説明

加飾シート状食品およびその製法

【課題】多色の色彩を有する複雑な模様であっても、誤差やロスを生じさせず、迅速に量産することのできる加飾シート状食品であって、とりわけ風味や健康に配慮した使い勝手のよい加飾シート状食品およびその製法を提供する。
【解決手段】りんごを主原料とし、ペクチンを含有するペースト状組成物(以下「ペースト状組成物」とする)のシート状成形体からなるシート1表面に、乾燥ココナツを主原料とするペースト状組成物からなる白色領域2部分と、みかんを主原料とするペースト状組成物からなる黄色領域3部分と、フランボワーズを主原料とするペースト状組成物からなる赤色領域4部分と、乾燥プルーンを主原料とするペースト状組成物からなる黒色領域5部分とで、色模様Qを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキ等の食品に色模様を付すのに際し、複雑な色模様を多数の食品に短時間で付すことができる加飾シート状食品およびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品の表面に色模様を付して、その表面に装飾を行うことが行われている。とりわけ、パティシエと呼ばれるケーキ職人においては、いかに興趣に富む色模様をケーキに付すことができるかが、腕の見せ所の一つになっている。しかし、このような色模様は、職人が手作業で付すものであるため、その出来にばらつきが生じるとともに、失敗による材料および時間のロスも発生する。また、複雑な色模様になると、熟練の職人でさえ形成に時間がかかるため、このような色模様が付されたケーキを大量に生産することは困難である。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1には、食材からなる突条の模様が可食性の水溶性シートに固着された食品装飾用シートが提案され、この食品装飾用シートを対象となる食品に付着させると、水溶性シートが溶解し、食材からなる突条の模様が食品表面に付与されることが開示されている。
【0004】
上記食品装飾用シートは、上記可食性の水溶性シートとして、オブラートや寒天フィルム等からなるシートを用い、その表面にチョコレート素材等によって模様が形成されたものである。この食品装飾用シートによれば、ケーキ側周面に食品装飾用シートを貼り付けて放置するだけで、上記水溶性シートがケーキ側周面に分布する水分によって溶解し、ケーキ側周面に、チョコレート素材等で形成された模様を付与することができる。
【0005】
しかし、上記特許文献1の食品装飾用シートは、ケーキの側周面に存在する水分によって、水溶性シートを除去するものであり、水溶性シートの溶解具合が均一ではないため、溶解残りが存在し、これによりチョコレート素材等で形成された模様が不鮮明になったり、汚れたりして視覚的に見苦しくなるという難点がある。また、上記水溶性シートは、オブラートや寒天フィルム等から形成され、ケーキの水分によって溶解して消失するものの、その溶解した成分は、ケーキの側周面に残ることからケーキ自体の味が落ちてしまうという難点もある。そして、この食品装飾用シートは、模様を付すことが目的であるため、模様部分の味について特段の工夫はされていない。さらに、シートが水溶性シートからなるため、一旦ケーキに載置すると、食品に含まれる水分によってシートが溶解し、これを置き直すと、見栄えが悪くなるという問題もある。また、上記模様部分にチョコレート色以外の彩色を施すには、食用色素を添加する必要があるが、食用色素を含む食品装飾用シートを、対象となるケーキに付着させると、ケーキの水分により、徐々に模様部分から食用色素が滲み出し、当初の模様を長時間保つことができないという問題を生じる。
【0006】
また、特許文献2には、米粉およびお粥ペーストと乾燥野菜粉末等からなる可食インキをつくり、この可食インキをスクリーン印刷によって、別途用意したプラスチックフィルムの上に絵柄模様を印刷して転写シートを形成することが提案されている。そして、この転写シートの絵柄模様部分をレアチーズケーキ,アイスクリーム等の食品の表面に接触させて密着状態にすることで、食品の水分を利用して上記可食インキ部分をペースト状態にし、その状態で急速冷凍を行い可食インキ部分を食品の表面に一体化し、その後、プラスチックフィルムを取り外すことによって、レアチーズケーキ等の表面に絵柄模様を施すという方法が開示されている。
【0007】
