説明

劣化が減少した微量ガスセンサー

ガス状の混合物中に微量検体ためにセンサーとして使用される場合、検体結合たんぱく質で一般的に見られる経時劣化は、低酸素または酸素がない環境中でセンサーを維持することによって減少した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスリファレンス
この出願が、同時に出願継続中である2005年2月7日出願の米国特許出願番号11/053,046号明細書の一部継続出願であり、そしてそれによって法的に受けられることが可能な全ての目的のために、そこからの優先権の利益を主張する。出願番号第11/053,046号明細書の内容は、本明細書で参照することにより、それらの全てを取り込む。
【0002】
この発明は、ガス状の検体の濃度を検知し、そして測定するためのセンサーの分野にある。
【背景技術】
【0003】
微量ガス分析は、生理的状態の診断および管理を含む多くの用途で価値がある。ぜんそくに苦しむ人の呼気中の一酸化窒素(NO)濃度中の変化は、例えば、人の気道中の炎症のレベルにおける変化を示すことができ、該炎症は次にぜんそく発作の可能性の高まりを示すことができる。異常な生理的状態の指標となる呼気中の微量ガスの別の例は、一酸化炭素である。呼気中の一酸化炭素レベルの上昇は、溶血性黄疸発病の初期サインであることができる。またさらなる例は、炭水化物の吸収不良を示すことができる水素の増加である。ある場合、これらのガスは、十億分の1(ppb)の範囲で存在し、そしてこの範囲での変化は、百万分の1の範囲で検出可能である前に、異常を示すことができる。
【0004】
種々のセンサーが、異なるガス状検体の濃度を測定するために開発されてきた。これらのセンサーのいくつかは、生物活性物質、とりわけたんぱく質を含み、ガス状の検体と接触して測定可能な変化を受け、そしてしたがって変化を読み取れて定量化できる信号に変換するため、"化学的変換器"と呼ばれる。そうした生物活性物質のひとつがチトクロームCであり、NOに反応して光学的に定量化できる変化を受ける。チトクロームC利用をするあるセンサーは、キセロゲル(乾燥安定化ゾルゲル)中に封入された形のこのたんぱく質を含む。該タイプのセンサーおよび関連技術は、以下の米国特許出願公開及び特許に開示される:2004年1月29日公開の米国特許出願公開第2004−0017570Al号明細書(2002年12月30日出願の米国特許出願第10/334,625号明細書);2005年3月10日公開の米国特許出願公開第2005−0053549Al号明細書(2003年9月10日出願の米国特許出願第10/659,408号明細書);2005年4月21日公開の米国特許第2005−0083527Al号明細書(2004年1月28日出願の米国特許出願第10/767,709号明細書);1998年8月18日発行の米国特許第5,795,187号明細書;および2000年1月4日発行の米国特許第6,010,459号明細書。この段落中に列挙されたそれぞれの特許および特許出願の開示は、参照により本明細書中に取り込まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
あいにく、たんぱく質中の検出可能な変化によって微量ガスセンサーとして使用されるあるたんぱく質は、経時劣化を受けやすい。"劣化"の語は、検出可能な変化の大きさおよび変化が起こるために必要な時間の両者に関して、検体へのたんぱく質の応答性を含むたんぱく質の機能性の損失を意味するために、本願中で使用される。極端な場合には、センサーは、役に立たない、すなわち、使用者が分析を行う準備が出来るときまでに、または使用者がセンサーを含有するユニットを得るときまででさえ、有意義なまたは信頼性のある分析を行うことが不可能である位劣化する場合がある。例えば、チトクロームCではNOに対する応答性の損失は、約400nmに中心があり、NOに結合するたんぱく質の部分である、鉄ポルフィリンのスペクトルピークであるソレット(soret)ピークの大きさの損失により示される。この劣化は、ある状況においてセンサーとしてチトクロームCの有用性を制約することが見いだされた。劣化の割合は温度によって変化するように見える一方で、劣化のメカニズムおよび全体的な原因は不明である。迅速な応答を示すセンサーは特に劣化を受けやすい。これは例えば上記引用文献で開示されるあるチトクロームC素子、特にNOに露出して5分未満で、信号を生成することができるような素子に当てはまる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
NOのセンサーとしてのチトクロームC、および経時劣化を示す他の検体結合たんぱく質の劣化の速度は、酸素へのたんぱく質の露出をコントロールすることによって減少できることが見出された。これは上記に示したように迅速な応答を示すチトクロームCを含有するセンサーの場合特に当てはまる。従って、本発明は、低酸素または実質的に酸素がない環境での、センサーの貯蔵もしくは包装、またはセンサーを含むデバイスの貯蔵もしくは包装にある。本明細書および請求項中で使用される"酸素"の語は、酸素原子または他の原子に共有結合で結合した酸素原子とは対照的に分子状酸素を意味する。"低酸素環境"の語は、周囲空気中の酸素レベル、すなわち、明らかに21体積%より低い酸素レベルをいう。低酸素環境の好ましい定義は、10体積%以下、5体積%以下、および1体積%以下である。"実質的に酸素がない"の語は、ゼロ、または製造、貯蔵、または配送環境で使用されるまたは使用可能な、分析的な検出方法の検出限界より低い酸素レベルのいずれかを意味する。検出方法によって、下限の検出限界は、0.1体積%、50体積ppm、1体積ppm、または0.1体積ppmであることが可能である。本発明のある態様では、センサーはまた、相対湿度が6%以下、好ましくは3%〜6%、そして一般に3%に維持される環境中に維持される。本発明のある他の態様では、相対湿度は、1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、そして最も好ましくは0.1%以下で維持される。この段落および請求項中の全て値は近似であり;大きさの最も小さな桁の数字に示された値は、四捨五入した値を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明から恩恵を受けるであろう検出素子およびデバイスは、結合種、すなわち、検体と接触した場合に検出可能な変化を生成するたんぱく質が、固体支持マトリックス中に懸濁されまたは封入され、大きい表面積を有する検出素子を形成するものである。好ましい検出素子は、300m/g超である表面積を有するもの、そして最も好ましくは390m/g超の表面積を有するものである。また好ましくは3nm〜6nm、そして最も好ましくは3.5nm〜5.8nmの孔幅(直径)を有するものである。表面積および孔幅は、当業者に周知のBET方法によって共に決定される。マトリックスそれ自身は、好ましくはテトラメチルオルトシリケートの重合に続くエージングおよび乾燥によって生成されるキセロゲルである。
【0008】
検出素子がテトラメチルオルトシリケートでできたポリマー中に封入されたチトクロームCであり、400m/gの表面積および5.3nmの孔幅を有するモノリスを形成する、上記で参照される3つの特許出願公開公報に記載されたように組み立てられたセンサーは、周囲空気中に放置され、そして24時間以内に光学密度において検出可能な損失を示した。図1に示された加速エージングテストの結果は、120日以内に本質的に全ての応答性が失われたことを示す。同一のセンサーが、窒素パージ環境中に置かれ、そして同じ期間その環境中に維持された場合、センサーはすべての光学密度および実質的にすべての応答性を維持した。図2中の結果は、酸素がない環境が、テスト中の全てのNO濃度で、7日間以上センサー中の本質的に全ての活性を維持した結果を与えることを示す。
【0009】
光学密度および応答性の損失によって示される劣化の原因を決定するために実験を行った。これらの実験では、劣化のパーセンテージを、加速テストを使用して220日に相当する期間以上にわたって、種々の環境条件で測定した。結果を下の表中に示す。
【0010】
チトクロームCモノリスの比較テスト結果
【表1】

【0011】
表中のデータの第1の列は対照試験を示し、センサーがLiBrの飽和溶液によって維持された6%相対湿度で、周囲酸素のレベルを有する環境中で室温と同等の温度で維持された。表に示されるように、テスト開始時および220日相当後において、500ppb NOを含有する空気にセンサーを露出することによって感度を測定した。感度は、220日までに78%下落し、すなわち、感度はテスト開始時の感度のわずか22%であった。
【0012】
表中のデータの第2の列は、同一のセンサーが室温であるが、しかし酸素のない環境で再び維持され、そして相対湿度が3Åモレキュラーシーブによって0.1%に維持されたテストを示す。再び、テスト組成物として500ppb NOを含む空気を使用して、センサーは、感度でわずか10%の減少を示し、220日相当後での感度は、テストの開始時の感度の90%となった。これは酸素分子の存在が第1のテスト中で劣化の第1原因であったことを裏づけ、そして高い相対湿度が劣化にさらに寄与することを示す。
【0013】
酸素の劣化の効果は、種々の方法で制御可能である。本発明の一実施態様では、低酸素または酸素がない環境は、センサーハウジングを窒素または別の不活性ガスでパージすることによって達成可能であり、そして一旦パージされると、ハウジングは、酸素がない、すなわち酸素が追い出された包装環境中に密閉可能である。そうしたパージは、例えばセンサーの体積およびセンサーハウジングの体積に基づいて、窒素5サイクルで達成可能である。あるいは、窒素パージありまたは無しのいずれかを用いた真空が、ハウジングに適用可能である。
【0014】
第2の態様では、センサーは、酸素不透過性のハウジングまたはクロージャー中に密閉可能であり、そして酸素吸収剤が、ハウジングまたはクロージャーから酸素を除去するために使用可能である。そうした吸収剤の例は、CRYOVAC(商標)OSフィルム(Cryovac Inc.、Duncan、South Carolina、 USA)である。別の例は、PHARMAKEEP(商標) canisters (Sud−Chemie Performance Packaging、Belen、New Mexico、 USA)である。特にセンサー周りのシーリングがシーリング材料を通して酸素吸収剤によって酸素を引くことができる酸素浸透性材料である場合に、酸素吸収剤は密閉されたセンサーと同じ包装中に配置可能である。酸素吸収剤が使用される場合には、センサーハウジングのパージは任意選択的である。
【0015】
非密閉センサーハウジングから酸素を除去するため、吸収剤への酸素の拡散を促進するにも、酸素吸収剤は使用可能である。
【0016】
先の記載は、主として具体的説明の目的ために提供される。さらなる態様は、当業者に直ちに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、NO用チトクロームCセンサーの経時劣化を示すグラフである。y−軸は、センサーを取り巻く環境中の湿度が200ppm水で維持され、そしてセンサーが500ppbの NOと反応した場合の90秒後のセンサー中の吸光度の変化を示す。x−軸は、30℃、50℃および70℃での変化の測定に基づく反応速度の加速モデルに基づいて加速エージングを使用した相当日数を示す。円はデータ点を示し、そして実線は、アレニウス導出(Arrhenius−derived)劣化を示す。
【0018】
【図2】図2は、周囲環境中でエージングされたセンサーの70℃でのNO応答性と、環境に酸素がなかったことを除き同じ条件下でエージングされた同一のセンサーのNO応答性を比較したグラフである。相対湿度は、3Åモルキュラーシーブの使用によって一定に維持された。3セットのデータが示され、1つは500ppb NO (ダイアモンド形)に7日間露出されて得られた結果を示し、2番目は23ppm NO (正方形)に7日間露出された結果を示し、そして3番目は、50秒間500ppbに露出された結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯蔵の間に検体感度の損失に対して検体検出素子を保護するための方法、該検体検出素子は検体結合たんぱく質を含み、そして該方法は、低酸素環境または実質的に酸素が無い環境中で該検体検出素子を維持することを含む。
【請求項2】
該検体結合たんぱく質が、チトクロームCである請求項1の方法。
【請求項3】
該検出素子が、キセロゲル中に封入された該検体結合たんぱく質を含む請求項1の方法。
【請求項4】
該検出素子が、キセロゲル中に封入されたチトクロームCを含む請求項1の方法。
【請求項5】
相対湿度が6%以下である環境中に、該検出素子を維持することをさらに含む請求項1の方法。
【請求項6】
相対湿度が3%〜6%である環境中に、該検出素子を維持することをさらに含む請求項1の方法。
【請求項7】
相対湿度が1%以下である環境中に、該検出素子を維持することをさらに含む請求項1の方法。
【請求項8】
該相対湿度が、0.5%以下である請求項7の方法。
【請求項9】
該相対湿度が、0.1%以下である請求項7の方法。
【請求項10】
0.1体積%以下の酸素を含有する環境中に、該検出素子を維持することを含む請求項1の方法。
【請求項11】
0.1体積ppm以下の酸素を含有する環境中に、該検出素子を維持することを含む請求項1の方法。
【請求項12】
該検出素子が、300m/g超である表面積を有する請求項1の方法。
【請求項13】
該検出素子が、390m/g超である表面積を有する請求項1の方法。
【請求項14】
該検出素子が、キセロゲル中に封入されたチトクロームCを含み、300m/g超である表面積を有し、そして0.1体積%以下の酸素および0.1%以下の相対湿度を含有する環境で維持される請求項1の方法。
【請求項15】
支持マトリックス中に懸濁され、そして低酸素であるかまたは実質的に酸素がない環境中で包装された検体結合たんぱく質を含む検出素子を含む微量ガス検体検知デバイス。
【請求項16】
該検体結合たんぱく質が、チトクロームCである請求項15のデバイス。
【請求項17】
該検出素子が、キセロゲル中に封入された該検体結合たんぱく質を含む請求項15のデバイス。
【請求項18】
該検出素子が、キセロゲル中に封入されたチトクロームCを含む請求項15のデバイス。
【請求項19】
該環境が、6%以下の相対湿度を有する請求項15のデバイス。
【請求項20】
該環境が、3%〜6%である相対湿度を有する請求項15のデバイス。
【請求項21】
該環境が、1%以下の相対湿度を有する請求項15のデバイス。
【請求項22】
該相対湿度が、0.5%以下である請求項19のデバイス。
【請求項23】
該相対湿度が、0.1%以下である請求項19のデバイス。
【請求項24】
該環境が、0.1体積%以下の酸素含有量を有する請求項15のデバイス。
【請求項25】
該環境が、0.1体積ppm以下の酸素含有量を有する請求項15のデバイス。
【請求項26】
該検出素子が、300m/g超の表面積を有する請求項15のデバイス。
【請求項27】
該検出素子が、390m/g超の表面積を有する請求項15のデバイス。
【請求項28】
該検体結合たんぱく質がチトクロームCであり、該支持マトリックスが300m /g超の表面積を有するキセロゲルであり、そして該環境が0.1体積%以下の酸素含有量および0.1%以下の相対湿度を有する、請求項15のデバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2008−530534(P2008−530534A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554327(P2007−554327)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/004292
【国際公開番号】WO2006/086388
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(507261548)アピーロン インコーポレイティド (4)
【Fターム(参考)】