説明

効果装置

【課題】フィードバック演奏を容易に行い得る効果装置を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、フィルタ手段から出力された楽音信号のレベル、及び/又は、フィルタ手段に入力される楽音信号のレベルが、レベル検出手段によって検出される。そして、出力手段から外部へ出力される楽音信号のレベルが、レベル検出手段により検出されたレベルに応じたレベルとなるように、レベル制御手段によって制御される。よって、フィルタ手段を通過した楽音信号、又は、フィルタ手段を通過する前の楽音信号のレベルが小さくても、レベル制御手段によってレベルを上げるよう制御すれば、出力手段から出力される楽音信号のサスティンを得ることができるので、弦楽器の弦の振動を安定的に維持できる。よって、フィードバック演奏をより容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効果装置に関し、特に、フィードバック演奏を容易に行い得る効果装置に関する。
【背景技術】
【0002】
弦楽器の1つである電気ギター(エレキギター)の奏法として、フィードバック奏法がある。このフィードバック奏法は、演奏者が、電気ギターを弾弦し、弾弦された状態の電気ギターを、弾弦に基づく楽音を拡声して放音するギターアンプのスピーカに近づけるという動作を行うことによって行われる。この動作を行うことにより、電気ギターの弦と、スピーカと、これらの間にある音響空間とから、フィードバックループが形成される。このフィードバックループにおいて、弾弦された弦を、スピーカから放音される楽音(弾弦に基づく楽音)による共振によってさらに振動させることにより、フィードバック演奏が実現される。
【0003】
しかし、フィードバック奏法は、弾弦の仕方、弦とスピーカとの距離、弦をスピーカに近づける向きやタイミング、スピーカから放音される楽音の音量(出力レベル)などの微妙なコントロールを必要とする奏法であり、演奏者にとって極めて難しい奏法である。そのため、演奏者がフィードバック演奏に失敗することもしばしばある。
【0004】
その改善策として、出願人は、特許文献1に記載される効果装置を提案している。具体的に、特許文献1には、弾弦により発音された楽音のピッチを検出し、検出されたピッチに対応する周波数を中心周波数とする所定の通過域幅の周波数成分のみを通過させるようにバンドパスフィルタを設定する効果装置が記載されている。
【0005】
特許文献1に記載される効果装置によれば、弾弦により発音される所望の音高の楽音(電気ギターにおいては、弦をフレットに押下することによって、演奏者により指定される音高の楽音であり、以下「ファンダメンタル」又は「基音」と称す)の周波数成分が強調された楽音を出力することができ、それにより、弦の振動をファンダメンタルの周波数で持続させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平6−25898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フィードバック演奏では、弾弦によって開始された弦の振動を維持させるために、スピーカから放音される楽音の音量(レベル)が大音量である必要があった。しかし、特許文献1に記載される効果装置を用いたとしても、フィードバック音のレベルが自然減衰されることにより、弦楽器の弦の振動を安定的に維持することができなかった。そのため、フィードバック演奏に失敗することもあり、さらなる改善の余地があった。
【0008】
また、ファンダメンタル(基音)のみをフィードバックさせても、最終的に倍音に移行しないので、演奏者が、特許文献1に記載される効果装置を用いてフィードバック演奏を行ったとしても、帯域によっては自然なフィードバック演奏にならなかったり、フィードバック時の倍音移行が妨害される等の問題があった。また、通常、フィードバック演奏では、フィードバック音は弾弦された楽音の音高から始まり、その後、所定の倍音へと音高が変化することが好ましいが、特許文献1に記載される効果装置では、十分な倍音移行が行われない。このように、特許文献1に記載される効果装置では、演奏者の意図通りのフィードバック演奏を行うことは難しい。
【0009】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、フィードバック演奏を容易に行い得る効果装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0010】
この目的を達成するために、請求項1記載の効果装置によれば、入力手段から入力された楽音信号を通過させるフィルタ手段のパラメータは、設定手段により、ピッチ検出手段により検出されたピッチに応じて設定されるので、出力手段からは、ピッチ検出手段による検出ピッチに応じた周波数特性の楽音信号が出力される。フィルタ手段から出力される楽音信号が、フィードバック演奏に適した周波数特性となるよう、フィルタ手段のパラメータを設定すれば、フィードバック演奏に適した周波数特性の楽音信号を、外部へ出力することができる。これにより、弦楽器の弦の振動を、外部へ出力された楽音信号によって維持させることができるので、難度の高いフィードバック演奏を容易に実現できる。
【0011】
さらに、フィルタ手段から出力された楽音信号のレベル、及び/又は、フィルタ手段に入力される楽音信号のレベルが、レベル検出手段によって検出される。そして、出力手段から外部へ出力される楽音信号のレベルが、レベル検出手段により検出されたレベルに応じたレベルとなるように、レベル制御手段によって制御される。よって、フィルタ手段を通過した楽音信号、又は、フィルタ手段を通過する前の楽音信号のレベルが小さくても、レベル制御手段によってレベルを上げるよう制御すれば、出力手段から出力される楽音信号(即ち、フィルタ手段によりフィルタリングされた楽音信号)のレベルの減衰が抑制され、出力手段から出力される楽音信号のサスティンを得ることができるので、弦楽器の弦の振動を安定的に維持できる。よって、フィードバック演奏をより容易に行うことができる。
【0012】
請求項2記載の効果装置によれば、請求項1記載の効果装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。フィルタ手段には、設定手段により、ピッチ検出手段による検出されたピッチが属する周波数帯域に応じたパラメータが設定される。これにより、検出ピッチ(即ち、楽音信号のピッチ)が属する周波数帯域毎に、その周波数帯域に適したパラメータを設定できる。そのため、各周波数帯域について、フィードバック音がファンダメンタル(基音)から倍音へ移行し易いなど、フィードバック演奏に適した周波数特性の信号が出力されるように、フィルタ手段のパラメータを設定できる。よって、各周波数帯域について、好適なフィードバック演奏を容易に実現できる。なお、請求項2において、設定手段により設定されるパラメータとしては、例えば、フィルタ手段の中心周波数、Q値(通過域幅)、ゲインなどである。また、複数のフィルタ手段が存在する場合には、設定手段により設定されるパラメータとして、使用するフィルタ手段の数を含むものであってもよい。
【0013】
