説明

励磁突入電流現象特定方法

【課題】磁気飽和開始時刻または磁気飽和終了時刻を精度よく推定し、励磁突入電流がノイズの影響を受ける場合にも励磁突入電流現象を精度よく特定することである。
【解決手段】瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流を所定のサンプリング周期で時系列データとして取り込み、取り込んだ時系列データのうち変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向に次第に緩やかに減少し等比収束する時系列データを抽出し、抽出した等比収束する時系列データのAitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻の測定値との差である変分電流を指標とし、変分電流の零点を磁気飽和開始時刻または磁気飽和終了時刻とし、磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき、変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であるかどうかを特定する励磁突入電流現象特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力品質の重要な1項目として瞬時電圧低下がある。電力系統に瞬時電圧低下が発生すると、機器停止など様々な障害を引き起こす。例えば、水銀灯が消灯したり、電力を動力源とする大型機器が停止したりする。瞬時電圧低下の原因の1つに、無負荷変圧器を電力系統に連系する際に発生する変圧器鉄心の磁気飽和による励磁突入電流と呼ばれる過電流がある。
【0003】
励磁突入電流現象の特定法には、電流の第2調波増大や変圧器の磁化特性を監視するものがある(例えば、非特許文献1参照)。これらは、すべて変圧器用CTによる正確な励磁突入電流波形を必要とする。
【0004】
一方、高圧配電系での系統側からの測定は、需要家との設備分界点での計器用変成器VCTによるので、測定電流には、変圧器の励磁突入電流と他負荷電流とが混在する。従って、励磁突入電流だけを正確に測定することが難しく、非特許文献1のものを高圧配電系での系統に直接適用することは難しい。
【0005】
そこで、励磁突入電流の開始時磁束値と終了時磁束値とが等しいことを特定条件とし、励磁突入電流が測定不能な場合に励磁突入電流現象を特定するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
これは、変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求め、磁気飽和開始時刻と磁気飽和終了時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分が零となったときに、変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定するものである。この利点は、正確な励磁突入電流波形が無くとも、励磁突入電流の開始時刻及び終了時刻が精度よく推定できれば、励磁突入電流か否かを特定できることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−148018号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】北山匡史・仲林見幸:「変圧器鉄心の磁化特性に基づく励磁突入電流の高速判別手法」、電学論B、121巻、8号、平成13年、pp.982-989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、励磁突入電流の開始時刻Ts及び終了時刻Teはピンポイントであるので、他負荷や力率改善用コンデンサSC電流の影響によるノイズより、励磁突入電流の開始時刻Ts及び終了時刻Teが精度よく推定できない場合がある。
【0010】
本発明の目的は、磁気飽和開始時刻または磁気飽和終了時刻を精度よく推定し、励磁突入電流がノイズの影響を受ける場合にも励磁突入電流現象を精度よく特定できる励磁突入電流現象特定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明に係る励磁突入電流現象特定方法は、電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求め、磁気飽和開始時刻と磁気飽和終了時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定する励磁突入電流現象特定方法において、前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流を所定のサンプリング周期で時系列データとして取り込み、取り込んだ時系列データのうち前記変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向に次第に緩やかに減少し等比収束する時系列データを抽出し、抽出した等比収束する時系列データのAitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻の測定値との差である変分電流を指標とし、前記変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