説明

動力伝達系の制御装置

【課題】クラッチの締結完了判定の検出性能を向上させることにある。
【解決手段】車両の動力伝達系は無段変速機10と、減速歯車対20を介して変速機出力軸13に連結される駆動軸21とを有しており、駆動軸21は車軸23に連結されている。駆動軸21には変速機出力軸13の出力を駆動輪22に対して伝達する締結状態と伝達を遮断する開放状態とに切り換えるクラッチ25が装着されており、動力伝達系の出力側にクラッチ25が配置されている。プライマリプーリ12の回転数は入力側回転センサ31により検出され、被駆動歯車20bの回転数は出力側回転センサ32により検出され、車両が概ね停止状態または極低車速状態のもとでクラッチ25の締結操作がされた場合には、入力側回転センサ31からの検出値に基づいてクラッチ25の締結判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝達系の出力側に設けられたクラッチの締結完了判定を行う動力伝達系の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両のトランスミッションつまり動力伝達系は、エンジンや電気モータ等の駆動力発生源の動力出力軸に連結される変速機と、駆動輪が取り付けられるアクスルシャフトつまり車軸と、車軸と変速機出力軸との間に配置される駆動軸とを有し、変速機出力軸と駆動軸との間にはリダクションギヤつまり減速歯車対が設けられている。車両の走行状態に応じて変速機入力軸の回転速度を変速させて変速機出力軸に動力を出力する自動変速機には、複数の変速歯車を有する有段変速機と、変速比を無段階に制御するようにしたベルト式やトラクションドライブ式の無段変速機とがある。エンジンを駆動源とする多くの車両においては、エンジン出力軸にトルクコンバータが連結され、トルクコンバータのタービン軸つまり動力出力軸と変速機入力軸との間にクラッチが設けられている。
【0003】
このように、クラッチが動力伝達系の入力側に設けられたタイプの車両においては、車両の発進時や後退時にクラッチが開放状態から締結状態に切り換えられたときに、クラッチ締結操作が開始されてから所定の時間が経過した時に締結完了と判定する方式が通常である。この判定方式に代えて、クラッチ締結完了の判定精度を高めるためにクラッチの入力軸となるタービン軸の回転が所定値以下となったときに締結完了と判定する方式も考えられている。
【0004】
クラッチが動力伝達系の入力側に配置されるタイプと相違して、クラッチが動力伝達系の出力側に配置されるタイプ、つまり車軸と変速機出力軸との間の駆動軸にクラッチが配置されるタイプの車両においては、エンジンが駆動されて変速機入力軸と変速機出力軸とが回転している状態のもとでクラッチが締結されることになる。車両発進時等のように概ね停止状態または極低車速状態のもとでクラッチを締結する際には、変速機の入力軸と出力軸はともに低速回転状態となっている。
【0005】
動力伝達系には変速機の入力軸や出力軸の回転数を検出する複数の回転速度センサが設けられており、回転速度センサからの信号に基づいて車両の走行状態に応じて変速比が自動的に制御される。回転速度センサにはパルス検出方式のセンサが用いられており、このタイプのセンサは着磁された複数の検出歯が歯車や変速機の入出力軸等の回転体に一定間隔で形成され、回転体の回転に伴って検出歯から出る磁束をパルス信号として検出し、それぞれの回転体の回転速度や回転数が得られるようになっている。
【0006】
そのため、パルス検出方式センサでは、回転速度が低い領域において回転センサを横切る検出歯数が少ないために分解能が粗くなり、検出値と実際値との間に大きなずれが生じてしまうという問題が生じる。この改善策として、例えば、間隔の長い領域において前々回の検出値と前回の検出値からこれらの間の値を予測演算して、検出値と実際値との段差を小さくして速度制御系を安定化させるようにしたパルス周波数検出装置が特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開昭59−214921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したクラッチは車両発進時等のように車両が概ね停止状態または極低車速状態のもとで締結され、その締結完了の判定を上述のようにクラッチの入力軸の回転数の変化により判定するようにすると、締結操作が開始されてから所定の時間が経過した時に締結完了と判定する場合よりも高精度で締結完了を判定することができ、次の操作を迅速に行うことができる。
【0008】
しかしながら、動力伝達系の出力側にクラッチを配置するようにした車両においては、変速機出力軸に減速歯車対を介して連結される駆動軸の入力側部がクラッチの入力軸となるので、クラッチを締結させる際の駆動軸の回転数は、変速機や減速歯車対により減速された低い回転数となっている。したがって、クラッチ入力軸の回転数の変化を検出してクラッチの締結完了を判定するようにすると、回転速度センサの分解能に限度があり、クラッチの締結完了判定を精度良く行うことができなくなる。
【0009】
この対策として、回転体の検出歯数を増加させる方式と、2つの回転体の検出歯数を大小相違させてそれぞれの検出歯数を別々の回転速度センサで検出する方式とが考えられるが、前者の場合には高回転時に高周波となり回転センサの検出限界を超える可能性があり、後者の場合はコスト増、重量増になるという問題がある。クラッチの締結完了を判定するために、クラッチの入力軸の回転を検出することなく、変速機入力軸の回転を検出する方式も考えられる。しかしながら、特に変速機が無段変速機の場合には、車両が概ね停止状態または極低車速状態のときに変速機入力軸が変速機出力軸よりも低い回転速度となることがある。
【0010】
本発明の目的は、出力側にクラッチが設けられた動力伝達系におけるクラッチの締結完了判定の検出性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の動力伝達系の制御装置は、エンジン等の駆動力発生源の動力出力軸に連結され前記動力出力軸の回転を車両の走行状態に応じて変速して出力する変速機と、駆動輪の車軸と前記変速機との間に設けられ前記変速機出力軸の出力を前記駆動輪に対して伝達する締結状態と伝達を遮断する開放状態とに切り換えるクラッチとを有する動力伝達系の制御装置であって、前記動力出力軸と前記クラッチとの間に設けられ、前記変速機の入力側の回転体の回転速度を検出する第1の回転センサと、前記動力出力軸と前記クラッチとの間に設けられ、前記変速機の出力側の回転体の回転速度を検出する第2の回転センサと、車速を検出する車速検出手段と、前記車速検出手段により検出された車速が所定車速以下となったとき前記第2の回転センサからの信号に代えて、前記第1の回転センサからの信号に基づいて前記クラッチの締結を判定する締結判定手段とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の動力伝達系の制御装置は、前記締結判定手段は前記第1の回転センサの検出値が前記第2の回転センサの検出値よりも小さいときには、前記第2の回転センサの検出値により前記クラッチの締結を判定することを特徴とする。
【0013】
本発明の動力伝達系の制御装置は、それぞれの前記回転センサはパルス検出方式センサであって、前記入力側の回転体から前記出力側の回転体までの減速比と前記第1の回転センサの検出パルス数を乗じた値が、前記第2の回転センサの検出パルス数値よりも小さい場合には、第2の回転センサにより締結を判定することを特徴とする。本発明の動力伝達系の制御装置は、2つの前記回転センサの一方が故障して検出不能となったときには、他方の検出値により前記クラッチの締結を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
動力伝達系の出力側にクラッチが設けられた車両において、車両が概ね停止状態または極低車速状態でクラッチの締結操作が行われたときには、クラッチの入力軸よりも駆動力発生源側の回転体の回転を検出する第1の回転センサの検出値に基づいてクラッチの締結完了判定を行うようにしたので、回転センサの検出分解能を高めることなく、クラッチの締結完了を高精度で判定することができる。クラッチの締結完了判定を高精度で行うことができるので、クラッチ締結トルクを上昇させる制御などの切り替えタイミングがより適切となり、クラッチ締結時のショック緩和などで有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の制御装置が適用された車両の動力伝達系を示すスケルトン図である。この動力伝達系に設けられた自動変速機は、変速比を無段階に制御するようにしたベルト式の無段変速機であり、無段変速機10は変速機入力軸11に設けられたプライマリプーリ12と、変速機入力軸11に平行な変速機出力軸13に設けられたセカンダリプーリ14とを有している。無段変速機10の入力側つまり変速機入力軸11側には、駆動力発生源としてのエンジン15の出力軸に連結されるトルクコンバータ16が配置されている。
【0016】
動力出力軸としてのトルクコンバータ16のタービン軸17と変速機入力軸11との間には1対のプライマリリダクションギヤつまり第1の減速歯車対18が配置されている。この減速歯車対18はタービン軸17に取り付けられる駆動歯車18aと、これよりも大径であって変速機入力軸11に取り付けられる被駆動歯車18bとを有している。これにより、エンジン15の動力は、トルクコンバータ16と減速歯車対18を介して変速機入力軸11に伝達される。ただし、車両に搭載される動力伝達系としては、減速歯車対18を設けることなく、タービン軸17を変速機入力軸11に直結させたタイプもある。
【0017】
プライマリプーリ12は変速機入力軸11に固定される固定プーリ12aと、これに対向して変速機入力軸11にボールスプライン等を介して軸方向に摺動自在に装着される可動プーリ12bとを有しており、可動プーリ12bを軸方向に移動させることによって固定プーリ12aとの間に形成されるプーリ溝幅が可変となっている。同様に、セカンダリプーリ14は変速機出力軸13に固定される固定プーリ14aと、これに対向して変速機出力軸13にボールスプライン等を介して軸方向に摺動自在に装着される可動プーリ14bとを有しており、可動プーリ14bを軸方向に移動させることによって固定プーリ14aとの間に形成されるプーリ溝幅が可変となっている。
【0018】
プライマリプーリ12とセカンダリプーリ14との間には金属製のベルト19が掛け渡されており、両方のプーリ12,14のプーリ溝幅を変化させて、それぞれのプーリ12,14に対するベルト19の巻き付け径の比率を変化させることにより、変速機入力軸11の回転が変速機出力軸13に無段階に変速されて伝達されることになる。無段変速機10の変速比はセカンダリプーリ14に対するベルト19の巻き付け径R2と、プライマリプーリ12に対するベルト19の巻き付け径R1との比であるプーリ比(R2/R1)で表される。
【0019】
変速機出力軸13はセカンダリリダクションギヤつまり第2の減速歯車対20を介して駆動軸21に連結されている。減速歯車対20は変速機出力軸13に取り付けられる駆動歯車20aと、これよりも大径であって駆動軸21に取り付けられる被駆動歯車20bとを有している。この減速歯車対20により変速機出力軸13の回転が一定の比率で駆動軸21に減速されて伝達されることになる。
【0020】
駆動軸21はそれぞれ駆動輪22が取り付けられる車軸23にデファレンシャルギヤ24を介して連結される。駆動軸21には変速機出力軸13の出力を駆動輪22に伝達する締結状態と伝達を遮断する開放状態とに切り換えるクラッチ25が設けられている。駆動軸21は被駆動歯車20bが取り付けられるクラッチ入力側軸部21aと、前後進切換装置26が設けられるクラッチ出力側軸部21bとを有している。このように、図1に示される動力伝達系においては、クラッチ25が動力伝達系の出力側に配置されている。
【0021】
動力伝達系には、プライマリプーリ12の回転速度を検出するための第1の回転センサとして入力側回転センサ31と、減速歯車対20の被駆動歯車20bの回転速度を検出するための第2の回転センサとして出力側回転センサ32とが設けられている。これら回転センサ31,32はプライマリプーリ12や被駆動歯車20bなどの回転体に設けられた多数の検出歯のエッジを磁束の変化で検出するようにしたパルス検出方式センサである。
【0022】
図2は入力側回転センサ31の検出値NAと出力側回転センサ32の検出値NBがクラッチ締結による回転体の回転数の減少に伴って変化する状態を示すセンサの特性線図である。図2において二点鎖線は、プライマリプーリ12の回転速度と被駆動歯車20bの回転速度とを示しており、符号Cはクラッチ25が締結完了した時点を示す。それぞれの回転センサ31,32は同一の特性であり、回転体の回転数がそれぞれ検出限界下限値NA0、NB0を下回ると、回転数を検出することができなくなる。
【0023】
エンジン始動時のように車両が停止状態のもとでは、変速機は低速段側のプーリ比となっており、プーリ比と減速歯車対20のギヤ比を含めて動力伝達系の入力側の回転の方が出力側の回転よりも通常は高くなっている。したがって、クラッチ25が開放状態から締結状態に切り換えられるときには、入力側の回転数は出力側の回転数よりも締結間際の検出性能が大きい。このため、出力側回転センサ32の出力信号に基づいてクラッチ25の締結を判定すると、符号Bで示す時点で締結を判定することになる。これに対して入力側回転センサ31の出力信号に基づいてクラッチ25の締結を判定すると、符号Aで示す時点で締結を判定することになる。したがって、入力側回転センサ31の出力信号に基づいてクラッチ25の締結を判定すると、回転体の検出歯の数を増加させることなく、出力側回転センサ32による検出不能領域DBにおいても入力側回転センサ31により入力側の回転数を検出することができる。つまり、入力側回転センサ31の出力信号に基づいてクラッチ25の締結を判定すると、出力側回転センサ32により判定する場合よりも、実際のクラッチ25の締結完了に近い時点までに締結判定を延長させることができる。
【0024】
車両が所定の車速以下の概ね停止状態または極低車速状態のもとでは、入力側回転センサ31の出力信号に基づいてクラッチ25の締結を判定すると、クラッチ25が実際に締結完了した状態に近い状態のもとで締結判定を行うことができるので、締結判定が行われたら、クラッチ25により走行時に必要な動力を伝達するために、クラッチ25に対する締結力が高められる。
【0025】
図3はクラッチの作動を制御する制御回路を示すブロック図である。クラッチコントロールユニット33には、入力側回転センサ31と出力側回転センサ32からの出力信号が送られ、車速センサ34、エンジン回転センサ35、セレクトレバーセンサ36およびその他の出力信号がクラッチコントロールユニット33に送られるようになっている。クラッチコントロールユニット33からはクラッチ25を作動させるためのクラッチ調圧弁37に対して制御信号が送られる。クラッチコントロールユニット33は、締結判定手段を構成しており、制御信号を演算するCPUを備えるとともに、制御プログラム、演算式、マップデータ等を格納するROMや一時的にデータを格納するRAMを備えている。
【0026】
クラッチ25は湿式クラッチであり、油圧回路から供給されるクラッチ圧つまりクラッチ締結指示トルクにより、締結状態と開放状態とに切り換えられる。油圧回路にはクラッチ25に供給されるクラッチ圧を調整するためのクラッチ調圧弁37が設けられており、クラッチコントロールユニット33からの制御信号によりクラッチ調圧弁37のソレノイドに信号が送られて、クラッチ調圧弁37によりクラッチ25に供給されるクラッチ圧が制御される。
【0027】
クラッチ調圧弁37からクラッチ25にクラッチ圧が供給されると、クラッチ25により駆動軸21が締結状態となってエンジン動力が駆動輪に伝達される。このクラッチ圧を急激に上昇させるとクラッチ25の入力側と出力側の回転速度差が大きい状態でクラッチ25が締結されるためクラッチ締結完了時に衝撃が生じ、乗員に違和感を与えることになる。したがって、クラッチ25を円滑に締結するためには、クラッチ圧を徐々に増加させ、クラッチ締結完了後に最適なクラッチ圧まで上昇させるような制御をするのが好ましく、そのためにはクラッチ25の締結完了判定を精度良く行う必要がある。本発明においては、車両が所定の車速以下の概ね停止状態または極低車速状態のもとでは、入力側回転センサ31の出力信号に基づいてクラッチ25の締結を判定するので、クラッチ25が実際に締結完了した状態に近い状態のもとで締結判定を行うことができる。
【0028】
図4はクラッチの締結完了判定の手順のアルゴリズムを示すフローチャートである。運転者がセレクトレバーをNレンジからDレンジまたはRレンジに操作すると、セレクトレバーセンサ36からの信号によりステップS1においてクラッチ締結指示中であると判定される。ただし、クラッチ締結指示の判定は、クラッチ25が湿式クラッチの場合には油圧指示信号により判定し、電磁式クラッチの場合には電流指示信号等により判定するようにしても良い。
【0029】
クラッチ締結が指示されているときにはステップS2で車両が概ね停止状態または極低車速状態つまり車速Vが所定値V0以下であるか否かが判定される。所定値V0としては、例えば車速が数km/hに設定されており、車速センサ34からの信号により車両が概ね停止状態または極低車速状態であるか否かが判定される。このように車速センサ34は車両が概ね停止状態または極低車速状態となっていることを検出する車速検出手段を構成している。ただし、パーキングブレーキが操作されているとき等のように物理的に車両が停止している状態を検出して、車速が所定値V0以下であることを検出するようにしても良い。その場合には物理的に車両が停止していることを検出する手段が車速検出手段となる。
【0030】
車両が概ね停止状態または極低車速状態である場合には、ステップS3,S4において入力側回転センサ31および出力側回転センサ32が故障していないかを判定する。いずれも故障していないと判定されると、入力側回転センサ31の検出値NAと出力側回転センサ32の検出値NBとが比較される(ステップS5)。通常、エンジンが始動された状態のもとで車両が概ね停止状態または極低車速状態となっているときには、自動変速機の変速比がLOW状態つまり変速比が1.0よりも大きいため、図2に示されるように出力側回転センサ32の検出値NBよりも入力側回転センサ31の検出値NAの方が大きく(NA>NB)なっている。したがって、ステップS6において検出値NAが検出限界値NA0またはそれ以下となっていると判定されたときには、入力側回転センサ31の出力信号に基づいてクラッチ25の締結が判定される(ステップS7)。締結判定時は、図2において符号Aで示す時点に相当する。ステップS4において出力側回転センサ32が故障していると判定されたときにも、ステップS6,S7が実行される。