請求項3記載の効果装置によれば、請求項2記載の効果装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。ピッチ検出手段により検出されたピッチが属する周波数帯域に応じて、複数のフィルタ手段のそれぞれに周波数帯域に応じた異なるパラメータが、設定手段により設定される。つまり、検出ピッチ(即ち、楽音信号のピッチ)が属する周波数帯域に応じて各々設定された複数のフィルタ手段を用いて、入力手段から入力された楽音信号をフィルタリングすることができる。これにより、各周波数帯域について、フィードバック演奏に適した周波数特性の楽音信号を、出力手段から出力させることができる。よって、各周波数帯域について、好適なフィードバック演奏を容易に実現できる。
【0014】
請求項4記載の効果装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の効果装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。レベル検出手段による検出レベルが、所定レベル以下である場合には、フィルタ手段から出力された楽音信号のレベルが、レベル制御手段によって上げられる一方で、前記検出レベルが、所定レベルを超える場合には、フィルタ手段から出力された楽音信号のレベルが、レベル制御手段によって維持される。よって、フィルタ手段によってフィルタリングされ、出力手段から出力される楽音信号のサスティンを得ることができるので、演奏者は、フィードバック演奏を容易に行うことができる。
【0015】
請求項5記載の効果装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の効果装置の奏する効果に加え、設定手段が設定するパラメータは、フィルタ手段であるバンドパスフィルタの中心周波数、Q値、およびゲインであるので、これらのパラメータの適切な組み合わせにより、フィードバック演奏に適した周波数特性の楽音信号をフィルタ手段から出力できる。
【0016】
請求項6記載の効果装置によれば、請求項5記載の効果装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。ピッチ検出手段により検出されたピッチが所定の低音域の周波数帯域に属する場合には、設定手段により、1つのフィルタ手段に対し、次の設定がされる。つまり、1つのフィルタ手段の中心周波数が、前記ピッチ検出手段により検出されたピッチに基づく倍音の周波数に設定され、Q値が、検出されたピッチに基づく楽音と、フィルタ手段の中心周波数を周波数とする倍音とが選択的に通過される大きさに設定される。そのため、このフィルタ手段から、検出されたピッチに基づく楽音(即ち、ファンダメンタル)と、フィルタ手段の中心周波数を周波数とする倍音とを少なくとも含む、複数の楽音信号を通過させることができる。ファンダメンタルのパワーが強い低音域の場合、このようにファンダメンタルと倍音とを一緒に通過させることによって、自然なフィードバック音を得ることができる。また、低音域の楽音は、どの倍音へ移行するかが、フィードバックループを構成する音響空間に応じて変動的になる。よって、フィルタ手段から、ファンダメンタルと倍音とを含むような広い通過域幅となるQ値を設定することにより、倍音移行のルーズさを残すことができ、それにより、フィードバック演奏を行う演奏者に演奏の面白味を与えることができる。
【0017】
請求項7記載の効果装置によれば、請求項5又は6に記載の効果装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。ピッチ検出手段により検出されたピッチが所定の中音域の周波数帯域に属する場合には、設定手段により、2つのフィルタ手段に対し、次の設定がされる。つまり、1つのフィルタ手段の中心周波数が、検出ピッチに基づく倍音の周波数に設定され、ゲインが、所定の値に設定される。一方で、前記1つのフィルタ手段とは別の1つのフィルタ手段(別のフィルタ手段)の中心周波数が、検出ピッチ(即ち、ファンダメンタルの周波数)に設定され、ゲインが、前記所定の値より小さい値に設定される。よって、フィルタ手段を通過する、検出されたピッチに基づく楽音(即ち、ファンダメンタル)と倍音とのレベル差を付けることができ、このレベル差によって、フィードバック演奏時における倍音移行を誘発することができる。従って、所定の中音域の楽音信号が入力された場合には、フィードバックループによってフィードバックされる楽音を最終的に倍音へと移行させることができるので、自然なフィードバック演奏を行うことができる。
【0018】
請求項8記載の効果装置によれば、請求項6記載の効果装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。前記1つのフィルタ手段のゲインと、前記別のフィルタ手段のゲインとの相対的な差を任意に変更できる。倍音移行のし易さ(倍音への移行時間)は前記レベル差に依存するので、前記レベル差を任意に変更できることにより、倍音移行のし易さを所望に応じて制御することができる。よって、演奏者の意図に応じたフィードバック演奏を実現できる。
【0019】
請求項9記載の効果装置によれば、請求項5から8のいずれかに記載の効果装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。ピッチ検出手段により検出されたピッチが所定の高音域の周波数帯域に属する場合には、設定手段により、1つのフィルタ手段の中心周波数が、検出ピッチ(即ち、ファンダメンタルの周波数)に設定され、Q値が、検出されたピッチに基づく楽音(即ち、ファンダメンタル)が選択的に通過される大きさに設定される。よって、不快な超高音の発生を防ぎつつ、フィードバック演奏を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】効果装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】効果装置の機能を示す機能ブロック図である。
【図3】入力信号が低音域の楽音である場合のフィルタ部の動作例である。
【図4】入力信号が中音域の楽音である場合のフィルタ部の動作例である。
【図5】入力信号が高音域の楽音である場合のフィルタ部の動作例である。
【図6】CPUが実行するメイン処理を示すフローチャートである。
【図7】(a)及び(b)は、それぞれ、図6のメイン処理の中で実行されるフィルタ制御処理及びレベル制御処理を示すフローチャートである。
【図8】変形例の効果装置の機能を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態である効果装置1の電気的構成を示すブロック図である。詳細は後述するが、本実施形態の効果装置1は、電気ギター100の弦と、ギターアンプのスピーカ50と、これらの間にある音響空間とから形成されるフィードバックループにおいて、演奏者が容易にフィードバック演奏を行うことができるよう、内蔵されるフィルタ部73,74(図2参照)のフィルタ特性を設定するとともに、これらのフィルタ部73,74を通過した後のレベルの制御を行う。
【0022】
