説明

加飾用ハードコートフィルム、加飾用フィルムおよび加飾成形品

【課題】紫外線による硬化前の状態でのハードコート層のタック性が抑制され、かつ、成形時においてハードコート層に割れを生ずる恐れが少なく、成形後にハードコート層に耐摩耗性を付与することができる加飾用ハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】基材フィルムの片面10に、離型層12を介してハードコート層13が積層されてなり、該ハードコート層の形成材料が紫外線硬化型アクリレート系樹脂を含有し、該ハードコート層13の乾燥後であって紫外線照射前の伸び率が200%以上であり、該ハードコート層13の紫外線照射後の鉛筆硬度(JIS規格K5600−5−4:1999)がH以上であることを特徴とする加飾用ハードコートフィルムA。また、この加飾用ハードコートフィルムAを用いた加飾用フィルム1と、この加飾用フィルムを用いた加飾成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾用ハードコートフィルム、当該加飾用ハードコートフィルムを用いた加飾用フィルム、該加飾用フィルムを用いた加飾成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加飾成形品を得る方法として、基材フィルムを金型の間に挟み所定の形状とし、この基材フィルム上に熱可塑性樹脂などの樹脂を注入・固化した後、塗装または印刷を行っていた。しかしながら、基材フィルムの形状が曲面である場合、塗装または印刷を行うことが困難であった。
【0003】
そこで、加飾成形品を得る方法として、インモールド成形およびインサートモールド成形(以下、インモールド成形等という)が注目されている。これらの成形を行う場合、基材フィルム上に所定の絵柄や文字を有する印刷層が積層された加飾用フィルムを使用する。この加飾用フィルムを金型の間に挟み、所定の形状が形成された加飾用フィルム上に樹脂を注入・固化することにより加飾成形品が得られる。当該方法によって得られる加飾成形品は、樹脂を注入・固化する前に印刷層を形成させるため、精細で鮮やかな絵柄や文字を施すことが可能となる。
【0004】
インモールド成形等が使用される対象物としては、携帯電話の外装部品、自動車関係部品、医療用機械器具、エレクトロニクス製品、家電製品、建材、洗剤や化粧品などの容器、玩具などが挙げられる。
【0005】
上記の基材フィルムにハードコート層を積層した加飾用ハードコートフィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたハードコート層は、耐摩耗性および耐薬品性を有することが記載されている。当該加飾用フィルムにこのハードコート層を設けることにより、加飾成形品に耐摩耗性および耐薬品性を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−292198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたハードコート層は、紫外線硬化型樹脂からなり、主な構造は多官能アクリル、アクリル官能ポリマーである。しかしながら、当該材料からなるハードコート層は耐摩耗性を有するものの、柔軟性が低い問題を有していた。インモールド成形等において、当該ハードコート層を具備してなる加飾用フィルムを金型の間に挟みこみ所定の形状にする際に、ハードコート層の伸びが成形に追従することができず、当該ハードコート層に割れが生ずる問題を有していた。この割れの問題は、成形の絞りが深くなるほど生じやすいものであり、また、ハードコート層を硬くして耐摩耗性を向上させるほど生じやすくなるものであった。
【0008】
また、基材フィルム上にハードコート層を積層した後、次の工程である、当該ハードコート層上に絵柄や文字を有する印刷層を塗装あるいは積層するための印刷工程に移送するに際して、基材フィルムとハードコート層を積層した積層フィルムをロール状に巻き取ることがなされている。この際、従来のハードコート層では、加飾成形前であるため紫外線が未照射であり、タック性を有しており、ロール状に巻き取られた際にハードコート層が裏面に接触してベタツキが生じてしまうという問題があった。
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであって、紫外線による硬化前の状態でのハードコート層のタック性が抑制され、かつ、成形時においてハードコート層に割れを生ずる恐れが少なく、成形後にハードコート層に耐摩耗性を付与することができる加飾用ハードコートフィルム、加飾用フィルムおよび加飾成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の加飾用ハードコートフィルムは、基材フィルムの片面に、離型層を介してハードコート層が積層されてなり、該ハードコート層の形成材料が紫外線硬化型アクリレート系樹脂を含有し、該ハードコート層の乾燥後であって紫外線照射前の伸び率が200%以上であり、該ハードコート層の紫外線照射後の鉛筆硬度(JIS規格K5600−5−4:1999)がH以上であることを特徴としている。
【0011】
本発明においては、前記ハードコート層が光重合開始剤を含有してなることを好ましい態様としている。