しかし、この方法は、凍結を利用して上記転写シートの絵柄模様をレアチーズケーキ等の表面に一体化させ、その後、プラスチックフィルムを剥離することを行うものであるため、急速冷凍に耐えうるチーズケーキやアイスクリーム等にしか適用しにくく、通常のケーキ等にはそのまま適用できないという難点がある。
【0008】
一方、様々な色模様を付したケーキは、興趣に富み人目を惹きつけるものの、その色彩の殆どが合成着色料に由来するため、健康志向の人々からは敬遠されている。また、その彩色部分は、単なる模様が付されているだけであって、味には期待できないというのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−252017号公報
【特許文献2】特開2005−137282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、多色の色彩を有する複雑な模様であっても、誤差やロスを生じさせず、迅速に量産することのできる加飾シート状食品であって、とりわけ風味や健康に配慮した使い勝手のよい加飾シート状食品およびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明は、食品と一体化して食品に色模様を付与するために用いられる加飾シート状食品であって、食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物のシート状成形体からなる柔軟な可食シート表面に、このシートとは色彩の異なる単一もしくは複数の食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物を用いて色模様が形成されている加飾シート状食品を第1の要旨とする。
【0012】
また、上記第1の要旨の加飾シート状食品の製法であって、食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物をシート成形用のシート型に充填して可食シートをつくり、この可食シートの表面に、上記可食シートと色彩の異なる食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物を用い、印刷により色模様を形成する加飾シート状食品の製法を第2の要旨とする。
【0013】
すなわち、本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、色模様を付したケーキ等を量産するには、ケーキ等の上に直接色模様を描くのではなく、まず、多色刷りの技術を応用し模様を印刷した食用シートを製造し、これをケーキ等の上に載置すればよいのではないかと考え、食用シートおよびその模様を形成する各種食品材料について、さらに研究を重ねた。その結果、食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物を用いてシート状成形体をつくると、このシート状成形体は、ケーキ等の食品に含まれる水分を利用して、ケーキ等の表面に一体化することが判明した。また、この食用シートへの印刷に用いるインキとして、上記シート状成形体と色彩の異なる食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物を用いると、食用植物自身の有する色彩を利用し、色模様を形成することができるため、食用色素の添加が不要で、加飾シート状食用自体の風味が向上し、しかも、形成された色模様部分も上記シート状成形体と同様に、食品に含まれる水分を利用し、一体化することを見い出し、本発明に到達した。特に、上記シート状成形体は、ケーキ等の水分を利用して、ケーキ等の表面に付着し、膨潤はするものの溶解することはなく、その部分に食用植物味を付与することから、ケーキ全体の風味の向上に寄与する。さらに、本発明の加飾シート状食品は、凍結等の特別な機械器具等を必要とせず、単にケーキ等に置くだけでその部分を装飾することができる。このため、職人の技術が不要となり、誰でも簡単に装飾を行えるという利点がある。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明の加飾シート状食品は、食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物のシート状成形体からなる柔軟な可食シートを用いているため、シート自体が溶解することがなく、溶解残りのシートによって加飾部分が汚されたりして視覚的に見苦しくなることがない。また、可食シート自体が、食用植物を主原料とするペースト状組成物からなるため、これを加飾すべき食品に載置した際に、その食品自体の味を損ねる心配がない。さらに、可食シートに加え、色模様部分も食用植物を主原料とするペースト状組成物からなるため、この色模様部分も、食用植物に由来する好ましい風味を有している。
