説明

動力伝達装置及びチェーンの張り調整方法

【課題】チェーンの張り調整を簡易かつ安価に構成可能な動力伝達装置及びチェーンの張り調整方法を提供する。
【解決手段】ローラチェーン30の外周面側には、リング状のゴム部材40が巻き掛けられている。このゴム部材40の長さは、ローラチェーン30の長さよりも短く形成されている。このため、ゴム部材40が巻き掛けられているローラチェーン30は、ゴム部材40の弾性力により、ローラチェーン30の長さが短くなるような収縮力を略均一に受ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動を伝達するための動力伝達装置及び当該動力伝達装置に用いられるチェーンの張り調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの軸の間で一方の軸の回転運動を他方の軸に伝達する方法として、一方の軸に取り付けた原動節と他方の軸に取り付けた従動節とが互いに直接接触することで回転運動を伝達する伝達方式がある。このような直接接触による伝達方式には、滑り接触によるもの(例えばカム等)と、転がり接触によるもの(例えば摩擦車等)と、滑り接触及び転がり接触の両方によるもの(例えば歯車等)とがある。
【0003】
その一方で、2つの軸間距離が比較的長い場合には、上述した直接接触による伝達方式を採用することは困難であることから、2軸に取り付けた原動節と従動節とが他の部材である中間媒介節を介して回転運動を伝達する間接接触による伝達方式が採用される。この場合の中間媒介節としては、例えば歯車列(ギヤトレイン)を用いたり、チェーンやベルト等の屈曲自在な部材を用いたりすることができる。言い換えると、間接接触による伝達方式には、歯車列を用いた伝達機構やチェーンを用いた伝達機構等がある。
【0004】
歯車列を用いた伝達機構は、歯のかみ合いにより駆動力が伝達されるため、速度伝達比が正確で、大きな動力も伝達可能である。しかしながら、歯車列を用いた伝達機構では、複数の歯車を用いることから、円ピッチや回転方向等の歯車列を設計する上で種々の制約を受けてしまうと共に、軽量化やコストダウンを図ることが困難という点もある。
【0005】
チェーンを用いた伝達機構は、2軸にスプロケットを取り付け、そのスプロケットにチェーンを巻き掛けて構成されている。チェーンは、スプロケットの歯に引っかかって駆動力を伝達するので、すべりを生じることなく回転比を確実に保つことができる。また、チェーンとして鋼製のものを用いると、あまりにも高速度の回転では振動や騒音が生じやすいという面もあるものの、大きな張力に耐えられ、大きな駆動力の伝達も可能である。また、スプロケットを取り付けた2軸の軸間距離の精度を高める必要がないので、コストダウンを図ることができると共に、軽量化を実現することが容易になる。
【0006】
このようなチェーンを用いた伝達機構は、原動節から従動節への駆動力の円滑な伝達を確保するために、スプロケットに巻き掛けられたチェーンの張りを最適に調整するための手段が必要であり、種々の構造のチェーン張り調整機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1には、ステアリングホイールの操舵トルクをチェーンを介して第1のスプロケットから第2のスプロケットに伝達する操舵トルク伝達装置に用いられるチェーン張り調整機構が開示されている。このチェーン張り調整機構は、第1のスプロケット及び第2のスプロケットのうちの一方が一端に設けられたシャフトと、シャフトを回動可能に支持する自動調心軸受部材と、シャフトを傾斜させるように自動調心軸受部材をその自動調心軸受部材の径方向に位置変更させる軸受位置変更手段と、によって構成されている。
【0008】
【特許文献1】特開平11−5546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されているチェーン張り調整機構では、自動調心軸受部材を軸受位置変更手段により位置変更してシャフトを傾斜させることでチェーンの張りを最適に調整することが可能な構成を採用している。このため、第1スプロケットと第2スプロケットとの軸間距離が変わってしまう。すなわち、チェーン張り調整機構が用いられる構造体によっては、軸間距離が変わることで性能等に影響を与えてしまうことが懸念される。例えばオートバイ等の場合では、軸間距離が変わってしまうことで前後タイヤ間距離長の変化や姿勢の変化(偏芯カム式の場合)が発生し、その結果、直進性と旋回性に影響を与えて乗り易さが変わってしまうので、好ましくない。また、そのようなチェーン張り調整機構を設けることにより、装置の複雑化、大型化及びコストアップにつながってしまい、好ましくない場合がある。
