説明

加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体及び加飾フィルム

【課題】 紫外線照射工程を必要とせず、基材の形状に追随し、基材の部位による塗膜の物性の差が少ない加飾フィルムを提供する。
【解決手段】 ウレタン樹脂(U)と架橋剤(L)を含有する加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体であって、前記ウレタン樹脂(U)は、下記(1)〜(5)を満たすことが好ましい。
(1)(U)中の末端アミノ基含量が(U)の重量に基づいて0〜0.35mmol/gである。
(2)(U)の数平均分子量(Mn)が1万〜100万である。
(3)(U)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比が1.5〜3.5である。
(4)(U)の体積平均粒子径(Dv)が0.01〜1μmである。
(5)(U)の破断伸びが200%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルム加飾法によって成型品を加飾する際に用いられる加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体及び加飾フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属製品、プラスチック製品及び木製品等の成型品には、耐久性や意匠性の付与を目的として、成型品表面に塗膜を形成する塗装処理を行うことがある。塗装処理法としては主にスプレー塗装、浸漬塗装法が広く用いられている。しかし、スプレー塗装や浸漬塗装法は、塗装工程及び乾燥工程を繰り返し行う多段階工程を伴うため、工程時間が長くなると共に工程管理が煩雑となる。また、塗装工程や乾燥工程で揮発性物質が発生する等の環境上の問題もある。
【0003】
そこで上記スプレー塗装や浸漬塗装に代わる塗膜形成法として、複数の層が積層してなる加飾フィルムを用いて被塗装物を塗装するフィルム加飾法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。このフィルム加飾法では、被塗装物表面に加飾フィルムを密着するように被覆する。そのため、上記スプレー塗装法や浸漬塗装法のように、塗装に際して多段階の工程が必要ではなく、また、工程時間も短くなり、揮発性物質の発生も抑制することができる。しかしながら、前記従来の加飾フィルムは、フィルム形成にアクリル系紫外線硬化樹脂を用いるため、成型品上に被覆した後紫外線を照射する工程が必要であり、凹部の硬化性、経済性共に十分なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−79796号公報
【特許文献2】特開2005−255781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、紫外線照射工程を必要とせず、基材の形状に追随し、基材の部位による塗膜の物性の差が少ない加飾フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。即ち本発明は、ウレタン樹脂(U)と架橋剤(L)を含有する加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体並びにガードフィルム(G)上に少なくとも該加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体を乾燥して得られるクリヤー層(F)及び接着層(A)を有してなる加飾フィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の加飾フィルムを用いることにより、紫外線照射工程を必要とせず、凹凸等のある基材に適用しても均一な物性を有する塗膜が得られる。また、基材の形状に追随して均一に伸長し、均一な膜厚で加飾を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体は、ウレタン樹脂(U)と架橋剤(L)を含有する。また、本発明の加飾フィルムは、ガードフィルム(G)上に少なくとも前記ウレタン樹脂水性分散体を塗布後乾燥してクリヤー層(F)を形成し、その上に接着層(A)を形成することにより得られる。クリヤー層(F)は1層であってもよいし、成分の異なる複数の層からなっていてもよい。また、クリヤー層(F)と接着層(A)の間に着色剤を含有する着色層を設けることもできる。
【0009】
本発明の加飾フィルムを基材にセットして真空成型等により基材に密着させた後、加熱処理することにより加飾された成型品が得られる。尚、ガードフィルム(G)は加熱処理の前に剥がしてもよいし、加熱処理後に剥がしてもよい。本発明の加飾フィルムを使用した場合、クリヤー層(F)が適度な破断伸びを有することから、真空成型等により基材に密着させる際に基材への追随性に優れ、その後の加熱処理により、クリヤー層(F)中のウレタン樹脂(U)と架橋剤(L)が反応して高強度・高硬度の塗膜が得られる。
【0010】
本発明におけるウレタン樹脂(U)は、ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)及びカルボキシル基と活性水素原子を含有する化合物(c)を必須成分とし、更に必要により、親水性基と活性水素原子を含有する化合物(d)、鎖伸長剤(e)及び反応停止剤(f)を反応させることにより製造される。
【0011】
ポリオール(a)としては、数平均分子量(以下、Mnと略記)300以上の高分子ポリオール(a1)及びMn300未満の低分子ポリオール(a2)が挙げられる。
尚、本発明におけるポリオールのMnはポリエチレングリコールを標準としてゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるものである。但し、低分子ポリオールのMnは化学式からの計算値である。
【0012】
Mn300以上の高分子ポリオール(a1)としては、ポリエーテルポリオール(a11)及びポリエステルポリオール(a12)等が挙げられる。
【0013】
ポリエーテルポリオール(a11)としては、脂肪族ポリエーテルポリオール及び芳香族環含有ポリエーテルポリオール等が挙げられる。
【0014】
脂肪族ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリオキシエチレンポリオール[ポリエチレングリコール(以下、PEGと略記)等]、ポリオキシプロピレンポリオール[ポリプロピレングリコール等]、ポリオキシエチレン/プロピレンポリオール及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0015】