向が時間軸の逆方向の時系列データのときは前記変分電流が零点となる収束時刻を磁気飽和開始時刻とし、前記変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向が時間軸と同じ方向の時系列データのときは前記変分電流が零点となる収束時刻を磁気飽和終了時刻とすることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明に係る励磁突入電流現象特定方法は、請求項1の発明において、前記変分電流の零点が無い場合には、前記変分電流の絶対値を指標とし、前記変分電流の絶対値が極小値となる時刻を磁気飽和開始時刻または磁気飽和終了時刻とすることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明に係る励磁突入電流現象特定方法は、電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求め、磁気飽和開始時刻と磁気飽和終了時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定する励磁突入電流現象特定方法において、前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流を所定のサンプリング周期で時系列データとして取り込み、取り込んだ時系列データのうち前記変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向に次第に緩やかに減少し等比収束する時系列データを抽出し、抽出した等比収束する時系列データのAitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻の測定値との差である変分電流の絶対値の極小値の時刻を指標とし、前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分を求め、前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分の最小値直後の指標時刻を磁気飽和終了時刻とし、前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分の最大値直前の指標時刻を磁気飽和開始時刻とすることを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明に係る励磁突入電流現象特定方法は、請求項3の発明において、前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分の最小値直後の指標時刻または最大値直前の指標時刻における電流微分値が許容値以上の場合にはその指標時刻は除外することを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明に係る励磁突入電流現象特定方法は、電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求め、磁気飽和開始時刻と磁気飽和終了時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定する励磁突入電流現象特定方法において、前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電圧の変動分電圧を所定のサンプリング周期で時系列データとして取り込み、取り込んだ時系列データのうち前記変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向に次第に緩やかに減少し等比収束する時系列データを抽出し、抽出した等比収束する時系列データのAitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻の測定値との差である変分電圧の絶対値の極小値の時刻を指標とし、前記変動分電圧の最小値直後の指標時刻を磁気飽和終了時刻とし、前記変動分電圧の最大値直前の指標時刻を磁気飽和開始時刻とすることを特徴とする。
【0016】
請求項6の発明に係る励磁突入電流現象特定方法は、請求項5の発明において、前記瞬時電圧低下発生後の変動分電圧の最小値直後の指標時刻または最大値直前の指標時刻における変分電圧が許容値以上の場合にはその指標時刻は除外することを特徴とする。
【0017】
請求項7の発明に係る励磁突入電流現象特定方法は、請求項5の発明において、前記変動分電圧に代えて、前記変動分電圧の微分を用いて前記磁気飽和終了時刻を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の時系列データのうち変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向に次第に緩やかに減少し等比収束する時系列データを抽出し、その時系列データのAitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻の測定値との差である変分電流を指標とし、変分電流が零点となる収束時刻を磁気飽和開始時刻または磁気飽和終了時刻とするので、他負荷や力率改善用コンデンサSC電流の影響によるノイズがあっても、磁気飽和開始時刻または磁気飽和終了時刻を精度よく推定できる。これにより、励磁突入電流がノイズの影響を受ける場合にも励磁突入電流現象を精度よく特定できる。
【0019】
請求項2の発明によれば、変分電流の零点が無い場合には変分電流の絶対値を指標とし、変分電流の絶対値が極小値となる時刻を磁気飽和開始時刻または磁気飽和終了時刻とするので、変分電流の零点が無い場合であっても、磁気飽和開始時刻または磁気飽和終了時刻を精度よく推定でき、励磁突入電流が測定不能な場合の励磁突入電流現象を精度よく特定できる。
【0020】
請求項3の発明によれば、変分電流の絶対値の極小値の時刻を指標とし、瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分値により、瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分の最小値直後の指標時刻を磁気飽和終了時刻とし、瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分の最大値直前の指標時刻を磁気飽和開始時刻とするので、変分電流の絶対値の極小値が複数個存在する場合であっても、磁気飽和終了時刻及び磁気飽和開始時刻を精度良く推定できる。
【0021】
請求項4の発明によれば、瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分の最小値直後の指標時刻または最大値直前の指標時刻における電流微分値が許容値以上の場合にはその指標時刻は除外するので、磁気飽和終了時刻及び磁気飽和開始時刻をより精度良く推定できる。
【0022】
請求項5の発明によれば、瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電圧の変動分電圧を入力し、その時系列データのAitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻の測定値との差である変分電圧の絶対値の極小値の時刻を指標とし、変動分電圧の最小値直後の指標時刻を磁気飽和終了時刻とし、変動分電圧の最大値直前の指標時刻を磁気飽和開始時刻とするので、変圧器の一次電流が計測できない場合であっても、磁気飽和終了時刻及び磁気飽和開始時刻を推定できる。
【0023】
請求項6の発明によれば、瞬時電圧低下発生後の変動分電圧の最小値直後の指標時刻または最大値直前の指標時刻における変分電圧が許容値以上の場合にはその指標時刻は除外するので、磁気飽和終了時刻及び磁気飽和開始時刻をより精度良く推定できる。
【0024】
請求項7の発明によれば、請求項5の発明において、変動分電圧に代えて、変動分電圧の微分を用いて磁気飽和終了時刻を求めるので、磁気飽和終了時刻をより精度良く推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係わる励磁突入電流現象特定方法の一例を示すフローチャート。
【図2】単相変圧器の励磁突入電流時の端子電圧v(t)、鎖交磁束Φ(t)、電流I(t)の関係を示すグラフ。
【図3】電流I(t)の波形パターンの説明図。
【図4】時刻推定指標である変分電流δIが零点となる場合に磁気飽和開始時刻Tsまたは磁気飽和終了時刻Teを求めたときの電流I及び鎖交磁束Φのグラフ。
【図5】時刻推定指標である変分電流δIが極小値δIminとなる場合に磁気飽和開始時刻Tsまたは磁気飽和終了時刻Teを求めたときの電流I及び鎖交磁束Φのグラフ。
【図6】電流I(t)とその微分値I’(t)との関係パターンの説明図。
【図7】電流I(t)及び鎖交磁束のΦの実測データでの磁気飽和開始時刻Tsと磁気飽和終了時刻Te との推定結果の一例を示すグラフ。
【図8】電流I(t)及び鎖交磁束のΦの実測データでの磁気飽和開始時刻Tsと磁気飽和終了時刻Te との推定結果の他の一例を示すグラフ
【図9】測定用変流器CTの飽和時の単相変圧器の励磁突入電流時の端子電圧v(t)、鎖交磁束Φ(t)、電流I(t)の関係を示すグラフ。
【図10】変動分電圧V(t)、電流I(t)、電流微分値I’(t)の関係を示すグラフ。
【図11】電流微分値I’(t)に代えて変動分電圧V(t)を用いて、磁気飽和開始時刻Ts及び磁気飽和終了時刻Teの存在領域を特定した場合の推定結果の一例を示すグラフ。
【図12】変動分電圧V(t)に代えて変動分電圧微分値V’(t)を用いて、磁気飽和終了時刻Teの存在領域を特定した場合の推定結果の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を説明する。まず、励磁突入電流の開始時磁束値と終了時磁束値とが等しいことを特定条件とし、励磁突入電流がノイズの影響を受ける場合に励磁突入電流現象を特定する手法について説明する。
【0027】
図2は、単相変圧器の励磁突入電流時の端子電圧v(t)、鎖交磁束Φ(t)、電流I(t)の関係を示すグラフである。図2中のΦ0は突入電流開始磁束値、Φrは残留磁束、時刻T0は変圧器の電力系統への投入時刻である。
【0028】
図2に示すように、鎖交磁束Φが増加し時刻Tsで突入電流開始磁束値Φ0を超えると、電流I(t)は急激に増大し過電流の励磁突入電流となる。そして、時刻Teで突入電流開始磁束値Φ0を下回ったときに電流I(t)の突入電流は終了する。この場合、鎖交磁束Φは時刻Ts、Teで共に突入電流開始磁束値Φ0と等しくなる。そこで、励磁突入電流現象の特定条件として、次の条件式が導かれる。
【数1】

