説明

動力伝達機構の制御装置

【課題】例えば、燃費を極力悪化させないように触媒の温度を高め、車両の走行に必要な駆動力を駆動輪に伝達する。
【解決手段】ECU(10)は、ロックアップピストン(21a)のフェーシング(21b)とコンバータカバー(26)とを滑らせる状態(スリップ状態)にするスリップ制御を行う。例えば、ECU(10)は、エンジン(1)の排気を浄化する触媒の触媒温度が当該記触媒の浄化可能温度より低く、且つ当該触媒温度及び浄化可能温度の温度差が所定の温度差より大きい場合に、ロックアップクラッチ(21)のスリップ量を増大させるようにトルクコンバータ(2)を制御すると共に、スリップ量が所定のスリップ量を超えた際にロックアップクラッチ(21)を解放するようにトルクコンバータ(2)を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両を駆動させるためのトルク等の動力を変換するトルクコンバータを含む動力伝達機構(パワートレイン)を制御するための動力伝達機構の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達機構としては、オイル等の流体継手を介してエンジン及び変速機を機械的に相互に連結するトルクコンバータを備えた機構が知られている。また、この種の動力伝達機構を備えた車両では、エンジンの排気を浄化する触媒が通常設けられている。触媒が排気を浄化する浄化能力は、触媒の温度に依存する割合が大きく、触媒の温度は当該触媒の活性化温度以上であるほうが浄化能力を高めるうえで好ましい。例えば、特許文献1は、触媒の温度が低い場合に、ロックアップクラッチの締結力を低下させることによってエンジンの回転数を上げ、排気の温度を高めることによって触媒の温度を高める技術を開示している。
【0003】
特許文献1に開示された技術をハイブリッド車両に応用すれば、触媒の温度が低い場合に、バッテリの充電が十分であることを前提として、エンジン及び動力伝達機構のクラッチを解放し、モータから供給される駆動力のみで車両を走行させ、アイドル状態にあるエンジンの排気によって触媒の温度を高めることが可能である。また、ハイブリッド車両の除く車両、即ちエンジンで発生した動力のみを駆動力として走行する車両についても、車両が停車している際にエンジンの負荷を高めて触媒の温度を高めることが可能である。
【0004】
一方、特許文献2は、触媒の温度を高める際に、ロックアップクラッチのロックアップ、即ち、締結を禁止することによって、燃費を向上させる技術を提案している。
【0005】
【特許文献1】特開平4−39460号公報
【特許文献2】特開2004−36737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術によれば、触媒の温度を高めることが可能である反面、燃費は単純に悪化するのみであり、エンジンに効率良く動力を発生させることが困難になる問題点がある。加えて、特許文献2によれば、車両の停車時、或いはハイブリッド車両がモータから供給された動力のみで走行する場合のように、エンジンに加わる負荷が低い条件下でしか触媒の温度を高めることができない問題点がある。したがって、運転者による操作に応じてエンジンに加わる負荷が高い状態(即ち、高負荷状態)にある場合には、燃費の悪化を抑制しつつ、触媒の温度を高めることが困難になる問題点がある。
【0007】
また、ロックアップクラッチを解放することによってエンジンの回転数を高めるだけでは、動力伝達機構から車両の駆動輪に伝達される駆動力が不足してしまう問題点も生じる。
【0008】
よって、本発明は上記問題点等に鑑みてなされたものであり、例えば、燃費を極力悪化させないように触媒の温度を高め、車両の走行に必要な駆動力を駆動輪に伝達できる動力伝達機構の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る動力伝達機構の制御装置は上記課題を解決するために、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータの入力軸に接続され、且つ車両の動力を発生するエンジンとを有する動力伝達機構を制御するための動力伝達機構の制御装置であって、前記エンジンの排気を浄化する触媒の触媒温度が前記触媒の浄化可能温度より低く、且つ前記触媒温度及び前記浄化可能温度の温度差が所定の温度差より大きい場合に、前記ロックアップクラッチのスリップ量を増大させるように前記トルクコンバータを制御すると共に、前記スリップ量が所定のスリップ量を超えた際に前記ロックアップクラッチを解放するように前記トルクコンバータを制御する第1制御手段と、前記ロックアップクラッチが解放され、且つ前記エンジンが高負荷状態にある場合に、前記動力伝達機構を介して前記車両に伝達される駆動力が、噴射量を調整することによりスロットル開度に対して増加する増加率が抑制されるように、前記エンジンを制御する第2制御手段とを備える。
【0010】
本発明に係る動力伝達機構の制御装置によれば、第1制御手段は、前記エンジンの排気を浄化する触媒の触媒温度が前記触媒の浄化可能温度より低く、且つ前記触媒温度及び前記浄化可能温度の温度差が所定の温度差より大きい場合に、前記ロックアップクラッチのスリップ量を増大させるように前記トルクコンバータを制御する。浄化可能温度とは、大なり小なり触媒の浄化機能が作用し始める温度をいい、必ずしも触媒の活性化温度と一致していなくてもよい。所定の温度差とは、当該触媒による排気の浄化作用が機能しない程度に触媒温度が浄化可能温度より低くなっている場合の温度差をいい、触媒の材料、或いは動力伝達機構が用いられる環境の温度等の個別具体的な条件に応じて設定可能である。したがって、触媒温度が前記触媒の浄化可能温度より低く、且つ前記触媒温度及び前記浄化可能温度の温度差が所定の温度差より大きい場合とは、触媒が排気を浄化する浄化作用が全く機能していない状態をいう。
【0011】
ロックアップクラッチは、例えば、オイル等の流体継手を介してその締結及び非締結(即ち、解放)が切り換え可能な係合手段であり、第1制御手段の制御下において、オイルの圧力を変更することによって締結状態が変更され、そのスリップ量が変更される。したがって、第1制御手段は、スリップ量を増大させるように、より具体的には、スリップ量の増大に伴ってエンジンの回転数が高まるようにトルクコンバータを制御する。
【0012】
第1制御手段は、前記スリップ量が所定のスリップ量を超えた際に前記ロックアップクラッチを解放するように前記トルクコンバータを制御する。これにより、排気の排出量を増大させることができ、排気が有する熱エネルギーによって触媒温度を高めることが可能になる。
【0013】
第2制御手段は、前記ロックアップクラッチが解放され、且つ前記エンジンが高負荷状態にある場合に、より具体的には、例えば、車両を運転する運転者によるアクセルの踏み込み量が増大することによって、車両を走行させるための駆動力が高い水準に設定された際に、前記動力伝達機構を介して前記車両に伝達される駆動力が、噴射量を調整することによりスロットル開度に対して増加する増加率が抑制されるように、前記エンジンを制御する。ここで、既に第1制御手段の制御下においてエンジンの回転数が増大しているため、スリップ量を増大させる前に比べて駆動力は増大している。第2制御手段は、駆動力が増大した状態で、言い換えれば、エンジン回転数の増大に伴って当該エンジンが高負荷状態にある場合に、スリップ量を増大させる前に比べて駆動力が低下させることなく、スロットル開度に対する駆動力の増加率が抑制されるように、例えば、空燃比を高く(即ち、A/Fリーン状態に)設定することによって、燃費を高めることが可能になる。また、A/Fをリーンにすることにより、排気ガス温度が上昇し、効率的に触媒温度を高めることができる。
【0014】
したがって、本発明に係る動力伝達機構の制御装置によれば、エンジンが高負荷状態にある場合でも、車両の走行に必要な駆動力を駆動輪に伝達しつつ、エンジンの燃費及び触媒による排気の浄化作用の夫々を向上させることが可能である。
【0015】
本発明に係る動力伝達機構の制御装置の一の態様では、前記第2制御手段は、前記エンジンの回転数及び前記スロットル開度の少なくとも一方に基づいて、前記増加率が小さくなるように前記エンジンを制御してもよい。
【0016】
この態様によれば、前記エンジンの回転数及び前記スロットル開度の少なくとも一方によってエンジンに加わる負荷状態を特定可能である。
【0017】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る動力伝達機構の制御装置の実施形態を説明する。
【0019】
<1:動力伝達機構の構成及び動力伝達機構の制御装置>
先ず、図1を参照しながら、本実施形態に係る動力伝達機構の制御装置によって制御される動力伝達機構(パワートレイン)500の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る動力伝達機構の制御装置と共に当該動力伝達機構500の主要な構成を概念的に示した概略構成図である。尚、本実施形態では、エンジン及びモータを動力源として駆動されるハイブリッド車両を例に挙げるが、本発明に係る動力伝達機構の制御装置は、ハイブリッド車両を除く他の車両、より具体的には、エンジンのみを駆動源として駆動される車両にも適用可能である。
【0020】
