説明

劣化診断装置、劣化診断方法、および劣化診断プログラム

【課題】対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化の診断を高精度で行う。
【解決手段】金属製の対象物体の腐食により生じる錆を撮影して得た発錆箇所に係るRGB色空間の錆画像情報をHLS色空間の錆画像情報に変換するHLS変換部115と、変換後のHLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が、発錆箇所が錆びているとする際の基準となる錆色領域の範囲内に含まれるか否かを判定する診断実行判定部121と、HLS値が錆色領域の範囲内に含まれる旨の判定が下された場合、対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化を診断する劣化診断部123と、を備える。錆色領域は、腐食の段階が初期の際に現れる赤茶色系統の初期錆、および、腐食の段階が前記初期よりも進んだ後期の際に現れる黒褐色系統の後期錆を共に錆として捉えることを考慮して設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電気設備などの金属製の対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化を診断する劣化診断技術に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、長期的視点に立った循環型エネルギー社会を構築しようとする動きが盛んになってきている。電力業界では、電力供給の信頼性確保に加えて、電気設備への投資や管理の費用削減、廃棄物削減が求められている。そうした中、高度経済成長期に導入された大量の電気設備が一斉に点検時期を迎えている。このような電気設備についても、従来の設備保全の考え方である時間基準保全が見直され、設備の劣化状態や稼働状況に基づいて巡視・点検を行う状態基準保全へと移行しつつある。
【0003】
電気設備などの金属製の対象物体には、金属の腐食生成物である錆が不可避的に生じる。従来の設備保全において、錆が生じた電気設備に対しては、現場作業員が目視点検による劣化診断を行っている。また、例えば、電気設備が鉄塔の上部などの高所にある場合、現場作業員は、電気設備に生じた錆の進行段階を双眼鏡で確認し、"使用継続"や"改修"などの処遇を適宜判断している。
【0004】
しかし、作業員の目視による劣化診断では、若手作業員と熟練作業員との間の経験差やノウハウの有無により異なる診断結果が提示されるなど、診断結果にばらつきを生じがちであった。
【0005】
そこで従来、電気設備などの金属(鉄)製の対象物体に関する錆診断を自動化する技術の開発が進められてきている。例えば、特許文献1には、鋼材から成る対象物体の腐食により生じた錆を、発錆箇所を撮影した錆画像に基づき診断する技術が開示されている。特許文献1に係る技術では、錆画像データをL*a*b*色空間に変換し、変換後のL*a*b*色空間で表現された錆画像のうち、特定箇所に係る画素のa*およびb*の数値が両者共に正である旨の解析結果が得られた場合、同特定箇所が錆びていると診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−291984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、錆の色は、一般に、腐食の段階が進行するにつれて、赤茶色系統から黒味を帯びた黒褐色系統へと変化してゆく。しかるに、特許文献1に係る技術では、腐食の段階が初期の際に現れる赤茶色系統の初期錆、および、腐食の段階が前記初期よりも進んだ後期の際に現れる黒褐色系統の後期錆を共に判別することが難しかった。
【0008】
これについて説明すると、特定箇所に係る画素のa*およびb*の数値が両者共に正である旨の解析結果が得られるケースとは、L*a*b*色空間で表現された錆画像のうち、特定箇所に係る画素の色が赤紫色成分(a*の数値が正の場合の系統色)と黄色成分(b*の数値が正の場合の系統色)とを混ぜた赤茶色系統であるケースが該当する。
【0009】
要するに、特許文献1に係る劣化診断技術では、任意の特定箇所に係る画素の色が赤茶色系統である場合に限って、同特定箇所が錆びている旨の診断を下す。このため、特許文献1に係る技術では、腐食の段階が初期の際に現れる赤茶色系統の初期錆、および、腐食の段階が前記初期よりも進んだ後期の際に現れる黒褐色系統の後期錆を共に判別することが難しかった。その結果、対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化の診断を行った場合、その診断結果が誤差を含むものとなるおそれがあった。
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化の診断を高精度で行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る劣化診断装置は、金属製の対象物体の腐食により生じる錆を撮影して得た発錆箇所に係るRGB色空間の錆画像情報をHLS色空間の錆画像情報に変換するHLS変換部と、前記HLS変換部で変換された前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が、前記発錆箇所が錆びているとする際の基準となる錆色領域の範囲内に含まれるか否かを判定する判定部と、前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が前記錆色領域の範囲内に含まれる旨の判定が前記判定部により下された場合、前記発錆箇所は錆びているとして、前記対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化を診断する劣化診断部と、を備え、前記錆色領域は、腐食の段階が初期の際に現れる赤茶色系統の初期錆、および、腐食の段階が前記初期よりも進んだ後期の際に現れる黒褐色系統の後期錆を共に錆として捉えることを考慮して設定される、ことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化の診断を高精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る劣化診断装置の機能ブロック構成を表す図である。
【図2】HLS色空間における錆色領域を表す説明図である。