【0015】
また、本発明の加飾シート状食品を加飾すべき食品に載置すると、徐々に食品の水分を吸収するため、比較的長い時間シート状の形態を保つことができる。このため、載置位置が気に入らない場合は、これを持ち上げて所望の場所へ置き直すことができる。そして、可食シートおよび色模様部分が、ゲル化剤に起因するゲル骨格を有しているため、食品の水分によって溶解せずに、膨潤した状態で各自その位置に留まるようになっている。このため、長時間に渡って、食品と一体化した後の色模様を美麗な状態に保つことができる。また、色模様部分の色彩を食用植物に由来する色彩を利用して現しており、別途、食用色素を添加する必要がない。このため、加飾すべき食品に載置した際、添加した食用色素が滲み出すことによる色模様の汚染が発生せず、当初の色模様を長時間保つことができるとともに、食用色素不含の食品を食したいという健康志向の人々のニーズにも応えることができる。さらに、シート自体に加え色模様部分も食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物からなるため、加飾すべき食品が冷凍食品でなくても、その食品の有する水分を利用して容易に一体化することができるので使い勝手がよい。
【0016】
なかでも、上記色模様が多色印刷により形成されたものである場合は、色模様を多色に現すことができるため、より興趣に富むデザインを実現できる。
【0017】
また、上記食用植物が果物類である場合は、より人々に好まれる風味になる。また、果物類自身が有する糖類,ペクチン等を利用することができ、ペースト状組成物への加工が容易であるため、より製造工程および時間の短縮を実現できる。
【0018】
そして、上記ゲル化剤として、ペクチンを用いたものである場合は、食用植物自体に含まれるペクチンを利用でき、また、ペースト状組成物の粘度等を調整がし易いため、より安価に、色むらが生じない美麗な色模様を形成することができる。
【0019】
そして、上記可食シートが含水化合物であり、その水分含量が2〜10重量%の範囲にある場合は、保存性の向上と取り扱い容易性とのバランスに優れたものとなる。
【0020】
さらに、上記可食シートの平均厚みが0.2〜0.5mmの範囲にあり、加飾シート状食品の最大厚みが0.4〜1.0mmの範囲にある場合は、加飾すべき食品の有する水分を利用してその表面により容易に一体化させることができる。また、加飾シート状食品自体がよりペースト状に近づき、軟らかな状態となるため、口当たりをよくすることができる。
【0021】
そして、上記食品が、非冷凍性食品である場合は、食品からの水分を吸収しやすいため、より一体化が図られる。
【0022】
また、上記加飾シート状食品の製法であって、食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物をシート成形用のシート型に充填して可食シートをつくり、この可食シートの表面に、上記可食シートとは色彩の異なる食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物を用い、印刷により色模様を形成すると、手描きでは難しい、複雑な色模様を可食シート表面に容易に形成できるとともに、このような複雑な色模様が形成された加飾シート状食品であっても、効率よく量産することができる。
【0023】
そして、上記印刷において、食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有する色彩の異なるペースト状組成物を複数種類用い、これらを順次印刷して上記可食シートの表面に多色の色模様を形成すると、多色の色模様を容易に形成することができるため、興趣に富むデザインを実現することができる。
【0024】
さらに、上記ゲル化剤としてペクチンを用い、その添加量を、ペクチンを含まない状態のペースト状組成物100重量部に対し、ペクチン0.1〜2重量部とすると、一定の厚みに形成することが容易であるため、より色むらを発生させることなく、美麗な色模様を形成することができる。
【0025】
なお、本発明において、食用植物とは、食用になる植物一般をいい、いわゆる果物類だけでなく、野菜類をも含むことを意味する。また、果物類とは、植物の果実で食用となるもの一般を意味し、野菜類とは、いも類および豆類を含む草本作物一般を意味する。
【0026】