図1において、動力伝達機構500は、エンジン1、モータジェネレータMG、トルクコンバータ2、及び自動変速機構3を備えている。ECU10は、本発明に係る「動力伝達機構の制御装置」の一例を構成すると共に、本発明の「第1制御手段」及び「第2制御手段」の夫々の一例を兼ねている。
【0021】
ECU10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えており、動力伝達機構500及び動力伝達機構500を搭載したハイブリッド車両の動作全体を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、ROM等の記憶部に格納された制御プログラムに従って、後述する動力伝達機構500の制御処理を実行可能に構成されている。
【0022】
エンジン1及びモータジェネレータMGは、当該ハイブリッド車両の駆動源に相当し、相互に直列に接続されている。トルクコンバータ2及び自動変速機構3は、これらの駆動源に接続されている。具体的には、エンジン1及びモータジェネレータMGは、トルクコンバータ2の入力軸に接続されている。トルクコンバータ2の出力軸は、自動変速機構3の入力軸と接続されている。自動変速機構3の出力軸5は、駆動輪(不図示)に接続されている。従って、エンジン1及びモータジェネレータMGで発生した動力が択一的に若しくは一緒にトルクコンバータ2及び自動変速機構3を介して伝達され、当該ハイブリッド車両の駆動力として駆動輪に伝達される。
【0023】
また、走行中にアクセルペダル(不図示)の踏み込みが解放されて減速走行するときに、駆動輪からの駆動力が自動変速機構3及びトルクコンバータ2を介して駆動源に伝達されるが、このとき、エンジン1のフリクショントルクによる制動作用が生じるとともに、モータジェネレータMGが駆動することによる発電が行われる。モータジェネレータMGは、エンジン1及びトルクコンバータ2の入力軸と接続されているため、モータジェネレータMGが発電を行うことにより、エンジン1の出力軸1a及びトルクコンバータ2の入力軸には、モータジェネレータMGより回生制動トルクが作用する。従って、ECU10は、モータジェネレータMGを制御することにより、エンジン1の回転数を変化させることができる。
【0024】
エンジン1は燃料を燃焼して動力を発生する熱機関であり、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどが挙げられる。トルクコンバータ2は、オイルを介して動力を伝達する機能を有する流体式動力伝達装置の一種である。トルクコンバータ2は、ロックアップクラッチにより、トルクコンバータ2の入力軸と出力軸との間を締結及び解放することが可能に構成されている。ロックアップクラッチを解放した状態では、駆動源(エンジン1及びモータジェネレータMG)と自動変速機構3との間でオイルを介して駆動力の伝達が行われる。ロックアップクラッチを締結した状態では、駆動源と自動変速機構3とが直結されて、駆動源からの駆動力が直接、自動変速機構3に伝達される。尚、油圧制御装置4は、ECU10の制御下において、トルクコンバータ2に供給されるオイルの油圧を調整することによって、当該ロックアップクラッチのすべり量を変更可能に構成されている。
【0025】
ECU(Electronic Control Unit)10は、図示しないCPU、ROM、RAM、A/D変換器及び入出力インターフェイス等を有し、各種センサからの検出信号に基づいて、エンジン1、モータジェネレータMG、及び油圧制御装置4の夫々の動作を制御可能に構成されている。
【0026】
図1において、一点鎖線で示す矢印がECU10より供給される制御信号の流れを示している。例えば、ECU10は、エンジン1及びモータジェネレータMGの夫々に設けられた図示しない回転数センサからの検出信号に基づいて、エンジン1及びモータジェネレータMGの夫々の回転数を検出する。ECU10は、これらの回転数に基づいて、モータジェネレータMG、及び油圧制御装置4の夫々の動作を制御する。加えて、ECU10は、スロットル開度を検出するスロットル開度センサから取得したデータに基づいて、エンジン1の動作を制御することが可能である。
【0027】
次に、図2を参照しながら、トルクコンバータ2の構成を説明する。図2は、トルクコンバータの構成を模式的に示した模式図である。図2において、符号のない実線矢印及び破線矢印は、オイルの流れを示している。
【0028】
トルクコンバータ2は、主要な構成要素としてロックアップクラッチ21、ポンプインペラ22、タービンライナ23、及びステータ24を含んで構成されている。ロックアップクラッチ21は、フェーシング21bを備えたロックアップピストン21a、及びコンバータカバー26から構成される。