【0029】
ここで、Φsは時刻Tsでの鎖交磁束、Φeは時刻Teでの鎖交磁束、τは積分用ダミー変数である。(1)式から分かるように、突入電流開始磁束値Φ0及び残留磁束Φrは(1)式中に現れないので、突入電流開始磁束値Φ0及び残留磁束Φrは励磁突入電流現象を特定する条件として不要となる。また、積分範囲に投入時刻T0は含まれないので、投入時刻T0の厳密な特定は必須ではなくなる。また、電流I(t)の波形は、鎖交磁束Φ(t)が突入電流開始磁束値Φ0{鎖交磁束Φ(Ts)、Φ(Te)}となる時刻Ts、Teの近傍部のみで必要とするだけで、正確な全体の電流波形は必要ないことになる。
【0030】
時刻Ts、Teはピンポイントであるので、ノイズの影響を受け易い。特に高圧配電系では、その影響による誤差対策が必要となる。そこで、時刻Ts、Teの特定法の精度検討に必要な誤差εΔを(2)式で定義しておくことにする。(2)式中のΦpは定常時磁束波高値である。
【0031】
[数2]
εΔ=|Φs−Φe|/2Φp …(2)
次に、ノイズの影響を抑制して、時刻Ts、Teを精度よく推定する手法について説明する。前述したように、電流I(t)の波形は、鎖交磁束Φ(t)が突入電流開始磁束値Φ0{鎖交磁束Φ(Ts)、Φ(Te)}となる時刻Ts、Teの近傍部のみで必要とすることに着目し、時刻Ts、Teの近傍部の電流I(t)の波形パターンを把握し、先験的に近似アルゴリズムを設定することで、電流I(t)の波形パターン以外の情報(ノイズ)の影響を防止することとした。
【0032】
そこで、時刻Ts、Teの近傍部の電流I(t)の波形パターンを考察し、それに基づき近似アルゴリズムの設定することとした。
【0033】
図3は電流I(t)の波形パターンの説明図であり、図3(a)は鎖交磁束Φの飽和領域を含む電流I(t)の波形パターンの説明図、図3(b)は図3(a)のX部分の拡大図である。
【0034】
鎖交磁束Φの飽和領域の開始時刻Tsにおける突入電流開始直後の電流I(t)の推移は、磁化特性の影響で、最初は緩やかに増加し、その後は急激に増加する。一方、突入電流終了直前の電流推移も、同様なパターンで緩やかに減少する。
【0035】
この2つの「飽和領域から非飽和領域への突入電流パターン」は、電力潮流など非線形問題の反復解法、Newton法の収束過程と類似である。
【0036】
そこで、この電流パターンを把握するため、Newton法の収束加速法の1つAitkenのΔ2乗法に着目した。AitkenのΔ2乗法は離散化された電流のサンプリング・データの数列In-1(n:時間ステップ数)から、極限値Ixにより早く収束する新しい数列Ix,n(収束推定値)を作り出す。新しい数列Ix,nはサンプリング・データの数列Inが等比収束すると仮定し、次のように3ステップの電流値In-2、In-1、Inから得られる。
【0037】
[数3]
Ix,n−In-1=K(Ix,n−In-2),Ix,n−In=K(Ix,n−In-1) …(3)
ここで、Kは|K|<1なる定数である。
【0038】
(3)式より、定数Kを消去して、収束推定値Ix,nを求めると、収束推定値Ix,nは(4)式で与えられる。
【0039】
[数4]
Ix,n=In−δIn
=In−(ΔIn)2/Δ2In …(4)
ここで、δI:変分電流(δIn=(ΔIn)2/Δ2In)
Δ:後退差分(ΔIn=In−In-1、Δ2In=In−2In-1+In-2 )
このAitkenのΔ2乗法のアルゴリズムは、緩やかに減少するパターンを等比収束と仮定している。AitkenのΔ2乗法の本来の目的は、極限値Ixを速く求めることであり、収束時間ステップ数に対応する時刻Ts 、Teの推定ではないので、AitkenのΔ2乗法を応用して時刻Ts 、Teを推定するためには、その時刻を推定するための時刻推定指標が必要となる。
【0040】
そこで、以下に時刻推定指標を検討する。いま、時間ステップnは進みとし、時刻Teに対して検討する。例えば、3ステップの電流値In-2、In-1、Inについて、電流値In-2は電流値In-1より1ステップ前のデータであり、電流値In-1は電流値Inより1ステップ前のデータである。なお、時刻Tsに対してはその近傍の電流パターンが時刻Teの近傍の電流パターンの逆であるので、時刻Tsの場合は時間軸を逆進するだけで同様である。
【0041】
時刻Teを数列の等比収束点と仮定すれば、収束推定値Ix,nがInと一致した時間ステップが収束点の時刻Teとなる。これは、(4)式に示す変分電流δI(=(ΔIn)2/Δ2In)が零点となるときである。そこで、時刻推定指標は変分電流δIとし、変分電流δIが零点となるときのステップnが磁気飽和終了時刻Teであるとする。つまり、磁気飽和終了時刻Teの推定条件は、(5)式に示すように変分電流δIが零点となるときのステップnとなる。なお、磁気飽和開始時刻Tsについても同様に求められる。
【0042】
[数5]
δIn=Ix,n−In …(5)
図4は、時刻推定指標である変分電流δIが零点となる場合に磁気飽和開始時刻Tsまたは磁気飽和終了時刻Teを求めたときの電流I及び鎖交磁束Φのグラフである。図4では残留磁束Φrを0とした場合を示しており、変分電流δIが零点となる時間ステップを磁気飽和開始時刻Tsまたは磁気飽和終了時刻Teとして求めている。この場合、(2)式に示す誤差εは2.8%であり、高精度な推定結果を得られている。
【0043】
