説明

劣化評価装置及び薄切片作製装置並びにカッターの交換時期決定方法

【課題】包埋ブロックを連続して切削するカッターの劣化状態を定量的に評価し、自動的にカッターの交換時期を報知するカッターの劣化評価装置及び劣化評価装置を備えて自動的に薄切片を作製可能な薄切片作製装置並びにカッターの交換時期決定方法を提供する。
【解決手段】薄切片作製装置1は、劣化評価装置20と、包埋ブロックBを固定する試料台2と、包埋ブロックBに対してカッター4を切削方向Xに相対的に移動させて、包埋ブロックBを切削する切削手段3とを備える。劣化評価装置20は、カッター4または試料台2のいずれか一方に設けられて、カッター4によって包埋ブロックBを切削する際に生じる切削力を検出する切削力検出手段22と、切削力検出手段22で検出された切削力に基づいてカッター4の劣化状態を評価する評価手段と、評価手段の評価結果に基づいてカッター4の交換を報知する報知手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や実験動物等から取り出した生体試料を包埋した包埋ブロックから薄切片を作製する際に、包埋ブロックを切削するために使用するカッターの劣化評価装置、及び劣化評価装置を備えた薄切片作製装置、並びにカッターの交換時期決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体や実験動物等から取り出した生体試料を検査、観察する方法の1つとして、包埋剤によって生体試料を包埋した包埋ブロックから薄切片を作製した後に、染色処理を行い生体試料を観察する方法が知られている。このような包埋ブロックから作製される薄切片は、細胞レベルの観察を可能とするため、3〜5μm程度の厚さで均一に、かつ、包埋されている生体試料を損傷しないように切削する必要がある。このため、従来このような包埋ブロックから薄切片を作製する作業は、鋭利な状態に保たれた薄刃のカッターを使用して、熟練な作業者による手作業に委ねられてきた。一方、例えば、前臨床試験においては、一試験当たり数百個の包埋ブロックを作製し、さらに一包埋ブロック当たり数枚の薄切片を作製する。このため、作業者は膨大な枚数の薄切片を作製する必要があるため、近年、薄切片を作製する一連の工程の自動化が望まれている。
【0003】
このような薄切片の作製を自動化するものとしては、例えば、カッターと、包埋ブロックの表面を所定の薄切片の厚さに対応する量だけ切削できるようにカッターを移動させるカッター駆動機構と、カッターに対して包埋ブロックを切削方向に送る試料搬送機構とを有する薄切片作製装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような薄切片作製装置によれば、カッター駆動機構によって所定の厚さとなるようにカッターを自動的に移動し、試料搬送機構によって包埋ブロックを送れば、カッターによって包埋ブロックが切削され、自動的に薄切片を作製することができるとされている。
【特許文献1】特開2004−28910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1による装置では、自動的に所定の厚さに包埋ブロックを切削することが可能ではあるが、連続して薄切片を作製していく工程において、カッターが劣化してしまい作製される薄切片の品質が低下してしまう問題があった。使用回数を規定して定期的にカッターを交換することで、薄切片の品質の低下を防ぐことも可能ではあるが、薄切する生体試料の種類によってカッターの劣化速度が異なるため、使用回数を規定する際には安全側で規定する必要がある。このため、使用回数を規定してカッターを交換する方法では、使用可能なカッターも交換することになってしまい、薄切片作製に係るコストの増大を招いてしまう。また、熟練作業者が定期的にカッターの劣化状態を確認することで、カッターの交換時期を決定する方法も考えられるが、その判断は定性的であり、作業者毎のバラツキが大きく、また、薄切片の作製を自動化する大きな障害となっていた。
【0005】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、包埋ブロックを連続して切削するカッターの劣化状態を定量的に評価し、自動的にカッターの交換時期を報知するカッターの劣化評価装置、及び、劣化評価装置を備えて自動的に薄切片を作製可能な薄切片作製装置、並びに、カッターの交換時期決定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、生体試料が包埋剤によって包埋された包埋ブロックから薄切片を作製する際に、試料台に固定された前記包埋ブロックを切削するカッターの劣化状態を評価するカッターの劣化評価装置であって、前記カッターまたは前記試料台のいずれか一方に設けられて、前記カッターによって前記包埋ブロックを切削する際に生じる切削力を検出する切削力検出手段と、該切削力検出手段で検出された前記切削力に基づいて前記カッターの劣化状態を評価する評価手段と、該評価手段の評価結果に基づいて前記カッターの交換を報知する報知手段とを備えることを特徴としている。
【0007】
また、本発明は、生体試料が包埋剤によって包埋された包埋ブロックから薄切片を作製する際に、試料台に固定された前記包埋ブロックを切削するカッターの劣化状態を評価して、該カッターの交換時期を決定するカッターの交換時期決定方法であって、前記包埋ブロックを前記カッターによって切削する際に、前記カッターまたは前記試料台に生じる切削力を検出する切削力検出工程と、該切削力検出工程で検出された前記切削力に基づいて前記カッターの劣化状態を評価して、カッターの交換の有無を決定する評価工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
この発明に係るカッターの劣化評価装置及びカッターの交換時期決定方法によれば、切削力検出工程として、カッターで包埋ブロックを切削する際に生じる切削力を切削力検出手段によって順次検出することができる。そして、評価工程として、評価手段において、検出された切削力からカッターの劣化状態を定量的に評価して、カッターの交換の有無を決定することができる。また、評価手段の評価結果に基いて、報知手段によってカッターの交換を報知することができる。
【0009】
また、上記のカッターの劣化評価装置において、前記評価手段は、前記包埋ブロックのうち、前記包埋剤のみで形成された部分を切削する際に検出される前記切削力に基づいて前記カッターの劣化状態を評価することがより好ましいとされている。
【0010】
また、上記のカッターの交換時期決定方法において、前記評価工程は、前記包埋ブロックのうち、前記包埋剤のみで形成された部分を切削する際に検出される前記切削力に基づいて前記カッターの劣化状態を評価することがより好ましいとされている。
【0011】
この発明に係るカッターの劣化評価装置及びカッターの交換時期決定方法によれば、評価工程において、評価手段によって包埋剤のみで形成された部分で検出される切削力に基づいて、カッターの劣化状態を評価することができる。カッターで包埋ブロックを切削する際に生じる切削力は、包埋ブロックのうち生体試料を含んでいる部分では、生体試料の大きさ、種類に依存して変化してしまう場合がある。一方、包埋剤のみで形成されている部分では、生体試料の影響を受けることが無く、同一の劣化状態のカッターで切削する場合は略等しい値となる。このため、より正確にカッターの劣化状態を評価し、カッターの交換の有無を決定することができる。
【0012】
また、上記のカッターの劣化評価装置において、前記評価手段は、前記包埋ブロックを切削した際に検出される前記切削力の変化特性に基づいて前記カッターの劣化状態を評価するものとしても良い。
【0013】
また、上記のカッターの交換時期決定方法において、前記評価工程は、前記包埋ブロックを切削した際に検出される前記切削力の変化特性に基づいて前記カッターの劣化状態を評価するものとしても良い。
【0014】
この発明に係るカッターの劣化評価装置及びカッターの交換時期決定方法によれば、切削力検出工程において、切削力検出手段によって包埋ブロックをカッターで切削する際に生じる切削力を検出することで、カッターが劣化してしまった場合には、カッターに生じるビビリ振動を検出することができる。すなわち、切削力の周波数、振幅などの変化特性解析することで、カッターの劣化に起因するビビリ振動を検出して、カッターの劣化状態を評価することができる。
【0015】
また、上記のカッターの劣化評価装置において、前記カッターと前記包埋ブロックとの相対的位置を検出するカッター位置検出器を備え、前記評価手段は、前記カッター位置検出器で検出される前記カッターと前記包埋ブロックとの相対的位置と、前記切削力検出手段によって検出される前記切削力とを対応づけて前記カッターの劣化状態を評価することがより好ましいとされている。
【0016】
また、上記のカッターの交換時期決定方法において、前記切削力検出工程は、前記切削力を検出するとともに、対応する前記カッターと前記包埋ブロックとの相対的位置関係を検出し、前記評価工程は、前記カッターと前記包埋ブロックとの相対的位置と、前記切削力とを対応づけて前記カッターの劣化状態を評価することがより好ましいとされている。
【0017】
この発明に係るカッターの劣化評価装置及びカッターの交換時期決定方法によれば、切削力検出工程において、カッター位置検出器によってカッターと包埋ブロックとの相対的位置を検出することで、切削力検出手段で検出された切削力が包埋ブロックのどの部分を切削して生じたものなのかを正確に検出し、評価工程においてカッターの劣化状態をより正確に評価することができる。
【0018】
また、上記のカッターの劣化評価装置において、前記評価手段は、前記包埋ブロックを交換する毎に、前記包埋ブロックの切削回数または切削量と前記切削力検出手段で検出される前記切削力との関係を監視し、前記切削回数または前記切削量が増加しても、検出される前記切削力が略等しい値を示す場合に、前記切削力に基づく前記カッターの劣化状態評価を開始することがより好ましいとされている。
【0019】
また、上記のカッターの交換時期決定方法において、前記評価工程は、前記包埋ブロックを交換する毎に、前記包埋ブロックの切削回数または切削量と、前記切削力検出工程において検出される前記切削力との関係を監視し、前記切削回数または前記切削量が増加しても、検出される前記切削力が略等しい値を示す場合に、前記切削力に基づく前記カッターの劣化状態の評価を開始することがより好ましいとされている。
【0020】
この発明に係るカッターの劣化評価装置及びカッターの交換時期決定方法によれば、包埋ブロックを交換する毎に、評価工程において、評価手段によって、包埋ブロックの切削回数または切削量と切削力検出工程において検出される切削力との関係を監視する。そして、切削回数または切削量が増加するごとに、検出される切削力が大きくなる場合には、包埋ブロックの上部が傾斜している、あるいは凹凸が形成されていることなどによって、包埋ブロックの全体を切削していないと判断される。また、切削回数または切削量が増加しても、検出される切削力が略等しい値を示す場合には、包埋ブロックの全体を切削していると判断して、切削力に基づくカッターの劣化状態の評価を開始する。このため、包埋ブロックの上部が傾斜している、あるいは凹凸が形成されているなど、包埋ブロックの全体を切削できない部分で検出された切削力に基づいて、カッターが劣化してしまったと誤認してしまう恐れが無く、正確にカッターの劣化状態を評価することができる。
【0021】
また、本発明の薄切片作製装置は、上記の劣化評価装置と、前記包埋ブロックを固定する前記試料台と、前記包埋ブロックに対して前記カッターを切削方向に相対的に移動させて、前記包埋ブロックを切削する切削手段とを備えることを特徴としている。
【0022】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、試料台に固定された包埋ブロックを自動的に連続して切削して薄切片を作製していくとともに、劣化評価装置によってカッターの劣化状態を監視し、カッターの劣化が認められた場合には、カッターの交換を報知することができる。このため、安定した品質の薄切片を自動的に連続して作製することができるとともに、不必要にカッターを交換することによるコストの増大、タイムロスを防ぐことができる。
【0023】
また、上記の薄切片作製装置において、前記カッターと前記試料台のいずれか一方が固定され、前記切削手段によって他方が一方に対向して移動することで前記包埋ブロックを切削可能であるとともに、前記劣化評価装置の前記切削力検出手段は、前記カッターと前記試料台との固定されているいずれか一方に設けられていることがより好ましいとされている。
【0024】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、劣化評価装置が、カッターと試料台との固定されているいずれか一方に設けられていることで、切削手段によって包埋ブロックを切削する際に駆動する部分から振動などが発生したとしても、その影響を受けることが無い。このため、包埋ブロックを切削する際に生じる切削力をより正確に検出することができる。
【0025】
また、上記の薄切片作製装置において、前記試料台は前記切削手段による切削方向に摺動可能に固定され、前記劣化評価装置の前記切削力検出手段は、前記試料台に前記切削手段による前記切削方向と対向して当接する力センサーと、該力センサーと対向して、前記試料台を押圧する押圧部とを有することがより好ましいとされている。
【0026】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、切削力検出手段の力センサーが試料台に切削手段による切削方向と対向して当接していることで、切削手段によって切削する際に生じる切削力は、試料台から力センサーに伝達することで切削力を検出することができる。この際、試料台が切削方向に摺動可能である一方、力センサーに対向して設けられた押圧部によって押圧された状態であるので、包埋ブロックを切削することにより生じる切削力を効率良く、かつ、確実に力センサーに伝達させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のカッターの劣化評価装置によれば、切削力検出手段と、評価手段を備えることで、包埋ブロックを切削する際に生じる切削力に基づいて、定量的に、かつ、正確に、カッターの劣化状態を評価し、自動的にカッターの交換時期を報知することができる。
また、本発明のカッターの交換時期決定方法によれば、切削力検出工程と、評価工程を備えることで、包埋ブロックを切削する際に生じる切削力に基づいて、定量的に、かつ、正確に、カッターの劣化状態を評価し、自動的にカッターの交換の有無を決定することができる。
さらに、本発明の薄切片作製装置によれば、上記のような劣化評価装置を備えることで、カッターの交換に伴うコストの増大、タイムロスを防ぎ、連続して自動的に薄切片を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(第1の実施形態)
図1から図4は、この発明に係る第1の実施形態を示している。図1及び図2に示す薄切片作製装置1は、生体試料Sが包埋された包埋ブロックBから厚さ3〜5μm程度の極薄の薄切片を作製し、薄切片に含まれる生体試料Sを検査、観察する過程において、自動的に、包埋ブロックBを切削し、包埋ブロックBから薄切片を作製する装置である。生体試料Sは、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器などの組織から切除された試料であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野などで適時選択されるものである。また、包埋ブロックBは、上記のような生体試料Sを包埋剤B1によって包埋、すなわち周囲を覆い固めたものである。このような包埋ブロックBは、より詳しくは、以下のように作製されるものである。まず、上記の生体試料Sの塊をホルマリンに漬けて、生体試料Sを構成する蛋白質を固定する。そして、組織を固い状態にした後、適当な大きさに切断する。最後に、切断された生体試料Sの内部の水分を包埋剤B1に置き換えたものを、溶解した包埋剤B1の中に埋め込んで、固めることで作製される。ここで、包埋剤B1は、上記のように液状化と冷却固化が容易に可能とされるとともに、有機溶媒に浸漬することで溶解する材質であり、樹脂やパラフィンなどである。以下、薄切片作製装置1の構成について説明する。
【0029】
図1に示すように、薄切片作製装置1は、包埋ブロックBを固定している包埋カセットCを交換可能に位置決めし、固定する試料台2と、包埋ブロックBを切削する切削手段3とを備えている。切削手段3は、カッター4と、カッター4をホルダ5aで固定する固定台5と、固定台5を切削方向Xに摺動可能とするガイド部6と、ガイド部6上で切削方向Xに固定台5を移動させる駆動部7とを備える。試料台2は、包埋ブロックBを厚さ方向Yに位置調整可能なYステージ8上において、ガイドレール9によって切削方向Xに摺動可能に固定されている。
【0030】
また、薄切片作製装置1は、包埋ブロックBを切削することによって劣化していくカッター4の劣化状態を評価する劣化評価装置20を備えている。図1及び図3に示すように、劣化評価装置20は、ガイド部6上を移動するカッター4のカッター位置Qを検出するカッター位置検出器21と、カッター4によって包埋ブロックBを切削した際に生じる切削力Pを検出する切削力検出手段22とを備える。カッター位置検出器21は、光学式センサーや磁気センサーなど種々公知の位置センサーを選択可能である。また、切削力検出手段22は、Yステージ8上に設けられ、試料台2に切削方向Xに対向して当接する力センサー23と、Yステージ8上に設けられ、力センサー23と対向して、試料台2を一定の力で押圧する押圧部であるプランジャー24とを有する。また、図3に示すように、力センサー23で検出された切削力Pは、評価手段である制御部25に入力されて、制御部25によって切削力Pに基づいてカッター4の劣化状態を評価し、カッター4の交換の有無を決定する。より詳しくは、制御部25は、力センサー23で検出された切削力Pと、カッター位置検出器21で検出されたカッター4の位置Qとが入力され、切削力Pとカッター位置Qとが対応づけて記憶されるサンプリング回路26と、サンプリング回路26に入力された切削力Pと、対応したカッター位置Qとに基づいてカッター4の劣化状態を評価し、カッター4の交換の有無を決定するコンピュータ27とを備える。また、コンピュータ27には、報知手段としてディスプレイ28が接続されており、コンピュータ27でカッター4の交換が決定された際には表示し、カッター4の交換を周囲に報知する構成となっている。
【0031】
次に、カッター4の劣化評価装置20及び薄切片作製装置1の作用、並びにカッター4の劣化状態の評価に基づくカッター4の交換時期の決定方法の詳細について説明する。図1に示すように、まず、薄切片作製装置1は、切削する厚さに応じて、Yステージ8によって試料台2に固定された包埋ブロックBを厚さ方向Yに移動させる。次に、切削手段3によって包埋ブロックBを切削していく。すなわち、駆動部7によってカッター4をガイド部6上で切削方向Xに移動させることで、カッター4は包埋ブロックBを切削することになる。そして、Yステージ8による包埋ブロックBの厚さ方向Yへの移動と、切削手段3の駆動部7及びガイド部6によるカッター4の切削方向Xへの移動を繰り返すことで、包埋ブロックBは順次自動的に切削されていく。ここで、包埋ブロックBを切削手段3のカッター4で切削する毎に、切削力検出工程として、切削力検出手段22によって、カッター4で包埋ブロックBを切削することで生じる切削力Pを検出するとともに、対応してカッター位置検出器21によってカッター位置Qが検出される。この際、試料台2は、ガイドレール9によって切削方向Xに摺動可能である一方、力センサー23に対向して設けられたプランジャー24によって一定の力で押圧された状態である。このため、包埋ブロックBを切削することにより生じる切削力Pを、効率良く、かつ確実に力センサー23に伝達させて、正確に切削力Pを検出することができる。また、切削力Pを検出する切削力検出手段22の力センサー23が、カッター4と試料台2とのうち、移動するカッター4ではなく固定されている試料台2に設けられていることで、カッター4を駆動する際に駆動部7などから微細な振動等が発生したとしても、その影響を受けることがないので、より正確に切削力Pを検出することができる。そして、検出されるこれらの切削力Pとカッター位置Qとは、対応づけられて制御部25のサンプリング回路26に入力され、評価工程として、検出された切削力Pに基づいてカッター4の劣化状態が評価される。
【0032】
図4は、切削手段3によって包埋ブロックBを切削した際に、サンプリング回路26に入力された切削力Pとカッター位置Qとの関係を示している。図4(a)は、カッター4を新しいものに交換した直後において、最初の包埋ブロックBを切削し始めた時の切削力Pとカッター位置Qの関係を示している。図4(a)に示すように、最初の包埋ブロックBを切削し始めた際には、生体試料Sが包埋ブロックBの中央に包埋されているため、切削する範囲全体が包埋剤B1のみで形成されている部分を切削することになる。このため、包埋ブロックBを切削することで検出される切削力Pは、切削力Pb1で一定の値を示す。なお、図4に示すB2点及びB3点は、図1に示す包埋ブロックBの切削始点B2、切削終点B3を表わしている。そして、図4に示すように、切削力Pの検出結果がカッター位置Qと対応付けられているため、切削力Pの検出結果からどの範囲で包埋ブロックBを切削しているかを把握することができ、包埋ブロックBを切削することによって生じる切削力Pを正確に検出することができる。なお、図4に示すB2点及びB3点の前後で検出される力P1は、プランジャー24で押圧することによって生じる初期値である。そして、制御部25のコンピュータ27は、カッター4を新しいものに交換した際に、包埋ブロックBのうち包埋剤B1のみで形成された部分を切削した際に検出した図4(a)に示す切削力Pb1の値を基準値P0として記憶する。
【0033】
さらに、繰り返し切削手段3によって包埋ブロックBを切削していくと、切削する包埋ブロックBの範囲に生体試料Sが含まれる部分を切削することになる。この場合、図4(b)に示すように、切削始点B2付近及び切削終点B3付近で、包埋剤B1のみで形成された部分と、中央で、生体試料Sを含んだ部分とでは、検出される切削力Pが異なってくる。すなわち、包埋ブロックBの切削始点B2の直後、切削終点B3の直前においては、切削力Pb2を示し、中間部分において切削力Ps2を示す。
【0034】
ここで、包埋ブロックBにおいて、包埋剤B1のみで形成された部分は均一な状態であり、包埋ブロックBを交換したとしても使用する包埋剤の種類を変更しない限り、同様の均一な状態を保っている。このため、カッター4が劣化しない限り、包埋剤B1のみで形成された部分を切削する場合、すなわち、図4(a)に示す切削力Pb1と、図4(b)に示す切削力Pb2とは略等しい値を示す。一方、生体試料Sを含んだ部分で検出される切削力Ps2は、生体試料Sが切削する面にどれくらいの大きさで含まれているか、また、生体試料Sの種類、例えば筋肉組織なのか、骨組織なのかによっても異なる値を示す場合がある。
【0035】
すなわち、評価手段である制御部25のコンピュータ27は、包埋剤B1のみで形成された部分で検出された切削力Pb2を抽出して、基準値P0とした切削力Pb2との比較を行う。図4(b)に示す場合には、カッター4の劣化が生じていないので、上述のように切削力Pb1と切削力Pb2とは略等しい値となり、抽出された切削力Pb2と基準値P0との比である切削力比Pb2/P0は、1に近い値を示す。なお、コンピュータ27は、包埋剤B1のみで形成された部分で検出された切削力Pb2と、生体試料Sを含んだ部分で検出された切削力Ps2との2段階で切削力が検出された結果、また、カッター位置Qによって確認できる包埋ブロックBの切削始点B2及び切削終点B3との対応から、包埋剤B1のみで形成された部分から検出される切削力Pb2を識別して抽出することができる。
【0036】
そして、包埋ブロックBの切削を繰り返すごとに、切削力検出工程として、カッター4で包埋ブロックBを切削する際に生じる切削力Pを検出するとともに、評価工程として、検出された切削力Pから包埋剤B1のみで形成された部分の切削力を抽出して、基準値P0との比較を繰り返す。一つの包埋ブロックBから薄切片を作製した後は、次の異なる包埋ブロックBを試料台2に固定して再度切削することになるが、包埋剤B1の種類を変更しない限り、同様の評価工程を行うことができる。
【0037】
図4(c)は、上記のように包埋ブロックBを繰り返し切削することでカッター4が劣化した場合に、切削力検出工程として切削力検出手段22によって検出された切削力Pの検出結果を示す。図4(c)に示すように、図4(b)と同様に、包埋ブロックBの切削始点B2の直後及び切削終点B3の直前では、包埋剤B1のみで形成されている部分を切削することによる切削力Pb3が検出される。また、中間部分においては生体試料Sを含んでいる部分を切削することによる切削力Ps3が検出される。しかし、カッター4が劣化していることで、切削力Pb3は、図4(a)及び図4(b)において示す包埋剤B1のみで形成されている部分を切削した際に検出された切削力Pb1、Pb2よりも大きな値を示し、基準値P0に対する切削力Pb3の比である切削力比Pb3/P0は、1より大きい値を示す。切削力比Pb3/P0の値は、カッター4の劣化が進むにつれて増大していく。そして、制御部25のコンピュータ27は、この切削力比Pb3/P0の値が予め設定された限界値を超えてしまった場合にカッター4の交換時期であると判断して、報知手段であるディスプレイ28に、カッター4の交換時期であるとの表示を行う。
【0038】
ディスプレイ28による報知によってカッター4を交換した場合には、再度、最初に包埋ブロックBを切削した場合における包埋剤B1のみで形成されている部分での切削力Pを基準値P0として、評価工程においてカッター4の劣化状態の評価を行う。なお、最初に基準値P0とする切削力Pを検出する際に、上述の図4(a)に示すような生体試料Sが含まれず、全体が包埋剤B1のみで形成された部分を必ず選択する必要は無い。図4(b)に示すように、生体試料Sが含まれている場合でも、包埋剤B1のみで形成された部分を切削した時の切削力Pを抽出して基準値P0とすれば良い。
【0039】
以上のように、切削力検出手段22と、評価手段である制御部25とを有する劣化評価装置20を備えることで、カッター4によって包埋ブロックBを切削する際に、順次切削力検出工程と、評価工程とを行い、包埋ブロックBを切削する際に生じる切削力Pに基づいて、定量的に、かつ、正確に、カッター4の劣化状態を評価してカッター4の交換の有無を決定することができる。また、カッター4の交換が必要である時は、報知手段であるディスプレイ28によって自動的にカッター4の交換時期を報知することができる。すなわち、薄切片作製装置1においては、劣化評価装置20を備えることで、カッター4の交換に伴うコストの増大、タイムロスを防ぎ、連続して自動的に薄切片を作製することが可能となる。
【0040】
図5は、この実施形態における変形例を示している。この変形例の薄切片作製装置の劣化評価装置における制御部では、包埋ブロックBを切削する毎に、切削力Pとカッター位置Qが検出されて、上記のような評価工程が行われているだけでなく、切削毎の包埋剤B1のみで形成された部分における切削力Pと、切削回数Nとの関係を監視している。図5(a)示すように、新しい包埋ブロックBを切削する際には、包埋ブロックBの上部が傾斜してしまっている場合がある。本来、包埋ブロックBのうち包埋剤B1のみで形成された部分を切削する場合には、カッター4が劣化していない限り、切削力Pは略等しい値をとる。しかしながら、図5に示すように、断面M1、M2で切削した場合には、包埋ブロックBの全体を切削していないため、その切削力Pは、基準値P0よりも小さくなってしまう。一方、包埋ブロックBの切削を繰り返すことにより、断面M3のように包埋ブロックBの全体を切削するようになることで、切削力Pは略等しい値を示すようになる。すなわち、制御部25のコンピュータ27が各包埋ブロックB毎の切削回数Nと切削力Pとの関係を監視して、図5(b)に示すように、切削力Pが略等しい値を示すようになった場合に、図4に示すような切削力Pに基づくカッター4の劣化状態の評価を開始するものとする。このため、包埋ブロックBの上部が傾斜している、あるいは凹凸が形成されているなど、包埋ブロックBの全体を切削できない部分で検出された切削力に基づいて、カッター4が劣化してしまったと誤認してしまう恐れが無く、正確にカッター4の劣化状態を評価することができる。なお、本変形例では、切削力Pと切削回数Nとの関係を監視するものとしたが、切削回数Nの代わりに切削量と対応づけても良い。
【0041】
(第2の実施形態)
図6は、この発明に係る第2の実施形態を示している。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0042】
図6に示すように、この実施形態の薄切片作製装置の劣化評価装置における制御部では、評価工程において、カッター4による包埋ブロックBを切削した際に検出される切削力Pの変化特性に基づいてカッター4の劣化状態の評価を行う。図6(a)に示すように、カッター4を新しいものに交換した直後において、包埋剤B1のみで形成された部分を切削した場合には、切削力Pb1で一定の値をとる。一方、カッター4の劣化がある程度進行した場合には、包埋ブロックBを切削した際にビビリ振動が生じてしまう。図6(b)は、ビビリ振動が発生した際のカッター位置Qと切削力Pとの関係を示している。すなわち、制御部では、切削毎にカッター位置Qと切削力Pとの関係に基づいて、FFT(高速フーリエ変換)などによって周波数分析を行い、ビビリ振動に起因する波形を抽出し、その振幅などからカッター4の劣化状態を評価することもできる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0044】
なお、切削力検出手段22で、切削力Pを検出する力センサー23は試料台2に設けられているものとしたが、これに限ることは無い。切削に伴って生じる切削力Pは、カッター4及び試料台2の双方に生じるものであるので、いずれに設けても切削力Pを検出することができる。また、制御部25においては、検出された切削力Pとカッター位置Qとを対応づけて評価するものとしたが、少なくとも切削力Pを検出することができればカッター4の劣化状態を評価することができる。また、報知手段としてディスプレイ28にカッター4の交換時期を表示するものとしたが、これに限らず、ブザーやランプなどによるものでも良い。また、切削手段3において、試料台2が固定され、カッター4が切削方向Xに移動することで包埋ブロックBを切削するものとしたが、カッター4を固定して、試料台2を切削方向Xに移動させる構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置の全体図である。
【図2】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置の拡大図である。
【図3】この発明の第1の実施形態の劣化評価装置のブロック図である。
【図4】この発明の第1の実施形態の切削力とカッター位置の関係を示すグラフである。
【図5】この発明の第1の実施形態の変形例の(a)包埋ブロックの斜視図、(b)切削力と切削回数の関係を示すグラフである。
【図6】この発明の第2の実施形態の切削力とカッター位置の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1 薄切片作製装置
2 試料台
3 切削手段
4 カッター
20 劣化評価装置
21 カッター位置検出器
22 切削力検出手段
23 力センサー
24 プランジャー(押圧部)
25 制御部(評価手段)
28 ディスプレイ(報知手段)
B 包埋ブロック
B1 包埋剤
P 切削力
Q カッター位置(カッターと試料台の相対的位置)
S 生体試料
X 切削方向
Y 厚さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料が包埋剤によって包埋された包埋ブロックから薄切片を作製する際に、試料台に固定された前記包埋ブロックを切削するカッターの劣化状態を評価するカッターの劣化評価装置であって、
前記カッターまたは前記試料台のいずれか一方に設けられて、前記カッターによって前記包埋ブロックを切削する際に生じる切削力を検出する切削力検出手段と、
該切削力検出手段で検出された前記切削力に基づいて前記カッターの劣化状態を評価する評価手段と、
該評価手段の評価結果に基づいて前記カッターの交換を報知する報知手段とを備えることを特徴とする劣化評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の劣化評価装置において、
前記評価手段は、前記包埋ブロックのうち、前記包埋剤のみで形成された部分を切削する際に検出される前記切削力に基づいて前記カッターの劣化状態を評価することを特徴とする劣化評価装置。
【請求項3】
請求項1に記載の劣化評価装置において、
前記評価手段は、前記包埋ブロックを切削した際に検出される前記切削力の変化特性に基づいて前記カッターの劣化状態を評価することを特徴とする劣化評価装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の劣化評価装置において、
前記カッターと前記包埋ブロックとの相対的位置を検出するカッター位置検出器を備え、
前記評価手段は、前記カッター位置検出器で検出される前記カッターと前記包埋ブロックとの相対的位置と、前記切削力検出手段によって検出される前記切削力とを対応づけて前記カッターの劣化状態を評価することを特徴とする劣化評価装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の劣化評価装置においては、
前記評価手段は、前記包埋ブロックを交換する毎に、前記包埋ブロックの切削回数または切削量と前記切削力検出手段で検出される前記切削力との関係を監視し、前記切削回数または前記切削量が増加しても、検出される前記切削力が略等しい値を示す場合に、前記切削力に基づく前記カッターの劣化状態評価を開始することを特徴とする劣化評価装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の劣化評価装置と、
前記包埋ブロックを固定する前記試料台と、
前記包埋ブロックに対して前記カッターを切削方向に相対的に移動させて、前記包埋ブロックを切削する切削手段とを備えることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項7】
請求項6に記載の薄切片作製装置において、
前記カッターと前記試料台のいずれか一方が固定され、前記切削手段によって他方が一方に対向して移動することで前記包埋ブロックを切削可能であるとともに、
前記劣化評価装置の前記切削力検出手段は、前記カッターと前記試料台との固定されているいずれか一方に設けられていることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項8】
請求項6に記載の薄切片作製装置において、
前記試料台は前記切削手段による切削方向に摺動可能に固定され、
前記劣化評価装置の前記切削力検出手段は、前記試料台に前記切削手段による前記切削方向と対向して当接する力センサーと、
該力センサーと対向して、前記試料台を押圧する押圧部とを有することを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項9】
生体試料が包埋剤によって包埋された包埋ブロックから薄切片を作製する際に、試料台に固定された前記包埋ブロックを切削するカッターの劣化状態を評価して、該カッターの交換時期を決定するカッターの交換時期決定方法であって、
前記包埋ブロックを前記カッターによって切削する際に、前記カッターまたは前記試料台に生じる切削力を検出する切削力検出工程と、
該切削力検出工程で検出された前記切削力に基づいて前記カッターの劣化状態を評価して、カッターの交換の有無を決定する評価工程とを備えることを特徴とするカッターの交換時期決定方法。
【請求項10】
請求項9に記載のカッターの交換時期決定方法において、
前記評価工程は、前記包埋ブロックのうち、前記包埋剤のみで形成された部分を切削する際に検出される前記切削力に基づいて前記カッターの劣化状態を評価することを特徴とするカッターの交換時期決定方法。
【請求項11】
請求項9に記載のカッターの交換時期決定方法において、
前記評価工程は、前記包埋ブロックを切削した際に検出される前記切削力の変化特性に基づいて前記カッターの劣化状態を評価することを特徴とするカッターの交換時期決定方法。
【請求項12】
請求項9から請求項11のいずれかに記載のカッターの交換時期決定方法において、
前記切削力検出工程は、前記切削力を検出するとともに、対応する前記カッターと前記包埋ブロックとの相対的位置関係を検出し、
前記評価工程は、前記カッターと前記包埋ブロックとの相対的位置と、前記切削力とを対応づけて前記カッターの劣化状態を評価することを特徴とするカッターの交換時期決定方法。
【請求項13】
請求項9から請求項12のいずれかに記載のカッターの交換時期決定方法において、
前記評価工程は、前記包埋ブロックを交換する毎に、前記包埋ブロックの切削回数または切削量と、前記切削力検出工程において検出される前記切削力との関係を監視し、前記切削回数または前記切削量が増加しても、検出される前記切削力が略等しい値を示す場合に、前記切削力に基づく前記カッターの劣化状態の評価を開始することを特徴とするカッターの交換時期決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−212329(P2007−212329A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33465(P2006−33465)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】