脂肪族ポリエーテルポリオールの市販品としては、PTMG1000[Mn=1,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール、三菱化学(株)製]、PTMG2000[Mn=2,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール、三菱化学(株)製]、PTMG3000[Mn=3,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール、三菱化学(株)製]及びサンニックスジオールGP−3000[Mn=3,000のポリプロピレンエーテルトリオール、三洋化成工業(株)製]等が挙げられる。
【0016】
芳香族ポリエーテルポリオールとしては、例えばビスフェノールAのエチレンオキサイド(以下、EOと略記)付加物[ビスフェノールAのEO2モル付加物、ビスフェノールAのEO4モル付加物、ビスフェノールAのEO6モル付加物、ビスフェノールAのEO8モル付加物、ビスフェノールAのEO10モル付加物及びビスフェノールAのEO20モル付加物等]及びビスフェノールAのプロピレンオキサイド(以下、POと略記)付加物[ビスフェノールAのPO2モル付加物、ビスフェノールAのPO3モル付加物、ビスフェノールAのPO5モル付加物等]等のビスフェノール骨格を有するポリオール並びにレゾルシンのEO又はPO付加物等が挙げられる。
【0017】
ポリエステルポリオール(a12)としては、縮合型ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール及びヒマシ油系ポリオール等が挙げられる。
【0018】
縮合型ポリエステルポリオールは、低分子量(Mn300未満)多価アルコールと炭素数2〜10の多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体とのポリエステルポリオールである。
低分子量多価アルコールとしては、Mn300未満の2価〜8価又はそれ以上の脂肪族多価アルコール及びMn300未満の2価〜8価又はそれ以上のフェノールのアルキレンオキサイド(EO、PO、1,2−、1,3−、2,3−又は1,4−ブチレンオキサイド等を表し、以下AOと略記)低モル付加物が使用できる。
縮合型ポリエステルポリオールに使用できる低分子量多価アルコールの内好ましいのは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、ビスフェノールAのEO又はPO低モル付加物及びこれらの併用である。
【0019】
縮合型ポリエステルポリオールに使用できる炭素数2〜10の多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フマル酸及びマレイン酸等)、脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸等)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸及びフタル酸等)、3価又はそれ以上のポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)、これらの無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸及び無水トリメリット酸等)、これらの酸ハロゲン化物(アジピン酸ジクロライド等)、これらの低分子量アルキルエステル(コハク酸ジメチル及びフタル酸ジメチル等)並びこれらの併用が挙げられる。
【0020】
縮合型ポリエステルポリオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンイソフタレートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール、ポリ(3−メチルペンチレンアジペート)ジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール、ポリブチレンセバケートジオール及びポリネオペンチルテレフタレートジオール等が挙げられる。
【0021】
ポリラクトンポリオールは、上記低分子量多価アルコールへのラクトンの重付加物であり、ラクトンとしては、炭素数4〜12のラクトン(例えばγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン及びε−カプロラクトン)等が挙げられる。
ポリラクトンポリオールの具体例としては、例えばポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール及びポリカプロラクトントリオール等が挙げられる。
【0022】
ポリカーボネートポリオールとしては、上記低分子量多価アルコールと、低分子カーボネート化合物(例えば、アルキル基の炭素数1〜6のジアルキルカーボネート、炭素数2〜6のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート及び炭素数6〜9のアリール基を有するジアリールカーボネート)とを、脱アルコール反応させながら縮合させることによって製造されるポリカーボネートポリオール等が挙げられる。低分子量多価アルコール及びアルキレンカーボネートはそれぞれ2種以上併用してもよい。
【0023】
ポリカーボネートポリオールの具体例としては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール及びポリ(テトラメチレン/ヘキサメチレン)カーボネートジオール(例えば1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールをジアルキルカーボネートと脱アルコール反応させながら縮合させて得られるジオール)等が挙げられる。
【0024】
ポリカーボネートポリオールの市販品としては、ニッポラン980R[Mn=2,000のポリヘキサメチレンカーボネートジオール、日本ポリウレタン工業(株)製]及びデュラノールG4672[Mn=2,000のポリ(テトラメチレン/ヘキサメチレン)カーボネートジオール、旭化成ケミカルズ(株)製]等が挙げられる。
【0025】
ヒマシ油系ポリオールには、ヒマシ油、及びポリオール又はAOで変性された変性ヒマシ油が含まれる。変性ヒマシ油はヒマシ油とポリオールとのエステル交換及び/又はAO付加により製造できる。ヒマシ油系ポリオールとしては、ヒマシ油、トリメチロールプロパン変性ヒマシ油、ペンタエリスリトール変性ヒマシ油、ヒマシ油のEO(4〜30モル)付加物等が挙げられる。
【0026】
高分子ポリオール(a1)のMnは、ポリウレタン樹脂(U)の機械物性の観点から、通常300以上、好ましくは300〜10,000、更に好ましくは300〜6,000である。
【0027】