図1に示すように、効果装置1は、CPU11と、ROM12と、RAM13と、DSP14と、フットペダル15と、フィードバックレベルコントロールボリューム(以下「FBLCボリューム」と称す)16と、その他操作子17とを有しており、これらの各部は11〜17は、バスライン22を介して互いに接続されている。
【0023】
効果装置1はまた、アナログデジタルコンバータ(ADC)18と、デジタルアナログコンバータ(DAC)19と、アンプ20,21とを有している。ADC18は、DSP14と、アンプ20とに接続される。DAC19は、DSP14と、アンプ21とに接続される。
【0024】
入力端子31から入力された信号は、アンプ20により増幅された後、ADC18によりデジタル信号に変換され、DSP14へ入力されて処理が施される。一方、DSP14において処理された信号は、DAC19によりアナログ信号に変換した後、アンプ21により増幅され、出力端子32から出力される。電気ギター100を入力端子31に接続し、ギターアンプ(スピーカ50)を出力端子21に接続することにより、電気ギター100の弦と、ギターアンプ(スピーカ50)と、これらの間にある音響空間とからフィードバックループを形成することができる。
【0025】
CPU11は、ROM12やRAM13に記憶される固定値データや制御プログラムに従って、効果装置1の各部を制御する中央制御装置である。ROM12は、書き替え不能なメモリであって、CPU11やDSP14に各処理を実行させるための制御プログラム12aや、この制御プログラム12aが実行される際にCPU11により参照される固定値データ(図示せず)などが記憶される。なお、後述する図6、図7(a)、及び図7(b)のフローチャートに示す各処理は、制御プログラム12aに従ってCPU10により実行される。
【0026】
また、ROM12には、フィルタ制御テーブル12bが記憶されている。フィルタ制御テーブル12bは、フィルタ部73,74(図2参照)に設定するパラメータを記憶するテーブルである。表1は、フィルタ制御テーブル12bの内容を模式的に示したものである。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、フィルタ制御テーブル12bには、周波数帯域毎(低音域、中音域、高音域)に、使用するフィルタ部の数と、バンドパスフィルタ(BPF)73a,74aの中心周波数及びQ値(通過域幅)と、乗算器73b,74bに供給するゲインとが、パラメータとして記憶される。本実施形態の効果装置1は、フィルタ制御テーブル12bを参照し、フィルタ部73,74のパラメータを、入力端子31から入力された楽音信号(入力信号)の周波数帯域に応じて設定する。
【0029】
具体的に、入力信号が低音域(例えば、100Hz以下の帯域)の楽音信号である場合には、1つのフィルタ部74を使用する。そして、フィルタ部74を構成するBPF74aの中心周波数が、ファンダメンタル(基音)に対する所定倍音の周波数であるFxlに設定される。なお、本明細書中に記載されるブロック体の小文字の「l(エル)」は、表1及び図面の中では全て筆記体のエルで表記している。
【0030】
「所定倍音」としては、例えば、ファンダメンタルに対する1オクターブ上の2倍音や、2オクターブ上の4倍音や、3オクターブ上の8倍音などを例示できる。3倍音など、オクターブ単位以外の倍音であってもよい。ファンダメンタルの周波数はピッチ検出部71(図2参照)により検出されたピッチである。そのため、所定倍音の周波数であるFxlもまた、検出ピッチに基づいて決まる値である。
【0031】
さらに、BPF74aのQ値(通過域幅)が、Qxlに設定される。本実施形態では、Qxlは、ファンダメンタルの周波数を含む広い通過域幅を示す固定値である。また、フィルタ部74を構成する乗算器74bに供給するゲインが、Gxlに設定される。Gxlは、高いゲインを示す固定値である。
【0032】
次に、入力信号が中音域(例えば、100Hz〜600Hzの帯域)の楽音信号である場合には、2つのフィルタ部73,74を使用する。そして、一方のフィルタ部73を構成するBPF73aの中心周波数が、ファンダメンタルの周波数であるFfmに設定される。ファンダメンタルの周波数であるFfmは、ピッチ検出部71により検出されたピッチである。
【0033】
BPF73aのQ値が、Qfmに設定される。Qfmは、低音域で使用したQ値(Qxl)より狭い通過域幅を示す固定値である。フィルタ部73を構成する乗算器73bに供給するゲインが、Gfmに設定される。なお、Gfmの値は、比較的低いゲインを示す可変値であり、FBLCボリューム16の操作量に応じて任意に変化させ得る。ただし、Gfmの値は、FBLCボリューム16の操作量に応じて取り得る最大値であっても、フィルタ部74を構成する乗算器74bに供給するゲインの値(Gxm)より小さい。
【0034】
また、他方のフィルタ部74を構成するBPF73aの中心周波数が、ファンダメンタルに対する所定倍音の周波数であるFxmに設定される。所定倍音の周波数であるFxmは、検出ピッチに基づいて決まる値である。なお、中音域で使用する「所定倍音」もまた、上述した低音域の場合と同様、種々の倍音(例えば、2倍音など)を例示できる。
【0035】
BPF74aのQ値が、Qxmに設定される。Qxmは、低音域で使用したQ値(Qxl)より狭い通過域幅を示す固定値である。乗算器74bに供給するゲインが、Gxmに設定される。Gxmは、高いゲインを示す固定値である。
【0036】
また、入力信号が高音域(例えば、600Hz以上の帯域)の楽音信号である場合には、1つのフィルタ部73を使用する。そして、フィルタ部73を構成するBPF73aの中心周波数が、ファンダメンタルの周波数であるFfhに設定される。ファンダメンタルの周波数であるFfhは、ピッチ検出部71により検出されたピッチである。
【0037】
BPF73aのQ値が、Qfhに設定される。Qfhは、低音域で使用したQ値(Qxl)より狭い通過域幅を示す固定値である。フィルタ部73を構成する乗算器73bに供給するゲインが、Gfhに設定される。Gfhは、高いゲインを示す固定値である。
【0038】
RAM13は、書き替え可能なメモリであり、CPU11が制御プログラム12aを実行するにあたり、各種のデータを一時的に記憶するためのワークエリア(図示せず)を有している。
【0039】
DSP14は、デジタル信号を処理するための演算装置である。詳細は後述するが、DSP14は、入力端子31から入力された楽音信号(入力信号)を、検出ピッチに応じてフィルタリング(濾波)し、フィルタリングされた信号のレベルに応じたレベル制御を行い、レベル制御された楽音信号をDAC19へ出力する。
【0040】
フットペダル15は、効果装置1による効果の付与をオン/オフするためのペダル操作子である。本実施形態では、フットペダル15が常態(操作されていない状態)にある場合には、効果の付与はオフにされ、操作者がフットペダル15を操作する(踏む)と、操作している間、効果の付与がオンにされる。FBLCボリューム16は、上述したGfmの値を変化させるための操作子である。その他の操作子17は、フットペダル15及びFBLCボリューム16以外の操作子である。
【0041】
