説明

助手席用エアバッグ装置

【課題】エアバッグの展開挙動を安定させることができる助手席用エアバッグ装置を得る。
【解決手段】助手席用エアバッグ装置10は、長手方向一端部22Aがリテーナ20に固定されると共に、長手方向他端部に設けられた縫製部22Bがエアバッグ14に縫合されたストラップ22を有している。このストラップ22は、エアバッグ14の膨張展開途中においてエアバッグ14の未展開部分14Dがインストルメントパネル12の開口部64を通過した直後に引張り力を受ける。これにより、未展開部分14Dの展開方向がインストルメントパネル12の表面に沿う方向になるように調整される。その後、未展開部分14Dが助手席側へ向けて膨張展開すると、ストップ22が破断し、エアバッグ14がフル展開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、助手席用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に示された助手席用エアバッグ装置は、展開制御布(フラップ)を備えている。このフラップは、折り畳み状態のエアバッグよりも幅狭に形成された一般部が、車幅方向におけるエアバッグの中央領域を前後方向に跨ぐように配設されており、エアバッグ展開初期に、中央領域の展開を抑制し、車幅方向両側に位置する端部領域の展開を中央領域よりも先行させる。これにより、車両の前面衝突時に助手席の乗員がインストルメントパネルに対して近接状態にある場合でも、該乗員をエアバッグにより適切に拘束するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−083439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の如き助手席用エアバッグ装置では、折り畳み状態のエアバッグのフラップに対する車幅方向の位置が規制されていないため、エアバッグの折り畳み方のばらつき等によって、エアバッグの展開挙動が安定しなくなる可能性がある。特に、助手席に着座した乗員の両肩を拘束する左側膨張部及び右側膨張部を備えたツインチャンバエアバッグ(所謂オムニバッグ)では、エアバッグの展開挙動を安定させるために、顕著な改善が望まれている。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、エアバッグの展開挙動を安定させることができる助手席用エアバッグ装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係る助手席用エアバッグ装置は、車両の助手席の前方でインストルメントパネルの裏面側に設けられたエアバッグケースと、袋状に形成され、基端部が前記エアバッグケースに固定されると共に、通常時にはロール折りを含む折り畳み方で折り畳まれた状態で前記エアバッグケース内に収納され、前面衝突時又は前面衝突予測時にはバッグ膨張圧によるエアバッグドアの展開により前記インストルメントパネルに形成される開口部を介して前記インストルメントパネルの外側へ膨張展開するエアバッグと、前記折り畳まれた状態のエアバッグの車体後方側に配置された一端部が前記膨張展開時に車体に対して変位しない又は変位し難い部材に固定され、中間部が前記エアバッグにおけるロール折りにされた部分の外周に車体後方側から巻き掛けられると共に、他端部が前記エアバッグの先端側に固定され、前記エアバッグの膨張展開途中で引張り力を受けて破断されるストラップと、を備えている。
【0007】
なお、請求項1に記載の「エアバッグの先端側」は、エアバッグにおいて、エアバッグケースに固定されたエアバッグの基端部とは反体側の部分のことである。
【0008】
請求項1に記載の助手席用エアバッグ装置では、エアバッグは、通常時にはロール折りを含む折り畳み方で折り畳まれた状態でエアバッグケース内に収納されており、前面衝突時又は前面衝突予測時にはインストルメントパネルに形成された開口部を介してインストルメントパネルの外側へ膨張展開する。
【0009】
