説明

動力伝達装置の製造方法

【課題】簡素な工程で大歯車と動力伝達部材とを高強度で接合する動力伝達装置の製造方法を提供する。
【解決手段】リングギヤ10とハブ部材20とが一体で構成され同一の回転軸O1を中心とする動力伝達装置1の製造方法であって、リングギヤ10に円錐状の第1合わせ面12を形成し、ハブ部材20に第1合わせ面12と合わさる円錐状の第2合わせ面24を形成し、リングギヤ10に突起14を形成し、ハブ部材20に環溝26を形成する合わせ面形成工程と、第1合わせ面12と第2合わせ面24とを対向させつつ、突起14と環溝26の底面26aとを突き合わせた状態で、リングギヤ10及びハブ部材20に通電し、突起14と環溝26の底面26aとを電気抵抗溶接で接合する接合工程と、リングギヤ10とハブ部材20とを相対的に近づく向きで押圧し、前記第1合わせ面12と第2合わせ面24とを密着させる押圧工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大歯車(リングギヤ等)と動力伝達部材(ハブ部材、デフケース等)とを備える動力伝達装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、二輪車において、内燃機関で発生した動力は、チェーンや推進軸を介して、後輪(駆動輪)に伝達される。推進軸を介して伝達する場合、後輪と同軸に終減速装置を設け、推進軸の動力を前記終減速装置内で略90°偏向させている。
このような終減速装置は、推進軸の動力が入力されるドライブピニオンと、動力伝達装置と、を備えて構成され、動力伝達装置は、ドライブピニオンが噛合するリングギヤと、リングギヤと一体であって、後輪と同一の回転軸周りに回転するハブ部材(動力伝達部材)と、を備えて構成される。そして、ドライブピニオンとリングギヤとの噛合部には、一般には、ベベルギヤ(かさ歯車)の歯面が形成される。
【0003】
ここで、リングギヤとハブ部材とは、ハブ部材の一部をリングギヤに圧入した後、スプライン嵌合(結合)することにより、周方向における相対回転を防止している。また、軸方向における抜け止めとして、圧入後のスプライン軸(リングギヤに挿入されるハブ部材の一部)を加締めている。このように、圧入後に加締めていたので、リングギヤとハブ部材との固定に工数を要している。
【0004】
一方、四輪車において、内燃機関で発生した動力は、例えば、変速機、推進軸(プロペラシャフト)を介して、左右の後輪(駆動輪)の中央に設けられた終減速装置に入力される。終減速装置は、推進軸の動力が入力されるドライブピニオンと、ドライブピニオンが噛合し、その動力を90°偏向させ後記するデフケースに固定されハイポイドギヤ等から成るリングギヤと、デフ装置(デファレンシャル装置、差動装置)と、を備えて構成される。デフ装置は、カーブを走行した場合に左右の後輪を差動回転させるため装置であり、鋳造製又は鍛造製のデフケース(動力伝達部材)と、これに収容されたデフギヤ(ピニオンギヤ、サイドギヤ)と、を備えて構成される。
【0005】
ここで、リングギヤとデフケースとは、例えば、デフケースの外周面にフランジを形成し、リングギヤをデフケースに外嵌した後、リングギヤと前記フランジとをボルトで締結することで一体化している。したがって、前記ボルトは、動力伝達の一部を担うことになるので、高強度材料で形成されることが必要となり、また、前記ボルトは、高い締め付けで締結することが必要であるので、これらの組み付け作業は煩雑となっている。
【0006】
そこで、このような問題を解決するため、リングギヤと動力伝達部材(ハブ部材、デフケース)とを、レーザービーム溶接や電子ビーム溶接で一体化する技術が提案されている(特許文献1〜3参照)。また、レーザービーム溶接及び電子ビーム溶接よりも動力伝達装置の生産性を高めるため、電気抵抗溶接で一体化する技術が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−180976号公報
【特許文献2】特開2010−242930号公報
【特許文献3】特開2011−47420号公報
【特許文献4】特開2011−98358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献4において、リングギヤとデフケースとの嵌合長さは、平歯車であるリングギヤの噛合い反力を考慮して決定されている。
ここで、リングギヤをかさ歯車(ベベルギヤ)に変更した構成とした場合、軸方向(リングギヤ及びデフケースの回転軸方向)に作用する反力が大きくなるので、リングギヤとデフケースとの嵌合長さを大きくする必要があるが、このように嵌合長さを大きくすると、リングギヤとデフケースとを接合するためのエネルギ(接合エネルギ)が増大するうえに、生産性が低下する虞がある。
【0009】
また、この構成では、リングギヤの中空部にデフケースを圧入していくにつれて、リングギヤとデフケースとの接触面積が増加し、これに伴って接合エネルギが増大する虞がある。
【0010】
さらに、この構成では、リングギヤとデフケースとを電気抵抗溶接機に取り付けた後、リングギヤとデフケースとを接触させた段階において、電気抵抗溶接機に対してのリングギヤ及びデフケースの取付中心のずれや、リングギヤ及びデフケースの接触面の加工誤差等により、両部材の接触範囲が周方向において均一とならない虞がある。そして、このように接触範囲が周方向に不均一であると、周方向において、通電量・発熱量のばらつきが生じ、これにより、溶融量(溶け込み量)が不均一となり、リングギヤの中心とデフケースとの中心とがずれてしまう虞がある。
【0011】
さらにまた、電気抵抗溶接において発生したバリが製造後に残ってしまい、このバリが動力伝達装置の使用中に脱落し、ギヤが噛み込んでしまうと、ギヤの強度が低下する虞がある。
【0012】
そこで、本発明は、簡素な工程で大歯車と動力伝達部材とを高強度で接合する動力伝達装置の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、大歯車と動力伝達部材とを備え、前記大歯車と前記動力伝達部材とが一体で構成され同一の回転軸を中心とする動力伝達装置の製造方法であって、前記大歯車に前記回転軸を中心とする円錐状の第1合わせ面を形成し、前記動力伝達部材に前記回転軸を中心とし前記第1合わせ面と合わさる円錐状の第2合わせ面を形成し、前記大歯車及び前記動力伝達部材の一方に他方に向かって突出する突出部を形成し、前記大歯車及び前記動力伝達部材の他方に前記突出部に対向する凹部を形成する合わせ面形成工程と、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを対向させつつ、前記突出部と前記凹部の底面とを突き合わせた状態で、前記大歯車及び前記動力伝達部材に通電し、前記突出部と前記凹部の底面とを電気抵抗溶接で接合する接合工程と、軸方向において前記大歯車と前記動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧し、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを密着させる押圧工程と、を含むことを特徴とする動力伝達装置の製造方法である。
【0014】
ここで、「円錐状」は、「円錐台状」も含むものとする。
また、「前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを密着させる」は、第1合わせ面と第2合わせ面とがその全体で相互に密着するだけでなく、後記するように、線状等の部分的に密着する形態を含む。
【0015】
このような構成によれば、合わせ面形成工程において、大歯車に円錐状の第1合わせ面を形成し、動力伝達部材に円錐状の第2合わせ面を形成すると共に、大歯車及び動力伝達部材の一方に突出部を形成し、他方に凹部を形成する。
【0016】
そして、接合工程において、第1合わせ面と第2合わせ面とを対向させつつ、突出部と凹部の底面とを突き合わせた状態で、大歯車及び動力伝達部材に通電する。そうすると、大歯車及び動力伝達部材の間では、突出部と凹部の底面との突き合わせ部のみに通電し、その抵抗に基づいて突き合わせ部が発熱する、つまり、突き合わせ部において通電に伴い抵抗熱が発生する。これにより、突き合わせ部を構成する突出部と凹部の底面とが軟化及び塑性流動し、突出部と凹部の底面とが電気抵抗溶接される。
【0017】
そして、通電を停止し、前記突き合わせ部が完全に固体化する前に、押圧工程において、軸方向において大歯車と動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧し、第1合わせ面と第2合わせ面とを密着させることにより、大歯車と動力伝達部材との中心を一致させながら接合できる。
なお、突き合わせ部(接合部)は、例えばその後常温まで自然冷却され、突出部等を形成する金属は凝固し接合面が形成される。
【0018】
ここで、第1合わせ面と第2合わせ面とは、製造後の回転軸を中心とする円錐状の面であるから、押圧工程において、第1合わせ面と第2合わせ面とを密着させ、その間の隙間を無くすことにより、大歯車の中心軸と、動力伝達部材の中心軸とが一致することになる。よって、大歯車とその相手ギヤ(ドライブピニオンのギヤ部等)との間において、噛合いにずれが発生することはない。
【0019】
また、抵抗熱によって突出部が軟化しバリが発生するが、このバリは突出部の相手側(他方側)の凹部内で発生し、製造後の動力伝達装置の外表面に現れず、動力伝達装置の使用中に脱落する虞も無い。
【0020】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、大歯車と動力伝達部材とを備え、前記大歯車と前記動力伝達部材とが一体で構成され同一の回転軸を中心とする動力伝達装置の製造方法であって、前記大歯車に前記回転軸を中心とする円錐状の第1合わせ面を形成し、前記動力伝達部材に前記回転軸を中心とし前記第1合わせ面と合わさる円錐状の第2合わせ面を形成し、前記大歯車に第1凹部を形成し、前記動力伝達部材に前記第1凹部と対向する第2凹部を形成する合わせ面形成工程と、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを対向させつつ、前記第1凹部と前記第2凹部とで接合補助部材を挟み、前記第1凹部の第1底面と前記接合補助部材と突き合わせた状態、かつ、前記第2凹部の第2底面と前記接合補助部材とを突き合わせた状態で、前記大歯車及び前記動力伝達部材に通電し、前記第1凹部の第1底面及び前記接合補助部材と前記第2凹部の第2底面及び前記接合補助部材とをそれぞれ電気抵抗溶接で接合する接合工程と、軸方向において前記大歯車と前記動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧し、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを密着させる押圧工程と、を含むことを特徴とする動力伝達装置の製造方法である。
【0021】
このような構成によれば、合わせ面形成工程において、大歯車に円錐状の第1合わせ面を形成し、動力伝達部材に円錐状の第2合わせ面を形成し、大歯車に第1凹部を形成し、動力伝達部材に第2凹部を形成する。
【0022】
そして、接合工程において、第1合わせ面と第2合わせ面とを対向させつつ、第1凹部と第2凹部とで接合補助部材を挟み、第1凹部の第1底面と接合補助部材とを突き合わせた状態、かつ、第2凹部の第2底面と接合補助部材とを突き合わせた状態で、大歯車及び前記動力伝達部材に通電する。そうすると、大歯車及び動力伝達部材の間では、接合補助部材のみを経由するように、つまり、第1凹部の第1底面及び接合補助部材の第1突き合わせ部と、第2凹部の第2底面及び接合補助部材の第2突き合わせ部とを経由するように通電し、その抵抗に基づいて第1突き合わせ部及び第2突き合わせ部が発熱する、つまり、第1突き合わせ部及び第2突き合わせ部において通電に伴い抵抗熱が発生する。これにより、第1突き合わせ部を構成する接合補助部材及び第1凹部の第1底面と、第2突き合わせ部を構成する接合補助部材及び第2凹部の第2底面とが、それぞれ軟化及び塑性流動し、接合補助部材及び第1凹部の第1底面と、接合補助部材及び第2凹部の第2底面とが、それぞれ電気抵抗溶接される。
【0023】
そして、通電を停止し、前記突き合わせ部が完全に固体化する前に、押圧工程において、軸方向において大歯車と動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧し、第1合わせ面と第2合わせ面とを密着させることにより、大歯車と動力伝達部材との中心を一致させながら接合できる。
ここで、第1合わせ面と第2合わせ面とは、製造後の回転軸を中心とする円錐状の面であるから、押圧工程において、第1合わせ面と第2合わせ面とを密着させ、その間の隙間を無くすことにより、大歯車の中心軸と、動力伝達部材の中心軸とが一致することになる。よって、大歯車とその相手ギヤ(ドライブピニオンのギヤ部等)との間において、噛合いにずれが発生することはない。
【0024】
また、抵抗熱によって接合補助部材が軟化しバリが発生するが、このバリは相手側の第1凹部又は第2凹部内で発生し、製造後の動力伝達装置の外表面に現れず、動力伝達装置の使用中に脱落する虞も無い。
【0025】
また、前記動力伝達装置の製造方法において、前記回転軸に対する前記第1合わせ面の第1傾斜角度と、前記回転軸に対する前記第2合わせ面の第2傾斜角度とは、異ならせることも可能である。
【0026】
このような構成によれば、第1合わせ面の第1傾斜角度と、第2合わせ面の第2傾斜角度とが異なるので、第1合わせ面と第2合わせ面との接触部(合わせ部)は、線状、つまり、回転軸を中心とする円周状となる。
これにより、押圧工程において、軸方向において大歯車と動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧すると、その押圧力が前記線状の接触部に集中し、大歯車及び/又は動力伝達部材が、前記接触部において弾性変形又は塑性変形し易くなる。したがって、軸方向において、大歯車と動力伝達部材とが相対的に近づき易くなる。
【0027】
よって、大歯車の表面であって第1合わせ面以外で動力伝達部材に対向する第1対向面(後記する実施形態では背面13)が、動力伝達部材に当接(接触)し密着し易くなる。これと同様に、動力伝達部材の表面であって第2合わせ面以外で大歯車に対向する第2対向面(後記する実施形態ではフランジ面25a)が、大歯車に当接(接触)し密着し易くなる。
【0028】
このようにして、製造後の動力伝達装置において、大歯車の第1対向面が動力伝達部材に密着し、動力伝達部材の第2対向面が大歯車に密着した構成となるので、例えば、大歯車が、大歯車の回転軸が動力伝達部材の回転軸から倒れる方向(大歯車の回転軸と動力伝達部材の回転軸とが離れる方向)に、噛合い反力を受けたとしても、大歯車は動力伝達部材に対して倒れ難くなり、大歯車の回転軸と動力伝達部材の回転軸とがずれ難くなる。
なお、第1対向面、第2対向面は、後記する実施形態のように、押圧方向(回転軸)に対して直交する面であることが好ましく、また、軸方向において、第1対向面と第2対向面とが対向して配置され、第1対向面と第2対向面とが密着する構成であることが好ましい。
【0029】
また、前記動力伝達装置の製造方法において、縦断面視において、前記第1合わせ面及び前記第2合わせ面の一方は、他方に向かって円弧状で突出していることが好ましい。
【0030】
このような構成によれば、第1合わせ面及び第2合わせ面の一方は、他方に向かって円弧状で突出しているので、第1合わせ面と第2合わせ面との接触部(合わせ部)は、線状、つまり、回転軸を中心とする円周状となる。
これにより、押圧工程において、軸方向において大歯車と動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧すると、その押圧力が前記線状の接触部に集中し、大歯車及び/又は動力伝達部材が、前記接触部において弾性変形又は塑性変形し易くなる。したがって、軸方向において、大歯車と動力伝達部材とが相対的に近づき易くなる。
【0031】
よって、大歯車の表面であって第1合わせ面以外で動力伝達部材に対向する第1対向面(後記する実施形態では背面13)が、動力伝達部材に当接(接触)し密着し易くなる。これと同様に、動力伝達部材の表面であって第2合わせ面以外で大歯車に対向する第2対向面(後記する実施形態ではフランジ面25a)が、大歯車に当接(接触)し密着し易くなる。
【0032】
このようにして、製造後の動力伝達装置において、大歯車の第1対向面が動力伝達部材に密着し、動力伝達部材の第2対向面が大歯車に密着した構成となるので、例えば、大歯車が、大歯車の回転軸が動力伝達部材の回転軸から倒れる方向(大歯車の回転軸と動力伝達部材の回転軸とが離れる方向)に、噛合い反力を受けたとしても、大歯車は動力伝達部材に対して倒れ難くなり、大歯車の回転軸と動力伝達部材の回転軸とがずれ難くなる。
なお、第1対向面、第2対向面は、後記する実施形態のように、押圧方向(回転軸)に対して直交する面であることが好ましく、また、軸方向において、第1対向面と第2対向面とが対向して配置され、第1対向面と第2対向面とが密着する構成であることが好ましい。
【0033】
また、前記動力伝達装置の製造方法において、前記動力伝達部材は、駆動輪が取り付けられるハブ部材であることが好ましい。
【0034】
このような構成によれば、大歯車と、駆動輪と同軸線上に配置されるハブ部材とを良好に接合できる。
【0035】
また、前記動力伝達装置の製造方法において、前記動力伝達部材は、デフケースであることが好ましい。
【0036】
このような構成によれば、大歯車と、デフケースとを良好に接合できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、簡素な工程で大歯車と動力伝達部材とを高強度で接合する動力伝達装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1実施形態に係る二輪車用の動力伝達装置を備える終減速装置の断面図であり、回転軸O1を通る縦断面図である。
【図2】(a)は、第1実施形態に係る動力伝達装置の縦断面図であり、(b)は、(a)の拡大図である。
【図3】(a)は、第1実施形態に係る動力伝達装置の製造方法を説明する縦断面図であって接合前(電気抵抗溶接前)を示しており、(b)は、(a)の拡大図である。
【図4】(a)は、第1実施形態に係る動力伝達装置の製造方法を説明する縦断面図であって接合後(電気抵抗溶接後)、押圧前を示しており、(b)は、(a)の拡大図である。
【図5】(a)は、第2実施形態に係る動力伝達装置の縦断面図であり、(b)は、(a)の拡大図である。
【図6】(a)は、第3実施形態に係る動力伝達装置の縦断面図であり、(b)は、(a)の拡大図である。
【図7】(a)は、第4実施形態に係る動力伝達装置の縦断面図であり、(b)は、(a)の拡大図である。
【図8】第5実施形態に係る四輪車用の動力伝達装置を備える終減速装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
≪第1実施形態≫
第1実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
ここでは、動力伝達装置が二輪車(車両)の後輪部分に適用された構成を例示する。そして、明確に説明するため、図1〜図4に「前後左右」を付す。なお、「前後左右」は、二輪車の「前後左右」に対応している。また、図1〜図4において、リングギヤ10とハブ部材20との隙間は大きめに記載している。
【0040】
≪終減速装置の構成≫
終減速装置100は、推進軸(図示しない)に連結され前後方向に延びるドライブピニオン110と、動力伝達装置1とを備え、推進軸の動力を略90°偏向させつつ減速して、動力伝達装置1を構成するハブ部材20に伝達する装置である。
【0041】
ドライブピニオン110は、車体に固定されたケース115に、軸受116を介して、回転自在に支持されている。ドライブピニオン110の前端は、適宜な連結機構を介して推進軸(図示しない)の後端と連結され、推進軸の動力がドライブピニオン110に入力されるようになっている。
【0042】
ドライブピニオン110のギヤ部111は、後記するリングギヤ10のギヤ部11と噛合している。
【0043】
≪動力伝達装置の構成≫
動力伝達装置1の構成を説明する。
動力伝達装置1は、リングギヤ10(大歯車)と、ハブ部材20(動力伝達部材)とを備えている。そして、リングギヤ10とハブ部材20とは、後記する突起14(突出部)と環溝26の底面26aとが電気抵抗溶接すると共に、第1合わせ面12と第2合わせ面24とが密着することで一体化している。なお、リングギヤ10とハブ部材20とは、同一の回転軸O1を中心としており、この回転軸O1は、後輪の回転中心でもある。また、リングギヤ10、ハブ部材20等、動力伝達装置1を構成する部品は、例えば、鋼製である。ただし、鋼製に限定されず、通電可能な材料であればよく、また、異なる材質、例えば軽量化を図るべく、アルミニウム合金としてもよい。
【0044】
<リングギヤ>
リングギヤ10は、リング状を呈する部品であって、その中空部にハブ部材20が差し込まれ、ハブ部材20に固定されている。リングギヤ10のギヤ部11は、ドライブピニオン110のギヤ部111に噛合している。
【0045】
リングギヤ10の内周面は、第1合わせ面12を構成している。第1合わせ面12は、回転軸O1を中心とした円錐台状(円錐状)の面、つまり、その右端側が縮径したテーパ面である。すなわち、第1合わせ面12の内径は、左側から右側に進むにつれて、徐々に小さくなっている。
【0046】
リングギヤ10のハブ部材20側は、回転軸O1と直交する方向で広がると共にリング状を呈し平坦な背面13(第1対向面)となっており、背面13は後記するフランジ面25aと対向している。そして、背面13にはハブ部材20に向けて突出すると共に回転軸O1を中心としたリング状(環状)の突起14が形成されており、突起14は、後記する環溝26に収容されると共に、環溝26内でその底面26aと溶着(接合)し、ハブ部材20と接合されている。
【0047】
<ハブ部材>
ハブ部材20は、駆動輪である後輪のホイール(図示しない)が取り付けられる部品である。ハブ部材20は、左側(一端側)から右側(他端側)に向かって、大径部21と、縮径部22と、小径部23とを備えている。そして、大径部21が、軸受31、31を介して、ケース32に回転自在に支持されており、小径部23が、軸受33を介して、ケース32に回転自在に支持されている。なお、大径部21の左側の端面に、前記ホイールが取り付けられる。
【0048】