【0029】
エンジン1及びモータジェネレータMGの出力軸1a、Maは、トルクコンバータ2の入力軸27と接続されている。したがって、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数は、モータジェネレータMGの回転数(モータ回転数)及びエンジン1の回転数(エンジン回転数)と一致する。トルクコンバータ2の入力軸27は、コンバータカバー26を介して、ポンプインペラ22と接続されている。トルクコンバータ2の出力軸28は、ロックアップピストン21a及びタービンライナ23と接続されている。トルクコンバータ2の出力軸28の回転数は、タービン回転数と一致する。ステータ24は、ワンウェイクラッチ25を有し、トルク増幅機能を有する。
【0030】
解放側油室31及び締結側油室32は、油圧制御装置4と通路33を介して結ばれており、オイルは通路33を行き来している。油圧制御装置4は、ECU10からの制御信号に基づいて、オイルの油圧の供給先を、コンバータカバー26及びロックアップピストン21a間の解放側油室31と、ポンプインペラ22側の締結側油室32との間で切り換えるとともに、オイルの油圧を調整する。尚、通路33は、実際には、トルクコンバータ2の出力軸28内部を通過しているが、図2では、説明の便宜上、出力軸28とは独立して図示している。
【0031】
油圧制御装置4が油圧を締結側油室32に供給した場合には、解放側油室31より油圧がドレインされる。したがって、破線矢印に示すように、オイルは締結側油室32から解放側油室31へと向かう方向に流れる。この場合、締結側油室32の油圧の方が、解放側油室31の油圧よりも大きくなるため、矢印AW1に示す方向の力、即ち、ロックアップピストン21aをコンバータカバー26に押し付ける方向の力が作用する。つまり、ロックアップクラッチ21の締結力を強める力が作用する。この締結力は、締結側油室32に供給される油圧の大きさに比例する。
【0032】
油圧制御装置4が油圧を解放側油室31に供給した場合には、締結側油室32より油圧がドレインされる。したがって、実線矢印に示すように、オイルは解放側油室31から締結側油室32へと向かう方向に流れる。この場合、解放側油室31の油圧の方が、締結側油室32の油圧よりも大きくなるため、矢印AW2に示す方向の力、即ち、ロックアップピストン21aをコンバータカバー26から引き離す方向の力が作用する。つまり、ロックアップクラッチ21の締結力を弱める力が作用する。
【0033】
よって、ECU10は、油圧制御装置4を制御して、解放側油室31又は締結側油室32に供給する油圧を調整し、ロックアップクラッチ21の締結力を調整することができる。より具体的には、ECU10は、油圧制御装置4を制御して、解放側油室31又は締結側油室32に供給する油圧を調整することにより、解放側油室31の油圧と締結側油室32の油圧との間の大小関係を変化させることができる。これにより、ロックアップクラッチ21が締結した状態である締結状態、及び、ロックアップクラッチ21が解放された状態であるコンバータ(非締結)状態を実現することができることに加え、ロックアップクラッチ21のスリップ量を調整することが可能である。
【0034】
ECU10は、ロックアップクラッチ21の締結状態とコンバータ状態との間の中間領域では、油圧制御装置4に制御信号を供給して、解放側油室31の油圧又は締結側油室32の油圧を調整することにより、ロックアップピストン21aのフェーシング21bとコンバータカバー26とを滑らせる状態(スリップ状態)にするスリップ制御を行う。例えば、ECU10は、エンジン1の排気を浄化する触媒の触媒温度が当該記触媒の浄化可能温度より低く、且つ当該触媒温度及び浄化可能温度の温度差が所定の温度差より大きい場合に、ロックアップクラッチ21のスリップ量を増大させるようにトルクコンバータ2を制御すると共に、スリップ量が所定のスリップ量を超えた際にロックアップクラッチ21を解放するようにトルクコンバータ2を制御する。
【0035】
次に、図3を参照しながら、エンジン1の詳細な構成を説明する。図3は、エンジン1の構成を模式的に示した模式図である。尚、同図において、図1及び図2と重複する箇所には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0036】
図3において、エンジン1は、車両の動力源として機能するように構成されたガソリンエンジンであり、吸気管206、気筒201、排気管210、ターボ過給機を構成するコンプレッサ41及びタービン42、可変動弁機構110、スロットル弁214、サージタンク111、吸気弁203及び圧力センサ225、エアフローメータ(以下、AFMと称す。)303、本発明の「触媒」の一例である三元触媒223、及び温度センサ224を備えており、ECU10の制御したで動力を発生可能に構成されている。
【0037】
尚、図3では、説明の便宜上、エンジン1の気筒を一つのみ図示しているが、エンジン1は、例えば、4つの気筒を含む直列4気筒のエンジンである。これら複数の気筒の夫々に対応して設けられた複数の吸気弁203及び複数の排気弁204は、共通の可変動弁機構110によってリフト量及び作用角(即ち、リフト期間)を変更可能に構成されている。
【0038】
吸気管206及びサージタンク111は、外部からエンジン1に空気を取り込む吸気通路部を構成している。エンジン1の動作時に、外部からエアクリーナ304を介して取り込まれた空気は、スロットル弁214の開度に応じた流量でサージタンク111及び吸気管206を介してエンジン1内に取り込まれる。
【0039】
吸気管206は、エンジン1の動作時に、吸気弁203の開閉によって気筒201内部との連通状態が制御されている。即ち、吸気管206において、外部から吸入された空気(即ち、吸入空気)と、燃料噴射装置であるインジェクタ211から噴射された燃料とが混合され(即ち、混合気を形成し)、吸気弁203を介して気筒201に供給される。
【0040】
アクセルポジションセンサ216は、運転者によるアクセルペダル226の踏み込み量、即ちアクセル開度を検出する。エンジン1を搭載した車両に加速要求がされたか否かは、アクセル開度に基づいて判断される。スロットルバルブモータ217は、アクセル226の踏み込み量に基づいてスロットル弁214を開閉駆動する。
【0041】
サージタンク111は、空気を供給する吸気通路部の一部として各気筒に共用されており、各気筒へ送り込む空気を分配する他、分配される空気の圧力変動、即ち脈動を抑制する。スロットルポジションセンサ215は、スロットル弁214のスロットル開度を検出する。
【0042】
気筒201は、その内部において、吸気管206から送られてきた混合気を、点火プラグ202により燃焼させることが可能に構成されている。この燃焼により、ピストン205は、気筒201内で上下に往復運動する。この往復運動がクランクシャフト219の回転運動に変換される。エンジン1が搭載された車両は、エンジン1から出力された回転運動に基づく駆動力によって駆動可能に構成されている。クランクポジションセンサ218は、クランクシャフト219の回転角(即ち、クランク角)を検出する。排気管210は、気筒201内部で発生する排気ガスを排気弁204を介して排気する排気通路部を構成している。ECU10は、エンジン1の動作時に、温度センサ224によって測定された三元触媒223の温度、即ち触媒温度に関するデータを取得する。
【0043】
三元触媒223は、排気管210の途中に配置されており、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を含む排気を浄化可能に構成されている。温度センサ224は、エンジン1の動作時に、三元触媒223の触媒温度を測定し、測定された触媒温度に関するデータをECU100に送る。
【0044】
尚、後に詳細に説明するように、ECU100によって実行可能な動力伝達機構の制御方法によれば、エンジン1の動作時において、三元触媒223の触媒温度を浄化可能温度に近づけるように、或いは浄化可能温度以上に高めることができるので、エンジン1から排出される排気を浄化する三元触媒223の浄化能力を向上させることが可能である。
【0045】
可変動弁機構110は、例えば可変動バルブ機構(VVT)であり、ECU10の制御下で、吸気弁203及び排気弁204の動弁特性を変更可能に構成されている。加えて、可変動弁機構110は、アクチュエータによって駆動されるカムバイワイヤ(CambyWire)、或いは電磁駆動弁等の各気筒に共通の駆動部11によって、エンジン1を構成する複数の気筒の夫々に対応して設けられた複数の吸気弁203及び複数の排気弁204のリフト量及び作用角を変更可能に構成されている。
【0046】
<2:動力伝達機構の制御方法>
次に、図4乃至図7を参照しながら、ECU10によって実行される、動力伝達機構500の制御方法を説明する。図4は、本実施形態に係る動力伝達機構の制御方法の主要な処理ルーチンを順に示したフローチャートである。図5は、動力伝達機構を介して車両の駆動輪に出力される駆動力の変化をスロットル開度に対して示した図式的なグラフである。図6は、エンジンにおける負荷の増加量をスロットル開度に対して図式的に示したグラフである。図7は、エンジン1における排気ガス温度を空燃比に対して図式的に示したグラフである。
【0047】