次に、本発明の実施形態に係わる励磁突入電流現象特定方法を説明する。本発明の実施形態に係わる励磁突入電流現象特定方法は、前述した励磁突入電流の開始時磁束値と終了時磁束値とが等しいことを特定条件とし、励磁突入電流がノイズの影響を受ける場合に励磁突入電流現象を特定する手法であり、その際に、励磁突入電流の開始時磁束値Tsと終了時磁束値TeとをAitkenのΔ2乗法を応用して時刻推定指標により精度よく推定するものである。
【0044】
図1は本発明の実施形態に係わる励磁突入電流現象特定方法の一例を示すフローチャートである。瞬時電圧低下の被害を受けている需要家に接続される電力系統に瞬時電圧低下が発生したか否かを判定する(S1)。これは、瞬時電圧低下の被害を受けている需要家に接続される電力系統に電圧計を設置して電力系統の電圧を監視することにより行う。
【0045】
電力系統に瞬時電圧低下が発生したと判定されたときは、変圧器の一次電流を所定のサンプリング周期で時系列データとして取り込む(S2)。これは、瞬時電圧低下の被害を受けている需要家に接続される電力系統に電流計を設置して電力系統の電流を監視することにより行う。
【0046】
次に、取り込んだ時系列データのうち、変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向に次第に減少し等比収束する時系列データを抽出する(S3)。例えば、図3(b)に示すように、磁気飽和終了時刻Te近傍の突入電流パターンの時系列データは、飽和領域から非飽和領域への変化方向に次第に減少し等比収束する時系列データであるので、AitkenのΔ2乗法を適用するサンプリング・データとして抽出する。磁気飽和開始時刻Ts近傍の突入電流パターンの時系列データについても同様である。なお、磁気飽和開始時刻Tsの場合は時間軸を逆進させた時系列データとする。
【0047】
そして、等比収束する時系列データのAitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻での測定値との差である変分電流を時刻推定指標とする(S4)。前述の(4)式に示したように、変分電流δIn(=(ΔIn)2/Δ2In)を時刻推定指標とする。
【0048】
次に、変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向が時間軸と逆方向の時系列データの変分電流(時刻推定指標)が零点となる収束時刻を磁気飽和開始時刻Tsとする(S5)。飽和領域から非飽和領域への変化方向が時間軸と逆方向の時系列データは、磁気飽和開始時刻Ts近傍の時系列データである。そして、前述の(5)式に示したように、この時系列データについての変分電流δInが零点となるときのnステップ目電流値Inの時間ステップnが磁気飽和開始時刻Tsとなる。
【0049】
同様に、変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向が時間軸と同じ方向の時系列データの変分電流(時刻推定指標)が零点となる収束時刻を磁気飽和終了時刻Teとする(S6)。飽和領域から非飽和領域への変化方向が時間軸と同じ方向の時系列データは、磁気飽和終了時刻Te近傍の時系列データである。そして、前述の(5)式に示したように、この時系列データについての変分電流δInが零点となるときのnステップ目電流値Inの時間ステップnが磁気飽和終了時刻Teとなる。
【0050】
このようにして、得られた磁気飽和開始時刻Tsと磁気飽和終了時刻Teとの時間幅で変圧器鉄心の端子電圧v(t)を積分して、磁気飽和開始時刻Tsの変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻Teの変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求める(S7)。そして、磁気飽和開始時刻Tsの変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻Teの変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいか否を判定し(S8)、(1)式に示すように、その差分が零であるときは、磁気飽和開始時刻Tsの変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻Teの変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいと判定して、変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低と判定する(S9)。
【0051】
以上の説明では、時刻推定指標である変分電流δInが零点となる場合について説明したが、ノイズにより変分電流δInの零点が無い場合がある。その場合は、図4に示すように、零点は変分電流δInの絶対値|δIn|の極小値δIminと見なせるので、その類推から拡張指標として絶対値|δIn|が極小値δIminとなるときのnステップ目電流値Inの時間ステップnを磁気飽和開始時刻Tsまたは磁気飽和終了時刻Teとする。
【0052】