縮径部22は、右側(他端側)に向かうにつれて徐々に縮径した円錐台状を呈しており、その外周面は第2合わせ面24を構成している。第2合わせ面24は、回転軸O1を中心とした円錐台状(円錐状)の面、つまり、その右端側が縮径したテーパ面である。すなわち、第2合わせ面24の外径は、左側から右側に進むにつれて、徐々に小さくなっている。
【0049】
ここで、第1実施形態では、回転軸O1を通る縦断面視において、回転軸O1に対する第1合わせ面12の第1傾斜角度θ1と、回転軸O1に対する第2合わせ面24の第2傾斜角度θ2とは、等しくなっている(θ1=θ2、図2(b)、図3(b)参照)。そして、第1合わせ面12と、第2合わせ面24とは、面全体で相互に密着している。
【0050】
大径部21の右側(縮径部22側)には、リング状のフランジ25が形成されている。そして、フランジ25の右面(リングギヤ10側面)は、フランジ面25a(第2対向面)を構成しており、このフランジ面25aは、回転軸O1と直交する方向で広がると共にリング状を呈する平坦な面であり、前記した背面13と対向している。
【0051】
また、フランジ面25aには、前記した突起14に対向し回転軸O1を中心とする環状かつ凹状の環溝26(凹部)が形成されている。そして、環溝26は、突起14を収容している。
なお、ハブ部材20側に環状の突起を形成し、リングギヤ10側に環状の溝を形成する構成としてもよい。
【0052】
≪動力伝達装置の製造方法≫
次に、動力伝達装置1の製造方法を説明する。
動力伝達装置1の製造方法は、合わせ面を形成する合わせ面形成工程と、リングギヤ10とハブ部材20とを電気抵抗溶接する接合工程と、リングギヤ10とハブ部材20とを押圧する押圧工程(アプセット工程)と、を含む。
【0053】
<合わせ面形成工程>
図3に示すように、リングギヤ10の内周面に第1合わせ面12を形成し、ハブ部材20の外周面に第2合わせ面24を形成する。第1合わせ面12は、母体となるリングギヤの内周面を、例えば、旋盤によって、研削・研磨することで形成する。第2合わせ面24は、母体となるハブ部材の外周面を、例えば、旋盤によって、研削・研磨することで形成する。
【0054】
また、リングギヤ10のハブ部材20側に、研削等によって、リング状の突起14及び背面13を形成する。なお、リング状の突起14に代えて、例えば、周方向において所定間隔で突起を形成してもよい。
一方、ハブ部材20のフランジ25のフランジ面25aに、研削等によって、環状の環溝26を形成する。
【0055】
ここで、背面13からの突起14の突出高さと、フランジ面25aからの環溝26の深さは、軸方向において、リングギヤ10とハブ部材20とを近づけた場合において、第1合わせ面12と第2合わせ面24とが接触する前に、突起14が環溝26の底面26aに接触し突き合わさるように形成される。また、環溝26の溝幅(径方向幅)は、径方向における突起14の厚さ(径方向長さ)よりも大きく形成される。
【0056】
<接合工程(電気抵抗溶接工程)>
リングギヤ10とハブ部材20とを電気抵抗溶接機(図示しない)に取り付け、リングギヤ10とハブ部材20とを同一の回転軸O1上に配置しながら、軸方向において相対的に近づけ、第1合わせ面12と第2合わせ面24との間に隙間を形成しつつ対向させながら、突起14と環溝26の底面26aとを第1押圧力P1で突き合せる。すなわち、環状の突起14を環溝26に差し込み、突起14を環溝26に収容し、突起14の左側端と環溝26の底面26aとが突き合わさった状態とする。
【0057】
なお、電気抵抗溶接機は、例えば、リングギヤ10の右側に配置されリングギヤ10を左向きに押すと共に第1電極となるリング状の第1治具と、ハブ部材20の左側に配置されハブ部材20を右向きに押すと共に第2電極となる第2治具と、第1治具及び第2治具に接合用の高電流を供給する電源装置(交流電源等)と、第1治具及び第2治具を相対的に近づく向きで押圧する押圧手段(油圧装置等)と、を備えている。
【0058】
このように第1合わせ面12と第2合わせ面24とが隙間を隔てて対向し、突起14と底面26aとが突き合わさった状態で、電気抵抗溶接機(図示しない)から、リングギヤ10及びハブ部材20に通電させる。そうすると、リングギヤ10及びハブ部材20が前記電源装置に対して電気的に直列で接続された状態となり、電源装置からの高電流が、リングギヤ10とハブ部材20との間において、突起14と底面26aとが突き合わさった突き合わせ部のみを流れることになる。
【0059】
そうすると、図4(a)、図4(b)に示すように、突起14と環溝26の底面26aとが突き合わさった突き合せ部において、通電に伴う抵抗熱が発生する。そして、この抵抗熱によって、突起14と環溝26の底面26aとが、軟化・溶融し、この突き合せ部において、リングギヤ10とハブ部材20とが接合(電気抵抗溶接)する。
【0060】
なお、この段階では、図4(b)に示すように、第1合わせ面12と第2合わせ面24との間には、僅かに隙間が残っている。
【0061】
<押圧工程>
その後、リングギヤ10及びハブ部材20への通電を停止する。そして、突起14と環溝26の底面26aとの突き合わせ部(接合部、溶着部)が完全に固体化する前に、第1押圧力P1より高い第2押圧力P2(P2>P1)で、リングギヤ10及びハブ部材20の一方を他方に対して押圧し、リングギヤ10とハブ部材20とを相対的に近づける。
【0062】
そうすると、図2(a)、図2(b)に示すように、第1合わせ面12と第2合わせ面24とが密着してリングギヤ10とハブ部材20の中心が一致する。これと同時に、突起14と環溝26の底面26aとの接合部においては、突起14と環溝26との間に介在している不純物が、環溝26内であってその接合部の外へ押し出されることで、リングギヤ10とハブ部材20との接合がより確実なものとなる。