【0031】
図5は上述したステップS1〜S7により締結完了が判定された場合における入力側回転センサ31の検出値等の変化を示すタイムチャートであり、締結完了が判定されると、クラッチ25に対する締結指示トルクが高められる。
【0032】
ステップS3において入力側回転センサ31が故障していることが判定された場合には、ステップS8において出力側回転センサ32が故障しているか否かが判定される。出力側回転センサ32が故障していなければ、ステップS9において出力側回転センサ32の検出値NBが検出限界値NB0またはそれ以下となっているか否かが判定される。したがって、万一、入力側回転センサ31が故障しているときには、出力側回転センサ32が故障していなければ、出力側回転センサ32の検出値NBが検出限界値NB0またはそれ以下となったときに締結完了を判定する。このステップS9においてNOと判定されたときには、クラッチ25が非締結状態であると判定される(ステップS10)。
【0033】
車両が概ね停止状態または極低車速状態のもとで、万一、変速比がオーバードライブ側となっていたとき(変速比が1.0よりも小さい)には、出力側回転センサ32の方が締結間際まで回転速度を検出する性能を持つことになる。そこで、ステップS5において検出値NBよりも入力側回転センサ31の検出値NAの方が大きいと判定されたときには(NA<NB)、ステップS9が実行される。
【0034】
入力側と出力側のそれぞれの回転センサ31,32は、上述のように、パルス検出方式センサであり、単位時間当たりに検出する検出歯数が多い方が検出精度は高く、検出限界値を下げることができる。例えば、出力側回転センサ32により検出される被駆動歯車20bの検出歯歯数の方が、入力側回転センサ31により検出されるプライマリプーリ12の検出歯歯数よりも多い場合には、検出歯の歯数差によっては出力側回転センサ32の検出精度の方が高くなる。そこで、プライマリプーリ12の回転速度にプライマリプーリ12から被駆動歯車20bまでの減速比と入力側回転センサ31の検出歯数を乗じた歯数値(第1の歯数値)が、出力側回転センサ32の検出歯数値にプライマリプーリ12の回転速度を乗じた歯数値(第2の歯数値)よりも小さい場合には、出力側回転センサ32により締結を判定するようにしても良い。
【0035】
ステップS2で車両が走行中つまり車速Vが所定値V0よりも大きい(V>V0)と判定された場合には、ステップS11で出力側回転センサ32が故障しているか否かが判定される。出力側回転センサ32が故障していない場合には、ステップS12が実行され、出力側回転センサ32の検出値NBと車速Vから逆算した軸回転速度VRとの差の絶対値が所定範囲DLT内であるか否かが判定される。この絶対値が所定範囲DLT内であるとき(|VB−VR|≦DLT)には締結完了判定とし、所定範囲DLT内にないとき(|VB−VR|>DLT)には非締結判定とする。
【0036】
車両が走行中の場合には、車両が概ね停止状態または極低車速状態である場合のように入力側の検出値NAと出力側の検出値NBとを比較して、より大きい方の検出値により締結完了判定を行うようにする必要はない。これは、車両が概ね停止状態のように回転速度センサが検出不能な極低回転領域である場合と異なり、車両が走行中においては回転速度が減速比分だけ小さくなった出力側でも単位時間あたりに多くのパルス信号を検出することができ、比較的良好な精度で回転検出可能であるからである。
【0037】
一方、ステップS11で出力側回転センサ32が故障していると判定されると、ステップS13でクラッチ締結指示トルクTが所定値T0かまたはそれ以上(T≧T0)であるか否かが判定される。締結指示トルクがT≧T0であると判定されたときには締結完了判定とし、T<T0であると判定されたときには非締結状態であると判定とする。クラッチ指示トルクのパラメータとしては、クラッチ25の締結指示を表すパラメータであれば良く、例えば、クラッチ25が油圧クラッチの場合の油圧指示で良く、電磁式クラッチの場合は電流指示でも良い。なお、ステップS8で出力側回転センサ32が故障であると判定された場合にも、ステップS13が実行される。
【0038】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、入力側回転センサ31と出力側回転センサ32の配置関係は、いずれもクラッチ25とトルクコンバータ16の間であって、出力側回転センサ32が入力側回転センサ31よりもクラッチ25側の回転体の回転を検出するのであれば良い。したがって、第1の回転センサとしての入力側回転センサ31により減速歯車対18の駆動側歯車18aと被駆動側歯車18bのいずれか一方の回転を検出するようにしても良く、第2の回転センサとしての出力側回転センサ32によりセカンダリプーリ14の回転を検出するようにしても良い。クラッチ25としては、油圧式多板クラッチに代えて電磁式クラッチとしても良い。
