説明

労働管理システム

【課題】従業員にシステムを意識させることなく,従業員の体調に合わせて従業員の労働を管理できるシステムを提供する。
【解決手段】労働管理システム1には,従業員2が所持する人体通信用の送信器10と,送信器10と人体通信を行うときに従業員2の体に流れる電気信号を信号解析することで,従業員2のバイタルデータを計測する人体通信用の受信器11と,受信器11が計測したバイタルデータの計測値とバイタルデータの正常レベルを比較し,計測値が正常レベル内の場合は,機器の利用が制限されない通常利用モードに設定し,計測値が正常レベル外の場合は,機器の利用が制限される利用抑制モードに設定する管理対象装置12が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,従業員の体調に合わせて従業員の労働を管理するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
「過重労働による健康障害防止のための総合対策」に係る行政指導が厚生労働省から通達されたこともあり,企業側には,過重労働による健康障害防止策を講じることが求められているが,過重労働による健康障害防止策としては,体調が悪い時には労働を行わないように義務づけるといった規則に委ねられているケースが多く,従業員の体調に合わせて従業員の労働を管理するシステムが望まれている。
【0003】
従業員の体調に合わせて従業員の労働を管理するシステムとしては,特許文献1において,生体検出手段で検出された従業者のバイタルデータ(生体情報)に基づいて,バイタルデータを検出した従業員の健康又は心理の状態を判別し、判別結果に基づいて、従業者の労務内容の適否を判断して管理するシステムが開示されている。
【0004】
バイタルデータとして,脈拍,汗の発汗量など様々あるが,特許文献1のシステムには,バイタルデータとして従業員の血圧を検出するために血圧検出部が備えられ,従業員は,作業に入る前に,血圧検出部にて従業員の血圧を検出するための動作を行い,従業員の血圧より従業員の健康が判定される。
【0005】
しかしながら,ユビキタスコンピューティングを目指している企業側からすると,従業員が日常的に行う動作を利用してバイタルデータを計測できるようにすることで,従業員にシステムを意識させることなく,従業員の体調に合わせて従業員の労働を管理できることが望まれるが,特許献1で開示されているシステムでは,従業員のバイタルデータを計測するために,従業員のバイタルデータを測定するための動作が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−282975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで,本発明は,従業員が日常的に行う動作を利用してバイタルデータを計測できるようにすることで,従業員にシステムを意識させることなく,従業員の体調に合わせて従業員の労働を管理できるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決する第1の発明は,従業員の労働を管理する労働管理システムであって,本発明の労働管理システムには,従業員にシステムを意識させることなくバイタルデータを計測できるようにするために,労働を管理する従業員が所持する人体通信用の送信器と,前記送信器と人体通信を行うときに前記従業員の体に流れる電気信号を信号解析することで,前記従業員のバイタルデータを計測するバイタルデータ計測手段を備えた人体通信用の受信器が含まれる。
【0009】
また,第1の発明の労働管理システムには,従業員の体調に合わせて従業員の労働を管理できるように,前記受信器が計測したバイタルデータの計測値とバイタルデータの正常レベルを比較し,前記計測値が前記正常レベル内の場合は,機器の利用が制限されない通常利用モードに設定し,前記計測値が前記正常レベル外の場合は,機器の利用が制限される利用抑制モードに設定する利用管理手段を備えた管理対象装置が含まれる。
【0010】
更に,第2の発明は,前記正常レベルに含まれていないが,労働を制限するレベルではない場合に対応を図るために,前記管理対象装置に,前記正常レベルに加え前記警告レベルを設けておき,前記利用管理手段は,前記計測値が前記警告レベルに連続して達した回数をカウントし,カウントした回数が閾値を超えると,前記計測値が前記正常レベル外になったと判断するようにした第1の発明に記載の労働管理システムである。
【0011】
更に,第3の発明は,前記正常範囲の個人差に対応を図るために,前記送信器は,前記送信器に記憶されているIDを前記受信器に対して送信し,前記管理対象装置は,前記正常レベルを前記ID毎に記憶し,前記受信器が受信した前記IDに対応した前記正常レベルを用いるようにした第1の発明又は第2の発明に記載の労働管理システムである。
【発明の効果】
【0012】
このように,本発明によれば,従業員が日常的に行う動作を利用してバイタルデータを計測できるようにすることで,従業員にシステムを意識させることなく,従業員の体調に合わせて従業員の労働を管理できるシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】労働管理システムの構成を説明する図。
【図2】送信器,受信器及び管理対象機器を説明する図。
