説明

動力伝達ベルトおよびベルト用のポリウレア−ウレタン心線処理

心線を含浸させて繊維を被覆しているポリウレア−ウレタン接着剤組成物であるエラストマー体に埋設された抗張心線を備えたベルトである。その組成物は、ポリウレタンプレポリマーとジアミンの硬化剤または水硬化による反応生成物である。プレポリマーは、緻密な対称性のジイソシアネートと、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネートポリオールのうちいずれかとの反応生成物である。ベルト本体は、注型ポリウレタン、加硫ゴムまたは熱可塑性エラストマーであってもよい。心線は、接着性の被覆を備えていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、動力伝達ベルト用の抗張心線を処理する方法と、その処理と、その心線およびその結果により得られるベルトに関し、特に、ポリウレア−ウレタン処理された炭素繊維補強材、具体的には湿気硬化型ポリウレア−ウレタン組成物を含浸させた炭素繊維の心線に関する。
【背景技術】
【0002】
ナットソン(Knutson)等の米国特許第5,807,194号明細書は、これによりその内容の全体がここに組み込まれ、注型ウレタンベルト材料のベルト本体と、その本体に形成されたベルト歯と、ベルト歯の周面に配設された耐摩耗性布補強材と、ベルト本体に埋め込まれた螺旋状に形成した心線と炭素繊維のヤーンから成る抗張部材を有し、心線の繊維間に間隙を有し、ベルトが成型される際にベルト材が心線の間隙の少なくとも一部に浸透し、心線の間隙が心線体積1mm当たり最低約0.21mgのベルト材を含むような同期動力伝達ベルトを開示する。ポリウレタンエラストマーの心線への浸透は、優れた物理的接着をもたらし得る。しかしながら、硬化状態のウレタンは高弾性率のベルト材料であるため、心線の間隙に浸透する時、ある特定の心線材を受け入れなくする場合がある。過度に浸透させた心線が、容認し難いほどの高い曲げ弾性率であるため、浸透するウレタンは、心線に含まれるフィラメントに過度の張力を伝達するので、フィラメントに許容しがたい破断が起こり、結果的に心線を破損する。注型ポリウレタン材料は、粘度が高く心線に十分に含浸させることが難しい場合が多い。不十分な含浸に由来する問題としては、心線のほつれ、疲労寿命の低下などがある。
【0003】
パターソン(Patterson)等の米国特許第5,231,159号明細書は、これによりその内容の全体がここに組み込まれ、ベルトに有用な注型またはRIMのポリウレタン組成物について記載している。ポリウレタンは、イソシアネート末端(好ましくはポリエーテル末端)プレポリマー、アミン末端またはヒドロキシ末端のポリオール、並びにポリアミンまたはポリオールの鎖延長剤の反応生成物に基づいている。
【0004】
ウー(Wu)等の米国特許第6,964,626号明細書は、これによりその内容の全体がここに組み込まれ、動的な用途において、約140℃〜150℃までの高温安定性と約−35〜(−40)℃の低温可撓性を有する、改善されたポリウレタン/ウレアエラストマーを開示している。これらのエラストマーは、ベルトへの採用、具体的に自動車のタイミングベルトすなわち同期ベルト、Vベルト、マルチVリブドベルトすなわちマイクロリブドベルト、扁平ベルト材等に有用である。ポリウレタン/ウレアエラストマーは、ポリイソシアネートプレポリマーと、対称性第1級ジアミン鎖延長剤、対称性第1級ジアミン鎖延長剤と第2ジアミン鎖延長剤の混合物、または対称性第1級ジアミン鎖延長剤と非酸化性ポリオールの混合物とを反応させることにより調製され、これらはすべて標準的な成形工程を経ることで触媒を不要とし、また相分離を改善させるために選択される。ポリイソシアネートプレポリマーは、パラ−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネートおよび2,6−トルエンジイソシアネートのようないずれも緻密で対称性の芳香族の有機ポリイソシアネート、または、trans−1,4−シクロヘキサンジイソシアネートおよびtrans,trans4,4’−ジシクロヘキシルメチルジイソシアネートのような脂肪族であって、transまたはtrans,transの幾何構造を有する有機ポリイソシアネートと、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールなど高温において非酸化性のポリオール、またはそれらの混合物との反応生成物である。
【0005】
ポリウレタンベルトにおいて、より可撓性のある心線を作るために、心線をより軟質な材料で処理しようとする従来の取り組みでは、ベルトのトルク抵抗が小さく、屈曲時に高熱が発生する、層剥離に対する抵抗が劣る等の結果になっている。炭素繊維心線の接着剤処理は、ポリウレタンベルトまたはゴムベルトのいずれの場合も、求められるベルトの用途において、概して十分ではなかった。従来の炭素繊維の接着剤処理の代表的なものは、ナットソン(Knutson)の米国特許第6,695,733号明細書および第6,945,891号明細書であり、それらはレゾルシノールホルムアルデヒドラテックス(「RFL」)処理した炭素繊維の抗張心線を用いた歯付ゴムベルトについて開示している。また、炭素繊維接着技術の代表的なものは、トキ(Toki)等の米国特許第4,044,540号明細書のエポキシプライマーおよびRFL処理と、藤原等の米国特許第4,978,409号明細書のプライマーおよびRFL処理である。
【0006】
坂尻等の米国特許出願公開第2005−0271874A1号は、不飽和ウレタン化合物を主成分に用いた炭素繊維のサイジング処理を開示している。坂尻等の日本国特許出願公開第2005−023480A2号は、炭素繊維束を含浸させるためのポリウレタン、エポキシ樹脂および架橋剤を含む樹脂組成物を開示している。
【0007】
米国特許出願公開第2009/0098194A1号は、ウレア−ウレタン化学物質について記載している。
【0008】
米国特許第3,962,511号明細書は、産業用搬送ベルトに用いる織布を被包するポリウレタン組成物と、有機溶剤溶液にポリウレタン反応混合物を付与する方法を開示している。
【0009】
双方の内容の全文がここに組み込まれている係属中の出願、2007年11月29日出願の出願番号第11/947,470号および2008年3月8日出願の出願番号第12/044,957号が参照される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ポリウレタン製の動力伝達ベルトおよびゴムの動力伝達ベルトを含んでいるベルトおよび動的ゴム製品補強用の可撓性の高弾性率の抗張心線を提供するシステムおよび方法を対象としている。本発明はポリウレタンベルトの本体材料に良好な接着性と適合性を有し、引張強さに優れ、ほつれや毛羽立ちが少なく耐久性がある等、取扱性が向上した心線を提供している。本発明に係るポリウレタンベルトは、取扱や後方屈曲等に耐えるように可撓性が向上し、かつ切削性能が向上している。本発明に係る炭素製抗張心線を用いたゴムベルトは、従来のRFL処理炭素心線を凌ぐ改善された性能を発揮する。本発明は、繊維の撚り束に良好に浸透させて適用することができる接着剤処理を施した心線を対象としている。
【0011】
本発明は、ポリウレア−ウレタン(「PUU」)接着剤処理が施され、抗張心線がエラストマーベルト本体に埋め込まれたベルトを対象としている。PUU接着剤は、ジイソシアネートと反応させたポリオールから得られた、イソシアネート末端を有するポリエステル、またはポリエーテル、またはポリカーボネートのようなポリウレタンプレポリマー系であってもよい。ポリエステルは、ポリカプロラクトンであってもよい。ポリオールは、ジオールとトリオールの混合物であってもよい。ジイソシアネートは、PPDI(パラフェニレンジイソシアネート)、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)などの緻密な対称性ジイソシアネートであってもよい。ジイソシアネートは完全に対称性でなくてもよいが、好ましくは対称性がよい。接着剤処理には緻密な対称性ジアミン硬化剤を用いてもよく、或いは環境中の水分などの水を用いて硬化させてもよい。本発明はまた、抗張心線および接着剤組成物も対象としている。
【0012】
本発明の一実施形態において、抗張心線は、接着剤を含浸させる前に撚り合わされた炭素繊維のフィラメントヤーンに基づいたものでもよい。繊維の種類に拘わらず、繊維間の間隙に接着剤を部分的または完全に充たしてもよい。繊維は接着剤で被覆してもよい。その充填物は、間隙の容積の20%から99%まで、または100%より小であってもよい。繊維を被覆して一部の間隙を接着剤で充たしても、被覆は比較的薄くして、繊維すべてを完全に結合させるほどに充分ではなくてもよい。ベルト本体材料に注型ポリウレタンを用いた一実施形態では、注型ポリウレタンを残りの間隙の一部またはすべてに含浸させて、接着剤塗膜と密に接触させてもよい。或いは、心線にさらに被覆接着剤を塗布してもよい。
【0013】
本発明はまた、ポリウレタンプレポリマーを、低分子または緻密な対称性ジアミン硬化剤とともに、適切な溶媒に混合または溶解することによって接着剤浸漬液を作り、ヤーンまたは撚ったヤーンを浸漬液に浸し、溶媒を乾燥させ、接着剤を少なくとも部分的に硬化させるステップを含む方法も対象としている。硬化剤は、溶媒および/または空気中に存在する周囲の水分である水単独であってもよい。硬化時、ウレア結合は、プレポリマー分子上のイソシアネート末端基の間に形成される。プレポリマーは線形(2のイソシアネート末端)でも、分枝状(3以上のイソシアネート末端基)でもよい(好ましくは2または3のみ、或いはその混合)。
【0014】
以下では、後に述べる本発明の詳細な説明によってよりよく理解されるように、本発明の特徴および技術的な優位点をむしろ広く概説したものである。本発明の特許請求の範囲の主題を形成する本発明のさらなる特徴および優位点はその後述べられる。開示された概念および特定の実施形態は、本発明と同じ目的を達成するために、他の構造を改変または設計する根拠として直ちに使用されてよいことを当分野の当業者によって理解されるべきである。さらに、このような均等の構成は、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から逸脱しないことを、当業者によって直ちに理解されるべきである。本発明の特徴であると信じられる新規の特徴は、その構成および操作方法の両方に関して、本発明のさらなる目的および優位点とともに、添付の図面との関係が考慮されたとき、以下の説明からよりよく理解されるであろう。しかしながら、各図面は単に例示および説明の目的に提供されるものであって、本発明の限定を定義するものとして意図されたものでないことは、明確に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
ここに組み込まれ、かつその一部を構成する添付図面は、同等の符号が同等の部材を示し、かつ本記載とともに本発明の実施形態を示し、本発明の本質を説明するために提供される。図面において:
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に従って構成されたタイミングベルトの断面を示す断片透視図である。
【0017】
【図2】本発明の一実施形態に従って構成されたVベルトの部品の断面を示す断片透視図である。
【0018】
【図3】本発明の一実施形態に従って構成されたマルチVリブドベルトの部品の断面を示す断片透視図である。
【0019】
【図4】本発明のベルトの実施形態の特徴を検査するために使用された可撓性試験の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、紡織繊維、特にベルトまたはホースなどの補強ゴム製品に用いる処理された抗張心線の調製に用いるポリウレア−ウレタン(「PUU」)接着剤組成物を対象とする。PUU接着剤は、後にアミンまたは水を用いて硬化してウレア結合を形成するウレタン結合プレポリマーに基づいている。PUU接着剤はアミン硬化より、むしろ湿気硬化が好適である。PUU接着剤は好ましくは、パラ−フェニレンジイソシアネート(「PPDI」)およびポリカプロラクトン(「PCL」)のプレポリマーに基づいたものでもよい。PUU処理された心線は、注型エラストマーまたは熱可塑性エラストマーのいずれの場合も、ポリウレタン(「PU」)および/またはPUUのベルト材若しくは他のポリウレタン製品に特に好都合である。適切な被覆接着剤を用いると、PUU処理心線はまた、ゴムベルト、ホース、または他の加硫ゴム製品への使用にも適する。処理された心線の繊維は、好ましくは炭素繊維でもよい。
【0021】
PUU接着剤は、イソシアネート末端を有するポリエステルまたはポリエーテル或いはポリカーボネートなどのポリウレタンプレポリマーに基づいたものでもよい。このようなプレポリマーは、ポリイソシアネートをポリオール(即ち、ヒドロキシ末端ポリマー、ジオール、および/または好ましくはトリオール)と反応させて調製してもよい。好ましくは、ポリイソシアネートは、PPDI、2,4−および/または2,6−トルエンジイソシアネート(「TDI」)、4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート(「MDI」)などの緻密な対称性ジイソシアネートである。ポリイソシアネートは完全に対称性でなくてもよいが、好ましくは対称性がよい。PUプレポリマーは、次いで低分子または緻密な対称性ジアミン硬化剤/鎖延長剤、或いは溶媒および/または空気中に存在する環境湿分から得られ得る水のみを用いて、適切な溶媒に溶解し、溶媒を乾燥させた後に反応させて、プレポリマー分子上のイソシアネート末端基の間にウレア結合を形成させる。プレポリマーは線状(即ち2つのイソシアネート末端基を有する)でも、分枝状(即ち3つ以上のイソシアネート末端基を有する)でもよいが、好ましくは2または3のイソシアネート末端基のみを有するプレポリマー、またはそれらの混合物または混和物である。ウレア結合/セグメントは凝集して、ポリエステル、ポリエーテル等のソフトセグメントのマトリックス全体に分散するハードセグメント領域を形成する。ベルト心線の用途では、接着剤をベルト本体材料より柔らかくすることが好都合であることがわかっており、低分子の緻密な硬化剤が好ましい。最も好ましい硬化剤は水であり、最小のハードセグメントが得られるため、最も軟質なPUU接着剤が得られる。ベルト用途において最も好ましいソフトセグメントは、耐熱性、引裂抵抗性等に優れている理由から、ポリカプロラクトンなどのポリエステルである。ポリエーテルは、概してポリエステルより引裂抵抗が低い。引裂抵抗性は、ベルトのような補強ゴム製品において、特に心線と製品の本体またはベルトの噛合せ部分との境界面において極めて重要である。ベルト用途において最も好ましいジイソシアネートは、熱安定性の結合があり、好ましい硬化剤である水との反応性が最もよい理由から、PPDIである。好ましいPUUを用いて製造された心線は、浸漬または処理された後には非常に可撓性があるため、PUUが部分的または全体に含浸させる。結果として、処理された心線は、加工処理および最終使用段階においても取り扱いによる損傷が最小限に抑えられ、種々の注型PUまたはPUUベルト本体の形成物や、熱可塑性エラストマー(「TPE」)および熱可塑性ポリウレタン(「TPU」)、並びに加硫ゴムベルトにおけるゴムとよく結合する。一部の用途では、適切な被覆接着剤を用いることで結合が増強される場合がある。
【0022】
一般用語「ポリウレタン」(PU)は、通常当該技術分野において、ポリウレア、ポリイソシアヌレート、並びにウレタン基またはウレタン結合をほとんど或いは実際には全く無い他のポリマーを含めて用いられる場合がある。ここにおいて、「ポリウレタン」はまさに文字通りの意味で、イソシアネートおよびアルコールの反応生成物であり、故に相当量のウレタン結合(−NR−CO−O−)を含むポリマーを指すのに用いられる。本文および特許請求の範囲において、「ポリウレア」は、湿気または水の存在下でイソシアネートとそれら自身との反応生成物、または、イソシアネートと反応中間体であるアミンとが反応し、結果として相当量のウレア結合−NR’−CO−NR”を生成するポリマーを指すのに用いられる。これらのウレタン結合またはウレア結合では、R、R’およびR”は、それぞれ独立して水素、アルキル、またはアリール基を指す。「ポリウレア」という用語には、ウレア基がさらにイソシアネートと反応して分枝ポリマーを形成する際に生じるビウレットが含まれる。「ポリイソシアヌレート」は、イソシアネートとそれら自身が高温下で反応してトリ−イソシアヌレート環構造を形成する場合の反応生成物であるポリマーを指すのに用いられる。ポリウレアおよびポリウレタンという用語は、反応の総純度を意味するものではなく、本発明の接着剤の反応系に関連する主な反応機構および/または反応生成物であると考えられるものを示すのに用いられる。したがって、含まれるであろう少量の他の反応生成物または他の反応機構は、さらに言及することなく、ここに主にポリウレア−ウレタン反応生成物と称し得るものに関連している。用語「ポリマー」には、ポリマー、コポリマー(例えば、2以上の異なるモノマーを用いて形成されたポリマー)、オリゴマーおよびそれらの組み合わせたもの、ポリマー、オリゴマー、または相溶性のブレンドが形成されるコポリマーも含むことが理解されるであろう。「プレポリマー」という用語は、反応して中間の分子量の状態にあるモノマーまたはモノマー系を指す。この材料は、反応基によって更に重合し、完全に硬化した高分子量の状態にすることができる。このように、反応性ポリマーと未反応モノマーとの混合物もまた、プレポリマーと称される場合がある。典型的には、このようなプレポリマーは、比較的低分子量のポリマーであり、通常モノマーとフィルムポリマーまたは樹脂との間のものである。このように、モノマーが反応してポリウレア−ウレタンを形成し、一旦そのポリマーが形成されれば、そのモノマーはもはや存在しなくなることは当業者が知るところである。しかしながら、ここに記載される組成物の中には、硬化の前後にモノマーとポリマーの両方が形成物中に存在する場合があり、残留モノマーが硬化したポリマー中に残ることがある。用語「ポリアミン」は、1分子当たり少なくとも2つの(第1級および/または第2級)アミン官能基を有する化合物を意味する。用語「ポリオール」は、1分子当たり少なくとも2つのヒドロキシ官能基を有する化合物を意味する。用語「ジオール」は、1分子当たり2つのヒドロキシ官能基を有する化合物を意味する。用語「トリオール」は、1分子当たり3つのヒドロキシ官能基を有する化合物を意味する。用語「ポリイソシアネート」および「ポリイソチオシアネート」は、総称して「ポリイソ(チオ)シアネート」と呼ばれ、各々が官能基であるイソシアネートまたはイソチオシアネートを1分子当たり少なくとも2つ有する化合物を意味する。用語「ジイソシアネート」は、1分子当たり2つのイソシアネート官能基を有する化合物を意味する。
【0023】
本発明の実施形態において有用なポリウレタンプレポリマーは、この技術分野において公知の方法に従って、ポリオールをポリイソシアネートと反応させることによって調製してもよい。有用なポリオールは、これらに限定されるものではないが、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリチオエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールおよびポリカプロラクトンポリオールである。ポリカプロラクトンは、ポリエステルの類型と考えられ得る。熱安定性を必要とする用途に好ましいポリオールは、150℃まで非酸化性であり、これらに限定されるものではないが、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオールおよびポリカーボネートポリオールである。本発明で使用されるポリエステルポリオールには、これらに限定されるものではないが、多価アルコールの反応生成物、好ましくは三価アルコールを一部添加した二価アルコール、および/または多塩基カルボン酸、好ましくは三塩基性カルボン酸を一部添加した二塩基性カルボン酸がある。対応する無水ポリカルボン酸または、より低級なアルコールに対応するポリカルボン酸エステル、或いはそれらの混合物が、ポリエステルを調製する場合に、それらの遊離ポリカルボン酸対応物よりも好ましい。ポリカルボン酸は本質的には、脂肪族、環状脂肪族、および/または芳香族である。以下に非限定的な例として記載する:コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、トリメリト酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラクロロフタル酸、無水エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水グルタル酸、フマル酸、任意選択的に単量体の脂肪酸が混合された二量体および三量体の脂肪酸、ジメチルテレフタル酸、およびテレフタル酸−ビス−グリコールエステルがある。このようなポリエステルの生成に用いられる適切な多価アルコールとしては、これらに限定されるものではないが、以下に記載するものが含まれる;エチレングリコール、1,2−および1,3−プロピレングリコール、1,4−および2,3−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたは、1,4−ビス−ヒドロキシメチルシクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン(「TMP」)、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、およびそれらの混合物。イプシロン−カプロラクトンなどのラクトンのポリエステルおよびオメガ−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸もまた使用可能である。
【0024】
適切なポリカーボネートポリオールは公知のものであり、例えば1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールまたはテトラエチレングリコールなどのジオール、およびそれらの混合物と、例えば炭酸ジフェニル等の炭酸ジアリール、例えば炭酸ジエチル等の炭酸ジアルキル、またはホスゲンとの反応によって調製してもよい。適切なポリエーテルポリオールは公知のものであって、プロピレンオキシド(PPO)、エチレンオキシドおよびポリテトラメチレンオキシド(PTMO)を含むアルキレンオキシドを基本としたヒドロキシ末端基を持つポリエーテルがある。好ましいアルキレンオキシドは、ポリプロピレンオキシドである。ポリオールは、ヒドロキシ官能価が平均約2〜8で、平均約500〜5000等量の水酸基を有するポリエーテルポリオール、または、官能価が約2〜4で、約1000〜3000等量の水酸基を有するポリエーテルポリオールであってもよい。一実施形態において、ポリエーテルポリオールは平均ヒドロキシ官能価が約2〜3で、平均約1500〜2500等量のヒドロキシ基を有する。
【0025】
好ましいポリオールは、分子量約500〜約4000または5000のポリカーボネートポリオールおよびポリエステルポリオール、或いはこれらの混合物である。より好ましいポリオールは、分子量が約300または500〜約4000若しくは5000のポリ(ヘキサメチレンカルボネート)(「PCB」)ジオールおよび/またはトリオール、ポリカプロラクトン(「PCL」)ジオールおよび/またはトリオール、並びに、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)ジオールおよび/またはトリオールである。ベルトおよびホースに用いる抗張心線に最も好ましいポリオールは、ポリカプロラクトンジオールおよび/またはトリオールである。ジオールで最も好ましい分子量は、約1500〜約2500の範囲であり、トリオールでは約1000〜約4000または約2500〜約3500である。ポリオールは、ジイソシアネートに反応して、本発明に有用なポリイソシアネートプレポリマーに形成される前に、約0.03重量%未満、より好ましくは約0.0150重量%の水分レベルまで乾燥される。プレポリマーを調製するために使用されるポリオールは、上記ポリオールから選択される少なくとも1のトリオールと、1以上の他のポリオール、好ましくはジオールとの混合物である。最も好ましいジオールおよびトリオールは、上記に列挙した最も好ましいポリオールである。ポリオール混合物中のトリオール架橋剤の量は、トリオールが約2%〜100%までの範囲のいずれでも使用可能であって、特に限定されない。さらになお、好ましい実施形態では、ポリオール混合物中のトリオールの量は好ましくは、プレポリマーにおけるポリオール成分全体の5重量%〜約65重量%までであって、より好ましくは約15%〜約55%である。ポリオール混合物の残余は、ジオールであってもよい。過剰なトリオールは、プレポリマーにおける粘度上昇、および/またはポリウレタンによる繊維補強材のぬれ性や浸透性の欠如、および/または混合物の化学的不安定性により、加工工程またはミキシングの困難性を来す一方、トリオールが寡少の場合、架橋が不十分にし、高温性能が全くもしくは殆ど改善されない。本発明の実施形態では、プレポリマーは、ジオール系のプレポリマーとトリオール系のプレポリマーを混合することにより調製してもよい。しかしながら、トリオール系プレポリマーの粘度の上昇は、これを困難にする。よって、好ましい実施形態は、ジオールとトリオールの混合物から、好ましくはPCLポリオールから調製されたプレポリマーである。
【0026】
プレポリマーを調製するための有用なポリイソシアネートは、これらに限定されるものではないが、パラ−フェニレンジイソシアネート(「PPDI」)、2,4−および/または2,6−トルエンジイソシアネート(「TDI」)、4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート(「MDI」)、ヘキサメチレンジイソシアネート(「HDI」)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(「NDI」)、trans−1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(「t−CHDI」)、トリメチルキシリレンジイソシアネート(「TMXDI」)、イソホロンジイソシアネート(「IPDI」)等、並びにそれらの混合物がある。本発明で用いるポリイソシアネートプレポリマーに適切な有機ポリイソシアネートは、好ましくは、以下の特性を有する:得られたエラストマーの相分離の改善、アミン基に対して反応性が高く形成物において触媒を用いる必要はないが、一方で、高温下では得られたエラストマーの加硫戻りを促進する、緻密な対称構造の芳香族化合物、またはtransまたはtrans,trans幾何構造の脂肪族化合物。ポリウレタンプレポリマーを調製するための出発成分として好ましいポリイソシアネートは、これらに限定されるものではないが、非限定的にPPDI、NDI、および2,6−トルエンジイソシアネート(「2,6−TDI」)を含む緻密な対称性の芳香族ジイソシアネートがある。ポリイソシアネートプレポリマーを調製するための出発成分として有用なポリイソシアネートには、さらに、transまたはtrans,trans幾何構造を有する環状脂肪族ジイソシアネートがある。これらのアイソマーは、概ね純粋であり、すなわちシス構造のアイソマーがほとんどない状態で存在するため、一度硬化すると良好な相分離を促進する。これらには、以下に限定されるものではないが、t−CHDI、およびtrans,trans−4,4’−ジシクロへキシルメチルジイソシアネート(「t,t−HMDI」)がある。ベルトおよびホース用の抗張心線の補強において、本発明の実施形態に用いる最も好ましいものは、PPDIである。
【0027】
本発明で有用な鎖延長剤(すなわち硬化剤)は、プレポリマーとの十分な反応時間が可能となり、好ましいウレア結合をもたらし、所望の量の相分離とハードセグメント特性を有するように選択される。鎖延長剤は、脂肪族アミン、芳香族アミンの化合物およびそれらの混合物を含んでもよい。鎖延長剤は、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、アミノエタノールアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン(「IPDA」)、トリエチレンテトラアミンなどの脂肪族アミンを含んでもよい。鎖延長剤は、好ましくは、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、1,5−ナフタレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノベンゼン、4,4’−メチレンビス(オルトクロロアニリン)(「MOCA」)、1,4−ブチレングリコール、4,4’−メチレンビスジアニリン(「MDA」)、3,5−ジエチル−2,4−ジアミノトルエン、ジエチルトルエンジアミン(「DETDA」)、トリメチレングリコールジアミノベンゾアート(「TMGDAB」)、4,4−メチレンビス(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)(「MCDEA」)、および3,3’,5,5’テトライソプロピル−4,4’−メチレンビスアニリンを含む芳香族アミンであってもよい。好ましい鎖延長剤は、低分子で緻密な対称性の芳香族ジアミンである。好適には、鎖伸長剤はTMGDABの大きさにすぎない。好ましくは、硬化剤はフェニル環が2を超えない、および/または、3炭素の脂肪族基の長さを超えないものである。より好ましい実施形態では、鎖延長剤は、例えば水であり、環境湿分を含んでいる。水は、最も小型のウレア結合−NH−CO−NH−を形成する。この単純なウレア結合は、硬化剤がハードセグメント領域のサイズを最小にし、一方で尚も良好な相分離および物理特性をもたらすために、水との反応によって形成される。これにより、処理された繊維または抗張心線に、ベルトやホース等の動的ゴムの用途において用いる場合に望ましい良好な可撓性がもたらされる。さらに、このような水に基づいた分子の小さいハードセグメントは、PPDIなどの低分子の対称性ジイソシアネートと結合して、高温安定性、可撓性、弾性率および強度等の特性の全体的なバランスが良好になる。
【0028】
本発明の一実施形態に係るポリウレア−ウレタン接着剤の調製において有用な対称性第1級ジアミン鎖延長剤は、触媒を必要とせずにポリイソシアネートプレポリマーと急速に反応することができる鎖延長剤である。本発明の一実施形態において有用な鎖延長剤の対称性により相分離が改善されることで、動的用途における最終PUUエラストマーの熱安定性が向上する。適切な第1級ジアミン鎖延長剤には、これらに限定されるものではないが、分子量が約90から約500までの対称性芳香族アミン、およびそれらの混合物がある。その例としては:1,4−フェニレンジアミン、2,6−ジアミノトルエン、1,5−ナフタレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1−メチル−3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5−ジエチル−2,6−ジアミノベンゼン、4,4’−メチレン−ビス−(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレン−ビス−(オルトクロロアニリン)、4,4’−メチレン−ビス−(2,3−ジクロロアニリン)、トリメチレングリコールジ−パラ−アミノ安息香酸、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレン−ビス−(2,6−ジイソプロピルアニリン)、4,4’−メチレン−ビス−(2−メチル−6−イソプロピルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等がある。対称性の第1級ジアミン鎖延長剤は、硬度などのエラストマー特性を変化させるために、任意に低分子の第2級ジアミン鎖延長剤と組み合わせてもよい。第2級ジアミン鎖延長剤として適切なものは、約150〜約500の分子量を有し、これらに限定されるものではないが、第2級N,N’−ジ−ブチル−アミノベンゼンおよび第2級N,N’−ジ−ブチル−アミノ−ジフェニルメタンである。
【0029】
プレポリマーではイソシアネート基をブロックすることが好都合な場合がある。適切なブロッキング試薬には、ポリケチミン、フェノール、カプロラクタム、オキシム、トリアゾール、特定のアルコール、およびエチルアセトアセテートやマロン酸エチルなどのβ−ジカルボニル化合物がある。好ましいブロッキング薬は、メチルエチルケトキシム(「MEKO」)である。
【0030】
本発明は、本発明の組成物から製造される製品の処理加工を補助するため、或いは本発明のエラストマーで製造される製品の機能を補助するために、酸化防止剤、可塑剤、充填剤、着色剤、定着剤、共反応物、鎖延長剤等の様々な他の添加剤を利用してもよい。例えば、酸化防止剤は、本発明のエラストマー組成物を動力伝達ベルト製品に利用する場合に特に有用である。適切な酸化防止剤には、2,6−ジ−t−ブチルフェノールおよび置換アルカン酸のヒンダードフェノールのポリアルキレングリコールエステルが含まれる。酸化防止剤の例には、エチレングリコールの3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸エステル、トリメチレングリコールのビス{3−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}がある。有用なまたは適切な可塑剤の例には、有機リン酸エステル、ジアルキル−エーテルジアルキルエステル、およびジ−またはポリ−エチレングリコールジアルキルエステルなどのポリアルキレンエーテルジアルキルエステルがある。ジアルキルエーテルジエステルは、C1〜C4−エーテル−のC4〜C12−エステルまたは、ポリエーテル−ジカルボン酸を含む。このような可塑剤の例は、カプリン酸、カプリル酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、ペラルゴン酸、2−エチルヘキサン酸などのエステルであってもよい。このような可塑剤の例は、約800までの分子量を有する、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールおよびポリエチレングリコールなどのエーテルのジアルキルエステルを含んでもよい。他のポリオール、ポリイソシアネート、イソシアネート末端ポリマー、エポキシおよび/またはアミンは、好ましくは含まれないが、接着促進剤、共反応物、鎖延長剤として含まれてもよい。
【0031】
他の追加の化合物は、本発明の組成物と共に有用であり得る。これらは、組成分の反応時間を減少させるために触媒を含む。触媒は、有機金属化合物、3級アミンおよびアルカリ金属アルコキシドなどの、当該技術で公知の任意の望ましい化合物から選択してもよい。但し、ポリウレア−ウレタンは触媒を用いて、或いは用いずに調製することができる一方で、アミン末端基を含有しないポリオール系ポリウレタンは、最も典型的には、触媒を用いて調製される。触媒として有用な適当な有機金属化合物には、必ずしもこれらに限定されるものではないが、錫、水銀、鉄、亜鉛、ビスマス、アンチモン、コバルト、マンガン、バナジウム、銅等の脂肪族石鹸がある。例としては、ジブチルジラウリン酸スズ、ジメチルジラウリン酸スズ、フェニルプロピオン酸水銀、ナフテン酸銅、ネオデカン酸ビスマスなどの炭素数2−20のカルボン酸である有機配位子がある。好ましい実施形態において、触媒は用いない。
【0032】
このように、本発明に係る接着剤組成物の好ましい実施形態は、唯一の反応成分としてポリウレタンプレポリマーと、硬化剤として緻密なジアミン硬化剤または水のみを含む。
【0033】
本開示の全体を通じて、「心線処理」という用語は、ヤーンおよび/またはヤーンフィラメント(サイジングを含んでも含まなくてもよい)に適用される1つの材料を意味するために使用され、この材料はヤーンおよび/またはヤーンフィラメントの表面若しくはサイジングされた表面の少なくとも一部分であり、かつそれらのフィラメントとヤーンとの間に形成される1箇所以上の間隙の少なくとも一部分内に位置して終わる。
【0034】
多数のポリイソシアネートプレポリマーが市販されており、本発明の1以上の実施形態の実施において有益に用いられる;例えば、ペーター(Peter)の米国特許第6,174,984号明細書、ローゼンバーグ(Rosenberg)の米国特許第5,703,193号明細書、ローゼンバーグ(Rosenberg)等の米国特許出願公開第2003/0065124号、およびローゼンバーグ(Rosenberg)等の米国特許第6,046,297号明細書に記載されているような、プレポリマー中の遊離ジイソシアネートの濃度が例えばプレポリマーの1%未満、または0.5%未満、または0.25%未満、例えば約0.1%以下のレベルまで低下した一般に「低遊離」プレポリマーと称されるプレポリマーが含まれ得る。
【0035】
本発明を実行するための適切なイソシアネート末端プレポリマーとしては以下のものが市販されている。例えば、数多くの有用なプレポリマーが、ケムチュラ社から1種以上のアジプレン(登録商標)、デュラキャストおよびバイブラセン(登録商標)が販売されている;それらには、アジプレン(登録商標)LFP2950A(好ましい低遊離モノマーであるPPDI末端ポリカプロラクトンプレポリマー)、アジプレン(登録商標)LFP3940A(PPDI末端ポリカーボネートプレポリマー)、アジプレン(登録商標)LFP1950A(PPDI末端ポリエステルプレポリマー)、アジプレン(登録商標)LF1950A(TDI末端ポリエステルプレポリマー)、およびアジプレン(登録商標)LFP950A(PPDI末端ポリエーテルプレポリマー)などがあり、アジプレン(登録商標)LF1600D、LF1700A、LF1800A、LF1860AおよびLF1900Aは、有用な低遊離モノマーであるTDI末端ポリエステルプレポリマーである;そしてアジプレン(登録商標)LF600D、LF750D、LF753D、LF800A、LF900A、LF950A、LFG740D、LFG920およびLFG964Aは、有用な低遊離モノマーであるTDI末端ポリエーテルプレポリマーである;アジプレン(登録商標)LFM2450、デュラキャスト(商標)C930およびバイブラセン(登録商標)8030および8045は、有用なMDI末端ポリカプロラクトンプレポリマーであり、アジプレン(登録商標)LFH120、2840および3860は、有用なHDI末端プレポリマーである。有用なプレポリマーはまた、バイエル社から商標ブルコラン(登録商標)およびバイテック(登録商標)の1種以上が販売されており、トレルボルグ社からテクタン(登録商標)の商標名;エアープロダクツアンドケミカルズ社からはエアセイン(登録商標)および/またはバーサセイン(登録商標)、ダウ社からはエシェロン(商標)の商標で販売されているポリウレタンプレポリマー等がある。
【0036】
図1を参照すると、典型的なタイミングベルト10が図示される。ベルト10は、エラストマー本体部12および本体部12の内周部に沿って配置されたシーブ接触部14を含む。この特定のシーブ接触部14は、横溝付きプーリまたはスプロケットと噛合するように設計された横歯16と底部18とが交互に配置された形状になっている。抗張層20は、本体部12内に配置されて、ベルト10を支持および補強している。図示された形状では、抗張層20は、本体部12の長手に沿って縦に配列された複数の抗張心線22で形成されている。一般に、抗張層20は当該技術分野で公知のいかなるタイプのものを用いてもよいことを理解されたい。さらに、綿、レーヨン、ポリアミド、ポリエステル、アラミド、鋼材、ガラス、炭素、PBO、ポリケトン、バサルト、ホウ素、および低荷重負荷能力のための配向された不連続繊維のようないかなる所望の材料が抗張部材として使用されてもよい。図1の好ましい実施形態において、抗張層20は、図示された1以上の高弾性繊維のヤーンであり、心線と共に撚り込まれるか重ね合わされ、ここに記載されたPUU接着剤処理を施された抗張心線22の形状である。好ましい高弾性繊維には、炭素、ポリエチレンナフタレート(ペン)、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(PBO)、アラミド、バサルト、ホウ素または液晶ポリマー(LCP)がある。好ましい実施形態において、心線22はアラミドまたは炭素繊維を含む。より好ましくは、心線は、撚り合わされたフィラメントヤーンまたは連続した炭素フィラメントの束で撚り合わされたヤーンでもよい。
【0037】
アラミドによって、とは、長鎖合成ポリアミドが、そのアミド結合がパラまたはメタ位のいずれかで直接2つの芳香環に結合している状態を意味する。本発明において、例えば、PPD−T、ポリ(p−ベンズアミド)、コポリ(p−フェニレン/3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド)等を用いてもよい。PPD−Tによって(By PPD−T)とは、p−フェニレンジアミンと塩化テレフタロイルの等モル重合から得られたホモポリマーと、少量の他のジアミンをp−フェニレンジアミンと、そして少量の他の二酸塩化物を塩化テレフタロイルと共に取り込むことで得られたコポリマーを意味する。本発明の実施において適切な市販のアラミド繊維には、帝人の商標であるテイジンコーネックス(登録商標)、テクノーラ(登録商標)およびトワロン(登録商標)、並びにデュポン社のノーメックス(登録商標)およびケブラー(登録商標)がある。
【0038】
補強布24を用い、交互に配置されたベルト10の歯16と底部18に沿って密着させて、シーブ接触部の面カバーすなわち歯布を形成する。この布は、任意の所望の角度をなす縦糸と横糸から成る従来の織物のような任意の所望の構成でもよく、間隔を空けたピックコードによって共に保持された縦糸、または編物もしくは編組構造、または不織布等で構成されてもよい。1プライ層より多い布層、または異なる種の布の組み合わせが用いられてもよい。所望により、バイアスで布24を裁断し、ストランドがベルトの移動方向に対して角度を成すようにしてもよい。綿、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、アラミド、ポリケトン、麻、ジュート、ガラス繊維、及び、これらの混合又は組み合わせを含む種々の他の天然及び合成繊維を使用した、従来の布が用いられてもよい。本発明の好ましい実施形態において、布層24は、縦糸または横糸の少なくとも1本がナイロンで作られた伸縮性耐磨耗布から成る。本発明の好ましい形態において、布層24は、ナイロン66伸縮性布で作られ、駆動シーブに協動して係合するための非エラストマー(非ポリウレタン/ウレア)表面を提供する。非エラストマー表面は、布に積層した高分子フィルムを含んでもよい。布はまた、所望により、本発明のPUU心線接着剤で処理してもよい。
【0039】
図2を参照すると、標準的なノッチドVベルト26を図示される。Vベルト26は、図1のものと同様の、エラストマー本体部12と、また同じく図1に示されるのと同様に抗張補強層20を心線22の形態で含む。Vベルト26のエラストマーの本体12、抗張層20および心線22は、図1に関して上述された同じ材料から構成される。抗張層20は、弾性率または他の特性の観点から転移層を設けるため、および/または心線と本体との間を接着層として機能させるために、本体部の残余の部分とは異なるエラストマーの組成物またはゴム材料を任意選択的に含んでもよい点に留意されたい。任意選択の接着ゴム部材は、例えば、これによりその内容がここに組み込まれているサウス(South)の米国特許第6,616,558号明細書に記載されるように、本体より高弾性率のものであってもよい。
【0040】
Vベルト26もまた、図1の動力伝達ベルトの場合と同様、シーブ接触部14を含む。本実施形態では、しかしながら、シーブ接触部14は、V−シーブに楔入れするように設計されたベルトに並設される2つの面である。Vベルト26の底面は、交互に配置されたノッチの凹み表面、すなわち凹部28と突部30の形態である。これらの交互に配置された凹部28と突部30は、図示されるように正弦曲線の経路に概ね沿っており、シーブ接触部14がプーリおよびシーブの周囲を通過する際に、曲げ応力を分散し最小限に抑える機能がある。様々なノッチの断面形状は、様々に正弦曲線から逸れても、また有用である。しかしながら、凹部28と突部30は任意のものである。Vベルトのカテゴリに含まれるものには、Vベルトが無段変速機(「CVT」)用に設計されたものがあり、ベルト本体がベルト厚さより比較的幅広いものが多い。
【0041】
図3を参照すると、マルチVリブドベルト32が図示される。マルチVリブドベルト32は、図1および2のベルトのように、エラストマー本体部12を含み、さらに、また上述したように、好ましくは心線22の形態で抗張補強部材20を含む。長手方向に溝が刻まれたシーブ接触部14は、複数の立ち上がった領域すなわち頂部36を有する形状を成し、複数の凹み領域38が交互に配置され、ベルト32の駆動面34を定義する側面と対向している。図1〜3のこれらの例のそれぞれにおいて、シーブ接触部14は、本体部12と一体になっており、下記でより詳細に説明している同じエラストマー材料で形成されるか、または別の材料で層状にされてもよい。本発明は、図1〜3に示す実施形態を参照して図示されているが、本発明は例示されるこれらの特定の実施形態や形状に限定されるものではなく、むしろ以下に定義される特許請求の範囲内において任意のベルト構造に適用可能であることを理解されたい。
【0042】
炭素繊維は、典型的に、ポリアクリルニトリル繊維などの別の繊維を炭化することによって調製され、この炭化工程の間に、繊維の径は実質的に減少する。炭素ヤーンは、一般的にデニールまたはデシテックスでよりは、そこに含まれる繊維の数によって特徴づけられる。数値の学術表記および文字「k」を用いて、ヤーン内の炭素繊維の数を示す。もちろん、炭素繊維は必要に応じて他の用語を用いて特徴付けられてもよい。「3k」炭素繊維ヤーンで、「k」は、「1000の繊維」を示す略称であり、「3」は乗数を示す。つまり、「3k」炭素ヤーンは、3000の繊維またはフィラメントのヤーンであると識別する。フィラメントは、概して、連続的なものとみなされる十分な長さである。他の織物の材料と同様、数多くの炭素繊維が組み合わされてヤーンを形成する。ヤーンを他のヤーンと組み合わせてより大きなヤーンを形成してもよく、そのヤーンまたはヤーン束を撚って、心線を形成してもよい。炭素繊維は、径が極めて小さく、約4から約8ミクロンまで、または約5から7ミクロンまでの範囲であってもよい。個々の繊維は、ヤーンが心線を形成する工程で、容易に折られる。この理由から、心線を形成する際にヤーンが受ける機械的な操作数を最小限にすることが望ましい。例えば、心線を形成するために、数本のヤーンを撚ってヤーン束を形成し、そして、多数の撚られたヤーン束を逆撚りすることは、個々の繊維を折る機械的な操作となる。繊維折れの数は、撚り工程の数を減らすことで減少させられる。所望の心線サイズを形成するためには、本数の少ないフィラメントから成る複合ヤーンを束ねることを含む。例えば、3kヤーン5本で15kヤーン(3k−5と指定)としたり、6kヤーン3本で18kヤーン(6k−3と指定)とする。好ましくは、撚り数を過度に増加させず、繊維を傷めないようにする。このように、好ましい撚り数は、1インチ当たり0.75〜2.5回、または約2回までである。最終的な炭素繊維束は、所望の用途に応じて、3k〜60kであってもよい。
【0043】
繊維製造業者は、しばしばサイジング剤で被覆し、繊維をヤーンに加工してスプールに巻き付ける際に、繊維を滑らかにさせて破損を防いでいる。いくつかの例では、サイジング剤は、心線を動力伝達ベルトに包含する際に、心線の処理に用いる接着剤に適合した化学構造を有してもよい。炭素繊維の製造業者が用いるサイジング剤の種類には、例えば、エポキシ、エポキシとポリウレタン、有機シロキサン、ポリアミド−イミド、等を含む。サイジング剤は、ヤーンの最終重量に対して約0.1から約2.5%までのピックアップ重量で存在してもよい。ここに記載の本発明の実施形態は、炭素繊維上に存在し得るサイジング剤の種類または量に特に影響されるものではないと考えられている。炭素繊維束をPUU接着剤処理で結合させる第1の態様は、化学的結合というよりむしろ物理的連結である。また、本発明は、PUU接着剤を炭素繊維束に適用するための溶媒の使用を伴ってもよく、必要に応じて、溶媒はサイジング剤に浸透したり、または除去してもよい。
【0044】
エラストマーのベルト(または、他の製品)の本体部は、加硫ゴムまたは注型ポリウレタン(PU)などの他の架橋エラストマーであってもよく;或いは、熱可塑性エラストマー(TPE)または熱可塑性ポリウレタン(TPU)であってもよい。ここに開示されるPUU心線処理は、注型のポリウレタンまたはPUUのベルト本体と特に相性が良く、追加の接着剤処理を何ら必要とせず、好都合に用いることができる。同様に、PUU心線処理は、TPEおよびTPUのエラストマーに適合し得るものであり、それらを用いることで、追加の接着剤処理は一切不要となり得る。加硫ゴム製品の場合、1以上の追加の接着剤処理を含めて、PUU処理された抗張心線と加硫エラストマーとの結合を向上させることが好都合な場合がある。そのような追加の接着剤処理をここにおいては、被覆または被覆接着剤と称する。2つの異なる被覆接着剤を使用して、PUUとゴムベルト本体の材料との結合を最大限に高めることが好都合な場合がある。
【0045】
PUU処理された抗張心線の実施形態と共に用いるエラストマー本体に関して、本発明の様々な実施形態の実施において利用し得る有用な注型のPUまたはPUU組成物、並びにそれらの組成物および方法は、例えば、パターソン(Patterson)等の米国特許第5,231,159号明細書およびウー(Wu)等の米国特許第6,964,626号明細書、に記載されており、参考としてここに組み込まれる。PUUは、典型的に、高い相分離、より強固なハードセグメント等により、PUより良好な動的特性を有する理由から、PUUは高性能ベルトの用途に好適である。
【0046】
エラストマー本体は、例えば、長尺のベルト材に向けの熱可塑性樹脂のラミネーション工程、或いは他の適切な成形工程を用いて、TPEまたはTPUで形成してもよい。様々な実施形態において有用となり得るTPEの種類には、非限定的には、ポリスチレン−エラストマーブロックコポリマー、ポリエステルブロックコポリマー、ポリウレタンブロックコポリマー、ポリアミドブロックコポリマー、およびポリプロピレン/EPコポリマーとのブレンドがある。様々な実施形態において有用となり得るTPUの種類に特に限定されないが、ポリエステル熱可塑性ウレタンやポリエーテル熱可塑性ウレタンなどの注型ポリウレタンとの関連において上記と類似の化学物質を含む。熱可塑性ベルト材の実施形態は、例えば成形または2箇所のベルト端部の繋ぎ合せのいずれかによる無端ベルト等の、図1の歯付ベルトの一般的形態を有してもよい。実施形態は、例えば、搬送、輸送、保持、位置決め等を行う用途において、2箇所の端部を様々な関連した機構に固定させていてもよい。
【0047】
上記のように示される図1〜3のそれぞれにおいて、主ベルト本体部12は、従来技術および/または適切な硬化エラストマー組成物のいずれの形態であってもよく、抗張層20を備える任意の接着ゴム部材に関して、下記のベルト本体と同様であっても異なるものであってもよい。この目的において利用し得る適切なエラストマーには、例えば、ポリウレタンエラストマー(ポリウレタン/ウレアエラストマーおよびいわゆるミラガムも同様に含む)(PU)、ポリクロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR(HNBR)、スチレン‐ブタジエンゴム(SBR)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、ポリエピクロロヒドリン、ポリブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、および、エチレン−プロピレンコポリマー(EPM)エチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、エチレンオクテンコポリマー(EOM)、エチレンブテンコポリマー(EBM)、エチレンオクテンターポリマー(EODM)、エチレンブテンターポリマー(EBDM)のようなエチレンアルファオレフィンエラストマー;エチレンビニルアセテートエラストマー(EVM);エチレンメチルアクリレート(EAM);並びにシリコーンゴムなどの、或いは上述のいずれか2以上の組み合わせを含む。
【0048】
本発明の一実施形態に従って、エラストマーベルトの(または他の製品)本体部12を形成するために、エラストマーは、充填剤、可塑剤、安定剤、加硫剤/硬化剤および促進剤等の従来のゴム配合を、従来から用いられている量で混合してもよい。例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマーおよびHNBRのようなジエンエラストマーを用いる場合は、1以上のα−β有機酸金属塩が、現在も従来通りに用いられている量を使用して、得られる製品の動的性能を向上させることができる。このように、ジメタクリル酸亜鉛および/またはビスアクリル酸亜鉛を、約1〜約50phr、または代替的に約5〜約30phr、或いは約10〜約25phrの量で、このような組成物に用いてもよい。現在当技術分野においてよく知られているように、過酸化物または関連の薬剤を用いてイオン架橋により硬化を行う際、これらの材料は、さらに組成物の接着性に寄与し、ポリマーの全体的な架橋密度を上昇させる。
【0049】
関連分野の当業者であれば、本発明において有用なゴム製品のエラストマー部分においてまたはそのものとして利用する場合に、任意の数の適切な組成物を容易に理解されよう。数多くの適切なエラストマー組成物が、例えば、ヴァンダービルト・ゴムハンドブック(The R. T. Vanderbilt Rubber Handbook)(第13編、1996年出版)に記載されており、EPMまたはEPDM組成物および特有の高い引張り応力特性を有するこのような組成物については、さらに米国特許第5,610,217号明細書と第6,616,558号明細書にそれぞれ記述されており、それらの内容のうち、動力伝達ベルト本体部の形成での使用に適し得る様々なエラストマー組成物に関する内容は、ここに参照のために組み入れられる。自動車付属部品の駆動装置の用途に関する本発明の一実施形態において、エラストマーのベルト本体部12は、EPM、EPDM、EBM、EOMの組成物などの適切なエチレンアルファオレフィン組成物から形成されてもよい。
【0050】
エラストマーのベルト本体部12には、さらにこの技術分野においてよく知られているように、不連続繊維、例えばこれらに限定されるわけではないが、綿、ポリエステル、ガラス繊維、アラミドおよびナイロンなどの材料を、ステープル即ち短繊維や、フロック、またはパルプなどの形態で、一般的に用いられる量を用いて、さらに充填してもよい。(例えば、カッティングまたはグラインディング等によって)形成されたマルチVリブドベルトに関する好ましい実施形態では、このような繊維の装填は、好ましくは繊維の広範な部分がベルトの進行方向をほぼ横断する方向に横たわるように形成および配置される。しかしながら、流動法に従って調製された成形マルチVリブドベルトおよび/または同期ベルトでは、繊維を装填すると、概して同一の配向度を欠いている。
【0051】
本発明のPUU処理心線は、ゴムベルトに用いる場合、心線束の外面を第一の被覆をする目的で、第二の接着剤を用いて好都合に被覆してもよい。このような接着剤は、ここでは被覆接着剤と称する。被覆は、概して、係る処理された心線の最終重量に対して乾燥重量が約1%〜約10%の範囲で適用される。有用な被覆接着剤の例が、この技術分野において見出されており、これらに限定されないが、ロード・コーポレーションよりケムロックまたはケモシル(登録商標)の商標で販売されている各種の組成物や、ケミカルイノベーションズ(CIL)社よりCILBONDの商標で販売されている各種組成物がある。被覆には、下層接着剤処理とゴムベルト本体の両方に適合し、耐熱性、環境抵抗性などの他の所望の特性を有する特定のものを選択してもよい。2つの別々の被覆接着剤の組成物を適用することが好都合な場合がある。PUU処理された心線が部分的にのみ含浸している場合、第1の被覆を、心線を充分に含浸させるために用い、第2の被覆を、処理された心線束の外面の被覆に用いてもよい。PUU処理された心線とゴムベルト本体組成物のいくつかの組み合わせでは、確実に良好な結合を得るべく、被覆を2層行う方が好都合な場合があり、例えば、PUUが多くのエラストマーより極性を有するからである。
【0052】
このように、本発明は、PUU結合剤を少なくとも部分的に充填または含浸させて、炭素心線などの高弾性の抗張心線を調製する方法を提供している。注型PUベルトに生機の炭素心線(または他の高弾性心線)を使用する先行技術と比較して、本発明では心線の特性を個別に管理している。例えば、炭素心線で使用されるPUU結合剤は、ベルト本体の注型PUより軟質なものを選択してもよい。本発明は、このように、動的荷重または屈曲容量に負の影響を及ぼすことなく、ベルトの取扱性能を向上させることができる。本発明はまた、低圧における注型作業およびその注型樹脂の速いゲル化時間、または高い粘性となるその工程中における処理工程と、そこで生産された製品とを改善させることができる。それはPUU結合剤がすでに心線に含浸しており、その後の注型樹脂がさらに心線に浸透しているか否かに拘わらず、心線に完全性を付与し、裁断時のほつれを防止するからである。すでに撚られた炭素繊維を低粘性接着剤で処理する能力は、処理の間は繊維を伸ばし、その後に撚る必要がある先行技術の処理方法より、ほぼ円形のより均質な心線を好都合に生産し得る。
【0053】
ベルト歯または本体が高弾性率のPUコンパウンドである注型PU製品またはベルトの一実施形態において、抗張心線は、ポリウレタンプレポリマー溶液を用いて処理され、注型PUより低分子の硬化剤を用いて硬化され、類似または少なくとも適合性を有する化学物質の低弾性率の結合材が得られる。このように、心線の複素弾性率は、複合物の完全性に負の影響を及ぼすことなく低下させることができる(すなわち、心線の可撓性を向上させることができる)。充填された心線と本体/歯の複合体との間は良好に接着している。好ましくは、心線内部において、本体のPUコンパウンドを、類似しているがより低分子で、より緻密なハードセグメントを有するプレポリマー、または水のような硬化剤と置き換えて、より軟質な低弾性率の心線処理を行う。このように、心線の接着硬化剤は、好ましくは水であってもよく、一方製品の本体には同じプレポリマーを利用してもよいが、ジアミンまたは重合ジアミンなどのような、さらに従来からある鎖延長剤を利用してもよい。
【0054】
抗張心線繊維にPUU接着樹脂を塗布する場合、接着剤組成物の成分を、適切な溶媒の中に溶解または懸濁させてもよい。適切な溶媒は、プレポリマーを溶解させ、更に抗張心線の繊維をぬらして良好に含浸させる溶媒である。溶媒または接着剤溶液と繊維とは、低角度で接触することが望ましい。適切な溶媒には、特に限定はなく、テトラヒドロフラン(「THF」)、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(「NMP」)、トルエン、キシレン、ベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどがある。本発明の一実施形態に従って炭素繊維の心線を処理する場合、好ましい溶媒にはテトラヒドロフランおよびトルエンがある。
【0055】
好ましい実施形態において、低遊離PPDI(p−フェニレンージイソシアネ−ト)/ポリカプロラクトンプレポリマーを、10%重量〜50重量%または20%重量〜40重量%の範囲となり得る所定の濃度で、トルエンまたはテトラヒドロフランなどの溶媒に溶解し、その溶液を浸漬タンクに加える。炭素繊維の心線を得るために、好ましくは、例えば1インチ当たり0.75から2.5回撚られた形状の心線は、浸漬タンクで引き回され、次いでオーブンに通して溶媒を蒸発分散させる。代替的に、心線は、繊維を伸ばして最大限に浸透させて後で撚るという方法により、撚られない形状で浸漬されて乾燥させてもよい。オーブンに通し、溶媒の大半を除去した後、プレポリマーを水と反応させる。心線をウォーターバスに浸漬させて、スプーリングの前に反応を高めることで、例えば、スプールへの心線の固着を防止することができる。ウォーターバスは、必須ではないが、心線外面へのウレア皮膜の形成を促進する触媒などの化学物質を含有してもよい。同様に、例えば乾燥オーブン内の熱を用いて、ウレア皮膜の形成を促進させることができる。心線内部のプレポリマーは、周囲の環境湿分によって硬化してゆく。心線内側のこの硬化には数日かかる場合があるが、心線は、完全に硬化しているか否かに拘らず、処理後いつでも、注型PUで製造された製品に使用してもよい。製品が硬化するにつれて、心線も硬化し続ける。心線を十分に硬化させる処理であっても、概して、製品を硬化する間、製品の本体材料の硬化および本体との結合を持続させるのに充分な反応基を有する。水は、プレポリマー上でイソシアネート基と反応することで硬化剤の機能を果たす。イソシアネートは水と反応して、カルバミン酸を形成する。カルバミン酸は分離して、アミンと二酸化炭素を形成する。アミンはイソシアネートと反応して2つの置換基を有するウレア結合を形成し、さらなる縮合反応をもたらす。この反応により、ウレア結合による極めて緻密なハードセグメントを形成する。
【0056】
本発明の一実施形態によれば、PUU処理は、好都合には固体分が20%〜40%であってもよく、好ましくは十分に低粘度であり、撚りの有無によらず、浸漬処理の間に繊維束に充分浸透させることができる。溶媒を乾燥させて除去させた後、PUUは、好ましくは個々の繊維束を被覆するが、心線の間隙を完全に充填する必要はない。PUU樹脂では、処理された心線の使用目的に応じて、間隙の約20%〜約99%または100%までを充填していることが好都合である。特に、動力伝達ベルトなどの注型ポリウレタン製品の用いる場合、例えば、間隙全体の20%〜90%、または30%〜80%、或いは40%〜60%に部分的に充填するのみでよく、間隙または空隙を残して、その部分にベルト本体の注型PUによって浸透させることで、心線を過度に硬くすることなく一定レベルの機械的な接着をもたらし、なおPUU処理の利用から利益を得ることができる。注型PUベルト本体がこのようにPUU処理された心線の空隙に浸透すると、PU材料とPUU材料が密に接触して、それらの間の化学的な結合を容易にする。一方、心線に追加の接着剤を被覆させて、一定のゴム製品の結合において行うような化学的接着を行う場合、例えば、全体の40%〜100%または60%〜99%と、より完全に心線を含侵させることが、より適切な状態となり得る。接着剤のピックアップレベルとして重量%で示されるピックアップの程度は、処理された心線の重量に基づき、撚られた心線の空隙または間隙の程度に応じて変化させてもよい。心線上のPUU接着剤のピックアップレベルは、6%〜25%、8%〜22%、または10%〜15%の範囲であってもよい。
【0057】
本発明の抗張心線を用いた一実施形態による注型ウレタンベルトは、参照によりここにすでに組み込まれている参考文献に記載されるような、公知の方法に従って調製してもよい。同様に、TPEまたはTPUのベルトは、無端ベルトに代えて2つの端部を有するベルトを製造する連続積層法等の公知の方法によって調製してもよい。2つの端部を公知の方法によって繋ぎ、TPEまたはTPUの無端ベルトを調製してもよい。ゴムベルトは、この技術分野において公知の方法に従って、マンドレル上に構築し、硬化し、幅裁断してもよい。
【0058】
本発明の一実施形態による補強心線は、動力伝達ベルト、運搬または移送用ベルト、ストラップ、タイヤ、ホース、空気ばね、振動取付材などの様々な種類のエラストマー複合品に用いてもよいことを理解されたい。
【0059】
実施例:
【0060】
以下の例示および実施例は、本発明を限定することを意図したものではなく、様々な実施形態における有用性を示している。実施例は、注型ポリウレア−ウレタンベルト用途、TPUベルト用途およびゴムベルト用途における本発明の使用法を示している。
【0061】
例示1。
【0062】
Toho社製のG30 700 12k HTA−7Cと識別された1対の12k−1ヤーンを、1インチ当たり2.0±0.1回転反対方向に撚られた、「S撚り」および「Z撚り」の12k炭素心線を形成する。生機の一部分である撚られた心線を用いて、ナットソン(Knutson)等の米国特許第5,807,194号明細書の方法に従って、ここに比較の実施例1(「比較例」1)と称する8mmピッチの注型PU歯付ベルトのスラブを調製した。心線の別の部分を本発明の一実施形態に従って処理した後、ここに実施例2(「実施例」2)と称する本発明の8mmピッチ歯付ベルトの2枚目のスラブを調製するために用いた。
【0063】
実施例2のPUU接着剤処理では、約2.1の最終官能性を有する二官能価と三官能価のPPDI末端ポリカプロラクトンプレポリマーのブレンドをトルエン溶媒に加えて、浸漬タンクに33重量パーセント固形物の溶液を調製した。生機の撚られた心線を浸漬させた後、濡れた心線をオーブンに通して溶媒を蒸発分散させた。オーブンから取り出した直後に、心線をウォーターバスに浸漬させ、風乾させた後、スプールに巻きつけた。固形物のピックアップレベルは、「S撚り」および「Z撚り」を浸漬させた心線でそれぞれ、16.1および14.0重量パーセントであった。心線の剛性は、スプーリング直後と高湿度環境下で一晩静置した後に測定した。心線の剛性は、ASTM D747の手順に従い、Tinius Olsen剛性試験機で測定し、12.7mmの長さで、0°〜65°の偏向範囲で試験を行った5本の平行な心線におけるポンド単位(またはキログラム単位)での実際の最大屈曲力を基準にした。実施例2の初期剛性は、それぞれ0.49lbfと0.73lbfであった。一晩静置後、剛性はそれぞれ1.14lbfと1.08lbfであった。水による硬化は、比較的緩やかに行ってもよく、結果として時間または日の経過に伴い剛性は漸変した。既に報告されているヤーンでの対応する炭素の断面積(0.00455cm)およびベルトでの心線の最終断面積(0.00665cm)に基づいて、心線内の空隙容量は、最終断面積の約31.6%であると算出された。S撚およびZ撚の心線に関してピックアップされた処理の重量パーセントは、このように心線の間隙に対応しており、55〜60パーセントがPUU樹脂で充填されていた。結果として得られた心線を検査したところ、ベルトを組み立てる間、繊維の外層が軽く被覆され、注型PUによりさらに含浸を行うための間隙が多数残り、結果的に心線がベルト本体に極めて良好に接着していることが明らかになった。処理された心線と生機心線で引張試験を行ったところ、引張力は生機心線で148lbs、処理された心線では222lbsと、50%改善していた。この引張力の劇的な改善は、引張試験を行った生機ヤーンでの困難性と処理されたヤーンでの取扱い特性の改善を反映しうるものである。ベルト断面を高倍率で検査すると、注型PU樹脂が、心線の接着剤処理の後に残った間隙すべてにほぼ完全に充填されていることが明らかになった。ベルトの製造に用いた注型PU樹脂の配合処方は、TMGDABで硬化されたポリテトラメチレンエーテルグリコール(「PTMEG」)に基づいたTDI末端ポリエーテルプレポリマーに基づくものであった。
【0064】
ベルトを製造した後、心線のサンプルを生機および処理された心線ベルトから取り外し、心線の剛性試験に供した。2本の平行な心線のサンプルを、通常の5本の心線の代わりに用いた。比較例1の心線は、実施例2の処理された心線より硬く、それぞれ剛性は0.66lbfと0.52lbfであった。本発明の心線処理はこのように、ベルト内の心線の静的曲げ剛性を約20%低下させた。
【0065】
動的ベルト曲げ試験を2種の周波数と温度で行った場合もまた、生機心線と処理された心線との間で有意な弾性率の差が示された。この試験の結果は表1に示している。すべてのテスト条件において、実施例2の処理された心線を用いたベルトでは、ベルトの曲げ弾性率が比較例1の生機心線を用いたベルトよりも低くなった。本発明のPUU接着剤処理を用いた心線の処理は、心線の動的曲げ弾性を減少させた。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例2で処理されたPUUを、固形分濃度25%重量のTHFと混合し、IR窓上で膜の注型に用いた。結果として得られたPUU膜は、0.018インチ厚であった。その膜をFTIR測定器にかけ、溶媒の蒸発と、NCO基と水の反応を追った。NCOピーク面積は、約200分後に50%低下し、約500分後に実質的に消滅した。張力試験に供するため、本発明の処理でのより厚い膜の注型と、ベルト本体の注型PUUを調製する試みを行った。気泡が一部観察されたが、結果として得られた膜は張力試験での比較のためには、十分なものであるとみなされた。水で硬化させる接着剤処理では、TMGDABで硬化させるベルト材料と比べて弾性率が約2/3低く、伸びはほぼ同じで、張力強度は約1/3低下していた。したがって、本発明の一実施形態によれば、補強心線を、ジアミン硬化型PUU注型用組成物の類似物である湿気硬化型PUUを用いて処理することで、相対的に弾性率の低い、より可撓性のある、張力強度が同等かはるかに良好で、注型PUUとの優れた適合性を有する心線が得られる。
【0068】
実施例2のベルトを多数の試験に供し、比較例1を超える一定の優位点を証明した。ベルト引張り強さは、ベルトを2つの60°溝スプロケットに取り付け、任意にクリップ式伸縮計を用いて、従来の引張試験機で25.4mm/分の強度で引張り、測定を行った。
ベルトの曲げ調整は、2つの22−溝プーリを2地点に配置し3600rpmで駆動させ、静荷重165ポンドの張力で168時間および336時間かけて行った。曲げ調整の後(即ち、「調整後」)の保持された引張強さを表2に報告している。後方曲げ試験では、ベルトを、ベルト上の同一箇所で、所定の直径のパイプ周りに後方に3回曲げた後、2つのプーリ間の範囲内で損傷箇所の張力を調べた。後方屈曲後の保持された引張力は、表2にも報告されている。静的心線接着試験(ベルトから長さの短い2本の心線を引き抜く)およびベルトの静的歯部せん断試験では、比較例と2と実施例1との間に有意差は見られなかった。最後に、動力計装置上で動的ベルト試験を行い(「Dyno試験」)、ベルト耐荷重、動的接着性、耐久性等を評価した。Dyno試験では、幅18mm、歯数140の8mmのGT(登録商標)形ベルトを2つの24−溝プーリ上で19馬力および2000rpmで稼働させ、室温にて213ポンドの静荷重の張力を加えた。有意に異なる結果を示すことが知られている2つの異なる試験機を用いた。各結果から求めた2本のベルトの寿命の平均値は、表2に報告された。
【0069】
本発明のベルトが、曲げ調整の開始時と後において、比較対照のベルトより引張り強さが僅かに高いことが表2から確認できる。これは、処理された心線の取扱耐性が、生機の心線を超えたものと考えられる。しかし、後方曲げ試験は、より軟質のPUU処理された心線が生機の心線より飛躍的に超えたことを最も明らかに示している。生機心線では、27mm後方に曲げた後、その強度の半分が失われているが、本発明の心線では強度の損失は見られない。より強い後方屈曲では、本発明の心線に強度の損失が見られるが、損失率は比較対照のベルトよりはるかに低い。このように、本発明のベルトは、10mm径での屈曲においても、比較対照ベルトの27mm径での屈曲の場合と同様の性能を示す。表2からは、Dyno試験において、実施例2のベルトが平均的に比較対照のベルトを若干上回る性能を示していたことも確認される(歯欠けの故障モードが全ベルトで観察された)。このように、軟質なPUU接着剤での処理は、接着性や耐荷重などの他の性能特性を失うことなく、取扱耐性における有意な改善を供する。
【0070】
【表2】

【0071】
例示2
【0072】
一連の2回目の試験では、比較例3および実施例4のベルトは、ポリエステル系のTPUベルト本体と歯面上にナイロン布を用いて構成した。これらの歯付ベルトは、メトリック T10形(10mmピッチの台形歯形)を備えた25mm幅に裁断された無端ベルトであった。比較例3は、従来の鋼製の心線で構成され、実施例4は、上記実施例2と同じ本発明の心線を使用した。これらの2つのベルトの見本が心線の接着試験に供され、その結果が表3に示される。表3は、実施例4の本発明の処理された心線が、比較例3で使用された従来の心線と同等またはそれ以上の接着性能を有し、本発明の一実施形態はTPUベルトでの使用に適していることを証明している。
【0073】
【表3】

【0074】
例示3
【0075】
この一連の工程では、トレカ(登録商標)T700GC 41E 12k−1ヤーンを用いて、例示1の場合と同様に、8mmピッチの歯付注型PUUベルトを調製した。生機の撚った心線で調製された比較対照ベルトを比較例5と称する。心線の一部分を、本発明の別の実施形態に従って処理した後、本文中の実施例6として、本発明の8mmピッチの歯付ベルトのスラブを作るために使用した。実施例6のPUU接着剤処理には、イソシアネート基にMEKOブロック剤とともに、ポリエステル/TDIプレポリマーを使用した。硬化剤は、ジアミン、DETDAであった。ブロックされたプレポリマーと硬化剤の混合液を圧力下で炭素繊維束に含浸させたが、上記のように溶媒を使用した方が容易であったと思われる。曲げ調整試験において150ポンドの静荷重の張力で、ベルトの張力崩壊を再度評価した。そして、様々な径のパイプを用いて後方屈曲および前方屈曲を行って、取扱損傷を再度評価した。結果は表4に示している。本実施形態ではまた、取扱耐性が比較対照ベルトを超えていることが理解される。実施例7に示すブロックされたプレポリマーを使用する別の実施例では、硬化剤はジアミン、MCDEAであったが、利用可能なベルトのデータはない。
【0076】
【表4】

【0077】
例示4
【0078】
この実施例の組み合わせにおいて、PUU処理された炭素心線を用いた実施形態を、ゴム製歯付ベルトでの従来のRFL処理を行った炭素心線と比較している。12k−1の炭素の束は、今回も、例示1の実施例2の記載と同じ処理を施されたPUUであるが、さらに、この処理された心線をCilbond 81被覆接着剤の中に浸漬させ、再度乾燥させた。比較対照のベルトでは、X−HNBR−RFL処理された12k心線を、米国特許第6,695,733号明細書の方法に従って調製し(同特許(米国特許第6,695,733号)明細書の表1並びに参照によりここに援用されている関連文献を参照)、さらにCilbond 81を用いて被覆も行った。歯付ベルトは、周知の方法に従って調製した。ナイロン布スリーブを97−溝(9.525mmピッチ)マンドレルに装着し、S撚およびZ撚の両方の撚られた心線を、1インチ当たり計18本のストランドで螺旋状に巻き付け、ゴムが通り流れるような適切な間隔を設けて、硫黄硬化HNBRゴムの層を適用し、ゴムが心線内を流れる程度の圧力および温度で硬化して、複合材の硬化に伴い布を溝に押圧して歯を形成する。結果として得られたスリーブをマンドレルから除去した後、個々のベルトを19mm幅に裁断した。RFL処理された心線を用いた比較対照ベルトを比較例8とし、PUU処理された心線を用いた本発明のベルトを実施例9とする。多数のベルト試験が行われ、その結果は表5に示されている。張力強度は前述のとおり、心線の接着として測定した。被覆材接着試験では、被覆材−心線の接着性の測定を主に行った織布領域では最小限度にして、被覆材−ゴムの接着性の測定を主に行った歯の領域では最大限に、ベルトの歯布をベルトから引き剥がした。ベルトの運転温度は、無負荷の曲げ試験装置で24時間測定した。この曲げ試験は図4に図示している。歯数97の同期ベルトを、溝数19の原動プーリ50、溝数がそれぞれ19と20の2つの伝動プーリ52および54、2つの背面アイドラ56(50mm径)およびテンショナ58上で稼働させた。懸垂荷重として200Nの張力を、テンショナ58を用いて適用した。曲げ試験は、6200rpmで室温にて実施した。
【0079】
表5は、本発明によるゴムベルトが比較対照のベルトと同等の性能を有することを示している。一部の例において、試験を行った本発明の初期のベルトは比較対照のベルトより劣っているが、空気エイジングされた後の本発明のベルトは、例えば心線接着試験および動的な歯の耐久性試験において、同等であった。これは、PUU材料の緩やかな硬化によるものと考えられ、本発明の一部の実施形態に関して、硬化後処理または接着剤への触媒添加による実施可能な有利な使用法を示している。曲げ試験装置では、本発明のPUU処理された心線は、RFL処理された心線よりもベルトの運転温度がより低いという結果となり、これは改善されたPUUの動的特性がRFLを超えたことによると考えられる。
【0080】
【表5】

【0081】
例示5
【0082】