また、食用植物を主原料とするとは、ペースト状組成物に対する食用植物の割合が、50重量%以上占めることを意味する。
【0027】
そして、ゲル化剤とは、食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用するもののうち、液体のものをゼリー状に固める作用(ゲル化)を目的として使うものをいい、冷やすと固まる性質のゼラチン、寒天、カラギーナン、ペクチン等の総称を意味する。
【0028】
さらに、印刷により形成された色模様とは、色模様を形成するための印刷が、手作業によるものか機械装置によるものかを問わないことを意味する。
【0029】
また、冷凍性食品とは、いわゆる冷凍食品(保存のために人為的に凍結させた食品)を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態である加飾シート状食品の平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】上記加飾シート状食品を加飾すべき食品上に載置した状態の説明図である。
【図4】上記加飾シート状食品の製法に用いられる成形型の説明図である。
【図5】(a)〜(c)はいずれも上記加飾シート状食品の製法の説明図である。
【図6】(a)〜(c)はいずれも上記加飾シート状食品の製法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0032】
本発明の加飾シート状食品は、要約すると、食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物のシート状成形体からなる柔軟な可食シートの表面に、これと色彩の異なる食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物により色模様が付与された加飾シート状食品である。以下、食用植物材料として、刻み状態の果物および乾燥果物が用いられ、ゲル化剤として、ペクチンが用いられた加飾シート状食品を例にして説明する。
【0033】
図1は、本発明の一実施の形態である加飾シート状食品を示したものであり、薄黄色透明のシート1の表面に、魚のキャラクターの色模様Qが形成されたものである。この色模様Qは全体的にやや不透明になっており、目および口部分が白色の白色領域2、体部分がオレンジに近い濃い黄色の黄色領域3、リボン部分が鮮やかな赤色の赤色領域4、これら各領域を縁取る部分が紫色に近い黒色の黒色領域5に色分けされた多色の色模様となっている。
【0034】
より詳しく説明すると、上記加飾シート状食品のシート1部分は、りんごを主原料とし、ペクチンを含有するペースト状組成物のシート状成形体であり、その水分含量は5重量%であり、大きさ縦8cm×横5cm×厚み0.3mmに成形されている。そして、このシート1表面には、乾燥ココナツを主原料とし、ペクチンを含有するペースト状組成物からなる白色領域2部分と、みかんを主原料とし、ペクチンを含有するペースト状組成物からなる黄色領域3部分と、フランボワーズを主原料とし、ペクチンを含有するペースト状組成物からなる赤色領域4部分と、乾燥プルーンを主原料とし、ペクチンを含有するペースト状組成物からなる黒色領域5部分とからなる多色の色模様Qが形成されている。
【0035】
そして、上記加飾シート状食品は、図1のA−A断面図である図2に示すように、色模様Qのない部分の厚みαが0.3mm、色模様Qのある部分の厚みβが0.6mmに形成されている。また、この加飾シート状食品は、全体に、柔軟性があり、筒状に丸めることもできる(なお、図2において、各部分は模式的に示したものであり、実際の厚み,大きさとは異なっている。以下の図においても同じ。)。
【0036】
上記加飾シート状食品を用いて、食品を加飾した例を図3に示す。図3は、加飾すべき食品として一般的なロールケーキ8を用い、その表面に、上記加飾シート状食品を載置したものである。このロールケーキ8は、中心部分の生クリーム7の回りをスポンジ生地9が取り囲むようになっており、その表面が生クリーム7で覆われている。また、上記生クリーム7は、牛乳由来の白色をしている。したがって、このロールケーキ8表面の生クリーム7の上に、上記加飾シート状食品を載置すると、透明なシート1部分からその下の生クリーム7の白色が透けて見えるため、その対比により不透明な色模様Q部分が際立つようになる。
【0037】