なお、前記外へ押し出された不純物は、環溝26内でカール状のバリとなり、外部に露出しない。
【0063】
<その他の工程>
その後、一体化したリングギヤ10及びハブ部材20を、常温(例えば25℃)まで自然冷却すると、突き合わせ部を形成する金属は凝固し接合面が形成され、動力伝達装置1を得る。
【0064】
≪動力伝達装置の製造方法の効果≫
このような動力伝達装置1の製造方法によれば、次の効果を得る。
第1合わせ面12と第2合わせ面24とは、製造後の回転軸O1を中心とする円錐台状の面であるから、第1合わせ面12と第2合わせ面24とが押圧工程によって密着することにより、つまり、リングギヤ10とハブ部材20とを相対的に近づけるにつれて、リングギヤ10の中心軸と、ハブ部材20の中心軸とが、回転軸O1に近づき、一致する。これにより、例えば、リングギヤ10とドライブピニオン110との間において、噛合いにずれが発生することはない。
【0065】
また、第1合わせ面12と第2合わせ面24とが接触せず、突起14と底面26aとが突き合わさった状態で通電するので、抵抗熱を部分的に発生させ、突き合わせ部を効率的に昇温できる。よって、電気抵抗溶接に要する電気エネルギ(接合エネルギ)を抑えることができる。
【0066】
さらに、突起14において電気抵抗溶接する際に生じるバリは、ハブ部材20の溝状の環溝26内で形成されるので、動力伝達装置1の外部に現れず、バリの脱落によるギヤ噛合部への噛み込み等の不良の心配も無い。
また、従来におけるリンクギヤへのハブ部材のスプライン軸の圧入後の加締めも不要となり、動力伝達装置1の生産性が向上する。
【0067】
≪第1実施形態−変形例≫
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、後記する形態の構成と適宜に組み合わせてもよいし、また、次のように変更してもよい。なお、後記する形態についても同様である。
【0068】
前記した実施形態では、図3に示すように、リングギヤ10に環状の突起14(突出部)を形成し、ハブ部材20に環状の環溝26(凹部)を形成したが、その他に例えば、リングギヤ10に環溝を形成し、ハブ部材20に突起を形成してもよい。また、リングギヤ10に突起14に加えて環溝を形成し、ハブ部材20に環溝26に加えて前記環溝に対応した突起を形成してもよい。
【0069】
前記した実施形態では、突起14が回転軸O1を中心とする環状である構成を例示したが、その他に例えば、周方向において所定間隔をあけて複数のボス(突出部)を形成してもよい。また、複数のボス(突出部)は、同一の円周上で並んでいる必要は無く、径方向においてずれていてもよいし、多重円周状で並んでいてもよい。
この場合において、複数のボスの相手側の凹部は、ボスに対向するように形成すればよい。つまり、凹部は、環状である必要は無く、突出部に対応して形成すればよい。
【0070】
前記した実施形態では、ハブ部材20がリングギヤ10を貫通した構成を例示したが、貫通しない構成でもよい。すなわち、リングギヤ10のハブ部材20側に、円錐状の穴を形成し、この穴の周面を第1合わせ面としてもよい。
【0071】
前記した実施形態では、動力伝達部材がハブ部材20である構成を例示したが、これに限定されることはない。
前記した実施形態では、リングギヤ10に動力が入力される構成を例示したが、ハブ部材20に動力が入力される構成でもよい。
【0072】
≪第2実施形態≫
第2実施形態について、図5を参照して説明する。なお、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0073】
動力伝達装置1の構成について、異なる部分を説明する。
第2実施形態では、リングギヤ10の背面13には突起14(図2(b)参照)は形成されておらず、回転軸O1を中心とする環状の環溝15(第1凹部)が形成されており、リングギヤ10の環溝15とハブ部材20の環溝26(第2凹部)とは、軸方向において対向するように配置されている。
【0074】
第2実施形態に係る動力伝達装置1は、リング部材41(接合補助部材)を備えており、リング部材41は、環溝15と環溝26とで形成され回転軸O1を中心とするリング状の空間に収容されている。
そして、リング部材41の右側部分は、環溝15の底面15a(第1底面)と溶着(接合)している。一方、リング部材41の左側部分は、環溝26の底面26a(第2底面)と溶着(接合)している。すなわち、リングギヤ10とハブ部材20とは、リング部材41を介して相互に結合(接合)し一体化している。
ただし、接合補助部材は、リング状(環状)に限定されず、例えば、周方向において複数に分割された構成でもよい。
【0075】
動力伝達装置1の製造方法について、異なる部分を説明する。
合わせ面形成工程において、環溝15を形成する。
【0076】
次いで、接合工程(電気抵抗溶接工程)において、環溝15と環溝26とでリング部材41を挟み、環溝15の底面15aとリング部材41の右端面とを突き合わせた状態、かつ、環溝26の底面26aとリング部材41の左端面とを突き合わせた状態で、リングギヤ10及びハブ部材20に通電させる。
【0077】
ここで、軸方向において、接合前におけるリング部材41の厚さ、環溝15及び環溝26の深さは、リングギヤ10とハブ部材20とを近づけた場合において、第1合わせ面12と第2合わせ面24とが接触する前に、リング部材41が、環溝15の底面15aと環溝26の底面26aにそれぞれ接触し、それぞれ突き合わさるように形成される。
【0078】
このように通電すると、環溝15の底面15aとリング部材41との第1突き合わせ部と、環溝26の底面26aとリング部材41との第2突き合わせ部とのみを経由するように高電流が流れ、第1突き合わせ部及び第2突き合わせ部において、通電に伴う抵抗熱が発生する。