Mn300未満の低分子ポリオール(a2)としては、脂肪族2価アルコール、脂肪族3価アルコール及び4価以上の脂肪族アルコールが挙げられる。(a2)の内、耐水性、耐熱黄変性の観点から好ましいのは、2〜3価の脂肪族アルコールであり、脂肪族2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6−ヘキサンジオールが特に好ましく、脂肪族3価アルコールとしては、トリメチロールプロパンが特に好ましい。
【0028】
ウレタン樹脂(U)の必須構成成分であるポリイソシアネート(b)としては、従来ウレタン樹脂製造に使用されているものが使用できる。ポリイソシアネート(b)としては、2〜3個又はそれ以上のイソシアネート基を有する炭素数6〜20(イソシアネート基中の炭素を除く、以下同様)の芳香族ポリイソシアネート(b1)、炭素数2〜18の脂肪族ポリイソシアネート(b2)、炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネート(b3)、炭素数8〜15の芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)及び(b1)〜(b4)の誘導体(例えばイソシアヌレート化物)が挙げられる。
【0029】
炭素数6〜20の芳香族ポリイソシアネート(b1)としては、例えば1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4’’−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−又はp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、クルードMDI等が挙げられる。
【0030】
炭素数2〜18の脂肪族ポリイソシアネート(b2)としては、例えばエチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート等が挙げられる。
【0031】
炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネート(b3)としては、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−又は2,6−ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0032】
炭素数8〜15の芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)としては、例えばm−及び/又はp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が挙げられる。
【0033】
ポリイソシアネート(b)の内、得られる皮膜の機械的物性、耐候性の観点から好ましいのは(b2)及び(b3)、更に好ましいのは(b3)、特に好ましいのはIPDI及び水添MDIである。
【0034】
カルボキシル基と活性水素原子を含有する化合物(c)としては、カルボキシル基を含有する炭素数が2〜10の化合物[ジアルキロールアルカン酸(例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸及び2,2−ジメチロールオクタン酸)、酒石酸及びアミノ酸(例えばグリシン、アラニン及びバリン)等]等が挙げられる。
【0035】
ウレタン樹脂(U)の構成成分としてカルボキシル基と活性水素原子を含有する化合物(c)を使用することにより、(c)中のカルボキシル基と後述の架橋剤(L)とが架橋反応して高強度・高硬度の皮膜を得ることができる。
【0036】
(c)の使用量は、使用する架橋剤(L)の種類と量により適宜選択することができるが、(U)の重量に基づいて、10〜50重量%であることが好ましく、更に好ましくは20〜30重量%である。
【0037】
親水性基と活性水素原子を含有する化合物(d)としては、アニオン性基と活性水素原子を含有する化合物(d1)及びカチオン性基と活性水素原子を含有する化合物(d2)が挙げられる。
(d1)としては、例えばアニオン性基としてカルボキシル基を含有し、炭素数が2〜10の化合物[上記カルボキシル基と活性水素原子を含有する化合物(c)と同様のもの]、アニオン性基としてスルホン酸基を含有し、炭素数が2〜16の化合物[3−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−1−プロパンスルホン酸及びスルホイソフタル酸ジ(エチレングリコール)エステル等]、アニオン性基としてスルファミン酸基を含有し、炭素数が2〜10の化合物[N,N−ビス(2−ヒドロキシルエチル)スルファミン酸等]等並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0038】
カルボキシル基と活性水素原子を含有する化合物(c)は上述の通り、ウレタン樹脂(U)に反応性基(カルボキシル基)を導入するために必須であると共に、ウレタン樹脂(U)に親水性を付与するためにも使用することができる。
【0039】
(d1)の内、得られる皮膜の樹脂物性及びポリウレタン樹脂水分散体の分散安定性の観点から好ましいのは、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸及びこれらの塩類である。
【0040】
(d1)の塩に用いられる中和剤としては、例えばアンモニア、炭素数1〜20のアミン化合物及びアルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等)が挙げられる。
炭素数1〜20のアミン化合物としては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン及びモノエタノールアミン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン及びジイソプロパノールアミン、メチルプロパノールアミン等の2級アミン並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルモノエタノールアミン及びトリエタノールアミン等の3級アミンが挙げられる。
【0041】
(d1)の塩に用いられる中和剤としては、生成するポリウレタン樹脂水分散体の乾燥性及び得られる皮膜の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点から、(d1)の塩に用いられる中和剤としては、アンモニアが最も好ましい。
【0042】
カチオン性基と活性水素原子を含有する化合物(d2)としては、例えば炭素数1〜20の3級アミノ基含有ジオール[N−アルキルジアルカノールアミン(例えばN−メチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン及びN−メチルジプロパノールアミン)及びN,N−ジアルキルモノアルカノールアミン(例えばN,N−ジメチルエタノールアミン)等]等の化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0043】
(d1)及び(d2)に用いられる中和剤は、ウレタン化反応前、ウレタン化反応中、ウレタン化反応後、水分散工程前、水分散工程中又は水分散後のいずれの時期に添加しても良いが、ウレタン樹脂の安定性及び水分散体の安定性の観点から、水分散工程前又は水分散工程中に添加することが好ましい。
【0044】
(d)の使用量は、(U)中の親水性基の含有量が、(U)の重量に基づいて、0.01〜5重量%となることが好ましく、更に好ましくは0.1〜4重量%、特に好ましくは1〜3重量%である。尚、(d)として(c)を使用する場合、上記含有量は反応性基を付与するための(c)の必要量を除いた値である。
【0045】
本発明における親水性基の含有量とは、未中和のカチオン性基又はアニオン性基の重量%を意味し、対イオンの重量は含まない。例えば、(d1)における親水性基の含有量は、2,2−ジメチロールプロピオン酸のトリエチルアミン塩の場合は、カルボキシル基(−COOH)の重量%を、3−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−1−プロパンスルホン酸のトリエチルアミン塩の場合はスルホ基(−SO3H)の重量%を指す。また、(d2)における親水性基の含有量は、3級アミノ基中の窒素原子のみの重量%を指す。
【0046】
鎖伸長剤(e)としては、水、炭素数2〜10のジアミン類(例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、トルエンジアミン及びピペラジン)、炭素数2〜10のポリアルキレンポリアミン類(例えばジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミン)、ヒドラジン又はその誘導体(二塩基酸ジヒドラジド例えばアジピン酸ジヒドラジド等)及び炭素数2〜10のアミノアルコール類(例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール及びトリエタノールアミン)等が挙げられる。
【0047】
反応停止剤(f)としては、炭素数1〜8のモノアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、セロソルブ類及びカルビトール類等)、炭素数1〜10のモノアミン類(モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン及びモノオクチルアミン等のモノ又はジアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びジイソプロパノールアミン等のモノ又はジアルカノールアミン等)が挙げられる。
【0048】
(e)及び(f)の使用量は、(U)のMn、末端アミノ基含量及びウレア基含量に影響するため、本発明の効果を損ねない範囲で使用する必要がある。具体的には、(U)のMnが後述の値となるように、また、アミン化合物を使用する場合は、(U)の末端アミノ基含量が後述の値となる範囲で使用する必要がある。また、(U)中のウレア基含量が後述の値となる量を使用することが好ましい。
ウレタン樹脂は、単独で用いても、2種類以上を併用してもかまわない。
【0049】
本発明におけるウレタン樹脂水分散体は、(U)の分散性及び水分散体の安定性の観点から、(U)を分散剤(h)の存在下で水に分散させてもよい。
【0050】
分散剤(h)としては、ノニオン性界面活性剤(h1)、アニオン性界面活性剤(h2)、カチオン性界面活性剤(h3)、両性界面活性剤(h4)及びその他の乳化分散剤(h5)が挙げられる。(h)は単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。
【0051】
(h)の含有量はウレタン樹脂(U)の重量に基づいて通常0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは1〜5重量%である。
(U)は親水性基を有したウレタン樹脂である場合は、(U)の重量に基づく(d)の含有量と(h)の含有量の合計量は、通常0.3〜20重量%、好ましくは0.6〜10重量%、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0052】
本発明におけるウレタン樹脂(U)は、必要により酸化防止剤、着色防止剤、耐候安定剤、可塑剤及び離型剤等の添加剤を含有することができる。これらの添加剤の使用量は(U)の重量に基づいて通常10重量%以下、更に好ましくは3重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0053】
本発明において、ウレタン樹脂(U)中のウレタン基含量は、得られる皮膜の機械的物性、耐久性、耐薬品性及び耐磨耗性等の観点から、(U)の重量に基づいて、好ましくは0.5〜5.0mmol/g、更に好ましくは0.8〜4.2mmol/g、特に好ましくは1.1〜3.4mmol/gである。
【0054】
ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)、カルボキシル基と活性水素原子を含有する化合物(c)並びに必要により使用する親水性基と活性水素原子を含有する化合物(d)、鎖伸長剤(e)及び反応停止剤(f)の量を適宜調整することにより、ウレタン樹脂(U)のウレタン基含量を所望の範囲とすることができる。
【0055】
ポリウレタン樹脂(U)のウレタン基含量及びウレア基含量は、窒素分析計[ANTEK7000(アンテック社製)]によって定量されるN原子含量と1H−NMRによって定量されるウレタン基とウレア基の比率及び後述のアロハネート基及びビューレット基含量から算出する。1H−NMR測定については、「NMRによるポリウレタン樹脂の構造研究:武田研究所報34(2)、224−323(1975)」に記載の方法で行う。すなわち1H−NMRを測定して、脂肪族を使用した場合、化学シフト6ppm付近のウレア基由来の水素の積分量と化学シフト7ppm付近のウレタン基由来の水素の積分量の比率からウレア基とウレタン基の重量比を測定し、該重量比と上記のN原子含量及びアロハネート基及びビューレット基含量からウレタン基及びウレア基含量を算出する。芳香族イソシアネートを使用した場合、化学シフト8ppm付近のウレア基由来の水素の積分量と化学シフト9ppm付近のウレタン基由来の水素の積分量の比率からウレア基とウレタン基の重量比を算出し、該重量比と上記のN原子含量からウレア基含量を算出する。
【0056】
一般にポリウレタン樹脂の分子末端は、原料の水酸基に由来する水酸基、又はイソシアネート基と水の反応若しくは原料のアミノ基に由来するアミノ基となる。また、ポリウレタン樹脂(U)を水中に分散する工程において、ウレタン基、ウレア基、アロハネート基又はビューレット基が加水分解することで、末端アミノ基が生成する。この末端アミノ基は末端水酸基と比較して耐水性が悪いため、末端アミノ基の含量が高いポリウレタン樹脂は耐水性が劣る傾向がある。
従って、本発明において、ウレタン樹脂(U)中の末端アミノ基含量は、耐水性の観点から、(U)の重量に基づいて好ましくは0〜0.35mmol/g、更に好ましくは0〜0.2mmol/g、特に好ましくは0〜0.15mmol/g、最も好ましくは0〜0.1mmol/gである。
【0057】
ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)、カルボキシル基と活性水素原子を含有する化合物(c)並びに必要により使用する親水性基と活性水素原子を含有する化合物(d)、鎖伸長剤(e)及び反応停止剤(f)の量を適宜調整することにより、ウレタン樹脂(U)の末端アミノ基含量を所望の範囲にすることができる。
【0058】
ウレタン樹脂(U)の末端アミノ基含量は、以下の方法でポリウレタン樹脂の全アミン価及び3級アミン価を求めて、次式により末端アミノ基含量(mmol/g)を算出する。
末端アミノ基含量(mmol/g)=(全アミン価−3級アミン価)/56.1
(1)全アミン価
100mlのフラスコ中でトルエン50mlにポリウレタン樹脂を溶解後、無水酢酸20mlを加えて、キシレンシアノールFF・メチルオレンジ混合指示薬を用いて、0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液で滴定を行い(終点は、指示薬の色が緑色から赤褐色になった点)滴定ml数を読み取り、次式により全アミン価を算出する。
全アミン価=a ×f/ (S×28.05)
a:0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液の滴定ml数。
f:0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液の力価。
S:ポリウレタン樹脂採取量(g)
(2)3級アミン価
100mlのフラスコ中でトルエン50mlにウレタン樹脂を溶解後、無水酢酸20mlを加えてよく振とうし、30分間室温にて放置。キシレンシアノールFF・メチルオレンジ混合指示薬を用いて、0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液で滴定を行い(終点は、指示薬の色が緑色から赤褐色になった点)滴定ml数を読み取り、次式により3級アミン価を算出する。
3級アミン価=a ×f/ (S×28.05)
a:0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液の滴定ml数
f:0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液の力価
S:ウレタン樹脂採取量(g)
【0059】
本発明において、ウレタン樹脂(U)中のウレア基含量は、造膜性及び得られる皮膜の耐水性の観点から、(U)の重量に基づいて2.0mmol/g以下であることが好ましく、更に好ましくは0.2mmol/g以下、特に好ましくは0.1mmol/g以下、とりわけ好ましくは0.05mmol/g以下、最も好ましくは0.02mmol/g以下である。
【0060】
ウレタン樹脂(U)中のウレア基含量を所望の範囲とするには、(U)の原料中のアミノ基含量、水分含量及びイソシアネート基含量を適宜調整すればよい。
【0061】
本発明において、ウレタン樹脂(U)中のアロハネート基及びビューレット基の含有量の合計値は、造膜性及び得られる皮膜の耐水性の観点から、(U)の重量に基づいて0.1mmol/g以下であることが好ましく、更に好ましくは0.03mmol/g以下、特に好ましくは0.01mmol/g以下、とりわけ好ましくは0.003mmol/g以下、最も好ましくは0.001mmol/g以下である。
【0062】
ウレタン樹脂(U)のアロハネート基及びビューレット基の含有量の合計値を所望の範囲とするには、(U)の原料中のアミノ基含量、水酸基及びアミノ基の当量に対するイソシアネート基の当量の比、ウレタン化反応温度等を適宜調整すればよい。特に、反応温度については、120℃以下又は180℃以上とすることによりアロハネート基及びビューレット基の生成を抑えることができる。
【0063】
ウレタン樹脂(U)のアロハネート基及びビューレット基の含量の合計は、ガスクロマトグラフ[Shimadzu GC−9A{島津製作所(株)製}]によって算出する。0.01重量%のジ−n−ブチルアミンと0.01重量%のナフタレン(内部標準)とを含む50gのDMF溶液を調整し、サンプルを共栓付き試験管に測り取り、上記のDMF溶液を2g加え、試験管を90℃の恒温水槽で2時間加熱する。常温に冷却後、10μlの無水酢酸を加え10分間振とう攪拌し、更に50μlのジ−n−プロピルアミンを添加して、10分間振とう後、ガスクロマトグラフ測定を行う。並行してブランク測定を行い、試験値との差よりアミンの消費量を求め、アロハネート基及びビューレット基の含量の合計を測定する。
[ガスクロマトグラフ条件]
装置 :Shimadzu GC−9A
カラム:10%PEG−20M on Chromosorb WAW DMLS 60/80meshガラスカラム 3mmφ×2m
カラム温度:160℃、試料導入部温度:200℃、キャリアガス:窒素 40ml/分
検出器:FID、試料注入量:2μl
[アロハネート基及びビューレット基の含量の合計の算出式]
アロハネート基及びビューレット基の含量の合計={(B−A)/B}×0.00155/S
A:試料の(ジ−n−ブチルアセトアミドのピーク面積/ナフタレンのピーク面積)
B:ブランクの(ジ−n−ブチルアセトアミドのピーク面積/ナフタレンのピーク面積)
S:ウレタン樹脂採取量(g)
【0064】
本発明において、ウレタン樹脂(U)の水への分散前の末端イソシアネート基含量は、(U)の重量に基づいて好ましくは0.2mmol/g以下、更に好ましくは0.15mmol/g以下、特に好ましくは0.1mmol/g以下、最も好ましくは0.05mmol/g以下である。この範囲であれば、水への分散後の(U)のウレア基及び末端アミノ基含量を目標の範囲とすることができるため、本発明の効果を十分に発揮できる。
【0065】
水への分散前の(U)の末端イソシアネート基含量は、主に(U)の原料中のイソシアネート基の当量数と水酸基、アミノ基及び水の合計当量数の比並びにウレタン化反応の反応率によって制御することが可能である。
【0066】
本発明において、ウレタン樹脂(U)のMnは、得られる皮膜の機械的物性、耐久性、耐薬品性及び耐磨耗性等の観点から、1万〜100万であることが好ましく、更に好ましくは1万〜50万、特に好ましくは1万〜20万、最も好ましくは1万〜10万である。
【0067】
ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)、カルボキシル基と活性水素原子を含有する化合物(c)並びに必要により使用する親水性基と活性水素原子を含有する化合物(d)、鎖伸長剤(e)及び反応停止剤(f)の量を適宜調整することにより、ウレタン樹脂(U)のMnを所望の範囲にすることができる。
【0068】
本発明において、ウレタン樹脂(U)の重量平均分子量(以下、Mwと略記)とMnの比(Mw/Mn)は、造膜性の観点から、好ましくは1.5〜3.5、更に好ましくは1.75〜3.25、特に好ましくは2.0〜3.0である。
【0069】
ウレタン樹脂(U)のMw/Mnは、(U)のウレタン化反応の均一性に関する条件(例えば撹拌・混合)等を適宜調整することにより、所定の範囲にすることができる。
【0070】
ウレタン樹脂(U)のMnとMwはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。ウレタン樹脂(U)をDMF中にポリウレタン樹脂固形分が0.0125重量%となるように加えて、常温で1時間撹拌溶解後、0.3μmの孔径のフィルターでろ過して、得られたろ液に含まれているウレタン樹脂のMwとMnを、DMFを溶媒として、また、ポリスチレンを分子量標準として用いることで測定される。
【0071】
本発明において、ウレタン樹脂(U)の体積平均粒子径(Dv)は、ウレタン樹脂水分散体の分散安定性の観点から、好ましくは0.01〜1μmであり、更に好ましくは0.02〜0.7μm、特に好ましくは0.03〜0.4μmである。
【0072】
ウレタン樹脂(U)の体積平均粒子径(Dv)は、ウレタン樹脂(U)中の親水性基、分散剤量及び分散工程で使用する分散機の種類及び運転条件によって決まる。従って、(U)の体積平均粒子径(Dv)を所望の範囲とするためには、分散工程において、後述の回転式分散機、超音波式分散機及び混練機から選択される装置を用いると共に、(U)中の親水性基の含有量と分散剤(h)の含有量を適宜調整すればよい。
【0073】
体積平均粒子径(Dv)はウレタン樹脂(U)の水性分散体を、イオン交換水でポリウレタン樹脂の固形分が0.01重量%となるよう希釈した後、光散乱粒度分布測定装置[ELS−8000{大塚電子(株)製}]を用いて測定される。
【0074】
ウレタン樹脂(U)の破断伸びは、基材への追随性の観点から25℃の温度条件下にて200%以上であることが好ましく、更に好ましくは200〜1000%、特に好ましくは300〜500%である。
ウレタン樹脂(U)の破断伸びは、ウレタン樹脂(U)の水性分散体を乾燥後の膜厚が200μmとなるようにモールドに流し込み、105℃で3時間乾燥して得られるフィルムを、JIS K 6251に準じてダンベル状3号形で切り抜き後、島津製作所製オートグラフAGS−500Bを用いて引っ張り速度500mm/minの条件で測定することができる。
【0075】
ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)、カルボキシル基と活性水素原子を含有する化合物(c)並びに必要により使用する親水性基と活性水素原子を含有する化合物(d)、鎖伸長剤(e)及び反応停止剤(f)の種類及び量を適宜調整することにより、ウレタン樹脂(U)の破断伸びを所望の範囲とすることができる。
【0076】
本発明において、ウレタン樹脂(U)は、ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)、カルボキシル基と活性水素原子を含有する化合物(c)並びに必要により使用する親水性基と活性水素原子を含有する化合物(d)、鎖伸長剤(e)及び反応停止剤(f)を、加熱可能な設備で加熱して反応することで得られる。例えば、容器中に(U)の原料を仕込んで均一撹拌後、加熱乾燥機や加熱炉で無撹拌下に加熱する方法や、簡易加圧反応装置(オートクレーブ)、コルベン、一軸若しくは二軸の混練機、プラストミル又は万能混練機等で、攪拌又は混練しながら加熱して反応する方法等が挙げられる。なかでも、攪拌又は混練しながら加熱して反応する方法は、得られるウレタン樹脂(U)の均質性が高くなり、得られる皮膜の機械的物性、耐久性、耐薬品性及び耐磨耗性等がより優れる傾向があるため好ましい。攪拌又は混練しながら加熱して反応する方法の中でも、攪拌強度及び加熱能力に優れている一軸又は二軸の混練機が好ましい。一軸又は二軸の混練機としては、コンティニアスニーダー[栗本鐵工(株)製]、一軸混練機及び二軸押出機等が例示される。
【0077】
ウレタン樹脂(U)を製造する際の反応温度は、100〜250℃が好ましく、更に好ましくは100〜120℃又は180〜240℃、最も好ましくは190〜230℃である。また、(U)を製造する際の時間は、使用する設備により適宜選択することができるが、一般的に1分〜100時間が好ましく、更に好ましくは3分〜30時間であり、特に好ましくは5分〜10時間である。この範囲であれば、本発明の効果を十分に発揮できる(U)が得られる。
【0078】
ウレタン化反応速度をコントロールするために、公知の反応触媒(オクチル酸錫及びビスマスオクチル酸塩等)及び反応遅延剤(リン酸等)等を使用することができる。これらの触媒又は反応遅延剤の添加量は、(U)の重量に基づき、好ましくは0.001〜3重量%、更に好ましくは0.005〜2重量%、特に好ましくは0.01〜1重量%である。
【0079】
本発明の加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体は、上記ウレタン樹脂(U)の水性分散体に架橋剤(L)を添加して得ることができる。
【0080】
ウレタン樹脂(U)の水性分散体は、上記のウレタン樹脂(U)を中和剤で中和した後あるいは中和しながら水分散させることで製造することができる。具体的には、例えば分散混合装置として回転式分散混合装置を用いてウレタン樹脂(U)の溶融温度未満の温度で水中に分散させる方法が挙げられる。
【0081】
上記方法を用いる場合、ウレタン樹脂(U)は、70〜280℃の溶融温度を有し、通常は室温では固状であり、25℃で好ましくは0.2〜50mm、更に好ましくは0.5〜30mm、特に好ましくは1〜10mmの体積平均粒子径を有する粒子状物であることが、回転式分散混合装置に供給し易いという観点から好ましい。
【0082】
ウレタン樹脂(U)を粒子状に調整する手段としては、裁断、ペレット化、粒子化又は粉砕する等の手段を用いることができる。この粒子状への調整は、水中又は水の非存在下において実施することができる。例えば、シート状に圧延したウレタン樹脂(U)を角形ペレット機[(株)ホーライ製]で粒子状にするという方法が挙げられる。
【0083】
粒子状に調整されたウレタン樹脂(U)を、水と共に回転式分散混合装置に導入するが、この装置の主たる分散原理は、駆動部の回転等によって粒子に外部から剪断力を与えて粉砕し、分散させるという原理である。またこの装置は、常圧又は加圧下で稼働させることができる。
【0084】
回転式分散混合装置としては、例えばTKホモミキサー[プライミクス(株)製]、クレアミックス[エムテクニック(株)製]、フィルミックス[プライミクス(株)製]、ウルトラターラックス[IKA(株)製]、エバラマイルダー[荏原製作所(株)製]、キャビトロン(ユーロテック社製)及びバイオミキサー[日本精機(株)製]が挙げられ、これらの2種類以上の装置を併用してもかまわない。
【0085】
回転式分散混合装置を用いてウレタン樹脂(U)を分散混合処理する際の分散液の温度としては、分散体であるウレタン樹脂(U)の分解や劣化等を防ぐ観点から、ウレタン樹脂(U)の溶融温度未満、好ましくは溶融温度よりも5℃以上低い温度で室温以上の温度、更に好ましくは溶融温度よりも10〜120℃低い温度で室温以上の温度が、分散効率及び分解・劣化抑制の観点から好ましい。
【0086】
ウレタン樹脂(U)と水との回転式分散混合装置内の滞留時間は、分解・劣化抑制の観点から通常、0.1〜60分、好ましくは10〜30分である。
【0087】
上記ウレタン樹脂(U)の水性分散体の製造方法では、従来のプレポリマーミキシング法のように末端イソシアネートプレポリマーを中和する必要が無いので、アンモニア、第1級アミン又は第2級アミンを中和剤に用いても高分子量のポリウレタン樹脂(U)が分散した水性分散体を得ることができる。
【0088】
本発明における架橋剤(L)としては、水系オキサゾリン系架橋剤(水溶性オキサゾリン基含有樹脂及び水系オキサゾリン基含有エマルジョン等)、水系(ポリ)カルボジイミド系架橋剤(水溶性カルボジイミド基含有樹脂及び水系カルボジイミド基含有エマルジョン等)及び水系エポキシ樹脂系架橋剤(水溶性エポキシ基含有樹脂及び水系エポキシ基含有エマルジョン等)等のカルボキシル基と反応性のある架橋剤が挙げられる。これらの内、貯蔵安定性及び反応性の観点から好ましいのは水系(ポリ)カルボジイミド系架橋剤であり、更に好ましいのはイミド当量100〜700の脂肪族カルボジイミド系架橋剤である。
【0089】
架橋剤(L)の市販品としては、例えば水系(ポリ)カルボジイミド系架橋剤としてカルボジライトE−02[日清紡(株)製]、水系エポキシ樹脂系架橋剤としてデナコールEX−411[ナガセケムテックス(株)製]等がある。
【0090】
ウレタン樹脂(U)と架橋剤(L)の重量比率[(U):(L)]は、硬化皮膜の物性の観点から、好ましくは50:50〜99:1であり、更に好ましくは60:40〜90:10である。
【0091】
本発明の加飾フィルムは、ガードフィルム(G)上に、少なくとも本発明の加飾性フィルム用ウレタン樹脂水性分散体を塗布後乾燥してクリヤー層(F)を形成し、更に接着層(A)を形成することにより得られる。
クリヤー層(F)を形成する際の乾燥条件は、クリヤー層(F)中のウレタン樹脂(U)と架橋剤(L)の反応を抑制できる条件であれば特に限定されないが、生産性の観点からは25〜100℃の温度条件下で1〜30分間が好ましく、更に好ましくは60〜100℃の温度条件下で3〜15分間である。
【0092】
クリヤー層(F)は、基材を加飾フィルムで加飾した加飾成型体に、硬さ、不粘着性、耐溶剤性、耐薬品性、耐候性、耐傷付性、耐衝撃性及び耐水性等の物理的・化学的特性を付与すると共に、透明性、光沢性、平滑性を発現させるものである。
【0093】
クリヤー層(F)の破断伸びは、基材への追随性の観点から25℃の温度条件下にて200%以上であることが望ましく、更に好ましくは200〜1000%、特に好ましくは300〜500%である。
【0094】
クリヤー層(F)の膜厚は、強度の観点から5〜100μmであることが好ましく、更に好ましくは10〜80μmである。
【0095】
加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体のガードフィルム(G)への塗布方法としては、例えばアプリケータ、バーコータ及びダイコータ等が挙げられ、この内アプリケータを用いた塗装が特に好ましい。
【0096】
本発明の加飾フィルムにより基材を加飾する際、加飾フィルムを基材にセットして真空成型等により基材に密着させた後、加熱処理することによりクリヤー層(F)中のウレタン樹脂(U)と架橋剤(L)を反応させて、加飾された成型品が得られる。尚、ガードフィルム(G)は加熱処理の前に剥がしてもよいし、加熱処理後に剥がしてもよい。上記加熱処理条件としては、100〜180℃の温度条件下で0.5〜60分間が好ましく、更に好ましくは100〜140℃の温度条件下で1〜40分間である。
【0097】
本発明におけるガードフィルム(G)はクリヤー層(F)及び接着層(A)等を担持するための担持体であり、基材に加飾を施す際の作業性を良好に保つために用いられる。
【0098】
ガードフィルム(G)の材質や形態は特に限定されないが、例えばルミラーS−10[東レ(株)製]、ノバクリア(登録商標)SG007[商品名、三菱化学(株)製]、ディアクレール(登録商標)シリーズ[三菱樹脂(株)製]等のポリエチレンテレフタレート(PET)系フィルム等が挙げられる。
【0099】
ガードフィルム(G)の水に対する接触角は60°以上であることが好ましい。接触角が60°未満であると、クリヤー層(F)及び接着層(A)等からなるフィルムが剥離し難くなる。
【0100】
本発明における接着層(A)としては、例えばアクリル樹脂系ポリマー、ポリウレタン系ポリマ−、ガンフッ素系ポリマー、ポリカーボネート、PVC系ポリマー、ABS、PET又はPBT等のフィルム等が挙げられる。
【0101】
本発明の加飾フィルムにおいては、本発明の加飾用ウレタン樹脂水性分散体を乾燥して得られる塗膜のみでも十分な硬度を得ることができるが、必要によってはフィラー等を配合することで更に硬度を向上させることができる。フィラーとしてはコロイダルシリカ[スノーテックスC及びスノーテックス20:日産化学工業(株)製]等が挙げられる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を以て本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、部は重量部を意味する。
実施例1
[ウレタン樹脂水性分散体(E−1)の製造]
1,4−シクロヘキサンジメタノール56.03部、デュラノールG4672[Mn=2,000のポリ(テトラメチレン/ヘキサメチレン)カーボネートジオール、旭化成ケミカルズ(株)製]645.69部、エチレングリコール43.45部、ジメチロールプロピオン酸100.37部、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート552.09部、IRUGANOX245[チバジャパン(株)製]2.10部及びネオスタンU−100[日東化成(株)]0.28部を混合後に、窒素雰囲気下で二軸混練機であるKRCニーダーに仕込み210℃で15分間混練してウレタン化反応を行い、反応物を取り出して180℃に加熱した加圧プレス機で圧延後、角形ペレタイザーにて裁断してポリウレタン樹脂(U−1)を得た。続いて、温度制御可能な耐圧容器にウレタン樹脂(U−1)180.04部、イオン交換水305.34部、N−メチルピロリドン59.95部及び3%アンモニア水溶液54.67部を仕込み、TKホモミキサー[プライミクス(株)製]を用いて12000rpm撹拌下で分散処理することでウレタン樹脂水性分散体(E−1)を得た。(E−1)100部に対しカルボジライトE−02[日清紡(株)製:イミド当量445]14.01部及びスノーテックス20[日産化学工業(株)製]17.10部を添加することにより本発明のウレタン樹脂水性分散体(E−1)を得た。
ウレタン樹脂(U−1)中の末端アミノ基含量は0.01mmol/g、(U−1)のMnは20,000、MwとMnの比(Mw/Mn)は2.46、ウレタン樹脂水性分散体(E−1)中の(U−1)の体積平均粒子径(Dv)は0.100μm、(U−1)の破断伸びは300%であった。
【0103】
[加飾フィルムの作製]
ウレタン樹脂水性分散体(E−1)を乾燥後の膜厚が40μmとなるようにアプリケータでガードフィルムとしてのルミラーS−10[東レ(株)製]上に塗布し、80℃で10分乾燥することによりクリヤー層を形成し、更にクリヤー層上にバーコータを用いて、膜厚が20μmとなるように接着剤[バイロンUR−3200:東洋紡(株)製]を塗布し、80℃で10分間乾燥させて接着層を形成して本発明の加飾フィルムを得た。
【0104】
比較例1
[加飾フィルム用紫外線硬化樹脂(H−1)の製造]
NKエステルBPE−500[新中村化学(株)製]93部、ラジカル開始剤としてのDAROCUR TPO[チバジャパン(株)製]5部及び増感剤としてのジエチルチオキサントン[日本化薬(株)製「カヤキュアDETX−S」]2部をボールミルを用いて25℃で3時間混練して加飾フィルム用紫外線硬化樹脂(H−1)を得た。
【0105】
膜厚が40μmとなるようにアプリケータで(H−1)をルミラーS−10[東レ(株)製]上に塗布してクリヤー層を形成し、更にクリヤー層上にバーコータを用いて、膜厚が20μmとなるように接着剤[バイロンUR−3200:東洋紡(株)製]を塗布し、80℃で10分間乾燥させて接着層を形成して比較用の加飾フィルムを得た。
【0106】
[加飾フィルムの評価]
実施例1及び比較例1で得られた加飾フィルムを用いて以下の方法により基材に加飾したフィルムの鉛筆硬度を測定した結果を表1に示す。
【0107】
<基材に加飾したフィルムの鉛筆硬度>
縦50mm×横100mm×厚さ0.5mmの亜鉛めっき鋼板を縦方向の中心線に沿って90°に折り曲げた後、その山側の面に実施例1の加飾フィルムを接着層が鋼板に接するように密着させた。続いて、ガードフィルムを剥がした後、垂直に交わる山側の2面の内の一方の面が水平になり、他方の面が前記水平面より下側になるように乾燥機にセットして120℃で30分間加熱処理した。室温まで冷却して試験片の水平方向と90°折り曲げ方向のそれぞれの面における鉛筆硬度を以下の方法で測定した。
比較例1の加飾フィルムを用いる場合は、上記と同様に加飾フィルムを鋼板に密着させた後、垂直に交わる山側の2面の内の一方の面が水平になり、他方の面が前記水平面より下側になるようにベルトコンベア式UV照射装置(アイグラフィックス株式会社「ECS−151U」)にセットしてUV照射(露光量:365nmとして2000mJ/cm2)を行い、ガードフィルムを剥がした後、試験片の水平方向と90°折り曲げ方向のそれぞれの面における鉛筆硬度を以下の方法で測定した。
<鉛筆硬度の測定方法>
鉛筆硬度は鉛筆(三菱ユニ)をセットした塗膜引っかき試験機で750gの荷重下塗膜を引っかき、塗膜に傷が入らない鉛筆硬度の最高値を測定値とした。
【0108】
【表1】

【0109】
表1から、本発明の加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体を使用したフィルムは、基材の形状によらず均一な硬度を有する加飾された成型品が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体を用いた加飾フィルムは、形状に追随して均一に伸長し、均一な膜厚で加飾を行うことができることから、バンパー、フロントアンダースポイラー、リヤーアンダースポイラー、サイドアンダースカート、サイドガーニッシュ及びドアミラー等の自動車部品、携帯電話やオーディオ製品、冷蔵庫、照明器具等に広く使用することができ、特に自動車部品用加飾フィルムとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂(U)と架橋剤(L)を含有する加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体。
【請求項2】
前記ウレタン樹脂(U)が、下記(1)〜(5)を満たす請求項1記載の加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体。
(1)(U)中の末端アミノ基含量が(U)の重量に基づいて0〜0.35mmol/gである。
(2)(U)の数平均分子量(Mn)が1万〜100万である。
(3)(U)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比が1.5〜3.5である。
(4)(U)の体積平均粒子径(Dv)が0.01〜1μmである。
(5)(U)の破断伸びが200%以上である。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂(U)が、アンモニアで中和されたカルボキシル基を有する請求項1又は2記載の加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体。
【請求項4】
前記ウレタン樹脂(U)と前記架橋剤(L)の重量比率[(U):(L)]が、50:50〜99:1である請求項1〜3のいずれか記載の加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体。
【請求項5】
前記架橋剤(L)がイミド当量100〜700の脂肪族カルボジイミドである請求項1〜4のいずれか記載の加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体。
【請求項6】
ガードフィルム(G)上に、少なくとも請求項1〜5のいずれか記載の加飾フィルム用ウレタン樹脂水性分散体を乾燥して得られるクリヤー層(F)及び接着層(A)を有してなる加飾フィルム。

【公開番号】特開2011−231249(P2011−231249A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103983(P2010−103983)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】