図2は、効果装置1の機能を示す機能ブロック図である。なお、図2に示す機能のうち、各部71,72,76,77,79は、CPU11とDSP14とによる協同的な処理によって実現される機能である。各部73,74,75,78は、DSP14の処理によって実現される機能である。
【0042】
入力端子31から入力された楽音信号は、アンプ20により増幅され、ADC18によりデジタル信号に変換され、ピッチ検出部71と、フィルタ部73及び/又はフィルタ部74と、クロスフェード部79とに供給される。
【0043】
ピッチ検出部71は、ADC18から供給された信号のピッチ(即ち、入力端子31から入力された楽音信号のピッチ)を検出し、検出したピッチを示すピッチ情報を、CPU11へ供給する。CPU11は、フットペダル15の操作により、効果の付与がオンにされている場合に、そのピッチ情報をフィルタ制御部72へ供給する。
【0044】
フィルタ制御部72は、ピッチ検出部71から供給されたピッチ情報と、フィルタ制御テーブル12bの内容とに基づき、フィルタ部73及び/又はフィルタ部74に対し、フィルタ特性を規定するパラメータを設定する。
【0045】
具体的に、ピッチ検出部71から供給されたピッチ情報が低音域を示す場合、フィルタ制御部72は、フィルタ部74を構成するBPF74aに対し、中心周波数(Fxl)及びQ値(Qxl)を設定する。また、フィルタ制御部72は、乗算器74bに対し、ゲイン(Qxl)を設定する。
【0046】
また、ピッチ検出部71から供給されたピッチ情報が中音域を示す場合、フィルタ制御部72は、フィルタ部74を構成するBPF74aに対し、中心周波数(Fxm)及びQ値(Qxm)を設定する。また、フィルタ制御部72は、乗算器74bに対し、ゲイン(Qxm)を設定する。一方、フィルタ制御部72は、フィルタ部73を構成するBPF73aに対し、中心周波数(Ffm)及びQ値(Qfm)を設定する。また、フィルタ制御部72は、乗算器73bに対し、ゲイン(Qfm)を設定する。なお、Qfmの値は、FBLCボリューム16の操作量に応じて変動する。
【0047】
また、ピッチ検出部71から供給されたピッチ情報が高音域を示す場合、フィルタ制御部72は、フィルタ部73を構成するBPF73aに対し、中心周波数(Ffh)及びQ値(Qfh)を設定する。また、フィルタ制御部72は、乗算器73bに対し、ゲイン(Qfh)を設定する。
【0048】
フィルタ部73は、BPF73aと乗算器73bとを含む。フィルタ部74は、BPF74aと乗算器74bとを含む。即ち、フィルタ部73及びフィルタ部74は、いずれも、バンドパスフィルタとして機能する。フィルタ部73及びフィルタ部74は、ADC18から供給された信号(即ち、入力端子31から入力された楽音信号)を、BPF73a,74aによりフィルタリングし、乗算器73b,74bによりゲイン調整して、処理後の信号を加算器75へ供給する。加算器75は、フィルタ部73及び/又はフィルタ部74から供給された信号を加算し、レベル検出部76と、乗算器78とに供給する。
【0049】
レベル検出部76は、加算器75から供給された信号(即ち、フィルタ部73及び/又はフィルタ部74からの出力信号を加算した信号)のレベルを検出し、検出したレベルを示すレベル情報を、CPU11へ供給する。CPU11は、フットペダル15の操作により、効果の付与がオンにされている場合に、そのレベル情報をレベル制御部77へ供給する。
【0050】
レベル制御部77は、レベル検出部76から供給されたレベル情報に基づき、乗算器78に対し、係数を設定する。具体的に、レベル検出部76から供給されたレベル情報が、加算器75から供給された信号のレベルが所定レベル以下であることを示す場合、レベル制御部77は、乗算器78に対し、レベルを上げるための係数を設定する。
【0051】
一方、レベル検出部76から供給されたレベル情報が、加算器75から供給された信号のレベルが所定レベルを超えることを示す場合、レベル制御部77は、乗算器78に対し、レベルを維持するための係数を設定する。なお、加算器75から供給された信号のレベルが大き過ぎる場合には、レベルを下げるための係数を設定してもよい。
【0052】
乗算器78は、加算器75から供給された信号(即ち、フィルタ部73及び/又はフィルタ部74からの出力信号を加算した信号)に、レベル制御部77により設定された係数を乗算してレベルを調整して、処理後の信号をクロスフェード部79へ供給する。
【0053】
クロスフェード部79は、フットペダル15の操作状態に応じて、入力端子31から入力された楽音信号、又は、乗算器78から供給された信号(即ち、フィルタ部73及び/又はフィルタ部74を通過させた信号)を、DAC19へ出力する。また、クロスフェード部79は、フットペダル15の操作状態が切り換えられた場合に、入力端子31から入力された楽音信号と、乗算器78から供給された信号とをクロスフェードさせて、外部へ出力する信号の切り換えを行う。
【0054】
具体的に、フットペダル15が常態から操作された(踏まれた)場合には、クロスフェード部79は、入力端子31から入力された楽音信号のレベルを、時間経過に伴って減少(フェードアウト)させるとともに、乗算器78から供給された信号のレベルを、時間経過に伴って増加(フェードイン)させて、外部へ出力する信号を切り換える。一方で、フットペダル15が操作された(踏まれた)状態から常態に戻された場合には、クロスフェード部79は、乗算器78から供給された信号のレベルを、時間経過に伴って減少(フェードアウト)させるとともに、入力端子31から入力された楽音信号のレベルを、時間経過に伴って増加(フェードイン)させて、外部へ出力する信号を切り換える。
【0055】
クロスフェード部79からDAC19へ供給された信号は、DAC19によりアナログ信号に変換され、アンプ21により増幅されて、出力端子32を介して、外部(ギターアンプのスピーカ50)へ出力される。
【0056】
次に、図3から図5を参照して、本実施形態の効果装置1におけるフィルタ部(フィルタ部73,74)の動作例について説明する。
【0057】
図3(a)及び(b)は、いずれも、入力信号が低音域の楽音である場合のフィルタ部の動作例である。上述した通り、入力信号が低音域の楽音である場合には、1つのバンドパスフィルタ(フィルタ部74)を用いる。フィルタ部74を構成するBPF74a及び乗算器74bには、フィルタ制御テーブル12bの内容に基づくパラメータが設定される。
【0058】
具体的に、BPF74aの中心周波数は、ファンダメンタルに対する所定倍音の周波数であるFxlに設定され、BPF74aのQ値は、ファンダメンタルの周波数を含む広い通過域幅を示す値(Qxl)に設定される。また、乗算器74bのゲインは、高いゲインを示す値(Gxl)に設定される。
【0059】
これらのパラメータが設定されたことにより、フィルタ部74は、図3(a),(b)におけるハッチング領域で示すフィルタ特性とされる。入力信号(入力端子31から入力された楽音信号)を、図3(a),(b)に示すフィルタ特性を有するフィルタ部74を通過させた場合、ファンダメンタル(ピッチ検出部71により検出されたピッチの楽音;基音)の信号Sflと、BPF74aの中心周波数に等しい周波数の所定倍音の信号Sxlとが、フィルタ部74を通過する。
【0060】
ファンダメンタルの信号Sflは、レベルが抑えられてフィルタ部74から出力される。一方、所定倍音の信号Sxlは、ファンダメンタルのループに伴い、次第にレベルが増加する。つまり、入力信号が低音域の楽音である場合には、フィルタ部74からの出力信号(ファンダメンタルの信号Sfl,所定倍音の信号Sxl)は、図3(a)の状態から、図3(b)の状態へと変化する。これにより、フィードバック音は、太矢印で示すように、ファンダメンタル(信号Sfl)から、最終的に所定倍音(信号Sxl)へ移行する。
【0061】
ファンダメンタルが強く、十分な倍音成分を含んでいる低音域の場合、所定倍音の周波数を中心周波数とし、Q値を大きくしたフィルタ特性(図3(a),(b)のフィルタ特性)を、フィルタ部74のフィルタ特性として設定し、ファンダメンタルと所定倍音とを一緒に通過させることにより、自然なフィードバック音を得ることができる。
【0062】
また、低音域の楽音は、どの倍音へ移行するかが、フィードバックループを構成する音響空間に応じて変動的になる。よって、十分な倍音成分を含む低音域の入力信号を、図3(a),(b)のフィルタ特性を有するフィルタ部74を通過させることにより、倍音移行のルーズさを残すことができるので、フィードバック音が汚い音になることを防ぐことができるとともに、フィードバック演奏を行う演奏者に演奏の面白味を与えることができる。
【0063】
図4(a)及び(b)は、いずれも、入力信号が中音域の楽音である場合のフィルタ部の動作例である。上述した通り、入力信号が中音域の楽音である場合には、2つのバンドパスフィルタ(フィルタ部73,74)を用いる。フィルタ部73を構成するBPF73a及び乗算器73bには、フィルタ制御テーブル12bの内容に基づくパラメータが設定される。
【0064】
具体的に、フィルタ部73について、BPF73aの中心周波数は、ファンダメンタルの周波数(ピッチ検出部71により検出されたピッチ)であるFfmに設定され、BPF73aのQ値は、ファンダメンタルの信号Sfmを選択的に通過させる狭い通過域幅を示す値(Qfm)に設定される。また、乗算器73bのゲインは、低いゲインを示す値(Gfm)に設定される。なお、Gfmは、フィルタ部74の乗算器74bに設定するゲイン(Gxm)より小さい値である。
【0065】
これらのパラメータが設定されたことにより、フィルタ部73は、図4(a),(b)における向かって左側のハッチング領域で示すフィルタ特性とされる。入力信号(入力端子31から入力された楽音信号)を、図4(a),(b)に示すフィルタ特性を有するフィルタ部73を通過させた場合、ファンダメンタル(ピッチ検出部71により検出されたピッチの楽音;基音)の信号Sfmが、フィルタ部73を通過する。
【0066】
一方で、フィルタ部74について、BPF74aの中心周波数は、ファンダメンタルに対する所定倍音の周波数であるFxmに設定され、BPF74aのQ値は、所定倍音の信号Sxmを選択的に通過させる狭い通過域幅を示す値(Qxm)に設定される。また、乗算器74bのゲインは、高いゲインを示す値(Gxm)に設定される。
【0067】
これらのパラメータが設定されたことにより、フィルタ部74は、図4(a),(b)における向かって右側のハッチング領域で示すフィルタ特性とされる。入力信号を、図4(a),(b)に示すフィルタ特性を有するフィルタ部74を通過させた場合、BPF74aの中心周波数に等しい周波数の所定倍音の信号Sxmとが、フィルタ部74を通過する。
【0068】
フィルタ部73のゲイン(Gfm)が、フィルタ部74のゲイン(Gxm)より小さい値に設定されるので、ファンダメンタルの信号Sfmと所定倍音の信号Sxmとにレベル差が生じ、このレベル差によって、フィードバック音の倍音移行が誘発される。よって、図4(a),(b)に示すようにフィルタ特性が設定されたフィルタ部73,74を用い、中音域の入力信号を通過させることにより、最終的に倍音へと移行するフィードバック音を得ることができるので、自然なフィードバック演奏を行うことができる。
【0069】
フィルタ部73のゲイン(Gfm)は、FBLCボリューム16を操作することによって任意に変化させることができる。つまり、FBLCボリューム16を操作することによって、ファンダメンタルの信号Sfmと所定倍音の信号Sxmとのレベル差を任意に変更させることができる。倍音移行のし易さ(倍音への移行時間)は、フィードバックループを構成する音響空間(例えば、電気ギター100とギターアンプ(スピーカ50)との距離や角度、電気ギター100やギターアンプの種類など)に応じて多少変化するものの、ファンダメンタルの信号Sfmと所定倍音の信号Sxmとのレベル差に依存する。よって、FBLCボリューム16を設け、ファンダメンタルの信号Sfmと所定倍音の信号Sxmとのレベル差を任意に変更できるようにしたことにより、倍音移行のし易さを演奏者の所望に応じて制御することができる。
【0070】
具体的に、図4(a)に示す例と、図4(b)に示す例とでは、後者のGfmの方が、前者のGfmに比べて小さい値に設定されている。この場合、ファンダメンタルの信号Sfmと所定倍音の信号Sxmとのレベル差がより大きい図4(b)の方が、倍音移行し易い(倍音への移行時間が速い)。また、Gfmの値を高めに設定し、ファンダメンタルの信号Sfmと所定倍音の信号Sxmとのレベル差があまりない状態とすることにより、初期の段階におけるファンダメンタルのフィードバックを持続させ易くすることができる。
【0071】
図5は、入力信号が高音域の楽音である場合のフィルタ部の動作例である。上述した通り、入力信号が高音域の楽音である場合には、1つのバンドパスフィルタ(フィルタ部73)を用いる。フィルタ部73を構成するBPF73a及び乗算器73bには、フィルタ制御テーブル12bの内容に基づくパラメータが設定される。
【0072】
具体的に、フィルタ部73について、BPF73aの中心周波数は、ファンダメンタルの周波数(ピッチ検出部71により検出されたピッチ)であるFfhに設定され、BPF73aのQ値は、ファンダメンタルの信号Sfhを選択的に通過させる狭い通過域幅を示す値(Qfh)に設定される。また、乗算器73bのゲインは、高いゲインを示す値(Gfh)に設定される。
【0073】
これらのパラメータが設定されたことにより、フィルタ部73は、図5のハッチング領域で示すフィルタ特性とされる。入力信号(入力端子31から入力された楽音信号)を、図5に示すフィルタ特性を有するフィルタ部73を通過させた場合、ファンダメンタル(ピッチ検出部71により検出されたピッチの楽音;基音)の信号Sfhが、フィルタ部73を通過する。
【0074】
高音域の入力信号が入力された場合には、図5のフィルタ特性を有するフィルタ部73から、ファンダメンタルのみを通過させるので、超高音への移行を防ぐことができ、不快なフィードバック音を防ぐことができる。
【0075】
次に、図6及び図7を参照して、上記構成を有する効果装置1のCPU11が実行する処理について説明する。まず、図6は、CPU11が実行するメイン処理を示すフローチャートである。このメイン処理は、効果装置1に電源が投入されると起動され、電源が投入されている間、CPU11により繰り返し実行される。
【0076】