【0010】
また、回転軸の位置を調整できない機械構造体の場合には、そのようなチェーン張り調整機構では対応することができない。また、機械の内部でスペース的に厳しい個所、例えばエンジン内部のクランクシャフトとカムシャフトとの間に設けるローラチェーンの場合にも、同様に対応することができない。
また、軸受位置変更手段を設けることが必要であるため、その分のコストを削減することが困難である。
【0011】
ここで、特許文献1に開示されたチェーン張り調整機構のほかに、軸間距離を変えないでチェーンの張りを最適に調整可能な構造として、いわゆるアイドラによる調整やチェーンスライダによる調整も従来から提案されている。しかしながら、いずれの場合にも、部品の追加によるコストの削減を行うことが困難であり、また、スペース的に厳しい個所については、これらの調整機構を設置することが困難である。
【0012】
本発明は、以上のような技術的課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、チェーンの張り調整手段を簡易かつ安価に構成可能な動力伝達装置及びチェーンの張り調整方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、スペース的に厳しい個所にもチェーンの張り調整手段を設けることが可能な動力伝達装置及びチェーンの張り調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的のもと、本発明が適用される動力伝達装置は、駆動スプロケットと従動スプロケットとに掛け渡されたチェーンが駆動スプロケットの駆動力により回転することによって従動スプロケットに駆動スプロケットの駆動力を伝達する動力伝達装置であって、チェーンの戻り側における張力を低減するようにチェーンに弾性部材を装着したことを特徴とするものである。
【0014】
この弾性部材は、チェーンの外周面に全周にわたって巻き掛けられていることを特徴とすることができる。また、弾性部材は、チェーンと共に回転することを特徴とすることができる。
【0015】
また、弾性部材は、チェーンに巻き掛けられている輪状のゴム部材であることを特徴とすることができる。また、弾性部材は、チェーンに巻き掛けられている輪状のバネ部材であることを特徴とすることができる。また、弾性部材は、チェーンを構成する隣り合う内リンク同士又は隣り合う外リンク同士が互いに近接する方向に付勢するように内リンク又は外リンクに取り付けられているバネ部材であることを特徴とすることができる。
【0016】
ここで、チェーンの外周側に位置し、チェーンが掛け渡されたアイドルスプロケットを更に含み、チェーンに巻き掛けられた弾性部材は、アイドルスプロケットに掛け渡されたチェーンの部分と離間することを特徴とすることができる。この場合には、アイドルスプロケットの近傍に設けられ、チェーンと離間している弾性部材の部分が巻き掛けられるアイドルローラを更に含むことを特徴とすることができる。
【0017】
他の観点から捉えると、本発明が適用されるチェーンの張り調整方法は、駆動スプロケットの駆動力を従動スプロケットに伝達するために駆動スプロケットと従動スプロケットとに掛け渡された回転可能なチェーンの張り調整方法であって、駆動スプロケットと従動スプロケットとに掛け渡したチェーンが弛んだ状態になるように、駆動スプロケットと従動スプロケットとの軸間距離及びチェーンの長さ寸法の設定を行い、輪状の弾性部材をチェーンに装着してチェーンの弛みを低減することを特徴とするものである。
【0018】