一方、ストラップは、折り畳まれた状態のエアバッグの車体後方側に配置された一端部が、エアバッグの膨張展開時に車体に対して変位しない又は変位し難い部材に固定されている。また、このストラップは、中間部が上記エアバッグにおけるロール折りにされた部分の外周に車体後方側から巻き掛けられると共に、他端部がエアバッグの先端側に固定されている。このストラップは、エアバッグが膨張展開する途中で引張り力を受けて破断される。これにより、エアバッグが本来の大きさに膨張展開する(フル展開する)ことが許容される。ここで、上述の如くストラップが引張り力を受けた際には、エアバッグにおけるストラップの他端部が固定された部位がストラップの一端部側へ向けて引っ張られる。これにより、エアバッグの展開方向を調整することができるので、エアバッグの展開挙動を安定させることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明に係る助手席用エアバッグ装置は、車両の助手席の前方でインストルメントパネルの裏面側に設けられたエアバッグケースと、袋状に形成され、通常時にはロール折りを含む折り畳み方で折り畳まれた状態で前記エアバッグケース内に収納され、前面衝突時又は前面衝突予測時にはバッグ膨張圧によるエアバッグドアの展開により前記インストルメントパネルに形成される開口部を介して前記インストルメントパネルの外側へ膨張展開すると共に、当該膨張展開の途中では既に膨張した部分の後端側にロール折り状態の未展開部分が位置され、当該未展開部分が前記開口部を通過した後に前記助手席に向けて膨張展開されるエアバッグと、前記折り畳まれた状態のエアバッグの車体後方側に配置された一端部が前記膨張展開時に車体に対して変位しない又は変位し難い部材に固定され、中間部が前記エアバッグにおけるロール折りにされた部分の外周に車体後方側から巻き掛けられると共に、前記未展開部分が前記開口部を通過した直後の状態で前記未展開部分の上方側に位置される前記エアバッグの一部に他端部が固定され、前記未展開部分が前記助手席に向けて膨張展開する際に引張り力を受けて破断されるストラップと、を備えている。
【0011】
請求項2に記載の助手席用エアバッグ装置では、エアバッグは、通常時にはロール折りを含む折り畳み方で折り畳まれた状態でエアバッグケース内に収納されており、前面衝突時又は前面衝突予測時にはインストルメントパネルに形成される開口部を介してインストルメントパネルの外側へ膨張展開する。この膨張展開の途中では、エアバッグにおける既に膨張した部分の後端側にロール折り状態の未展開部分が位置され、当該未展開部分が開口部を通過した後に助手席に向けて膨張展開される。
【0012】
一方、ストラップは、折り畳まれた状態のエアバッグの車体後方側に配置された一端部が、エアバッグの膨張展開時に車体に対して変位しない又は変位し難い部材に固定されている。また、このストラップは、中間部が上記エアバッグにおけるロール折りにされた部分の外周に車体後方側から巻き掛けられると共に、前記未展開部分がインストルメントパネルの開口部を通過した直後の状態で未展開部分の上方側に位置されるエアバッグの一部に他端部が固定されている。このストラップは、前記未展開部分が助手席側に膨張展開する際に引張り力を受けて破断される。これにより、エアバッグが本来の大きさに膨張展開する(フル展開する)ことが許容される。ここで、上述の如くストラップが引張り力を受けた際には、エアバッグにおけるストラップの他端部が固定された一部がストラップの一端部側へ向けて引っ張られる。これにより、前記未展開部分の展開方向がインストルメントパネルの表面に沿う方向になるように調整することができるので、エアバッグの展開挙動を安定させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明に係る助手席用エアバッグ装置は、請求項1又は請求項2に記載の助手席用エアバッグ装置において、前記エアバッグは、助手席に着座した乗員の両肩に対応して設けられた左側膨張部及び右側膨張部を有し、前記ストラップの他端部は、前記左側膨張部と前記右側膨張部との間に縫合されており、前記ストラップの一端部は、前記エアバッグケースに固定されたリテーナに固定されている。
【0014】
請求項3に記載の助手席用エアバッグ装置では、エアバッグは、乗員の両肩に対応して設けられた左側膨張部及び右側膨張部を有しており(所謂ツインチャンバエアバッグとされており)、左側膨張部と右側膨張部との間にストラップの他端部が縫合されている。また、ストラップの一端部は、エアバッグケースに固定されたリテーナに固定されている。これにより、エアバッグの膨張展開途中において、左側膨張部と右側膨張部との間をストラップにより引っ張ることができるので、左側膨張部と右側膨張部との展開方向をバランスよく調整することができる。したがって、簡単な構成によりツインチャンバエアバッグの展開挙動を安定させることができる。