図4において、ECU10は、エンジン1の動作時において、温度センサ224が取得した触媒温度に関するデータを取得する(ステップS100)。次に、ECU10は、エンジン1の排気を浄化する三元触媒223の触媒温度Tが三元触媒223の浄化可能温度T0より低いか否かを判定する(ステップS110)。触媒温度Tが浄化可能温度T0以上である場合には、再度ステップS100に戻り、ECU10は同様の処理を実行する。
【0048】
触媒温度Tが浄化可能温度T0より低いと判定された場合、ECU10は、浄化可能温度T0及び触媒温度Tの温度差が所定の温度差ΔTより大きいが否かを判定する(ステップS120)。浄化可能温度T0は、大なり小なり三元触媒223が排気を浄化する浄化機能が作用し始める温度であり、必ずしも三元触媒223の活性化温度と一致していなくてもよい。所定の温度差ΔTは、三元触媒223による排気の浄化作用が機能しない程度に触媒温度Tが浄化可能温度T0より低くなっている場合の温度差であり、三元触媒の材料、或いは動力伝達機構500が用いられる環境の温度等の個別具体的な条件に応じて設定可能である。したがって、触媒温度Tが浄化可能温度T0より低く、且つ触媒温度T及び浄化可能温度T0の温度差が所定の温度差ΔTより大きい場合とは、三元触媒223が排気を浄化する浄化作用が全く機能していない場合をいう。浄化可能温度T0及び触媒温度Tの温度差が所定の温度差ΔT以下である場合には、再度ステップS100に戻り、ECU10は同様の処理を実行する。
【0049】
浄化可能温度T0及び触媒温度Tの温度差が所定の温度差ΔTより大きいと判定された場合、ECU10は、ロックアップクラッチ21のスリップ量が増大するようにトルクコンバータ2を制御する(ステップS130)。より具体的には、ECU10は、ロックアップクラッチ21のスリップ量の増大に伴ってエンジン1の回転数が高まるようにトルクコンバータ2を制御する。
【0050】
次に、ECU10は、ロックアップクラッチ21のスリップ量Sが所定のスリップ量S0を超えているか否かを判定する(ステップS140)。スリップ量Sが所定のスリップ量S0以下であると判定された場合、ECU10は、再度ステップS100に戻り順次処理を実行する。
【0051】
ロックアップクラッチ21のスリップ量Sが所定のスリップ量S0を超えていると判定された場合、ECU10は、ロックアップクラッチ21を解放するようにトルクコンバータ2を制御する(ステップS150)。これにより、エンジン1から排出される排気の排出量を増大させることができ、排気が有する熱エネルギーによって触媒温度Tを高めることが可能になる。したがって、三元触媒223が排気を浄化する浄化作用を高めることが可能である。
【0052】
ここで、エンジン1の回転数Neは、ロックアップクラッチ21を解放する前に比べて高くなっている。したがって、エンジン1の動作状態は、エンジン1に相対的に高い負荷が加わった高負荷状態にある。より具体的には、例えば、当該ハイブリッド車両を運転する運転者によるアクセルペダル226の踏み込み量の増大に伴って、当該ハイブリッド車両を走行させるための駆動力が相対的に高い水準に設定されている。即ち、既にECU10の制御下においてエンジン1の回転数Neが増大しているため、スリップ量を増大させる前に比べて駆動力は増大している。
【0053】
次に、ECU10は、各種センサを介してスロットル開度及びエンジン回転数Neに関するデータを読み込む(ステップS160)。
【0054】
次に、ECU10は、エンジン1が高負荷状態にある否かを判定する(ステップS170)。エンジン1が高負荷状態にない場合には、再度ステップS100に戻り、上述の処理を順に実行する。
【0055】
エンジン1が高負荷状態にあると判定された場合、ECU10は、動力伝達機構500を介して当該ハイブリッド車両に伝達される駆動力がスロットル開度Sに対して増加する増加率が小さくなるように、エンジン1を制御する。より具体的には、ECU10は、スロットル開度S及びエンジン回転数Neの少なくとも一方に基づいて、エンジン1に加わる負荷増加率を特定する(ステップS180)と共に、エンジン1に加わる負荷増加率を補正する(ステップS190)。
【0056】
ステップS180及びS190の処理により、ECU10は、当該ハイブリッド車両を駆動する駆動力が増大した状態で、言い換えれば、エンジン回転数Neの増大に伴ってエンジン1が高負荷状態にある場合に、スリップ量Sを増大させる前に比べて駆動力を低下させることなく、スロットル開度Sに対する駆動力の増加率が小さくなるように、例えば、空燃比を高く(即ち、A/Fリーン状態に)設定し、エンジン1の燃費を高めることが可能になる。
【0057】
ここで、図5乃至図7を参照しながら、当該ハイブリッド車両を駆動する駆動力を確保しつつ、燃費を高めることができる理由を詳細に説明する。
【0058】
図5において、特性線L1は、エンジン1の負荷増加率を補正する前におけるスロットル開度及び駆動力の関係を示している。特性線L2は、エンジン1が高負荷状態にある場合におけるスロットル開度及び駆動力の関係を示している。特性線L3は、特性線L2を補正した後におけるスロットル開度及び駆動力の関係を示している。
【0059】
図5に示すように、ステップS130によってエンジン1の回転数Neが高められているため、スリップ量を高めた後の特性線L2では、特性線L1に比べて駆動力が高められている。しかしながら、特性線L2では、特性線L1に比べてエンジン1の回転数Neが高められている分、燃費の悪化を招いている。
【0060】
そこで、ECU10は、特性線L2を特性線L3に補正することによって、スリップ量を増大させる前に比べて駆動力を高い水準に維持しつつ、スロットル開度に対する駆動量の増加率を低下させる。より具体的には、図6に示すように、スロットル開度A乃至Bの範囲で、エンジン1に加わる負荷の増加量を低下させる。
【0061】
このような処理により、ECU10は、エンジン1が高負荷状態(スロットル開度A乃至Bの範囲)にある場合でも、スリップ量Sを増大させる前に比べて駆動力が低下させることなく、空燃比を高く(即ち、A/Fリーン状態に)設定でき、燃費を高めることが可能になる。
【0062】
より具体的には、図7に示すように、エンジン1における空燃比をA/Fリーン側に設定することによって、当該ハイブリッド車両の走行に必要な駆動力を駆動輪に伝達しつつ、エンジン1の燃費及び触媒による排気の浄化作用の夫々を向上させることが可能である。即ち、A/Fを理論空燃比に近づけることによって、エンジンに加わる負荷の増加量を減少させると、排気ガス温度が上昇し、触媒温度を上昇させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達機構の制御装置と共に当該動力伝達機構の主要な構成を概念的に示した概略構成図である。
【図2】トルクコンバータの構成を模式的に示した模式図である。
【図3】エンジンの構成を模式的に示した模式図である。
【図4】本実施形態に係る動力伝達機構の制御装置によって実行される動力伝達機構の制御方法の主要な処理ルーチンの順に示したフローチャートである。
【図5】動力伝達機構を介して車両の駆動輪に出力される駆動力の変化をスロットル開度に対して示した図式的なグラフである。
【図6】エンジンにおける負荷の増加量をスロットル開度に対して図式的に示したグラフである。
【図7】エンジンにおける排気ガス温度を空燃比に対して図式的に示したグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1・・・エンジン、10・・・ECU、2…トルクコンバータ、21・・・ロックアップクラッチ、223・・・三元触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータの入力軸に
接続され、且つ車両の動力を発生するエンジンとを有する動力伝達機構を制御するための動力伝達機構の制御装置であって、
前記エンジンの排気を浄化する触媒の触媒温度が前記触媒の浄化可能温度より低く、且つ前記触媒温度及び前記浄化可能温度の温度差が所定の温度差より大きい場合に、前記ロックアップクラッチのスリップ量を増大させるように前記トルクコンバータを制御すると共に、前記スリップ量が所定のスリップ量を超えた際に前記ロックアップクラッチを解放するように前記トルクコンバータを制御する第1制御手段と、
前記ロックアップクラッチが解放され、且つ前記エンジンが高負荷状態にある場合に、前記動力伝達機構を介して前記車両に伝達される駆動力が、噴射量を調整することによりスロットル開度に対して増加する増加率が抑制されるように、前記エンジンを制御する第2制御手段と
を備えたことを特徴とする動力伝達機構の制御装置。
【請求項2】
前記第2制御手段は、前記エンジンの回転数及び前記スロットル開度の少なくとも一方に基づいて、前記増加率が小さくなるように前記エンジンを制御すること
を特徴とする請求項1に記載の動力伝達機構の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−255701(P2009−255701A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106347(P2008−106347)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】