上記加飾シート状食品を生クリーム7の上に載置すると、加飾シート状食品は生クリーム7の水分をゆっくりと吸収し、両者は互いに密着状態となり一体化する。このとき、加飾シート状食品は徐々に水分を吸収するため、比較的長い間、シート状の形態を保っている。そのため、加飾シート状食品の載置位置が気に入らない場合は、これを持ち上げて所望の場所へ置き直すことができる。
【0038】
そして、上記水分を吸収するにしたがって、加飾シート状食品の全体が膨潤し、水分を多く含む状態に近づくようになる。水分の吸収が充分に進んだ加飾シート状食品は(この例では、載置からおよそ15分間経過後)、シート1部分を含む各部分がいわば果物ジャムによって構成されたような、軟らかな状態となる。このとき上記加飾シート状食品の各部分は、ゲル骨格を有しているため、水に溶けることなく、載置直後と同じ位置に留まり、他の部分と混ざらない。このため、上記ロールケーキ8表面の色模様Q部分は、あたかも職人が、各種の果物ジャムをロールケーキ8の表面に塗布することによって描いたかのように見える。
【0039】
なお、上記加飾されたロールケーキ8は、生クリーム7およびスポンジ生地9の味に加え、加飾シート状食品由来の各種果物の味が加わるため、興趣に富む風味を醸し出している。また、上記加飾シート状食品は、水分によって膨潤し、果物ジャム状になっているため、ロールケーキ8を切り分ける際にフォークを入れても抵抗がなく、また、生クリーム7とも馴染み、口当たりがなめらかになっている。
【0040】
このような加飾シート状食品は、例えば、つぎのようにして製造することができる。まず、加飾シート状食品を製造するのに先立ち、シート1および上記領域2〜5を成形するための各成形型と、シート1および上記領域2〜5用の各ペースト状組成物とを準備する。
【0041】
シート1を成形するための成形型としては、中央部分にシート1の大きさ(縦13cm×横12cm×厚み0.3mm)に等しい大きさの貫通孔が設けられたプラスチック製のシート(縦30cm×横22cmm×厚みが0.3mm)を用いる(図示せず)。また、領域2〜5用の成形型をそれぞれ準備する。例えば、白色領域2を形成するための成形型2’は、図4に示すように、上記シート1の大きさに等しい大きさのプラスチック製シート6(縦13cm×横12cm×厚み0.3mm)であって、白色領域2に対応する形状の切り欠き2’aが形成されている。これと同様に、黄色領域3、赤色領域4および黒色領域5用のそれぞれの成形型は、シート1の大きさに等しい大きさのプラスチック製シートであって、それぞれの領域に対応する形状の切り欠きが形成されている(図示せず)。
【0042】
さらに、シート1および上記領域2〜5用の食用植物を主原料とし、ペクチンを有するペースト状組成物を準備する。これらのペースト状組成物は、下記の〔表1〕に示す各種の果物、乾燥果物、ペクチン等を用い、後述の調製を行うことによって得ることができる。
【0043】
【表1】

【0044】
すなわち、上記〔表1〕に示した原料(乾燥物の場合はさらに水)を、シート1および領域2〜5用のペースト状組成物ごとに別々の鍋に入れ、糖度(ブリックス%)50前後となるように砂糖を加え、弱火で約10分間加熱後、裏ごしをし、いわゆる果物ジャムの状態にする。その後、この果物ジャム状になったペースト状組成物にペクチンおよび必要であればレモン果汁等のpH調整剤の添加を行い、ペクチン(ゲル化剤)を有するペースト状組成物とする。なお、原料自体にペクチン等のゲル化剤が豊富に含まれている場合(例えば、プルーン等)には、あえてペクチン等のゲル化剤を添加しなくてもよい。
【0045】
上記ペースト状組成物に添加するペクチン量は、原料となる食用植物の種類や状態によって異なるが、通常、ペクチン不含のペースト状組成物100重量部に対し、0.1〜2重量部を添加することが好ましく、より好ましくは、0.3〜1.2重量部の範囲である。すなわち、添加量が多すぎると、上記ペースト状組成物を薄く伸ばしにくく、また、一旦伸ばしても元の状態に戻ろうとするため、広い面積のシートおよび領域を形成するのが困難になる傾向がみられ、逆に添加量が少なすぎると、上記ペースト状組成物がゲル骨格を有しにくくなり、一定の厚みに形成することが困難となる傾向がみられるためである。
【0046】
このように準備した成形型およびペクチンが添加されたペースト状組成物を用いて、まず、シート1を作製する。図5(a)に示すように、別途用意した表面が平滑なシリコンシート10の上に、上記準備したシート1成形用の成形型1’を置き、これらが動かないよう固定する。そして、図5(b)に示すように、上記準備したシート1用のペースト状組成物11を、上記成形型1’の貫通孔1’aに流し込み、その表面をスクイージーで平らにすると同時に、余剰なペースト状組成物11を掻き取る。これを放冷し、ペースト状組成物11が一定の形状を保つ程度に固まった後、上記成形型1’を外す〔図5(c)〕。そして、ペースト状組成物11をシリコンシート10から剥がし、乾燥(50℃、60分間)させることにより、シート1を得ることができる。得られたシート1は、りんごに由来する淡い黄色をごく薄く呈した透明のシート状に形成され、その水分含量は5重量%であった。