【0039】
動力伝達系に設けられる自動変速機としては、ベルト式やトロイダル式つまりトラクションドライブ式の無段変速機に限られず、有段変速機としても良い。また、変速機を有する動力伝達系であれば、動力発生源を電動モータとする車両にも本発明を適用することができる。また、クラッチ25は駆動軸21に配置されているが、変速機出力軸13にクラッチを設けるようにしても良い。その場合には出力側回転センサ32はセカンダリプーリ10の回転を検出することになる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の制御装置が適用された車両の動力伝達系を示すスケルトン図である。
【図2】入力側回転センサの検出値と出力側回転センサの検出値がクラッチ締結による回転体の回転数の減少に伴って変化する状態を示すセンサの特性線図である。
【図3】クラッチの作動を制御する制御回路を示すブロック図である。
【図4】クラッチの締結完了判定の手順のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図5】締結完了が判定された場合における入力側回転センサの検出値等の変化を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0041】
10 無段変速機
11 変速機入力軸
12 プライマリプーリ
13 変速機出力軸
14 セカンダリプーリ
15 エンジン(駆動力発生源)
16 トルクコンバータ
17 タービン軸(動力出力軸)
18 減速歯車対
20 減速歯車対
21 駆動軸
22 駆動輪
23 車軸
25 クラッチ
26 前後進切換装置
31 入力側回転センサ
32 出力側回転センサ
33 クラッチコントロールユニット(締結判定手段)
34 車速センサ(車速検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン等の駆動力発生源の動力出力軸に連結され前記動力出力軸の回転を車両の走行状態に応じて変速して出力する変速機と、駆動輪の車軸と前記変速機との間に設けられ前記変速機出力軸の出力を前記駆動輪に対して伝達する締結状態と伝達を遮断する開放状態とに切り換えるクラッチとを有する動力伝達系の制御装置であって、
前記動力出力軸と前記クラッチとの間に設けられ、前記変速機の入力側の回転体の回転速度を検出する第1の回転センサと、
前記動力出力軸と前記クラッチとの間に設けられ、前記変速機の出力側の回転体の回転速度を検出する第2の回転センサと、
車速を検出する車速検出手段と、
前記車速検出手段により検出された車速が所定車速以下となったとき前記第2の回転センサからの信号に代えて、前記第1の回転センサからの信号に基づいて前記クラッチの締結を判定する締結判定手段とを有することを特徴とする動力伝達系の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達系の制御装置において、前記締結判定手段は前記第1の回転センサの検出値が前記第2の回転センサの検出値よりも小さいときには、前記第2の回転センサの検出値により前記クラッチの締結を判定することを特徴とする動力伝達系の制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の動力伝達系の制御装置において、それぞれの前記回転センサはパルス検出方式センサであって、前記入力側の回転体から前記出力側の回転体までの減速比と前記第1の回転センサの検出パルス数を乗じた値が、前記第2の回転センサの検出パルス数値よりも小さい場合には、第2の回転センサにより締結を判定することを特徴とする動力伝達系の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の動力伝達系の制御装置において、2つの前記回転センサの一方が故障して検出不能となったときには、他方の検出値により前記クラッチの締結を判定することを特徴とする動力伝達系の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−250301(P2009−250301A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97267(P2008−97267)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】