この一連の実施例では、大まかには例示1を繰り返したものであるが、接着剤溶液中の固形物を27.5%とし、接着剤のピックアップレベルを変化させ、1インチ当たりの撚り数を1.2〜1.3回にした、遥かに大きな12k−4炭素心線の束を含む種々の他のサイズの炭素心線を用いている。処理後、水への浸漬は行わなかった。上述の通り、生機の撚られた心線(SおよびZ)の一部分をナットソン(Knutson)等の米国特許第5,807,194号明細書の方法に従う比較用の注型PUU歯付ベルトの調製に用いた。表6に示すように、処理された12k−4炭素心線(例示1の東邦12kヤーンで調製)を、14mmピッチHTD(登録商標)−形ベルトに調製した。本例示の14mmベルトでは、上記例示1に示すように、同じ注型PUU樹脂組成、即ち、PTMEGをベースにしたTDI末端ポリエーテルプレポリマーをベルト本体に使用し、TMGDABで硬化した。表6に示すように、実施例11および12の12k−4心線では、比較例10の生機心線を超える引張り強さが示された。例示1の12k−1心線に対する剛性の増加は、心線の径の増加と比例している。処理後の心線の引張り強さの増加は、上記例示1で見られた増加と同程度である。浸漬液のピックアップレベルは、この12k−4心線の運転においては10.3%〜14%の範囲であった。最後に、実施例11および12のベルトの取扱試験が、比較例10より径の小さいプーリ上で行った後方屈曲の後に、再び残留引張り強さの劇的な改善を示している点に留意されたい。
【0083】
【表6】

【0084】
表7に示す結果は、本例示において心線サイズを12k−1〜18k−1の範囲で調製する場合には、本発明が適用可能であることを示している。図7の結果はまた、得られた心線では、6.2%〜17%の広範な固形物のピックアップレベルを示している。各事例において、本発明の実施例の心線では、生機の心線より引張り強さが顕著に改善されており、引張試験における操作性の改善をもっと有力に示している。本発明の心線の引張強度が固形物のピックアップレベルとは無関係であり、SおよびZの心線に関して1つの平均値を報告している点も注目に値する。心線の剛性は、心線のサイズおよび固形物のピックアップレベルに伴って上昇すると思われる。
【0085】
【表7】

【0086】
調製した心線の様々な実施例、並びに注型後または成形後のベルト断面に対して顕微鏡検査を行った。本発明の心線の外側には、概して重合皮膜はなかった。心線の外繊維には、概して、PUUが十分に被覆されており、必ずしも結合しているわけではないが、外繊維が飛散したり、心線の裁断時にすり切れたりする様子は見られない。心線の内部には、概してPUU接着剤が十分に浸透しているが、必ずしも全体に浸透しているものではない。注型ウレタンベルトのベルト本体材料は、概して処理された心線に浸透することが可能であり、ほぼ完全に残りの間隙を埋めている。これは、化学的接着に加え、優れた物理的または機械的な接着を提供しているものと考えられる。処理条件により、処理された心線は、スプール上で乾燥および重合または硬化を行うため、断面が生機心線のような円形でない場合がある。このように、本発明の心線では、スプール上に巻き付けるため、前層上で心線が設置していた箇所が平坦になることがある。
【0087】
本発明の実施形態は、先行技術を超える数多くの利点を示している。本発明は、裁断時の心線のほつれを解消し、ベルト引張強度、ベルト曲げ耐性および取扱損傷耐性の向上をもたらす。概して、本発明によって、性能に関連してベルトの他の物理的特性に負の影響が生じることはない。例えば、注型PUベルトの場合、本発明のベルトの屈曲疲労強度および負荷寿命は、生機心線で製造したベルトと同程度またはやや上回っている。類似の利点が、ここにおいて上記に記載および/または例示したような他の補強エラストマーの用途においても実現されなければならない。
【0088】
本発明およびその利点について詳述してきたが、本発明の範囲を逸脱しない限り、ここにおいて、添付の請求項によって定義されるように、様々な変更、代替および修正が可能であることを理解されたい。さらに、本発明の用途の範囲は、ここに記載の工程、機械、製造物、組成物、手段、方法および過程の特定の実施形態に限定されることを意図したものではない。当業者であれば本発明の開示から、ここに記載の対応する実施形態を本発明に従って用いた場合に、実質的に同等の機能を果たし、実質的に同等の結果を達成する既存の或いは今後開発される工程、機械、製造物、組成物、手段、方法または過程について容易に理解されよう。したがって、添付の請求項はその範囲に、このような工程、機械、製造物、組成物、手段、方法または過程を包含することが意図されている。ここで開示される本発明は、ここにおいて具体的には開示されてはいない任意の要素が存在していない場合でも、適宜実施されてもよい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー本体と、このエラストマー本体に埋め込まれる抗張心線とを備え、
この抗張心線がポリウレア−ウレタン組成物に含浸され、
ポリウレタンプレポリマーのポリウレア反応生成物と、
ジアミンおよび水から成る群から選択される硬化剤
との反応生成物を備えるベルト。
【請求項2】
前記プレポリマーが、ジイソシアネートと、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールおよびポリエーテルポリオールから成る群から選択される1以上のポリオールとの反応生成物を含み、前記硬化剤が水である請求項1に記載のベルト。
【請求項3】
前記ジイソシアネートが、パラ−フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートおよび4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネートから成る群から選択される請求項2に記載のベルト。
【請求項4】
前記1以上のポリオールがポリカーボネートポリオールおよびポリカプロラクトンポリオールから成る群から選択される請求項3に記載のベルト。
【請求項5】
前記1以上のポリオールがジオールとトリオールとの混合物を含む請求項4に記載のベルト。
【請求項6】
前記抗張心線が繊維間の間隙にフィラメントヤーンを備え、前記組成物が少なくとも前記間隙の少なくとも一部に含浸し、前記繊維を被覆する請求項5に記載のベルト。
【請求項7】
前記含浸部が前記間隙容積の約20%から約100%までである請求項6に記載のベルト。
【請求項8】
前記抗張心線が、前記炭素繊維間に間隙を有する複数の炭素繊維から成るヤーンを備え、前記組成物が前記間隙容積の20%から100%まで含浸して、前記炭素繊維を被覆する請求項5に記載のベルト。
【請求項9】
前記プレポリマーが、パラ−フェニレンジイソシアネートと1以上のポリカプロラクトンポリオールの反応生成物を含み、前記硬化剤が水を含む請求項1に記載のベルト。
【請求項10】
前記組成物が、実質的にポリウレタンプレポリマーと水とのポリウレア反応生成物から成る請求項1に記載のベルト。
【請求項11】
前記エラストマー本体が注型ポリウレタンエラストマーを備え、前記エラストマーが前記組成物と密に接触している請求項1に記載のベルト。
【請求項12】
前記抗張心線が、前記炭素繊維の間に間隙を有する複数の炭素繊維から成るヤーンを備え、前記組成物が前記間隙容積の20%から99%まで含浸して、前記炭素繊維を被覆し、前記エラストマーが前記間隙の少なくとも残余の一部に含浸する請求項11に記載のベルト。
【請求項13】
前記エラストマー本体が加硫ゴムを備える請求項1に記載のベルト。
【請求項14】
前記抗張心線が、前記接着剤組成物と前記加硫ゴムとの間に配置された被覆接着剤層を含む請求項13に記載のベルト。
【請求項15】
前記エラストマー本体が熱可塑性エラストマーを備え、前記エラストマーが前記接着剤組成物と密に接触している請求項1に記載のベルト。
【請求項16】
前記エラストマーが熱可塑性ポリウレタンである請求項15に記載のベルト。
【請求項17】
前記ベルトが第1の末端と第2の末端を有する請求項16に記載のベルト。
【請求項18】
前記ベルトが無端動力伝達ベルトである請求項1に記載のベルト。
【請求項19】
前記ベルトが歯付ベルトである請求項18に記載のベルト。
【請求項20】
エラストマー製品を補強するための抗張心線であって、
前記心線の少なくとも一部にポリウレア−ウレタン組成物が含浸され、
ポリウレタンプレポリマーが、ポリイソシアネートと、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールおよびポリエーテルポリオールから選択される少なくとも1のポリオールとの反応生成物と、
ジアミンおよび水から選択される鎖延長剤を含む抗張心線。
【請求項21】
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールおよびポリカプロラクトンポリオールから成る群より選択され、ジオールとトリオールの混合物を含み、前記ポリイソシアネートが、パラ−フェニレンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネートおよび4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートから成る群より選択され、前記鎖延長剤が水である請求項20に記載の抗張心線。
【請求項22】
前記抗張心線が、前記炭素繊維間に間隙を有する複数の炭素繊維を備えているフィラメントヤーンを備え、前記組成物が前記間隙の容積の20%から99%までに含浸して前記炭素繊維を被覆する請求項21に記載の抗張心線。
【請求項23】
ポリウレタンプレポリマーを含む浸漬液を不活性溶媒中で混合し、
フィラメントヤーンを前記浸漬液に浸漬し、
前記浸漬したフィラメントヤーンを乾燥させて前記溶媒を除去し、
前記プレポリマーを水の存在下である程度まで硬化することにより、
少なくとも部分的にポリウレア−ウレタン組成物を含浸させた抗張心線を提供する
方法。
【請求項24】
前記抗張心線をエラストマーベルト本体に埋め込むことをさらに備えた請求項23に記載の方法。
【請求項25】
可撓性エラストマー製品を補強するために用いる繊維束を含浸するための接着剤組成物であって、
ポリウレタンプレポリマーと水の反応生成物を含み、
前記ポリウレタンプレポリマーがパラ−フェニレンジイソシアネートとポリカプロラクトンポリオールの反応生成物を含む接着剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−512405(P2013−512405A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542100(P2012−542100)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/057943
【国際公開番号】WO2011/068729
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(504005091)ザ ゲイツ コーポレイション (103)
【Fターム(参考)】