【0079】
そして、この抵抗熱によって、第1突き合わせ部において、環溝15の底面15aとリング部材41とが軟化・溶融し、接合(電気抵抗溶接)される。一方、第2突き合わせ部において、環溝26の底面26aとリング部材41とが軟化・溶融し、接合(電気抵抗溶接)される。
【0080】
≪第3実施形態≫
第3実施形態について、図6を参照して説明する。なお、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0081】
動力伝達装置1の構成について、異なる部分を説明する。
図6(a)、図6(b)に示すように、縦断面視において、回転軸O1に対する第1合わせ面12の第1傾斜角度θ1と、回転軸O1に対する第2合わせ面24の第2傾斜角度θ2とは、異なっている。具体的には、第1傾斜角度θ1は、第2傾斜角度θ2よりも大きい(θ1>θ2)。そして、第1合わせ面12と第2合わせ面24とは線接触、つまり、周方向において円周状で接触している。
【0082】
また、図6(b)に示すように、リングギヤ10の背面13と、ハブ部材20のフランジ面25aとは、相互に密着(当接)した構成となっている。
これにより、例えば、リングギヤ10がこれに噛合するドライブピニオン110(図1参照)から、図6(a)において、リングギヤ10の前側部分を左向き(図6(a)の紙面下向き)に押す噛合い反力を受けたとしても、背面13とフランジ面25aとが密着した状態であるので、リングギヤ10はハブ部材20に対して倒れず、リングギヤ10の回転軸とハブ部材20の回転軸とがずれることはない。
【0083】
動力伝達装置1の製造方法について、異なる部分を説明する。
押圧工程において、軸方向でリングギヤ10とハブ部材20とが相対的に近づく向きで押圧すると、傾斜角度の異なる第1合わせ面12と第2合わせ面24とが線状(円周状)の接触部(合わせ部)で接触し、リングギヤ10の中心とハブ部材20の中心とが一致しつつ、その押圧力が線状の接触部に集中する。
【0084】
これにより、リングギヤ10及び/又はハブ部材20が前記接触部において弾性変形又は塑性変形し、リングギヤ10とハブ部材20とが軸方向においてさらに近づく。
その後、さらに押圧が進むと、背面13とフランジ面25aとの隙間が無くなり、図6(b)に示すように、背面13とフランジ面25aとが密着した状態となる。
【0085】
≪第4実施形態≫
第4実施形態について、図7を参照して説明する。なお、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0086】
動力伝達装置1の構成について、異なる部分を説明する。
図7(a)、図7(b)に示すように、縦断面視において、第1合わせ面12の中央部は、第2合わせ面24に向かって円弧状で突出している。そして、第1合わせ面12と第2合わせ面24とは、第3実施形態と同様に、線接触、つまり、周方向において円周状で接触している。
なお、第2合わせ面24を円弧状としてもよいし、第1合わせ面12及び第2合わせ面24の両方を円弧状としてもよい。
【0087】
また、図7(b)に示すように、リングギヤ10の背面13と、ハブ部材20のフランジ面25aとは、相互に密着(当接)した構成となっている。
これにより、例えば、リングギヤ10がこれに噛合するドライブピニオン110(図1参照)から、図7(a)において、リングギヤ10の前側部分を左向き(図7(a)の紙面下向き)に押す噛合い反力を受けたとしても、背面13とフランジ面25aとが密着した状態であるので、リングギヤ10はハブ部材20に対して倒れず、リングギヤ10の回転軸とハブ部材20の回転軸とがずれることはない。
【0088】
動力伝達装置1の製造方法について、異なる部分を説明する。
押圧工程において、軸方向でリングギヤ10とハブ部材20とが相対的に近づく向きで押圧すると、第1合わせ面12の中央部と第2合わせ面24とが線状(円周状)の接触部(合わせ部)で接触し、リングギヤ10の中心とハブ部材20の中心とが一致しつつ、その押圧力が線状の接触部に集中する。
【0089】
これにより、リングギヤ10及び/又はハブ部材20が前記接触部において弾性変形又は塑性変形し、リングギヤ10とハブ部材20とが軸方向においてさらに近づく。
その後、さらに押圧が進むと、背面13とフランジ面25aとの隙間が無くなり、図7(b)に示すように、背面13とフランジ面25aとが密着した状態となる。
【0090】
≪第5実施形態≫
第5実施形態について、図8を参照して説明する。なお、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0091】
図8は、動力伝達部材をデフケース230とし、本発明を四輪車の終減速装置200に適用した構成を例示する図である。終減速装置200は、ドライブピニオン210と、リングギヤ10と、デフ装置220と、を備えている。ドライブピニオン210は、車体に固定されたケース215に、軸受216、216を介して回転自在に支持されている。ドライブピニオン210の前端は、推進軸(図示しない)の後端と連結され、推進軸の動力がドライブピニオン210に入力されるようになっている。
【0092】
ドライブピニオン210のギヤ部211は、リングギヤ10のギヤ部11と噛合している。
【0093】
デフ装置220は、デフケース230と、デフギヤと、を備えている。デフギヤは、ピニオンギヤ241、241と、サイドギヤ242、242と、を備えている。デフケース230は、車体に固定されたケース235に、軸受236、236を介して回転自在に支持されており、その回転軸O1は後輪の回転中心である。そして、動力伝達装置2は、リングギヤ10と、デフケース230とを備えて構成されている。
【0094】
そして、デフケース230の外周面の一部には、回転軸O1を中心とする円錐台状の第2合わせ面231が形成されており、第2合わせ面231は、リングギヤ10の第1合わせ面12と密着した状態となっている。
【0095】
また、デフケース230には、環状の環溝233が形成されており、環溝233は、リングギヤ10の突起14を収容すると共に、環溝233の底面は突起14と電気抵抗溶接されている。すなわち、リングギヤ10とデフケース230とは高強度材料からなるボルトによって締結されてなく、部品点数が削減され、その軽量化が図られている。つまり、動力伝達装置2の製造方法において、リングギヤ10とデフケース230との高い締め付け力によるボルト締結工程は不要であり、また、ボルト孔の形成工程も不要であり、動力伝達装置2の生産性が向上されている。
その他の作用効果については、第1実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【符号の説明】
【0096】
1、2 動力伝達装置
10 リングギヤ(大歯車)
12 第1合わせ面
13 背面(第1対向面)
14 突起(突出部)
15 環溝(第1凹部)
15a 底面(第1底面)
20 ハブ部材(動力伝達部材)
24 第2合わせ面
25a フランジ面(第2対向面)
26 環溝(凹部、第2凹部)
26a 底面(第2底面)
41 リング部材(接合補助部材)
100、200 終減速装置
110、210 ドライブピニオン
230 デフケース(動力伝達部材)
231 第2合わせ面
O1 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大歯車と動力伝達部材とを備え、前記大歯車と前記動力伝達部材とが一体で構成され同一の回転軸を中心とする動力伝達装置の製造方法であって、
前記大歯車に前記回転軸を中心とする円錐状の第1合わせ面を形成し、前記動力伝達部材に前記回転軸を中心とし前記第1合わせ面と合わさる円錐状の第2合わせ面を形成し、前記大歯車及び前記動力伝達部材の一方に他方に向かって突出する突出部を形成し、前記大歯車及び前記動力伝達部材の他方に前記突出部に対向する凹部を形成する合わせ面形成工程と、
前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを対向させつつ、前記突出部と前記凹部の底面とを突き合わせた状態で、前記大歯車及び前記動力伝達部材に通電し、前記突出部と前記凹部の底面とを電気抵抗溶接で接合する接合工程と、
軸方向において前記大歯車と前記動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧し、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを密着させる押圧工程と、
を含む
ことを特徴とする動力伝達装置の製造方法。
【請求項2】
大歯車と動力伝達部材とを備え、前記大歯車と前記動力伝達部材とが一体で構成され同一の回転軸を中心とする動力伝達装置の製造方法であって、
前記大歯車に前記回転軸を中心とする円錐状の第1合わせ面を形成し、前記動力伝達部材に前記回転軸を中心とし前記第1合わせ面と合わさる円錐状の第2合わせ面を形成し、前記大歯車に第1凹部を形成し、前記動力伝達部材に前記第1凹部と対向する第2凹部を形成する合わせ面形成工程と、
前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを対向させつつ、前記第1凹部と前記第2凹部とで接合補助部材を挟み、前記第1凹部の第1底面と前記接合補助部材と突き合わせた状態、かつ、前記第2凹部の第2底面と前記接合補助部材とを突き合わせた状態で、前記大歯車及び前記動力伝達部材に通電し、前記第1凹部の第1底面及び前記接合補助部材と前記第2凹部の第2底面及び前記接合補助部材とをそれぞれ電気抵抗溶接で接合する接合工程と、
軸方向において前記大歯車と前記動力伝達部材とを相対的に近づく向きで押圧し、前記第1合わせ面と前記第2合わせ面とを密着させる押圧工程と、
を含む
ことを特徴とする動力伝達装置の製造方法。
【請求項3】
前記回転軸に対する前記第1合わせ面の第1傾斜角度と、前記回転軸に対する前記第2合わせ面の第2傾斜角度とは、異なる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の動力伝達装置の製造方法。
【請求項4】
縦断面視において、前記第1合わせ面及び前記第2合わせ面の一方は、他方に向かって円弧状で突出している
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の動力伝達装置の製造方法。
【請求項5】
前記動力伝達部材は、駆動輪が取り付けられるハブ部材である
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の動力伝達装置の製造方法。
【請求項6】
前記動力伝達部材は、デフケースである
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の動力伝達装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−34998(P2013−34998A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170567(P2011−170567)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】