そして、駆動スプロケット及び従動スプロケットに掛け渡されたチェーンは、アイドルスプロケットにも掛け渡され、チェーンに装着された輪状の弾性部材は、チェーンと共に回転し、かつ、アイドルスプロケットに掛け渡されたチェーンの部分と離間することを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、チェーンの張り調整手段を簡易かつ安価に構成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係る動力伝達装置の要部を示す正面図である。同図の(a)は、要部の正面図であり、(b)は、(a)の矢印b−bによる断面図である。
同図の(a)に示すように、駆動軸(ドライブ側の軸)D1の一端に駆動スプロケット10がキー溝Kを用いて取り付けられると共に、従動軸(ドリブン側の軸)D2の一端に従動スプロケット20がキー溝Kを用いて取り付けられている。そして、これら駆動スプロケット10及び従動スプロケット20には、ローラチェーン(動力伝達体、チェーン)30が巻き掛けられている。すなわち、ローラチェーン30は、駆動スプロケット10と従動スプロケット20との間に掛け渡されている。なお、駆動スプロケット10及び従動スプロケット20には、同図の(b)に示すように、ローラチェーン30のピッチに適合する複数の歯gが形成されている。
【0021】
ここで、駆動軸D1の他端には、図示しない駆動源が連結されている。また、従動軸D2の他端には、図示しない機械部品が連結されている。そして、図示しない駆動源が駆動すると、その駆動力により駆動軸D1及び駆動スプロケット10が矢印Aの方向に回転駆動し、ローラチェーン30を介して従動スプロケット20及び従動軸D2が回転駆動する。このようにして、従動軸D2に連結された図示しない機械部品に駆動力が伝達される。
【0022】
ローラチェーン30は、駆動スプロケット10と従動スプロケット20の高さ位置が略同一となるような配置であるいわゆる横置きの状態であり、また、矢印Aの方向に回転駆動する駆動スプロケット10によって駆動される。このため、ローラチェーン30の張り側が上方に位置し、ローラチェーン30の弛み側(戻り側)が下方に位置する。
【0023】
図2は、第1の実施の形態に係る動力伝達装置の部分の概略斜視図である。
同図に示すように、ローラチェーン30の外周面側には、リング状のゴム部材(弾性部材)40が巻き掛けられている。このゴム部材40の長さは、ローラチェーン30の長さよりも短く形成されており、このため、ゴム部材40が巻き掛けられているローラチェーン30は、ゴム部材40の弾性力により、ローラチェーン30の長さが短くなるような収縮力を略均一に受ける。この収縮力の作用は、ローラチェーン30の弛み側においてより顕著に現れる。この作用の詳細については、後述する。
【0024】
図3は、ローラチェーン30の分解斜視図である。
同図に示すように、ローラチェーン30は、内リンク(ローラリンク)31と外リンク(ピンリンク)32とを備えている。そして、これら内リンク31と外リンク32とを交互に連結することでローラチェーン30が構成されている。なお、ローラチェーン30は、通常は、内リンク31と外リンク32とを偶数リンクで構成されている。
【0025】
ローラチェーン30の内リンク31の各々は、2枚の内プレート311と、2枚の内プレート311の一端部及び他端部を連結する2個のブシュ312と、2個のブシュ312の各々が挿入される回動自在なローラ313と、を有する。また、ローラチェーン30の外リンク32の各々は、内リンク31の内プレート311と同じ形状の2枚の外プレート321と、2枚の外プレート321の一端部及び他端部を連結する2個のピン322と、を有する。
【0026】
内プレート311及び外プレート321は、伝動中にローラチェーン30にかかる張力を受け持つ部材である。なお、張力は通常は繰り返し荷重であるが、時には衝撃を伴う場合がある。したがって、内プレート311及び外プレート321には、単に静的な抗張力だけではなく、疲労強度・衝撃強度が高く、動的にも強靭なものが用いられる。
【0027】
ブシュ312は、各部品を介して複雑な力を受ける部材であり、とりわけ駆動スプロケット10及び従動スプロケット20(図2参照)とかみ合う際に、ローラ313を介して繰り返し荷重を受けるので、大きな衝撃疲労強度が要求される部材である。また、ブシュ312は、ピン322の相手となって軸受け部としての作用をするので、耐摩耗性も要求される部材でもある。なお、ピン322とブシュ312との間隔(軸受け)には、グリース等の潤滑剤が塗布又は注入され、図示しないシールリングにより封入されている。
【0028】
ローラ313は、ローラチェーン30が駆動スプロケット10及び従動スプロケット20(図2参照)にかみ込むときに歯面との衝突により繰り返し衝撃荷重を受ける部材である。また、ローラ313は、かみ合った後に張力の大きさによって歯とのかみ合いの平衡位置が変化するので、歯とブシュ312に挟まれながら歯面を移動し圧縮荷重と摩擦力とを受ける部材でもある。したがって、ローラ313は、衝撃疲労強度、耐圧縮強度及び耐磨耗性が要求される部材である。
【0029】
ピン322は、内プレート311及び外プレート321を介してせん断及び曲げを受けると同時に、ローラチェーン30が屈曲して駆動スプロケット10及び従動スプロケット20(図2参照)とかみ合う際に、ブシュ312と共に軸受け部を構成する部材である。なお、ピン322には、せん断強度、曲げ強度及び靭性のみならず、耐磨耗性が求められる。
【0030】
このように、ローラチェーン30は、自由に回転できるローラ313をはめたブシュ312で内プレート311が固定された内リンク31と、外プレート321がピン322で固定された外リンク32とが交互に組み合わされて環状ないしは無端状に構成されている。そして、ローラチェーン30は、駆動スプロケット10及び従動スプロケット20(図2参照)とのかみ合い時などには、内リンク31と外リンク32とが屈曲し、この際にピン322とブシュ312とが相対的に擦れ合う軸受け部を構成するが、この軸受け部には、グリース等の潤滑剤が充填されているため、通常の使用環境で用いられると、長期にわたって屈曲を滑らかに保持することが可能になる。
【0031】
ローラチェーン30について付言すると、ローラチェーン30は、内リンク31と外リンク32とを交互に連結した両端部を、図示しない継手リンクで連結することにより、無端状ないしは環状に構成されている。ここにいうローラチェーン30というのは、ローラ313(図3参照)を用いずに構成されたブシュチェーンも含まれるものとする。更に付言すると、ローラチェーン30以外のチェーンについても本実施の形態を適用することができる。例えば、リンクプレート及びピンのみで構成されているリーフチェーンを挙げることができる。
【0032】
ここで、ローラチェーン30には、外リンク32と内リンク31を兼ねることができる図示しないオフセットリンク(半コマ)が用いられる場合がある。この図示しないオフセットリンクは、軸間距離の調整ができない状況において、奇数リンクで使用される際のローラチェーン30の接続に用いたり、ローラチェーン30の全長を1ピッチ分だけ増減したりする目的で用いられるものである。
【0033】
図4は、ゴム部材40によるローラチェーン30への作用を説明するための説明図である。すなわち、図4の(a)は、ローラチェーン30のみを駆動スプロケット10と従動スプロケット20とに張り過ぎ状態で巻き掛けた場合を説明するための説明図であり、(b)は、(a)の場合におけるローラチェーン30の内リンク31と外リンク32との連結部分を拡大して示す概略図である。また、図4の(c)は、ローラチェーン30のみを駆動スプロケット10と従動スプロケット20とに弛み過ぎ状態で巻き掛けた場合を説明するための説明図である。また、図4の(d)は、ゴム部材40と共にローラチェーン30を駆動スプロケット10と従動スプロケット20とに巻き掛けた状態を説明するための説明図である。言い換えると、同図の(a)ないし(c)は、従来の構造を説明するための説明図であり、(d)は、本実施の形態について説明するための説明図である。
【0034】
付言すると、同図の(a)に示すローラチェーン30の張り過ぎ状態は、駆動スプロケット10と従動スプロケット20との軸間距離がローラチェーン30の周長に比べて長すぎる場合、あるいは、ローラチェーン30の周長が軸間距離に比べて短すぎる場合のいずれかである。また、同図の(c)に示すローラチェーン30の弛み過ぎ状態は、駆動スプロケット10と従動スプロケット20との軸間距離がローラチェーン30の周長に比べて短すぎる場合、あるいは、ローラチェーン30の周長が軸間距離に比べて長すぎる場合のいずれかである。
【0035】
同図の(a)に示すように、駆動スプロケット10と従動スプロケット20とに掛け渡されたローラチェーン30を張り過ぎ状態にすると、ローラチェーン30の弛み側の弛み量が極わずかとなることから、駆動スプロケット10及び従動スプロケット20とローラチェーン30との間の噛合い角度αを十分に確保することができる点で好ましい。一例としては、180度の噛合い角度αを確保することができると考えられる。
【0036】
しかしながら、張り過ぎ状態の場合には、ローラチェーン30の張り側のみならず、弛み側も高い張力のままである。このため、張り過ぎ状態にしてローラチェーン30を回転駆動させると、同図の(b)に示すように、ローラチェーン30において内リンク31のブシュ312と外リンク32のピン322とが常に圧接した状態で揺動運動することにより、ブシュ312とピン322との間の摩擦面は油膜切れを起こして潤滑不良を招くおそれがある。そのような揺動運動が繰り返し行われると、潤滑不良によって磨耗が進んでしまい、ローラチェーン30が伸びてしまう。したがって、噛合い角度が少なくなってしまい、また、ローラチェーン30の交換が必要になり、メンテナンスやランニングコストの面から好ましくない結果をもたらす。
【0037】
また、同図の(c)に示すように、ローラチェーン30を弛み過ぎ状態にすると、ローラチェーン30の弛み側の弛み量が大きくなるので、ローラチェーン30の弛み側では、ブシュ312とピン322との間の摩擦面にグリース等の潤滑剤が入り込むことが可能になる。このように、ローラチェーン30を弛み過ぎると、潤滑の観点からは好ましい。
【0038】
しかしながら、ローラチェーン30の弛み側では、ローラチェーン30の自重により従動スプロケット20から外れる方向に逃げてしまう。すなわち、ローラチェーン30の回転駆動時には、ローラチェーン30の弛み側では、静止時に比べて軌道が外側に膨らんでしまう。このため、ローラチェーン30の回転駆動時には、従動スプロケット20とローラチェーン30との噛合い角度αが所定値(例えば120度)以下にまで下がってしまうおそれがある。その一例を示すと、100度程度まで下がってしまうと、とりわけ従動スプロケット20がローラチェーン30との関係によって損傷してしまう可能性がより高まってしまう。
【0039】
これに対し、同図の(d)に示すように、本実施の形態のゴム部材40を用いることにより、上述した同図の(a)及び(c)の場合の不具合を解消することが可能になる。すなわち、駆動スプロケット10と従動スプロケット20とに掛け渡されたローラチェーン30がわずかに弛ませた状態になるように、ローラチェーン30の周長ないしは軸間距離を設定する。そして、ローラチェーン30の周長の90%程度の長さの輪状のゴム部材40をローラチェーン30の外周にはめる。このような構成を採用することで、ゴム部材40の作用を利用して上述した不具合点を解消することができる。なお、上述したように、ゴム部材40の大きさを周長で管理することにより、ゴム部材40がローラチェーン30に付与する張力の大きさを調整することが可能である。
【0040】
詳述すると、ローラチェーン30の弛み側では、ローラチェーン30に装着したゴム部材40の張力の作用により、ローラチェーン30の弛み側におけるローラチェーン30の張力が低減され、ブシュ312とピン322との間の摩擦面に潤滑剤が入り込むことを確保することができ、ローラチェーン30の寿命を伸ばすことが可能になる。
また、ゴム部材40の張力の作用により、ローラチェーン30の回転駆動時にローラチェーン30の弛み側の軌道が外側に膨らんでしまうことを防止することができ、従動スプロケット20がローラチェーン30により損傷してしまうことを回避することができる。
【0041】
このように、ゴム部材40をローラチェーン30に巻き掛けることにより、ローラチェーン30の弛み側での適度な弛み量を確保することができると共に、弛み側の軌道が外側に膨らんでしまうこと(挙動変化量)を抑制することができる。したがって、噛合い角度αの低下が抑えられて従動スプロケット20の損傷ないしは磨耗が抑制される。また、弛み側における振動や騒音を抑制することができる。
【0042】
さらに説明すると、ゴム部材40は、張力をもってローラチェーン30の外周面に取り付けられる。このため、ゴム部材40をローラチェーン30に固定するための部材を設ける必要がない。また、ゴム部材40は、図3に示すローラチェーン30の外プレート321の間ないしは内プレート311の間であるローラ313と当接する。ゴム部材40がローラチェーン30の外周面から突出する量はわずかであるので、ローラチェーン30の周囲にあまりスペースがない場合にも対応することができる。このように、ゴム部材40を利用する本実施の形態の構成は、コストやスペース的な観点からも有利である。
【0043】
また、ゴム部材40は、ローラチェーン30の全周にわたって巻き掛けられている。そして、そのようにローラチェーン30に装着されたゴム部材40は、ローラチェーン30と共に回転するので、ゴム部材40とローラチェーン30との相対速度がない。このため、ゴム部材40がローラチェーン30と擦れることを防止でき、ゴム部材40やローラチェーン30の寿命を不必要に短くしてしまうことを回避することができる。
【0044】
図5は、ゴム部材40によるローラチェーン30への作用を説明するための説明図である。
同図に示すように、駆動スプロケット10と従動スプロケット20の高さ位置が互いに異なるような配置である縦置きの場合にも、本実施の形態を適用することができる。より正確には、本実施の形態は、横置きの場合よりも縦置きの場合の方が、噛合い角度α(図4参照)の向上についての効果をより期待できると考えられる。
【0045】
すなわち、ゴム部材40を装着しない状態では、ローラチェーン30が自重で駆動スプロケット(下方スプロケット)10から外れる方向に逃げるために噛合い角度α(図4参照)が下がってしまう。これによって、ローラチェーン30、特に駆動スプロケット10に負担をかけ、寿命を短くしてしまう。そして、本実施の形態のように、ゴム部材40を用いて適度なテンションを付加すると、その噛合い角度αを増加させることができ、その結果として、寿命を長くすることができる。
【0046】
また、本実施の形態の場合と従来のチェーンテンショナを用いる場合とを対比してみる。チェーンテンショナは、回転方向が一方向である場合には用いることができるものの、回転方向が変わる場合すなわち逆回転が可能な構成の場合には、対応することができない。チェーンテンショナの取り付け位置は、弛み側にしか取り付けられないからである。
これに対し、本実施の形態の場合には、チェーンテンショナの場合と異なり、逆回転を行う構成であっても対応することができる。この意味で、本実施の形態の場合には、汎用性を高めることができると言える。
【0047】
なお、本実施の形態は、チェーン伝動装置等の巻き掛け式動力伝達装置として用いられる場合であれば、その用途や設置場所を問わない。例えば、エンジンのタイミングチェーンに応用したり、操舵トルク伝達装置に応用したりすることが考えられる。そして、ゴム部材40としては、用いられる環境に対応可能な性質を有する必要があるが、例えば、弾性体で耐摩耗性、耐油性、耐光性及び耐オゾン性があるものを用いると好ましい。ゴム部材40の材質としては、例えば、ポリウレタンを用いることができる。
【0048】
ここで、図6は、リング状のバネ部材41を説明するための説明図であり、同図の(a)は、リング状のバネ部材41の外観図であり、(b)は、リング状のバネ部材41の継ぎ目を説明するための斜視図である。
本実施の形態において、同図の(a)に示すバネ部材41を、ゴム部材40の代わりに用いることができる。このバネ部材41は、例えば内燃機関としてのエンジン等に使うオイルシールの内側に入っているバネである。そして、同図の(a)に示すように、一見すると均一のバネ輪であるが、継ぎ目があり、同図の(b)に示すように、線状に形成されたバネの端部41a,41b同士を互いに継いでリング状に構成されている。
【0049】
具体的には、一方の端部41aは縮径して形成され、他方の端部41bは、端部41aを受け入れ可能な凹形状に形成されている。そして、一方の端部41aを他方の端部41bに圧入することにより、リング状に形成される。当然ながら、バネ部材41の周長は、ローラチェーン30の周長よりも短くなるように形成されている。
このように、リング状のゴム部材40をローラチェーン30に巻き掛けている代わりに、リング状のバネ部材41をローラチェーン30に巻き掛ける構成にしても、ゴム部材40と同様の効果を得ることができる。
【0050】
〔第2の実施の形態〕
図7は、第2の実施の形態に係る動力伝達装置におけるローラチェーン30を部分的に示す概略正面図である。
同図に示すように、本実施の形態では、図3に示すローラチェーン30に、引っ張りコイルバネであるバネ部材50を追加した構成を採用している。すなわち、本実施の形態では、ローラチェーン30における内リンク31の各々にバネ部材50を設けて、そのバネ部材50を隣り合う内リンク31に連結している。このため、隣り合う内リンク31同士は、バネ部材50により近接する方向に付勢されている。このように構成することにより、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
なお、本実施の形態では、バネ部材50により内リンク31同士に付勢力を付与しているが、外リンク32同士をバネ部材50で連結する構成を採用することも考えられる。
【0051】
〔第3の実施の形態〕
図8は、第3の実施の形態に係る動力伝達装置の要部の概略正面図である。
同図に示すように、本実施の形態では、従動スプロケット20の巻き掛けられているローラチェーン30の外周面に当接するゴム部材60が配設されている。このゴム部材60の両端は、装置本体側の取り付け部材61に固定されており、ゴム部材60がローラチェーン30と共に回転するものではない。すなわち、ゴム部材60は、ローラチェーン30と摺接する。そして、ゴム部材60と摺接するローラチェーン30の部分は、ローラチェーン30の従動スプロケット20における弛み側である。
本実施の形態では、上述した効果を期待できる必要最低限の部分に限ってゴム部材60を配設しているので、コストの上昇を抑制することができる。
【0052】
〔第4の実施の形態〕
図9は、第4の実施の形態に係る動力伝達装置の概略構成図である。
同図に示すように、ローラチェーン30は、駆動スプロケット10、従動スプロケット20、中間スプロケット70及びアイドルスプロケット(アイドラースプロケット)80に巻き掛けられている。ここにいうアイドルスプロケット80とは、動力伝達に直接関係なく、空転したローラチェーン30の緩みや巻付け角の調整などのために用いられるスプロケットをいう。付言すると、このアイドルスプロケット80により、ローラチェーン30は、内方に押圧されており、このため、従動スプロケット20とローラチェーン30との十分な噛合い角度α(図4参照)を確保している。
【0053】
ローラチェーン30の外周には、ゴム部材40が装着されている。詳述すると、ゴム部材40は、アイドルスプロケット80に巻き掛けられているローラチェーン30の部分では、ローラチェーン30と離間している。すなわち、アイドルスプロケット80は、ローラチェーン30の外周側に位置している。このため、ローラチェーン30の外周に装着されたゴム部材40は、アイドルスプロケット80との干渉防止のために、離間している。言い換えると、アイドルスプロケット80は、ローラチェーン30とゴム部材40との間に位置し、かつ、ゴム部材40と離間している。こうして、ローラチェーン30の外周のゴム部材40がアイドルスプロケット80との接触により破損してしまうことを回避している。
【0054】
このように、ローラチェーン30と共にゴム部材40が回転する場合に、ローラチェーン30の外周側に、ローラチェーン30と噛合するスプロケットが配設された構成であっても、ゴム部材40をローラチェーン30に装着することが可能である。
【0055】
〔第5の実施の形態〕
図10は、第5の実施の形態に係る動力伝達装置の概略構成図である。
同図に示すように、本実施の形態の基本的な構成は、図8に示す第3の実施の形態の場合と同じであるが、本実施の形態では、ローラチェーン30と離間しているゴム部材40の部分を保持するアイドルローラ90が配設されている。このため、アイドルローラ90の位置を適宜決定することにより、ゴム部材40の軌道を設定することができ、ローラチェーン30と共にゴム部材40が回転する場合の円滑な動作を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第1の実施の形態に係る動力伝達装置の要部を示す正面図である。
【図2】図1に示す動力伝達装置の部分の概略斜視図である。
【図3】ローラチェーンの分解斜視図である。
【図4】ゴム部材によるローラチェーンへの作用を説明するための説明図である。
【図5】ゴム部材によるローラチェーンへの作用を説明するための説明図である。
【図6】リング状のバネ部材を説明するための説明図である。
【図7】第2の実施の形態に係る動力伝達装置におけるローラチェーンを部分的に示す概略正面図である。
【図8】第3の実施の形態に係る動力伝達装置の要部の概略正面図である。
【図9】第4の実施の形態に係る動力伝達装置の概略構成図である。
【図10】第5の実施の形態に係る動力伝達装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0057】
10…駆動スプロケット、20…従動スプロケット、30…ローラチェーン、31…内リンク、311…内プレート、312…ブシュ、313…ローラ、32…外リンク、321…外プレート、322…ピン、40,60…ゴム部材、41,50…バネ部材、61…取り付け部材、70…中間スプロケット、80…アイドルスプロケット、90…アイドルローラ、A…矢印、D1…駆動軸、D2…従動軸、K…キー溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動スプロケットと従動スプロケットとに掛け渡されたチェーンが当該駆動スプロケットの駆動力により回転することによって当該従動スプロケットに当該駆動スプロケットの駆動力を伝達する動力伝達装置であって、
前記チェーンの戻り側における張力を低減するように当該チェーンに弾性部材を装着したことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記チェーンの外周面に全周にわたって巻き掛けられていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記弾性部材は、前記チェーンと共に回転することを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記弾性部材は、前記チェーンに巻き掛けられている輪状のゴム部材であることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記弾性部材は、前記チェーンに巻き掛けられている輪状のバネ部材であることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記弾性部材は、前記チェーンを構成する隣り合う内リンク同士又は隣り合う外リンク同士が互いに近接する方向に付勢するように当該内リンク又は当該外リンクに取り付けられているバネ部材であることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記チェーンの外周側に位置し、当該チェーンが掛け渡されたアイドルスプロケットを更に含み、
前記チェーンに巻き掛けられた前記弾性部材は、前記アイドルスプロケットに掛け渡された当該チェーンの部分と離間することを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記アイドルスプロケットの近傍に設けられ、前記チェーンと離間している前記弾性部材の部分が巻き掛けられるアイドルローラを更に含むことを特徴とする請求項7に記載の動力伝達装置。
【請求項9】
駆動スプロケットの駆動力を従動スプロケットに伝達するために当該駆動スプロケットと当該従動スプロケットとに掛け渡された回転可能なチェーンの張り調整方法であって、
前記駆動スプロケットと前記従動スプロケットとに掛け渡した前記チェーンが弛んだ状態になるように、当該駆動スプロケットと当該従動スプロケットとの軸間距離及び前記チェーンの長さ寸法の設定を行い、
輪状の弾性部材を前記チェーンに装着して当該チェーンの弛みを低減することを特徴とするチェーンの張り調整方法。
【請求項10】
前記駆動スプロケット及び前記従動スプロケットに掛け渡された前記チェーンは、アイドルスプロケットにも掛け渡され、
前記チェーンに装着された前記輪状の弾性部材は、当該チェーンと共に回転し、かつ、前記アイドルスプロケットに掛け渡された当該チェーンの部分と離間することを特徴とする請求項9に記載のチェーンの張り調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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