説明

動作異常検出装置、動作異常検出方法

【課題】設備機器が動作中に発する種々の物理量を収集、解析することにより設備機器の異常発生の予兆を検出する。
【解決手段】設備機器が動作する際に付随して生じる物理現象の特性を定量的に表す複数の機器動作物理情報を収集する機器動作物理情報収集部と、前記複数の前記機器動作物理情報について、多変量解析手法により外れ値検出処理を反復して実行する外れ値検出部と、検出された外れ値の個数が所定のパターンで増加していることを検出した場合に前記外れ値検出部が外れ値検出処理に適用している閾値を、機器動作異常を検出するための閾値である異常判別閾値として設定する異常判別閾値設定部と、前記設定された前記閾値を用いて前記機器動作物理情報について外れ値判別処理を実行する異常判別実行部と、前記設備機器の動作異常を表す前記機器動作物理情報の外れ値が検出された場合に、動作異常検出情報を出力する判別結果処理部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、設備機器が動作しているときに発生する異常を検出するための動作異常検出装置、動作異常検出方法に係わり、特に、設備機器が動作中に発する種々の物理量を収集し、これを解析することにより設備機器に関する異常発生の予兆を検出することを可能とする動作異常検出装置、動作異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気事業者が設置し運用している発変電設備に設けられる設備機器類は、高品質の電力を安定的に、継続的に供給する必要から、高度な可用性が要求される。このような設備機器には、火力発電所の蒸気タービン装置、ガスタービン装置、及び発電機、水力発電所の水車及び発電機、発変電所に設置される変圧器、各種開閉器など、多様なものが含まれる。
【0003】
これらの設備機器について前記の高度な可用性を保証するために、各設備機器が動作中に発する様々な物理量を収集し、それを分析して設備機器の異常を早期に発見する保守管理が広く実施されており、また異常の予兆段階での検出や、より高精度の異常検出などを目指して種々の異常検出手法が研究されている。前記物理量には、例えば動作中の設備機器が発する音響、振動、各部位の温度などが含まれる。
【0004】
設備機器の異常を検出するには、古典的には熟練者の五感による官能検査が実施されてきたが、近年統計的なデータ解析手法の進展により、前記音響等の物理量を収集してこれを解析することにより異常の早期検出を実現する種々の手法が提案されている。
【0005】
具体的には、設備機器が正常に動作しているときの物理量と、異常時の物理量とをあらかじめデータとして取得しておき、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン等によるパターンマッチング技法を採用した解析メカニズム(具体的には数値処理ソフトウェア)に入力して正常時データと異常時データとを判別するための閾値を生成させる。そして、以後は設備機器動作時に採取される物理量データを適時に解析メカニズムに入力して閾値と比較することにより、設備機器に異常が生じているかどうかを判定することができる。
【0006】
このようなパターンマッチング技法を導入した異常検出手法は、例えば特許文献1、特許文献2に開示されている。特許文献1は、機械装置の正常運転時データから異常予兆を検出する方法および装置に関し、正常運転状態にある被検出装置について複数のセンサ11で測定された複数の正常状態のセンサ情報を1クラスサポートベクターマシンで演算して例外的なセンサ情報の組合せを例外状態抽出装置13で抽出して例外的なセンサ情報の組合せパターンから異常予兆を検出する構成を備える。これにより、正常運転時のデータのみから通常とは異なる例外的な状況を発見することができる効果を奏するとしている。
【0007】
また、特許文献2は、プラントや設備などの異常を早期に検知する方法に関し、(1)時間的なデータの振舞いに着目し、時間を追って軌跡をクラスタに分割する、(2)分割したクラスタ群に対して、部分空間でモデルし、はずれ値を異常候補として算出する。(3)学習データをリファレンスとして活用(比較・参照など)し、経時変化、環境変動、保守(部品交換)、稼動状態による状態遷移を把握する。(4)モデル化は、データのN個抜き(N=0,1,2,・・・)の回帰分析法や投影距離法等の部分空間法(例えばN=1の場合は、異常データが1個混入していると考え、これを除いてモデル化する)、或いは局所部分空間法によるものとする。さらに、(5)部分空間法など、複数の識別器の出力を統合して。異常判断を行う。これにより、学習データが完全でなくとも、異常の混入を許容でき、プラントなどの設備において異常の早期・高精度な発見を可能とするとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−345154号公報
【特許文献2】特開2010−92355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のように、特許文献1、特許文献2の構成によっては、設備機器の正常時のデータを収集して解析することにより、正常時データの中で多数を占めるデータ群から外れたデータ群として区別される外れ値を検出して、これを設備機器の動作異常検出に利用することができる。
しかし、特許文献1、特許文献2の構成では、前記外れ値の中から真に異常状態を反映しているデータ(以下「異常値」)を特定して抽出することができないため、設備機器の異常の予兆を確実に補足することが困難であるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記の及び他の課題を解決するためになされたもので、設備機器が動作中に発する種々の物理量を収集し、これを解析することにより設備機器に関する異常発生の予兆を検出することを可能とする動作異常検出装置、動作異常検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために本発明の一態様は、設備機器に発生する異常を検知するための動作異常検出装置であって、前記設備機器が動作する際に付随して生じる物理現象の特性を定量的に表す情報である機器動作物理情報を収集する機器動作物理情報収集部と、前記機器動作物理情報収集部から取得した複数の前記機器動作物理情報について、多変量解析手法により決定した閾値を用いて外れ値検出処理を反復して実行する外れ値検出部と、前記外れ値検出部によって検出される外れ値の個数が所定のパターンで増加していることを検出した場合に前記外れ値検出部が外れ値検出処理に適用している前記閾値を、機器動作異常を検出するための閾値である異常判別閾値として設定する異常判別閾値設定部と、前記異常判定閾値設定部によって設定された前記異常判別閾値を用いて前記機器動作物理情報について外れ値判別処理を実行する異常判別実行部と、前記異常判別実行部により前記設備機器の動作異常を表す前記機器動作物理情報の外れ値が検出された場合に、動作異常検出情報を出力する判別結果処理部とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る動作異常検出装置によれば、設備機器が動作中に発する種々の物理量を収集し、これを解析することにより設備機器に関する異常発生の予兆を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る動作異常検出装置による異常検出系統の模式図である。
【図2】動作異常検出装置500として使用することができるコンピュータ10の構成例である。
【図3】動作異常検出装置500のソフトウェア構成の一例を示す図である。
【図4】収集した音響データの解析プロセスを示す模式図である。
【図5】収集したデータから外れ値を判別する原理を示す模式図である。
【図6】外れ値検出結果テーブル540の一例を示す図である。
【図7】動作異常検出装置500によって実行される異常検出処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその一実施形態に即して添付図面を参照しつつ説明する。
【0015】
《動作異常検出系統の構成》
本発明の一実施形態に係る動作異常検出装置による異常検出系統の一例を、図1に模式的に示している。図1の例は、例えば火力発電所に設置されているタービン装置内で駆動されるロータを回転可能に軸支している回転シャフトの動作状態を、この回転シャフトが回転駆動されているときに発生する音をデータとして収集することにより異常を発見しようとするものである。
なお、異常検出の対象となる設備機器は、もちろんタービン装置に限られない。前記のように、発電機、水力発電所の水車、発変電所に設置される変圧器、各種開閉器など、多種の設備機器が異常検出の対象となりうる。
【0016】
図1の例では、具体的には、火力発電所において、蒸気タービン装置100と発電機200とが回転シャフト120によって連結されており、蒸気タービン装置100内で図外のボイラから供給される高圧蒸気によって内部のロータ110A、110Bが回転駆動され、その駆動力が回転シャフト120によって発電機200内のロータを回転駆動している。回転シャフト120は適宜の位置で軸受(図示省略)により回転可能に支持されている。
【0017】
図1では、あらかじめ選定した位置で回転シャフト120が回転動作する際に発生する動作音を機器動作物理情報として収集する集音装置300(機器動作物理情報収集部)が設置される。集音装置300は、例えば回転シャフトの動作音を電気信号に変換して出力するマイクとマイクの出力電気信号をデジタル信号に変換して動作異常検出装置500へ送信する信号変換送信部とを備えている。
【0018】
集音装置300と動作異常検出装置500とは、通信回線400によって接続されている。通信回線400は、例えば適宜の通信プロトコルを採用する通信ネットワークの一部によって構成することができ、また集音装置300と動作異常検出装置500との間の専用通信線として構成してもよい。また通信回線400は適宜の態様の無線通信によって構成してもよい。また、マイク出力のアナログ電気信号をそのまま動作異常検出装置500へ送信し、動作異常検出装置500でデジタル信号に変換する構成を採用してもよい。
【0019】
《動作異常検出装置500》
次に、動作異常検出装置500の構成について説明する。図2に、本実施形態における動作異常検出装置500として適用することができるコンピュータ10の構成例を示している。
【0020】
コンピュータ10は、中央処理装置11(例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)、以下簡単のため「CPU」と称する)、主記憶装置12(例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory))、補助記憶装置13(例えばハードディスクドライブ(Hard Disk Drive、HDD))、ユーザの操作入力を受け付ける入力装置14(例えばキーボードやマウス)、出力装置15(例えば液晶モニタ)、他の装置との間の通信を実現する通信インターフェイス16(例えばNIC(Network Interface Card))を備えている。
【0021】
コンピュータ10で稼働するオペレーティングシステム(Operating System、 OS)は特に特定のシステムに限定されることはない。例えばWindows(登録商標)、UNIX(登録商標)系のオペレーティングシステム、例えばLinux(登録商標)がこのOSとして好適に用いられる。
【0022】
次に、動作異常検出装置500のソフトウェア構成について説明する。図3に、動作異常検出装置500のソフトウェア構成の一例を示している。動作異常検出装置500は、データI/O部510、OS520、及び異常検出処理部530を備えている。データI/O部510は、OS520の配下で、集音装置300からの音響データ入力、入力装置14からのデータ入力等を受付けて異常検出処理部530へ引き渡す入力データ処理と、異常検出処理部530からの出力データを出力装置15等へ引き渡す出力データ処理とを実行する。また、動作異常検出装置500には、異常検出処理部530が使用する外れ値検出結果テーブル540が設定されている。
【0023】
OS520は、データI/O部510によるデータ入出力処理、及び異常検出処理部530の動作のための基盤を提供する基本ソフトウェアである。OS520として、前記コンピュータ10で稼働するのと同様のソフトウェアを採用することができる。
【0024】
異常検出処理部530は、本実施形態により実行されるタービン装置100の異常有無判定を、集音装置300からの動作音データを解析することにより実現する機能を有する。異常検出処理部530は、補助記憶装置13に記憶されている、これを実現するプログラムをCPU11が読み出して実行することにより実現する機能ブロックである。
【0025】
異常検出処理部530はさらに、特徴抽出部5310、外れ値検出部5320、異常判別閾値設定部5330、異常判別実行部5340、及び判別結果処理部5350の各機能ブロックを備えて構成されている。
【0026】
特徴抽出部5310は、集音装置300から入力された動作音データを、後述する周波数変動パターンマッチング処理の前処理として、複数の周波数帯域に分割する処理を実行する機能ブロックである。図4に、本実施形態の動作異常検出装置500における動作音データの周波数帯域分割処理を模式的に示している。帯域分割処理は、離散ウェーブレット変換を用いて、0〜25kHzの範囲で採取されている原動作音データを、10の周波数帯域(0.02〜0.03kHz、0.03〜0.05kHz、0.05〜0.2kHz、0.2〜0.39kHz、0.39〜0.78kHz、0.78〜1.56kHz、1.56〜3.13kHz、3.13〜6.25kHz、6.25〜12.5kHz、及び12.5〜25kHzの10の周波数帯域)に分割している。図4の例では、0.02〜0.03kHz(20〜30Hz)の低周波数帯域における周波数変動を採取するために、動作音採取の時間長として約50msをとっている。発電機用タービン装置の場合、電源周波数60Hzでは2極発電機に対してのタービン回転数は3600rpmとなるため、タービン軸一回転についての動作音を採取する場合には、最低約16.7msあれば十分である。
【0027】
前記の周波数変動パターンマッチング処理は、後述するように各周波数帯域について実行される。なお、周波数帯域の分割数は10に特定されるものではなく、また各帯域の周波数境界値も任意に決定することができる。
【0028】
外れ値検出部5320は、特徴抽出部5310において帯域分割された各周波数帯域について、採取した複数の動作音データ群の中で、正常値と考えられるデータと異常値と考えられるデータとを判別し、異常値としての外れ値を抽出する処理を実行する。
【0029】
外れ値検出部5320では、特徴抽出部5310で生成された各周波数帯域について、1000個のサンプルデータを採用し、複数の動作音データ群の中から異常値としての外れ値を検出している。図5に、動作音データに対する外れ値抽出処理の概念図を示している。本実施形態では、外れ値の抽出処理を、多変量解析手法の一法である1クラスν−サポートベクターマシンを用いて実行している。本実施形態では、外れ値の割合を示すνを一例として10%とした。1クラスν−サポートベクターマシン自体は公知の演算方法であり、例えば、赤穂昭太郎著、「カーネル多変量解析」、岩波書店、2008年11月、p.4-10、p.86-105、p.106-112に詳しいので、ここでは以下に簡単に説明する。
【0030】
特徴ベクトルとパラメータの内積からなる関数
【数1】

をとると、外れ値を判別しようとする対象サンプルは、f(x(1)),...,f(x(n))のように1次元のデータとなる。これらのデータを、正の閾値ρによって分類する。ρ≦f(x(i))となるデータは正常値と、ρ<f(x(i))となるデータは外れ値と判定する。
ここで、適切な閾値ρを設定するために、次の損失関数を作成する。
【数2】

この損失関数により定まる損失を抑えながら閾値ρを大とする基準を考えると、サンプルデータ中の外れ値を判別する処理を、以下の最適化問題を解くことに帰着させることができる。
【数3】

概略以上の操作によって、図5に示す外れ値を判別するための識別関数f(x)を求めることができる。
【0031】
図3を参照して、再び動作異常検出装置500のソフトウェア構成の説明に戻る。異常判別閾値設定部5330は、外れ値検出部5320によって、動作音データの正常値と外れ値とを判別するための閾値として算出された識別関数f(x)を他の動作音データ群(同一のタイミングで採取された他の周波数帯域のデータ、あるいは異なるタイミングで採取された動作音データ群をいう。)に適用することができるように、異常判別閾値として設定する機能を有する。
【0032】
異常判別実行部5340は、異常判別閾値設定部5330で設定された閾値としての識別関数f(x)を用いて、実際に特徴抽出部5310で離散ウェーブレット変換によって周波数帯域分割された動作音データに関して、外れ値を動作音データ中の異常値として判別抽出する処理を実行する。
【0033】
判別結果処理部5350は、異常判別実行部5340での判別実行結果を受信し、異常値が検出された事象、及び異常値検出時刻、検出頻度などのデータを算出し、動作異常検出装置500の出力装置15などに送信する処理を実行する。
【0034】
次に、外れ値検出結果テーブル540について説明する。図6に、外れ値検出結果テーブル540の一例を示している。この外れ値検出結果テーブル540は、周波数帯域分割された各動作音データについて前記設定した識別関数f(x)によって外れ値検出を行った結果を累積的に記録しておくテーブルである。
【0035】
図6に示すように、外れ値検出結果テーブル540には、判別回数541と、周波数帯域毎の外れ値検出数542とが記録される。判別回数541は、識別関数f(x)によって外れ値の判別処理を行った回数を、1からの連続番号で記憶している。外れ値検出数542は、各周波数帯域において、外れ値の判別処理を実行した結果、それぞれいくつの外れ値が検出されたかを、外れ値の検出個数によって記録している。図6の例では、0.03〜0.05kHzの周波数帯域において、判別処理を実行する毎に、検出される外れ値の個数が、2→5→10と単調増加している。この場合、測定対象には前記の0.03〜0.05kHzの周波数帯域において特徴的に現れるなんらかの不調が生じている、すなわちなんらかの異常の予兆が現れていると判定することができる。
【0036】
《動作異常検出処理フローの説明》
次に、以上の構成によって実現される動作異常検出装置500の処理について説明する。図7に、動作異常検出装置500によって実行される処理フローの一例を示している。なお、図7において、各処理ステップに付した符号の「S」の文字は、「Step」を表している。
【0037】
まず、異常検出処理部530の特徴抽出部5310は、集音装置300によって採取され、送信されてくる動作音データを取得し、離散ウェーブレット変換により複数の周波数帯域に分割する処理を行う(S601、S602)。次いで異常検出処理部530の異常判別閾値設定部5330は、S602で分割されて生成された複数の周波数帯域データから一の周波数帯域データを選択し(S603)、その選択した周波数帯域データについて閾値が設定済みか判定し(S604)、設定されていないと判定した場合(S604、No)、処理を外れ値検出部5320に移行させ、外れ値検出処理を実行し(S605)、外れ値検出数を外れ値検出結果テーブル540に記録した後(S606)、処理を異常判別閾値設定部5330に移行させる。異常判別閾値設定部5330は、外れ値検出部5320が外れ値検出に適用した識別関数f(x)を閾値として仮設定する(S607)。その後、異常判別閾値設定部5330は処理をS623に移行させて、他に処理すべき周波数帯域があるかを調べる。全周波数帯域について処理が完了していないと判定した場合は(S623、No)、他の周波数帯域を選択して(S603)、S604以降の処理を行う。全周波数帯域について処理が完了していると判定した場合は(S623、Yes)、処理を特徴抽出部5310に移行させ、次の動作音データの取り込みを行い(S624)、次の動作音データ群について、異常検出処理を続行する。
【0038】
一方、閾値が設定されていると判定した場合(S604、Yes)、その閾値が本設定された閾値であるか判定し(S608)、本設定でないと判定した場合は(S608、No)、処理を異常判別実行部5340に移行させ、仮設定の閾値により、外れ値を検出し(S609)、外れ値の検出数を前記の外れ値検出結果テーブル540に累積的に記憶させる(S610)。
【0039】
次いで、外れ値を検出した判別回数が規定数に達しているか判定し(S611)、達していないと判定した場合(S611、No)、異常判別閾値設定部5330に処理を移行させて、他に処理すべき周波数帯域があるかを調べる(S623)。
【0040】
判別回数が規定数以上に達していると判定した場合(S611、YES)は、外れ値が増加傾向であるか判定し(S612)、増加傾向にあると判定した場合は(S612、YES)、異常判別実行部5340は、異常判別閾値設定部5330に処理を移行させて、S607で異常判別閾値設定部5330が閾値として仮設定した識別関数f(x)を、以後の動作異常判別処理のために本使用する閾値として設定する処理を行った後(S616)、他に処理すべき周波数帯域があるかを調べる(S623)。
【0041】
検出された外れ値が増加傾向にないと判定した場合(S612、No)は、抽出した外れ値を母集団から除外する(S613)。更に仮設定の閾値を削除し(S614)、外れ値検出結果テーブル540に記憶されている今回までの判別結果も全て削除する(S615)。その後、外れ値検出部5320に処理を移し、再び外れ値検出処理を行い(S605)、新たな閾値を仮設定する(S607)。
【0042】
外れ値が動作音の異常、すなわちタービン軸軸受部の摩耗等による動作異常の兆候を示す異常値であるとすれば、通常は動作を継続するに従って外れ値の数が増加するものと考えられる。この仮定に基づいて、本実施形態では、外れ値検出数の増加が見られなかった場合にはその外れ値が設備機器の異常に起因するものではないと判定して、以後の外れ値検出の対象から除外するようにしているものである。
【0043】
一方、閾値が本設定された閾値であると判定した場合(S608、Yes)、異常判別閾値設定部5330は処理を異常判別実行部5340に移行させ、本設定された閾値により外れ値を検出し(S617)、外れ値検出数を外れ値検出結果テーブル540に累積的に記憶させる(S618)。
【0044】
次に、異常判別実行部5340は判別結果処理部5350に処理を移行させ、外れ値検出結果テーブル540のデータをもとに外れ値の増加傾向を詳細に把握し(S619)、機器の運転状態等のデータなどを参考にして機器の劣化状況を評価する(S620)。その結果、外れ値の増加率が所定基準値を超えたなど、所定の条件を満たす増加傾向が見られるようなったと判定した場合(S621、Yes)、判別結果処理部5350は、設備機器の異常予兆を検知したものとして、データI/O部510を介して出力装置15へ判別結果を送信する(S622)。その後、処理をS623に移行させて、他に処理すべき周波数帯域があるかを調べる。S621で所定の増加傾向が見られなかった場合も同様である(S621、No)。
【0045】
図7の異常検出処理フローは、例えば本実施例で監視対象であるタービン装置が起動後、稼働中は継続して実行することにより、タービン装置稼働中の動作異常の兆候を継続して監視し、発見することができる。
【0046】
以上図7を参照して説明した異常検出処理フローによれば、本実施形態において動作音の監視対象となるタービン装置について、異常検出用の教示データを収集することなく動作音の外れ値に基づく動作異常の兆候を検知することができる。さらに、検出された外れ値から動作異常と関連性が低いと考えられるものは動作異常の兆候を示す指標として使用することなく除外されるので、動作異常後検出を低減させることで動作異常検出の精度を向上させることができる。
【0047】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 コンピュータ 11 中央処理装置
12 主記憶装置 13 補助記憶装置
14 入力装置 15 出力装置
16 通信インターフェイス 100 蒸気タービン装置
110A、110B ロータ
120 回転シャフト 200 発電機
300 集音装置 400 通信回線
500 動作異常検出装置 510 データI/O部
520 OS 530 異常検出処理部
540 外れ値結果検出テーブル 5310 特徴抽出部
5320 外れ値検出部 5330 異常判別閾値設定部
5340 異常判別実行部 5350 判別結果処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備機器に発生する異常を検知するための動作異常検出装置であって、
前記設備機器が動作する際に付随して生じる物理現象の特性を定量的に表す情報である機器動作物理情報を収集する機器動作物理情報収集部と、
前記機器動作物理情報収集部から取得した複数の前記機器動作物理情報について、多変量解析手法により決定した閾値を用いて外れ値検出処理を反復して実行する外れ値検出部と、
前記外れ値検出部によって検出される外れ値の個数が所定のパターンで増加していることを検出した場合に前記外れ値検出部が外れ値検出処理に適用している前記閾値を、機器動作異常を検出するための閾値である異常判別閾値として設定する異常判別閾値設定部と、
前記異常判定閾値設定部によって設定された前記異常判別閾値を用いて前記機器動作物理情報について外れ値判別処理を実行する異常判別実行部と、
前記異常判別実行部により前記設備機器の動作異常を表す前記機器動作物理情報の外れ値が検出された場合に、動作異常検出情報を出力する判別結果処理部と、
を備えていることを特徴とする動作異常検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動作異常検出装置であって、
前記機器動作物理情報は、前記設備機器が発生する音響又は振動の周波数特性データであることを特徴とする動作異常検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の動作異常検出装置であって、
収集された前記機器動作物理情報としての前記周波数特性データを、離散ウェーブレット変換処理によって複数の周波数帯域に分割し、各周波数帯域について前記外れ値検出処理を実行する
ことを特徴とする動作異常検出装置。
【請求項4】
請求項1に記載の動作異常検出装置であって、
前記多変量解析手法が1クラス−νサポートベクターマシンである、
ことを特徴とする動作異常検出装置。
【請求項5】
設備機器に発生する異常を検知するための動作異常検出方法であって、
プロセッサ及びメモリを備えたコンピュータに、
前記設備機器が動作する際に付随して生じる物理現象の特性を定量的に表す情報である機器動作物理情報を収集する処理と、
前記機器動作物理情報収集部から取得した複数の前記機器動作物理情報について、多変量解析手法により決定した閾値を用いて外れ値検出処理を反復して実行する処理と、
前記外れ値検出部によって検出される外れ値の個数が所定のパターンで増加していることを検出した場合に前記外れ値検出部が外れ値検出処理に適用している閾値を、機器動作異常を検出するための閾値である異常判別閾値として設定する処理と、
前記異常判定閾値設定部によって設定された前記異常判別閾値を用いて前記機器動作物理情報について外れ値判別処理を実行する処理と、
前記異常判別実行部により前記設備機器の動作異常を表す前記機器動作物理情報の外れ値が検出された場合に、動作異常検出情報を出力する処理と、
を実行させることを特徴とする動作異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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