図5は、時刻推定指標である変分電流δIが極小値δIminとなる場合に磁気飽和開始時刻Tsまたは磁気飽和終了時刻Teを求めたときの電流I及び鎖交磁束Φのグラフである。図5では残留磁束Φrを0とした場合を示しており、変分電流δIが極小値δIminとなる時間ステップを磁気飽和開始時刻Tsまたは磁気飽和終了時刻Teとして求めている。この場合、(2)式に示す誤差εは0.7%であり、高精度な推定結果を得られている。極小値δIminとした場合には零点も含むため、統一的に適用可能である。
【0053】
このように、本発明の実施形態では、磁気飽和開始時刻Tsや磁気飽和終了時刻Teの近傍での電流変動が等比収束過程に類似なことに着目し、これを先験的に考慮することで、磁気飽和開始時刻Tsや磁気飽和終了時刻Teの推定を高精度にすることができる。
【0054】
すなわち、励磁突入電流現象の磁気飽和開始時刻Tsや磁気飽和終了時刻Teが変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向では、突入電流が次第に緩やかに減少し、等比収束過程の収束点と類似であるので、等比収束値推定法である、AitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻の測定値との差である変分電流を時刻推定指標とし、その零点を磁気飽和開始時刻Tsや磁気飽和終了時刻Teとするので、高精度に推定できる。
【0055】
また、ノイズの影響で変分電流の零点が無い場合には時刻推定指標である生の変分電流ではなく、その絶対値を拡張指標とし、その極小値の時刻を磁気飽和開始時刻Tsや磁気飽和終了時刻Teとするので、極小値δIminには零点も含むことから統一的に適用可能である。
【0056】
磁気飽和開始時刻Tsや磁気飽和終了時刻Teを高精度に推定できるので、励磁突入電流がノイズの影響を受ける場合の励磁突入電流現象を精度よく特定できる。
【0057】
次に、図5に示すように、磁気飽和開始時刻Tsや磁気飽和終了時刻Te の近傍には、複数の変分電流δInのポイントが存在する。この内から自動的に磁気飽和開始時刻Tsや磁気飽和終了時刻Te を選択できれば、磁気飽和開始時刻Tsや磁気飽和終了時刻Te の推定法の実用性は高まる。
【0058】
そこで、図6に示すように、電流I(t)と、その微分値I’(t)との関係パターンの特徴を利用して磁気飽和開始時刻Tsや磁気飽和終了時刻Te の自動選択基準を導入することを考える。
【0059】
以下、図6に示す電流I(t)とその微分値I’(t)との関係パターンについて説明する。図6では、電流I(t)が上に凸(正極性)の場合を示しており、この場合の磁気飽和開始時刻Tsや磁気飽和終了時刻Te の自動選択基準について説明する。
【0060】
(1)突入電流の電流I(t)波形は磁気飽和開始時刻Tsと磁気飽和終了時刻Te との間を半周期とする正弦(sin)波形であると仮定する。
【0061】
(2)これより、電流微分値I’(t)波形は余弦(cos)波形となり、磁気飽和開始時刻Tsと磁気飽和終了時刻Te との間で極値となるはずである。飽和特性に起因する境界条件は(6)式で示される。
【0062】
[数6]
I’(Ts)=I’(Te)=0 …(6)
この飽和特性に起因する境界条件を示す(6)式より、飽和領域から見て、磁気飽和開始時刻Tsと磁気飽和終了時刻Te との間において、磁気飽和開始時刻Tsの直後で電流微分値I’(t)は最大値I’m,sとなり、磁気飽和終了時刻Teの直前で電流微分値I’(t)は最小値I’m,eとなり、その直後に急激に(6)式のように零となる。なお、逆極性の下に凸の場合には、最大値と最小値とが逆になる。
【0063】
以上のことより、磁気飽和開始時刻Tsと磁気飽和終了時刻Te との自動選択の基準は次のようになる。
【0064】
「電流微分値I’(t)の最大値I’m,sの直前の変分電流δInのポイントを磁気飽和開始時刻Tsとし、電流微分値I’(t)の最小値I’m,eの直後の変分電流δInのポイントを磁気飽和終了時刻Te とする。」
図7は、電流I(t)及び鎖交磁束のΦの実測データでの磁気飽和開始時刻Tsと磁気飽和終了時刻Te との推定結果の一例を示すグラフである。図7に示すように、電流微分値I’(t)の最大値I’m,s、最小値I’m,e、変分電流δInのポイントからかるように、磁気飽和開始時刻Tsと磁気飽和終了時刻Te を精度良く自動選択できることが分かる。
【0065】
また、図8に示すように、電流微分値I’(t)の最大値I’m,sの直前の変分電流δInのポイントが時刻Tδであり、本来の変分電流δInのポイントが磁気飽和開始時刻Tsではない場合がある。これは、電流I(t)へのノイズの影響である。
【0066】
この対策として、磁気飽和開始時刻Tsは突流の電流I(t)の変動領域の境界にあるため、電流微分値I’(t)の最大値I’m,sの直前の指標時刻Tδにおいて、電流微分値I’(t)が許容値以上の場合には除外することとする。
【0067】
磁気飽和開始時刻Ts及び磁気飽和終了時刻Te の認定基準は、候補の変分電流δInのポイントの時刻Tδでの電流微分値I’(Tδ)を用いて、次のように与えられる。αは許容誤差、xはs、eである。
【数7】

【0068】
すなわち、(7)式の認定基準を満たさない場合には、(7)式の認定基準を満たすまで、さらに、次の候補の変分電流δInのポイントを吟味探査し、(7)式の認定基準を満たす変分電流δInのポイントを求めることになる。
【0069】
このように、変分電流δInの絶対値|δIn|の極小値の時刻を指標とし、瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分値I’(t)により、磁気飽和開始時刻Ts及び磁気飽和終了時刻Te の存在領域を特定するようにしたので、変分電流δInの絶対値|δIn|の極小値が複数個存在する場合であっても、磁気飽和終了時刻Ts及び磁気飽和開始時刻Teを精度良く推定できる。また、瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分の最大値直前の指標時刻における電流微分の絶対値|I’(Tδ)|が瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分の絶対値|I’(Tδ)|が許容値以上の場合には、その指標時刻は除外するので、磁気飽和開始時刻Ts及び磁気飽和終了時刻Teをより精度良く推定できる。
【0070】
次に、励磁突入電流が過電流であるときは、電流I(t)の測定用の変流器CTが飽和し、変流器CTの飽和期間中は電流測定が不可能となる場合がある。この場合には、磁気飽和終了時刻Teが飽和期間になり、電流I(t)による特定ができない。
【0071】
図9は、測定用変流器CTの飽和時の単相変圧器の励磁突入電流時の端子電圧v(t)、鎖交磁束Φ(t)、電流I(t)の関係を示すグラフである。図9では残留磁束Φrは零である場合を示している。
【0072】
図9に示すように、電流I(t)は、磁気飽和開始時刻Tsより立ち上がり、測定用変流器CTの測定系レンジオーバーとなった時点T1で波形はスライスし、時点T2での鉄心飽和で鉄心内磁束は一定となり、測定される電流I(t)は零となる。これより、電流I(t)による磁気飽和終了時刻Teの推定は不可能であることが分かる。
【0073】
そこで,電圧を用いた磁気飽和開始時刻Ts及び磁気飽和終了時刻Teの推定法を検討する。この場合、変圧器一次電圧の測定電圧v(t)をそのまま用いた場合には、励磁突入電流の影響が明確でない。そこで、励磁突入電流の影響分として、(8)式に示す変動分電圧V(t)を導入することとした。Tbは系統周波数の周期である。
【0074】
[数8]
V(t)=v(t)−v(t−Tb) …(8)
図10は、変動分電圧V(t)、電流I(t)、電流微分値I’(t)の関係を示すグラフである。図10に示すように、電流微分値I’(t)と変動分電圧V(t)とのパターンは類似している。なお、図10では、変動分電圧V(t)は電流微分値I’(t)との比較を明確にするため逆極性としている。
【0075】
電流微分値I’(t)と変動分電圧V(t)とのパターンが類似していることから、電流微分値I’(t)に代えて変動分電圧V(t)を所定のサンプリング周期で時系列データとして取り込み、その時系列データのAitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻の測定値との差である変分電圧δVの絶対値の極小値δVminの時刻を指標とする。そして、変動分電圧V(t)の最小値Vm,eの直後の指標時刻を磁気飽和終了時刻Teとし、変動分電圧V(t)の最大値Vm,sの直前の指標時刻を磁気飽和開始時刻Tsとする。
【0076】
図11は、電流微分値I’(t)に代えて変動分電圧V(t)を用いて、磁気飽和開始時刻Ts及び磁気飽和終了時刻Teの存在領域を特定した場合の推定結果の一例を示すグラフである。図11内の変分電圧δVは、(4)式に示すIをVに置き換えた(9)式で示される。
【0077】
[数9]
δVn=(ΔVn)2/Δ2Vn …(9)
図11から分かるように、変動分電圧V(t)を用いて、磁気飽和開始時刻Ts及び磁気飽和終了時刻Teの存在領域を特定した場合であっても、磁気飽和開始時刻Ts及び磁気飽和終了時刻Teの推定が可能であることが分かる。この場合の(2)式で定義した誤差εΔは、8.3%であった。
【0078】
次に、一般に変動分電圧V(t)の磁気飽和終了時刻Teの推定に関しては、2階微分の変曲点の方が高精度であるので、磁気飽和終了時刻Teの推定に関しては変曲点をより明瞭に抽出できる(10)式の変動分電圧微分値V’(t)の変分を用いる。
【0079】
δV’n=(ΔV’n)2/Δ2V’n …(10)
図12は、変動分電圧V(t)に代えて変動分電圧微分値V’(t)を用いて、磁気飽和終了時刻Teの存在領域を特定した場合の推定結果の一例を示すグラフである。図12に示すように、誤差εΔが8.3%から3.3%へと精度の向上が図られている。
【0080】
このように、変動分電圧V(t)を用いて、磁気飽和開始時刻Ts及び磁気飽和終了時刻Teの存在領域を特定するので、変圧器の一次電流が計測できない場合であっても、磁気飽和開始時刻Ts及び磁気飽和終了時刻Teを推定できる。
【符号の説明】
【0081】
Ts…磁気飽和開始時刻、Te…磁気飽和終了時刻、Φ0…飽和磁束、v(t)…端子電圧、Φ(t)…鎖交磁束、I(t)…電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求め、
磁気飽和開始時刻と磁気飽和終了時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、
磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定する励磁突入電流現象特定方法において、
前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流を所定のサンプリング周期で時系列データとして取り込み、
取り込んだ時系列データのうち前記変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向に次第に緩やかに減少し等比収束する時系列データを抽出し、
抽出した等比収束する時系列データのAitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻の測定値との差である変分電流を指標とし、
前記変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向が時間軸の逆方向の時系列データのときは前記変分電流が零点となる収束時刻を磁気飽和開始時刻とし、
前記変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向が時間軸と同じ方向の時系列データのときは前記変分電流が零点となる収束時刻を磁気飽和終了時刻とすることを特徴とする励磁突入電流現象特定方法。
【請求項2】
前記変分電流の零点が無い場合には、前記変分電流の絶対値を指標とし、前記変分電流の絶対値が極小値となる時刻を磁気飽和開始時刻または磁気飽和終了時刻とすることを特徴とする請求項1に記載の励磁突入電流現象特定方法。
【請求項3】
電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求め、
磁気飽和開始時刻と磁気飽和終了時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、
磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定する励磁突入電流現象特定方法において、
前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流を所定のサンプリング周期で時系列データとして取り込み、
取り込んだ時系列データのうち前記変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向に次第に緩やかに減少し等比収束する時系列データを抽出し、
抽出した等比収束する時系列データのAitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻の測定値との差である変分電流の絶対値の極小値の時刻を指標とし、
前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分を求め、
前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分の最小値直後の指標時刻を磁気飽和終了時刻とし、
前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分の最大値直前の指標時刻を磁気飽和開始時刻とすることを特徴とする励磁突入電流現象特定方法。
【請求項4】
前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流の微分の最小値直後の指標時刻または最大値直前の指標時刻における電流微分値が許容値以上の場合にはその指標時刻は除外することを特徴とする請求項3に記載の励磁突入電流現象特定方法。
【請求項5】
電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求め、
磁気飽和開始時刻と磁気飽和終了時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、
磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定する励磁突入電流現象特定方法において、
前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電圧の変動分電圧を所定のサンプリング周期で時系列データとして取り込み、
取り込んだ時系列データのうち前記変圧器鉄心の飽和領域から非飽和領域への変化方向に次第に緩やかに減少し等比収束する時系列データを抽出し、
抽出した等比収束する時系列データのAitkenのΔ2乗法の収束推定値と収束時刻の測定値との差である変分電圧の絶対値の極小値の時刻を指標とし、
前記変動分電圧の最小値直後の指標時刻を磁気飽和終了時刻とし、
前記変動分電圧の最大値直前の指標時刻を磁気飽和開始時刻とすることを特徴とする励磁突入電流現象特定方法。
【請求項6】
前記瞬時電圧低下発生後の変動分電圧の最小値直後の指標時刻または最大値直前の指標時刻における変分電圧が許容値以上の場合にはその指標時刻は除外することを特徴とする請求項5に記載の励磁突入電流現象特定方法。
【請求項7】
前記変動分電圧に代えて、前記変動分電圧の微分を用いて前記磁気飽和終了時刻を求めることを特徴とする請求項5に記載の励磁突入電流現象特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−50311(P2012−50311A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228150(P2010−228150)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【Fターム(参考)】