【図3】RGB色空間における錆色領域を表す説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る劣化診断装置の劣化診断部において初期錆かまたは後期錆かを判別する際に用いるしきい値の例を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る劣化診断装置が行う劣化診断処理の流れを示すフローチャート図である。
【図6】本発明の実施形態に係る劣化診断装置において診断実行判定部が行う診断実行判定処理の流れを示すフローチャート図である。
【図7】本発明の実施形態に係る劣化診断装置において発錆箇所抽出部が行う発錆箇所抽出処理の流れを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る劣化診断装置について、図1〜図7を適宜参照しながら詳細に説明する。
なお、図1〜図7のそれぞれにおいて、共通する機能部には同一の符号を付し重複した説明を省略する。また、本実施形態では、本発明に係る"対象物体"として、金属製の柱上変圧器や開閉器、腕金などの電気設備を例示して説明する。
【0015】
(本発明の実施形態に係る劣化診断装置101の機能ブロック構成)
はじめに、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101の機能ブロック構成について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101の機能ブロック構成を表す図である。
【0016】
本発明の実施形態に係る劣化診断装置101は、図1に示すように、主制御部103と、診断結果表示部105とを備える。主制御部103は、錆画像情報取得部111と、診断条件取得部113と、HLS変換部115と、発錆箇所抽出部117と、診断実行判定部121と、診断情報記憶部119と、劣化診断部123と、診断結果出力部125とを備える。
【0017】
主制御部103は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えた不図示のマイクロコンピュータ(以下"マイコン"という。)により構成される。このマイコンは、ROMに記憶されているプログラムを読み出して実行し、錆画像情報取得部111、診断条件取得部113、HLS変換部115、発錆箇所抽出部117、診断実行判定部121、診断情報記憶部119、劣化診断部123、および、診断結果出力部125を含む各種機能部の実行制御を行うように機能する。
【0018】
錆画像情報取得部111は、金属製、具体的には鉄製の電気設備(対象物体)の腐食により生じる錆を二次元CCDカメラなどの不図示の撮影装置を用いて撮影することで生成された、発錆箇所に係るRGB色空間の錆画像情報を取得する機能を有する。ここで、RGB色空間の錆画像情報に含まれる発錆箇所とは、不図示のフレームメモリ上に二次元展開された複数の画素のうち、実際に錆が写っている(錆色の色彩情報が付加されている)画素に係る領域である。錆画像情報取得部111で取得されたRGB色空間の錆画像情報は、HLS変換部115へと送られる。
【0019】
診断条件取得部113は、錆画像情報取得部111で取得されたRGB色空間の錆画像情報において、発錆箇所に係る画素領域の情報を含む診断条件を取得する機能を有する。具体的な診断条件としては、例えば、ユーザによって発錆箇所に係る画素領域が指定されている場合、この指定された発錆箇所に係る画素領域の情報を採用する。また、後記するように、発錆箇所が錆びていると診断する際の基準となる錆色領域の設定範囲の情報を、診断条件として採用してもよい。ユーザによって指定された発錆箇所に係る画素領域に関する診断条件、または、錆色領域の設定範囲に関する診断条件は、発錆箇所抽出部117において、錆画像情報のなかから発錆箇所に係る画素領域を抽出する際に参照される。
【0020】
HLS変換部115は、発錆箇所に係る画素領域を含むRGB色空間の錆画像情報を、HLS色空間の錆画像情報に変換する機能を有する。ここで、HLSとは、色を定義するために用いるパラメータである。HLSのうち、H(Hue)は色相を、L(Lightness)は明度を、S(Saturation)は彩度を、それぞれ表す。
HLSのうち彩度Sは、後で詳しく説明するが、劣化診断部123において、発錆箇所に係る錆が、腐食の段階が初期の際に現れる赤茶色系統の初期錆、または、腐食の段階が前記初期よりも進んだ後期の際に現れる黒褐色系統の後期錆のいずれであるかを、HLS色空間の錆画像情報に基づき判別する際に参照される。
【0021】
発錆箇所抽出部117は、HLS変換部115で変換されたHLS色空間の錆画像情報のなかから、発錆箇所に係る画素領域を抽出する機能を有する。この発錆箇所に係る画素領域の抽出は、例えば、ユーザによって指定された発錆箇所に係る画素領域に関する診断条件を参照することによって行われる。また、発錆箇所に係る画素領域が未指定の場合、発錆箇所に係る画素領域の抽出を、後で詳しく説明するように、錆色領域の範囲に関する診断条件を参照することによって行ってもよい。
【0022】
診断情報記憶部119は、発錆箇所が錆びていると診断する際の基準となる錆色領域の設定範囲に係る数値データなどを記憶する機能を有する。錆色領域の設定範囲に係る数値データは、診断条件取得部113から取得する。ここで、錆色領域は、腐食の段階が初期の際に現れる赤茶色系統の初期錆、および、腐食の段階が前記初期よりも進んだ後期の際に現れる黒褐色系統の後期錆を共に錆として捉えることを考慮して設定される。
【0023】
錆色領域の設定範囲は以下の通りである。
色相H: 0≦H≦20 または 235≦H≦255
明度L: 10〜20≦L≦90
彩度S: 0≦S≦150
診断情報記憶部119に記憶された錆色領域の設定範囲に係る数値データは、診断実行判定部121の判定に先立って、診断実行判定部121へと読み込まれる。
【0024】
診断情報記憶部119は、錆色領域の設定範囲に係る数値データの他に、例えば、過去に撮影した錆画像情報、錆画像情報に基づく劣化診断結果、錆画像情報を撮影した時間・場所・天候などの撮影情報、電気設備の仕様、設置場所および設置年月日、製造年月日、製造元名、補修履歴などの情報を記憶する。
【0025】