【0047】
つぎに、このシート1の表面に、準備したペースト状組成物を用いて、順次、色模様を形成する。図6(a)に示すように、準備した白色領域2用の成形型2’を、上記シート1の表面に位置合わせした状態で重ね、両者が互いに動かないように固定する。そして、図6(b)に示すように、準備した白色領域2用のペースト状組成物12を、上記成形型2’の切り欠き2’aに流し込み、その表面をスクイージーで平らにすると同時に、余剰な白色領域2用ペースト状組成物12を掻き取る。これを放冷後、成形型2’を外す〔図6(c)〕。そして、白色領域2用ペースト状組成物12を乾燥(50℃、60分間)させることにより、シート1の表面に、白色領域2を形成することができる。
【0048】
以下、同様に黄色領域3、赤色領域4、黒色領域5を形成する。すなわち、黄色領域3を形成するには、上記白色領域2と同様に、準備した黄色領域3用の成形型(図示せず)を、上記シート1の表面に位置合わせをした状態で重ね、両者が互いに動かないように固定する。そして、準備した黄色領域3用ペースト状組成物を、成形型の切り欠きに流し込み、その表面をスクイージーで平らにすると同時に、余剰な黄色領域3用ペースト状組成物を掻き取る。これを放冷後、成形型を外し、黄色領域3用ペースト状組成物を乾燥(50℃、60分間)させることにより、シート1の表面に、白色領域2に加え、黄色領域3を形成することができる。
【0049】
さらに、赤色領域4を形成する。上記白色領域2および黄色領域3と同様に、準備した赤色領域4用の成形型(図示せず)を、上記シート1の表面に置き、両者が互いに動かないようにこれらを固定する。そして、準備した赤色領域4用ペースト状組成物を、上記成形型の切り欠きに流し込み、その表面をスクイージーで平らにすると同時に、余剰な赤色領域4用ペースト状組成物を掻き取る。これを放冷後、上記成形型を外し、赤色領域4用ペースト状組成物を乾燥(50℃、60分間)させることにより、シート1の表面に、上記白色領域2および黄色領域3に加え、赤色領域4を形成することができる。
【0050】
最後に、黒色領域5を形成する。上記白色領域2、黄色領域3および赤色領域4と同様に、準備した黒色領域5用の成形型(図示せず)を、上記シート1の表面に位置合わせした状態で重ね、両者が互いに動かないように固定する。そして、準備した黒色領域5用ペースト状組成物を、成形型の切り欠きに流し込み、その表面をスクイージーで平らにすると同時に、余剰な黒色領域5用ペースト状組成物を掻き取る。これを放冷後、成形型を外し、黒色領域5用ペースト状組成物を乾燥(50℃、30分間)させることにより、シート1の表面に、上記白色領域2、黄色領域3および赤色領域4に加え、黒色領域5を形成することができる。このようにして、図1に示すように、シート1(厚み0.3mm)の表面に、白色領域2、黄色領域3、赤色領域4、黒色領域5(各領域とも厚み0.3mm)からなる色模様Qが付与された、加飾シート状食品を得ることができる。
【0051】
この構成によれば、上記加飾シート状食品は、シート1部分を含め、すべての部分が果物を主成分としているため、果物本来の風味を楽しむことができ、また、各種果物由来のビタミン、食物繊維等を摂取できるため、美味しい上に健康に配慮した食品となる。また、食用色素によらず、果物原料由来の色彩を利用して多色の色模様Qを形成しているため、食品に付した際にも色素が滲むことがなく、長期に渡って美麗なデザインを保つことができるとともに、食にこだわりのあるユーザーの要望にも応えることができる。
【0052】
そして、上記加飾シート状食品は、水分含量が5重量%と比較的乾燥しており、糖分も多く配合され、常温で日持ちするため、保管が容易である。さらに、冷凍保管も可能であるため、より長期に渡って品質を保つことができる。また、上記加飾シート状食品は、水分が5重量%含まれるため、全体に柔軟性があり、取り扱いも容易である。さらに、上記加飾シート状食品は、例えば、はさみを用いて裁断することもできる。このため、必要な部分だけを切り取って、ケーキ等に載置することも可能であり、使い勝手がよい。
【0053】
