説明

効率的な紅茶葉の製造方法

【課題】揉捻工程の時間短縮を短縮しつつも、CTC製法を用いることなく、オーソドックス製法で得られるような満足できる香味の紅茶葉製造方法を提供する。
【解決手段】せん断および摩擦による機械的処理によって、萎凋した茶葉から実質的に葉によじれのない状態の茶葉を得ることを特徴とする揉捻工程、ならびに発酵工程および乾燥工程を含む、実質的に葉によじれのない紅茶葉の製造方法、この方法によって得られる紅茶葉、ならびに、この紅茶葉を利用した飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断および摩擦による機械的処理を用いて揉捻工程を行うことを特徴とする実質的に葉によじれのない紅茶葉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅茶は、萎凋、揉捻、発酵および乾燥を含む方法によって製造される。
紅茶の製造方法は大きく分けて、伝統的な製法であるオーソドックス製法と、揉捻工程に特殊設計の機械を用いるCTC製法がある。両者の違いは主に揉捻工程にある。
【0003】
オーソドックス製法は、「揉捻機」を用いる。代表的揉捻機は鋳物の頑丈な支え台の上に、直径2メートル程度の円盤(揉盤という)があり、その上にわずかな間隔をあけて直径1.3メートル、高さ2メートルの円筒(揉胴という)が吊るしてある。この中に萎凋を終えてしおれた葉を入れ、揉盤の上で扁心的な円運動をさせる。揉盤の固定したシングルアクションと、クランクで揉盤も同時に円運動するダブルアクションの2種類がある。初期は蓋なしだったが、その後蓋にモーターをつけて上から圧力をかける方式に変わった。揉盤に突起(コーンという)や角のある掻きこみ形枠(ヒルという)があり、外にこぼれぬように縁取りと作業終了の掻き出し口がついている。萎凋葉を計量して揉胴の中に投入して始動すると、最初は茶葉が自然に固まり団子状になりやすい。ブロークンタイプのお茶を作るには蓋をさげて圧してヒルとコーンで切断、温度が上昇したら蓋を上げて、放熱する。1回当たり40〜60分間の時間を要する。次の工程の玉解き篩分けして、篩上を2回目の揉捻に供する。篩下は発酵工程に進める(非特許文献1)。
【0004】
一方、CTC製法はオーソドックス製法に対して、近年急激に普及発展してきた製法である。CTC製法は、クラッシュ(潰す)、ティア(ひき裂く)、カール(粒状に丸める)の略であり、1930年代にW.マック・カーチャーが考案した特殊設計の揉捻機械であり、この機械を使った製法をいう。2本のステンレス製の円筒形シリンダー(直径20センチメートル、長さ60センチメートル、90センチメートル、120センチメートルの3種)の表面に細かい刃が切ってあり、これを機械に組み込み動力で互いに内側に回転させ、1回揉捻した葉をそのわずかな隙間に食い込ませる構造になっている。2本のローラーの回転数を700回転/分と70回転/分と差をつけ、そのわずかな隙間を通過させることで、茶葉はクラッシュ、ティア、カールされ、CTC機3連のくり返し動作によって細かく破砕され、粒状に丸められていく(非特許文献1)。
【0005】
紅茶の製造とは関係ないが、電動式石臼機、粉砕機を用いた茶加工技術に関して、茶ペーストの製造方法(特許文献1)、茶の粉末製造(特許文献2)などがある。しかし、そのいずれも荒茶または製茶に対する加工法であり、荒茶の製造工程で利用されたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−174711号公報
【特許文献2】特開平11−151064号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】荒木安正および松田昌夫著、紅茶の辞典、2002年、柴田書店
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
オーソドックス製法における揉捻工程は、破砕を行わず、葉によじる、ひねるの操作を加えるものである。この製法においては、優れた香味の紅茶葉が得られるとされ、処理時間は、香味上の観点から、茶葉の量の多少にかかわらず70分から120分程度を要する。
【0009】