なお、診断情報記憶部119は、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの補助記憶装置、メインメモリなどの主記憶装置、DVD(Digital Versatile Disc)やBlu−ray Disc(商標)などの記録媒体により構成される。
【0026】
本発明の"判定部"として機能する診断実行判定部121は、発錆箇所抽出部117で抽出された発錆箇所に係る画素領域について、劣化診断部123で劣化の診断を行うか否かをふるい分ける機能を有する。すなわち、発錆箇所抽出部117で抽出された発錆箇所に係る画素領域のHLS値が前記した錆色領域の設定範囲内に含まれる旨の判定が下された場合、診断実行判定部121は、この発錆箇所に係る画素領域は劣化診断を要する旨を劣化診断部123へ送る。
一方、発錆箇所抽出部117で抽出された発錆箇所に係る画素領域のHLS値が錆色領域の設定範囲内に含まれない旨の判定が下された場合、診断実行判定部121は、この発錆箇所に係る画素領域は劣化診断を要しない旨を劣化診断部123および診断結果出力部125へ送る。
【0027】
劣化診断部123は、発錆箇所抽出部117で抽出された発錆箇所に係る画素領域は劣化診断を要する旨を診断実行判定部121から受け、この発錆箇所は錆びているとして、電気設備(対象物体)に関する腐食の段階に基づく劣化を診断する。
【0028】
詳しく述べると、劣化診断部123は、発錆箇所抽出部117で抽出された発錆箇所に係る錆が、赤茶色系統の初期錆または黒褐色系統の後期錆のいずれであるかを、HLS色空間の錆画像情報のうち彩度を表すS値と、予め設定されるしきい値Sthとの大小関係を比較することによって判別する。具体的には、劣化診断部123は、HLS色空間の錆画像情報のうち彩度を表すS値がしきい値Sthを超える場合、発錆箇所に係る錆が初期錆であると判別する一方、S値がしきい値Sth以下である場合、発錆箇所に係る錆が後期錆であると判別する。
【0029】
なお、発錆箇所に係る錆が初期錆または後期錆であると判別された場合において、その錆に係る進行程度をさらに詳しく調べるために、彩度を表すS値を用いてもよい。例えば、ある発錆箇所に係る錆が後期錆であると判別された場合に、その錆画像情報のうち彩度を表すS値が、予め設定されるしきい値Sth_min(例えば、S=25)以下である場合、発錆箇所に係る錆が、後期錆よりも進んだ末期錆であると判別する態様を採用してもよい。このことは、ある発錆箇所に係る錆が初期錆であると判別された場合にも、同様に適用することができる。
【0030】
発錆箇所に係る錆が初期錆(赤茶色系統の錆)であると判別した場合、劣化診断部123は、"継続使用"・"注意"などの、電気設備(対象物体)の処遇に係る評価を下す。また、発錆箇所に係る錆が後期錆(黒褐色系統の錆)であると判別した場合、劣化診断部123は、"交換"・"注意"・"補修"・"廃棄"などの、電気設備(対象物体)の処遇に係る評価を下す。
【0031】
ここで、彩度を表すS値を用いて、発錆箇所に係る錆の進行段階を判別しているのは、次の理由による。すなわち、鉄錆の色は、一般に、腐食の段階が進行するにつれて、赤茶色系統から黒味を帯びた黒褐色系統へと変化してゆくことがわかっている。つまり、腐食の進行段階を把握するには、鉄錆の色がどの程度黒味を帯びているのかを調べればよい。この点、HLS色空間では、色の鮮やかさの尺度である彩度の概念が存在する。彩度を表すS値は、無彩色で0となり、無彩色軸から離れるにしたがって徐々に増え、純色で最大となる。
【0032】
全体として黒味を帯びた黒褐色系統の後期錆では、赤茶色系統の初期錆と比べて、彩度を表すS値が低くなる。そこで、診断対象となる発錆箇所に係る彩度を表すS値と、予め定められるしきい値(例えば、S=50)Sthとの大小関係を比較することによって、錆色がどの程度黒味を帯びているのかを調べる。このようにして、発錆箇所に係る錆の進行段階を判別するようにしている。
ちなみに、RGB色空間では、彩度の概念がないため、錆色がどの程度黒味を帯びているのかを調べるすべはない。この彩度を表すS値を有する点が、RGB色空間と比べて、HLS色空間の優位な点である。
【0033】
診断結果出力部125は、劣化診断部123で得られた診断結果を含む情報を診断結果表示部105へと出力する機能を有する。ここで、診断結果を含む情報とは、発錆箇所に係る錆画像情報、診断情報記憶部119に予め記憶される電気設備の情報、診断結果としての錆色や電気設備(対象物体)の処遇に係る評価などを含む。診断結果表示部105は、例えば、コンピュータのディスプレイ画面、携帯端末の表示画面などで構成される。
【0034】
前記した劣化診断装置101を構成する主制御部103および診断結果表示部105は、例えば、筐体内に一体に収容される。ただし、主制御部103の構成要素のうち錆画像情報取得部111および診断条件取得部113、並びに、診断結果表示部105については、例えば、クライアントサーバシステムにおけるクライアント側に存在していてもよい。ここでいうクライアントとは、例えば、PC(Personal Computer)や、PDA(Personal Digital Assistant)や、携帯電話などである。
【0035】
(HLS色空間における錆色領域)
次に、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101のHLS変換部115によって変換される、HLS色空間における錆色領域について、図2を参照して説明する。図2は、HLS色空間における錆色領域を表す説明図である。HLS色空間20は、図2に示すように、円周方向に色相H201、垂直方向に明度L202、径方向に彩度S203を定義する双六角錐形状の色空間である。
【0036】
図2に示すHLS色空間20上では、色相H201を0度〜360度、明度L202を0〜100%、彩度S203を0〜100%で表示する。ただし、実際の表示画面上でHLSを表示する場合は、色相H,明度L,彩度Sの各値をそれぞれ0〜255(8ビット)で表現する24ビットカラーを採用している。そこで、本実施形態においても、基本的に24ビットカラーによる表示態様に基づいて説明する。
【0037】
HLS色空間20上における円周方向の色相H201について、H=0または0度(360度)に赤色204が、そこから反時計まわりにH=42または60度辺りに黄色205が、H=85または120度辺りに緑色206が、H=128または180度辺りにシアン207が、H=171または240度辺りに青色208が、H=213または300度辺りにマゼンタ209が、それぞれ位置している。
【0038】
明度L202は、図2に示すように、双六角錐の垂直方向で定義されており、双六角錐の上部方向へゆくほど明度L202の値が大きくなる。双六角錐の上部の頂点210(L=255)で定義される色が白色210、下部の頂点211(L=0)で定義される色が黒色211である。白色210および黒色211の両者とも、色相H201と彩度S203との各値とは関係しない。
【0039】
彩度S203は、図2に示すように、双六角錐の径方向で定義されており、双六角錐の中心線212から外側方向へゆくほど彩度S203の値が大きくなる。中心線212では彩度S=0である。つまり、中心線212は無彩色(白色〜灰色〜黒色)の軸となる。
【0040】
図2に示すHLS色空間20において、発錆箇所が錆びていると診断する際の基準となる錆色領域として、四角錐形状の錆色領域213を設定する。錆色領域213の設定範囲は以下の通りである。
色相H: 0≦H≦20 または 235≦H≦255
明度L: 10〜20≦L≦90
彩度S: 0≦S≦150
【0041】
なお、HLS色空間20上の数値データに換算した場合、錆色領域213の設定範囲は以下のようになる。
色相H: 0≦H≦28.125度 または 331.875度≦H≦360度
明度L: 3.9%〜7.8%≦L≦35.2%
彩度S: 0≦S≦58.6%
【0042】
このように、HLS色空間20において錆色領域213を設定し、HLS色空間20の錆画像情報に係るHLS値が、錆色領域213の範囲内に含まれるか否かを比較判定することによって、HLS色空間20の錆画像情報上の発錆箇所において錆色が再現されているか否かを確認することができる。
なお、錆色領域213の設定範囲は、錆画像情報上における任意の診断対象に適合したHLS値に合わせて適宜変更可能とする構成を採用してもよい。
【0043】
(RGB色空間における錆色領域)
次に、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101の画像情報取得部111で取得される、HLS変換部115において変換される前の、RGB色空間における錆色領域について、図3を参照して説明する。図3は、RGB色空間における錆色領域を表す説明図である。RGB色空間30は、図3に示すように、赤みの程度を表すR軸301と、緑みの程度を表すG軸302と、青みの程度を表すB軸303とで定義される三次元座標の立体的な色空間である。
【0044】
実際の表示画面上でRGBを表示する場合は、R(赤色),G(緑色),B(青色)の各色をそれぞれ0〜255(8ビット)で表現する24ビットカラーを採用している。そこで、本実施形態においても、基本的に24ビットカラーによる表示態様に基づいて説明する。
【0045】
図2に示すHLS色空間20上の錆色領域213は、RGB色空間30上では、図3に示すような立方体形状の錆色領域304となる。RGB色空間30上の錆色領域304をR,G,Bの数値で示すと以下のようになる。
R: 10≦R≦143
G: 10≦G≦90
B: 10≦B≦90
【0046】
このように、RGB色空間30において錆色領域304を設定し、RGB色空間30の錆画像情報に係るRGB値が、錆色領域304の範囲内に含まれるか否かを比較判定することによって、RGB色空間30の錆画像情報上の発錆箇所において錆色が再現されているか否かを確認することができる。
【0047】
(初期錆/後期錆を判別する際に用いるしきい値Sth)
次に、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101の劣化診断部123において初期錆かまたは後期錆かを判別する際に用いるしきい値Sthについて、図4を参照して説明する。図4は、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101の劣化診断部において初期錆かまたは後期錆かを判別する際に用いるしきい値Sthの例を示す説明図である。
【0048】
図4に示すLS分布図401は、横軸を明度L402とし、縦軸を彩度S403としたLS平面図である。LS分布図401には、HLS色空間20の錆画像情報の発錆箇所に係る画素領域に関するHLSのうち、色相Hを除く明度Lと彩度Sとの各値がプロットされている。
【0049】
第1のLS分布404には、図4に示すように、初期錆(赤茶色の錆)に係る画素のLS値が集まっている。一方、第2のLS分布405には、図4に示すように、腐食が進んだ後期錆(黒褐色の錆)に係る画素のLS値が集まっている。第2のLS分布405に関する後期錆に係る画素には、黒色の色成分が多く付加されている。このため、後期錆に係る画素の色は、彩度S403が小さい無彩色に近い色であり、彩度S403の値が、おおむね0〜50の範囲に集まっている。これに対し、第1のLS分布404に関する初期錆に係る画素の色は、彩度S403の値が、おおむね55〜105の範囲に集まっている。これは、図4に示すように、彩度を表すS値(S=50)をしきい値Sth406として設定すれば、初期錆と後期錆とをふるい分けることができることを意味する。
【0050】
要するに、彩度を表すS値(S=50)をしきい値Sth406として設定し、HLS色空間20の錆画像情報のうち彩度を表すS値と、しきい値Sth406との大小関係を比較することによって、第1のLS分布404に関する初期錆と、第2のLS分布405に関する後期錆とを判別することができる。
【0051】
なお、しきい値Sth406としてのS値(S=50)は、ユーザ側において適宜の値に変更することができる。
【0052】
また、初期錆に係る第1のLS分布404と、後期錆に係る第2のLS分布405との分散値に基づき正規化した値(マハラノビス汎距離)の中間値を用いて、しきい値Sth406を定義してもよい。マハラノビス汎距離は、式(1)で定義される。ここで、ρは変量LとSの相関係数、u1,u2は式(2)のように標準化されたパラメータである。
【数1】

【数2】

【0053】
μ1は明度Lの平均値、μ2は彩度Sの平均値、σ21は明度Lの分散、σ22は彩度Sの分散である。また、色相Hを横軸、彩度Sを縦軸としたHS平面上にHS値をプロットした分布で判別してもよい。
【0054】
このように、LS分布図401上に初期錆と後期錆のそれぞれのLS値をプロットし、彩度S403に係るしきい値Sth406を用いてふるい分けを行うことによって、初期錆と後期錆とを判別することができる。
【0055】
(劣化診断装置101の全体動作)
次に、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101の全体動作について、図5を参照して説明する。図5は、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101が行う劣化診断処理の流れを示すフローチャート図である。図5に示す劣化診断処理は、劣化診断の対象となる電気設備の錆画像情報が劣化診断装置101へと入力されたときに開始される。この劣化診断処理は、電気設備に生じた錆が初期錆か後期錆かを判別し、この判別結果を用いて、電気設備に関する腐食の段階に基づく劣化を診断するものである。
【0056】
ステップS501において、画像情報取得部111は、例えば外部の携帯端末から通信媒体を介して送信されてきた、電気設備に係るRGB色空間の錆画像情報を読み込み取得する。
【0057】
ステップS502において、診断条件取得部1113は、錆画像情報上の発錆箇所に係る画素領域の情報を、診断条件として読み込み取得する。ここで、発錆箇所に係る画素領域の情報とは、発錆箇所に係る画素領域を指定するための情報である。具体的には、例えば、錆画像情報に含まれる画素が展開される領域について、左下頂点部を原点(0,0)とし、同領域における横方向の画素の数をxとし、縦方向の画素の数をyとする第1象限の二次元座標(x,y)を設定する。方形状の発錆箇所(錆が生じている画素の領域)に含まれる画素の二次元座標(x,y)のうち、最大値(x1,y1)と最小値(x2,y2)との組み合わせによって、発錆箇所に係る画素領域の情報を構成する。
【0058】
ステップS503において、HLS変換部115は、発錆箇所に係る各画素(x,y)に対応付けられたRGB色空間30の色彩情報であるRGB値(R値,G値,B値)を、次の式(3)から式(14)を用いて、HLS色空間20の色彩情報であるHLS値に変換する。ここで、max(R,G,B)は、RGB値のうち最大である数値をとることを意味する。同様に、min(R,G,B)は、RGB値のうち最小である数値をとることを意味する。
【数3】

【0059】
ステップS504において、発錆箇所抽出部117は、ステップS502で取得した発錆箇所に係る画素領域の情報である、最大値(x1,y1)と最小値(x2,y2)との組み合わせによって指定された発錆箇所に係る画素領域を抽出する。
なお、発錆箇所に係る画素領域の情報が2組以上指定されていれば、指定された複数の発錆箇所の中から少なくとも1つ以上の画素領域を適宜抽出してもよい。
【0060】
ステップS505において、診断実行判定部121は、ステップS504で抽出した発錆箇所に係る画素領域に対応する、ステップS503でHLS変換した各画素のHLS値を読み込む。
【0061】
ステップS506において、診断実行判定部121は、S505で読み込んだ発錆箇所に係る画素領域に対応する各画素のHLS値について、HLSのそれぞれが、式(15)で定義される錆色領域の設定範囲内に含まれるか否かを判定する。
色相H:0≦H≦20または235≦H≦255
明度L:15±5≦L≦90 式(15)
彩度S:0≦S≦150
【0062】
ステップS506の判定の結果、発錆箇所に係る画素領域のHLS値のうちいずれか1以上が錆色領域の範囲内に含まれない旨の判定が下された場合(ステップS506の"No"参照)、ステップS507において、診断実行判定部121は、診断実行フラグをOFF(fDIGNS==0)にする。その後、主制御部103は、処理の流れをステップS510へと進ませる。
【0063】
一方、ステップS506の判定の結果、発錆箇所に係る画素領域のHLS値の全てが錆色領域の範囲内に含まれる旨の判定が下された場合(ステップS506の"Yes"参照)、ステップS508において、診断実行判定部121は、診断実行フラグをON(fDIGNS==1)にする。
【0064】
ステップS509において、劣化診断部123は、ステップS504で抽出された発錆箇所に係る錆が、赤茶色系統の初期錆または黒褐色系統の後期錆のいずれであるかを、HLS色空間20の錆画像情報のうち彩度S403を表すS値と、しきい値Sth406(例えばS=50)との大小関係を比較することによって判別する。具体的には、劣化診断部123は、HLS色空間20の錆画像情報のうち彩度を表すS値がしきい値Sth406を超える場合、発錆箇所に係る錆が初期錆であると判別する一方、S値がしきい値Sth406以下である場合、発錆箇所に係る錆が後期錆であると判別する。
【0065】
発錆箇所に係る錆が初期錆(赤茶色系統の錆)であると判別した場合、劣化診断部123は、"継続使用"・"注意"などの、電気設備(対象物体)の処遇に係る評価を下す。また、発錆箇所に係る錆が後期錆(黒褐色系統の錆)であると判別した場合、劣化診断部123は、"交換"・"注意"・"補修"・"廃棄"などの、電気設備(対象物体)の処遇に係る評価を下す。
【0066】
ステップS510において、診断結果出力部125は、電気設備の情報を診断情報記憶部119から読み込むと共に、読み込んだ電気設備の情報、ステップS509の診断結果、および、診断対象となる錆画像情報を、診断結果表示部105へ出力する。劣化診断部123において診断が実行されない場合(ステップS506の"No"参照)、には、診断が実行されない旨をユーザに伝えるためのメッセージを出力する。
なお、電気設備の情報とは、錆診断を実施した電気設備の仕様、管理番号、設置場所および設置年月日、製造年月日、製造元名、施設年・稼働年数、補修履歴などのうち少なくとも1つ以上を含む情報である。
【0067】
ステップS511において、診断結果表示部105は、ステップS509の診断結果、電気設備の情報、および、診断対象となる発錆箇所に係る錆画像情報を、その表示画面上に表示する。
【0068】
以上説明した劣化診断装置101における劣化診断処理は、前記したように、マイコンにより構成される主制御部103が、ROMに記憶されている劣化診断プログラムを読み出して実行し、劣化診断装置101が備える各種機能部をはたらかせることによって実現される。
なお、劣化診断装置101が備える各種機能部は、IC(Integrated Circuit)やLSI(Large Scale Integration)等のハードウェア回路を用いて実現してもよい。
【0069】
(劣化診断装置101において診断実行判定部121が行う診断実行判定処理の流れ)
次に、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101において診断実行判定部121が行う診断実行判定処理の流れについて、図6を参照して説明する。図6は、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101において診断実行判定部121が行う診断実行判定処理の流れを示すフローチャート図である。図6に示す診断実行判定処理は、図5に示す劣化診断処理のうちステップS506〜ステップS508に係る処理の流れを詳しくしたものである。この診断実行判定処理は、劣化診断部123の劣化診断に先立って、図5に示す劣化診断処理のうちステップS504で抽出された発錆箇所に係る画素領域について、劣化診断の対象とすべきか否かをふるい分けるものである。
【0070】
ステップS601において、診断実行判定部121は、式(15)に規定した錆色領域に係る数値データを診断情報記憶部119から読み込む。
【0071】
ステップS602において、診断実行判定部121は、図5に示す劣化診断処理のうちS505で読み込んだ発錆箇所に係る画素領域に対応する各画素のHLS値のうち明度Lについて、錆色領域を規定した式(15)の不等式の条件(10〜20≦L≦90)を充足するか否かを判定する。
【0072】
ステップS602の判定の結果、明度Lが式(15)の不等式の条件を充足せず、発錆箇所に係る画素の明度Lが錆色領域の範囲内に含まれない旨の判定が下された場合(ステップS602の"No"参照)、ステップS603において、診断実行判定部121は、発錆箇所において錆色が再現されていないと判断して、診断実行フラグをOFF(fDIGNS==0)にする。その後、主制御部103は、処理の流れを終了させる。
【0073】
一方、ステップS602の判定の結果、明度Lが式(15)の不等式の条件を充足し、発錆箇所に係る画素の明度Lが錆色領域の範囲内に含まれる旨の判定が下された場合(ステップS602の"Yes"参照)、ステップS604において、診断実行判定部121は、発錆箇所に係る画素領域に対応する各画素のHLS値のうち彩度Sについて、錆色領域を規定した式(15)の不等式の条件(0≦S≦150)を充足するか否かを判定する。
【0074】
ステップS604の判定の結果、彩度Sが式(15)の不等式の条件を充足せず、発錆箇所に係る画素の彩度Sが錆色領域の範囲内に含まれない旨の判定が下された場合(ステップS604の"No"参照)、ステップS603において、診断実行判定部121は、前記と同様に、診断実行フラグをOFF(fDIGNS==0)にする。その後、主制御部103は、処理の流れを終了させる。
【0075】
一方、ステップS604の判定の結果、彩度Sが式(15)の不等式の条件を充足し、発錆箇所に係る画素の彩度Sが錆色領域の範囲内に含まれる旨の判定が下された場合(ステップS604の"Yes"参照)、ステップS605において、診断実行判定部121は、発錆箇所に係る画素領域に対応する各画素のHLS値のうち色相Hについて、錆色領域を規定した式(15)の不等式の条件(0≦H≦20 または 235≦H≦255)を充足するか否かを判定する。
【0076】
ステップS605の判定の結果、色相Hが式(15)の不等式の条件を充足せず、発錆箇所に係る画素の色相Hが錆色領域の範囲内に含まれない旨の判定が下された場合(ステップS605の"No"参照)、ステップS603において、診断実行判定部121は、前記と同様に、診断実行フラグをOFF(fDIGNS==0)にする。その後、主制御部103は、処理の流れを終了させる。
【0077】
一方、ステップS605の判定の結果、色相Hが式(15)の不等式の条件を充足し、発錆箇所に係る画素の色相Hが錆色領域の範囲内に含まれる旨の判定が下された場合(ステップS605の"Yes"参照)、ステップS606において、診断実行判定部121は、発錆箇所において錆色が再現されていると判断して、診断実行フラグをON(fDIGNS==1)にする。その後、主制御部103は、処理の流れを終了させる。
【0078】
以上説明したように、図6に示す診断実行判定処理では、診断実行判定部121において、診断対象となる錆画像情報のうち発錆箇所に係る画素領域について、錆色が再現されているか否かの判定を通じて、劣化診断の対象とすべきか否かをふるい分けることとした。これにより、錆色が再現されていると判断された錆画像情報の発錆箇所のみを診断対象とすることができる。従って、錆の誤診断を減らすことができる。
【0079】
(劣化診断装置101において発錆箇所抽出部117が行う発錆箇所抽出処理の流れ)
次に、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101において発錆箇所抽出部117が行う発錆箇所抽出処理の流れについて、図7を参照して説明する。図7は、本発明の実施形態に係る劣化診断装置101において発錆箇所抽出部117が行う発錆箇所抽出処理の流れを示すフローチャート図である。図7に示す発錆箇所抽出処理は、ユーザによって発錆箇所に係る画素領域が指定されていない場合、または、ユーザによって指定された発錆箇所に係る画素領域に不服がある場合などに実行される。
【0080】
ステップS701において、発錆箇所抽出部117は、HLS変換部115で変換されたHLS色空間20の錆画像情報を、HLS変換部115から読み込む。
【0081】
ステップS702において、発錆箇所抽出部117は、錆色領域の範囲に関する診断条件となる、錆色を表すHLSの範囲を規定した式(16)のデータを読み込む。なお、錆色を表すHLSについては、HLSの範囲(Hmin,Hmax),(Lmin,Lmax),(Smin,Smax)をユーザが任意の値に設定する。ユーザによる設定に代えて、式(15)で規定した錆色領域に係る数値データを、錆色を表すHLSの値として設定してもよい。
色相H:Hmin ≦ H ≦ Hmax
明度L:Lmin ≦ L ≦ Lmax 式(16)
彩度S:Smin ≦ S ≦ Smax
【0082】
ステップS703において、主制御部103は、発錆箇所抽出部117の発錆箇所抽出処理を開始させる。
【0083】
ステップS704において、発錆箇所抽出部117は、ステップS702で読み込んだ錆色を表すHLSの範囲を規定した式(16)の条件を用いて、ステップS701で読み込んだHLS色空間20の錆画像情報に含まれる各画素のHLSについて、錆色領域を規定した式(16)の条件を充足するか否かに係る錆色判定を行う。
【0084】
ステップS704の錆色判定の結果、HLS色空間20の錆画像情報に含まれる各画素のHLS(色相H、明度L、彩度S)のうち少なくとも1以上が式(16)の条件を充足しない旨の判定が下された場合(ステップS704の"No"参照)、ステップS705において、発錆箇所抽出部117は、該当する錆画像情報は発錆箇所でないと判断して、発錆フラグをOFF(fAREA_RST==0)にする。その後、主制御部103は、処理の流れをステップS707へと進ませる。
【0085】
一方、ステップS704の錆色判定の結果、HLS色空間20の錆画像情報に含まれる各画素のHLS(色相H、明度L、彩度S)の全てが式(16)の条件を充足する旨の判定が下された場合(ステップS704の"Yes"参照)、ステップS706において、発錆箇所抽出部117は、該当する錆画像情報は発錆箇所であると判断して、発錆フラグをON(fAREA_RST==1)にする。その後、主制御部103は、処理の流れをステップS707へと進ませる。
【0086】
ステップS707において、主制御部103は、ステップS701で読み込んだ錆画像情報に含まれる全ての画素についての、ステップS704の錆色判定処理がもれなく終了したか否かを判定する。
【0087】
ステップS707の判定の結果、錆画像情報に含まれる全ての画素についての錆色判定処理が未だ終了していない旨の判定が下された場合(ステップS707の"No"参照)、主制御部103は、発錆箇所抽出処理が終了していないと判断して、処理の流れをステップS704へと戻し、以下の処理を行わせる。
【0088】
一方、ステップS707の判定の結果、錆画像情報に含まれる全ての画素についての錆色判定処理がもれなく終了した旨の判定が下された場合(ステップS707の"Yes"参照)、ステップS708において、主制御部103は、発錆箇所抽出部117の発錆箇所抽出処理を終了させる。
【0089】
以上説明したように、図7に示す発錆箇所抽出処理では、発錆箇所抽出部117において、診断対象となる錆画像情報に含まれる全ての画素について、発錆箇所か否かに関する錆色判定を行うことを通じて、適切な発錆箇所の抽出を自動化することとした。
これにより、ユーザによって発錆箇所に係る画素領域が指定されていない場合、または、ユーザによって指定された発錆箇所に係る画素領域に不服がある場合に実施して好適な発錆箇所抽出技術を実現することができる。
【0090】
(本発明の実施形態に係る劣化診断方法の概要)
本発明の実施形態に係る劣化診断方法は、金属製の対象物体の腐食により生じる錆を撮影して得た発錆箇所に係るRGB色空間の錆画像情報をHLS色空間の錆画像情報に変換する手順と、腐食の段階が初期の際に現れる赤茶色系統の初期錆、および、腐食の段階が前記初期よりも進んだ後期の際に現れる黒褐色系統の後期錆を共に錆として捉えることを考慮して、前記発錆箇所が錆びていると診断する際の基準となる錆色領域を設定する手順と、前記変換する手順で変換された前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が、前記錆色領域の範囲内に含まれるか否かを判定する手順と、前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が前記錆色領域の範囲内に含まれる旨の判定が前記判定部により下された場合、前記発錆箇所は錆びているとして、前記対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化を診断する手順と、を有することを最も主要な特徴とする。
【0091】
本発明の実施形態に係る劣化診断方法によれば、対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化の診断を高精度で行うことができる。
【0092】
(本発明の実施形態に係る劣化診断プログラムの概要)
また、本発明の実施形態に係る劣化診断プログラムは、コンピュータに、金属製の対象物体の腐食により生じる錆を撮影して得た発錆箇所に係るRGB色空間の錆画像情報をHLS色空間の錆画像情報に変換する手順と、腐食の段階が初期の際に現れる赤茶色系統の初期錆、および、腐食の段階が前記初期よりも進んだ後期の際に現れる黒褐色系統の後期錆を共に錆として捉えることを考慮して、前記発錆箇所が錆びていると診断する際の基準となる錆色領域を設定する手順と、前記変換する手順で変換された前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が、前記錆色領域の範囲内に含まれるか否かを判定する手順と、前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が前記錆色領域の範囲内に含まれる旨の判定が前記判定部により下された場合、前記発錆箇所は錆びているとして、前記対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化を診断する手順と、を実行させる、ことを最も主要な特徴とする。
【0093】
本発明の実施形態に係る劣化診断プログラムによれば、対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化の診断を高精度で行うことができる。
【0094】
(その他の実施形態について)
以上説明した実施形態は、本発明に係る具現化の例を示したものである。従って、本実施形態の記載事項によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0095】
すなわち、例えば、本実施形態において、本発明に係る"対象物体"として、金属製の柱上変圧器や開閉器、腕金などの電気設備を例示して説明したが、本発明はこの例に限定されない。本発明は、金属製で錆が生じさえすれば、いかなる"対象物体"にも適用することができる。
【符号の説明】
【0096】
101 劣化診断装置
103 主制御部
105 診断結果表示部
111 画像情報取得部
113 診断条件取得部
115 HLS変換部
117 発錆箇所抽出部
119 診断情報記憶部
121 診断実行判定部(判定部)
123 劣化診断部
125 診断結果出力部
20 HLS色空間
213 錆色領域(HLS色空間)
30 RGB色空間
304 錆色領域(RGB色空間)
401 LS分布図
404 第1のLS分布(赤茶色の錆の分布)
405 第2のLS分布(黒褐色の錆の分布)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の対象物体の腐食により生じる錆を撮影して得た発錆箇所に係るRGB色空間の錆画像情報をHLS色空間の錆画像情報に変換するHLS変換部と、
前記HLS変換部で変換された前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が、前記発錆箇所が錆びているとする際の基準となる錆色領域の範囲内に含まれるか否かを判定する判定部と、
前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が前記錆色領域の範囲内に含まれる旨の判定が前記判定部により下された場合、前記発錆箇所は錆びているとして、前記対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化を診断する劣化診断部と、
を備え、
前記錆色領域は、腐食の段階が初期の際に現れる赤茶色系統の初期錆、および、腐食の段階が前記初期よりも進んだ後期の際に現れる黒褐色系統の後期錆を共に錆として捉えることを考慮して設定される、
ことを特徴とする劣化診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の劣化診断装置であって、
前記劣化診断部は、前記発錆箇所に係る錆が、前記初期錆または前記後期錆のいずれであるかを、前記HLS表色系の錆画像情報に基づき判別し、当該判別結果を用いて、前記対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化を診断する、
ことを特徴とする劣化診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の劣化診断装置であって、
前記劣化診断部の前記判別は、前記HLS色空間の錆画像情報のうち彩度を表すS値と、予め設定されるしきい値との大小関係を比較することによって行われる、
ことを特徴とする劣化診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の劣化診断装置であって、
前記劣化診断部は、前記HLS色空間の錆画像情報のうち彩度を表すS値が前記しきい値を超える場合、前記発錆箇所に係る錆が前記初期錆であると判別する一方、前記S値が前記しきい値以下である場合、前記発錆箇所に係る錆が前記後期錆であると判別する、
ことを特徴とする劣化診断装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の劣化診断装置であって、
前記劣化診断部は、前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値のうちいずれかが、前記錆色領域の範囲外である旨の判定が前記判定部により下された場合、前記発錆箇所は錆びていないとみなして、前記劣化診断を行わない、
ことを特徴とする劣化診断装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の劣化診断装置であって、
前記劣化診断部による診断の結果を表示する診断結果表示部をさらに備え、
前記診断結果表示部は、前記対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化の診断結果、当該診断結果に従う前記対象物体の処遇、または、前記劣化診断部の前記判別に用いた前記しきい値のうち、少なくとも1つ以上を表示する、
ことを特徴とする劣化診断装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の劣化診断装置であって、
前記錆色領域は、0≦H≦20または235≦H≦255、10〜20≦L≦90、0≦S≦150の範囲に設定される、
ことを特徴とする劣化診断装置。
【請求項8】
金属製の対象物体の腐食により生じる錆を撮影して得た発錆箇所に係るRGB色空間の錆画像情報をHLS色空間の錆画像情報に変換する手順と、
腐食の段階が初期の際に現れる赤茶色系統の初期錆、および、腐食の段階が前記初期よりも進んだ後期の際に現れる黒褐色系統の後期錆を共に錆として捉えることを考慮して、前記発錆箇所が錆びていると診断する際の基準となる錆色領域を設定する手順と、
前記変換する手順で変換された前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が、前記錆色領域の範囲内に含まれるか否かを判定する手順と、
前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が前記錆色領域の範囲内に含まれる旨の判定が前記判定部により下された場合、前記発錆箇所は錆びているとして、前記対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化を診断する手順と、
を有することを特徴とする劣化診断方法。
【請求項9】
コンピュータに、
金属製の対象物体の腐食により生じる錆を撮影して得た発錆箇所に係るRGB色空間の錆画像情報をHLS色空間の錆画像情報に変換する手順と、
腐食の段階が初期の際に現れる赤茶色系統の初期錆、および、腐食の段階が前記初期よりも進んだ後期の際に現れる黒褐色系統の後期錆を共に錆として捉えることを考慮して、前記発錆箇所が錆びていると診断する際の基準となる錆色領域を設定する手順と、
前記変換する手順で変換された前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が、前記錆色領域の範囲内に含まれるか否かを判定する手順と、
前記HLS色空間の錆画像情報に係るHLS値が前記錆色領域の範囲内に含まれる旨の判定が前記判定部により下された場合、前記発錆箇所は錆びているとして、前記対象物体に関する腐食の段階に基づく劣化を診断する手順と、
を実行させるための劣化診断プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−53958(P2013−53958A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193137(P2011−193137)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】