さらに、上記加飾シート状食品の最大厚みが0.6mmであるため、この加飾シート状食品をロールケーキ8表面の生クリーム7の上に載置すると、加飾シート状食品は生クリーム7の水分をゆっくりと吸収し、やがて当初のペースト状組成物のように、その全体が水分を多く含む状態となり、果物ジャムのような軟らかい状態になる。このため、ロールケーキ8にフォークを入れる際にも抵抗がなく、また、生クリーム7とも馴染み、口当たりがよりなめらかになる。
【0054】
また、このような加飾シート状食品の製法によると、上記加飾シート状食品の色模様Qを印刷により形成しているため、手描きでは難しい、複雑な色模様Qを正確に形成できるとともに、このような複雑な色模様Qであっても、同じ色模様を効率よく量産することができる。そして、色彩の異なるペースト状組成物を複数種類用いているため、多色の色模様Qを形成することができる。さらに、上記ペースト状組成物におけるペクチン含量を一定の範囲となるようにして用いているため、より色むらを発生させることなく、美麗な色模様Qを形成することができる。
【0055】
なお、上記の実施の形態において、ペースト状組成物の主原料となる食用植物として、果物類を用いているが、その他にも、ほうれん草,人参,かぼちゃ等の野菜類を用いることもできる。また、その材料として、乾燥のものを用いているが、その他にも、新鮮な果物(野菜)そのものや、冷凍果物(野菜)等を用いることができる。しかし、季節を問わずに入手が可能である点や、保存管理がし易い点から、乾燥の形態のものを用いることが好ましい。
【0056】
また、上記の実施の形態において、可食シートの平均厚みを0.3mmとしているが、これに限らず任意の厚みに設定することができる。しかし、加飾すべき食品との一体化のしやすさを考慮すれば、平均厚みを0.2〜0.5mmの範囲に設定することが好ましい。さらに、上記の実施の形態において、加飾シート状食品の最大厚みを0.6mmとしているが、これに限らず任意の厚みに設定することができる。しかし、加飾すべき食品と一体化させた際の口当たりをよくすることができる点で、最大厚みを0.4〜1.0mmの範囲に設定することが好ましい。
【0057】
そして、上記の実施の形態において、可食シートの水分含量を5重量%としているが、これに限らず任意の値に設定することができる。しかし、長期保存性と取り扱い容易性とのバランスに優れる点から、2〜10重量%の範囲に設定することが好ましい。
【0058】
さらに、上記の実施の形態において、加飾すべき食品として、ロールケーキを用いているが、この他にも、ショートケーキ,チーズケーキ,ババロア,ゼリー,プリン等の幅広い食品に用いることができる。また、菓子類だけでなく、はんぺん,かまぼこ,出し巻き玉子,くりきんとん等の惣菜類にも用いることができる。また、上記加飾すべき食品としては、加飾シート状食品載置予定部分(加飾シート状食品と接する部分)の水分含量が30〜95重量%の範囲のものが好ましく、より好ましくは40〜90重量%の範囲のものである。すなわち、水分含量が多すぎると、加飾シート状食品がしっかりと食品に定着せず、軽度の衝撃で簡単にずれる傾向がみられ、逆に少なすぎると、上記食品からの水分を充分に吸収できず、食品との一体化が充分に図られない傾向がみられるためである。
【0059】
また、上記の実施の形態において、シート1および図1に示す2〜5の各領域形成用の成形型の材料として、プラスチック製のシートを用いているが、この他にも、銅,木,ステンレス,アルミニウム等からなるシートを材料として用いることができる。シートに貫通孔および切り欠きを容易に形成できる点からは、プラスチック製が好ましく、耐久性,操作性が高い点からは、銅製,ステンレス製を用いることが好ましい。
【0060】
そして、上記の実施の形態において、印刷として、いわゆる孔版印刷を行っているが、この他にも、凸版印刷,凹版印刷等を行うことができる。しかし、加飾シート状食品の色模様部分の厚みを一定に形成することが容易である点で、孔版印刷を行うことが好ましい。
【0061】
さらに、上記の実施の形態において、食用植物を主原料とするペースト状組成物をゲル化するために、ペクチンを使用しているが、この他にも、ゼラチン、寒天、カラギーナン等のゲル化剤を用いることができる。しかし、食用植物自体に含まれるペクチンを利用できる点や、調整のしやすさの点から、ペクチンを用いることが好ましい。
【0062】