まず、CPU11は、ピッチ検出処理を実行する(S1)。具体的に、CPU11は、ピッチ検出処理(S1)において、入力端子31から入力された楽音信号(入力信号)のピッチを検出し、検出したピッチを、RAM13内に設けられた所定のバッファに記憶する。
【0077】
次に、CPU11は、フットペダル15が操作されているか(即ち、フットペダル15が踏まれているか)を判別する(S2)。フットペダル15が操作されている、即ち、効果の付与がオンである場合(S2:Yes)、CPU11は、RAM13内に設けられたFB中フラグ(図示せず)がオンであるかを判別する(S3)。なお、図示されないFB中フラグは、フィードバック演奏の実行中であるか否かを示すフラグである。
【0078】
S3において、FB中フラグがオフであれば(S3:No)、これは、フットペダル15が操作されたことにより、フィードバック演奏の開始が演奏者に指示されたことを示す。よって、かかる場合には、CPU11は、FB中フラグをオンに設定し(S4)、RAM13内のバッファに記憶されている最新のピッチをホールドする処理を実行する(S5)。S5のピッチホールド処理が実行されると、ホールドが解除されるまで、CPU11は、バッファに記憶されているピッチの更新を行わない。なお、ホールドが解除されるまで、ピッチの検出を行わない構成としてもよい。
【0079】
S5の処理後、CPU11は、フィルタ部73,74(DSP14)にパラメータを設定するフィルタ制御処理を実行する(S6)。なお、フィルタ制御処理(S6)は、検出ピッチが属する周波数帯域に応じたパラメータをフィルタ部73,74(DSP14)に設定する処理であり、具体的な処理については、図7(a)を参照して後述する。
【0080】
次に、CPU11は、クロスフェード処理を実行する(S7)。具体的に、CPU11は、クロスフェード処理(S7)において、入力信号のレベルを、時間経過に伴って減少させるとともに、フィルタ部73,74を経由させた楽音信号(即ち、フィードバック音の信号)のレベルを、時間経過に伴って増加させて、外部へ出力する信号を、フィードバック音の信号に切り換える。
【0081】
S7の処理後、CPU11は、外部へ出力する信号のレベルを、フィルタ部73,74から出力された信号のレベルに応じて制御するレベル制御処理を実行する(S8)。なお、レベル制御処理(S8)の具体的な処理については、図7(b)を参照して後述する。
【0082】
次に、CPU11は、その他の処理を実行し(S9)、処理をS2へ戻す。なお、その他の処理(S9)は、例えば、FBLCボリューム16の値を読み込み、読み込んだ値をRAM13内に設けられた所定のバッファに記憶する処理を含む。また、その他の処理(S9)は、その他の操作子17の状態又は値を読み込み、読み込んだ内容に応じて実行する各処理を含む。
【0083】
一方、S3において、FB中フラグがオンであれば(S3:Yes)、これは、フィードバック演奏の実行中であることを示す。よって、かかる場合には、CPU11は、処理をS8へ移行し、レベル制御処理を実行する。
【0084】
また、S2において、フットペダル15が常態である、即ち、効果の付与がオフである場合(S2:No)、CPU11は、FB中フラグ(図示せず)がオンであるかを判別する(S10)。FB中フラグがオンであれば(S10:Yes)、これは、フットペダル15が操作された状態(踏まれた状態)から、操作されていない状態(即ち、常態)に戻されたことにより、フィードバック演奏の終了が演奏者に指示されたことを示す。よって、かかる場合には、CPU11は、FB中フラグをオフに設定する(S11)。
【0085】
次に、CPU11は、FB停止処理を実行する(S12)。具体的に、CPU11は、FB停止処理(S12)において、外部へ出力する信号を、フィルタ部73,74を経由させた楽音信号(即ち、フィードバック音の信号)から、入力信号に切り換えるクロスフェード処理を実行するとともに、レベル制御処理(S8)によるレベル制御を停止する処理を実行する。
【0086】
S12の処理後、CPU11は、ピッチ検出処理を実行し(S13)、処理をS9へ移行する。なお、S13のピッチ検出処理において、CPU11は、入力信号のピッチを検出し、S1のピッチ検出処理において使用したバッファに記憶されている値を、検出したピッチで更新する。
【0087】
一方、S10において、FB中フラグがオフであれば(S10:No)、フィードバック演奏が実行されていない状態であることを示す。よって、かかる場合には、CPU11は、処理をS13へ移行し、ピッチ検出処理を実行する。
【0088】
図7(a)は、上述したフィルタ制御処理(S6)を示すフローチャートである。まず、CPU11は、RAM13内のバッファに記憶されている、ピッチ検出処理(S1又はS13)により検出された入力信号のピッチが、どの周波数帯域に属するかを判別する(S21)。
【0089】
検出されたピッチが低音域である場合(S21:低音域)、CPU11は、フィルタ制御テーブル12bを参照し、フィルタ部74に対し、低音域用のパラメータ(Fxl,Qxl,Gxl)を設定し(S22)、本処理を終了する。S22の処理により、フィルタ部74のフィルタ特性は、図3に示すような特性とされる。
【0090】
一方、検出されたピッチが中音域である場合(S21:中音域)、CPU11は、フィルタ制御テーブル12bを参照し、フィルタ部73及びフィルタ部74に対し、中音域用のパラメータ(Ffm,Qfm,Gfm,Fxm,Qxm,Gxm)を設定し(S23)、本処理を終了する。S23の処理により、フィルタ部73,74のフィルタ特性は、図4(a)や図4(b)に示すような特性とされる。
【0091】
また、検出されたピッチが高音域である場合(S21:高音域)、CPU11は、フィルタ制御テーブル12bを参照し、フィルタ部73に対し、高音域用のパラメータ(Ffh,Qfh,Gfh)を設定し(S24)、本処理を終了する。S24の処理により、フィルタ部73のフィルタ特性は、図5に示すような特性とされる。
【0092】
図7(b)は、上述したレベル制御処理(S8)を示すフローチャートである。まず、CPU11は、フィルタ部73及び/又はフィルタ部74を通過した信号のレベルを検出する処理を実行する(S41)。より具体的に、S41において、CPU11は、加算器75により加算された信号のレベルを検出する。
【0093】
次に、CPU11は、検出されたレベルが所定レベル未満であるかを判別する(S42)。S42において、検出されたレベルが所定レベル未満である場合には(S42:Yes)、乗算器78に対し、信号のレベルを上げるための係数を設定し(S43)、本処理を終了する。S43の処理により、加算器75を通過した後は、所定レベル未満であった信号のレベルが、乗算器78によって大きくなる。
【0094】
一方、S42において、検出されたレベルが所定レベル以上である場合には(S42:No)、乗算器78に対し、信号のレベルを維持するための係数を設定し(S44)、本処理を終了する。S44の処理により、加算器75を通過した信号のレベルは、乗算器78を通過しても維持される。なお、加算器75から供給された信号のレベルが大き過ぎる場合に、S44において、レベルを下げるための係数を乗算器78に設定し、加算器75を通過した信号のレベルを、乗算器78によって小さくする構成としてもよい。
