
【0080】
<成形品の製造方法>
図2は、本発明による表面に凹凸模様を有する加飾成形品の好ましい一態様についての断面を示す模式図である。図2に示される表面に凹凸模様22Aを有する加飾成形品2は、樹脂成形体21の表面に、接着層17、絵柄層16、アンカー層15およびハードコート層形成層14が硬化してなるハードコート層22が順に積層したものである。このような加飾成形品の製造方法について、以下、説明する。
【0081】
本発明による成形品の製造方法は、(1)射出成形金型の内側に上記した加飾シートを配置する工程、(2)前記金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、前記加飾シートが表面に積層されて一体化した樹脂成形体を形成する工程、(3)前記樹脂成形体を金型から取り出す工程、(4)前記樹脂成形体から前記加飾シートの基材フィルムを剥離する工程、(5)前記樹脂成形体に電離放射線を照射して、前記加飾シートのハードコート層形成層を硬化させて、表面に凹凸模様を有するハードコート層を備えた成形品を形成する工程、を含む。以下、各工程について説明する。
【0082】
<工程(1)>
工程(1)は、本発明の加飾シートを成形金型内に配し、挟み込む工程である。具体的には、加飾シートを、可動型と固定型とからなる成形用金型内に転写層18を内側にして、つまり、基材フィルム11が固定型側となるように加飾シートを送り込む。この際、枚葉の加飾シートを1枚ずつ送り込んでもよいし、長尺の加飾シートの必要部分を間欠的に送り込んでもよい。
【0083】
加飾シートを成形金型内に配する際、(i)単に金型を加熱し、金型に真空吸引して密着するように配する、あるいは(ii)転写層18側から熱盤を用いて加熱し軟化させて、加飾シートが金型内の形状に沿うように予備成形して、金型内面に密着させる型締を行って、配することができる。(ii)の時の加熱温度は、基材フィルム11のガラス転移温度近傍以上で、かつ、溶融温度(または融点)未満の範囲であることが好ましく、通常はガラス転移温度近傍の温度で行う。なお、上記のガラス転移温度近傍とは、ガラス転移温度±5℃程度の範囲であり、一般に70〜130℃程度である。また、(ii)の場合には、加飾シートを成形金型表面により密着させる目的で、加飾シートを熱盤で加熱し軟化させる際に、真空吸引することもできる。
【0084】
<工程(2)>
工程(2)は、キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形体と加飾シートとを積層一体化させる射出工程である。射出樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、加熱溶融によって流動状態にして、また、射出樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、未硬化の液状組成物を適宜加熱して流動状態で射出して、冷却して固化させる。これによって、加飾シートが、形成された樹脂成形体と一体化して貼り付き、加飾成形品となる。射出樹脂の加熱温度は、射出樹脂によるが、一般に180〜280℃程度である。
【0085】
加飾成形品に用いられる射出樹脂としては、射出成形可能な熱可塑性樹脂あるいは、熱硬化性樹脂(2液硬化性樹脂を含む)であればよく、様々な樹脂を用いることができる。このような熱可塑性樹脂材料としては、例えばポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂(耐熱ABS樹脂を含む)、AS樹脂、AN樹脂、ポリフェニレンオキサイド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂などが挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、2液反応硬化型のポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独でもよいし、二種以上混合して用いてもよい。
【0086】
<工程(3)および工程(4)>
工程(3)は、加飾シートと樹脂成形体とが一体化した成形体を金型から取り出す工程であり、工程(4)は、その一体化した成形体から、加飾シート1のハードコート層形成層14と賦型層12(離型層が設けられている場合は、離型層13)との間で剥離するように、加飾シートの基材フィルム側(即ち、基材フィルム11および賦形層12(ならびに離型層13)を剥離する工程である。加飾シート1が離型層13を備えている場合、離型層13とハードコート層形成層14との境界面で、基材フィルム11、賦形層12、離型層13および必要に応じて設けられる帯電防止層20を含む剥離層19を、加飾成形品2から容易に剥離することができる。剥離工程より成形品の表面に露出したハードコート層形成層14の表面は、離型層13の凹凸模様13Aがトレースされた凹凸模様14Aを有する。このようにして、樹脂成形体21の表面に、接着層17、絵柄層16、アンカー層15およびハードコート層形成層14(凹凸模様14Aを含む)が順に積層した成形品が得られる。
【0087】
<工程(5)>
工程(5)は、工程(4)において剥離層19が剥離されて、成形品の最表面に位置するハードコート層形成層14を電離放射線を用いて硬化させて、ハードコート層を形成する工程である。この工程により、ハードコート層形成層14の表面の凹凸模様14Aも硬化し、成形品の表面に所望の加飾を行うことができる。即ち、ハードコート層は、成形品の表面を保護して、成形品の高硬度性および耐スクラッチ性を向上させるとともに、ハードコート層の表面に凹凸模様が形成されているため、成形品を所望の表面形状となるように加飾する機能を有する。そして、成形品の表面に形成された凹凸模様は、上記したようなハードコート層形成層用の特定の樹脂組成物が硬化したものであるため高硬度性および耐スクラッチ性が高く、凹凸模様の摩擦等による摩滅を低減できる。工程(5)の硬化は、酸素濃度2%以下の雰囲気下で電離放射線を照射して行うことができる。このように硬化を行うことで、さらに優れた高硬度性および耐スクラッチ性を得ることができる。
【0088】
酸素濃度2%以下の雰囲気は、例えば窒素、アルゴン、水素など、好ましくは窒素を用いる、あるいは酸素濃度が2%以下程度となるように空気吸引を行うなどの方法により得ることができる。
【0089】
ハードコート層形成層14の硬化は、電子線および紫外線などの電離放射線を照射して行うことができる。電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いるプレポリマーやモノマーの種類、あるいはハードコート層形成層14の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度が好ましい。照射線量は、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。また、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを放射し、その照射線量は500〜1500mJ程度である。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈などが用いられる。
【0090】
このようにして得られた加飾成形品2は、表面に所望の凹凸模様22Aを有するとともに、優れた高硬度性を有し、耐薬品性や耐汚染性などの表面物性にも優れるものである。また、より形状が複雑な成形品に対応しうる成形性が得られる本発明の加飾シートを使用することで、仕上がりにも優れた加飾成形品が得られる。本発明の加飾成形品は、これらの優れた特性を活かして、家庭用電化製品、自動車内装品などの分野や、パソコンの分野、とりわけパソコンの筐体など、幅広い分野において好適に使用することができる。
【実施例】
【0091】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。
【0092】
実施例1
<プレポリマーの調製>
冷却器、滴下ロートおよび温度計付きの2L四つ口フラスコに、メチルイソブチルケトン(MIBK)120g、メチルエチルケトン(MEK)210gを仕込み、四つ口フラスコに、グリシジルメタクリレート(GMA)80g、メチルメタクリレート(MMA)20gおよびアゾ系の開始剤(アゾビスイソブチロニトリル,AIBN−1)0.75gからなる混合液を滴下ロートで2時間かけて滴下させながら、100〜110℃の温度下で4時間反応させた後、アゾ系の開始剤(アゾビスイソブチロニトリル,AIBN−2)0.6gをさらに加えて、3時間保温後、室温まで冷却した。これに、アクリル酸(AA)40.6g、トリフェニルホスフィン2g、およびメトキノン0.5gからなる混合液を加えて、付加反応を行った。水酸化カリウム溶液の中和滴定で、反応性生物の酸価の消失を確認し、反応を終了させた。
【0093】
得られたプレポリマー1の重量平均分子量は80000であり、二重結合当量は250g/mol(計算値)であり、固形分は30%であった。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された値であり、標準サンプルにポリスチレンを用いた条件で測定された値である。
【0094】
<ハードコート層形成用組成物の調製>
上記で得られたプレポリマー1を20.0質量部(固形分6質量部)と、反応性異形シリカ粒子(「ELCOM V−8803(品番)」,日揮触媒化成株式会社製,反応性異形シリカ粒子,平均連結数:規則的に2〜10個,異形無機粒子の平均粒子径;25nm)10質量部(固形分4質量部)と、反応性多官能イソシアネート(「Laromer LR9000(品番)」,BASF社製)1質量部(固形分1質量部)と、光重合開始剤(「IRGACURE 184(品番)」,チバ・ジャパン株式会社製,1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)0.4質量部と、溶媒(メチルエチルケトンとメチルイソブチルケトンの混合溶剤、配合比70:30)6.7質量部とを混合して、ハードコート層形成用組成物を得た。
【0095】
<加飾シートの作製>
基材フィルム(「F99(品番)」、厚さ50μm,東レ株式会社製)上に、紫外線硬化性樹脂(UNIDIC、DIC株式会社製)を主成分とする塗工液を、塗布量10g/mでグラビア印刷して賦形層形成用塗布膜を形成した。この塗布膜上に、メラミン樹脂(メラン265、日立化成工業株式会社製)を主成分とする塗工液を、塗布量1g/mでグラビア印刷して離型層形成用塗布膜を形成した。次いで、エンボス板を用いて、賦形層/離型層形成用塗布膜の表面に微細エンボス加工を施し、続いて大気雰囲気下において、出力可変型UVランプ(「DRS−10/12QN(型番)」、フュージョンUVシステム・ジャパン株式会社製)を用いて、エンボス加工が施された塗布膜表面に、照射線量300mJで紫外線を照射することにより、凹凸模様を有する賦形層および離型層を形成した。
【0096】
次いで、下記組成のハードコート層形成用組成物を、離型層の凹凸模様に追従するように、離型層上に塗布量10g/mでグラビア印刷してハードコート層形成層を形成した。続いて、ハードコート層形成層上に、アクリル系樹脂を主成分とする塗料を塗布量4g/mでグラビア印刷してアンカー層を形成し、そのアンカー層上に、アクリル系塗工液を、塗布量2g/mでグラビア印刷して接着層を形成した。
【0097】
さらに、基材フィルムの賦形層を設けた面とは反対側の面に、カチオン系界面活性剤を主成分とする塗工液(カチオン系界面活性剤:第4級アンモニウム塩)を塗布量1g/mでグラビア印刷して帯電防止層を形成することにより、加飾シートを得た。
【0098】
<加飾成形品の作製>
上記で得られた加飾シートを、70℃に加熱した金型に吸引し、金型内面に密着させた。金型は、80mm角の大きさで、立ち上がり10mm、コーナー部が3Rのトレー状である深絞り度の高い形状のものを用いた。一方、射出樹脂としてABS樹脂(「クラスチックMTH−2(品番)」,日本エイアンドエル株式会社製)を用いて、これを230℃にて溶融状態にしてから、キャビティ内に射出した。冷却して金型から取り出した後、基材フィルムを剥離して、樹脂成形体の表面に接着層、印刷層、アンカー層およびハードコート層形成層を順に備えた成形品を得た。さらに、大気雰囲気下において、出力可変型UVランプシステム(「DRS−10/12QN(型番)」,フュージョンUVシステムズ・ジャパン株式会社製)を用い、照射線量:1000mJで、成形体に紫外線を照射して、ハードコート層形成層を硬化させてハードコート層とすることにより、表面に凹凸模様を有する加飾成形品を得た。
【0099】
実施例2
ハードコート層形成用組成物の調製において、反応性多官能イソシアネートに代えて多官能イソシアネート(「コロネートHX(品番)」,日本ポリウレタン工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして加飾シートを作製し、実施例1と同様にして加飾成形品を作製した。
【0100】
実施例3
ハードコート層形成用組成物の調製において、プレポリマーの固形分量を8質量部とし、反応性無機微粒子の固形分量を2質量部に変更した以外は実施例1と同様にして加飾シートを作製し、実施例1と同様にして加飾成形品を作製した。
【0101】
比較例1〜7
<プレポリマーの調製>
実施例1のプレポリマーの調製において、アゾ系の開始剤(アゾビスイソブチロニトリル,AIBN−1)の添加量を0.75gから1.0gに変更し、アゾ系の開始剤(アゾビスイソブチロニトリル,AIBN−2)の添加量を0.6gから1.0に変更した以外は、実施例1と同様にしてプレポリマー2を得た。得られたプレポリマー2の重量平均分子量は80000であり、二重結合当量は250g/mol(計算値)であり、固形分は30%であった。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された値であり、標準サンプルにポリスチレンを用いた条件で測定された値である。
【0102】
<ハードコート層形成用組成物の調製>
下記の表1に示される組成に従い各成分を混合してハードコート層形成用組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして加飾シートを作製し、実施例1と同様にして加飾成形品を作製した。表中の「無機粒子」とは、未反応性コロイダルシリカ粒子(「MEK−ST−L(品番)」,日産化学工業株式会社製,平均粒子径d50:40nm)であり、溶媒の配合量は、溶媒を加えた量と、プレポリマーと(反応性)無機粒子中に含まれる溶媒との合計量であり、「プレポリマー含有量」とは、プレポリマー固形分と(反応性)無機粒子との合計に対するプレポリマー固形分の含有量(質量%)であり、「固形分含有量」とは、プレポリマー、(反応性)無機粒子、(反応性)多官能イソシアネート、光重合開始剤および溶剤の合計に対するプレポリマー固形分、(反応性)無機粒子、(反応性)多官能イソシアネートおよび光重合開始剤の合計の含有量(質量%)である。なお、実施例1〜3で使用したハードコート層形成用組成物の組成も表1に併せて記載した。
【0103】
【表1】

【0104】
<耐ブロッキング性(シート巻取り適性)の評価>
実施例1〜3および比較例1〜7の加飾シートを作製する際、ハードコート層形成層を形成した後、100℃のオーブン内で60秒間乾燥したものを試験サンプルとした。この試験サンプルのハードコート層形成層上に、PETフィルム(「F99(品番)」、厚さ50μm,東レ株式会社製)を重ね合わせ、インキブロッキングテスター(「DG−BT(型番)」、大和グラビア株式会社製)を用いて、1kg/cmの荷重を加えながら、40℃のオーブン内で12時間放置した。その後、試験サンプルをオーブンから取り出し、重ね合わせたPETフィルムを試験サンプルから剥離した。剥離したPETフィルムに、ハードコート層形成層の一部が移行(裏移り)したかどうかを、下記の評価基準により評価した。
○:裏移りは全くなかった
△:裏移りは若干あるものの、実用上の問題はなかった
×:裏移りが著しかった
評価結果は下記の表2に示される通りであった。
【0105】
<耐摩耗性評価>
得られた加飾成形品の表面の耐摩耗性について、摩耗輪CS−10F、荷重500gf×2のおもりを装着したテーバー摩耗試験機で500回転後および1000回転後の、凹凸模様の摩耗度合いを目視により評価した。評価基準は以下の通りとした。
◎:凹凸模様がはっきりと確認できる
○:僅かな白化が見られるものの、凹凸模様が確認できる
△:白化が目立つが、僅かに凹凸模様が確認できる
×:凹凸模様が確認できないか、あるいは下地(成形樹脂)の露出がある
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0106】
<外観評価>
得られた加飾成形品の外観(成形性)を下記の基準で評価した。
◎:ハードコート層(およびその形成層)に塗装割れや白化が全く確認できず、良好に金型の形状に追従した
○:ハードコート層(およびその形成層)に僅かな塗装割れや軽微な白化が確認された
△:ハードコート層(およびその形成層)に若干の塗装割れや軽微な白化が確認されたが、実用上問題ない
×:ハードコート層(およびその形成層)に著しい塗装割れや白化が確認された
【0107】
また、加飾成形品のゲート部(樹脂射出部)周囲の外観(耐熱性)を下記の基準で評価した。
◎:ハードコート層(およびその形成層)に流動による変形や白化が全く確認されなかった
○:ハードコート層(およびその形成層)に僅かな流動による変形や軽微な白化が確認された
△:ハードコート層(およびその形成層)に若干の流動による変形や軽微な白化が確認されたが、実用上問題ない
×:ハードコート層(およびその形成層)に著しい流動による変形や白化が確認された
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0108】
【表2】

【符号の説明】
【0109】
1 加飾シート
2 加飾成形品
11 基材フィルム
12 賦形層
13 離型層
14 ハードコート層形成層
15 アンカー層
16 絵柄層
17 接着層
18 転写層
19 剥離層
20 帯電防止層
21 樹脂成形体
22 ハードコート層
12A,13A,14A 凹凸模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの片面に、少なくとも賦形層とハードコート層形成層とを順に備えた加飾シートであって、
前記賦形層が、その表面に凹凸模様を有しており、
前記ハードコート層形成層が、前記賦形層の凹凸模様に追従するように、前記賦形層上にハードコート層形成用組成物を塗布して形成されており、
前記ハードコート層形成用組成物が、ビニル基、(メタ)アクリロイル基およびアリル基から選ばれる少なくとも一種を有する、重量平均分子量が50000以上である多官能性ラジカル重合型プレポリマーからなる電離放射線硬化性官能基Aと、表面に電離放射線硬化性官能基Bを有する反応性無機粒子と、多官能イソシアネート化合物と、を含んでなる、
ことを特徴とする、加飾シート。
【請求項2】
前記反応性無機粒子が、反応性シリカ粒子および/または反応性異形シリカ粒子である、請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
前記多官能性ラジカル重合型プレポリマーが、アクリル(メタ)アクリレート系プレポリマーである、請求項1または2に記載の加飾シート。
【請求項4】
前記多官能イソシアネート化合物が、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基およびエポキシ基から選ばれる少なくとも一種を有する電離放射線硬化性官能基Cを有する、請求項1〜3のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項5】
前記賦形層が、電離放射線硬化性樹脂からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の加飾シート。
【請求項6】
前記賦形層と前記ハードコート層形成層との間に、離型層がさらに設けられてなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の加飾シート。
【請求項7】
前記基材フィルムの、賦形層を設けた面とは反対側の面に、帯電防止層が設けられてなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の加飾シート。
【請求項8】
請求項1に記載の加飾シートを用いた成形品の製造方法であって、
射出成形金型の内側に前記加飾シートを配置し、
前記金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、前記加飾シートが表面に積層されて一体化した樹脂成形体を形成し、
前記樹脂成形体を金型から取り出し、
前記ハードコート層形成層と前記賦型層との間で剥離するように、前記加飾シートが一体化した樹脂成形体から、前記加飾シートの基材フィルム側を剥離し、
前記樹脂成形体に電離放射線を照射して、前記加飾シートのハードコート層形成層を硬化させて、表面に凹凸模様を有するハードコート層を備えた成形品を形成する、
ことを含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法により得られる、表面に凹凸模様を有する加飾成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−106398(P2012−106398A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256587(P2010−256587)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】