【図3】労働管理システムで実行される一連の手順を示したフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここから,本発明の実施形態について,発明の技術分野に係わる当業者が,発明の内容を理解し,本発明を実施できる程度に説明する。
【0015】
図1は,本実施形態に係る労働管理システム1の構成を説明する図である。本実施形態の労働管理システム1は,従業員2の体調に合わせて従業員2の労働を管理するために開発されたシステムで,図1に図示したように,従業員2が所持する人体通信用の送信器10と,送信器10と人体通信する受信器11と,従業員2が利用する管理対象機器12(ここでは,パーソナルコンピュータ)とから少なくとも構成されている。
【0016】
図1で図示した労働管理システム1では,従業員2が椅子3に座ったときに従業員2の足がくる位置に受信器11は設けられ,従業員2の足が受信器11の上に置かれると,従業員2の体を伝送媒体とする人体通信が送信器10と受信器11の間で実施される。
【0017】
従業員2の体調の判定に利用される従業員2のバイタルデータは,送信器10と受信器11が人体通信する際に,従業員2の体に流れる電気信号を信号解析することで計測され,バイタルデータの計測値が異常の場合,すなわち,従業員2の体調が悪いと判定できる場合は管理対象機器12の利用が制限される。
【0018】
このように,人体通信を行う際に従業員2に流れる電気信号を解析してバイタルデータを計測することで,バイタルデータを計測するための特別な動作を従業員2は行う必要はなく,従業員2の足が床を踏むなど,従業員2が日常的に行う動作を利用してバイタルデータが得られるため,従業員2にシステムを意識させることなく,従業員2の体調に合わせて従業員2の労働を管理することができるようなる。
【0019】
ここから,本実施形態の労働管理システム1に含まれる各装置について説明する。図2は,従業員2が身につける人体通信用の送信器10及び受信器11並びに管理対象機器12を説明する図である。
【0020】
人体通信用の送信器10には,汎用的な人体通信用の送信器10と同様に,従業員2の体に電気信号を流すために利用する送信用電極100と,所定のデータをエンコードした電気信号を従業員2の体に流す処理を行う送信回路101が備えられ,本実施形態において,送信回路101は,管理対象機器12側の受信器11と電気的に接続すると,送信器10に記憶されている従業員IDをエンコードした電気信号を従業員2の体に流す処理を行う。
【0021】
なお,人体通信の伝送方式としては,人の体に電極を接触させることが必要ない電界方式と,人の体に電極を接触させることが必要となる電流方式の2通りの方式があるが,本発明ではいずれの方式を用いてもよい。
【0022】
また,図2に図示したように,本実施形態の受信器11には,従業員2の体を流れる電気信号を検出するための受信電極110と,受信電極110が検出した電気信号を処理する受信回路111が備えられている。
【0023】
本実施形態の受信器11の受信回路111には,受信電極110が検出した電気信号を処理する機能として,受信電極110が検出した電気信号をデコードすることで,電気信号にエンコードされた従業員IDを取得するデコード手段112と,受信電極110が検出した電気信号を信号解析することで,従業員2の体調の判定に利用するバイタルデータを計測するバイタルデータ計測手段113が備えられ,これらの手段は,受信器11に備えられた回路及びコンピュータプログラムで実現される。
【0024】
電気信号にエンコードされた従業員IDを取得するデコード手段112は一般的な技術であるため説明を省き,受信電極110が検出した電気信号を信号解析することでバイタルデータを計測するバイタルデータ計測手段113の内容について簡単に説明する。
【0025】
送信器10が送信電極100を利用して従業員2の体に流した電気信号は,従業員2の体を伝送媒体として受信器11の受信電極110に届くため,従業員2の体を流れている間に,従業員2の人体に係る様々なバイタルデータに係る成分が電気信号にのることになり,受信器11のバイタルデータ取得手段113は,受信器11の受信電極110に流れ込んだ電気信号を予め定められた手順で信号解析することで,所定のバイタルデータを計測する。
【0026】
例えば,従業員2の体を流れている間に,従業員2の脈拍の周期に対応する周波数成分が電気信号にのるため,脈拍の周期に対応する周波数成分を信号解析することで,従業員2の脈拍数や振幅に係わるバイタルデータを計測できる。
【0027】
更に,従業員2の汗は,人体通信においてはインピーダンスになるため,受信器11の受信電極110が検出した電気信号のレベルなどを求めれば,汗(例えば,発汗量)に係るバイタルデータを計測できる。
【0028】
図2に図示したように,人体通信用の受信器11と接続する管理対象機器12には,CPUやメモリなどが実装された制御回路120が実装され,制御回路120を動作させるためのコンピュータプログラムで実現される手段として,受信器11から受信したバイタルデータの計測値及び従業員IDを利用して,従業員2の管理対象機器12の利用を管理する利用管理手段121を備えている。
【0029】
管理対象機器12の利用管理手段121には,従業員2の体調を判定するために,労働を管理する従業員2が所持する送信器10に記憶された従業員IDに関連付けて,従業員IDで特定される従業員2のバイタルデータの正常レベルが予め登録されている。なお,従業員IDに関連付けてバイタルデータの正常レベルを登録しておくのは,バイタルデータの個人差に対応を図るためである。
【0030】
管理対象機器12の利用管理手段121は,管理対象機器12の利用管理するためのモードを複数有し,受信器11からバイタルデータの計測値を受信すると,従業員2の体調に合ったモードに管理対象機器12を設定する処理を実行する。
【0031】
管理対象機器12の利用管理手段121は,受信器11からバイタルデータの計測値及び従業員IDを受信すると,受信器11から受信した従業員IDに関連付けられたバイタルデータの正常レベルを参照し,受信器11から受信したバイタルデータの計測値が正常レベル内であれば,従業員2の体調を正常と判定し,管理対象機器12の利用が制限されない通常利用のモードに設定し,受信器11から受信したバイタルデータの計測値が正常値レベル外であれば,従業員2の体調が悪化していると判定し,管理対象機器12の利用を制限する利用制限モードに設定する。
【0032】
利用制限モードの具体的内容は,管理対象機器12となる装置毎で異なるが,バイタルデータの計測値が正常レベル外の従業員2には残業をさせないために,管理対象機器12の利用が所定勤務時間帯に制限されるモードや,業務を禁止できるように,管理対象機器12の利用を禁止するモードに,利用制限モードをすることが望ましい。
【0033】
加えて,バイタルデータの計測値が正常レベルに含まれていないが,労働を制限するレベルではない場合に対応を図るために,バイタルデータの正常レベルに加え,バイタルデータの警告レベルを設けておき,受信器11から受信したバイタルデータの計測値が警告レベルに連続して達した回数をカウントし,カウントした回数が閾値(例えば,5回)に達すると,正常レベル外になったと判定するようにすることもできる。
【0034】
なお,バイタルデータの警告レベルにバイタルデータの計測値が達した場合は,管理対象機器12を通常利用できるが,従業員2本人及び上司に対して,バイタルデータが異常値に近づいてきたことを従業員2本人及び上司に対して通知するために,バイタルデータが異常値に近づいてきたことを通知する電子メールを従業員2本人及び上司に送信するとよい。
【0035】
最後に,図1で図示した労働管理システム1で実行される一連の手順について述べておく。図3は,労働管理システム1で実行される一連の手順を示したフロー図である。
【0036】
人体通信用の送信器10を所持する従業員2が管理対象機器12を利用する際,管理対象機器12と接続している受信器11の受信電極110に従業員2が触れ,送信器10と受信器11が電気的に接続すると,送信器10は,従業員2毎に固有のデータである従業員IDをエンコードした電気信号を従業員2の体に流し,従業員IDを受信器11に送信する処理を実行する。
【0037】
従業員IDをエンコードされた電気信号を受信器11が検知すると,受信器11のデコード手段112が,検知した電気信号をデコードすることで,該電気信号にエンコードされた従業員IDを取得し,更に,受信器11のバイタルデータ計測手段113が,従業員IDがエンコードされた電気信号を信号解析することで所定のバイタルデータを計測する。
【0038】
受信器11が取得した従業員ID及びバイタルデータの計測値は,受信器11から管理対象機器12に引き渡され,管理対象機器12の利用管理手段121は,受信器11から引き渡された従業員IDに対応付けられたバイタルデータの正常レベルを参照し,バイタルデータの計測値が正常レベル内であるか判定する。
【0039】
バイタルデータの計測値が正常レベル内であれば,管理対象機器12の利用管理手段121は,通常利用モードに管理対象機器12を設定し,この手順を終了する。また,バイタルデータの計測値が正常レベル外であれば,管理対象機器12の利用管理手段121は,利用制限モードに管理対象機器12を設定し,この手順を終了する。
【符号の説明】
【0040】
1 労働管理システム
10 送信器
11 受信器
112 デコード手段
113 バイタルデータ計測手段
12 管理対象機器
121 利用管理手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
労働を管理する従業員が所持する人体通信用の送信器と,前記送信器と人体通信を行うときに前記従業員の体に流れる電気信号を信号解析することで,前記従業員のバイタルデータを計測するバイタルデータ計測手段を備えた人体通信用の受信器と,前記受信器が計測したバイタルデータの計測値とバイタルデータの正常レベルを比較し,前記計測値が前記正常レベル内の場合は,機器の利用が制限されない通常利用モードに設定し,前記計測値が前記正常レベル外の場合は,機器の利用が制限される利用抑制モードに設定する利用管理手段を備えた管理対象装置と,から少なくとも構成されていることを特徴とする労働管理システム。
【請求項2】
前記管理対象装置には,前記正常レベルに加え前記警告レベルが設けられ,前記利用管理手段は,前記計測値が前記警告レベルに連続して達した回数をカウントし,カウントした回数が閾値を超えると,前記計測値が前記正常レベル外になったと判断することを特徴とする,請求項1に記載の労働管理システム。
【請求項3】
前記送信器は,前記送信器に記憶されているIDを前記受信器に対して送信し,前記管理対象装置は,前記正常レベルを前記ID毎に記憶し,前記受信器が受信した前記IDに対応した前記正常レベルを用いることを特徴とする,請求項1又は請求項2に記載の労働管理システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate