説明

加飾シート、加飾樹脂成形品の製造方法及び加飾樹脂成形品

【課題】加飾樹脂成型品の最表面の層として転写される保護層が、電離放射線硬化性樹脂を含有し、かつ該保護層が架橋硬化されていても、加飾樹脂成型品に良好に転写され得る、射出成形同時転写加飾法に用いられる転写シートを提供すること。
【解決手段】基材11上に、離型層12、保護層13、絵柄層15及び接着剤層16をこの順に積層してなる射出成形同時転写用の加飾シート10であって、保護層13が熱可塑性樹脂と電離放射線硬化性樹脂を50:50〜95:5の比率(質量比)で含む樹脂組成物からなり、少なくとも基材11上に、離型層12、保護層13、及び絵柄層15を積層した後に、電離放射線を照射して、保護層13を架橋硬化することを特徴とする加飾シート10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形同時転写加飾法に用いられる加飾シート、該加飾シートを用いた加飾樹脂成形品の製造方法及び加飾樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、三次元曲面などの複雑な表面形状を有する樹脂成形体の加飾には、射出成形同時加飾方法が用いられる。射出成形同時加飾方法とは、射出成形の際に金型内に挿入された加飾シートをキャビティ内に射出注入された溶融した射出樹脂と一体化させて、樹脂成形体表面に加飾を施す方法であって、樹脂成形体と一体化される加飾シートの構成の違いによって、一般に射出成形同時ラミネート加飾法と射出成形同時転写加飾法に大別される。
射出成形同時転写加飾法においては、射出成形同時転写加飾用の加飾シートの転写層側を金型内に向けて転写層側から熱盤によって加熱し、該加飾シートが金型内形状に沿うように成形して金型内面に密着させて型締した後、キャビティ内に溶融した射出樹脂を射出して該加飾シートと射出樹脂とを一体化し、次いで加飾成形品を冷却して金型から取り出し、基材フィルムを剥離することにより、転写層を転写した加飾成形品を得る。
【0003】
射出成形同時転写加飾法に用いられる転写シートとしては、例えば、離型性シートの離型性面に、未硬化状態において常温で固体であり、且つ、熱可塑性樹脂である紫外線硬化性または電子線硬化性の樹脂の未硬化樹脂を有することを特徴とする転写シートが提案されている(特許文献1参照)。該転写シートは、未硬化樹脂が熱可塑性、溶剤溶解性を有していながら、塗装及び乾燥によって見かけ上、あるいは手で触ったときに非流動性であり、かつ非粘着性であるため、該未硬化樹脂層の上に模様層を形成することができる。しかしながら、シートの状態で硬化させると、十分な成形性が得られなくなるため、射出同時成型法によって、被転写体に転写した後、紫外線もしくは電子線を照射して、硬化がなされる。ところが、この方法であると、射出同時成形の際に、未硬化樹脂層が流動するために、成形体にシートが良好に転写されない場合があり、特に、深絞りの成形品においては、均一に硬化させるのが非常に困難であるという問題があった。
【0004】
また、成形性の良好な基材フィルムの上に、未硬化状態では熱可塑性の固体である電離放射線硬化性樹脂からなる保護層を設けた転写シートを、射出成形金型内に配置して、転写シートを真空成形又は真空・圧空成形をした後に、電離放射線を照射して樹脂を硬化させて保護層を形成し、更に金型内を閉じて溶融樹脂を射出して射出成形を行い、金型内で硬度の高い保護層を形成させることを特徴とする成形品の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
この方法においても、真空成形又は真空・圧空成形をした後に、電離放射線を照射して樹脂を硬化させて保護層を形成しているため、特許文献1に開示される加飾シートと同様の問題点がある。すなわち、シートの状態で硬化させると、十分な成形性が得られなくなるため、真空成形又は真空・圧空成形の後に、紫外線もしくは電子線を照射して、硬化がなされるが、真空成形又は真空・圧空成形の際に、未硬化樹脂層が流動するために、成形体への転写が良好になされない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−132095号公報
【特許文献2】特開平6−155518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、加飾樹脂成型品に意匠性を付与するための転写タイプの加飾シートであって、加飾樹脂成型品の最表面の層として転写される保護層が、電離放射線硬化性樹脂を含有し、かつ該保護層が架橋硬化されていても、加飾樹脂成型品に良好に転写され得る、射出成形同時転写加飾法に用いられる転写シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、保護層として特定の樹脂組成物を用いることで、前記課題を解決できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)基材上に、離型層、保護層、絵柄層及び接着剤層をこの順に積層してなる射出成形同時転写用の加飾シートであって、保護層が熱可塑性樹脂と電離放射線硬化性樹脂を50:50〜95:5の比率(質量比)で含む樹脂組成物からなり、少なくとも基材上に、離型層、保護層、及び絵柄層を積層した後に、電離放射線を照射して、保護層を架橋硬化することを特徴とする加飾シート、
(2)上記(1)に記載の加飾シートを、所定形状の成形面を有する可動金型の該成形面に対し、前記加飾シートの基材が対面するように設置した後、該加飾シートを加熱、軟化させると共に、前記可動金型側から真空吸引して、軟化した加飾シートを該可動金型の成形面に沿って密着させることにより、加飾シートを予備成形する工程、成形面に沿って密着された加飾シートを有する可動金型と固定金型とを型締めした後、両金型で形成されるキャビティ内に、流動状態の樹脂成形材料を射出、充填して固化させることにより、形成された樹脂成形体と加飾シートを積層一体化させる射出成形工程、及び、可動金型を固定金型から離間させて、加飾シート全層が積層されてなる樹脂成形体を取り出す工程を順次施す加飾樹脂成形品の製造方法、及び
(3)上記(1)に記載の加飾シートを使用した加飾樹脂成形品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保護層が架橋硬化されていても、加飾樹脂成型品に良好に転写され得る、射出成形同時転写加飾法に用いられる加飾シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の加飾シートの断面を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の加飾シートの好ましい一例の断面を示す模式図である。
図1に示される本発明の加飾シート10は、基材11上に、離型層12、保護層13、必要に応じて設けられるプライマー層14、絵柄層15、接着剤層16を順に積層させてなり、加飾樹脂成型品に意匠性を付与し得る加飾シートである。
【0011】
[基材]
本発明にかかる基材11は、真空成形適性を考慮して選定され、代表的には熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムが使用される。該熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂;アクリル樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂;ポリカーボネート樹脂;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂);塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
本発明に用いられる樹脂フィルムの厚さは、通常10〜150μmであり、10〜125μmが好ましく、10〜75μmがより好ましい。
また、基材11は、これら樹脂の単層フィルム、あるいは同種又は異種樹脂による複層フィルムとして使用することができる。
【0012】
本発明においては、基材11として、ポリエステルフィルムを用いることが、耐熱性、寸法安定性、成形性、及び汎用性の点で好ましい。
ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂とは、多価カルボン酸と、多価アルコールとから重縮合によって得られるエステル基を含むポリマーをいう。多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、アゼライン酸、ドデカジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、デカンジオール、2−エチル−ブチル−1−プロパンジオール、ビスフェノールAなどが挙げられる。さらに本発明で用いるポリエステル樹脂は、3種類以上の多価カルボン酸や多価アルコールの共重合体であってもよく、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのモノマーやポリマーとの共重合体であってもよい。
【0013】
ポリエステルフィルムに用いられるポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などを好ましく挙げることができ、ポリエチレンテレフタレート(PET)が、耐熱性や寸法安定性の点で特に好ましい。
なお、該ポリエステル樹脂はホモポリマーでもよく、コポリマーでもよく、また第三成分を共重合させたものであってもよい。例えば、一般に耐熱性や寸法安定性に優れるポリエチレンテレフタレートを主成分(通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上)としたポリエステル樹脂と、一般に成形性に優れるポリブチレンテレフタレートを主成分(通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上)とするポリエステル樹脂とを配合することができる。該配合比としては、得られるフィルムの動的弾性率により適宜選択すればよく、通常70/30〜95/5であり、75/25〜85/15の範囲が好ましい。このように配合したポリエステルフィルムは、耐熱性、寸法安定性、及び成形性に優れるため、本発明の基材シートとして好適に用いることができる。
【0014】
また、ポリエステルフィルムには、作業性を向上させる目的で、微粒子を含有させることが好ましい。微粒子としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、カオリンなどの無機粒子、アクリル系樹脂などからなる有機粒子、内部析出粒子などを挙げることができる。微粒子の平均粒径は0.01〜5.0μmが好ましく、0.05〜3.0μmがより好ましい。また、ポリエステル系樹脂中の微粒子の含有量は0.01〜5.0質量%が好ましく、0.1〜1.0質量%がより好ましい。また、必要に応じて各種安定剤、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、消泡剤、蛍光増白剤などを配合することもできる。
【0015】
本発明に用いられるポリエステルフィルムは、例えば以下のように製造される。まず上記のポリエステル系樹脂とその他の原料をエクストルーダーなどの周知の溶融押出装置に供給し、当該ポリエステル系樹脂の融点以上の温度に加熱し溶融する。次いで溶融ポリマーを押出しながら、回転冷却ドラム状でガラス転移温度以下の温度になるよう急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。このシートを2軸方向に延伸してフィルム化し、熱固定を施すことで得られる。この場合、延伸方法は逐次2軸延伸でも同時2軸延伸でもよい。また、必要に応じ、熱固定を施す前又は後に再度縦及び/又は横方向に延伸してもよい。本発明においては十分な寸法安定性を得るため延伸倍率を面積倍率として7倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましく、3倍以下がさらに好ましい。この範囲内であれば、得られるポリエステルフィルムを加飾シートに用いた場合、該加飾シートが射出樹脂を射出する際の温度域で再び収縮せず、当該温度域で必要なフィルム強度を得ることができる。なお、ポリエステルフィルムは、上記のように製造してもよいし、市販のものを用いてもよい。
【0016】
また、ポリエステルフィルムは、後述する離型層との密着性を向上させる目的で、所望により、片面又は両面に酸化法や凹凸化法などの物理的または化学的表面処理を施すことができる。
上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理法などが挙げられ、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理は、基材の種類に応じて適宜選択されるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から好ましく用いられる。
また、基材は、基材と各層との層間密着性の強化などを目的として、易接着層を形成するなどの処理を施してもよい。なお、ポリエステルフィルムとして市販のものを用いる場合には、該市販品は予め上記したような表面処理が施されたものや、易接着剤層が設けられたものも用いることができる。
【0017】
[離型層]
離型層12は、保護層13、所望により積層されるプライマー層14、絵柄層15、及び接着剤層16からなる転写層の、基材シート11からの剥離を容易に行うために設けられるものである。離型層12は、図1に示すように、全面を被覆(全面ベタ状)しているベタ離型層であってもよいし、一部に設けられるものであってもよい。通常は、剥離性を考慮して、ベタ離型層が好ましい。
【0018】
離型層は、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂、硝化綿などの熱可塑性樹脂、該熱可塑性樹脂を形成するモノマーの共重合体、あるいはこれらの樹脂を(メタ)アクリル酸やウレタンで変性したものを、単独で又は複数を混合した樹脂組成物を用いて形成することができる。なかでも、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、これらの樹脂を形成するモノマーの共重合体、及びこれらをウレタン変性したものが好ましく、より具体的には、ポリエステル系樹脂とエチレン及びアクリル酸の共重合体をウレタン変性したものとを混合した樹脂組成物、アクリル系樹脂とスチレン及びアクリルとの共重合体のエマルションとを混合した樹脂組成物などが挙げられ、これらのなかから任意に選んだ異なる樹脂組成物で、離型層12を形成することが好ましい。
【0019】
[保護層]
保護層13は、熱可塑性樹脂と電離放射線硬化性樹脂を50:50〜95:5の比率(質量比)で含む樹脂組成物からなる。熱可塑性樹脂を配合することで、保護層のタック性(粘着性)を低下させ、該保護層を硬化させなくても、その上にプライマー層や絵柄層を印刷可能とするものである。一方、保護層13は架橋硬化されていないために、プライマー層14、絵柄層15、及び接着剤層16との接着性を確保できる。そして、基材に全層を積層した後に、電離放射線を照射し、電離放射線硬化性樹脂を架橋硬化させることで、各層間の密着が高く、かつ、優れた耐汚染性、耐擦傷性などの表面特性を有する保護層を形成することができる。
しかも、該保護層は熱可塑性樹脂を配合することで、硬化後に成形しても、成形性が良好でクラック等が入らない。
【0020】
本発明で用いる熱可塑性樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール(ブチラール樹脂)、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン,α−メチルスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン等のアセタール樹脂、エチレン−4フッ化エチレン共重合体等のフッ素樹脂、ポリイミド、ポリ乳酸、ポリビニルアセタール樹脂、液晶性ポリエステル樹脂などが挙げられ、これらは1種単独でも又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上組み合わせる場合は、これらの樹脂を構成するモノマーの共重合体でもよいし、それぞれの樹脂を混合して用いてもよい。
【0021】
上記熱可塑性樹脂のうち、本発明では(メタ)アクリル系樹脂を主成分とするものが好ましく、なかでもモノマー成分として少なくとも(メタ)アクリル酸エステルを含有する単量体を重合してなるものが好ましい。
より具体的には、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の異なる(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体、又は(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマーとの共重合体が好ましい。
【0022】
ここで、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ノルマルブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸セカンダリーブチル、メタクリル酸ターシャリーブチル、メタクリル酸イソボニル、2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート、2−エチル−2−アダマンチルメタクリレートなどが挙げられ、これらのうちメタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0023】
次に、2種以上の異なる(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体としては、上記例示されたものから選ばれる2種以上の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体が例示され、該共重合体においてもメタクリル酸メチルを主成分とするものが好ましい。すなわち、メタクリル酸メチルと他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体が好ましく、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体、メタクリル酸メチルとメタクリル酸エチルの共重合体などが例示される。これらのうち、効果の点から特にメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体が最も好ましい。なお、これらの共重合体はランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
また、メタクリル酸メチルと他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体においては、メタクリル酸メチルに由来する構成単位100モルに対して、他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位が0.1〜200モルの範囲であることが好ましい。メタクリル酸メチルに由来する構成単位100モルに対して、他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位が上記範囲内であると、耐摩耗性、耐擦傷性、耐溶剤性が向上する。
【0024】
次に、(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマーとの共重合体について、他のモノマーとは(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なものであれば特に限定されないが、本発明では、(メタ)アクリル酸、スチレン、(無水)マレイン酸、フマル酸、ジビニルベンゼン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニルアルコール、アクリロニトリル、アクリルアミド、ブタジエン、イソプレン、イソブテン、1−ブテン、2−ブテン、N−ビニル−2−ピロリドン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン,ノルボルネン類等の脂環式オレフィンモノマー、ビニルカプロラクタム、シトラコン酸無水物、N−フェニルマレイミド等のマレイミド類、ビニルエーテル類などが挙げられ、特にスチレン及び(無水)マレイン酸が共重合成分として好適である。すなわち、(メタ)アクリル酸エステルとスチレン又は(無水)マレイン酸の二元共重合体、(メタ)アクリル酸エステルとスチレン及び(無水)マレイン酸の三元共重合体が好適である。
なお、(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマーとの共重合体はランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0025】
また、前記(メタ)アクリル酸エステルと、スチレン及び/又は(無水)マレイン酸との共重合体においては、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位100モルに対して、スチレン及び/又は(無水)マレイン酸に由来する構成単位が0.1〜200モルの範囲であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位100モルに対して、スチレン及び/又は(無水)マレイン酸に由来する構成単位が上記範囲内であると、やはり耐摩耗性、耐擦傷性、耐溶剤性が向上する。
【0026】
上記保護層を構成する熱可塑性樹脂は、特に重量平均分子量が9万〜30万の範囲であることが好ましい。重量平均分子量がこの範囲であると、架橋硬化して表面保護層を形成した後の成形性及び表面の耐摩耗性、耐擦傷性のいずれも高いレベルで得ることができるとともに、硬化前であっても、保護層の粘着性が低下するため、保護層の上に絵柄層の印刷や、プライマー層の塗布が可能となる。以上の点から、該(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量は、さらに9万〜14万の範囲であることが好ましい。
なお、ここで重量平均分子量とは、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算のものである。ここで用いる溶媒としては通常用いられるものを適宜選択して行うことができ、例えば、テトラヒドロフラン(THF)又はN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)などが挙げられる。
【0027】
また、該熱可塑性樹脂の多分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、1.1〜3.0の範囲であることが好ましい。多分散度がこの範囲内であると、やはり架橋硬化して表面保護層を形成した後の成形性及び表面の耐摩耗性、耐擦傷性のいずれも高いレベルで得ることができる。以上の点から、該(メタ)アクリル系樹脂の多分散度は、さらに1.5〜2.5の範囲であることが好ましい。
さらに、該熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、50〜105℃であることが好ましい。Tgがこの範囲であると、硬化前であっても、保護層の粘着性が低下するため、保護層の上に絵柄層の印刷や、プライマー層の塗布が可能となる。以上の点から、該(メタ)アクリル系樹脂のTgは、90〜105℃であることがさらに好ましい。
【0028】
次に、上記保護層を構成する電離放射線硬化性樹脂とは、電磁波または荷電粒子線の中で分子を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線または電子線などを照射することにより、架橋、硬化する樹脂を指す。具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー及び重合性オリゴマーないしはプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。
【0029】
代表的には、重合性モノマーとして、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好適であり、中でも多官能性(メタ)アクリレートが好ましい。なお、ここで「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味し、他の類似するものも同様の意である。多官能性(メタ)アクリレートとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する(メタ)アクリレートであればよく、特に制限はない。具体的にはエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの多官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本発明においては、前記多官能性(メタ)アクリレートとともに、その粘度を低下させるなどの目的で、単官能性(メタ)アクリレートを、本発明の目的を損なわない範囲で適宜併用することができる。単官能性(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの単官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
次に、重合性オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマー、例えばエポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系などが挙げられる。ここで、エポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーも用いることができる。ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリエステル(メタ)アクリレート系オリゴマーとしては、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリエーテル(メタ)アクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0032】
さらに、重合性オリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、あるいはノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等の分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマーなどがある。
【0033】
電離放射線硬化性樹脂として紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、光重合用開始剤を樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加することが望ましい。光重合用開始剤としては、従来慣用されているものから適宜選択することができ、特に限定されず、例えば、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する重合性モノマーや重合性オリゴマーに対しては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタールなどが挙げられる。
また、分子中にカチオン重合性官能基を有する重合性オリゴマー等に対しては、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル等が挙げられる。
また、光増感剤としては、例えばp−ジメチル安息香酸エステル、第三級アミン類、チオール系増感剤などを用いることができる。
【0034】
本発明においては、電離放射線硬化性樹脂として電子線硬化性樹脂を用いることが好ましい。電子線硬化性樹脂は無溶剤化が可能であって、環境や健康の観点からより好ましく、かつ、光重合用開始剤を必要とせず、安定な硬化特性が得られるからである。
【0035】
本発明の加飾シートの保護層13を構成する樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と電離放射線硬化性樹脂の質量比が50:50〜95:5の範囲である。この範囲であると、架橋硬化して表面保護層を形成した後の成形性及び表面の耐摩耗性、耐擦傷性のバランスが良好となる。以上の点から、熱可塑性樹脂と電離放射線硬化性樹脂の質量比は、55:45〜90:10の範囲がさらに好ましく、65:35〜80:20の範囲が特に好ましい。
【0036】
また、保護層にはフィラーを含有することが好ましい。フィラーを含有させることで、タック性をさらに改善させることができ、印刷適性を付与し得る。
フィラーの種類としては、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、アルミノシリケート、硫酸バリウムなどの無機物、アクリルビーズ、ポリエチレン、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド(ナイロン)などの有機高分子などからなる粒子が用いられる。これらのうち、タック性低減効果を有し、取り扱いが容易で、かつ安価なシリカが好適である。
フィラーの平均粒径は好ましくは0.5〜20μm、より好ましくは0.5〜10μmであり、添加量は、保護層を形成する樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、0.5〜5質量部の範囲がさらに好ましい。なお、粒子の形状は、多面体、球形、鱗片状などである。
【0037】
[プライマー層]
本発明の加飾シートは、所望により、保護層13と後述する絵柄層15の間にプライマー層14が積層されていてもよい。プライマー層は、保護層13と絵柄層15の密着性を向上させる目的で形成される透明又は半透明な層であり、後に詳述する絵柄層14で用いられるバインダー樹脂などで形成される。プライマー層の厚さについては、通常、0.5〜20μm程度であり、好ましくは、1〜5μmの範囲である。
【0038】
[絵柄層]
本発明にかかる絵柄層15は、模様や文字などとパターン状の絵柄を表現するために設けられる層である。絵柄層15の絵柄は任意であるが、例えば、木目、石目、布目、砂目、幾何学模様、文字などからなる絵柄を挙げることができる。また、絵柄層15は、上記絵柄を表現する柄パターン層及び全面ベタ層を単独で又は組み合わせて設けることができる。全面ベタ層は、通常、隠蔽層、着色層、着色隠蔽層などとして用いられる。絵柄層15は、通常は、上記の保護層13又はプライマー層14に印刷インキでグラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写印刷、昇華転写印刷、インキジェット印刷などの公知の印刷法により形成することで、図1に示すように保護層13と接着剤層16との間に形成される。絵柄層15の厚みは、意匠性の観点から5〜40μmが好ましく、20〜30μmがより好ましい。
【0039】
絵柄層15の形成に用いられる印刷インキのバインダー樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂、セルロース系樹脂などを好ましく挙げることができるが、アクリル系樹脂単独又はアクリル系樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂との混合物を主成分とするのが好ましい。これらの中では、アクリル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂又は別のアクリル系樹脂を混合すると印刷適性、成形適性がより良好となり好ましい。ここで、アクリル系樹脂としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体などのアクリル系樹脂〔ただし、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートをいう〕、フッ素などによる変性アクリル樹脂が挙げられ、これらを1種又は2種以上の混合物として用いることができる。この他、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートなどの分子中に水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、を共重合させて得られるアクリルポリオールを用いることもできる。また、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂としては、通常、酢酸ビニル含有量が5〜20質量%程度、平均重合度350〜900程度のものが用いられる。必要に応じ、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂にさらにマレイン酸、フマル酸などのカルボン酸を共重合させてもよい。アクリル系樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂との混合比は、アクリル系樹脂/塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂=1/9〜9/1(質量比)程度である。この他、副成分の樹脂として、必要に応じて、適宜その他の樹脂、例えば、熱可塑性ポリエステル系樹脂、熱可塑性ウレタン系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどの塩素化ポリオレフィン系樹脂などの樹脂を混合してもよい。
【0040】
本発明にかかる絵柄層15に用いられる着色剤としては、アルミニウム、クロム、ニッケル、錫、チタン、リン化鉄、銅、金、銀、真鍮などの金属、合金、又は金属化合物の鱗片状箔粉からなるメタリック顔料、マイカ状酸化鉄、二酸化チタン被覆雲母、二酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、二酸化チタン被覆タルク、魚鱗箔、着色二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛などの箔粉からなる真珠光沢(パール)顔料、アルミン酸ストロンチウム、アルミン酸カルシウム、アルミン酸バリウム、硫化亜鉛、硫化カルシウムなどの蛍光顔料、二酸化チタン、亜鉛華、三酸化アンチモンなどの白色無機顔料、亜鉛華、弁柄、朱、群青、コバルトブルー、チタン黄、黄鉛、カーボンブラックなどの無機顔料、イソインドリノンイエロー、ハンザイエローA、キナクリドンレッド、パーマネントレッド4R、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラックなどの有機顔料(染料も含む)を1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0041】
このような絵柄層15は、本発明の加飾シートに意匠性を付与するために設けられる層であるが、意匠性を向上させる目的で、さらに金属薄膜層などを形成してもよい。金属薄膜層の形成は、アルミニウム、クロム、金、銀、銅などの金属を用いて、真空蒸着、スパッタリングなどの方法で製膜することができる。この金属薄膜層は全面に設けても、部分的にパターン状に設けてもよい。
絵柄層15の形成に用いられる印刷インキは、上記成分の他に、沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、滑剤などを適宜添加することができる。印刷インキは、上記成分を、通常溶剤に溶解又は分散した態様で提供される。溶剤としては、バインダー樹脂を溶解または分散させるものであればよく、有機溶剤及び/又は水を使用することができる。有機溶剤としては、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテートなどのエステル類、アルコール類が挙げられる。
【0042】
[接着剤層]
本発明にかかる接着剤層16は、好ましくは保護層13、所望により積層されるプライマー層14、及び絵柄層15を、接着性よく加飾成形品に転写するために形成される。接着剤層としては、感熱接着剤や加圧接着剤などで構成されるものが挙げられるが、本発明においては、必要に応じて加熱及び加圧によって、加飾成形品に対する密着性を発現するヒートシール層であることが好ましい。ヒートシール層に用いられる樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合樹脂、スチレン−アクリル系共重合樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などの樹脂を挙げることができる。これらの樹脂の1種または2種以上を溶液、あるいはエマルジョンなど塗布可能な形にしたものを、前記剥離層で挙げた塗布方法の中から適した方法をそれぞれ選択して、塗布、乾燥することにより形成できる。
接着剤層16の厚さとしては、加飾シートを接着性よく、かつ効率的に加飾成形品に転写し得るという点から、0.1〜5μm程度が好ましい。
【0043】
接着剤層16には、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、シアノアクリレート系化合物、サリシレート系化合物などの有機系の紫外線吸収剤や、また亜鉛、チタン、セリウム、スズ、鉄などの酸化物のような無機系の紫外線吸収能を有する微粒子の添加剤を用いることができる。また、添加剤として、着色顔料、白色顔料、体質顔料、充填剤、帯電防止剤、酸化防止剤、蛍光増白剤なども適宜、必要に応じて使用することができる。
【0044】
[製造方法:加飾シート及び加飾成形品]
本発明の加飾シートは、基材11上に、離型層12、保護層13、所望により設けられるプライマー層14、絵柄層15及び接着剤層16を、グラビア印刷、ロールコートなどの公知の印刷又は塗工手段により積層すればよい。本発明においては、上述のように、保護層13は、電離放射線等で硬化していない状態であっても、その上にプライマー層14又は絵柄層15を印刷又は塗布できる点が特徴である。
なお、絵柄層15を例えば上記のように柄パターン層と、全面ベタ層との組み合わせとする場合は、一層を積層した後、乾燥し、その後次の層を積層すればよい。
そして、少なくとも基材11上に、離型層12、保護層13、及び絵柄層15を積層した後に、又は、接着剤層16、さらにはプライマー層14を含む全層を積層した後に、電離放射線を照射して、保護層13を架橋硬化させることで、本発明の加飾シートが得られる。
【0045】
上記のようにして得られた本発明の加飾シートは、射出成形同時転写加飾に好適に用いられる。射出成形同時転写加飾は、まず、射出成形同時転写加飾用の加飾シートの転写層側を金型内に向けて転写層側から熱盤によって加熱し、該加飾シートが金型内形状に沿うように予備成形して金型内面に密着させて型締する。この時の加熱温度は、基材シートのガラス転移温度近傍以上で、かつ、溶融温度(または融点)未満の範囲であることが好ましい。通常はガラス転移温度近傍の温度で行うことが、より好ましい。なお、上記のガラス転移温度近傍とは、ガラス転移温度±5℃程度の範囲をさし、基材として好適なポリエステルフィルムを使用する場合には、一般に70〜130℃程度である。
【0046】
次いで、後述する射出樹脂を溶融させて、キャビティ内に射出して該加飾シートと射出樹脂とを一体化させる。射出樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、加熱溶融によって流動状態にして、また、射出樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、未硬化の液状組成物を室温又は適宜加熱して流動状態で射出して、冷却して固化させる。これによって、加飾シートが、形成された樹脂成形体と一体化して貼り付き、加飾成形品となる。射出樹脂の加熱温度は、射出樹脂によるが、一般に180〜240℃程度である。
【0047】
このようにして得られた加飾成形品は、冷却してから金型から取り出した後、基材を剥離することにより保護層、所望により設けられるプライマー層、絵柄層、及び接着剤層からなる転写層が転写された加飾成形品となる。
【0048】
[製造方法:射出樹脂]
加飾成形品に用いられる射出樹脂としては、射出成形可能な熱可塑性樹脂あるいは、熱硬化性樹脂(2液硬化性樹脂を含む)であればよく、特に制限されず、様々な樹脂を用いることができる。このような熱可塑性樹脂材料としては、例えばポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのビニル系重合体;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン系共重合体、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、エチレングリコール−テレフタル酸−イソフタル酸共重合体、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、2液反応硬化型のポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独でもよいし、二種以上混合して用いてもよい。
また、これらの樹脂には、必要に応じて各種添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、可塑剤、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどの無機物粉末、木粉、ガラス繊維などの充填剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤などを添加することができる。なお、射出樹脂は、用途に応じて適宜、着色剤を添加して着色した樹脂を使用しても良い。着色剤には、前述の基材フィルムに用いることのできるものと同様の公知の着色剤を使用できる。
加飾成形品を構成する射出樹脂成形体の厚さについては特に制限はなく、当該加飾成形品の用途に応じて選定されるが、通常1〜5mm、好ましくは2〜3mmである。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
1.タック感の評価
各実施例及び比較例において、基材上に離型層及び保護層を積層した後、該保護層のタック感を指触によって評価した。評価基準は、1点が最もタック感を有するべたべたの状態、5点は粘着性が全くない状態であり、この間を5段階に分けた相対点数で評価した。
【0050】
2.柄印刷による評価
各実施例及び比較例において、基材上に離型層及び保護層を積層した後、黒色のベタ印刷(隠蔽層)を施し、基材側からの透過の程度を目視にて観察することで評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎;黒色のベタ印刷が極めて良好になされ、十分な隠蔽がなされていた。
○;黒色のベタ印刷が良好になされ、実用上問題ない程度に隠蔽がなされていた。
△;黒色のベタ印刷が概ねなされていたが、ところどころ印刷が抜けている部分があった。
×;黒色のベタ印刷が不十分であった。
【0051】
3.成形性
各実施例及び比較例で得た加飾シートについて、以下に示す方法で射出成形同時加飾を行い、成形後の外観にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎;外観上異常なし
○;3次元形状部又は200%延伸部の一部に軽微な艶変化又はクラックがあるが実用上問題なし
△;3次元形状部又は200%延伸部の大部分で軽微な艶変化又はクラック発生
×;延伸部分全体に著しい艶変化又はクラック発生
<射出成形同時加飾>
加飾シートを、熱盤温度150℃で加熱して射出成形の金型内形状に沿うように成形して、金型内面に密着させた。金型は、80mm角の大きさで、立ち上がり10mm、コーナー部が2Rのトレー状である深絞り度の高い形状のものを用いた。一方、射出樹脂としてABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製、商品名「クラスチックMTH−2」)を用いて、これを230℃にて溶融状態にしてから、キャビティ内に射出した。冷却して金型から取り出した後、基材を剥離して、表面に保護層、絵柄層、及び接着剤層からなる転写層を転写形成した加飾成形品を得た。なお、本発明において、深絞りとは、加飾シートの成形前と成形後との面積比が130%以上となるような形状をいい、深絞り度が高いとは、面積比が大きいことをいう。
【0052】
4.耐摩耗性
各実施例及び比較例で得た加飾シートについて、テーパ摩耗試験(条件;摩耗輪;CS−10、荷重;2.5N、500往復)によって評価した。評価は、該テーパ摩耗試験によって、成形樹脂が露出したか否かで行った。
○;露出しなかった。
×;露出した。
【0053】
実施例1(加飾シートの製造)
易接着処理が施された2軸延伸PETフィルム(厚さ:75μm)上に、アクリル−メラミン系樹脂をグラビア法により塗布して、離型層を形成した。
次いで、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルのモル比100:5であって、重量平均分子量(Mw):約10万、平均数分子量(Mn)約6万、多分散度(Mw/Mn)1.67の共重合体(以下「PMMA」と記載する。Tg;105℃)を60質量部と、電子線硬化性樹脂である3〜4官能(3官能と4官能の混合物であることを示す。以下同様。)のウレタンアクリレートモノマー(EB−1、重量平均分子量(Mw):300〜350)(以下「EB−1」と記載する。)40質量部を混合し、電子線硬化性樹脂組成物を得た。
該電子線硬化性樹脂組成物を、上記離型層の上にグラビアリバース法により塗布して、保護層を形成した。
該保護層の上にアクリル系樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂とをバインダー樹脂とした印刷インキ(アクリル樹脂:50質量%、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂:50質量%)を塗工量3g/m2でグラビア印刷を施して木目模様の絵柄層を形成し、さらにアクリル系樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂とからなる樹脂組成物(アクリル樹脂:50質量%、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂:50質量%)を塗工量4g/m2でグラビア印刷を施して接着剤層を形成した。
その後、加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、電子線硬化性樹脂組成物を硬化させ、加飾シートを得た。上記方法にて評価した結果を第1表に示す。
【0054】
実施例2
実施例1において、電子線硬化性樹脂として、3〜4官能のウレタンアクリレートオリゴマー(EB−2、重量平均分子量(Mw):1000〜1100)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして加飾シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0055】
実施例3
実施例1において、PMMAを70質量部、EBを30質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして加飾シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0056】
実施例4
実施例3において、保護層を構成する電子線硬化性樹脂組成物100質量部に対し、さらにフィラーとしてのシリカを1質量部加えたこと以外は、実施例3と同様にして加飾シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0057】
実施例5
実施例4において、シリカの配合量を3質量部としたこと以外は、実施例4と同様にして加飾シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0058】
実施例6
実施例1において、PMMAを50質量部、EBを50質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして加飾シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0059】
実施例7
実施例3において、EBとして、5〜6官能(5官能と6官能の混合物であることを示す。)のウレタンアクリレート(EB−3)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして加飾シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0060】
実施例8
実施例3において、EBとして、15官能のウレタンアクリレート(EB−4)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして加飾シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0061】
比較例1
実施例1において、EBを用いず、PMMAのみ100質量部として、保護層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして加飾シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0062】
比較例2
実施例1において、PMMAを用いず、EBのみ100質量部として、保護層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして加飾シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0063】
比較例3
実施例2において、PMMAを45質量部、EBを55質量部としたこと以外は、実施例2と同様にして加飾シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の加飾シートは、各種の加飾成形品に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0066】
10 加飾シート
11 基材
12 離型層
13 保護層
14 プライマー層
15 絵柄層
16 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、離型層、保護層、絵柄層及び接着剤層をこの順に積層してなる射出成形同時転写用の加飾シートであって、保護層が熱可塑性樹脂と電離放射線硬化性樹脂を50:50〜95:5の比率(質量比)で含む樹脂組成物からなり、少なくとも基材上に、離型層、保護層、及び絵柄層を積層した後に、電離放射線を照射して、保護層を架橋硬化することを特徴とする加飾シート。
【請求項2】
前記保護層を構成する樹脂組成物における熱可塑性樹脂と電離放射線硬化性樹脂の比率(質量比)が、55:45〜90:10である請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が少なくとも(メタ)アクリル酸エステルを含有する単量体を重合してなる請求項1又は2に記載の加飾シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が2種以上の異なる(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体である請求項1又は2のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がメタクリル酸メチルと他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体である請求項4に記載の加飾シート。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂中のメタクリル酸メチルに由来する構成単位100モルに対して、他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位が0.1〜200モルの範囲である請求項5に記載の加飾シート。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル酸エステルと、スチレン及び/又は(無水)マレイン酸との共重合体である請求項3に記載の加飾シート。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂中の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位100モルに対して、スチレン及び/又は(無水)マレイン酸に由来する構成単位が0.1〜200モルの範囲である請求項7に記載の加飾シート。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂のゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算重量平均分子量が9万〜30万の範囲である請求項1〜8のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項10】
前記保護層を構成する樹脂組成物100質量部に対して、さらにフィラーを0.1〜10質量部含有する請求項1〜9のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項11】
前記フィラーがシリカである請求項10に記載の加飾シート。
【請求項12】
前記基材がポリエステルフィルムである請求項1〜11のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の加飾シートを、所定形状の成形面を有する可動金型の該成形面に対し、前記加飾シートの基材が対面するように設置した後、該加飾シートを加熱、軟化させると共に、前記可動金型側から真空吸引して、軟化した加飾シートを該可動金型の成形面に沿って密着させることにより、加飾シートを予備成形する工程、成形面に沿って密着された加飾シートを有する可動金型と固定金型とを型締めした後、両金型で形成されるキャビティ内に、流動状態の樹脂成形材料を射出、充填して固化させることにより、形成された樹脂成形体と加飾シートを積層一体化させる射出成形工程、及び、可動金型を固定金型から離間させて、加飾シート全層が積層されてなる樹脂成形体を取り出す工程を順次施す加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜12に記載の加飾シートを使用した加飾樹脂成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−234769(P2010−234769A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88128(P2009−88128)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】