【0095】
以上説明した通り、本実施形態の効果装置1によれば、電気ギター100の弦の振動に基づく楽音信号(入力信号)のピッチを検出し、その検出ピッチに応じてバンドパスフィルタ(フィルタ部73,74)のフィルタ特性を設定し、そのようにフィルタ特性が設定されたバンドパスフィルタに、入力信号を通過させる。これにより、バンドパスフィルタは、入力信号のピッチに応じた周波数特性の信号を出力する。バンドパスフィルタから出力される信号が、フィードバック演奏に適した周波数特性となるよう、バンドパスフィルタのフィルタ特性を設定すれば、ギターアンプ(スピーカ50)を介して、フィードバック演奏に適した周波数特性の信号を外部の音響空間へ出力することができる。これにより、ギターアンプから放音された楽音により、電気ギター100の弦の振動を維持できるようになるので、難度の高いフィードバック演奏を容易に実現することができる。
【0096】
さらに、フィルタ部73及び/又はフィルタ部74からの出力信号のレベルを検出し、そのレベルが所定レベルより小さい場合には、その信号レベル(即ち、フィルタ部73及び/又はフィルタ部74からの出力信号のレベル)を持ち上げる制御を行うように構成されている。これにより、ギターアンプから外部の音響空間へ出力される信号のレベルの減衰が抑制され、サスティンを得ることができるので、電気ギター100の弦の振動が安定的に維持される。よって、フィードバック演奏をより容易に行うことができる。そして、バンドパスフィルタ(フィルタ部73,74)を通過した特定の周波数特性の信号のレベルだけを制御するので、不快な音(所謂、ハウリング)の発生源となる周波数特性の信号のレベルが上がることを防ぐことができる。これにより、不快な音の発生を防ぎつつ、フィードバック演奏を行うことができる。
【0097】
また、バンドパスフィルタ(フィルタ部73,74)を通過した特定の周波数特性の信号のレベルをある程度のレベルに維持できるので、通常ではフィードバック演奏を行うことのできない音量又はゲイン量であっても、フィードバック演奏が可能となるので、大型のギターアンプの使用など、フィードバック演奏を行う環境の制限を排除できる。これにより、小さめのギターアンプを用いてもフィードバック演奏を実現することができる。
【0098】
また、本実施形態の効果装置1によれば、入力信号のピッチ(検出ピッチ)が属する周波数帯域毎に、その周波数帯域に適したフィルタ特性を設定する。よって、各周波数帯域(低音域、中音域、高音域)について、フィードバック音がファンダメンタル(基音)から倍音へ移行し易いなど、フィードバック演奏に適した周波数特性の信号が出力されるように、バンドパスフィルタのフィルタ特性を設定できる。よって、各周波数帯域について、好適なフィードバック演奏を実現できる。
【0099】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0100】
例えば、上記実施形態では、フィルタ部73及び/又はフィルタ部74からの出力信号のレベルをレベル検出部76によって検出し、その検出レベルに応じて、乗算器78からの出力信号のレベル(即ち、出力端子32からの出力信号のレベル)を制御する構成とした。レベル検出部76によってレベルを検出する信号は、フィルタ部(フィルタ部73,74)へ入力する前の信号であってもよい。
【0101】
図8は、この変形例の効果装置1の機能を示す機能ブロック図である。なお、この変形例において、上述した実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。図8に示すように、この変形例の効果装置1では、ADC18によりデジタル信号に変換された入力信号が、レベル検出部76へ入力される。レベル検出76は、ADC18から入力された信号のレベルを検出し、検出したレベルを示すレベル情報を、CPU11へ供給する。CPU11は、フットペダル15の操作により、効果の付与がオンにされている場合に、そのレベル情報をレベル制御部77へ供給する。
【0102】
図8に示す変形例では、フィルタ部73,74へ入力する前の信号のレベルに応じて、乗算器78からの出力信号のレベルを制御する。本変形例においても、バンドパスフィルタ(フィルタ部73,74)を通過した特定の周波数特性の信号のレベルが制御されることとなるので、上記実施形態と同様の効果を奏し得る。
【0103】
また、図8に示す変形例では、加算器75から出力された信号(楽音信号)のピッチをピッチ検出部71により検出し、検出されたピッチに応じたパラメータをフィルタ部73,74に設定する。上記実施形態では、ピッチ検出部71によるピッチ検出をフィルタ部73,74への入力信号に対して行ったが、この変形例のように、ピッチ検出部71によるピッチ検出をフィルタ部73,74からの出力信号に対して行ってもよい。本変形例においても、入力端子31から入力された楽音(フィードバック音)のピッチに応じた周波数特性の信号を、フィルタ部73,74から出力させることができるので、上記実施形態と同様の効果を奏し得る。なお、その際には、フィルタ部73,74の設定はフラットな特性のフィルタとする(設定をリセットする)ことが望ましい。
【0104】
また、上記実施形態では、加算器75からの出力信号のレベルをレベル検出部76により検出する構成としたが、バンドパスフィルタ(フィルタ部73,74)からの出力信号のレベルを検出する第1のレベル検出部(上記実施形態のレベル検出部)と、バンドパスフィルタへの入力信号のレベルを検出する第2のレベル検出部(上記変形例のレベル検出部)との2つを設ける構成としてもよい。かかる場合には、第1のレベル検出部と第2のレベル検出部とを適宜使い分けるようにすればよい。例えば、フィードバック演奏を開始してからしばらくの間は、第1のレベル検出部によりレベル検出を行い、それ以降は、第2のレベル検出部によりレベル検出を行ってもよい。あるいは、第1のレベル検出部と第2のレベル検出部とのレベル差をレベル制御に使用してもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、フィルタ部73及びフィルタ部74からの出力信号を加算器75によって加算した信号のレベルを、レベル検出部76により検出する構成とした。これに換えて、フィルタ部73,74から出力された信号のレベルをそれぞれ検出し、大きい方のレベルと所定レベルとを比較するように構成してもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、ピッチ検出部71によるピッチ検出をフィルタ部73,74への入力信号に対して行う構成としたが、フィルタ部73,74への入力信号のピッチを検出する第1のピッチ検出部(上記実施形態のピッチ検出部)と、フィルタ部73,74からの出力信号のピッチを検出する第2のピッチ検出部(上記変形例のピッチ検出部)との2つを設ける構成としてもよい。かかる場合には、第1のピッチ検出部と第2のピッチ検出部とを適宜使い分けるようにすればよい。
【0107】
また、上記実施形態では、2つのバンドパスフィルタ(フィルタ部73,74)を設ける構成としたが、バンドパスフィルタの数は、1つであってもよい。1つのバンドパスフィルタを用いる場合には、ファンダメンタルから倍音へスイープするように制御を行えばよい。また、3つ以上のバンドパスフィルタを設ける構成としてもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、BPF73a,74aを含むフィルタ部73,74を使用する構成としたが、BPF73a,74aは、ハイパスフィルタとローパスフィルタとを直列に接続したものに置き換えてもよい。
【0109】
また、上記実施形態では、バンドパスフィルタ(フィルタ部73,74)により入力信号をフィルタリングする構成としたが、特定の帯域のみを通過させることができるフィルタであれば、種々のフィルタを使用できる。
【0110】
また、上記実施形態では、低音域と中音域と高音域との3つの周波数帯域に分けて、バンドパスフィルタ(フィルタ部73,74)のフィルタ特性を変える構成としたが、これらの各音域をさらに分割して、各音域毎にバンドパスフィルタ(フィルタ部73,74)のフィルタ特性を変える構成としてもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、レベル検出部76によって検出されたレベルに応じて、乗算器78からの出力信号のレベル(即ち、フィルタ部73,74からの出力信号のレベル)を、レベル制御部77によって制御する構成とした。これに換えて、レベル検出部76によって検出されたレベルに応じて、フィルタ部73,74への入力信号のレベルを、レベル制御部によって制御する構成としてもよい。また、レベル制御部77は、フィルタ部の乗算器73b,74bにパラメータを加算することにより、フィードバック音のレベル制御を行う構成としてもよい。
【0112】
また、上記実施形態では、FBLCボリューム16の操作量に応じてGfmの値を変化させることにより、ファンダメンタルの信号Sfmと倍音の信号Sxmとのレベル差を変化させる構成とした。これに換えて、Gfmの値を固定値とし、FBLCボリューム16の操作量に応じてGxmの値を変更する構成としてもよい。あるいは、FBLCボリューム16の操作量に応じて、Gfmの値とGxmの値とを相互に(相対的に)変化させ、レベル差が変化するように構成してもよい。
【0113】
また、上記実施形態では、その他の処理(S9)の中で、読み込んだFBLCボリューム16の値をRAM13内に設けられた所定のバッファに記憶する処理を行う構成としたが、読み込んだFBLCボリューム16の値を所定のテーブルに基づいてGfmの値に変換し、その値をバッファに記憶させる構成としてよい。
【0114】
また、上記実施形態では、効果装置1に接続されてフィードバック演奏を行うための弦楽器として、電気ギター100を例示したが、電気ベースなど、他の弦楽器を採用してもよい。
【0115】
また、上記実施形態では、効果装置1を、ギターアンプ(スピーカ50)と別体で構成される形態を例示したが、効果装置1が、ギターアンプ又はその他のアンプに内蔵される形態であってもよい。あるいは、電気ギター100(弦楽器)に内蔵される形態であってもよい。
【符号の説明】
【0116】
1 効果装置
16 FBLCボリューム(パラメータ入力手段)
31 入力端子(入力手段)
32 出力端子(出力手段)
71 ピッチ検出部(ピッチ検出手段)
72 フィルタ制御部(設定手段)
76 レベル検出部(レベル検出手段)
77 レベル制御部(レベル制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弦楽器の弦の振動に基づく楽音信号が入力される入力手段と、
前記入力手段から入力された楽音信号を通過させるフィルタ手段と、
前記フィルタ手段から出力された楽音信号のピッチ、及び/又は、前記フィルタ手段に入力される楽音信号のピッチを検出するピッチ検出手段と、
前記ピッチ検出手段により検出されたピッチに応じて、前記フィルタ手段のパラメータを設定する設定手段と、
前記フィルタ手段から出力された楽音信号を外部に出力する出力手段と、を備えた効果装置において、
前記フィルタ手段から出力された楽音信号のレベル、及び/又は、前記フィルタ手段に入力される楽音信号のレベルを検出するレベル検出手段と、
前記出力手段から外部へ出力される楽音信号のレベルが、前記レベル検出手段により検出されたレベルに応じたレベルとなるように制御するレベル制御手段と、を備えている効果装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記フィルタ手段に対し、前記ピッチ検出手段により検出されたピッチが属する周波数帯域に応じたパラメータを設定する、請求項1記載の効果装置。
【請求項3】
前記フィルタ手段は、複数の前記フィルタ手段から構成され、
前記設定手段は、前記ピッチ検出手段により検出されたピッチが属する周波数帯域に応じて、前記複数のフィルタ手段のそれぞれに前記周波数帯域に応じた異なるパラメータを設定する、請求項2記載の効果装置。
【請求項4】
前記レベル制御手段は、
前記レベル検出手段により検出されたレベルが、所定レベル以下である場合には、前記フィルタ手段から出力された楽音信号のレベルを上げ、
前記所定レベルを超える場合には、前記フィルタ手段から出力された楽音信号のレベルを維持する、請求項1から3のいずれかに記載の効果装置。
【請求項5】
前記フィルタ手段は、バンドパスフィルタであり、
前記設定手段が設定するパラメータは、前記フィルタ手段の中心周波数、Q値、およびゲインである請求項1から4のいずれかに記載の効果装置。
【請求項6】
前記設定手段は、前記ピッチ検出手段により検出されたピッチが所定の低音域の周波数帯域に属する場合に、1つの前記フィルタ手段に対し、前記中心周波数を、前記ピッチ検出手段により検出されたピッチに基づく倍音の周波数に設定するとともに、前記Q値を、前記検出されたピッチに基づく楽音と、前記倍音とが選択的に通過される大きさに設定する、請求項5記載の効果装置。
【請求項7】
前記設定手段は、
前記ピッチ検出手段により検出されたピッチが所定の中音域の周波数帯域に属する場合に、
1つの前記フィルタ手段に対し、前記中心周波数を、前記ピッチ検出手段により検出されたピッチに基づく倍音の周波数に設定するとともに、前記ゲインを、所定の値に設定し、
前記1つのフィルタ手段とは別の1つの前記フィルタ手段に対し、前記中心周波数を、前記ピッチ検出手段により検出されたピッチに設定するとともに、前記ゲインを、前記所定の値より小さい値に設定する、請求項5又は6に記載の効果装置。
【請求項8】
前記設定手段は、
前記1つのフィルタ手段に設定するゲインと、前記別のフィルタ手段に設定するゲインとの相対的な差を任意に変更可能であることを特徴とする、請求項6記載の効果装置。
【請求項9】
前記設定手段は、
前記ピッチ検出手段により検出されたピッチが所定の高音域の周波数帯域に属する場合に、
1つの前記フィルタ手段に対し、前記中心周波数を、前記ピッチ検出手段により検出されたピッチに設定するとともに、前記Q値を、前記検出されたピッチに基づく楽音が選択的に通過される大きさに設定する、請求項5から8のいずれかに記載の効果装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate