説明

劣化評価装置及び劣化評価方法

【課題】観測不可能または観測困難な異質性要因を含めて対象物の劣化過程を評価することができる劣化評価装置及び劣化評価方法を提供する。
【解決手段】管理者が複数の対象物を点検して決定した健全度の状態を入力装置から入力すると、データ受付部10が点検データとして受け付ける。劣化特性算出部12は、データ受付部10が受け付けた複数の対象物の健全度に関するデータに基づいて、対象物の劣化特性θ(l)の平均値(Aveθ)を算出する。異質性パラメータ算出部16は、劣化特性θ(l)に偏差を生じさせる観測不可能または観測困難な異質性要因毎に異質性パラメータεを算出する。ベンチマーキング部18は、上記異質性パラメータにより、異質性要因が劣化特性に及ぼす影響を評価し、出力部20が評価結果を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化評価装置及び劣化評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁、道路等のアセットマネジメントでは、維持補修に伴うライフサイクル費用の低減化を図るための最適補修戦略を求めることが重要な課題となっている。このため、従来より、橋梁、道路等の土木施設について、定量的に劣化予測を行う方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、橋梁を構成する部材の健全度を定量的にかつ客観的に評価し、長期的な劣化を予測する橋梁の維持管理計画支援システムが開示されている。
【特許文献1】特開2006−177080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の技術においては、土木施設等が設置されている環境条件や施工時における品質等の相異に基づく、観測不可能または観測困難な異質性要因によって生じる劣化過程の差異を評価することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、観測不可能または観測困難な異質性要因を含めて対象物の劣化過程を評価することができる劣化評価装置及び劣化評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の複数対象物の劣化評価装置の発明は、複数の対象物の健全度に基づき、観測可能な劣化要因毎に前記複数の対象物の劣化特性を算出する劣化特性算出手段と、前記劣化特性に偏差を生じさせる観測不可能または観測困難な異質性要因毎に前記劣化特性の偏差の指標である異質性パラメータを算出する異質性パラメータ算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の複数対象物の劣化評価装置が、さらに前記異質性パラメータの大小関係に基づき前記異質性要因が前記劣化特性に及ぼす影響を評価するベンチマーキング手段を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の複数対象物の劣化評価装置において、前記劣化特性算出手段が、前記複数の対象物の劣化過程の同時生起確率密度を表す対数尤度関数を最大にする最尤推定値として前記劣化特性を求めることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の複数対象物の劣化評価装置において、前記異質性パラメータ算出手段が、前記異質性要因を有する対象物が生じる同時生起確率密度を表す部分対数尤度を求め、これを条件付きで最大化した際の最適解として前記異質性パラメータを求めることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の複数対象物の劣化評価装置において、前記劣化評価装置が更に出力手段を有し、前記ベンチマーキング手段は、横軸に経過時間、縦軸に健全度をとり、個々の対象物における劣化特性を相対的に表す劣化曲線を作成し、前記出力手段は、前記異質性パラメータの値に基づいて作成した個々の劣化曲線を出力することを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の複数対象物の劣化評価方法の発明は、複数の対象物の劣化速度を取得し、前記劣化速度に基づき、観測可能な劣化要因毎に前記複数の対象物の劣化特性を算出し、前記劣化特性に偏差を生じさせる観測不可能または観測困難な異質性要因毎に前記劣化特性の偏差の指標である異質性パラメータを算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、観測不可能または観測困難な異質性要因を含めて対象物の劣化過程を評価することができる。
【0013】
請求項2及び請求項5の発明によれば、異質性要因が劣化特性に及ぼす影響を容易に評価することができる。
【0014】
請求項3及び請求項4の発明によれば、劣化特性及び異質性パラメータを適切に算出することができる。
【0015】
請求項6の発明によれば、観測不可能または観測困難な異質性要因を含めて対象物の劣化過程を評価することができる複数対象物の劣化評価方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0017】
図1には、本発明にかかる劣化評価装置の一実施形態の機能ブロック図が示される。図1において、劣化評価装置はコンピュータ上に実現され、データ受付部10、劣化特性算出部12、異質性要因格納部14、異質性パラメータ算出部16、ベンチマーキング部18及び出力部20を含んで構成されている。
【0018】
データ受付部10は、中央処理装置(例えばCPUを用いることができる)とCPUの処理動作を制御するプログラムとを含んで実現され、対象物の管理者が入力装置から入力する、橋梁、道路等の土木施設その他の対象物の健全度に関するデータ(観測値)を受け付ける。上記入力装置は、例えばキーボード、ポインティングデバイス等により構成してもよく、適宜なディスクドライブ装置により構成してもよく、さらにUSB(ユニバーサルシリアルバス)ポート、ネットワークポート等の適宜な通信インターフェースで構成してもよい。また、上記健全度とは、対象物が新規建設後の経年によって劣化が進行し、発揮するべき機能または性能が低下した状態を、劣化の度合いを複数の段階に分類したレーティングで表現したものをいう。
【0019】
図2には、上記健全度の例が示される。図2は、橋梁部材の中でも直接輪荷重が作用し、維持管理上の重要部材であるRC床版について、ニューヨーク市が策定した目視検査の7段階のレーティング評価基準である。図2において、レーティングは、新設状態を表す「1」が最良であり、以降目視により得られるRC床版の状態が劣化する程度に応じて「7」まで設定されている。従って、本例ではレーティングの数値が大きいほどRC床版が劣化していることを示している。
【0020】
図1に戻り、劣化特性算出部12は、CPUとCPUの処理動作を制御するプログラムとを含んで実現され、上記データ受付部10が受け付けた複数の対象物の健全度に関するデータに基づき、観測可能な劣化要因毎に複数の対象物の劣化特性を算出する。ここで、観測可能な劣化要因とは、例えば橋梁や道路の場合では、交通量、設置場所の気象条件、材料、建設年次等の定量化が可能な劣化要因である。また、劣化特性とは、建設時からある時間が経過したときに上記レーティングが1段階劣化する確率を表す確率密度関数をいう。この確率密度関数をハザード関数と呼び、詳細を後述する。
【0021】
異質性要因格納部14は、RAM(ランダムアクセスメモリ)及びハードディスク装置等のコンピュータが読み取り可能な記憶装置並びにこれらをCPUにより制御するためのプログラムにより構成され、劣化特性に偏差を生じさせる観測不可能または観測困難な異質性要因を格納する。ここで、異質性要因には、例えば施工時の条件や、RC床版等の特性値が等しい橋梁における個々の橋梁特有の要因等の定量的観測が不可能または困難な要因が含まれる。これらの異質性要因は、対象物と関連付けて格納されている。
【0022】
異質性パラメータ算出部16は、CPUとCPUの処理動作を制御するプログラムとを含んで実現され、異質性要因格納部14に格納された異質性要因毎に、上記劣化特性の偏差の指標である異質性パラメータ(ε)を算出する。なお、上記異質性要因は、異質性要因格納部14から取得する代わりに、管理者が指定する構成としてもよい。異質性パラメータについては後述する。
【0023】
ベンチマーキング部18は、CPUとCPUの処理動作を制御するプログラムとを含んで実現され、上記異質性パラメータ算出部16が算出した異質性パラメータの大小関係に基づき上記異質性要因が劣化特性に及ぼす影響を評価する。ここで、評価方法の例としては、例えば個々の対象物についての劣化特性を相対的に表す劣化曲線を作成する等の方法がある。
【0024】
出力部20は、CPUとCPUの処理動作を制御するプログラムとを含んで実現され、ディスプレイ等の表示装置や印刷装置等のデータ出力手段にベンチマーキング部18が行った評価結果を出力する。
【0025】
次に、上記劣化特性算出部12が行う、観測可能な劣化要因毎に複数の対象物の劣化特性を算出する処理を説明する。
【0026】
図3には、橋梁等の対象物の劣化過程の説明図が示される。図3において、横軸は対象物の新設時点からの経過時間τであり、縦軸は健全度である。なお、本例では、健全度を表す状態(レーティング)を状態変数i(iは整数)で表し、これがi,i+1,i+2の3段階で示されている。また、管理者は、交通量や材料等の特定の劣化要因のもとで、2つの時点τ,τにおいて対象物の点検を行い、健全度を確認している。
【0027】
図3の場合、4種類の劣化過程の例が示されている。パス1は、2つの点検間隔(τからτの間)で劣化が進行せず、2回の点検で当該対象物の健全度として状態iが観測されている。また、パス2とパス3では、それぞれ時刻τ及びτにおいて、健全度が状態iからi+1に劣化し、2回目の点検時点(τ)で状態i+1が観測されている。さらに、パス4では、時刻τ及びτにおいて、それぞれ健全度がiからi+1へ、i+1からi+2へ変化している。以上に述べた各場合において、管理者は2回の点検時における健全度を観測することが可能であるが、健全度が実際に変化した時刻(τ,τ,τ,τ)を観測することはできない。このため、健全度の推移(劣化過程)の推定に確率過程(マルコフ劣化モデル)を導入する。
【0028】
図3に示された劣化過程をマルコフ劣化モデルとし、上記時刻τで観測された対象物の健全度を状態変数h(τ)、時刻τで観測された対象物の健全度を状態変数h(τ)として表現した場合、時刻τで観測された健全度h(τ)=iであったときに、将来時点であるτにおける点検時に健全度h(τ)=jとなる条件付推移確率(マルコフ推移確率)を、
Pr[h(τ)=j|h(τ)=i]=πij
と表現する。このような推移確率を健全度の組合せ(i,j)に対して求めると、マルコフ推移確率行列は、
【数1】

と表現できる。なお、補修がなされない場合には劣化が改善されることはないので、i>jではπij=0となる。また、推移確率の定義より、
【数2】

である。
【0029】
図4には、上記マルコフ推移確率の定式化方法の説明図が示される。図4において、時刻τi−1で健全度がi−1からiに推移し、時刻τで健全度がiからi+1に推移したとする。ここで、時刻τi−1を初期時点(y=0)とする時間軸を設定する。このとき、時刻τは上記時間軸上でyとなり、時刻τはyとなる。また、当該対象物の健全度がiに留まる期間長(健全度iの寿命)は、図4に示されるように、ζ=yとなる。健全度iの寿命ζは確率変数であり、確率密度関数f(ζ)、分布関数F(ζ)に従うとして、
【数3】

が成立する。さらに、初期時点y=0(時刻τi−1)から点検時点yまでに健全度がiのまま推移する確率は、
Pr{ζ≧y}=F’(ζ)=1−F(ζ
と定義できる。ここで、健全度が時点yまで状態iで推移し、かつ期間[y,y+Δy)中に状態i+1に劣化する条件付確率は、
【数4】

と表現できる。この確率密度λ(y)をハザード関数と呼ぶ。健全度の状態数−1個のハザード関数を定義することができる。なお、ハザード関数の値が小さいほど劣化速度が小さいことを意味する。
【0030】
上述したように、劣化過程をマルコフ劣化モデルとし、上記ハザード関数が時間に依存せず、常に一定値をとるとすると、指数ハザード関数
λ(y)=θ (θは正の定数)
が成立する。このように、指数ハザード関数が時間に依存しないで一定値をとることから、劣化過程が過去の履歴に依存しないというマルコフ性を表現することができる。また、健全度iの寿命がy以上となる確率F’(y)は、
F’(y)=exp(−θ
となる。
【0031】
ここで、上記指数ハザード関数を用いると、2回の点検(τとτ)の間に健全度がiからjに推移するマルコフ推移確率πij(i=1,・・・,I−1;j=i+1,・・・,I)を以下の式のように定式化することができる。
【数5】

ただし、zは1回目と2回目の点検の間隔(y−y)である。
【0032】
劣化特性算出部12は、以上に述べた指数ハザード関数θを、対象物の劣化特性として算出する。
【0033】
次に、異質性パラメータ算出部16が行う、劣化特性の偏差の指標である異質性パラメータを算出する処理を説明する。
【0034】
まず、劣化特性算出部12は、複数の対象物をK個のグループに分割し、各グループk(k=1,2,…,K)に属する要素l毎の劣化特性(指数ハザード関数)θ(l)の平均値(Aveθ)を算出する。ここで、各グループの要素lは、例えばグループに属する橋梁等の建造物でもよいし、建造物を構成する部材としてもよい。このグループは、例えば橋梁の場合に、観測可能な劣化要因としての交通量を適宜な基準により大中小に分類し、交通量に応じて複数の橋梁を分類する等により構成することができる。
【0035】
次に、異質性パラメータ算出部16は、各グループkの要素l毎に劣化特性に偏差を生じさせる異質性要因を設定し、偏差の指標である異質性パラメータεを算出する。なお、異質性パラメータεはレーティングiには依存しない。この異質性パラメータεは、各グループk毎に、劣化特性がその平均値(Aveθ)から乖離する程度を表す確率変数であり、ε>0である。ε=1が各グループkの劣化特性の平均値に相当し、異質性パラメータεの値が1より大きくなるほど当該対象物の劣化速度が平均値に対して速いことを、1より小さくなるほど当該対象物の劣化速度が平均値に対して遅いことを表す。要素l毎の劣化特性θ(l)は、混合指数ハザード関数として以下の式で表される。
θ(l)=Aveθ×ε … (1)
【0036】
ここで、例えば異質性パラメータεが、平均1、分散1/φのガンマ分布から抽出された確率標本であるとすると、平均的な劣化推移を表すマルコフ推移確率は、
【数6】

と表される。
【0037】
このとき、全対象物の健全度(レーティング)の観測値が同時に得られる確率を表現した同時生起確率を表す対数尤度関数は、
【数7】

と定式化される。さらには、異質性パラメータの同時生起確率を表す部分対数尤度関数は、
【数8】

と表される。ここで、xlkは、劣化予測の対象となる対象物の任意の観測可能な特性ベクトルを示す。また、

は指数ハザード関数の平均値及び異質性パラメータの確率分布に関する最尤推定値を表している。
【0038】
なお、上記各数式中の符号に付したハット(^)は推定値を、チルダ(〜)は平均値を、バー(−)は観測値をそれぞれ表している。
【0039】
以上の場合、上記劣化特性算出部12は、全対象物の健全度(レーティング)の観測値が同時に得られる確率を表現した同時生起確率を表す対数尤度関数を最大にする最尤推定値として、劣化特性の異質性を考慮しない平均的な劣化特性を表現する指数ハザード関数の平均値(Aveθ)を求める。また、異質性パラメータ算出部16は、上記指数ハザード関数の平均値(Aveθ)を用いて、例えばグループkに属する対象物の異質性パラメータの同時生起確率を表す部分対数尤度を、条件付きで(すなわち指数ハザード関数の平均値がAveθとなることを前提として)最大化する最適解として、各グループkの異質性パラメータεを算出する。
【0040】
なお、上述したように、異質性パラメータεは、観察が困難な個別的な異質性要因に基づくものであり、例えば異質性要因格納部14に予め格納された異質性要因毎に算出する構成とすることができる。また、劣化特性の検討の際に、管理者が設定する構成としてもよい。
【0041】
図5には、本発明にかかる劣化評価装置の動作例のフローが示される。図5において、管理者が複数の対象物を点検して決定した健全度の状態及び点検日時を入力装置から入力し、データ受付部10が点検データとして受け付ける(S1)。この点検は、適宜な時点で複数回行われる。
【0042】
劣化特性算出部12は、データ受付部10が受け付けた複数の対象物の健全度に関するデータ(状態)に基づいて、各劣化要因について対象物の劣化特性θ(l)の平均値(Aveθ)を算出する(S2)。
【0043】
異質性パラメータ算出部16は、異質性要因格納部14に格納され、または管理者が指定した異質性要因毎に、異質性パラメータεを算出する(S3)。
【0044】
次に、ベンチマーキング部18は、異質性パラメータ算出部16が算出した異質性パラメータの大小関係に基づき上記異質性要因が劣化特性に及ぼす影響を評価し(S4)、出力部20がベンチマーキング部18の評価結果を出力する(S5)。この場合、ベンチマーキング部18は、例えば後述する図7に示される劣化曲線及び平均劣化曲線を作成し、この劣化曲線及び平均劣化曲線を出力部20が出力する構成とすることができる。
【0045】
図6には、出力部20が出力した異質性パラメータの大小関係の概念図が示される。図6では、横軸が劣化特性θ(l)であり、縦軸が劣化特性θ(l)毎の要素lの数(頻度)である。また、劣化特性θ(l)の平均値(Aveθ)が縦線で示されている。異質性パラメータεは、平均値(Aveθ)からの横軸方向の距離で示されている。
【0046】
図6において、異質性要因がA,B,Cで示される。また、異質性パラメータεは、平均値(Aveθ)からの横軸方向の距離で示されている。ここで、異質性要因は、例えば施工時の条件や、RC床版等の特性値が等しい橋梁における個々の橋梁特有の要因等である。劣化特性θ(l)は、小さいほど劣化速度が小さいことを表しているので、異質性パラメータεの定義式(1)から、劣化速度が小さいほど異質性パラメータεも小さいことになる。このため、異質性要因A,B,Cは、この順序(A<B<C)で劣化速度が大きくなっていることになる。このように、劣化特性θ(l)により、異質性要因毎の優劣を判断することができ、定量的な観測が不可能または困難な要因の評価を行うことができる。
【0047】
マルコフ劣化モデルを用いれば、アセットマネジメントにおけるリスク管理指標であるレーティング期待寿命(所定のレーティングにはじめて到達した時点から、劣化が進行して次のレーティングに進むまでの期待時間長)を求めることができる。すなわち、健全度iの寿命がy以上となる確率F’(y)を時刻0から無限大まで積分することにより、レーティング期待寿命RMD
【数9】

となる。本式より、初期時点(レーティングが1の場合)からの経過年数と対象物の平均的なレーティングとの対応関係である劣化曲線を求めることができる。また、劣化曲線は、グループ毎に作成することも、グループの別なく全対象物を対象に作成することもできる。
【0048】
図7には、レーティング期待寿命及びその平均値(異質性パラメータε=1に相当)からベンチマーキング部18が作成した劣化曲線及び平均劣化曲線(基準曲線;ベンチマーク曲線)の例が示される。平均劣化曲線の上側に位置する対象物(ε<1に相当)ほど平均に比べて劣化が遅く、逆に平均劣化曲線の下側に位置する対象物(ε>1に相当)ほど平均に比べて劣化が早いことが分かる。
【0049】
この結果を参照し、特に平均劣化曲線からの偏差が大きい対象物を詳細に分析することにより、当初グループ分割の際に予見していた要因以外に、劣化速度に影響する要因を把握することができる。
【0050】
なお、ここでは劣化曲線を例に説明したが、異質性パラメータ毎に確率的劣化分布(レーティングの確率分布)の経年変化を求め、これらを比較することによって劣化速度に影響する要因を把握することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明にかかる劣化評価装置の一実施形態の機能ブロック図である。
【図2】健全度の例を示す図である。
【図3】対象物の劣化過程の説明図である。
【図4】マルコフ推移確率の定式化方法の説明図である。
【図5】本発明にかかる劣化評価装置の動作例のフロー図である。
【図6】異質性パラメータの大小関係の概念図である。
【図7】劣化曲線の相対評価の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
10 データ受付部、12 劣化特性算出部、14 異質性要因格納部、16 異質性パラメータ算出部、18 ベンチマーキング部、20 出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の対象物の健全度に基づき、観測可能な劣化要因毎に前記複数の対象物の劣化特性を算出する劣化特性算出手段と、
前記劣化特性に偏差を生じさせる観測不可能または観測困難な異質性要因毎に前記劣化特性の偏差の指標である異質性パラメータを算出する異質性パラメータ算出手段と、
を備えることを特徴とする複数対象物の劣化評価装置。
【請求項2】
請求項1記載の複数対象物の劣化評価装置は、さらに前記異質性パラメータの大小関係に基づき前記異質性要因が前記劣化特性に及ぼす影響を評価するベンチマーキング手段を備えることを特徴とする複数対象物の劣化評価装置。
【請求項3】
前記劣化特性算出手段は、前記複数の対象物の劣化過程の同時生起確率密度を表す対数尤度関数を最大にする最尤推定値として前記劣化特性を求めることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複数対象物の劣化評価装置。
【請求項4】
前記異質性パラメータ算出手段は、前記異質性要因を有する対象物が生じる同時生起確率密度を表す部分対数尤度を求め、これを条件付きで最大化した際の最適解として前記異質性パラメータを求めることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の複数対象物の劣化評価装置。
【請求項5】
前記劣化評価装置は更に出力手段を有し、
前記ベンチマーキング手段は、横軸に経過時間、縦軸に健全度をとり、個々の対象物における劣化特性を相対的に表す劣化曲線を作成し、
前記出力手段は、前記異質性パラメータの値に基づいて作成した個々の劣化曲線を出力することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の複数対象物の劣化評価装置。
【請求項6】
複数の対象物の劣化速度を取得し、
前記劣化速度に基づき、観測可能な劣化要因毎に前記複数の対象物の劣化特性を算出し、
前記劣化特性に偏差を生じさせる観測不可能または観測困難な異質性要因毎に前記劣化特性の偏差の指標である異質性パラメータを算出する、
ことを特徴とする複数対象物の劣化評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−192221(P2009−192221A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29901(P2008−29901)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000135771)株式会社パスコ (102)
【Fターム(参考)】