説明

劣化評価方法

【課題】ポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品が、炭化水素系液体に浸漬されることよって劣化する原因を分析し、劣化初期のわずかな劣化も評価可能な樹脂成形品の劣化を評価する方法を提供する。
【解決手段】炭化水素系液体に浸漬した際の浸漬時間が異なる複数のポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物のそれぞれをH−NMR測定した時に、それぞれの測定結果の8.04ppmから8.07ppmにピークトップを有するピークの合計面積から前記ポリアセタール共重合体の分子量の変化を評価することによって、上記樹脂組成物の劣化を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系液体に浸漬した際のポリアセタール共重合体を含む樹脂成形品の劣化を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の自動車市場は、持続的な軽量化及び一体化の推進によって自動車関連部品に適用される素材を金属からプラスチックへと代替している趨勢にあり、適用プラスチックに対して要求される物性もまた漸次厳しくなりつつある。上記のような用途に用いられるプラスチックとしては、例えば、ポリアセタール樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、高密度ポリエチレン等が挙げられる。
【0003】
これらの中でもポリアセタール系樹脂、特にポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物は剛性、強度、靭性、耐クリープ寿命、耐疲労性、耐薬品性及び摺動性、耐熱性等のバランスに優れ、且つその加工が容易であることから、エンジニアリングプラスチックスとして、電気機器や電気機器の機構部品、自動車部品及びその他の機構部品を中心に広範囲にわたって用いられている。
【0004】
また、ポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物は、特に耐燃料油性が高いので、燃料搬送ユニット等の炭化水素系液体に直接接触するような自動車関連部材に好ましく使用されている。使用例としては、ポリオキシメチレンホモポリマー又はポリオキシメチレンコポリマーと、ポリアルキレングリコールと、酸化亜鉛と、を特定の配合で含有する熱可塑性成形組成物が挙げられる(特許文献1)。
【0005】
また、炭化水素系液体、中でも燃料と直接接触する部品に適用される材料は、機械的物性及び耐燃料耐久性が充足される材料であることが要求され、このような要求を満たすとされている材料として、ポリアセタール系の重合体と、マグネシウムステアレートと、酸化防止剤と、を特定の配合で含有する材料が開発されている(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に記載されるような、燃料に直接接触する自動車関連部材に用いるポリアセタール系の重合体を用いて作製した部品は、時として部品表面にクラックが入る等劣化が見られることがある。ところが、上記のような劣化が起こる原因は様々であり、どのような原因でポリアセタール重合体を含む樹脂材料が劣化を起こしやすいものであるかについて評価を行うことができない。特に外観変化や物性変化を基準にすると、劣化が進行しないと判断出来ないため、評価に時間がかかるという理由から劣化初期のわずかな劣化を判別する必要がある。さらに、通常、炭化水素系液体は複雑な組成になっており、このような複雑な組成の炭化水素系液体を用いる場合には、何が原因で劣化したのかは分からず、樹脂材料の劣化評価はさらに困難になる。
【0007】
そこで、最適な樹脂材料の選択、最適な燃料の選択のために、劣化の原因を分析する方法が求められている。特に劣化の分析の際には劣化初期のわずかな劣化を判別することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−11284号公報
【特許文献2】特表2007−534787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品が、炭化水素系液体に浸漬されることよって劣化する原因を分析し、劣化初期のわずかな劣化も評価可能な樹脂成形品の劣化評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、上記のようなポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の炭化水素系液体中での劣化には、炭化水素系液体に起因するラジカル劣化が大きく影響することを見出し、さらに、炭化水素系液体に起因する上記樹脂成形品の劣化の程度は、炭化水素系液体に浸漬した際の浸漬時間が異なる複数のポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物のそれぞれをH−NMR測定した時に、テトラメチルシランを基準とした場合のピーク位置が8.05ppm近傍をピークトップとする−CHCHOCHO末端基のアルデヒドの水素原子に由来するピークの面積から上記ポリアセタール共重合体の分子量の変化を評価することによって評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 炭化水素系液体に浸漬した際の浸漬時間が異なる複数のポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物のそれぞれをH−NMR測定した時に、それぞれの測定結果の8.04ppmから8.07ppmにピークトップを有するピークの合計面積から前記ポリアセタール共重合体の分子量の変化を評価することによって、前記樹脂組成物の劣化を評価する劣化評価方法。
【0012】
(2) 炭化水素系液体に浸漬した際の浸漬時間が異なる複数のポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物のそれぞれをH−NMR測定した時に、前記ポリアセタール共重合体に含まれる8.05ppm近傍をピークトップとする−CHCHOCHO末端基のアルデヒドの水素原子に由来するピークの面積から前記ポリアセタール共重合体の分子量の変化を評価することによって、前記樹脂組成物の劣化を評価する劣化評価方法。
【0013】
(3) 前記炭化水素系液体が燃料である(1)又は(2)に記載の劣化評価方法。
【0014】
(4) 前記樹脂組成物が、樹脂成形品の表面から300μm以内の領域から採取した樹脂組成物である(1)から(3)のいずれかに記載の劣化評価方法。
【0015】
(5) 前記浸漬時間は、5000時間以内である(1)から(4)のいずれかに記載の劣化評価方法。
【0016】
(6) 前記炭化水素系液体が軽油である(1)から(5)のいずれかに記載の劣化評価方法。
【0017】
(7) 前記樹脂組成物が自動車の燃料系部品から採取される樹脂組成物である(1)から(6)のいずれかに記載の劣化評価方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、炭化水素系液体に浸漬した際の浸漬時間が異なる複数のポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物のそれぞれをH−NMR測定した時に、それぞれの測定結果の8.04ppmから8.07ppmにピークトップを有するピークの合計面積から上記ポリアセタール共重合体の分子量の変化を評価することで、炭化水素系液体に直接接触するポリアセタール共重合体を含む樹脂成形品に起こる劣化を評価することができる。特に本発明の評価方法によれば、劣化初期のわずかな劣化も判別することができる。
【0019】
本発明によれば、炭化水素系液体に浸漬した際の浸漬時間が異なる複数のポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物のそれぞれをH−NMR測定した時に、上記ポリアセタール共重合体に含まれる8.05ppm近傍をピークトップとする−CHCHOCHO末端基のCHOの水素原子に由来するピークの面積から上記ポリアセタール共重合体の分子量の変化を評価することで、炭化水素系液体に直接接触するポリアセタール共重合体を含む樹脂成形品に起こる劣化を評価することができる。
【0020】
また、炭化水素系液体に浸漬前後でのポリアセタール共重合体の−CHCHOCHO末端基の含有量の変化量を評価することで、問題となる劣化が炭化水素系液体による劣化により起こるものかを判断することができる。その結果、本発明の劣化評価方法を用いることで、原因別に対策を立てることができ、問題を解決しやすくなる。
【0021】
また、候補となる炭化水素系液体の中から、炭化水素系液体によるポリアセタール共重合体の劣化が少ない炭化水素系液体を容易に選択することができる。同様に使用する候補となるポリアセタール共重合体がいくつかある場合には容易に耐劣化性の高い材料を決めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、−CHOCHO末端基のアルデヒドの水素原子に由来するピークと−CHCHOCHO末端基のアルデヒドの水素原子に由来するピークを示すNMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0024】
本発明の劣化評価方法は、炭化水素系液体に浸漬した際の浸漬時間が異なる複数のポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物のそれぞれをH−NMR測定することを特徴としており、それぞれの測定結果の8.04ppmから8.07ppmにピークトップを有するピークの合計面積又はポリアセタール共重合体に含まれる8.05ppm近傍をピークトップとする−CHCHOCHO末端基のアルデヒドの水素原子に由来するピークの面積からポリアセタール共重合体の分子量の変化を評価するものであればその他の工程は、特に限定されない。これらのピークの面積の変化から樹脂成形品の劣化を評価することができるからである。
【0025】
本発明の劣化評価方法としては、例えば、評価準備工程、定量工程、分子量評価工程を備える劣化評価方法が挙げられる。以下、これらの工程を備える劣化評価方法を例に本発明について説明する。
【0026】
<評価準備工程>
評価準備工程は、評価対象となる樹脂成形品を用意する。炭化水素系液体に浸漬した際の浸漬時間が異なる複数のポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物のそれぞれをH−NMR測定するために樹脂成形品を準備する。なお、樹脂組成物は樹脂成形品から採取するH−NMR測定用のサンプルである。
【0027】
樹脂成形品は、ポリアセタール共重合体を含む樹脂成形品であれば特に限定されない。ポリアセタール共重合体とは、オキシメチレン基(−CHO−)を主たる構成単位として含む高分子化合物である。ポリアセタール共重合体としては、例えば、オキシメチレンユニットとオキシエチレンユニットとを構成単位として含むポリアセタール共重合体が挙げられる。ポリアセタール共重合体は、オキシメチレン基以外に、コモノマー単位として、炭素数2〜6程度、好ましくは炭素数2〜4程度のオキシアルキレン単位(例えば、オキシエチレン基(−CHCHO−)、オキシプロピレン基、オキシテトラメチレン基等)、さらに好ましくはオキシエチレン基を構成単位として含んでいる。炭素数2〜6程度のオキシアルキレン基の割合(コモノマー単位の含有量)は、ポリアセタール樹脂の用途等に応じて適当に選択できる。
【0028】
ポリアセタール共重合体は、二成分で構成されたコポリマー、三成分で構成されたターポリマー等の複数の成分で構成されていてもよい。ポリアセタール共重合体は、一般にランダムコポリマーであるが、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー等であってもよい。また、ポリアセタール共重合体は、線状のみならず分岐構造であってもよく、架橋構造を有していてもよい。さらに、ポリアセタール共重合体の末端は、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸とのエステル化等により安定化されていてもよい。ポリアセタール共重合体の重合度、分岐度や架橋度も特に制限はなく、溶融成形可能であればよい。
【0029】
上記ポリアセタール共重合体は、本発明の目的を害さない範囲で、上記以外の繰り返し単位を含むものであってもよい。また、上記ポリアセタール共重合体には本発明の目的を害さない範囲で、他の樹脂を含んでいてもよい。
【0030】
本発明の劣化評価方法は、様々なポリアセタール共重合体に対して適用することが可能であるが、特に、オキシメチレン単位とオキシエチレン単位とで構成されたポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物からなる樹脂成形品に対して適用することが好ましく、上記ポリアセタール共重合体からなる樹脂成形品に対して適用することがさらに好ましい。
【0031】
実際に劣化評価の対象となる樹脂組成物は、例えば上記のようなポリアセタール共重合体を含む樹脂成形品から採取する樹脂組成物である。成形方法は特に限定されないが、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。
【0032】
評価の対象となる樹脂成形品は後述する炭化水素系液体に直接又は間接的に接触するものであれば特に限定されず、様々な場面で用いられる樹脂成形品が挙げられる。本発明の劣化評価方法は、上記のようなポリアセタール共重合体を含む自動車部品に対して好ましく適用することができる。自動車部品は炭化水素系液体に接触することが多いからである。なお、「樹脂成形品が間接的に炭化水素系液体に接触する」とは、気化した炭化水素系液体と接触するような樹脂成形品も含まれることを指す。
【0033】
評価する対象となる樹脂成形品を炭化水素系液体に浸漬する。炭化水素系液体とは、例えば内燃機関の燃料、潤滑剤等である。炭化水素系液体には複数の炭化水素系液体を混合したものや、炭化水素系液体に安定剤等の添加剤を配合したものも含まれる。内燃機関の燃料に直接接触するような樹脂成形品の評価に本発明の劣化評価方法は好ましく適用することができる。内燃機関の燃料としては、例えば、メタノール、ガソリン、軽油、重油、グリス等が挙げられる。これらの内燃機関の燃料の中でも、特に軽油に直接接触するような樹脂成形品の評価に本発明の劣化評価方法は好ましく適用することができる。
【0034】
本発明の評価方法において、炭化水素系液体に樹脂成形品を浸漬させる時間は特に限定されないが、浸漬時間が長くなり過ぎると、副反応等が起こり、樹脂成形品の劣化評価が難しくなる。また、浸漬時間には浸漬時間がゼロ、即ち全く浸漬させない場合も含む。評価を行いやすい浸漬時間は使用する炭化水素系液体の種類、ポリアセタール共重合体の種類等によっても異なる場合があるものの、5000時間以内であることが好ましい。短い時間で炭化水素系液体に浸漬を行うことにより、時間をかけることなく樹脂成形品の劣化評価を行うことができる。短い時間であれば、さらなる反応等の影響が少なく、炭化水素系液体への浸漬前後での樹脂成形品に含まれるポリアセタール共重合体の−CHCHOCHO末端基の含有量の炭化水素系液体劣化による変化をより正確に測定でき、その結果、劣化するか否かの評価を正確に行える。
【0035】
例えば、炭化水素系液体に浸漬後の樹脂成形品及び浸漬させなかった樹脂成形品から、評価を行うためのサンプルを採る。評価を行うためのサンプルを上記樹脂成形品中のどの部分から採るかは、特に限定されないが、本発明の評価の対象となる劣化は、炭化水素系液体が接触する樹脂成形品の表面で主に起こるため、表面から300μm以内の領域のサンプルを採ることが好ましい。より好ましくは表面から200μm以内の領域である。
【0036】
<定量工程>
定量工程は、上記樹脂組成物サンプルに含まれるポリアセタール共重合体の−CHCHOCHO末端基の含有量の定量を行う工程である。上記末端基の含有量の定量は、H−NMRスペクトルの測定により行う。
【0037】
H−NMRスペクトルの測定は、好ましくは200MHz以上の分解能を有する装置を使用して、室温で、必要に応じて精度を上げるために積算して行われる。図1には、−CHOCHO末端基に由来するピーク、−CHCHOCHO末端基に由来するピークを示す。以下、横軸はTMS基準の化学シフトである。図1から分かるように、−CHOCHO末端基に由来するピークのピークトップと、−CHCHOCHO末端基に由来するピークのピークトップとは非常に近い。これらのピークを区別し、−CHCHOCHO末端基のアルデヒドの水素原子に由来するピークの面積から−CHCHOCHO末端基の含有量を定量することで炭化水素系液体による劣化評価を正確に行うことができる。なお、図1を得た測定条件では、−CHOCHO末端基に由来するピークのピークトップは、8.051ppm付近に現れ、−CHCHOCHO末端基に由来するピークのピークトップは、8.064ppm付近に現れている。
【0038】
上記のようにして同定された末端基の定量は、−CHOCHO末端基のアルデヒドの水素原子のピーク面積と、−CHCHOCHO末端基のアルデヒドの水素原子のピーク面積とから求められる。上記定量方法において、ピーク面積の代りに、必要であれば適当な補正を行って、ピークの高さを使用することができる。
【0039】
本発明の樹脂成形品の劣化評価方法であれば、上記のように炭化水素系液体への浸漬時間が異なる樹脂成形品に含まれるポリアセタール共重合体に含まれる−CHCHOCHO末端基の含有量を定量することで、ポリアセタール共重合体を含む樹脂成形品の劣化を評価することができる。この評価結果を用いることで、原因に応じた対策を立てることができるため、ポリアセタール樹脂を含む樹脂成形品の劣化を容易に解決することができる。また、最適なポリアセタール系樹脂の選択も容易になる。
【0040】
評価対象等により異なるものの、炭化水素系液体への浸漬時間が1000時間以内であり、上記のような方法で定量される−CHCHOCHO末端基の増加量が少ないほど、劣化の少ない材料であると評価することができる。燃料への浸漬時間が1000時間以内であれば、末端基の他の反応による変化がほとんど進んでいないと考えられるため、樹脂組成物の炭化水素系液体による劣化を末端基の含有量から適切に評価することができるからである。なお、上記の通り劣化は、炭化水素系液体と接触する樹脂組成物の表面から起こるため、樹脂成形品表面での末端基の増加量が上記範囲であることが好ましい。
【0041】
また、ポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物は、炭化水素系液体による劣化以外に酸により劣化する。酸劣化が原因の樹脂組成物の劣化の場合には、抗酸剤を添加することにより解消することができる。抗酸剤としては従来公知のものを使用することができる。従来公知の抗酸剤としては、例えば、窒素含有化合物、アルカリあるいはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等を挙げることができる。抗酸剤は、いずれか1種のみを添加してもよいし、2種以上を添加してもよい。
【0042】
したがって、炭化水素系液体の浸漬後で−CHCHOCHO末端基の含有量が増加する劣化の方が、解決が難しい材料であることを評価することができる。特に1000時間の炭化水素系液体浸漬後の樹脂成形品中の−CHCHOCHO末端基の含有量の増加量が少ないほど、炭化水素系液体による劣化が小さく通常の自動車部品に対して好ましく使用可能と判断できる。
【0043】
<分子量評価工程>
本発明の劣化評価方法においては、例えば、炭化水素系液体への浸漬前後での樹脂組成物に含まれる−CHCHOCHO末端基の含有量の変化量をH−NMR測定で定量することによって、炭化水素系液体浸漬前後での分子量の変化を評価し、樹脂組成物の劣化を評価する。上記末端基の含有量の変化と分子量の変化との関係を導出しておくことでより正確に劣化評価を行うことができる。分子量がどの程度減少するかを具体的に評価できるからである。
【0044】
上記末端基の含有量の変化と分子量の変化との関係は、炭化水素系液体への浸漬時間毎に分子量及び末端基の含有量を測定することにより行うことができる。末端基の含有量の測定は上記の末端器の含有量の定量と同様の方法で行うことができる。また、分子量の測定方法は、特に限定されず従来公知の方法で行うことができる。従来公知の分子量の測定方法としては、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー法により重量平均分子量又は数平均分子量を求めることができる。
【0045】
ポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物が劣化すると、分子量が減少する。この分子量の減少は末端基が増加することを意味する。そこで、上記のNMR等の方法で測定した結果から求められる−CHCHOCHO末端基の含有量の増加量と、を重量平均分子量及び/又は数平均分子量の減少量と併せて考慮することで、劣化の程度をより正確に予測することができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
ポリアセタール系樹脂(ジュラコンM90−44、ポリプラスチックス株式会社製)からなる試験片を用意した。
【0048】
試験片と市販の軽油とを耐圧容器に入れた後、この耐圧容器を110℃メタルバスにて表1に示す時間加熱した。加熱後、取り出した試験片を洗浄し、表面から200μmまでの領域を切削しサンプルとし、末端基分析のためのNMRスペクトル測定・末端基分析、重量平均分子量、数平均分子量測定を下記の条件で行った。末端基の分析結果、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)の結果を表1、2に示した。
【0049】
[NMR測定条件]
NMR装置:AC400P型(ブルカー社製)
パルスフィリップアングル:30♯
積算繰り返し時間:10sec
積算回数:128回
【0050】
重水素化ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)を溶媒として濃度5質量%に溶解して、溶液をNMR用サンプル管に充填し、室温で、NMRスペクトルを測定した。ピーク面積をもとに、ポリマー主鎖のH量を基準に、−CHOCHO末端基、−CHCHOCHO末端基の含有量を定量した。
【0051】
[分子量測定条件]
装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)
カラム:TSK−Gel Super HM−H(日本)
溶媒:HFIP/5mM TFNa(トリフルオロ酢酸ナトリウム)
流速:0.3ml/min
検出器:RI
温度:40℃
標準試料:PoLymer Laboratories EasiCal PM−1 PMMA Standards(Mw:1944000〜1020)
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1、2から明らかなように本発明の評価方法を用いることで、樹脂成形品の劣化を正確に評価することができる。特に、本発明の評価方法を用いることで、浸漬後500時間のわずかな劣化も評価することができる。
【0055】
<サンプル採取位置の比較>
市販の軽油に試験片を(燃料中90℃×100時間+空気中90℃×48時間)×10サイクルの条件で浸漬させた。その後、試験片表面から200μm以内の領域から採取したサンプルと試験片表面を300μm切削した部分から採取した試験片内部のサンプルとについて、重量平均分子量、数平均分子量の測定を行った。測定結果を表3に示した。表3から明らかなように、劣化の程度は成形品表面付近で大きいことが確認された。なお、試験片及び分子量の測定条件は実施例1の条件と同様である。
【0056】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系液体に浸漬した際の浸漬時間が異なる複数のポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物のそれぞれをH−NMR測定した時に、それぞれの測定結果の8.04ppmから8.07ppmにピークトップを有するピークの合計面積から前記ポリアセタール共重合体の分子量の変化を評価することによって、前記樹脂組成物の劣化を評価する劣化評価方法。
【請求項2】
炭化水素系液体に浸漬した際の浸漬時間が異なる複数のポリアセタール共重合体を含む樹脂組成物のそれぞれをH−NMR測定した時に、前記ポリアセタール共重合体に含まれる8.05ppm近傍をピークトップとする−CHCHOCHO末端基のアルデヒドの水素原子に由来するピークの面積から前記ポリアセタール共重合体の分子量の変化を評価することによって、前記樹脂組成物の劣化を評価する劣化評価方法。
【請求項3】
前記炭化水素系液体が燃料である請求項1又は2に記載の劣化評価方法。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、樹脂成形品の表面から300μm以内の領域から採取した樹脂組成物である請求項1から3のいずれかに記載の劣化評価方法。
【請求項5】
前記浸漬時間は、5000時間以内である請求項1から4のいずれかに記載の劣化評価方法。
【請求項6】
前記炭化水素系液体が軽油である請求項1から5のいずれかに記載の劣化評価方法。
【請求項7】
前記樹脂組成物が自動車の燃料系部品から採取される樹脂組成物である請求項1から6のいずれかに記載の劣化評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−162707(P2011−162707A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28861(P2010−28861)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】