一方、CTC製法では、専用機を用いてローラーによりクラッシュ(潰す)、ティア(ひき裂く)、カール(粒状に丸める)の操作が行われ、短時間で揉捻が行われる。この製法は効率的であるが、得られた茶葉の破砕度が大きく、それから得られる紅茶抽出液の品質が満足できるものでなく、また、日本の茶生産家にとっては、初期投資コストが高いなどの点で導入は難しい。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、揉捻工程の時間を短縮し、CTC製法を用いることなく、オーソドックス製法で得られるような満足できる香味の紅茶葉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、驚くことに、揉捻工程において、揉捻機に代えてこれまで紅茶製造に用いられていない、せん断および摩擦による機械的処理がなされる粉砕装置、特に、間隔の調整が可能な上下二枚のグラインダーの一方を回転させる装置(例えば石臼機、電動式石臼機など)を使用することにより、揉捻工程時間が短縮される。また、この揉捻工程を用いて製造された紅茶葉から、豊潤な香りと余韻と厚みの感じられる香味の紅茶抽出液を得ることができた。このときの香味は、揉捻機を用いた従来の製造方法から得られた茶葉による抽出液より優れていた。本発明はこのような知見に基づいて完成された。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の特徴を包含する。
(1)せん断および摩擦による機械的処理によって、萎凋した茶葉から実質的に葉によじれのない状態の茶葉を得ることを特徴とする揉捻工程、ならびに発酵工程および乾燥工程を含む、実質的に葉によじれのない紅茶葉の製造方法。
(2)間隔の調整が可能な上下二枚のグラインダーの一方を回転させる装置を用いて、該グラインダーの間隔に、萎凋した茶葉を投入し、グラインダーによる圧縮、せん断および転がり摩擦によって、実質的に葉によじれのない状態の茶葉を得ることを特徴とする揉捻工程、ならびに発酵工程および乾燥工程を含む、実質的に葉によじれのない紅茶葉の製造方法。
(3)上記装置が石臼機であることを特徴とする、上記(2)の方法。
(4)上記石臼機が電動式石臼機である、上記(3)の方法。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかの方法によって得られる、かつ、実質的に葉によじれのない紅茶葉。
(6)上記(1)〜(4)のいずれかの方法によって紅茶葉を製造し、さらに該紅茶葉から豊潤な香りと余韻と厚みの感じられる紅茶抽出液を製造することを含む、紅茶抽出液の製造方法。
(7)上記(5)の紅茶葉より得られる豊潤な香りと余韻と厚みの感じられる紅茶抽出液。
(8)上記(5)の紅茶葉または上記(7)の紅茶抽出液を含む飲食品。
(9)上記(7)の紅茶抽出液を含む容器詰め紅茶飲料。
【0013】
本発明の紅茶葉の製造方法では、揉捻工程が葉をよじる操作を含まないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、揉捻時間がオーソドックス製法の場合の1/6〜1/4に短縮され、かつ、オーソドックス製法で得られる紅茶葉より香味の優れる紅茶葉を製造する方法が提供される。
【0015】
本発明の特徴である、せん断および摩擦による機械的処理、特に、石臼のような、上下二枚のグラインダーの一方を回転させる装置による処理は、葉がよじれない点で、オーソドックス製法の揉捻機による処理や、CTC製法による処理と異なる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
<紅茶葉の製造方法>
本発明の紅茶葉の製造方法は、カメリア(Camellia)属、例えばC.sinensis、C.assamicaまたはその雑種等から得られる生葉を萎凋し、揉捻工程にかけた後、発酵工程、乾燥工程を経て荒茶とし、その後、等級分けなどの仕上げ工程を含む。
【0018】
原料生葉は、大葉種や小葉種いずれでもよく、品種名、産地等は限定されずいずれを用いてもよい。
【0019】
以下に、萎凋工程、揉捻工程、発酵工程および乾燥工程について説明する。
【0020】
萎凋(いちょう)工程では、生葉を長時間(約10時間)かけて水分を約50%除去して萎らせる。本発明では、萎凋は任意の方法で実施しうる。
【0021】
揉捻(じゅうねん)工程では、萎凋した茶葉に揉捻機を使用して圧力をかけ、よじりながらよく揉む。そうすることによって茶葉の組織や細胞を破壊し、茶汁を絞り出す。揉捻工程は、CTC製法やオーソドックス製法などの一般的方法で行われている。
【0022】
本発明の紅茶葉の製造方法の揉捻工程では、CTC製法やオーソドックス製法などでの従来法の装置ではない、せん断および摩擦による機械的処理がなされる粉砕装置を用いる。すなわち、間隔の調整が可能な上下二枚のグラインダーの一方を回転させる装置や硬質のボールと共に回転させる装置を用いて実施することを特徴とする。
【0023】
具体的には、本発明による方法は、上下二枚のグラインダーの一方を回転させる装置を
用いた場合、該グラインダー間の隙間に、萎凋した茶葉を投入し、グラインダーによる圧縮、せん断および転がり摩擦によって、葉が破壊され葉が潰れた状態であるが実質的に葉によじれのない状態を得ることを特徴とする揉捻工程、ならびに発酵工程および乾燥工程を含む。
【0024】
硬質のボールと共に回転させる装置を用いた揉捻工程は、円筒形のポットに硬質のボールと共に萎凋した茶葉を投入し、ボールによるせん断および転がり摩擦によって、葉が破壊され葉が潰れた状態であるが実質的に葉によじれのない状態を得ることを特徴とする。
上記一連の工程によって得られた紅茶葉は、実質的に葉によじれがない。
【0025】
ここで、「実質的に葉によじれがない」とは、視覚的にごく僅かながら葉がよじれた茶葉を含んでいてもよいことを意味する。
【0026】
揉捻工程では、せん断力、圧縮および転がり摩擦によって、茶葉が小片に引きちぎれるように破壊され、小片が潰れ、茶汁が絞り出る。
【0027】
本発明による紅茶葉の製造方法の揉捻工程で使用される装置は、間隔の調整が可能な上下二枚のグラインダーの一方を回転させる装置の場合、好ましくは上側のグラインダーを固定し下側のグラインダーを回転させる装置であり、グラインダー間の隙間は、グラインダーによる圧縮、せん断および転がり摩擦によって、葉をよじらず、葉が小片に破壊され潰れたような状態の茶葉が得られるようなサイズである。
【0028】
グラインダーの材質は任意であり、例えば鉱物、金属、陶器、セラミックスなどであり、グラインダーの表面は、やすりの表面のような微細な凹凸を有する。
このような装置には、例えば石臼機、好ましくは電動式石臼機が含まれる。
【0029】
石臼機の種類は任意である。電動式石臼機としては例えばマスコロイダー(商品名;増幸産業製)など挙げられるが、これに限るものではない。マスコロイダーなどの装置を用いる場合、その大きさや容量は限定されず、処理する茶葉の量に見合うものを選択すればよい。
【0030】
処理条件としては、グラインダー(例えば、石臼)の間隙を示すクリアランスは1〜4mmが好ましく、さらに好ましくは1.5〜3mmである。また、グラインダー(例えば、石臼)の回転速度としては1,000〜5,000rpmが好ましく、より好ましくは1,500〜3,000rpmである。また、葉の処理回数は1〜5回が好ましく、より好ましくは2〜3回である。
【0031】
生葉を萎凋後、電動式石臼機等の装置に投入するにあたり、そのまま装置に投入してもよいが、生葉カッター等を用い適当な大きさに裁断してから投入してもよい。裁断後の生葉の大きさは限定されず任意である。裁断の目的は、生葉の体積を減らしグラインダー(例えば、石臼)の投入口に入れ易くすることである。なお、生葉カッターによる裁断は、時に緑茶製造で用いられることもあるが、得られる茶葉の香味の低下が懸念されるため揉捻機を用いた紅茶製造においては用いられていない。電動式石臼機等の装置の処理条件は生葉カッターの使用の有無により影響されない。
【0032】
発酵工程では、例えば室温(約25〜30℃)、湿度約80〜90%に維持された発酵室の発酵棚に茶葉を広げ、茶葉から出た酸化酵素によって酸化発酵を行う。酸化酵素は空気中の酸素に触れて活性化され、茶葉からの汁液に含まれるポリフェノール化合物、ペクチン、葉緑素などの成分が酸化発酵される。揉捻時間の長いオーソドックス製法では、前記揉捻工程中にも酸化発酵が進み発熱するため冷却が必要になり、揉捻と冷却を繰り返す間に茶葉の60〜70%が酸化発酵されてしまう。本発明では、揉捻時間がオーソドックス製法と比べて1/6〜1/4と短いため、このような問題は生じない。発酵方法は制限がなく任意の方法を使用しうる。
【0033】
乾燥工程は、例えば、約80〜90℃の温度の熱風で茶葉の水分を20%程度に荒乾燥したのち、さらに約75℃の温度で水分が約4%になるまで熱風乾燥する。発酵後の乾燥方法は制限がなく任意の方法を使用しうる。
【0034】
<紅茶葉>
本発明はさらに、上記の方法によって得られる、かつ、実質的に葉によじれのない紅茶葉を提供する。
【0035】
一方、オーソドックス製法でもCTC製法でも得られるものは葉が丸くよじれた紅茶葉になることから、本発明の紅茶葉は従来法によるものと形態的に異なる。
さらに、本発明の紅茶葉を用いて、葉に熱水を注ぎ、ストレーナーで固液分離し、冷却、pH調整および殺菌して得た紅茶抽出液は、タンニン値が、従来のオーソドックス製法によるものと同程度でありながら、従来のオーソドックス製法のものより香味が優れる。この香味は、それを飲む人に豊潤な香りや余韻、厚みを感じさせるものである。
【0036】
<紅茶抽出液の製造>
本発明はさらに、上記の方法によって紅茶葉を製造し、該紅茶葉から紅茶抽出液を製造することを含む、紅茶抽出液の製造方法を提供する。この方法の特徴は、紅茶抽出液の製造において、新しい揉捻工程を取り入れて製造された紅茶葉を使用することにある。
抽出方法は、攪拌抽出等の従来方法や今後開発されるいずれの方法でもよい。
【0037】
抽出溶媒は水であるが、抽出時に水に予めアスコルビン酸ナトリウム等の有機酸および/又は有機酸塩を添加してもよい。紅茶抽出液は、水を用いて通常の抽出条件で製造される場合、紅茶葉から抽出する時の水の温度は、50〜100℃が好ましく、更に好ましくは70〜100℃である。紅茶葉からの抽出時の水の量は、紅茶葉に対して5〜60重量倍が好ましく、更に好ましくは5〜40重量倍である。抽出時間は1〜60分が好ましく、より好ましくは1〜40分、更に好ましくは1〜30分である。
【0038】
抽出後、ろ過、遠心分離などの固液分離装置を用いて抽出液を回収し、必要に応じて殺菌処理を行う。
【0039】
さらに、上記のようにして製造された紅茶抽出液を濃縮処理して紅茶濃縮液または紅茶エキス、乾燥して紅茶パウダーを作ってもよい。
【0040】
本明細書において、「紅茶抽出液」は、特に断らない限り、上記の紅茶抽出液、その紅茶濃縮液(紅茶エキス)、紅茶パウダーを溶解した溶液の少なくとも1種あるいは2種以上を混合したものをいう。
【0041】
上記のようにして得られた紅茶抽出液もまた本発明の範囲に包含される。本発明の紅茶抽出液は、上記のとおり、タンニン値は、従来のオーソドックス製法によるものと同程度であり、香味は従来のオーソドックス製法のものより優れ、それを飲む人に豊潤な香りや余韻、厚みを感じさせる。
【0042】
<飲食品>
本発明はさらに、上記の方法で製造された紅茶葉や紅茶抽出液を含む飲食品を提供する。
【0043】
飲食品は、以下のものに限定されないが、例えばシホンケーキやクッキーなどの菓子類、紅茶豚、ジャムなどの調理品、パン類などを含む。
【0044】
あるいは、本発明の紅茶葉からなる紅茶の他に、本発明の紅茶葉にスパイスや食品用フレーバー(果物のフレーバー、リーフフレーバーなど)を混ぜて得られる紅茶、本発明の紅茶葉と別の紅茶葉をブレンドした紅茶、なども本発明の飲食品に含まれる。
【0045】
<容器詰め紅茶飲料>
本発明はさらに、上記の紅茶抽出液を含む容器詰め紅茶飲料を提供する。
紅茶抽出液には任意の添加物を添加して容器詰め飲料とすることができる。添加物には、例えば牛乳、ミネラル、ビタミン類、甘味料(糖類、糖アルコール、人工甘味料など)、安定化剤、酸化防止剤、退色防止剤、pH調整剤、フレーバーなどが含まれる。添加物の種類は、1種または2種以上の物質からなってよい。
【0046】
配合して得られた飲料を、金属缶、PETボトル、紙容器のような容器に充填する。内容物の殺菌は、容器の材質に応じて、充填前かまたは充填後に行うことができる。
【0047】
金属缶のように充填後に加熱殺菌できる場合にあっては、食品衛生法に定められた殺菌条件で殺菌処理を行う。一方、PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、充填前に該飲料を、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌(UHT殺菌)した後、一定の温度まで冷却し、殺菌済み容器に充填する等の方法が採用される。
【0048】
<タンニン量による紅茶葉、紅茶抽出液または容器詰め紅茶飲料の評価>
茶類のポリフェノール量を評価する際の基準である酒石酸鉄法(中林敏郎他著「緑茶・紅茶・烏龍茶の化学と機能」弘学出版、137ページ参照)を用いて、タンニン量を測定することができる。すなわち、液中のポリフェノールと酒石酸鉄試薬を反応させて生じた紫色成分の吸光度(540nm)を測定し、没食子酸エチルを標準物質として作成した検量線を用いて定量できる。最終的に定量値を1.5倍したものを「タンニン量」とする。タンニンは苦みまたは渋味を示し、茶の葉を用いる嗜好品の中では、その味覚を決める重要な物質とされる。したがって、茶葉と抽出溶媒の比を一定としたときに得られるタンニン量(抽出効率)が紅茶飲料の味覚設計上非常に重要な意味をもつ。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例によって制限されないものとする。
【0050】
(本発明による紅茶葉の製造;方法)
萎凋された5.5〜7.5kgの国産茶葉をマスコロイダー(増幸産業製、MKZA12−20J、グラインダーはMKB−C 24#を装着)に投入し、葉が破壊され、葉が潰れた状態であるが、実質的に葉によじれのない状態に粉砕した。処理条件は、クリアランス;2.0mm、回転速度;1,650rpm、処理回数;1〜2回で、総処理時間は8〜15分間だった。その後、室温で2〜4時間発酵させ、熱風によって乾燥を行い、紅茶葉とした(実施例1〜3)。
【0051】
(従来のオーソドックス製法による紅茶葉の製造;方法)
萎凋された59kgの国産茶葉を揉捻機(寺田製作所製、J−120型)に投入後、90分間揉捻処理し、2時間室温で発酵させた。その後、熱風によって乾燥を行い、紅茶葉とした(比較例1)。
【0052】
紅茶葉の製造条件を表1に示した。
【表1】

【0053】
表1で示したそれぞれの茶葉20gに対して85℃熱水を600g加え、時々攪拌しながら、5分間抽出した。ストレーナーで茶葉を固液分離したのちに、液温が10℃になるまで冷却した後、3000rpm、10分間の遠心分離処理を行い、再度ストレーナーを通し、水を加えて600gとして清澄な抽出液を得た。この抽出液300gに、アスコルビン酸、重曹を用いてpHを約6.2に調整し、水にて1000gにメスアップし、調合液とした。この調合液を90℃になるまで昇温したのち、金属缶に190gずつ充填して窒素を吹き込みながら缶蓋を巻き締めした。これを121℃5分間のレトルト殺菌処理をして、容器詰め紅茶飲料を調製した。1週間常温に置いた後に、官能評価を行った。
【0054】
(結果)
揉捻工程にマスコロイダーを用いて製造した紅茶葉はオーソドックス製法によるものと比較して大きさが小さく、また、よじれがなかった。
【0055】
官能評価用サンプルのタンニン量を表2に示した。
【表2】

【0056】
表2に示すとおり、実施例1〜3は比較例1と比較してタンニン量には大きな差異はなく、外観(水色等)も同等であった。また、熟練したパネリストによる官能評価の結果、比較例1に比べて実施例1〜3は紅茶らしい豊潤な香りや余韻、厚みなどが感じられ、香味的に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、紅茶葉の製造において、揉捻時間を従来のオーソドックス製法と比べて1/6〜1/4に短縮し、かつ、オーソドックス製法で得られる紅茶葉よりも優れた香味を有する紅茶葉を製造する方法を提供することから、品質のよい紅茶葉をオーソドックス製法より短い時間で製造可能にするものであり、食品産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
せん断および摩擦による機械的処理によって、萎凋した茶葉から実質的に葉によじれのない状態の茶葉を得ることを特徴とする揉捻工程、ならびに発酵工程および乾燥工程を含む、実質的に葉によじれのない紅茶葉の製造方法。
【請求項2】
間隔の調整が可能な上下二枚のグラインダーの一方を回転させる装置を用いて、該グラインダーの間隔に、萎凋した茶葉を投入し、グラインダーによる圧縮、せん断および転がり摩擦によって、実質的に葉によじれのない状態の茶葉を得ることを特徴とする揉捻工程、ならびに発酵工程および乾燥工程を含む、実質的に葉によじれのない紅茶葉の製造方法。
【請求項3】
前記装置が石臼機であることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記石臼機が電動式石臼機である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法によって得られる、かつ、実質的に葉によじれのない紅茶葉。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法によって紅茶葉を製造し、さらに該紅茶葉から紅茶抽出液を製造することを含む、豊潤な香りと余韻と厚みの感じられる香味的に優れる紅茶抽出液の製造方法。
【請求項7】
請求項5記載の紅茶葉より得られる豊潤な香りと余韻と厚みの感じられる香味的に優れる紅茶抽出液。
【請求項8】
請求項5記載の紅茶葉または請求項7記載の紅茶抽出液を含む飲食品。
【請求項9】
請求項7記載の紅茶抽出液を含む容器詰め紅茶飲料。