【0012】
本発明においては、前記ハードコート層の基材フィルムと反対側の面に、帯電防止層が積層されてなることを好ましい態様としている。
【0013】
本発明の加飾用フィルムは、上記いずれかに記載の加飾用ハードコートフィルムを構成するハードコート層上に、アンカー層、印刷層の順に積層されてなることを特徴としている。
【0014】
本発明においては、前記印刷層に保護層が積層されてなることを好ましい態様としている。
【0015】
本発明の加飾成形品は、上記いずれかに記載の加飾用フィルムを用いて成形したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の加飾用ハードコートフィルム、ハードコート層の塗工後に紫外線硬化を行わなくても熱乾燥のみでハードコート層の表面タックが抑制されるため、裏面へのベタツキが生じず、ロールでの巻き取りができ、次工程で印刷・成型加工が可能となる。また、紫外線硬化前に成型を行うことが出来るので伸び特性に優れ、成形時において割れを生ずる恐れが少ない。さらに、紫外線硬化後は高い硬度および耐摩耗性が得られる。本発明の加飾用ハードコートフィルムによれば、そのような良好な特性を有する加飾用フィルムおよび加飾成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の加飾用フィルムの断面図である。
【図2】本発明の加飾成形品の製造方法を説明するための断面図であって、(a)加飾成形前の断面図、(b)加飾成形中の断面図、(c)加飾成形後の断面図、(d)完成した加飾成形品の断面図、である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の加飾用ハードコートフィルムA及び加飾用フィルム1を示す断面図である。加飾用ハードコートフィルムAは、図1(a)に示すように、基材フィルム10上に離型層12を介してハードコート層13が積層されてなる基本構成を有する。離型層12は、後の工程で基材フィルム10とハードコート層13を剥離させるための層である。必要に応じて、基材フィルム10のハードコート層13と反対側に帯電防止層11や、ハードコート層13の基材フィルム10と反対側に保護層14を設けることもできる。保護層14を積層することにより、ハードコート層13に傷や汚れがつきにくくなる。帯電防止層11としては、アルミニウム、錫等の金属、ITO等の金属酸化膜を蒸着、スパッタ等で設ける方法、アルミニウム、錫等の金属微粒子やウイスカー、酸化錫等の金属酸化物にアンチモン等をドープした微粒子やウイスカー、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンと金属イオンや有機カチオンなどの電子供与体(ドナー)との間でできた電荷移動錯体をフィラー化したもの等をポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等に分散し、ソルベントコーティング等により設ける方法、ポリピロール、ポリアニリン等にカンファースルホン酸等をドープしたものをソルベントコーティング等により設ける方法等により設けることができる。
【0019】
加飾用フィルム1は、図1(b)に示すように、保護層14を除いた加飾用ハードコートフィルムAと、印刷部分Bを備えている。この加飾用ハードコートフィルムA上には、印刷部分Bとして、所定の絵柄や文字を有する印刷層15が塗布あるいは積層されている。印刷層15上には、必要に応じてプライマー層16および保護層17を積層してもよい。プライマー層16としては、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂などをあげることができる。また、印刷層15下には、ハードコート層13と印刷層15との密着性を向上させるためにアンカー層を設けることもできる。
【0020】
本発明を構成するハードコート層13は光透過性が高いほど好ましい。本発明における光透過性は、全光線透過率(JISK7361−1:1997)で表すことができる。ハードコート層13の光線透過率は80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。これによって、ハードコート層13に設けられてなる印刷層15の印字部分を明りょうに識別することができる。
【0021】
以下、本発明を構成する層ごとに材料を中心にして説明する。
【0022】
<ハードコート層>
本発明を構成するハードコート層は、アクリレート又はウレタンアクリレートなどのアクリレート系樹脂を含有することが必要である。その含有量は、ハードコート層の全固形分中、10〜70質量%の範囲にあることが好ましく、15〜60質量%であることがさらに好ましく、20〜50質量%であることが特に好ましい。10質量%未満であると塗膜の柔軟性や耐摩耗性、耐擦傷性、光学特性等が低下する問題がある。70質量%超であると、光重合の開始が遅くなるため、生産上好ましくない。
【0023】
本発明におけるハードコート層に含有されるアクリレート系樹脂は、オリゴマー、プレポリマーのいずれであってもよく、特に制限されるものではない。本発明を構成するアクリレート系樹脂は、ハードコート層を形成し、熱乾燥後であって紫外線硬化前のハードコート層の伸び率が200%以上であることが必要である。伸び率の範囲を当該範囲にすることによって、成形時における割れの発生が少ないハードコートフィルムを提供することができる。アクリレート系樹脂の伸び率が200%未満であると成形時に割れが発生する問題がある。
【0024】
ここで、伸び率とは、実施例で後述するように、基材フィルム上にハードコート層を塗工および熱乾燥したものを幅15mm、長さ150mmにカットし、チャック間距離100m、引っ張り速度50mm/minにてこの試験片を引っ張り、塗膜にクラックが発生したときの試験片の長さを計測したものである。
【0025】
アクリレート系樹脂のガラス転移点は30〜150℃であることが好ましく、35〜140℃であることがさらに好ましく、40〜130℃であることが特に好ましい。アクリレート系樹脂のガラス転移点を当該範囲にすることによって、常温における塗膜硬度及び耐摩耗性が向上する。ガラス転移点が30℃未満のアクリレート系樹脂を使用したハードコート層は、耐摩耗性及び塗膜硬度が不十分になりやすく、また、加熱乾燥後の塗膜にタック性があり、ロール巻取り時にブロッキングが発生しやすくなる。ガラス転移点が150℃超であると、塗膜硬度が高くなり、成型時に割れが発生する問題がある。ここで、ガラス転移点とは、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した値をいう。
【0026】
加飾成形後(紫外線硬化後)ハードコート層の鉛筆硬度はH以上である。鉛筆硬度を当該範囲にすることによって、ハードコート層の耐摩耗性が向上するメリットがある。鉛筆硬度がH未満であると、本発明を構成するハードコート層の耐摩耗性が不十分になる。
【0027】
ここで、鉛筆硬度とは、実施例で後述するように、塗工乾燥したフィルムを積算光量300mJ/cmにて紫外線照射し、塗膜を硬化させて試験片とし、塗膜の鉛筆硬度をJIS K5600−5−4−1999に準拠して測定した値をいう。
【0028】
本発明のハードコート層には光重合開始剤を含有させることができる。光重合開始剤を含有させることによって、光(紫外線)照射によるハードコート層の重合硬化反応を短時間に行うことができる。
【0029】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(ピル−1−イル)チタニウム、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。また、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0030】
ハードコート層の固形分中に含有する光重合開始剤は、ハードコート層の全固形分中、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜7質量%であることがさらに好ましく、0.1〜5質量%配合されることが特に好ましい。光重合開始剤の含有量が0.01質量%未満では光硬化性が低下し、10質量%を超えて配合した場合には、ハードコート層の着色の発生を招くと共に、光硬化反応の進行が変わらないことから経済的に好ましくない。また、光硬化性を向上させるために公知の各種染料や増感剤を添加することも可能である。
【0031】
ハードコート層には状況に応じてレベリング剤、消泡剤、防汚剤等の界面活性剤や、表面改質剤等の添加剤や、有機フィラー、無機フィラー等のフィラーを添加することができる。
【0032】
<基材フィルム>
基材フィルムとしては例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢ビフィルム、アイオノマー基材フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム等ならびに、これらの架橋フィルム等が用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。さらに必要に応じ、上記フィルムを着色したフィルム、フッ素基材フィルム等を用いることができる。
【0033】
基材フィルムの厚さは、通常は25〜500μm、好ましくは50〜300μm程度であり、基材フィルムの厚さが薄くなるとハンドリング性が低下するおそれがある。
【0034】
基材フィルムはインモールド成形時に熱が負荷されることから、耐熱性を有していることが好ましい。これによってインモールド成形時に基材フィルムの変形が少なくなるため、熱負荷前後において、基材フィルム上に隣接して積層されたハードコート層との密着状態(接着力)を好ましく維持することができるため、当該ハードコート層の割れが生じにくくなる。本発明における耐熱性は、基材フィルムを150℃のオーブン内に5秒間投入した後、変形が全く認められないか、実質的に変形が認められないものであればよい。
【0035】
基材フィルムの表面にはコロナ表面処理、火炎処理、プラズマ処理等の物理的な処理の他、ポリエステルやウレタン等の易接着層を設ける易接着処理を施すことができる。これらの処理を施すことにより、基材フィルムと隣接する層との接着力が向上する。
【0036】
<離型層>
離型層に使用する樹脂成分としては、基材フィルムとの接着性及び成形加工性が優れ、紫外線照射後のハードコート層との剥離性を有するものであれば特に制限されるものではないが、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース誘導体系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤及びこれらの複合系離型剤等を使用することができる。これらの樹脂成分は単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。本発明においては、メラミン樹脂系樹脂を主成分とする離型剤を使用することが成形加工性の点から好ましい。
【0037】
離型層の形成方法としては、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、カーテンコート法など従来公知の方法により塗布し、加熱乾燥して形成される。
【0038】
<保護層>
保護層は、ハードコート層13上および印刷層15上に設けることができる。保護層は樹脂フィルム上に粘着層を設けたものが好ましく使用される。保護層を構成する樹脂フィルムとしては、上記の基材フィルムと同一のものを使用することができる。上記以外に自己粘着ポリエチレンフィルムも使用できる。
【0039】
上記粘着層に使用する樹脂成分としては、ハードコート層と樹脂フィルム、および印刷層と樹脂フィルムとを貼着することができるものであれば特に制限されるものではないが、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂等を使用することができる。これらの樹脂成分は単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。本発明においては、アクリル樹脂を主成分とする粘着層を使用することが透明性の点から好ましい。
【0040】
<印刷層>
印刷層は金属またはインクを使用することにより形成することができる。金属を使用する場合、蒸着またはスパッタリングにより形成させ、パターニングプロセスなどの方法により所定のパターンを形成させることができる。インクを使用する場合、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷または昇華熱転写などの印刷法によって基材フィルム上に形成させることができる。
【0041】
以下、本発明の製造方法を詳細に説明する。
【0042】
<加飾用ハードコートフィルムの製造方法>
本発明を構成するハードコート層13を基材フィルム上10に塗布する際には、溶剤を添加することができる。溶剤としては例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの脂肪族炭化水素、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン等のケトン等が挙げられる。希釈剤の配合量は適宜選定すればよい。
【0043】
本発明の加飾用ハードコートフィルムAは、ハードコート層13を構成する各材料を混合し、溶剤を添加した後、基材フィルム10の表面に離型層12を介して塗布される。ハードコート層13を構成する各材料を離型層上12に塗布する方法としては、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、カーテンコート法など従来公知の方法が挙げられる。
【0044】
次いで、40〜160℃に加熱することにより溶剤を蒸発させてハードコート層13を乾燥させる。このようにして得られた本発明の加飾用ハードコートフィルムAは、ハードコート層13が紫外線未照射で未硬化であるにも関わらずタック性が抑制されているので、ハードコート層13にベタツキが生じず、ロール状に巻き取っても裏面への固着が生じることもなく次工程の印刷工程に送ることもできるが、ハードコート層13上に、保護層14を設けてもよい。
【0045】
<加飾用フィルムの製造方法>
上記で得られた加飾用ハードコートフィルムAを構成するハードコート層13上に、印刷層15を設ける。なお、ハードコートフィルムに保護層14が積層されている場合、該保護層14を剥離してハードコート層13を露出させた後に、印刷層15を形成する。印刷層15の形成方法としては、金属の場合、蒸着またはスパッタリングを使用すればよい。インクを使用する場合は、スクリーン印刷等を使用すればよい。このようにして本発明の加飾用フィルム1が得られる。また、ハードコート層13と印刷層15との密着性を向上させるためにアンカー層を設けてもよい。アンカー層としては、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂などの樹脂を挙げることができる。また、これらの混合物でもよいし、これらの重合体に変性をおこなったものでもよい。アンカー層の形成方法としては、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、カーテンコート法などの塗布方法やシルク印刷やスクリーン印刷等の印刷方法が挙げられる。
【0046】
<加飾成形品の製造方法>
図2を用いて、本発明の加飾成形品の製造方法を説明する。
図2(a)は加飾成形前の断面図であって、第1の成形用金型20と第2の成形用金型21の間に、ロール40に巻き取られた後保護層17が剥離され展開された加飾用フィルム1が配置されている。第2の成形用金型21には加飾用フィルム1に樹脂材料31を被覆するための樹脂注入口22が形成されている。
【0047】
図2(b)は加飾成形中の断面図であって、図2(a)に示す第1の成形用金型20と第2の成形用金型21との間に、加飾用フィルム1が挟み込まれると共に第2の成形用金型21と、成形された加飾用フィルム1間に間隙を形成させた後、その間隙に樹脂注入口22から成形用樹脂31が加飾用フィルム1を被覆するように注入される。成形用樹脂31としてはABS、PS等の熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
【0048】
図2(c)は、加飾成形後の断面図である。ここでは、加飾用フィルム1は、離型層12を境にして1a部分(図1(b)に示すように帯電防止層11、基材フィルム10、離型層12からなる部分)と、1b部分(ハードコート層13、印刷層15、プライマー層16からなる部分)に剥離し、1b部分のみが成形用樹脂31側に被覆され、1a部分は除去される。これにより、ハードコート層13が加飾成形品の最表面に位置するようになる。加飾成形品は、冷却あるいは放冷され、続いてハードコート層13は、放射線(紫外線、可視光線、赤外線または電子線)を照射することにより硬化される。
【0049】
これらの放射線は、偏光であっても、無偏光であってもよい。特に、設備コスト、安全性、ランニングコスト等の観点から紫外線が好適である。紫外線照射による硬化を行う場合は、光重合開始剤の添加が必要である。紫外線のエネルギー線源としては、例えば、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、窒素レーザー、電子線加速装置、放射性元素などが好ましい。エネルギー線源の照射量は、紫外線波長365nmでの積算露光量として、100〜5,000mJ/cmの範囲が好ましく、300〜3,000mJ/cmがより好ましい。照射量が100mJ/cm未満の場合は、硬化が不十分となるため、ハードコート層の硬度が低下する場合がある。また5,000mJ/cmを超えると、ハードコート層が着色して透明性が低下する。
【0050】
放射線照射時における酸素濃度は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下が特に好ましい。酸素不含又は低濃度雰囲気には、酸素以外に含まれる気体は不活性ガスが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられる。また、紫外線は偏光であっても無偏光であってもよい。
【0051】
図2(d)は、加飾成形品の断面図である。図2(c)の段階において成形用樹脂31を冷却して固め、ハードコート層13を紫外線硬化させた後、第1の成形用金型20および第2の成形用金型21から引き離すことにより、本発明の加飾成形品を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何等限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
基材フィルム(非シリコーン離型フィルム、厚さ50μm、商品名:TF535、ニッパ製)の離型面へ塗料1(アクリレート系樹脂30質量%、二酸化ケイ素10質量%、光重合開始剤3質量%、メチルエチルケトン50質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテル2質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート5質量%含有)を乾燥膜厚7μmとなるように塗布し、100℃で2分間乾燥を行い、サンプルシートを得た。下記測定条件に示すようにして、硬化前の諸特性を測定した。紫外線照射を行い、硬化を完了させ、硬化後の諸特性を測定した。
【0054】
[実施例2]
実施例1における塗料1を塗料2(樹脂混合物(ウレタンアクリレート50質量%、アクリル酸エステル10質量%、メチルエチルケトン40質量%含有)70gと光重合開始剤(商品名:イルガキュアー184、チバジャパン製)3gとトルエン30gとを配合)に変更した以外は同様にして、サンプルシートを得た。
【0055】
[比較例1]
実施例1における塗料1を塗料3(紫外線硬化型樹脂(商品名:ビームセット575CB、荒川化学製)99.5gと光重合開始剤(商品名:イルガキュアー184、チバジャパン製)0.5gとトルエン100gとを配合)に変更した以外は同様にして、サンプルシートを得た。
【0056】
実施例1、2および比較例1のサンプルシートについて、下記に示す測定条件の下、諸特性を測定した。結果を表1に示す。
<タック性>
塗工乾燥したフィルムの塗膜表面を指で触れ塗膜の粘着の有無を確認し、粘着がないものを○、粘着があるものを×とした。
【0057】
<ブロッキング性>
塗工乾燥した塗工フィルムの塗工面(表面)と塗工フィルムの未塗工面(裏面)を重ね荷重500g/cmの荷重を加えた状態で72hr、温度23℃、湿度40%雰囲気中にて保管した後、フィルムを剥がし未塗工面(裏面)を目視にて観察した。塗膜の付着又は転写が無いものを○、塗膜の付着又は転写が有るものを×とした。
【0058】
<伸び>
塗工乾燥した塗工フィルムを幅15mm、長さ150mmにカットし試験片とし、チャック間距離100mm、引張り速度50mm/minにてこの試験片を引張り、塗膜にクラックが発生した時の試験片の長さを計測し伸び率を下記式にて求めた。
伸び(%) = クラック発生時の試験片の長さ(mm)/100(mm)×100
【0059】
<鉛筆硬度>
塗工乾燥した塗工フィルムを積算光量300mJ/cmにて紫外線照射し、塗膜を硬化させ試験片とする。塗膜の鉛筆硬度をJIS K5600−5−4:1999に準拠して測定した。
【0060】
<耐磨耗性試験>
塗工乾燥した塗工フィルムを積算光量300mJ/cmにて紫外線照射し、塗膜を硬化させ試験片とし、耐摩耗性を耐スチールウール試験により評価した。塗膜上に、#0000のスチールウールを載せ、加重250gをかけた状態で10往復させ、塗膜の状態を観察した。キズが全くないものを○、キズが若干あるものを△、キズが中程度あるものを×、キズが多数あるものを××とした。
【0061】
<全光線透過率>
塗工乾燥した塗工フィルムを積算光量300mJ/cmにて紫外線照射し、塗膜を硬化させ試験片とし、全光線透過率をJIS K7361−1:1997に準拠して測定した。
【0062】
<Hz>
塗工乾燥した塗工フィルムを積算光量300mJ/cmにて紫外線照射し、塗膜を硬化させ試験片とし、全光線透過率をJIS K7361−1:1997に準拠して測定した。
【0063】
<剥離力>
塗工乾燥した塗工フィルムを幅15mm、長さ150mmにカットし試験片とし、チャック間距離100mm、引張り速度50mm/minにて、塗膜及びフィルムを引張り、剥離力を計測した。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示すように、紫外線照射を行った塗膜の硬化後の諸特性は、実施例および比較例共に良好であった。しかしながら、紫外線照射前においては、実施例は、タック性およびブロッキング性が良好でベタツキが無かったが、比較例ではベタツキが生じてしまった。また、実施例は紫外線照射前の伸びが良好であったが、比較例では、実施例ほど伸びることなくクラックが発生した。このように、実施例のサンプルシートは、紫外線硬化前後において諸特性が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、紫外線照射後に耐摩耗性を有するのは勿論のこと、紫外線照射前の成形時においても、伸び率が高く割れを生ずる恐れが少なく、かつタック性が改善されたハードコートフィルムを提供することができるため、加飾用ハードコートフィルム、加飾用フィルムおよび加飾成形品として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…加飾用フィルム
A…加飾用ハードコートフィルム
B…印刷部分
10…基材フィルム
11…帯電防止層
12…離型層
13…ハードコート層
14…保護層
15…印刷層
16…プライマー層
17…保護層
20…第1の成形用金型
21…第2の成形用金型
22…樹脂注入孔
31…成形用樹脂
40…ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの片面に、離型層を介してハードコート層が積層されてなり、該ハードコート層の形成材料が紫外線硬化型アクリレート系樹脂を含有し、
該ハードコート層の乾燥後であって紫外線照射前の伸び率が200%以上であり、
該ハードコート層の紫外線照射後の鉛筆硬度(JIS規格K5600−5−4:1999)がH以上であることを特徴とする加飾用ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記ハードコート層が光重合開始剤を含有してなることを特徴とする請求項1に記載の加飾用ハードコートフィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層の基材フィルムと反対側の面に、帯電防止層が積層されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の加飾用ハードコートフィルム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の加飾用ハードコートフィルムを構成するハードコート層上に、印刷層が積層されてなることを特徴とする加飾用フィルム。
【請求項5】
前記印刷層に保護層が積層されてなることを特徴とする請求項4に記載の加飾用フィルム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の加飾用ハードコートフィルムを構成するハードコート層上に、アンカー層が積層されてなることを特徴とする加飾用フィルム。
【請求項7】
請求項4乃至6に記載の加飾用フィルムを用いて成形したことを特徴とする加飾成形品。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−51247(P2012−51247A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195776(P2010−195776)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】