また、上記の実施の形態において、加飾シート状食品の色模様Q部分の色彩は、ペースト状組成物の主原料である食用植物自体の色彩により現されているが、所望の色彩を有する食用植物が存在しない場合や、そのままでは所望の色彩を得られない等の場合には、食用色素を添加することができる。しかし、加飾すべき食品と一体化させた後の色滲みを防止する点からは添加しない方がよく、添加する場合であっても、微量に留めることが望ましい。
【0063】
そして、上記の実施の形態においては、加飾シート状食品を、ロールケーキ8の表面に載置しこれらを一体化させているが、載置する場所はその表面でなくてもよい。例えば、球体状の透明ゼリーを製造する場合において、球体の下半分のゼリーをまず製造し、その断面部分に加飾シート状食品を載置する。そして、上記加飾シート状食品に重ねるように残りの上半分のゼリーを製造し、球体を完成するようにすると、球体状の透明ゼリーの内部に、色模様を付すことができる。
【0064】
さらに、上記の実施の形態においては、加飾シート状食品を、白色の生クリーム7上に載置し、加飾シート状食品に形成された色模様の色を際立たせるようにしているが、その他の色彩を有する食品に載置するようにしてもよい。この場合、食品自体の色彩と加飾シート状食品の色模様との重なりによる、色彩のグラデーションを楽しむことができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の加飾シート状食品は、ケーキ等の食品に複雑な色模様を付すのに用いるものであり、とりわけ、短時間に大量の食品に複雑な色模様を付すのに適している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品と一体化して食品に色模様を付与するために用いられる加飾シート状食品であって、食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物のシート状成形体からなる柔軟な可食シート表面に、このシートとは色彩の異なる単一もしくは複数の食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物を用いて色模様が形成されていることを特徴とする加飾シート状食品。
【請求項2】
上記色模様が多色印刷により形成されたものである請求項1記載の加飾シート状食品。
【請求項3】
上記食用植物として、果物類を用いたものである請求項1または2記載の加飾シート状食品。
【請求項4】
上記ゲル化剤として、ペクチンを用いたものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の加飾シート状食品。
【請求項5】
上記可食シートが含水化合物であり、その水分含量が2〜10重量%の範囲にある請求項1〜4のいずれか一項に記載の加飾シート状食品。
【請求項6】
上記可食シートの平均厚みが0.2〜0.5mmの範囲にあり、加飾シート状食品の最大厚みが0.4〜1.0mmの範囲にある請求項1〜5のいずれか一項に記載の加飾シート状食品。
【請求項7】
上記食品が、非冷凍性食品である請求項1〜6のいずれか一項に記載の加飾シート状食品。
【請求項8】
請求項1に記載の加飾シート状食品の製法であって、食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物をシート成形用のシート型に充填して可食シートをつくり、この可食シートの表面に、上記可食シートと色彩の異なる食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有するペースト状組成物を用い、印刷により色模様を形成することを特徴とする加飾シート状食品の製法。
【請求項9】
上記印刷において、食用植物を主原料とし、ゲル化剤を含有する色彩の異なるペースト状組成物を複数種類用い、これらを順次印刷して上記可食シートの表面に多色の色模様を形成する請求項8記載の加飾シート状食品の製法。
【請求項10】
上記ゲル化剤としてペクチンを用い、その添加量を、ペクチンを含まない状態のペースト状組成物100重量部に対し、ペクチン0.1〜2重量部とする請求項8または9記載の加飾シート状食品の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−249585(P2012−249585A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125198(P2011−125198)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(592070786)東洋ナッツ食品株式会社 (3)
【Fターム(参考)】