【0015】
請求項4に記載の助手席用エアバッグ装置は、請求項3に記載の助手席用エアバッグ装置において、前記リテーナには、前記エアバッグ内にガスを供給するインフレータを前記エアバッグケースに固定したスタッドボルトが設けられており、当該スタッドボルトが前記ストラップの一端部に形成された貫通孔に差し込まれることにより前記ストラップの一端部が前記リテーナに固定されている。
【0016】
請求項4に記載の助手席用エアバッグ装置では、リテーナに設けられたインフレータ固定用のスタッドボルトが、ストラップの一端部に形成された貫通孔に差し込まれている。これにより、簡単な構成でストラップの一端部を強固にリテーナに固定することができるので、ストラップが引張り力を受けた際にストラップを良好に破断することができる。
【0017】
請求項5に記載の助手席用エアバッグ装置は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の助手席用エアバッグ装置において、前記ストラップの他端側には、前記スリットが破断する際に破断起点となるスリットが形成されている。
【0018】
請求項5に記載の助手席用エアバッグ装置では、ストラップが引張り力を受けた際には、ストラップの他端側に形成されたスリットを破断起点としてストラップが破断する。したがって、スリットの長さ等を適宜変更することにより、ストラップの破断荷重を容易に調整することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明に係る助手席用エアバッグ装置では、エアバッグの展開挙動を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置の構成を示す縦断面図である。
【図2】同装置のエアバッグがフル展開した状態を示す斜視図である。
【図3】同装置のストラップの展開図である。
【図4】同装置のリテーナ及びストラップの斜視図である。
【図5】同装置のストラップとエアバッグとの縫合部の構成を示す断面図である。
【図6】同装置のエアバッグを折り畳む際の途中の状態を示す斜視図である。
【図7】同装置のエアバッグのバッグ膨張圧によりエアバッグドアが展開し始めた状態を示す縦断面図である。
【図8】図7に示される状態よりも更にエアバッグが膨張した状態を示す縦断面図である。
【図9】図8に示される状態よりも更にエアバッグが膨張した状態を示す縦断面図である。
【図10】同装置のエアバッグがフル展開した状態の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図1〜図10を用いて、本発明に係る助手席用エアバッグ装置の一実施形態について説明する。なお、各図中に適宜示される矢印FRは車両前方を示し、矢印UPは車両上方を示し、矢印INは車両幅方向内方を示している。
【0022】
<構成>
図1及び図2に示されるように、本実施形態に係る助手席用エアバッグ装置10は、インストルメントパネル12における頂壁部12Aの助手席側に配置されており、エアバッグ14と、エアバッグケース16と、インフレータ18と、リテーナ20と、ストラップ22とを有している。
【0023】
エアバッグ14は、図示しない助手席の前方でインストルメントパネル12の裏面側に設けられたエアバッグケース(モジュールケース)16内に折り畳み状態で収納される袋体である。このエアバッグ14は、所謂ツインチャンバエアバッグであり、助手席に着座した乗員の前方左側に膨張し主として乗員の左肩を受け止める左側膨張部14Lと、当該乗員の前方右側に膨張し主として乗員の右肩を受け止める右側膨張部14Rと、これらの左側膨張部14Lの根元部分と右側膨張部14Rの根元部分とを相互に連通する根元部14Sと、を備えている。左側膨張部14L及び右側膨張部14Rは、膨張展開状態で車幅方向から見た場合には、前端側が窄まり後端側が車両上下方向に広がる形状を成している。このエアバッグ14は、インフレータ18から噴出されるガスが、根元部14Sを介して左側膨張部14L及び右側膨張部14Rに供給されることにより膨張展開するように構成されている。
【0024】
エアバッグケース16は、金属材料等からなる箱体であり、インストルメントパネル12の裏面側に、車両上方側が開口側となるようにして配置されている。このエアバッグケース16は、図示しないインパネリインフォース等の強度部材にブラケットを介して支持されている。エアバッグケース16における前後の縦壁部には、それぞれ複数のフック16Aが車幅方向に並んで設けられている。これらのフック16Aは、ケース取付リテーナ24に対応している。
【0025】
ケース取付リテーナ24は、枠状の基部24Aにおいてインストルメントパネル16の裏面に固着されている。基部24Aには、縦壁部24Bが、エアバッグケース16の取付け領域を囲むように枠状に立設されている。ケース取付リテーナ24における前後の縦壁部24Bには、複数の係止孔26が、それぞれ車幅方向に沿って直列に形成されており、該係止孔26にはエアバッグケース16のフック16Aがそれぞれ係止されている。
【0026】
エアバッグ14が膨張展開する際の出口となるケース取付リテーナ24の上端開口部は、通常使用時はインストルメントパネル12により塞がれており、インストルメントパネル12の当該部位には、例えば底面視で略H型とされた破断予定部28が形成されている。この破断予定部28は、エアバッグドア30を構成するドア部32、34をヒンジ部36、38(何れもインテグラルヒンジ)回りに前後に展開させるべく、所定値以上のバッグ膨張圧が作用することにより破断する。
【0027】
なお、ケース取付リテーナ24における前後の縦壁部24Bの間に、インストルメントパネル12の裏面に沿う前後一対のドア部(図示せず)を設けてもよい。この場合に、前後一対のドア部の間には、所定値以上のエアバッグ14の膨張圧を受けて破断可能な破断予定部(図示せず)が形成され、前後一対の縦壁部24Bの根元部には、車幅方向に延びるヒンジ部(図示せず)がそれぞれ形成される。この破断予定部は、インストルメントパネル12の破断予定部28に沿って形成される。
【0028】
一方、インフレータ18は、車両の前面衝突時又は前面衝突予測時にガスを噴出してエアバッグ14内に供給可能に構成された、例えばディスク形のガス発生器である。インフレータ18の上部はガス噴出部18Aとなっており、該ガス噴出部18Aの外周面には複数のガス噴出孔が設けられている。インフレータ18のうち、ガス噴出部18Aよりも下側には、略四角形の取付けフランジ18Bが設けられており、該取付けフランジ18Bの四隅には、貫通孔40が形成されている。
【0029】
エアバッグケース16の下壁部16Bの中央部には、インフレータ18のガス噴出部18Aを車両下方から差込み可能とする取付け孔42と、取付けフランジ18Bの貫通孔40に対応する貫通孔44とが形成されている。
【0030】
また、エアバッグ14内には、略四角形の皿状に形成されたリテーナ20が配設されており、リテーナ20の中央部には、インフレータ18のガス噴出部18Aを車両下方から差込み可能とする取付け孔45が形成されている。また、リテーナ20の四隅には、エアバッグ14の基端部を貫通して車両下方側に突出するスタッドボルト46が設けられている。これらのスタッドボルト46は、エアバッグ14をエアバッグケース16内に収納する際に、後述するストラップ22の長手方向一端部22Aに形成された貫通孔52及びエアバッグケース16の貫通孔44に差し込まれる。この状態で、スタッドボルト46は、エアバッグケース16における下壁部16Bの車両下方に突出した状態となる。
【0031】
これらのスタッドボルト46をインフレータ18における取付けフランジ18Bの貫通孔40に通すようにすることで、該インフレータ18をエアバッグケース16の下壁部16Bに車両下側から取り付け、該取付けフランジ18Bの車両下側から、各スタッドボルト46にナット48を締め付けることで、インフレータ18、エアバッグ14の基端部及びストラップ22の長手方向一端部22Aがエアバッグケース16に締結固定される。エアバッグ14には、ガス噴出部18Aを差込み可能な貫通孔(図示せず)が形成されており、インフレータ18のガス噴出部18Aは、エアバッグケース16の取付け孔42及びエアバッグ14の貫通孔を通じて、該エアバッグ14内に差し込まれている。
【0032】
またインフレータ18は、ワイヤーハーネス(図示せず)を介してエアバッグECU(図示せず)に接続されており、該エアバッグECUからの作動電流により作動して、エアバッグ14に対して膨張用のガスを供給するように構成されている。エアバッグECUは、衝突センサ(図示せず)からの信号により車両の前面衝突を判定した際又は前面衝突を予測した際に、インフレータ18に対して作動電流を流すように構成されている。
【0033】
ストラップ22は、エアバッグ14と同一材質で作られた布状の部材であり、図3に示されるように、長尺状に形成されている(なお、図1、6〜10では、説明の都合上、ストリップ22の厚さをエアバッグ14の厚さよりも厚く記載してある)。このストラップ22には、例えば強度を向上させるためにシリコンコートが施されている。このストラップ22は、全体として長手方向一端側が長手方向他端側よりも幅広に形成されると共に、折畳み状態のエアバッグ14よりも車幅方向において幅狭に形成されている。ストラップ22の長手方向一端部22Aには、インフレータ18の外周に沿うように湾曲した切欠部50が形成されると共に、当該切欠部50の両側に一対の貫通孔52(リテーナ固定孔)が形成されている。これらの貫通孔52は、ストラップ22の長手直角方向に並んで配置されている。これらの貫通孔52には、前述したリテーナ20に設けられた4本のスタッドボルト46のうち、インフレータ18の車体後端側に配置された2本のスタッドボルト46が差し込まれている(図4参照)。これにより、ストラップ22の長手方向一端部22Aが、リテーナ20とエアバッグケース16の下壁部16Bとの間に挟持された状態でリテーナ20に固定されている。
【0034】
一方、ストラップ22の長手方向他端部には、縫製部22Bが設けられている。この縫製部22Bは、ストラップ22の長手直角方向両側へ突出しており、エアバッグ14に設けられた縫合部54(図2参照)に縫合されている。この縫合部54は、左側膨張部14Lの一部を構成する基布56と、右側膨張部14Rの一部を構成する基布58との縫合部であり、エアバッグ14の展開完了状態では、エアバッグ14の車幅方向中央部に配置される。ストラップ22は、縫製部22Bを含む長手方向他端側がストラップ22の幅方向中央部(図3の一点鎖線L参照)で2つ折りにされており、基布56、58の間に挿入された縫製部22Bが、エアバッグ14の先端側(エアバッグケース16に固定されたエアバッグ14の基端部とは反対側の部分)において基布56、58に共縫いされている(図5参照)。なお、図5において基布56、58の左側は、エアバッグ14の内側であり、基布56、58の右側は、エアバッグ14の外側である。また、図3に示されるように、縫製部22Bには、該縫製部22Bを基布56、58に位置決めするための複数の位置決め孔65が形成されている。
【0035】
また、ストラップ22の長手方向他端側(縫製部22Bに近接した位置)には、スリット60(切込み)が形成されている。このスリット60は、ストラップ22の幅方向中央部においてストラップ22の幅方向に延在しており、上述したようにストラップ22の長手方向他端側が2つ折にされた状態では、当該2つ折にされた部分の幅方向一端で開口するように形成されている。
【0036】
ここで、本実施形態では、エアバッグ14は、ロール折りを主体とした折り畳み方で折り畳まれている。例えば、左側膨張部14L及び右側膨張部14Rが短冊状に折り畳まれて長尺状にされた後、長手方向一方の側からロール折りによってロール状に折り畳まれる(図6参照)。この状態では、ロール折りにされたエアバッグ14の外周にストラップ22の中間部22Cが巻き付くようにして配置される。その後、ロール状にされたエアバッグ14の長手方向一側14A及び長手方向他側14Bが長手方向中央側14Cへ折り返されてストラップ22の上側に重ねられる(図6の矢印F)。このようにして折り畳まれたエアバッグ14は、図1に示されるように保護布63によって覆われた状態でエアバッグケース16内に収容される。なお、この保護布63は、バッグ膨張圧を受けた際に図示しないミシン目状の切込みにおいて容易に破断する構成になっている。
【0037】
図1に示される収容状態では、ストラップ22の長手方向中間部22Cが、エアバッグ14におけるロール折りにされた部分(前記長手方向中央側14C)の外周に車体後方側から巻き掛けられた状態となる。このエアバッグ14は、インフレータ18からガスの供給を受けることにより、助手席に着座した乗員側へ向けて膨張展開するように構成されている。
【0038】
具体的には、エアバッグ14がインフレータ18からガスの供給を受けると、図7に示されるように、バッグ膨張圧によりインストルメントパネル12の破断予定部28が破断し、エアバッグドア30のドア部32、34が前後に展開する。これにより、図8に示されるように、インストルメントパネル12に開口部64が形成され、当該開口部64を介してエアバッグ14がインストルメントパネル12の外側(表面側、車室側)へ膨張展開する。この図8に示される状態(展開初期の状態)では、エアバッグ14における既に膨張した部分の後端側にロール折り状態の未展開部分14D(未だ展開していない部分)が位置される。またこの状態では、ストラップ22は、エアバッグ14に縫合された他端部(縫製部22B)が、未展開部分14Dの上方に位置するように、エアバッグ14の乗員側(車体後方側)で車体上下方向に延在する。このストラップ22の長さ寸法は、図8に示される状態、すなわち未展開部分14Dが開口64を通過した直後の状態において、バッグ膨張圧により引張り力を受けるように設定されている。
【0039】
その後、エアバッグ14は更に膨張し続け、図9に示されるように、未展開部分14Dがロール折りを解かれつつ、助手席(車体後方側)へ向けて膨張展開される。このとき(すなわち図8図示状態から図9図示状態に移行する際に)、ストラップ22に作用する引張り力が予め設定された値を超えることにより、ストラップ22がスリット60を破断起点として破断するようになっている。これにより、未展開部分14Dが全て展開すると、図10に示されるフル展開状態(展開完了状態)となる。なお、図10において、70はフロントガラスであり、Pは助手席に着座した乗員である。また、図7〜図10では、一部の部材の図示が省略されている。また、図10において、エアバッグ14における一点鎖線Sよりも上側及び右側の部分が、エアバッグ14の先端側である。
【0040】
<作用及び効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0041】
上記構成の助手席用エアバッグ装置10では、ストラップ22は、折り畳まれた状態のエアバッグ14の車体後方側に配置された長手方向一端部22Aが、リテーナ20(エアバッグ14の膨張展開時に車体に対して変位しない部材)に固定されている。また、このストラップ22は、長手方向中間部22Cがエアバッグ14におけるロール折りにされた部分14Cの外周に車体後方側から巻き掛けられると共に、長手方向他端部に設けられた縫製部22Bがエアバッグ14の先端側に固定されている。
【0042】
このストラップ22は、エアバッグ14の展開初期(図8図示状態から図9図示状態に移行する際)に引張り力を受けて破断される。これにより、エアバッグ14がフル展開することを許容される。ここで、上述の如くストラップ22が引張り力を受けた際には、エアバッグ14におけるストラップ22の縫製部22Bが縫合された部位がストラップ22の長手方向一端部22A側(リテーナ20側)へ向けて引っ張られる。これにより、エアバッグ14の展開方向を調整することができる。
【0043】
つまり、ストラップ22の縫製部22Bは、未展開部分14Dがインストルメントパネル12の開口部64を通過した直後の状態(図8図示状態)で、当該未展開部分14Dの上方側に位置されるエアバッグ14の一部に縫合されており、この状態でストラップ22が引張り力を受けるようにストラップ22の長さ寸法が設定されている。このため、図8に示される状態から図9に示される状態へ移行する際には、ストラップ22に作用する引張り力によって未展開部分14Dの浮き上がり(インストルメントパネル12から離れる方向の変位)が抑制され、未展開部分14Dの展開方向がインストルメントパネルの表面に沿う方向に調整される。これにより、エアバッグ14の展開挙動(特に、展開初期の展開挙動)を安定させることができるので、エアバッグ14がフル展開した状態では、図10に示されるように、助手席の乗員Pに対して適切な位置にエアバッグ14を展開させることができる。
【0044】
すなわち、上述の如き「浮き上がり」が発生した場合には、未展開部分14Dがロール折りを早期に解かれつつ、インストルメントパネル12から上昇してしまう。このような場合、図10に二点鎖線で示されるようにエアバッグ14がフル展開することがあり、エアバッグ14の乗員側端部における下端部が乗員Pの胸部よりも上方側に配置されることがある。これに対し、本実施形態では、図10に実線で示されるように、フル展開したエアバッグ14の下端部を、乗員Pの胸部よりも下方側に配置させることができるので、エアバッグ14によって乗員Pを良好に拘束することができる。
【0045】
しかも、本実施形態では、エアバッグ14が所謂ツインチャンバエアバッグとされており、左側膨張部14Lと右側膨張部14Rとの間にストラップ22の縫製部22B(長手方向他端部)が縫合されている。また、ストラップ22の長手方向一端部22Aは、エアバッグケース16に固定されたリテーナ20に固定されている。これにより、エアバッグ14の膨張展開途中において、左側膨張部14Lと右側膨張部14Rとの間をストラップ22により引っ張ることができるので、左側膨張部14Lと右側膨張部14Rとの展開方向をバランスよく調整することができる。したがって、簡単な構成によりツインチャンバエアバッグの展開挙動を安定させることができる。
【0046】
また、本実施形態では、リテーナ20に設けられたインフレータ固定用のスタッドボルト46が、ストラップ22の長手方向一端部22Aに形成された貫通孔52に差し込まれている。これにより、簡単な構成でストラップ22の長手方向一端部22Aを強固にリテーナ20に固定することができるので、ストラップ22が引張り力を受けた際にストラップ22を良好に破断することができる。しかも、車幅方向に並んだ2本のスタッドボルト46がストラップ22の長手方向一端部22Aに形成された2つの貫通孔52にそれぞれ差し込まれており、ストラップ22の長手方向他端側が2つ折にされて左側膨張部14Lと右側膨張部14Rとの間の縫合部54に縫合されている。このため、ストラップ22に引張り力が作用した際には、助手席側から見てストラップ22がリテーナ側を底辺とする略二等辺三角形に伸びるため、エアバッグ14をバランスよく引っ張ることができる。
【0047】
さらに、本実施形態では、ストラップ22が引っ張られた際には、ストラップ22の長手方向一端側に形成されたスリット60を破断起点としてストラップ22が破断する。したがって、スリット60の長さ等を適宜変更することにより、ストラップ22の破断荷重を容易に調整することができる。なお、ストラップ22が破断するのではなく、ストリップ22をエアバッグ14に縫合するための糸等が破断する構成にすることもできるが、その場合には、糸等が破断した箇所においてエアバッグ14からガス漏れが生じないようにする必要がある。したがって、本実施形態のようにストリップ22自体が破断するように構成することが好ましい。
【0048】
<実施形態の補足説明>
上記実施形態では、ストラップ22の長手方向他端側にスリット60が形成された構成にしたが、請求項1〜請求項4に係る発明はこれに限らず、例えば、スリットの代わりに、1又は複数の孔が形成された構成にしてもよいし、ストラップの他端側の一部が狭幅に形成された構成にしてもよい。また、ストラップが破断される部位は、ストラップの他端側が好ましいが、これに限られるものではなく、ストラップが破断される部位は適宜変更することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、リテーナ20に設けられたインフレータ固定用のスタッドボルト46が、ストラップ22の長手方向一端部22Aに形成された貫通孔52に差し込まれることにより、ストラップ22の長手方向一端部22Aがリテーナ20に固定された構成にしたが、請求項1〜請求項3に係る発明はこれに限らず、リテーナへのストラップの固定方法は適宜変更することができる。
【0050】
また、上記実施形態では、ストラップ22の長手方向一端部22Aがリテーナ20に固定された構成にしたが、請求項1及び請求項2に係る発明はこれに限らず、ストラップの一端部は、エアバッグの膨張展開時に車体に対して変位しない又は変位し難い部材に固定されていればよい。例えば、ストラップの一端部がエアバッグケースに固定された構成にしてもよいし、ストラップの一端部がエアバッグの基端部に縫合された構成にしてもよい。
【0051】
さらに、上記実施形態では、エアバッグ14が所謂ツインチャンバエアバッグとされ、ストラップ22の他端部が左側膨張部14Lと右側膨張部14Rとの間に縫合された構成にしたが、請求項1及び請求項2に係る発明はこれに限らず、エアバッグの構成及びエアバッグへのストラップの固定位置は適宜変更することができる。
【0052】
また、上記実施形態では、図6に示されるようにエアバッグ14が長尺なロール状に折られた後で、その長手方向一側14A及び長手方向他側14Bが長手方向中央側14Cの上側へ折り返されて重ねられた構成にしたが、請求項1〜請求項5に係る発明はこれに限らず、エアバッグの折り畳み方はロール折りを含むものであればよく、適宜変更することができる。
【0053】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0054】
10 助手席用エアバッグ装置
12 インストルメントパネル
14 エアバッグ
14L 左側膨張部
14R 右側膨張部
14D 未展開部分
16 エアバッグケース
18 インフレータ
20 リテーナ
22 ストラップ
22A 長手方向一端部(一端部)
22B 縫製部(他端部)
22C 中間部
30 エアバッグドア
60 スリット
64 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の助手席の前方でインストルメントパネルの裏面側に設けられたエアバッグケースと、
袋状に形成され、基端部が前記エアバッグケースに固定されると共に、通常時にはロール折りを含む折り畳み方で折り畳まれた状態で前記エアバッグケース内に収納され、前面衝突時又は前面衝突予測時にはバッグ膨張圧によるエアバッグドアの展開により前記インストルメントパネルに形成される開口部を介して前記インストルメントパネルの外側へ膨張展開するエアバッグと、
前記折り畳まれた状態のエアバッグの車体後方側に配置された一端部が前記膨張展開時に車体に対して変位しない又は変位し難い部材に固定され、中間部が前記エアバッグにおけるロール折りにされた部分の外周に車体後方側から巻き掛けられると共に、他端部が前記エアバッグの先端側に固定され、前記エアバッグの膨張展開途中で引張り力を受けて破断されるストラップと、
を備えた助手席用エアバッグ装置。
【請求項2】
車両の助手席の前方でインストルメントパネルの裏面側に設けられたエアバッグケースと、
袋状に形成され、通常時にはロール折りを含む折り畳み方で折り畳まれた状態で前記エアバッグケース内に収納され、前面衝突時又は前面衝突予測時にはバッグ膨張圧によるエアバッグドアの展開により前記インストルメントパネルに形成される開口部を介して前記インストルメントパネルの外側へ膨張展開すると共に、当該膨張展開の途中では既に膨張した部分の後端側にロール折り状態の未展開部分が位置され、当該未展開部分が前記開口部を通過した後に前記助手席に向けて膨張展開されるエアバッグと、
前記折り畳まれた状態のエアバッグの車体後方側に配置された一端部が前記膨張展開時に車体に対して変位しない又は変位し難い部材に固定され、中間部が前記エアバッグにおけるロール折りにされた部分の外周に車体後方側から巻き掛けられると共に、前記未展開部分が前記開口部を通過した直後の状態で前記未展開部分の上方側に位置される前記エアバッグの一部に他端部が固定され、前記未展開部分が前記助手席に向けて膨張展開する際に引張り力を受けて破断されるストラップと、
を備えた助手席用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグは、助手席に着座した乗員の両肩に対応して設けられた左側膨張部及び右側膨張部を有し、前記ストラップの他端部は、前記左側膨張部と前記右側膨張部との間に縫合されており、前記ストラップの一端部は、前記エアバッグケースに固定されたリテーナに固定されている請求項1又は請求項2に記載の助手席用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記リテーナには、前記エアバッグ内にガスを供給するインフレータを前記エアバッグケースに固定したスタッドボルトが設けられており、当該スタッドボルトが前記ストラップの一端部に形成された貫通孔に差し込まれることにより前記ストラップの一端部が前記リテーナに固定されている請求項3に記載の助手席用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記ストラップの他端側には、前記スリットが破断する際に破断起点となるスリットが形成されている請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の助手席用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−22982(P2013−22982A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157001(P2011−157001)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】