説明

加飾シート

【課題】 透明性、耐傷付性に優れ、加工時に白化しにくいとともに割れにくく、さらに耐油性にも優れた表面シートを備えることにより、強度、耐性、取扱性、外観などに優れた加飾シートを提供する。
【解決手段】 基材シート11の少なくとも片面側に、アイオノマー樹脂を10〜90質量%含有する樹脂組成物からなる表面シート14を備えた加飾シート10Aである。アイオノマー樹脂は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を金属イオンで部分中和したものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の内装や外装などに使用される加飾シートに関する。
【背景技術】
【0002】
フロントパネルなどの自動車内装には、木目調などの絵柄が形成された加飾シートが広く使用され、種々開発されている。例えば特許文献1には、リサイクル性の優れたものとして、ABS樹脂からなる層(シート層およびバッカー層)の上に絵柄印刷インキ層、透明アクリル系樹脂シート層が順次積層したシートが開示されている。また、特許文献2には、透明光拡散性粒子からなる艶消し剤を透明シートに添加した表面シートを備え、このような表面シートと裏面シートとを2液硬化型樹脂からなる接着剤層で接着した艶消し調の加飾シートが記載されている。
このように加飾シートは、通常、基材となるシートに必要に応じて絵柄層などを配した後、透明性のある表面シートを配置した構成とされていて、表面シートにはアクリル樹脂が用いられることが多い。
一方、バンパー、泥除け、ステップなどの自動車外装に使用されるパーツには、プラスチック基材に塗装を施した塗装品が利用されている。
【特許文献1】特開2001−334609号公報
【特許文献2】特開2002−283510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、自動車内装用の加飾シートの表面シートに使用されるアクリル樹脂は、透明性に優れているものの、傷つきやすく、折り曲げ加工時などに白化しやすいという問題があった。また、強度も十分ではなく、トリミング作業時などに割れてしまう場合もあった。さらに、アクリル樹脂は耐油性も不十分であり、アクリル樹脂からなる表面シートを備えた加飾シートを自動車の内装に使用し、芳香剤などをこぼした場合、表面シートが膨潤したり白濁したりするなどの不具合が生じていた。また、このようなアクリル樹脂からなる表面層を備えた自動車の外装材においても、石跳ね(いわゆるチッピング)により傷つきやすい、耐溶剤性が不十分であるなどの不具合が生じていた。
また、自動車外装用の塗装品を製造する際には、作業環境への悪影響や有害性が問題となっている有機溶剤が含まれる塗料を使用するため、いわゆる塗装レスの要求が高まっている。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、透明性、耐傷付性に優れ、加工時に白化しにくいとともに割れにくく、さらに耐油性にも優れた表面シートを備えることにより、強度、耐性、取扱性、外観などに優れた加飾シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の加飾シートは、基材シートの少なくとも片面側に、アイオノマー樹脂を10〜90質量%含有する樹脂組成物からなる表面シートを備えていることを特徴とする。
前記アイオノマー樹脂は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を金属イオンで部分中和したものであることが好ましい。
前記基材シートと前記表面シートとの間には、絵柄層または着色層の少なくとも一方が形成されていることが好ましい。
前記着色層は、少なくともアイオノマー樹脂と顔料とを含有する着色組成物から形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の加飾シートは、アイオノマー樹脂を10〜90質量%含有する樹脂組成物からなり、透明性、耐傷付性に優れ、加工時に白化しにくいとともに割れにくく、さらに耐油性にも優れた表面シートを備えているので、強度、耐性、取扱性、外観などに優れている。よって、曲面基材との一体化のしやすさとともに、芳香剤など油成分に対する耐性、引っ掻き傷に対する耐性なども要求される自動車内装や自動車外装への使用に特に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の加飾シートは、基材シートの少なくとも片面側にアイオノマー樹脂を10〜90質量%含有する樹脂組成物から形成された表面シートを備えたものであって、さらには図1〜3に示すように、基材シート11と表面シート14との間に絵柄層12aまたは着色層15の少なくとも一方が形成されているものである。
【0008】
基材シート11の材質は、本発明の加飾シート10A,10B,10Cを利用して成形される、自動車内外装用のパネル等の基材材質や寸法などの設計仕様により決定されるが、ABS系樹脂、PC系樹脂、PC系樹脂とABS系樹脂との混合樹脂、PVC樹脂、PS系樹脂、PE系樹脂やPP系樹脂などのポリオレフィン系樹脂およびそのエラストマー樹脂、ポリエステル系樹脂などが使用でき、複数の樹脂の積層シートを使用してもよい。基材シート11の厚さは、これの成形時の成形性を考慮した場合、0.05mm〜1.00mm、好ましくは0.10mm〜0.80mmである。
【0009】
図1の加飾シート10Aの有する絵柄層12aは、基材シート11表面にグラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷や各種画像形成法により形成されたものでもよいし、二軸延伸PETフィルムなどに印刷形成された絵柄を加熱転写などの方法により基材シート11に転写して形成したものでもよい。また、絵柄層12aは、図3に示すように、樹脂シート12bの少なくとも片面(この例では片面のみ)に絵柄層12aを備えた絵柄シート12の形態で設けられてもよい。絵柄層12aの厚さは上記印刷法により0.01mm〜0.05mmの範囲に形成される。
【0010】
絵柄層12aが形成された基材シート11と後述の表面シート14とは、図1の例のように、接着層13を介して貼着、積層されることが、絵柄層12aの外観品質を損なうことが少なく好ましい。
接着層13としては、粘着剤または接着剤などを塗布してなるものや、熱融着可能な熱可塑性樹脂からなるフィルムやシートなどが利用でき、前者としてはアクリル系、酢酸ビニル系、ウレタン系、アクリル−ウレタン系、アイオノマー系などがあり、後者としてはエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン系樹脂、マレイン酸変性オレフィン系樹脂、アイオノマー系樹脂が利用できる。
また、図3の例のように、基材シート11の上にプライマー剤が塗布されプライマー層17が形成され、プライマー層17の上に絵柄シート12が配され、さらに接着層13を介して表面シート14が積層していてもよい。
【0011】
図2の加飾シート10Bの有する着色層15は、少なくともアイオノマー樹脂と顔料とを含有する着色組成物から形成されたものであって、着色組成物の着色は、加飾シート1010Bを利用して成形されるパネル等のデザインに基づき、公知の顔料により調色して行われる。着色層15の厚さは、色種や隠蔽性などから0.05mm〜0.50mmの範囲において適宜選択できる。
【0012】
図2に示した形態の加飾シート10Bの製造において、基材シート11、着色層15および表面シート14の積層、貼り合せはTダイを備えた共押出法により一体成形されることが好ましい。この際、表面シート14は、表面が鏡面である冷却ロールに挟まれて冷却させることにより、平滑で高光沢な表面状態を形成することができる。
表面シート14の厚さは0.03mm〜0.80mmであり、好ましくは0.10mm〜0.50mmである。この厚さが、0.03mm未満では耐傷付性が得られず、0.80mmを超えると加飾シートの表面が柔軟過ぎてしまい、パネル等の用途に適さなくなってしまう。
【0013】
本発明において表面シート14に用いられるアイオノマー樹脂は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を亜鉛、ナトリウム、リチウム、マグネシウムなどの金属イオンで部分中和したもので、エチレン−メタクリル酸共重合体を亜鉛またはナトリウムで部分中和したものが好ましく、ナトリウムで部分中和したものが透明性の点でさらに好ましい。
表面シート14を形成する樹脂組成物は、アイオノマー樹脂が10〜90質量%の範囲、好ましくは20〜80質量%の範囲で含まれる。ここで、樹脂組成物中のアイオノマー樹脂の含有量が10質量%未満では表面シート14の透明性、耐傷付性、耐油性、耐溶剤性は不十分となるとともに、加工時における白化、割れなどの問題が起こりやすくなる傾向がある。一方、90質量%を超えると樹脂組成物の硬度が低下し柔らかくなりすぎるとともに、熱安定性も低下し、加工性、取扱性などが不十分となったり、粘着性が高くなりシート状に成形できなくなったりする場合がある。
【0014】
樹脂組成物に含まれるアイオノマー樹脂以外の樹脂成分としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂などが挙げられ、これらのうち2種以上を使用しても良い。アイオノマー樹脂を20〜80質量%、ポリエチレン系樹脂を80〜20重量%含有するものが透明性、加工性、耐傷付性、耐油性、耐溶剤性の点で好ましい。また、樹脂組成物に含まれる上記樹脂成分以外の成分としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線反射剤、滑剤などの加工助剤などが挙げられる。
【0015】
図1〜図3に図示するような本発明の加飾シート10A,10B,10Cは、基材シート11の少なくとも片面側に、アイオノマー樹脂を10〜90質量%含有する樹脂組成物からなる表面シート14を備えており、さらに前記基材シート11と前記表面シート14との間には、絵柄層12aまたは着色層15の少なくとも一方が形成されていることを特徴とするものであるが、このような加飾シート10A,10B,10Cの製法としては、概略以下の方法が挙げられる。
図1に例示するように絵柄層12aを有するものの場合は、上述したように、基材シート11の表面に直接、または転写法で絵柄層12aを形成する。ついで、この基材シート11と表面シート14とを接着層13を介して貼り合わせる。その際の具体的方法としては、連続熱プレスによる方法が挙げられる。このとき、表面シート14を連続的に鏡面でプレスすることにより、高光沢で表面状態が平滑な外観が極めて良好な加飾シート10Aが得られる。
図3に例示するように絵柄シート12を有するものの場合は、基材シート11にプライマー層17を形成した後、絵柄シート12を配し、ついで、接着層13を介して図1の場合と同様に表面シート14と貼り合わせる。
図2に示すように着色層15を有するものの場合は、表面シート14、着色層15、接着層13、基材シート11を多層の共押出法により直接成形する方法が挙げられる。
【実施例】
【0016】
(1)加飾シートの構成
図2に示す構成の加飾シート10Bを多層の共押出法により製造した。
基材シート11:ABS樹脂 厚さ300μm
着色層15: 厚さ250μm
接着層13: 厚さ75μm
表面シート14: 厚さ125μm
(2)評価
上記構成の加飾シート10Bを、内装部材のベース材(ABS樹脂製)とインサート成形により一体成形加工した結果、透明性、耐傷付性、耐油性などに優れ、外観、意匠性の良好な成形体が得られた。また、この加飾シート10Bおよび成形体の加工時に、白化、割れは発生しなかった。
【0017】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の加飾シートの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の加飾シートの他の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の加飾シートの他の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0019】
10A,10B,10C 加飾シート
11 基材シート
12a 絵柄層
14 表面シート
15 着色層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの少なくとも片面側に、アイオノマー樹脂を10〜90質量%含有する樹脂組成物からなる表面シートを備えていることを特徴とする加飾シート。
【請求項2】
前記アイオノマー樹脂は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を金属イオンで部分中和したものであることを特徴とする請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
前記基材シートと前記表面シートとの間には、絵柄層または着色層の少なくとも一方が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の加飾シート。
【請求項4】
前記着色層は、少なくともアイオノマー樹脂と顔料とを含有する着色組成物から形成されていることを特徴とする請求項3に記載の加飾シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−62290(P2006−62290A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249992(P2004−249992)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】